著者
小田原 大 金子 知適 川合 慧
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告ゲーム情報学(GI) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2004, no.64, pp.33-40, 2004-06-18

コンピュータパズルの倉庫番のソルバにおける課題は、手詰りの局面を効率良く検出することであり、特に袋小路の判定は難しい問題として知られている。既存の手法では判定に再帰的な探索を必要とするため、判定の効率が悪い。本稿では、袋小路を含めた「手詰り」状態の一般的な判定方法を提案し、それを探索に組合せることを提案する。具体的には問題を区域に分割し、ユニットと呼ばれる各区域の状態の組合せによって効率的に手詰りの状態を判定する。実際に倉庫番の問題に適用したところ、既存の手法では判定が難しい局面に対しても手詰りと判定することに成功した。A new method of detecting deadlock states is proposed. We define unit as a part of a map, and decompose a map into units. Each unit has gateways. The keeper can enter the unit through some gateways depending on status of other areas. We judge whether the entire state is a deadlock or not by using combination of local status of units. As a result, we could express a lot of deadlocks and showed ways of applying it to effective search.
著者
住元 宗一朗 中川 博之 田原 康之 大須賀 昭彦
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.11, pp.1800-1811, 2011-11-01

近年増加したコンテンツ投稿型SNSでは日々膨大にコンテンツが増え続けるため,嗜好には合っているもののユーザが見逃してしまうようなコンテンツは少なくない.また,多くの推薦技術では精度を重視するあまり,その推薦結果に面白みがないという課題がある.本論文では,主に音楽,イラスト,詩等の創作者向けであるコンテンツ投稿型SNSにおける未知性,意外性を考慮した推薦手法について述べる.未知性に関しては,質の高いコンテンツを投稿する投稿者(有力投稿者)に注目し,コンテンツの質を確保しつつもロングテールのテール部分に属する,ユーザがまだ知らないコンテンツを推薦する.意外性に関しては,多くのコンテンツ投稿型SNSで利用されているFolksonomyを利用する.以上の二つの推薦部からなる推薦エージェントを提案し,イラスト投稿型SNSであるPixivの実データを用い,未知性,意外性に関する評価実験を実施した.その結果,推薦リストの6割に未知性,意外性のあるコンテンツが含まれ,本研究の有効性が確かめられた.
著者
端詰 勝敬 岩崎 愛 小田原 幸 天野 雄一 坪井 康次
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.303-308, 2012-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
22

広汎性発達障害は,他の精神疾患を随伴しやすいことが報告されている.しかし,摂食障害の随伴については不明な点が多い.今回,われわれは摂食障害と自閉性スペクトラムとの関連性について検討を行った.84名の摂食障害患者に対し,自己記入式質問紙による調査を実施し,健常群と比較した.摂食障害は,健常群よりも自閉性スペクトル指数(AQ)の合計点が有意に高かった.病型別では,神経性食欲不振症制限型が「細部へのこだわり」とAQ合計点が健常群よりも有意に高かった.摂食障害では,自閉性スペクトラムについて詳細に評価する必要がある.
著者
野田 和彦 片山 英樹 升田 博之 小野 孝也 田原 晃
出版者
Japan Society of Corrosion Engineering
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.54, no.8, pp.368-374, 2005-08-15 (Released:2011-12-15)
参考文献数
55
被引用文献数
3 5

材料の実用に際し, 大気腐食は身近にして多くの課題を有する問題であるが, 一般的な電気化学測定による評価が困難であるため, 大気腐食評価法に関して多くの取り組み, 試行がなされている。ここでは, 大気腐食性評価におけるモニタリング技術と表面観察法を中心とした大気腐食評価法を紹介した。モニタリングにおいては, 大気暴露試験, ACMセンサ, 交流インピーダンス法, QCMについて解説し, その有効性と適用範囲を整理した。鉄鋼材料の大気腐食性評価に用いたさび膜のイオン透過抵抗測定およびイオン選択透過性評価について, 試料作製から解析の一部を紹介し, 腐食生成物の物性評価の重要性を説明した。さらに, 表面観察法としてケルビン法や原子間力顕微鏡を用いた表面電位測定, 表面pH分布測定の有効性を解説することで, 表面可視化技術の発展と大気腐食性評価への適用の期待を示した。
著者
田原 英一 新谷 卓弘 森山 健三 中尾 紀久世 久保 道徳 斉藤 大直 荒川 龍夫 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.957-961, 2003-09-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8

