著者
小野田 一幸 宮本 真二 藤田 裕嗣 米家 泰作 河原 典史 川口 洋
出版者
The Human Geographical Society of Japan
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1-28, 2013 (Released:2018-01-26)
参考文献数
222
被引用文献数
1

本稿では,1980年以降の日本における歴史地理学,地図史,および歴史GISに関する主要な研究成果について展望する。この30年間にわが国では,H. C.プリンスによって定義された現実的世界,イメージの世界,および抽象的世界を対象とした豊かな研究成果が生み出されてきた。現実的世界を対象とした研究では,景観や地域構造の復原が引き続き基礎的課題となっている。とりわけ,過去と現代をつなぐ役割を担う近代期の研究意義が注目されるようになった。最新の研究動向として,環境史と学際的研究の進展があげられる。後者については,地理学,歴史学,考古学の研究分野で史資料と研究方法の共有化が進み,歴史地理学の方法論が隣接分野に受け入れられて学際的研究に発展する動向がみとめられる。イメージの世界については,過去に生きた人々の世界観に関する理解を深めるために,1980年代から古地図・絵図研究が本格化した。抽象的世界に関する研究は,歴史GISを活用することにより,21世紀初頭から新たな段階を迎えた。歴史GISは,歴史地理学を含む人文・社会科学における個別研究の成果を統合する「しくみ」としても有用とみられる。
著者
藤田 裕司
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 第4部門 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.145-158, 2008-02

表題の著書について,その構成と展開を示した後,その主題を,「上昇と下降」,「魂と肉体」,「知性と感情」,「我と没我」といった観点から考察し,最終的にそれが(A↔Ā)=Aの世界に収まることを明らかにして,その意義を論じた。This paper aimed at clarifying the theme of"Flowers for Algernon"written by Daniel Keyes. After an outline of the novel was given, the theme was examined from such viewpoints as`ascent vs. descent',`spirit vs. body',`intellect vs. emotion'and`ego vs. effaced ego'. As a result, the theme came into a world of"(A↔Ā)=A", and the meaning of it was explained.
著者
藤田 裕也 鈴木 寿志 桑原 希世子
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.145-150, 2022-07-25 (Released:2022-09-02)
参考文献数
28

The Guadalupian Follicucullus assemblage, which is made mostly of the genus Follicucullus (Radiolaria), was found from Arida City, Wakayama Prefecture. The fossil locality in the southern area of Arida City is geologically attributed to the Northern Chichibu Belt, which is occupied by such lithologies as chert, sandstone, mudstone and green rocks. Radiolarian fossils were extracted with diluted hydrofluoric acid from a bedded chert layer exposed at the Mandarin Coastal Street. The occurrence of Follicucullus porrectus Rudenko and Follicucullus cf. scholasticus Ormiston et Babcock and the lack of Follicucullus charveti Caridroit et De Wever indicate a Capitanian horizon of the Guadalupian Series. This is the first report of the occurrence of Permian radiolarians from the Arida City area. The significance of the occurrence of Permian chert in the Northern Chichibu Belt is discussed as well as the formative factor of the Follicucullus assemblage (deep water current or oceanic environmental change).
著者
藤田 裕一郎
雑誌
朝日大学留学生別科紀要 = Review of Asahi University Japanese Language & Culture Course
巻号頁・発行日
vol.15, pp.17-21, 2018-03-31

本稿では、自身の初級クラスの授業を振り返り、会話練習がより活気に溢れたものになるよう授業設計を改善し、実践した。改善点は、学習目標を明確にするため、1回の授業で扱う3つ程度の文型項目を一連の場面としてつなげ、それぞれの文型項目における練習までをワンステップとし、毎回の授業の最後に教師の前でペアで一連の会話を発表することで授業の目標を達成するようにしたことである。 本実践を1学期間行い、1)教師自身の振り返り、2)機関が実施する学習者アンケート、3)この授業設計について学習者に直接聞いたアンケートによって評価した。その結果、機関の学習者アンケートによる他教師との比較では差が見られなかった一方で、教師自身の振り返りと学習者に直接聞いたアンケートでは肯定的な意見が多く、ペアで目標を達成しようとする取り組みの中で協働やペア間の競争意識が生まれ、それが会話練習のやる気を喚起したのではないかと考えた。
著者
藤田 裕司 三浦 正子 細水 令子
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. IV, 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.89-104, 1988-08

