著者
有波 忠雄 石黒 浩毅
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

統合失調症の発症には多くの遺伝子が関与しており、それらの遺伝子を同定するのに有用なゲノムワイド関連解析を実施し、検出された関連遺伝子の中からとくに治療面において重要な遺伝子を同定することを目的として、ヒトの脳、遺伝子改変マウス、細胞実験、パスウエイ解析を行った。その結果、SMARCA2遺伝子が統合失調症に関与し、かつ、多くの遺伝子に影響を与え、統合失調症の発症に関わっていることが証明された。そのなかでもHOMER1遺伝子は部分的なSMARCA2遺伝子の発現低下でも選択的スプライシングが変化してグルタミン酸神経伝達体の機能不全に関わることが示され、SMARCA2遺伝子型が個別化医療に有用な情報であることが示唆された。
著者
宇野 重規 小田川 大典 森川 輝一 前川 真行 谷澤 正嗣 井上 弘貴 石川 敬史 仁井田 崇
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究はアメリカ政治思想史を、共和主義と立憲主義という視点から捉え直そうとする試みである。その際に、建国の思想から、19世紀における超越主義とプラグマティズム、20世紀におけるリベラリズム、リバタリアニズム、保守主義へとつながる固有の思想的発展と、マルクス主義やアナーキズムを含む、ヨーロッパからの思想的影響の両側面から検討することが大きな主題であった。3年間の検討をへて、ヨーロッパの王政に対する独特の意識が、アメリカ共和政とそのコモン・センスに対する信頼を生む一方で、政府権力に対し個人の所有権の立場から厳しい制約を課す立憲主義を発展させてきた、アメリカ思想の弁証法的発展が明らかにされた。
著者
不動寺 浩 澤田 勉 古海 誓一 田中 義和 百武 壮 KOHOUTEK Tomas BARDOSOVA Maria BRUSH Lucien ERDAL Serap
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

著者らは高品質オパール結晶薄膜のコーティングを開発しその潜在的な工学的応用について研究した。前者については結晶成長制御により均一で均質な高品質オパール結晶薄膜の成膜プロセスを開発し、300 c㎡の大面積コーティングに成功した。一方、後者については(1)金属の塑性変形の可視化:金属片の塑性変形を構造色の変化として視認と歪み量計測に応用できること実証、(2)インバースオパール構造によるカルコゲナイトガラス(高屈折物質)によるワイドフォトニックバンドギャップの1次元フォトニック結晶への応用、(3)環境センシングの可能性:水中に微量存在するキシレン(0.18mg/mlオーダー)の検出が確認できた。
著者
岸江 信介 松丸 真大 西尾 純二 中井 精一 真田 信治
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

平成28年度は、27年度の大阪市での配慮表現調査との比較を行うため、京都市で調査を実施した。調査内容は一部、項目を追加したが、そのほかは大阪市調査と同じ内容である。京都調査は、2016年9月2日から9月5日にかけて京都市に住む調査時50 歳以上の男女を対象に市内11区において面接形式で実施した。話者の条件として「京都市で生まれ育った50 歳以上の男女」としており、その結果、90 名(男性36 名、女性54 名)の方々から協力を得ることができた。話者の選定および調査にあたっては、京都市内の各区における公民館、老人福祉施設のほか、商店街や寺院の地元の皆様に大変お世話になった。なお、この調査には研究代表者、分担者、連携研究者全員が参加し、調査期間中に科研会議を開催した。なお、この調査には徳島大学日本語学研究室の院生・学生も参加した。昨年度刊行した『近畿方言における配慮表現の研究 研究成果報告書(1)-大阪市域調査編-』に続き、『近畿方言における配慮表現 研究成果報告書(2)-京都市域調査編-』として平成29年3月に刊行した。総頁数は129頁だが、添付したDVDには一人ひとりの話者とのやりとりを収録した音声を文字化した資料と、文字化されたテキストには音声リンクが施されている。なお、この文字化資料は1000頁を超えており、DVDでの配布である(29年度中には、ホームページにアップし、広く国民に周知する予定)。平成28年8月に中国南京市で行われた、第14回調査国際シンポジウムで研究発表を行った。また、配慮表現に関する通信調査に全国各地の自治体からご協力を賜り、全国各地の800名をこえる方々から調査票を返送いただいた。これらの地図はGISソフトを用いてほぼ地図化が完了しており、このデータを用いて徳島大学『言語文化研究』に原稿が掲載された。
著者
橋本 真一 土井 晃一郎 松島 綱治 鳥越 俊彦
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