療養型病床群における高齢者の性的逸脱行動に桂枝加竜骨牡蛎湯が有効であった2例を報告する。症例1は71歳男性で, 前立腺肥大症の術後リハビリテーション目的で入院となった。入院後まもなくから自慰行動が出現し, 他の女性入院患者や介護職員が不快感を訴えるようになった。桂枝加竜骨牡蛎湯を投与したところ自慰行動は消失した。症例2は90歳男性で, 脳梗塞のリハビリテーションのために入院となった。入院後半年ほどして卑猥な言葉を言ったり, 他の女性患者の体を触るようになった。桂枝加竜骨牡蛎湯を投与したところ, 性的逸脱行動は軽減した。桂枝加竜骨牡蛎湯は痴呆による高齢者の性的逸脱行動に有効な治療法となると示唆される。
著者
前田 ひろみ 伊藤 ゆい 吉永 亮 土倉 潤一郎 上田 晃三 井上 博喜 矢野 博美 犬塚 央 山口 昌俊 藤野 昭宏 田原 英一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.218-222, 2015 (Released:2015-11-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1

ばね指は,手のA1輪状靭帯の部位に狭窄を生じ円滑な指屈伸動作が阻害されることにより発症し,西洋医学的には消炎鎮痛剤,ステロイド剤注入,手術等で治療される。今回温経湯が奏効したばね指の3症例を報告する。症例1は71歳女性。腹部膨満感に対して漢方治療中に右第3指のばね指を発症し,口唇乾燥と手足のほてりを認めた。 症例2は56歳女性。手指の多関節痛に対して漢方治療中に左第4指のばね指を発症し,手のほてりを認めた。症例3は71歳女性。慢性腎不全で加療中に,左第1指のばね指を発症した。手のほてりや口唇乾燥を認めなかったが,皮膚の枯燥感を認めた。温経湯は,手掌煩熱や口唇乾燥を使用目標としており,補血・駆瘀血作用や抗炎症作用,滋潤作用を有する生薬で構成されている。温経湯のこれらの作用が,ばね指改善に寄与した可能性がある。
著者
三瀬 和代 白馬 伸洋 暁 清文 田原 康玄 伊賀瀬 道也 小原 克彦 三木 哲郎
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.671-677, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
11
被引用文献数
2 1

当院の老年内科が「抗加齢ドック」を実施しているのに呼応し, 当科でも2009年12月に「聴力ドック」を立ち上げ, 抗加齢ドックと連携して予防医学的観点から加齢性難聴の研究を始めた。聴力ドック開始から7か月間に, 抗加齢ドック受診者216名のうち96名 (44.4%) が聴力ドックを受診した。聴力ドックの受診は60歳代から増加する傾向にあり, その受診理由は「難聴の自覚」が最も多かった。抗加齢ドックで実施している脈波伝搬速度 (PWV) や頸動脈内膜中膜複合体肥厚度 (IMT) の結果と周波数ごとの聴力レベルとの関係を重回帰分析したところ, PWVでは8kHzの聴力レベルと, IMTは4kHzと8kHzの聴力レベルと有意な関連が認められた。この結果は, 高齢者の高音域聴力低下に動脈硬化が関与していることを示唆する。
著者
田原 寛之 ルドルフ ジェイソン クアリア 林 智広
出版者
公益社団法人 日本表面真空学会
雑誌
表面と真空 (ISSN:24335835)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.141-146, 2019-03-10 (Released:2019-03-10)
参考文献数
33
被引用文献数
1

In this review, we present the current situation of designs of biomaterials using techniques of informatics. In particular, we discuss the prediction the responses of proteins and cells toward materials and data-driven design of new biomaterials. We introduce our recent work, in which we analyzed the correlation among chemical structures of molecules constituting self-assembled monolayers (SAMs), amounts of adsorbed protein, a density of adhered platelets by machine learning using an artificial neural network model. The main conclusion is that the quality of the database is a critical factor in determining the accuracy of the prediction and material design. We also discuss technical issues to develop databases efficiently and systematically to expand the possibility of data-driven strategies to design biomaterials.
著者
セレーン ラオール 小田原 アキ子
出版者
Carcinological Society of Japan
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:24330108)
巻号頁・発行日
vol.4.5, pp.71-74, 1971 (Released:2017-09-08)