本稿は,女子非行に関するわれわれの一連の研究のうち,父-娘関係の病理性を主題としたものである。まず,第I章では,導入をかねて女子非行とその研究の動向を概観したのち,そのなかにおけるわれわれ研究の意義及び特色について要点を述べた。続く第II章では,今回われわれの研究対象となった非行少女の家庭状況がどのようなものであるかを,彼女たちが綴った作文をもとにして紹介するとともに,彼女たちの父親像を大きく三つに類型化し,それぞれの特徴等について順次検討を加えた。これを踏まえて,第III章では,父-娘相姦の問題を取り上げ,自験例に即しつつその実態及び非行化とのかかわりを明らかにした。最後の第IV章では,以上の論点を総括し,本研究から見た女子矯正教育の望ましい在り方について若干の提言を行い,今後の課題提起とした。As a sequel to the previous study on"female criminality,"the present study,made up of four parts,aimed at revealing the psychopathological aspects in father-daughter relationships of delinquent girls.Firstly,the current topics of researches in this field were reviesed,and special emphasis was laid on the methodological uniqueness of our studies.Secondly,based on our 140 subjects' compositions concerning their families,a brief description of their domestic troubles was given,and focally their typical father images were clarified.Thirdly,nine cases of father-daughter incest were analyzed in detail in connection with her delinquent process or mechanism.This analysis formed a leading part of this paper.Lastly,in the light of the above-mentioned points,a proposal was made on the correctional education for girls as it shoud be.
著者
藤田 裕司 阪木 啓二 冨田 和士 小栗 脩平
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. IV, 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.93-101, 1999-08

集団学習に基づくTATの事例研究の一環として,今回は,20代前半の男子青年のケースを3例,シリーズで報告する。3例とも障害児教育を専攻する本学大学院修士課程の1回生である。紙幅の都合上,各々のTATプロトコルまでを本稿に収録し,それ以下の部分は次稿に続く。As part of our TAT (Thematic Apperception Test) case studies based on the group learning supervised by the first author of this article, a serial examination of three male cases was made. All of them, aged 22 or so, were enrolled in a postgraduate course of special education. In this article, their TAT protocols were presented in sequence. Their own interpretations and the supervisor's comments on them are to be shown in the following number of this journal
著者
藤田 裕子 喜多 一馬 小島 一範
出版者
保健医療学学会
雑誌
保健医療学雑誌 (ISSN:21850399)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.71-80, 2022-10-01 (Released:2022-10-01)
参考文献数
20

本研究の目的は,リハビリテーション関連職(以下,リハ職)におけるジェンダーバイアスについてアンケート調査を行い,どのような種類のジェンダーバイアスがみられるかを予備的に調べることである.方法としては,国内の現役リハ職に対し,インターネット上でのアンケート調査を行った.設問は,基本的属性,独自に作成したジェンダーバイアスに関する18 の設問項目,ジェンダーや働き方に関する意見や体験談に関する自由記載欄とした.統計学的処理では,1)設問項目ごとの対象者の基本的属性間の群間比較,2)ジェンダーバイアスに関する設問における各設問項目間の相関,3)「男性」と「女性」という言葉以外が同内容の設問間における2 群間の差の比較を調べた.結果として,1)では,年代,所属,経験年数,同居家族においていくつかの設問項目で有意な差がみられた.2)では,男女間の大学院進学についての設問間に強い相関が,育児中の男女スタッフの急な休みに対する考え方の設問間に中等度の相関が見られた.3)では,2 群間に有意な差がみられた.自由記載欄では,全体としては男性・女性それぞれが感じた性別・カテゴリ分けされた他者からの心ない言葉や扱いに関する内容が多く記載された.これらから,リハ職は働き方やキャリア,研究会や学会参加,バイザー業務や指導係,大学院進学に対してジェンダーバイアスがあることが示唆された.
著者
間瀬 知紀 宮脇 千惠美 甲田 勝康 藤田 裕規 沖田 善光 小原 久未子 見正 富美子 中村 晴信
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.371-380, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
30
被引用文献数
2

