著者
森下 はるみ 黒田 善雄 田畑 泉
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

【目的】本研究の目的は(1)勤労中高年女性の食生活を評価すること,(2)近年、社会問題となりつつある骨粗鬆症との関連で、本対象者の腰椎および大腿骨頸部の骨密度の概要を明らかにすること,(3)身体運動トレーニング(スイミング及び水中運動)が勤労中年女性の持久性体力及び血中脂質に与える影響を明らかにすることであった。【結果】各年代とも、エネルギー摂取量はそれぞれの年代の所要量とほぼ同水準であった。栄養素は、それぞれの年代の女性の所要量を上回る摂取量であった。たんぱく質は所要量より30%多く、脂質も所要量より約10%多めであった。カルシウムはの摂取量は所要量より16%多かった。次にアルコール摂取量はビールをコップ1杯程度であったため、アルコールのエネルギー比率はわずか2%であった。腰椎及び大腿骨頸部の骨密度は年齢とともに低下した。骨密度には個人差が大きかったが、平均的には一般人女性よりも、僅かに高い価であった。水泳トレーニングへの平均出席回数が週当たり1.5回以上の群では、持久性体力の指標である乳酸性作業閾値は24.2±2.2ml/kg/minから26.4±2.4ml/kg/minへ1.6±2.8ml/kg/min有意に増加した(p<0.05)。一方、平均出席回数が週当たり1回以上の群では乳酸性作業閾値とも有意な変化は見られなかった。血中脂質濃度の変化をみると、いずれのグループともトレーニング前後で血中トリグリセリド濃度に変化はみられなかった。また、総コレステロール、LDL-コレステロール濃度はいずれのグループとも上昇する傾向が認められたが、とくに水泳トレーニングにほとんど出席しなかったCグループの被検者の上昇が顕著であった。しかし、いずれのグループもHDL-コレステロール濃度には大きな変化がみられなかった。【まとめ】本研究の結果より、週1.5回以上身体トレーニングを行うと、持久性体力が向上し、さらに血中脂質プロフィールが改善されることが明らかになった。
著者
薬師神 裕子 中村 慶子 山崎 歩 二宮 啓子
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

思春期1型糖尿病患児へのメンタリングを用いた看護介入プログラムを開発し、思春期患児(10名)及び青年期患児(7名)への双方の介入効果を評価した。1年間の継続メンタリングを用いた介入により、思春期患児の自己効力感は介入セッション後6か月まで有意に上昇した。また、血糖値の有意な低下が12か月後まで見られた。思春期患児からのメンタリングに対する肯定的な評価にも関わらず、良好なメンタリング関係を長期間継続することは難しく、信頼関係構築のサポートとメンタリング関係のモニタリングを強化する看護支援の必要性が示唆された。
著者
吉高 淳夫
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

小型ビデオカメラや映像共有環境の普及により一般ユーザも映像を制作し共有することが一般的になっている.撮影法による非言語情報,特に感性情報の表現を意識しない,あるいは知らないユーザにより制作された映像は制作者の意図を適切に伝えることが出来ない場合が多い.この問題を解決するために,目標とする非言語情報表現に従い映像撮影を支援するインタラクションモデルの検討ならびにそれに基づく撮影システムを実装し,その効果を評価した.
著者
中川 順子
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究課題の研究成果は次の3点である。第一に、近世ロンドンの外国人教会による救貧は、同胞による困窮移民に対する救済活動として重要な役割を果たした。それは同時に、教会による移民の規律化とアイデンティティ形成の手段でもあった。第二に、18世紀初頭のドイツ系移民はロンドン流入後に支援獲得の手段としてパラタイン移民という自己意識を形成した。彼らの流入は移民に対するイギリス社会の態度を移民規制の方向に転換させた。第三に、他者の顕在化と他者との共生(救貧や法的地位の付与)を巡る議論は、近世イングランド社会(人々)に自己意識の形成を促した。
著者
穂積 勝人
出版者
東海大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2010

