著者
瀬川 大
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.348-354, 2020-06-15 (Released:2020-06-15)
参考文献数
8

小脳出血により右上肢の運動失調を呈する事例に対して,箸操作の自立を目標に作業療法を実施した.事例は,麻痺側右手に過剰に力が入った状態で,箸を握り込むように把持していた.そして,右手の揺れを止めようとして箸の握り込みが強まり,操作対象からの感覚情報とその変化を知覚することが困難な状態にあった.手指の目的的な活動を促通するために,手全体で物品を握るおよび扱う活動で,手指の屈曲・伸展を連続的に誘導した.その後,切る,混ぜる,つまみ上げる,の3つの工程に分けた箸操作を実施し,箸先を整える動作を誘導した.その結果,事例は実用的に箸を使用することが可能となった.
著者
黒田 泰弘
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3-4, pp.368-376, 2022-08-15 (Released:2022-08-15)
参考文献数
72

敗血症における脳障害は,1.狭義の敗血症関連脳障害(sepsis-associated acute brain dysfunction:以下,SABD),2.広義のSABD,3.敗血症に合併した新たな脳神経疾患,に分けられる。狭義のSABDは炎症性メディエーターによる脳への直接的影響により生ずる。一方,広義のSABDは敗血症による脳以外の臓器障害または薬剤などによって間接的に引き起こされる。SABDは,敗血症関連臓器障害のうちで最も頻度が高く,敗血症患者の最大70%が罹患し,他の臓器が侵される前に発症することが多い。SABDは症状が非特異的であり,病歴も加味した除外診断が重要である。1は敗血症の治療が中心となるが,2および3は治療の追加や治療内容の早期変更が必要な場合がある。
著者
田口 文広 松山 州徳 中垣 慶子 森川 茂 石井 浩二 氏家 誠
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

SARS-CoVは、受容体ACE2に結合後、エンドゾームに輸送され、cathepsin-Lなどのプロテアーゼによりスパイク(S)蛋白の膜融合能が活性化され、細胞侵入するという、エンドゾーム経路で細胞内へ侵入する。一方、我々は外来性のプロテアーゼが存在する場合、細胞表面から侵入する可能性を提唱した。この細胞表面からの侵入は、ACE2結合したS蛋白がプロテアーゼにより解裂され、膜融合活性を獲得するために可能になると考えられている。本研究では、この仮説を検証するため、解裂性S蛋白を持つpseudotypeウイルスを用いて、細胞表面からの侵入が可能か否かに付いて検討した。SARS-CoV S蛋白上の細胞内プロテアーゼ(フリン)により解裂が予想される3か所にプロテアーゼ認識アミノ酸配列を導入した変異S蛋白を作成した。このS蛋白をenvelope上に持つ水泡生口内炎ウイルス(VSV)のpseudotypeウイルスを作成し、その細胞侵入経路を検討した。3か所の変異挿入部位の中で、S蛋白797/798で解裂が起こるよう設計されたS蛋白は、細胞融合性を示し、pseudotype envelope上に発現された。このpseudotypeは、SARS-CoV非解裂性S蛋白を持つpseudotypeと比べ、エンドゾーム経由感染阻止薬による感染抑制はなく、また、SARS-CoVがエンドゾーム内で活性化されるプロテアーゼ阻害剤の影響も低かった。以上の結果から、解裂性S蛋白を持つpseudotypeは細胞表面から侵入することが強く示唆された。即ち、SARS-CoVはプロテアーゼの存在下で直接細胞膜から細胞侵入する能力を有することが確認された。マウス肝炎ウイルス(MHV)のS蛋白のheptad repeat由来peptideは膜融合活性を阻害することでウイルス感染を阻止することが報告されている。SARS-CoVのS蛋白でも同様の実験がなされたが、MHVに比べて阻害効率が著しく悪い事が報告されている。我々は、外来性のプロテアーゼ存在下、細胞表面からの感染が可能な状態で、peptideの感染阻害効率を再評価した。この結果、細胞表面からのウイルス感染では従来考えられていたよりも低濃度のpeptideで効率よく阻害できる事が分かった。このことは、これらのpeptideが潜在的なSARS-CoVに対するinhibitorとなりえる事を示唆するもので、SARS-CoVの感染経路にpeptideをターゲティングする事でSARS-CoVの感染を効率よく阻止できる可能性を示した。
著者
稲垣 優 田辺 俊介 吉田 亮介 有木 則文 常光 洋輔 大塚 眞哉 三好 和也 大崎 俊英 淵本 定儀 湯村 正仁 堀 圭介 友田 純
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.653-657, 2005 (Released:2006-11-24)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