細胞集団の1細胞ずつの性格を明らかにし、真の細胞状態を把握することは生物学の研究にとって非常に重要である。本研究では微量/1細胞トランスクリプトーム解析法を開発し、がん細胞や免疫細胞の細胞集団の階層性を明らかにし、真の細胞状態を把握することで将来的に臨床研究に役立てることを目的とする。本研究では単一細胞遺伝子発現解析の発展系として数百以上の1細胞の遺伝子発現を同時に観察出来る革新的な技術(Nx1-seq)を開発した。この方法を用いて新たにがん細胞株、免疫細胞の1細胞遺伝子解析を行い有用性を確認した。
著者
位田 隆一 熊谷 健一 中村 祐輔 吾郷 真一 上田 國寛 前田 達明
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、ユネスコの「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」を素材に、人間の生命の設計図といわれるヒトゲノムの研究と応用に関する倫理的法的社会的影響について、実践的建設的検討を加えることを目的とした。初年度は、国際生命倫理委員会(IBC)作成のヒトゲノム宣言案についてのアンケート調査を行い、宣言案についての我が国の関係者の意見の集約、ユネスコで最終的に採択された「ヒトゲノム及び人権に関する世界宣言」の内容の検討、並びに採択後の宣言のインプリケーションと立法をも含めた国内措置の可能性の検討を行った。調査結果によれば、(1)詳細についての意見対立はあるが、全体にはかかる宣言の採択を支持していること、(2)我が国も立法化も含めた何らかの基準設定が必要であること、(3)研究の自由は確保するべきであるが、人間の尊厳や人権に反するような研究とその応用は規制すべきこと、(4)ヒトのクローン個体の作製は禁止すべきこと、などが明らかである。第2年度は、この「宣言」内容の正確な解釈を試み、またさまざまな問題点を提示し、かつ国内立法化への可能性を探った。各研究者はそれぞれ、宣言の作成経緯と逐条解釈及び人権法の発展における意義、国内民事法におけるヒトゲノム実験と遺伝子診断の問題、ゲノム医学、遺伝子治療と癌遺伝子解析の立場からの宣言の実際適用上の問題点、宣言のフォローアップ、ヒトゲノム研究の成果の特許による保護の問題、ヨーロッパ人権条約におけるヒトゲノム研究と応用の問題を研究した。またこの宣言に関連して各国の国内法や指針、関連報告書などをできる限り収集し、一覧表を作成した。これを資料集として整理するよう準備中である。
著者
小田 順一 加藤 博章 平竹 潤 田中 啄治
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、ATPを補酵素として用いる反応として、異なる基質間にCN結合を形成する3つのリガーゼ、グルタチオン合成酵素、γグルタミルシステイン合成酵素、アスパラギン合成酵素を、また、NADPHを用いる反応として、トロピノンから互いにジアステレオマ-の関係にあるトロピンとψトロピンを生じる2つのトロピノン還元酵素を取り上げ、X線結晶解析による立体構造を基に、遺伝子工学を用いて部位特異的変異導入を行いながら、有機合成化学的なアプローチによって反応機構を明らかにするための研究を行った。得られた成果のうち主なものは以下の通りである。1.γグルタミルシステイン合成酵素の分子表面に存在するシステイン残基をセリン残基に変換することにより、同酵素を結晶化することに成功した。同酵素の遷移状態アナログの合成にも成功し、活性中心において厳密に認識されている部分構造のモチーフを明らかにすることが出来た。2.互いに立体特異性の異なる2つのトロピノン還元酵素については両者とも結晶が得られ、多重同形置換法を用いて独立にX線結晶解析を行い、立体構造を決定することが出来た。その結果、厳密な基質特異性の違いは、基質結合部位のわずかな違いによるものであることが判明した。3.アスパラギン合成酵素の活性中心を形成していると予想されるアミノ酸残基を部位特異的に変換することにより、活性に必須なアミノ酸残基を同定することに成功した。また、同酵素の遷移状態アナログの合成にも成功し、得られた遷移状態アナログと酵素との複合体のX線結晶構造解析も現在進行中である。
著者
柳沢 忠 米山 弘一 吉田 雅夫 菅野 長右エ門 山根 健治 沖野 龍文 TRAGOONRANG ソンボング KETSA Saicho
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

