著者
田中 茜
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.69-80, 2021-09-30 (Released:2023-02-24)
参考文献数
24

1990年代後半以降,女性の労働市場への参入が進んでいる一方で,男性の家事育児分担は低水準のままである.このように伝統的な性別役割が残存し夫婦間での分担が十分に行われていない状況下では,個人の働き方は本人だけでなく配偶者の働き方や家事分担などの影響を受けると想定される.本研究では男女間の不平等状態のメカニズムを解明するために,出産前後における夫婦それぞれの就業行動の変化とそれに対する配偶者の影響を検討する.とくに夫婦間の相互影響が既存の子ども数によって違いが見られるか否かを確認するために,第1子出産群と第2子以上出産群の2群に分けて検討を行った. 「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(JLPS)のパネルデータを使用し,夫婦の出産前後の労働時間が相互に影響し合うことを想定した分析を行った.結果は第2子以上出産群においてのみ,出産1年前の夫の労働時間が出産1年後の妻の労働時間に対して負の影響を持つことが示された.その一方で,出産1年後の夫の労働時間に対する妻の影響は確認されなかった.この結果は夫婦間の役割分担がジェンダー伝統主義であることを表しており,男性の働き方改革が必要であることを示唆している.
著者
鈴木 淳子
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.28, no.10, pp.820-821, 1996-10-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
6
著者
白戸 満喜子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.42-50, 1997-10-10 (Released:2017-08-01)

二代目松林伯円が口演した講談『安政三組盃』に登場する津の国屋お染は、漂流という偶然によってではあるが、日本開国以前の安政六年に女性で初めてハワイの地を踏んだとされ、このことは事実として語られている。しかし、お染が描かれたとされる浮世絵の版行年と伯円講述の『安政三組盃』の粗筋を照合すると、お染漂流の事実には矛盾が生じる。お染という女性は明治の寄席芸が創り上げた架空の存在であると推定されるのである。
著者
中原 衣里菜 谷ヶ﨑 博 菅野 仁
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.541-548, 2021-12-24 (Released:2022-01-07)
参考文献数
50
被引用文献数
2

発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)は,二相性自己抗体(Donath-Landsteiner抗体:DL抗体)により血管内溶血をきたす自己免疫性溶血性貧血(AIHA)である.これまでにPCHの症例をまとめた総説は乏しく,今回2000年以降の本邦でのPCH報告例に自験例を加えた73例(成人例19例,小児例54例)について臨床像を総括した.既報通り冬季に発症し,先行感染が認められることが多かった.かつては梅毒に続発する例が多くみられたが,2000年以降は非梅毒性の報告のみであった.多くの例は保温で改善傾向となったが,Hb 5.0g/dlを下回る場合に輸血が行われることが多く,重症例ではステロイドを使用した例もみられた.PCHは進行が早いため,早期に診断し,寒冷暴露を避けることが重要である.寒冷暴露で誘発される溶血性貧血として,寒冷凝集素症(CAD)との鑑別を要する.PCHの診断に必要なDL試験は委託可能な外部検査機関がなく,疑った場合には保温に努め,院内輸血/検査部門で施行を検討する.経過は通常一過性であり,DL抗体陰性化を確認後には安全に寒冷暴露制限を解除できるものと考えられた.
著者
水町 貴諭 加納 里志 原 敏浩 鈴木 章之 鈴木 清護 本間 明宏 折舘 伸彦 福田 諭
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.498-501, 2010-12-25 (Released:2010-12-28)
参考文献数
11
被引用文献数
4 1

中咽頭扁平上皮癌53例を対象にHPV感染と治療成績との関連について検討を行った。53例中14例(26%)がHPV陽性であったが,扁桃原発例に限れば19例中11例(58%)が陽性であった。HPV陽性14例中12例(86%)がHPV16陽性で,HPV18およびHPV58陽性が各1例みられた。疾患特異的5年生存率はHPV陽性例の方が陰性例に比べ有意に高い結果となった。放射線化学療法施行症例においてもHPV陽性例の方が陰性例に比べ有意に疾患特異的5年生存率は高い結果となり,HPV陽性例では11例全例局所は制御されたが,陰性例では22例中9(41%)が局所再発した。以上の結果から,中咽頭癌症例の治療成績の向上のためにはHPV感染の有無による層別化が必要であり,HPV陰性例では局所の制御が課題であると考えられた。
著者
立場 貴文
出版者
一般社団法人 日本デジタルゲーム学会
雑誌
日本デジタルゲーム学会 夏季研究発表大会 予稿集 2021 夏季研究発表大会 (ISSN:27584801)
巻号頁・発行日
pp.15-18, 2021 (Released:2023-03-08)
参考文献数
9

本稿の目的は、ビデオゲーム におけるチート行為の不正さについて、どのような場合にそれが不正になるか、またチート行為が不正である場合には、なぜそれが不正であるかについて考察することである。近年とりわけ問題となっているオンラインゲームにおけるチート行為の事例を日本で争われた裁判も参照しつつ検討し、経済的損失や通常業務の妨害などの法理では、かならずしもそうした行為の不正さを取り扱うことができないことを示す(第2 節)。最後に、広くゲームに関して議論してきたスポーツの哲学の立場を手掛かりに、オンラインゲームにおけるチート行為の不正さはどこにあるのかということに関する考察を行う(第3 節)。
著者
吉野 志保
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.237-246, 2003-12-20 (Released:2017-10-20)
参考文献数
8