患者は67歳女性. 主訴は呼吸困難. C型肝硬変症にて当院内科にて治療中, 胸腹水貯留にて入院. 胸水に対し胸腔ドレーンを挿入したが, 1.5l/dayの胸水を認め, ドレーンクランプにて呼吸困難を生じ, 胸水コントロールのため, 当科紹介となった. Child-Pugh score9点Bであった. CTにて右胸腔内に著明な胸水貯留を認め, 肺実質は虚脱していたが, 腹水は少量であった. 以上より, 胸腔静脈シャントの手術を行った. 手術は腹腔静脈シャント用のDenver shuntシステムを用いた. 術後経過は当初300回/dayでポンプを押していたが, 胸水の改善が見られず, 回数を増やすと共に胸水穿刺を適時行うことにより, 胸腔内で肺の再膨張が見られるようになり, 患者の呼吸状態も改善し, 現在ポンプのみにて平衡状態が保たれている. 末期肝硬変患者で腹水が少量で, 難治性胸水を認める症例では積極的に胸腔静脈シャントを留置することにより, 患者の状態が改善できると考えられた.
著者
細谷 憲政 飯豊 紀子
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.83-86, 1969-03-01 (Released:2009-11-16)
参考文献数
12

白ネズミを用いXy投与の影響を, 体重の増加, 生殖状況, 肝XDH活性について観察した。1. 含飼中Xyを10%以上に投与すると下痢を起こすが, 毎週5%ずつXyの含存を増大して20%にし, さらに20% Xy飼料を用いて4カ月飼育しても白ネズミの体重増加曲線は無添加群とほとんど差異がみられなかった。2. 白ネズミにXyを増大して投与するとある許容量限界で下痢症状を呈するが, 速やかに適応し, さらに肝細胞質のXDH (NAD) 活性も誘導される。3. 交配時ならびに妊娠時にXyに適応させても出産に影響はみられず, また仔白ネズミの発育にも影響はみられなかった。また仔白ネズミの食べ始めた日よりXy含有飼料にて発育した場合には親白ネズミと同様のXyによる適応現象が観察された。
著者
井上 登太 鈴木 典子
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.45-49, 2007-04-27 (Released:2017-04-20)
参考文献数
8

嚥下障害を示す症例においては,高い機能を保持している症例では上肺・中肺野異常影を示すものが多く,誤嚥性肺炎を診断困難にする要因の一つといえる.誤嚥性肺炎の胸部単純レントゲン診断においては,ADL,摂食食態,嚥下機能の評価にも注目する必要性がある.
著者
中谷 隼 平尾 雅彦
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.309-317, 2010 (Released:2014-12-19)
参考文献数
19
被引用文献数
3 1

容器包装プラスチックのリサイクルの意義や材料リサイクルの優先的な取り扱いへの疑問に応えるためにも,材料リサイクル,ケミカルリサイクル,エネルギー回収といったさまざまなリサイクル手法による環境負荷や資源消費の削減効果を客観的に評価することが求められている。本稿では,これまでの容器包装プラスチックリサイクルのライフサイクル評価 (LCA:Life Cycle Assessment) の事例をレビューして,さまざまなリサイクル手法による二酸化炭素 (CO2) 排出の削減効果について考察した。その中で,システム境界や代替される製品の設定によって評価結果が影響されることに言及し,容器包装プラスチックリサイクルのLCA評価に残された課題について述べた。
著者
阿部 正
出版者
一般社団法人 水素エネルギー協会
雑誌
水素エネルギーシステム (ISSN:13416995)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.4-10, 2010 (Released:2022-03-18)