タイ国では暑い気候も幸いして農水産物はかなり大量に収穫されている。しかしながら、暑い気候のために腐敗して捨ててしまっている一次産物も多い。高度利用のたのPostharvest studiesが要求されている。本計画ではタイ国における農水産物の高度利用研究のための基盤をいかに築いていくかを調査し、具体化する方策を探ることを目的とした。本研究は2つのプロジェクトから成り立つ。1.タイ国の代表的で豊富に栽培されている園芸作物(例えばカトレアなど花類)を長期に保持させるために、内生植物生長調節物質を特定すること、および化学薬品をどのように処理するかについての観察調査。この研究には、吉田、米山、山根、Saichol Ketsaがあたる。2.タイ国の代表的で豊富に養殖されているエビ類の耐病性や過密養殖に耐えられる種類を特定すること、およびDNA分析によってどのDNAが関与しているかを特定すること。この研究には、柳沢、菅野、沖野,Somvong Tragoonrungがあたる。両大学の研究者が共同して考察検討を行い、対処法をカセサート大学側の研究分担者が行う。得られた結果について宇都宮大学において共同で検討してこの問題の解決にあたる。3年間に渡ってお互いに相互訪問をした。特に2年目の1999年にはチェンマイ市郊外のロイヤルプロジェクト農場(宮内庁農場にあたる、カセサート大学の農場実習の場でもある)を訪問した。3年目の2001年にはプーケット島(エビの養殖試験場)および近くのカセサート大学クラビキャンパス(7番目)を訪問した。協力研究者のSaichol Ketsa教授は宇都宮大学で山根健治助教授らと共同研究を行うとともに、バナナのポストハーベストの方法について宇都宮大学において講演をして頂いた。最後の2001年1月には日本側6名(柳沢、吉田、山根、米山、菅野、沖野)全員がバンコク市のカセサート大学を訪問して、今後の研究について検討した。
著者
浅野 秀剛 中部 義隆 瀧 朝子 宮崎 もも 古川 攝一 植松 瑞希 西田 正宏 大平桂一 桂一 徳原 賜鶴子 田中 宗博
出版者
公益財団法人大和文華館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

物語の絵画化をめぐる諸問題について、物語・和歌系、説話・仏典系、童蒙・勧戒系の三つのグループを中心に研究を進めてきた。特に、『徒然草』と、能・幸若舞・歌舞伎といった舞台芸能のテクストの絵画化をめぐっては、シンポジウムを開催し、国文学・美術史、双方の立場から発表・議論を行い、その問題点や特色について理解を深めることができた。2013年度末には、これまで5年間に行った研究会、シンポジウム、展覧会の成果を報告書にまとめた。
著者
近藤 寿人 蒲池 雄介
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