目的 本研究は,女子学生を対象として,若年女性における正常体重肥満者,いわゆる「隠れ肥満」の体組成に影響を及ぼすと考えられる食行動,運動習慣および身体活動量について検討した。方法 対象は京都府内の大学 6 校に在籍する18~21歳の女子学生530人である。体脂肪率,歩数の測定および無記名自記式の質問紙調査を2010年 1 月~2010年 7 月にかけて実施した。質問紙調査項目は生活環境,体型認識,体型への希望,ダイエット経験,運動習慣,睡眠時間および食行動に関する 7 項目であった。食行動調査は EAT–26(Eating Attitude Test 26:摂食態度調査票)を実施した。BMI が18.5以上25.0未満の「標準体重(n=439)」判定者の中で,体脂肪率が75%タイル以上の者を「High group(n=115)」,体脂肪率が25%タイル以下の者を「Low group(n=111)」,この 2 群以外の者を「Middle group(n=213)」と分類し,3 群について比較検討した。結果 質問紙調査より,グループ間に体型認識,体型への希望,やせたい理由,ダイエット経験の有無,ダイエットの失敗の有無および睡眠時間についての回答の比率に有意な差がみられた。しかしながら,身体活動量はグループ間に差がみられなかった。さらに,EAT–26を用いて食行動を検討すると第 3 因子「Oral control」においては High group は Low group と比較し,有意に高値が認められた。結論 標準体重者で体脂肪率が高い者は,やせ願望やダイエット行動が関連していた。やせ願望の強い学生に対し,適正な体組成の維持と適切な食生活を確立させるための健康教育の必要性が示された。
著者
平井 松午 鳴海 邦匡 藤田 裕嗣 礒永 和貴 渡邊 秀一 田中 耕市 出田 和久 山村 亜希 小田 匡保 土平 博 天野 太郎 上杉 和央 南出 眞助 川口 洋 堀 健彦 小野寺 淳 塚本 章宏 渡辺 理絵 阿部 俊夫 角屋 由美子 永井 博 渡部 浩二 野積 正吉 額田 雅裕 宮崎 良美 来見田 博基 大矢 幸雄 根津 寿夫 平井 義人 岡村 一幸 富田 紘次 安里 進 崎原 恭子 長谷川 奨悟
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-10-21

本研究では、城下町絵図や居住者である侍・町人の歴史資料をもとに、近世城下町のGIS図を作成し、城下町の土地利用や居住者の変化を分析した。研究対象としたのは米沢、水戸、新発田、徳島、松江、佐賀など日本の約10ヵ所の城下町である。その結果、侍屋敷や町屋地区の居住者を個別に確定し地図化することで、居住者の異動や土地利用の変化を把握することが可能となった。その点で、GISを用いた本研究は城下町研究に新たな研究手法を提示することができた。
著者
大島 昇 北野 洋子 形埜 まり江 河野 健三 福嶋 美津子 山本 晃 藤田 裕司
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. V, 教科教育 (ISSN:03893480)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.213-223, 2005-09-30
被引用文献数
1

特殊教育から特別支援教育への転換が迫られている折から,大阪教育大学附属養護学校における個別の教育支援の実状を1事例に即して紹介した。事例は知的障害及び場面緘黙症と診断された女子生徒で,高等部入学後3年間の取り組みの経過を,それに連携的にかかわったクラス担任,進路支援担当者,プレイセラピー担当者,養護教諭,精神科校医らの記録に基づいて要約する、とともに,場面緘黙症の生徒への教育支援の在り方について若干の考察を加えた。
著者
藤田 裕司
出版者
大阪教育大学養護教育教室
雑誌
障害児教育研究紀要 (ISSN:03877671)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.35-51, 1999-03-30