胸腺内T細胞分化を支持するNotchシグナルの分子機構解析造血未分化細胞の胸腺への移行に始まるT細胞分化には、胸腺環境を担う上皮細胞を介したNotchシグナルの発動が必須であるが、その分子的詳細は明らかではない。これまで、未分化T細胞におけるNotchシグナルの解析には、Notchリガンド(NotchL):Dll1あるいはDll4を強制発現させたOP9細胞等の単層培養系が用いられてきた。しかし、これまでの我々の解析から、上記単層培養系にて調製された未分化T細胞は、胸腺内ではT細胞へ分化できないことが明らかとなり、単層培養系と本来の胸腺環境との間には、少なからず差異があることが示唆された。そこで我々は、Notchシグナルを付与しないT細胞分化環境として、Dll4欠失胸腺を用い、未分化T細胞への様々な遺伝子導入により、Notchシグナルを代替しうるシグナルについて調べた。Dll4非存在下に胸腺未分化T細胞(DN112画分)を胸腺器官培養にて分化誘導を行うと、ほとんどT細胞は分化しなかった。これは、TCR6鎖およびpTαの遺伝子導入を行っても改善しなかった。また、Notch下流にて機能することが示唆されるc-mycおよび活性化Aktの共発現によっても正常T細胞分化は再現できず、異常増殖が観察されるのみであった。これに対し、DN3画分のDP細胞への分化については、c-mycの恒常的発現によって、Dll4由来シグナルの欠失による分化停滞を限定的ながら回復させることが見出された。これらのことから、T細胞分化および正常細胞増殖の担保には、制御されたNotchシグナルの発動が重要であり、その本態としてc-mycが関与することが推察された。
著者
鈴木 浩司
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は,競技,種目,ポジションによってマウスガードデザインが異なると言うことを調査し,また装着する人によっても変化することがあり得ると言うことを明らかにすることである。アメリカンフットボール,アイスホッケー,ボクシングあるいは空手と言ったコンタクトスポーツでは外傷発生の危険性が高く,特に,顎口腔系の外傷予防にはマウスガードの装着が有効であり,我が国においても歯科関係者の努力とスポーツ関係者の理解によって広く認められるようになってきた。そして,一部の競技では試合中のマウスガード装着が義務化されたり,ラグビーやバスケットボールのようにトッププレーヤーが自主的に装着するようにもなってきている。また,一般市民の健康志向の高まりや,スポーツ少年少女の低年齢化などからマウスガードは一部のスポーツアスリートばかりのものでなく,一般歯科保健や学校歯科保健の見地からも重点目標として捉えられている。マウスガードに関しては,歯科医師が提供するカスタムメイドタイプのマウスガードの方が装着感,使用感に優れていることは明らかであり,いまや,その上の段階である競技特性や,個人の状況等,選手個々のニーズにまで応えた真のカスタムメイドマウスガードというものが必要とされている。その道の一流の選手が認めたマウスガードは一般競技者にとって良いアピールとなり,普及につながるからだ。そこで各種スポーツに対しマウスガードを装着し,空手道,サッカー,アメフト,フロアホッケーなどの競技におけるマウスガードのデザインを検討し,学会発表および誌上発表をしてきた。一方,コンタクトスポーツにおける外傷予防効果を目的とした使用方法以外のマウスガードの用い方についても着目し検討をしてきた。その結果トレーニング時のマウスガード装着により,より効果的なトレーニングが行えると言うことで,今後さらなる検討をしていきたい。
著者
粟生田 友子 川里 庸子 菅原 峰子 櫻井 信人 長谷川 真澄 瀧 断子 鳥谷 めぐみ 太田 喜久子 小日向 真依 白取 絹恵
出版者
新潟県立看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