細胞分化をすすめる転写制御因子のうち、SOX因子群はとりわけ細胞分化の決定に中心的な役割を果たしている。現在20数種類が知られているSOX因子は、そのアミノ酸配列の類似性から、AグループからGグループまでに分類されている。いずれのSOX因子もHMGドメインによってほぼ同一の塩基配列に結合しながら、制御標的遺伝子も、制御する細胞分化のレパートリーもグループ毎に異なる。SOX2を例として、制御標的遺伝子の一つδクリスタリン遺伝子のエンハンサーに対する制御機構を解析した。δEF3の候補分子を、酵母細胞の中での遺伝子活性化反応によってクローニングした結果それがPax6と同一であることが明らかになった。そしてSOX2,Pax6,エンハンサーDNAの3者の共存によってはじめて、強い転写活性化複合体が形成されることを確認した。このSOX2とPax6の協調による遺伝子の活性化が、水晶体分化の開始反応であると考えられる。SOX因子は、それ単独でDNAに結合しただけでは、SOX因子自体が持つ転写活性化機能を発揮することができず、DNA上の近傍に結合したパートナー因子との協同作用によってはじめて制御活性を示すことを示した。SOXやパートナー因子の発現の変化に連動して、SOXの制御下にある遺伝子のセットが切り替わることが細胞分化の重要な制御機構の一つであると考えられる。SOXグループ毎にパートナー因子が異なるために、グループ毎に特異的な作用がうまれ、SOX因子群が細胞分化のスイッチとして作用する。
著者
三好 博之 戸田山 和久 郡司 幸夫 檜垣 立哉
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

三好は計算が二つの意味で記述不可能であるという困難を明確にし,リフレクションと呼ばれる計算から着想を得た形而上学的装置一式を導入してこの困難を間接的に手懐けるというアプローチを見いだした。その記述と理解のためにHume-Bergson形式と呼ぶ記述形式を導入し,これらと上記の困難を結びつけて,その困難を超えた明証的な理解があり得ることを示した.さらにこれが時間論における入不二の考察と近いことを示した。また精神病理学および物理学への応用に向けて予備的な研究を行った。戸田山は今までFieldらにより主に数学と物理学について議論されている認識論の自然化を,現象としての計算に適用する場合の問題点について,普遍的な計算概念よりもむしろ個別の事例について検討を行うことにより研究を行った.そこでは認識論の自然化と同時に実在論を擁護する立場を強調した。郡司は動的情報射を用いた動的・局所的意味論に関する研究を行った。さらに観測由来ヘテラルキーの理論についての研究を行い,ゆらぎを持つ環境の中で頑健な挙動を示すシステムの一般的理論を展開した.現在これらはオープンリミットというアイデアとして一般化されつつある。檜垣は西田幾多郎の哲学において議論されている数理的な議論が現象としての計算という観点から見ると重要な意味を持つことを見出し,このことについて検討を重ねた.その際西田およびドゥルーズの生命論との関連に特に着目して議論を行った.そこでは西田の哲学における数理的側面についても改めて光を当てている。塩谷賢は、「計算」とは科学哲学、技術論、哲学的方法論を含む様々な問題に関する集約点の一つを示す根源的な自然種であるという立場から、「計算」について得られた知見を「計算=操作性のレベルにおける接続子による操作性の延長」として再検討することを提唱した。
著者
森田 学 丸山 貴之 竹内 倫子 江國 大輔 友藤 孝明
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