歴史と観察-酒井(1938)は,瀬戸(白浜)産,59×31のオスのnipponesisについて述べている。酒井に依れば,本種は次の点で大西洋産Portunus vocans A.M.E.と異なる。1)甲殻の後部が狭くなっている。2)前側縁歯は基部が幅広く先が尖っていない。3)心域は明確に稜線をなしていない。4)前鋼線は前方に向って強くカーブしている。5)鋏脚の長節には2棘でなく3棘ある。6)鋏脚長節の擦音器の棹は中途で途切れている。現在ある雌の標本は酒井(1938,1939)の観察引例と説明に一致する。鋏脚の長節の僅かな差異は恐らく標本の性差に依るのであろう。即ち(1)前縁において(第三の)後縁歯は酒井(1938)の標本よりも短かく,明かに未発達である。(2)発音器り桿は酒井の図ほど明確ではないが途切れている。前側縁腹面の発音桿が下眼窩の外葉の歯状縁に接して居り,又vocansについてラスバン(1930)が報告しているものと近似していることを記述する。酒井の図(1938)は,この点が相違している。窩眼外角は第一前外歯(酒井の第二,1938)の背面に位置する。即ち発音器の桿(本標本では27ある)の列は末端が下眼窩の外業の縁の5歯になっていることである。異る特徴の1の価値を正確にするために甲殻の後縁幅の長さを前側縁歯端間の最大計測値で比べてみた。この標本では甲殻の最大幅は後縁の幅の3.7倍である。それはnipponensisのType標本とは似ているが一方vocansではたった3.1倍でしかない。測定値はnipponensisのTypeについては酒井(1938)の図により,vocansについてはRathbun(1930)の図によった。ボルネオのPontianakからの標本記録はその地理的分布をかなり拡げた,そして本種は恐らく広くインド洋太平洋に分布しているという酒井(1938)の見解を確証した。私はエドモソソソ(1935)の標本即ちオアフ(ハワイ)採集の6×11の♂はnipponensisの幼型であるとする酒井(1938)の考えと一致している。タイプ標本の棲息環境は報告されていたい。現標本が77mの深さで採集された事は海岸近くにはなく又その記録の珍らしさを示している。
著者
田原 誠 野波 健蔵
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集C編 (ISSN:18848354)
巻号頁・発行日
vol.78, no.787, pp.872-882, 2012 (Released:2012-03-25)
参考文献数
18
被引用文献数
1 3

Recently, Quad-rotor type helicopters which are representative of Multi-rotor type helicopters have been extensively developed over the world. The Multi-rotors are expected to replace Single-rotor type helicopters as an industrial helicopter because of their simplicity of the structure and good maintainability. In this paper, we focused on the operation problems of previous industrial helicopters and applied the Multi-rotors by a generalized design method. The generalization of the design method is performed considering variation of requirements of airframe specifications. In addition, we considered using commercial components rather than customized components in each process, so we achieved cost reduction compared with previous study. At first, we introduce the required specifications of a small pesticide application in this study and present the airframe design method. And then, we tuned parameters with presented simulation model and implement a multi-rotor type helicopter following the design method. Finally, we show the flight result and present the effectiveness of the design method.
著者
田原 総一朗 小林 収
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1069, pp.172-176, 2000-12-04

問 森喜朗内閣不信任決議案を巡る加藤紘一氏らの造反劇は、結局、「未遂」に終わってしまいました。それもあって、不信任案の採決直前の日曜日(11月19日)に生放送されたテレビ朝日系の番組、「サンデープロジェクト」は話題を呼びましたね。
著者
田原 遠
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.13-23, 2020-02-01 (Released:2020-03-19)
参考文献数
31