簡易精神鑑定の結果、多重人格障害と診断された殺人未遂犯の女子患者に関する症例報告の補遺として、当該患者との10回に及ぶ治療面接の経過を、逐語録の形で提示した。紙幅の都合上、本症例の心理検査所見との照合等を含めた総合的考察は、次稿に回す。As a supplement of the previous study on a diagnosed case of MPD, the verbatim of a series of 10 psychotherapeutic interviews with her was presented. She was an attempted murder suspect, aged 24. The general comment on the treatment of this patient is to be made in the following paper.
著者
藤田 裕人 小泉 敏三 乾 洋史 伊藤 妙子 北原 糺
出版者
耳鼻咽喉科臨床学会
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
巻号頁・発行日
vol.116, no.9, pp.851-857, 2023 (Released:2023-09-01)
参考文献数
21

There have been many reports of endolymphatic hydrops (EH) in patients with Meniere’s disease (MD) since the first report by Hallpike and Yamakawa in 1938. Mental/physical stress and subsequent increase in release of the stress hormone arginine vasopressin (AVP) supposedly triggers MD. Recently, many lines of evidence have suggested the possibility that AVP is closely linked to the formation of EH in cases of MD. In the present study, we attempted to investigate the relationship between stress and EH in patients with unilateral Meniere’s disease (uMD).We enrolled 113 definite uMD patients from July 2014 to October 2019. All patients underwent 3-T magnetic resonance imaging (MRI) 4 hours after intravenous gadolinium injection. We adopted the criteria for evaluation of EH proposed by Nakashima et al. Stress was evaluated using the depressive self-rating scale (SDS), the psychological stress response scale (SRS), and the dizziness handicap inventory (DHI) modified by Nishiike et al. These stress scores and the blood AVP levels were compared in patients with EH.There was no significant correlation between EH and the stress scores on the affected side, but the anxiety score showed a significant correlation with EH on the sound side (p = 0.04). There was no significant correlation between the EH and AVP in either the affected side or the sound side. We suppose that the formation of EH involves a complex process of stresses.
著者
藤田 裕嗣 吉田 剛 高橋 清吾 鈴木 康之 宇根 寛 牛垣 雄矢 安藤 哲郎 深瀬 浩三 宮里 修 上島 智史 堀 健彦 仁木 宏 山元 貴継 塚本 章宏
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

歴史地理学研究で取り上げられた地図・絵図資料の中には地震・水害など、災害に関わる古地図も多数含まれるが、現在の地図情報には反映されておらず、実際の対策に活かされてきたとは言い難い。そこで本研究課題は、地域中心として機能し続けた城下町に特に注目し、全国各地に残る過去の古地図情報をGISデータ化し、それらをデジタル地図情報に反映させて、防災・災害復興に向けた歴史災害情報をデータベース化し、情報発信することで各地の防災・災害復興への寄与を目指す。2022年度の高校教育「地理総合」必修化も念頭に置き、中等教育に貢献できる歴史災害GISコンテンツの提供も視野に入れる。
著者
藤田 裕子 来住野 健二 木山 厚 五十嵐 祐介 中山 恭秀
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0659, 2012