環境因子に対して高齢者が示す反応からせん妄発症リスクを予測し、環境による発症リスクを軽減する方法を検討することを目的に、入院中の高齢者のせん妄発症に関わる物理的・人的環境因子に対する高齢者の認知の様態を明らかにし、せん妄発症群と非発症群の比較関連検証を行った。結果、物理的・人的環境に関して2群間に差が認められた項目は<部屋の位置><看護師の訪問頻度><緊張感を助長する検査の有無><他の患者との交流><不安を助長するものがある>であった。
著者
柳町 智治 岡田 みさを
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本科研調査では、日本語の「学習」を「学習者と周囲とのコミュニケーションが環境中の様々なリソースに媒介され変容していくプロセス」として捉え、目本語の使用、学習といった実践のあり方を「具体的な文脈に属する複数の人間、道具のやりとりのダイナミクス」と見なし再考した。具体的には、第二言語話者あるいは日本語母語話者が日常的な実践を行っている場面(理系大学院における実験場面やボクシングの練習場面)をとりあげ、そこで見られるインタラクションをビデオデータの微視的な分析やフィールド調査を通じて詳細に記述、分析するということを行った。その際、(1)人の行動がその場の言語、非言語行動、人工物の使用といったマルチモダルなリソースの並置を通してどのように成し遂げられているのか、(2)何かを学習するということをその文脈で特有のものの見方(professional vision)を学ぶことと捉えた場合、個々の文脈においてそうした「vision」が当事者たちによってどのように提示されその理解が達成されているのか、の2点を分析考察の中心とした。日本語によるインタラクションを「マルチモダリティ」および「vision」の視点から考察した研究はまだほとんど行われていないが、3年間の本プロジェクトでは、日本語第二言語話者と日本語母語話者の相互行為が当該文脈においてどのように成し遂げられ、組織化されているのかの一端を具体的なインタラクションの分析を通して明らかにした。
著者
首藤 伸夫 米地 文夫 佐藤 利明 豊島 正幸 細谷 昂 元田 良孝
出版者
岩手県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

1.終戦直後の開拓事業から展開してきた岩手山麓の農業は販売農家率が高く、後継者の同居率が高い。当該地帯は、被災後にも農業再建を目指す潜在力が高いと判断された。2.岩手山の約6000年前の噴火と、磐梯山1888年噴火は極めて類似しており、磐梯山での住民の対応記録の分析で学んだことは、岩手山で災害が生起した際の避難行動のために、役立つ。3.住民の郵送調査と面接調査、防災マップの収集と分析、行政のヒアリング等を行い、高齢者の避難や冬季の避難の対策、防災マップのノウハウの蓄積が重要であることを示した。4.火山活動情報が岩手山周辺の宿泊施設等への入り込み数に与える影響の数量分析、宿泊施設への聞き取り調査、雲仙普賢岳に事例を比較した総合的な考察を行った。5.災害の発生予測、被害緩和と訓練との関係の認知、予想被害の深刻さの認知、地域社会との関係の認知、避難訓練の参加コストの見積もり等が、住民の防災への対応に影響することを示した。6.災害時の通信に関しては、有効な方法をすべて調査し無線LANの優位性を示した。次に無線LANベースの情報ネットワークを構築し、その上でインターネットを利用する安否情報システムを開発した。さらに双方向ビデオ通信システムを開発し、実験で有効性を確認した。7.社会福祉分野における危機管理として、住民への直接的情報伝達におけるユニバーサルデザインの配慮が求められる。また、災害時の情報伝達システムには、ケアマネジメントとの連動、ニーズ変化等動的情報への対応、サポートネットワーク変容への視点が重要である。8.被災者の医療・看護体制に関しては、被災が予想される地域住民の健康状況及び防災調査の結果に基づき、災害弱者の避難方法、治療継続の保証を確保することに重点をおいて対策を実施した。弱者救援の組織化と慢性疾患患者の自己管理の情報提供である。
著者
山田 功夫 深尾 良夫 深尾 良夫 浜田 信生 鷹野 澄 笠原 順三 須田 直樹 WALKER D.A. 浜田 信夫 山田 功夫
出版者
名古屋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