【目的】あいりん地域に生活の拠点を置く者の生活状況,栄養学的特性について明らかにすることを目的とした。【方法】大阪社会医療センター付属病院通院中の患者と高齢者特別清掃事業参加者に対し,半定量食物摂取頻度調査票による栄養調査と身体状況・生活状況調査を行い計255名より完全回答を得た。うち生活困窮度の低い5名を除いた250名(生活保護受給者=生保群とする123名,生活保護未受給者=未受給群とする127名)を対象者とした。対象者が平成26年国民健康・栄養調査における所得の低い集団(低所得群とする)が示している特徴を有しているかどうか,また生活保護受給の有無で対象者の特性に差異が生じるかどうかの検討を行った。【結果】本対象者は残歯20本未満の者が79.2%,喫煙者は58.8%と共に極めて多く,野菜類摂取量は極めて少なかった。両群間の比較では,生保群において仕事をしている者がより少なく,肥満者はより多く,野菜類,果実類,きのこ類,乳類の摂取量はより多かったが,飲酒習慣者の割合や嗜好飲料類の摂取量はより少なかった。【結論】本対象者は低所得群の特徴を有しており,なおかつ低所得群よりもより顕著な傾向を示した。両群間の比較より,生保群においては活動量に見合った摂取量に関する栄養教育が,未受給群においては飲酒に関する教育,外食や中食でも野菜類を摂取できるような栄養教育が必要であると考えられた。
著者
八田原 慎悟 藤井 叙人 長江 新平 風井浩志 片寄 晴弘
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.49, no.12, pp.3859-3866, 2008-12-15
被引用文献数
1

脳活動とテレビゲームの関係に注目した関連研究の多くで,テレビゲーム実施時に前頭前野の脳活動が低下することが報告されてきた.テレビゲームに限らず,メディアインタラクションにおいては年齢,熟達度,さらには嗜好や没入の度合いに応じて,ヒトへの影響に違いが生じると考えるのが自然であろう.本研究ではテレビゲームにおける熟達度に焦点を当て,2つのジャンル(シューティング,リズムアクション)のゲームを実施している際のヒトの脳活動を熟達者,中級者,初心者の3種類の条件でfNIRS(機能的近赤外分光法)によって計測し,比較,検討した.その結果,熟達者においては,テレビゲーム実施時に前頭前野の脳活動が上昇するという関連研究とは異なる状況が観測された.またゲームタイトル,ジャンルを変えた場合の熟達者の脳活動を計測した結果,熟達したゲームにおける脳活動が最も上昇するという結果を得た.There are many studies that focused on the relation between playing video games and brain activities. Most of the studies have reported that the brain activity deactivates at the prefrontal cortex in playing video game. However, it is natural to regard that the influence on human varies with player's age, attitude or mastery level. In this paper, we focus on the mastery level of the video game. We measured the brain activity at the prefrontal cortex with fNIRS (functional Near-infrared Spectroscopy) while beginners, intermediate players, and masters playing video games. We observed activation of brain activity at the prefrontal cortex while masters were playing the game that they have mastered. The activation of the prefrontal cortex of the masters was higher when they played their mastered game than those when they played non-experienced games or games of non-mastered genre.
著者
高橋 知代 久志本 彩子 小長谷 貴昭 田原 雄一郎
出版者
日本ペストロジー学会
雑誌
ペストロジー (ISSN:18803415)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-4, 2006-06-30
参考文献数
7

Biodegradable packaging buffers made from corn or wheat starch have replaced plastic foambuffers as packaging materials. The German cockroach, Blattella germanica, the smoky-brown cockroach, Periplaneta fuliginosa, and the brown-banded cockroach, P. brunnea consumed the biodegradable packaging buffers as food when they were kept in an arena with water, yet they hesitated to eat a urethane buffer. The cockroaches could survive and most of them could propagate for generations feeding on packaging buffer. Therefore, the biodegradable packaging buffers should be removed from factories immediately to avoid cockroach infestation.
著者
ゴルドン イザベラ 小田原 アキ子
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
甲殻類の研究 (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.4, pp.123-132, 1971-07