【はじめに、目的】 Four Square Step Test(以下FSST)は2002年にDiteらによって考案された評価法であり、先行研究より信頼性と妥当性が検討され、臨床的なバランス評価に有用と示されている。また、健常者や脳卒中、骨関節疾患を対象とする疾患別のバランス評価としての有用性や、他の臨床的バランス評価との比較によりTimed"up and go"Test(以下TUG)と有意な相関関係が示されている。FSSTの臨床評価指標としての位置づけは他のバランス評価との比較が中心であり、実際にどのような要素が含まれていて、何を反映させている評価指標であるかは明らかにされていない。また、FSSTはテスト方法から前後左右への重心移動やまたぎ動作、後進歩行が必要と考えられ、その要素のひとつである足圧中心(以下COP)の移動が動作に反映しているのではないかと考える。しかし、パフォーマンス動作からバランスを評価できるとされているTUGやFunctional reach test(以下FRT)は、COPの軌跡や動揺を客観的に評価できる重心動揺計を用いた研究により、それぞれのテストがもつ特性や要素の検討がなされているが、FSSTの検討は見当たらない。そこで今回バランスを、静的バランス、支持基底面を変化させずにCOPを支持基底面に保持させる動的バランス、支持基底面を変化させることでCOPを支持基底面に保持する動的バランスの3つに分け、FSSTと関連性を比較することとした。それぞれのバランスの指標として、静的バランスの指標を、姿勢安定度評価指標(Index of postural stability:以下IPS)、支持基底面を変化させない動的バランスの指標をX方向とY方向の平均姿勢動揺速度(以下動揺速度)、支持基底面を変化させる動的バランスの指標を動的バランスの要素を含むTUGの3つとした。【方法】 対象は健常成人17名(男性9名、女性8名、平均年齢は27.5±4.1歳、平均身長166.2±8.1cm)であった。FSSTはDiteらによる方法を基に、TUGはPodsiodleらによる方法で測定し、練習のあと2回の計測を行い、それぞれの2回の平均値を採用した。また、重心動揺計の計測は裸足で行い、両足踵間距離は10cmとし、視線は2m先の指標を注視させ、上肢を体側に下垂させた。IPSを静的バランスの指標とし、安静立位保持の測定で得られた平均動揺速度(cm/s)を、支持基底面を変化させない動的バランスの指標とした。重心動揺計はアニマ社製GS-3000を使用しサンプリング周期50msにて計測した。解析指標としてはFSSTとTUG、IPS及び動揺速度の計4項目とした。各指標間の関係性を調べるためにそれぞれの指標において正規性の検定を行い、正規分布を確認した後、Pearsonの積率相関係数を求めた。危険率5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に則り研究の目的と方法を説明し、同意を得た。【結果】 今回、測定結果の平均値は、FSSTは7.03±0.9秒、TUGは6.17±0.69秒、IPSは1.63±0.27、動揺速度は0.49±0.16cm/sであった。また、FSSTと各評価間の相関係数は、IPSはr=0.275、TUGはr=0.489、動揺速度はr=-0.145を示した。TUGと動揺速度はr=-0.241、IPSはr=0.475となり、動揺速度とIPSはr=-0.794となった。この内で有意な相間関係を示したものは、FSSTとTUG、IPSと動揺間で有意な相関関係を示した。【考察】 本研究においてTUGとFSSTの相関関係が示されたことは先行研究と同等の結果となったが、TUGと動揺速度の指標間では相関関係が見られなかったことは先行研究と異なる結果となった。FSSTは跨ぎ動作、重心移動、後進動作などの要素をもち、TUGは立ち座り、歩行、方向転換の要素をもっているのではないかと考えられる。また今回、健常者を対象としてFSSTの測定を行ったが、静的バランスとの関係性は認められず、動的バランスであるTUGとの関係性が示された。しかしFSSTとTUGの相関関係があるにも関わらず、要素が大きく異なっている。このことから、臨床において、これら2つの評価方法がパフォーマンスを行うことで動的バランスを評価する指標でも、独立したバランス指標となりうることができるのではないかと考える。とくにTUGには跨ぎ動作や後進歩行が含まれていないため、FSSTではこれらの要素を反映している可能性が考えられる。一方で先行研究より、TUGは高齢者を対象として、動揺速度との関連性があるとされている。今回は対象者が健常者のみの測定であったため、今後FSSTにおいて対象者を健常者以外の高齢者や疾患別に重心動揺計の計測を行い、さらに検討していく必要性があると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究や先行研究と合わせてFSSTとTUGは動的バランス評価として関連性があるのではないかと考えられる。今後はFSSTの要素をさらに検討していくことで、TUGとは異なった要素を含むバランス指標として臨床的に有用な指標となり得る可能性があるのではないかと考える。