高齢者をターゲットとした研究は、日本をはじめとする先進国の喫緊の課題である。これまでの歯科領域における研究対象としての“高齢者”は、主に“要介護高齢者”あるいは“要支援高齢者”である。これに対して近年、“オーラルフレイル(口腔機能の虚弱)”という口腔機能の軽微な衰えを表す概念が注目されている。現実には、日常生活で口腔機能に不自由を感じていない高齢者(前オーラルフレイル期高齢者)は多数存在する。しかし、このような高齢者を対象に歯・口の機能の継時的変化(機能の衰え)を追跡した研究は少ない。本研究では、オーラルフレイルに関連する要因とオーラルフレイルに至るまでのプロセス(パス)を解明することとした。岡山大学医療系部局研究倫理審査専門委員会で承認を得たのちに大学病院外来患者を対象に、オーラルフレイルと関連する身体的、精神的、社会的指標を調査した。オーラルフレイルの判定には、オーラルディアドコキネシス、舌圧、口腔乾燥、咀嚼能力、咬合接触面積、細菌検査、質問票の結果から総合的に判定した。オーラルフレイルと関連している可能性のある指標として、全身の老化指標(BMI、栄養状態、日常生活動作)、生活のひろがり(活き活きとした地域生活を送っているか否か)、精神・心理状態(WHO Five Well-Being Index)など調査した。総計150名の患者が調査に参加した。現在35名(平均年齢74.3±5.0歳、男性10名、女性25名)について入力し、分析を開始している。舌圧、口腔乾燥、咀嚼能力、質問票については正常の者が多かった。しかし、細菌検査、咬合接触面積、オーラルディアドコキネシスについては、正常以下の者が多かった。総合的に判断した口腔機能低下症が認められる群(6名)と認められない群(29名)との間で、全身の老化指標、生活のひろがり、精神・心理状態を比較したところ、2群間で有意に異なる指標はみられなかった。
著者
篠原 徹 飯田 浩之 井上 透 金山 喜昭 杉長 敬治 濱田 浄人 佐久間 大輔 戸田 孝 桝永 一宏 松田 征也 佐々木 秀彦 五月女 賢司 半田 昌之 守井 典子 田中 善明 石川 貴敏 水澤 喜代志 佐々木 亨 柏女 弘道 大川 真 高田 みちよ 神田 正彦 岩井 裕一 土居 聡朋
出版者
滋賀県立琵琶湖博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

博物館を対象に全国規模で定期的に実施されている2つの調査の1つである「博物館総合調査」を継承する調査を、全国の4,045館を対象に平成25年12月1日を調査基準日として実施した。そして、その結果を分析すると共に、博物館の経営・運営と博物館政策の立案上の緊急を要する課題(現代的課題)の解決に貢献できる、「博物館の使命と市民参画」「指定管理者制度」「少子高齢化時代の博物館に求められる新しい手法の開発」「博物館の危機管理」の4つのテーマ研究を行った。これらの成果は報告書としてまとめ、Webサイトに掲載して広く公開している。
著者
丸茂 美惠子 川上 央 入江 寿弘 篠田 之孝 小沢 徹 三戸 勇気 竹田 陽子 三浦 雅展 渡沼 玲史
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

日本舞踊において自己研鑚過程の若い演者への教育支援を想定し、「技」の巧拙の判断の根拠となる身体重心の置き方や安定性について動作解析することを目的に置いた。モーションキャプチャ並びに床反力計を用いて身体重心並びに圧力中心点との関連を解析した結果、腰が入った演者は身体重心の垂直方向の標準偏差が小さいこと、前後・左右方向の身体重心と圧力中心のずれが小さいことが明らかとなった。また、独自の解析によって得られた身体重心に着目した可視化システムや、サーボアクチュエータ及び3DCGを用いた動作教示システムなど有用な教育支援システムの構築につながった。
著者
川崎 了 廣吉 直樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

土や岩の代表的なセメント物質の1つである炭酸カルシウムを主成分とし, 自然の土の中に生息する微生物の代謝活動を利用した環境に優しく新しい遺構, 遺物, 石造文化財などの保存材料(強化材料, 接着剤, 補填材料など)を作製した。また, 作製した保存材料を使用した土の力学・水理学特性およびその使用前後における微生物の菌数と帰属分類群について調査し, 新たに作製した保存材料の有効性について評価を実施した。その結果, 保存材料として有効であるとの見通しが大略得られた。
著者
桂 紹隆 吉田 哲 片岡 啓 志賀 浄邦 護山 真也 能仁 正顕
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