・ホワイト氏(彼のカタログは1847年及び1850年に出版された)が退職した頃は,甲殻類研究にはほとんど何も見るべきものがなかった。もっとも,トマス・ベルのコブシガニ(1885)が一連のモノグラフの先駆をなしていたし,また,C.スペンス・ベイトが端脚類(1862)のカタログを作るために雇われたりはしたが,マイヤースはホワイトの後を継いだ。彼は,ホワイトの多くのnominanudaを含む館内の収蔵品のうち,新しい種類や,よく知られていない種類を述べエビ,カニ類の数種について,また,シャコ類やヘラムシ科についても訂正した。それに加え,彼は多くの重要な採集物について報告し,ニュージーランドの有柄眼と無柄限甲殻類のカタログを出版した。この期間中,「収蔵品の鑑定ばかりでなく,記名,ラベルはり,分類などまで私ひとりの手でなしとげた」(1883年5月14日付書簡)ことを考えると,彼の組織的な仕事の量と質は驚くべきである。当時採集したものは,大体,生物の記録として新種のものになった。マイヤースは新種の名を脚註や他の種類のテキストの中でなにげなく紹介する傾向があったので,マイヤースの発見した新種を正確に数えることは容易ではない。しかし,彼は 大体のところ十脚類に32の属,亜属と260の種,亜種を加えた。そして甲殻類の目に4つの属と,72の種,あるいは変種をつけ加えた。名前は少し変ったかも知れないが,それらの大部分は今でも有効である。例えば最近,R.セレン博士によって編纂された西インド洋の短尾類の暫定的なリスト(未出版)の中には,143のマイヤースの発見した種類が含まれており,そのうち名前の変ったものは20しかない。(十脚類を含むマイヤースの文献のリストについては,Balss&Gruner.1961:1898と1989〜1991を参照されたい)ところで,彼の主要報告はどうであったろうか。甲殻類のサウス・ケンジングトンへの移転がマイヤースにとって大変厄介な時にやってきた。1883年5月14日付のギュンターへの手紙で,彼はその移転が,「軍艦アラートによって採集された甲殻類に関する報告の準備によって必然的に延びるチャレンジャーの短尾類の予備調査の完了まで延期される」ことを暗示した。ジョン・ミュラーは彼の報告書の長さと,それを図で説明するのに必要な図版の数によって評価されたいと望んでいた。しかし,マイヤースはこの望みをかなえてやらなかった。というのは彼は異尾類のほうにまわされることになっていたパロワとまだ討議しなければならなかったし,また,図版は10から15で十分であると考えたからである。ミュラーは1883年5月18日にこう書いている。「あなたの時間の多くが,博物館の移転に費やされてしまったのは残念です。しかしながら,せいぜい二月以内に,あなたが我々によい報告書をお与え下さることを望んでおります」。甲殻類は全部6月末までに移されたが収蔵品と書籍を整理するのに,数か月かかったにちがいない。つづく18か月をマイヤースは,彼の博物館の仕事が許すがぎり,チャレンジャー報告に費やした。しかし1885年の終りまで彼は病気がちで,健康をかたり害していたので11月に辞任した。チャレンジャーの原稿は,1886年4月1日から11月26日までの間に分けて,ミュラーのところへ送られ,マイヤースは健康の続く限り,それを校正した。彼は6月26日付のミュラーの手紙を読んで確認したに違いない。「ここ数年間,私はあなたの報告書をていねいに読んでおります。大変立派な,重要なものであり,今あなたのお送り下さった原稿は,大変明確でよく準備されてありますので,出版が完了するまで,大して,あなたにお手数をおかけしなくて済むと思います。あなたの名を高める報告書になるにちがいありません。すべての生物学者に,科学への最高の貢献であるとみなされるでしょう」。マイヤースはしばしばこの博物館で働いていたようである。その時彼はかなり元気で,乾燥標本を新しい標本棚に並べかえたりしていた。(ギュソター宛の書簡,1887年7月30日)この日以来,1892年1月19日の葉書しか残っていない。これはコーンウェルの住所から発信したもので,かつての同僚にクリスマスの挨拶に対する感謝をしたためたものである(偶然にも,ヘンリー・マイヤースが1882年から1895年までこの博物館の職員であり,また,1926年から1939年まで大英博物館の理事をつとめている)。E.J.マイヤースは終生,動物学会員及びロンドンのリンネ学会員であった。日本の甲殻類に関するマイヤースの業績 日本の甲殻類に関する彼の重要な文献は,韓国と日本の海を7年間調査したことのある英国海軍のセント・ジョン海軍大佐によって集められた資料に関する1897年の報告である。資料の多くはドレッジで採集された深海のものである。それゆえ,デ・ハーンによってよく説明されている通常海岸に住む種類はほとんど含まれていなかった。