Substantial reduction of greenhouse gas is requested to deal with the global warming issue. As an innovative technique to achieve it, a fuel cell vehicle (FCV) and production, storage and supply technologies of hydrogen, which is fuel of FCV, are the important position in the national policy.FCV, which is one of the next generation cars and considered as an ultimate clean energy vehicle, has been developed actively for practical use. Also, demonstration studies of hydrogen refueling stations have been executed including the metropolitan area.In this report, it introduces the outline of the JHFC project (Japan Hydrogen & Fuel Cell Demonstration Project), which has been promoted aiming at spread start of FCV and hydrogen refueling stations to the average user in 2015.
著者
外山 軍治
出版者
東洋史研究会
雑誌
東洋史研究 (ISSN:03869059)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4-5, pp.348-354, 1939-06-30
著者
溝部 朋文 萩原 章由 松葉 好子 前野 豊 山本 澄子
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.123-126, 2017-04-01 (Released:2018-04-15)
参考文献数
2
被引用文献数
1

運動麻痺が重度な片麻痺者の歩行練習の過程で,長下肢装具を使用することが多い.短下肢装具へ移行する際,その時期や歩容の悪化がしばしば問題となる.今回,長下肢装具から短下肢装具へ移行した際に歩容が変化した片麻痺者に対し,三次元動作解析を用いて歩行を計測した.長下肢装具使用時,視覚的には歩容は良好であったが,荷重応答期に股関節伸展モーメントが働いていなかった.短下肢装具へ移行後は,荷重応答期ではなく立脚中期に股関節伸展モーメントが働き,円滑な前方への重心移動が難しくなった.歩行機能再建の過程で長下肢装具を使用する際には,歩容だけでなく筋収縮の有無やタイミングを考慮すべきである.
著者
才藤 栄一 横田 元実 平野 明日香 大塚 圭 園田 茂
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.87-92, 2012-04-01 (Released:2014-01-15)
参考文献数
10
被引用文献数
2
著者
勝島 隆史 安達 聖 南光 一樹 竹内 由香里
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.101-114, 2023-03-15 (Released:2023-04-09)
参考文献数
26

強風を伴った湿雪の樹木への着雪により,樹木に作用する荷重が増加することで,幹折れや根返りなどの樹木の破壊が生じる.このような樹木の破壊を予測するためには,着雪と風により樹木に生じる荷重を考慮した構造解析が用いられる.しかし,樹木に生じる風荷重の測定例は少なく,風荷重の推定に必要な樹木の抗力係数への着雪の影響は不明である.本研究では,国内の主要な林業種であるスギにおける,抗力係数に及ぼす着雪の影響を明らかにするために,風洞実験を実施した.風洞装置内に実物のスギの枝葉を材料に用いたスギの枝葉のモデルを設置し,送風しながら湿雪を供給することにより人為的に着雪を生じさせた.そして,風速や着雪量などの実験条件に対する,スギ枝葉の抗力係数の変化を測定した.その結果,枝葉への着雪は,(1)着雪の発達により風向に対する垂直面への投影面積である垂直投影面積を増加させる効果,(2)流体抵抗を減じる効果,(3)風の作用により枝葉が湾曲することで生じる垂直投影面積の減少を阻害する効果をもたらすことが示唆された.これらの効果により,着雪前の無風時の受風面積を用いて求めたスギ枝葉の抗力係数は,着雪量により変化した.
著者
林原 泰子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第54回研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.B05, 2007 (Released:2007-06-09)

本報告では,史料調査により戦後の「Solar」ラインナップを明らかとし,戦前・戦後を通した「Solar」シリーズの変遷について考察を行うことを目的とする。 戦後の「Solar」ラインナップとして,納入型,K型,F型,FW型,P型を確認した。戦前の形状を継承した納入型はF型,FW型,簡素化されたK型はP型へと発展しており,新規のデザインや技術を取り入れながら積極的に改良が重ねられていった様子が認められる。 1953(昭和28)年頃には,20社以上の国内企業が電気洗濯機の製造を行っており,その半数以上が撹拌式を手掛けていた。これら撹拌式の製造にあたり,外国機と共に「Solar」が参照されたことは間違いないと考えられる。「Solar」は,戦前より特許や実用新案の取得を含めた積極的な製品展開を行っていた。更に,戦後のFW型,P型においては意匠面についてもいち早く注意が向けられるなど,戦前戦後を通して日本の家庭用電気洗濯機市場を牽引する存在であったといえよう。