我々はPATS(ポンペイ農業商業学校)や現地邦人の方々の協力を得て,平成5年3月ミクロネシア連邦ポンペイに地震観測点を開設することができた.平成4年9月の現地調査以後,手紙とファクスのみでのやりとりのため,現地での準備の進行に不安があったが,現地邦人の方々のご協力もあって,我々は計画を予定どうり進めることができた.その後,地震観測の開設は順調に進んだが,我々の最初の計画とは異なり,電話が使えない(最初の現地調査の際,電話の会社を訪ね相談したとき,「現在ポンペイ全体の電話線の敷設計画が進んでおり,間もなくPATSにもとどく.平成5年3月であれば間違いなくPATSで電話を使うことができる」とのことであったが,工事が伸びた).このため最初に予定した,電話回線を使った,観測システムの管理やデータ収集はできなくなった.近い内に電話回線を利用することもできるようになるであろうことから,観測システムの予定した機能はそのままにし,現地集録の機能をつけ加えた.そして,システム管理については,我々が予定より回数を多く現地を訪問することでカバーすることにして観測はスターとした.実際に観測初期には色々な問題が生じることは予想されるので,その方が効率的でもあった.現地での記録は130MバイトのMOディスクに集録することにした.MOディスクの交換は非常に簡単なので,2週間に1度交換し,郵送してもらうことにした.この記録の交換はPATSの先生にお願いすることができた.実際に電話回線がこの学校まで伸び,利用できるようになったのは平成6年1月のことであった.よって,これ以後は最初の予定通り,国際電話を使った地震観測システムが稼働した.観測を進める中で,いくつかの問題が生じた.(1)この国ではまだ停電が多いので無停電装置(通電時にバッテリ-に充電しておき,短い時間であればこれでバックアップする)を準備したが,バックアップ時ははもちろん,充電時にもノイズが出ているようで,我々のシステムを設置した付近のラジオにノイズが入るので止めざるを得なかった.(2)地震観測では精度の良い時刻を必要とする.我々はOMEGA航法システムの電波を使った時計を用意したが,観測システム内のコンピューター等のノイズで受信状態が悪く,時々十分な精度を保つことができなかった.結局,GPS衛星航法システムを使った時計を開発し,これを使った.このような改良を加えることによって,PATSでは良好な観測ができるようになった.この観測点は大変興味深い場所にある.北側のマリアナ諸島に起こる地震は,地球上で最古のプレート(太平洋プレートの西の端で1億6千万年前)だけを伝播してきて観測される.一方,ソロモン諸島など南から来る地震波はオントンジャワ海台と言われる,海底の溶岩台地からなる厚い地殻地帯を通ってくる.両方とも地震波はほとんどその地域だけを通ってくるので,地殻構造を求めるにも,複雑な手続きはいらない.これまでにも,これらの地域での地殻構造に関する研究は断片的にはあるが,上部マントルに至るまでの総合的な研究はまだ無い.マリアナ地域で起こった地震で,PATSで観測された地震の長周期表面波(レーリー波)の群速度を求めると,非常に速く,Michell and Yu(1980)が求めた1億年以上のプレートでの表面波の速度よりさらに速い.このレーリー波の群速度の分散曲線から地下構造を求めてみると,ここには100kmを越える厚さのプレートが存在することが分かった.一方,オントンジャワ海台を通るレーリー波の群速度は,異常に遅く,特に短周期側で顕著である.この分散曲線から地下構造を求めると,海洋にも関わらず30kmもの厚い地殻が存在することになる.これは,前に述べたように,広大な海底の溶岩台地の広がりを示唆する.同様のことは地震のP波初動の到着時間の標準走時からの差にも現れている.すなわち,マリアナ海盆を伝播したP波初動は標準走時より3〜4秒速く,オントンジャワ海台をとおる波は2〜3秒遅い.この観測では沢山の地震が記録されており,解析はまだ十分に進んでいない.ここに示した結果は,ごく一部の解析結果であり,さらに詳しい解析を進める予定である.
著者
加藤 和夫 志子田 有光 加藤 和夫 佐々木 整
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

研究計画に基づき、システムの構築、教材の作製を行い、実技教育を行う授業において2年間のデータをサーバに蓄積し、時系列分析を行った。これらの内容を論文(投稿中を含む)にまとめ、国内外の学会、研究会で報告した。その結果オープンソースLMSを大規模実習室に導入することでコストを軽減できるほか、柔軟な進捗分析を行うことができ、教育支援システムとして有効であることが確認された。
著者
鈴木 賢士
出版者
山口大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