この地域の深海の甲殻類については,アメリカ合衆国,北太平洋調査探検隊(1853〜56)に加わった動物学者スティンプソンがフィラデルフィア科学学士院委員会で,多数の属や種の特性についての短いラテン語の本を出版するまでは,比較的わずかしか知られていなかった。しかも,短尾類と異尾類の説明とさし絵は,かなり後まで出版されなかった。(スティンプソン1907)しかしながら,マイヤースは,セント・ジョンの資料と,スティンプソンによって命名され数年前スミソニアン協会から大英博物館に寄贈された日本近海で採れた標本とを比べることができた。提供された64種類のうち,26種類は明らかに新種であった。他の7種には彼は種名をつけなかった。彼はParatymolus, Pleistacantha, Pomatocheles, Heterocumaなどの属名を確立し,日本の動物相の関連について述べた。彼は後日Amphipoda, Isopoda, Cirripedia Pycnogonidaなどに関する出版をするつもりであったが,達成しなかった。マイヤースの出版物の多くは,さし絵を画家に石版刷りにさせているが,この図版のように石版工の名だけしか記されていないものは,恐らく下絵はマイヤース自身によるものであろう。1881年12月17日,ナポリの動物学研究所のピー・メイヤー博士がマイヤース宛ての書簡で,彼はあるアメリカ人,ホイットマン博士によって彼に送られた日本のエビの標本をいくつか送るつもりであると述べている。このエビは東京の近くの淡水池で採集された。メイヤーの手紙には,実際に誰がそれを採取したのか書いてない。この標本は成長した大きさよりせいぜい5mmしか小さくなかったのであるが,かなり小さかった。しかし私は,ホイットマン博士個人を通じて,この標本を送ったのは石川博士であるに違いないと思っている。というのは石川博士は,この種類を増やすことを研究していて,専門家にそれを名づけてもらいたがっていたからである。このことは,Atyaephra? Compressa De Haan(1882.マイヤース)に関するメモを受けとった時に石川博士が書いていることに一致するであろう。1882年6月12日に石川はこう書いている。「私があなたにお送りした標本は,皆小さいので,今度はもっと良い大きた標本をお送りしたいと思っているのですがご存じのとおり,アルコール標本を海外に郵送することは,我々にとって大変困難なことなのです。」それ故,大英博物館の収蔵品には,ナポリからメイヤー氏によって送られたこれらの標本(登録番号82.2)しかないのである。このエビは,久保博士によりParatya compressa improvisa Kempに属するものとされている。(1938.東京水産大学報告.33(1):71).英国軍艦チャレンジャーは,再び日本の海で採集し,1875年5月12日から6月17日までの間に獲得されたカニはマイヤースのリストに載っている。2種類だけ新種であることが分った。即ちCharybdis bimaculata(Miers)と深海産のEthusa(Ethusina)challengeri(Miers)である。又,マイヤースがよく述べていた西インド洋産の多くは,後に,日本の動物相に属することが分った。
著者
三瀬 和代 白馬 伸洋 田原 康玄 暁 清文
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
Audiology Japan (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.269-275, 2013-08-30
参考文献数
12
被引用文献数
1

要旨: 当科では, 老年内科による抗加齢ドックと連携した聴力ドックを実施している。2009年12月から2012年5月までの間に聴力ドックを受診した212名のうち, 耳疾患の既往がなく気骨導差が小さく, かつ鼓膜所見に異常のない205名の良聴耳205耳を検討対象とし, 加齢変化における聴力の性差および, 聴力の性差に関与する因子について検討した。聴力の性差について有意差検定を行ったところ, 4000Hz, 8000Hzの聴力は男性が女性に比べ有意に低下していた。難聴のリスク因子である糖代謝 (HbA1c) も加え, 各周波数の聴力レベルと頸動脈内膜中膜複合体肥厚度 (IMT) およびHbA1cとの関係について, 交絡要因である年齢も含めて性別で重回帰分析を行った。その結果, 男女ともHbA1cはいずれの周波数の聴力レベルとも有意な関連を認めなかったが, IMTは男性で4000Hz, 8000Hzの聴力レベルと有意な関連を認めた。加えて, IMTも男性が女性に比べ有意に高値を示した。IMTは動脈硬化の指標とされているので, 男性の高音域聴力悪化の要因の一つとして動脈硬化の関与が示唆された。