本研究の目的は,言語音声学習に効果的な字幕の提示方法を提案することである.字幕は,利用が容易で聞き取り場面での効果も確認されているメディアであるが,その提示方法に関して,情報処理過程に基づく検討が行われたことはない.本研究では,字幕を言語文字情報と捉え,その処理過程に基づき,より学習効果の高い字幕の提示方法についての検討を行った.具体的には,字幕を音声に対して先行提示することにより,英語字幕では音声化の強化,日本語字幕では音声情報との適切な情報処理が可能となり,再生成績が上昇すると想定し実験を行った.その結果,日本語字幕については,再生成績に変化がなく,再検討の必要がある結果となったが,英語字幕は,音声よりも平均無音声時間分先行提示した場合に,再生成績が有意に高くなったことから,このような字幕提示方法によって,英語字幕を用いた教材の学習効果を高められる可能性が示唆された.
著者
山室 真澄 管原 庄吾 小室 隆
出版者
東京大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2019-10-07

大型底生緑藻の異常繁茂が、世界の多くの海岸や淡水域で発生している。日本でもアオサや糸状藻類の異常繁茂が各地で報告されている。原因として栄養塩の増加など、増える要因を検討するものが多い。本研究ではシオグサ属大型底生緑藻の異常繁茂により湖岸が極端に嫌気的になり、水鳥の大量死など生態系が著しく撹乱されている北米の五大湖で現地調査を行い、なぜ減らないかという観点から検討する。具体的にはシオグサの補食者の状況を確認し、捕食者が存在する場合は捕食しない原因を検討する。捕食者が少ないか不在の場合は、流入河川など周辺水域に緑藻を捕食する動物がいないかなどを調査し、補食者の復元・導入方法について共同研究を行う。
著者
秋山 好一 松田 稔
出版者
一般社団法人 日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.915-921, 1997-12-01 (Released:2017-06-02)

古賀政男音楽作品は"古賀メロディ"として多くの人々に親しまれてきた。本論文では, 古賀メロディに共通する旋律の特徴を述べている。特徴抽出にはメロディパタンのスペクトル表現に階層的ファジィクラスタ分析を適用した。クラスタ分析において古賀メロディが集群する階層が存在した。この集群したクラスタから得られる類似関係は, 旋律輪郭の滑らかさにあることが分かった。実験結果から, 古賀メロディの特徴の一つとして, 旋律全体の滑らかさと部分旋律における滑らかさに相似関係が存在することが明らかになった。このことは, 16小節程度の旋律進行は4小節程度の部分旋律における旋律進行から予測できることを意味している。
著者
西村 潤也 寺岡 均 北山 紀州 埜村 真也 野田 英児 西野 裕二
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.76, no.11, pp.2836-2841, 2015 (Released:2016-05-31)
参考文献数
22
被引用文献数
3 4

症例は63歳の男性で,右鼠径ヘルニアに対して2013年8月に腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術を施行した.同年10月より右鼠径部の膨隆を自覚したため外来受診し,CTにて創部に膿瘍形成を認め術後感染と診断した.保存的加療では軽快せず,同年11月に手術を施行した.鼠径部からのアプローチにて膿瘍腔を開放し,壊死組織の除去および洗浄を行ったが,膿瘍腔とメッシュは接しておらず,メッシュの摘出は行わなかった.術後,創部に留置したドレーンを用いて洗浄を継続するも軽快せず,2014年1月に腹腔鏡下でのメッシュ除去術を施行した.メッシュは周囲組織と強固に癒着しており摘出に難渋した.術後,創部感染は速やかに改善し,現在までヘルニアの再発も認めていない.今回われわれは,腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術後のメッシュ感染に対して,腹腔鏡下にメッシュ除去を行い根治しえた貴重な1例を経験した.
著者
喜多 満里花
出版者
日本メディア学会
雑誌
マス・コミュニケーション研究 (ISSN:13411306)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.181-199, 2020-07-31 (Released:2020-09-26)
参考文献数
29

Popular cultural content is transnational, as it is produced across nationalborders. However, it is used as a tool to represent national image and identityfor branding, which is contradictory. Therefore, two issues will become thesubject of discussion: signifying the processes of policy makers and theeffects of these discourses on people’s national identity. This study examinesthese issues through document analysis of Korean government publicationsconcerning Korean popular music( K-Pop). The study shows that K-Pop signifies two different things in thesedocuments.Documents written in English say that it is “hybrid and transnationalmusic” for external branding, whereas those in Korean claim that it has“original content, inheriting Korea-ness from traditional culture” for internalbranding.In addition, the government’s view of national identity and culturalnationalism shown in internal branding is not considered by the Koreanpeople in their reactions to discourse about the Korean wave or change ofgovernance. This rejection of this reconstructed national identity differs fromthe circumstances shown in previous studies.