平成28年5月28日・29日に龍谷大学において国際ワークショップ「Bhaviveka and Satyadvaya」を開催した。京都大学の出口康夫教授の基調講演"Bhaviveka on Negation from a Contemporary Viewpoint"のあと、米国のDavid Eckel, Mark Siderits教授、中国の葉少勇、何歓歓、李生海博士、日本の一郷正道、斎藤明教授他8名、合計15名の研究発表が行われた。Eckel, Siderits, 一郷教授の発表は「インド学チベット学研究」第20号に既に掲載されている。李博士の研究は、Journal of Indian Philosophyに掲載される予定である。近年斎藤教授を中心に進められているBhaviveka(清弁)研究の国際ワークショップを引き継ぐものであり、上記の研究成果は、ラトナーカラシャーンティの『般若波羅蜜多論』の内容理解、とくに対論者である中観派の学匠の見解を同定するの大いに貢献した。『般若波羅蜜多論』を読解するための定例研究会を引き続き行い、平成29年3月には全編を読了することができた。主として関係文献へのレファレンスからなる詳細な和訳研究は一応完成することができた。ただし、梵語原典の校訂者である羅鴻博士の来日が実現しなかったため、「和訳研究」の出版には、もう少し時間をかけることとした。平成29年3月には、タイのマヒドン大学で開催された「ジュニャーナシュリーミトラ研究会」に参加し、『般若波羅蜜多論』の梗概を紹介すると同時に、ハンブルク大学のIsaccson教授の「有相証明論」の読書会に参加し、ラトナーカラシャーンティの「無相論」の理解を深めることができた。
著者
廣瀬 丈洋
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

沈み込み帯で発生するスロー地震には、水が深く関与していると考えられている。しかし、スロー地震の物理的発生メカニズムはまだよくわかっていない。本研究では、間隙水圧比(静岩圧に対する水圧の割合)がスロー地震の発生と密接に関わっているという仮説を、地震発生域の熱水環境を再現した低~高速すべり摩擦実験によって検証したい。特に、「断層の摩擦特性が間隙水圧比の変動によってどのように変化するのか」ということを詳細に調べて、物質学的視点からスロー地震の発生機構の解明を目指す。平成29年度は、初年度に設置した回転式熱水摩擦試験のシール、載荷、昇温性能を確認するための予備試験を進めるとともに、粉末模擬断層試料をもちいて摩擦実験をおこなえるように試料ホルダーの改良と試料作製ツールの研究開発を行った。作成した試料ホルダーとスロー地震発生場に存在しうる物質を用いた予備実験は順調に進んでいるが、熱水条件下での実験を行うには労働安全衛生法に基づく第一種圧力容器の落成検査等の手続きが必要であり、最終年度前半に手続きを進める予定である。実際にスロー地震発生場でどの程度の異常間隙水圧が存在しているのかを調べて、その結果を実験条件に反映すべく、南海トラフ室戸沖のスロー地震発生場における間隙水圧を掘削時に観察された遷移的泥水フローの解析から推定することを試みた。その結果、室戸沖プレート境界直下で、静水圧より2~4 MPaほど大きな異常間隙水圧が推定された。この値は間隙水圧比に換算すると約0.4となる。今後この値を基準値として間隙水圧比を変化させて、水圧比と摩擦特性の相関関係を探る予定である。
著者
杉本 大三 井上 貴子 杉本 良男 杉本 星子 柳澤 悠 粟屋 利江 Anandhi Shanmugasundaram
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

インドにおける消費生活の変化を、食料や衣服などのモノの消費、宗教に関連する消費、タミル語雑誌広告などの面から多面的に検討してインドの消費市場の急激な拡大を実証するとともに、そこに表れた社会の構造的変化を浮き彫りにした。また、都市部貧困層の消費生活を分析し、低品質・低価格品への選好が強いことなどの特徴を明らかにしたうえで、そうした消費パターンが、多くの都市部貧困層の出身地である農村部のそれと共通していることを示し、都市・農村間の人的・物的循環がインドの消費市場のあり方を強く規定していること、このことが今後のインドの消費市場の発展を制約する要因となりうることなどを指摘した。
著者
三尾 稔 八木 祐子 小牧 幸代 中島 岳志
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

1990年代以降インドの各都市では、新しい型のヒンドゥー祭礼が姿を現し、急速に人気を集めるという現象が見られる。新しい都市型祭礼の特徴は以下の通りである。即ち、1.地縁や血縁などの伝統的な社会関係によらず自発的意思に基づく個別の参加を基本とすること。2.祭礼を挙行する主体と祭礼の観客となる大衆とが明確に分離していること。3.挙行主体と観衆の分離により、祭礼のパフォーマンス性が明確となっていること。都市型祭礼の流行現象は、経済の急速な発展、都市の新中間層の成長と消費社会化、ヒンドゥー・ナショナリズムの隆盛など、現代インドの政治・社会状況が密接に関連すると推測される。この調査では、経済発展による社会変化とヒンドゥー・ナショナリズムの台頭が著しいインド北部および西部の諸都市を対象に、新しい祭礼の広がりとその社会的・政治的背景を人類学的な観点から探求した。さらに、村落部やムスリム社会の動向をも調査し、都市のヒンドゥー中産階層との比較も行った。その結果、1.地方都市にまで消費社会化の傾向が顕著になっていること。2.どの都市のヒンドゥー祭礼にもイベント的な要素が新しく姿を現していること。3.祭礼は新中間層の青年を中心により幅広い支持を集め、一層盛んになる傾向にあること。4.社会変化は村落部にも及び村落の伝統的な社会構造が衰退していることなどが確認された。一方、ムスリムの祭礼では、世界的なイスラーム潮流を背景に祝祭性やイベント性がむしろ抑えられる傾向が見られた。また都市型祭礼とナショナリズムとの関係は、都市によってその関連の強弱に差がみられた。これには、各都市の社会構成や政治状況が反映していると思われる。各都市の個別の成立事情や社会構成を考慮に入れながら、よりきめ細かくインドの都市社会とヒンドゥー・ナショナリズムの関係を精査・分析することが今後の課題となる。
著者
小川 園子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、攻撃行動の表出と、個体の不安情動性や社会的刺激に対する反応性のレベルとの関係、さらにストレス負荷による変容について、攻撃、不安情動性、社会認知、ストレス反応の制御への関与が示唆されている、エストロゲンレセプターベータ(ER-β)が果たす役割に焦点をあてて解析した。(1)エストロゲンによる不安関連行動の制御におけるER-βの役割を同定するために、性腺除去後に慢性的なエストロゲン処置を施された雄マウスの不安関連行動を明暗箱往来テストにより測定したところ、野生型(WT)マウスでは、エストロゲン処置により不安レベルの低減が見られたが、ER-βの遺伝子欠損マウス(βERKO)では、エストロゲンは全く効果がなかった。また、攻撃行動、情動行動への関与が指摘されているセロトニン関連遺伝子であるセロトニントランスポーター(SERT)のmRNAレベルを、ER-βが高濃度で存在する中脳背側縫線核で測定したところ、WTマウスではエストロゲン依存的なSERTの増加が見られたが、βERKOマウスでは全く変化がなかった。(2)雄マウスの攻撃行動は、生後5-6週間目の思春期到来の前後に発現し始め、その後性成熟とともに成体レベルの達することが知られている。我々は以前、βERKO雄マウスにおいて思春期前後の攻撃行動の増大すなわち攻撃性を抑制する脳内機構の異常を示唆する結果を報告した。本実験では、この様な攻撃性の異常を示すβERKOマウスにおいて、新生仔期での母親からの分離ストレスが、思春期での攻撃性のレベルや社会的探索行動テスト場面での不安行動に及ぼす影響について検討した。母親からの分離ストレスが負荷された雄マウスでは、5週令での攻撃行動の発現が遺伝子型を問わず減少していたが、βERKOマウスにおいて特に顕著な減少が見られた。従って、ストレス応答システムの発達にER-βが関与していることが示唆された。