梅雨や台風によりもたらされる集中豪雨は災害の防止・軽減という点からその予測は重要である。しかし、集中豪雨は短時間で狭い領域に大量の雨をもたらすため既存の観測網では捉えることが難しく、そのためその雲内での水の集中化メカニズムの理解は重要な課題となったままである。本研究では狭い領域をできるだけ密な地上観測網で捉えることが出来るようになることを目指して安価でかつ簡易的な観測機器の開発を目的に簡易雨滴粒径分析計の開発を行い、それを用いて観測研究を行った。今年度は昨年度開発・製作した簡易雨滴計のプロトタイプを小型・軽量化し、さらに将来の地上気象観測網の構築を念頭に地上気象観測ステーションに組み込むことを試みた。既存の気象観測ステーションと組み合わせることにより雨滴粒径分布のほか気温、湿度、気圧、風向風速、雨量といった一般気象データも同時に観測ができる。また、この雨量計からの電気信号を受けて雨滴粒径分析計の計測を開始・終了できるようにしたことで観測の無人化が可能になった。このシステムにより得られるデータは一般気象データに関してはデータロガーにより10分ごとの測定で約2週間の連続観測が可能である。雨滴粒径データは改良型ではデータの記録方法を2通りにし、1つは昨年度と同様のビデオによる映像の録画、もう1つは赤外線センサーを雨滴が横切る際の電気信号の変化を電圧としてデータロガーに記録する方法である。前者は解析に時間がかかるが実際の粒子を見ることが出来、後者はデータを簡単に処理できるという長所をもっておりこれらの組み合わせにより効率よい観測・解析が出来るようになった。将来的にはこのシステムを狭い領域で多地点に設置することで、集中豪雨における雨滴形成(降雨形成)の平面的な観測が可能になる。さらにレーダー等のリモートセンシングと組み合わせることで立体的な構造の理解に役立つであろうと期待される。本研究で開発した簡易雨滴粒径分析計を用いて昨年秋に山口を直撃した台風18号からの降水を観測した。また、鳥取大学乾燥地研究センターにおいて冬季日本海側に発達する雪雲からの降水、さらに山口大学において梅雨前線に伴う降水システムからの降水の観測を行った。台風18号に関する成果については第13回国際雲・降水学会において発表された。これらの観測はそれぞれ雲形成メカニズムの異なる雲からの降水の観測で、これらの観測結果を比較すると、一般に雨滴粒径分布はN=N_0exp(-λD)で表されるが、台風の場合は大量の雨をもたらす割に分布の傾きλがそれほど変化しないことがわかり、前線や低気圧に伴う降水とは異なる性質を持っていることが明らかになった。レーダーデータ等との関連を詳しく調べる必要があるが、非常に興味深い結果であり、本研究で開発された簡易雨滴粒径分析計が十分に利用可能であることが確かめられた。
著者
金古 喜代治 大山 龍一郎
出版者
九州東海大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

平成5年と平成6年度の2ヶ年間において,6.6kV級の高圧CVケーブルの絶縁劣化診断エキスパートシステムの構築とシステムの実用化に関して研究を行った。本システムは,メインプログラムがC言語で記述され,推論部分はAI用のコンパイラ言語OPS83の後ろ向き推論を採用し,絶縁特性値による推論過程にはファジィ推論を用いている。当初は停電試験による絶縁特性値を用いて絶縁診断を実行するプロトタイプのエキスパートシステムを構築して,専門家による絶縁診断結果に対してかなり良好な診断が可能であった。しかしながら,停電試験を実施するには長時間を要し,その間は系統を停止する必要があることと,絶縁特性値のみで劣化診断を行うということはトレンド管理の面から好ましいことではない。そこで,この欠点を補うために劣化状態の目視観察についての知識ベースを専門家からヒアリングを行って確立し,診断精度を向上させた。また,活線状態でシステムが応用できるように,活線絶縁抵抗値と活線シース絶縁抵抗値により絶縁診断を実行できるようにシステムのプログラムを変更した。ケーブルの製造形式や布設条件,布設年数によっても絶縁の劣化状態が異なるために,これらの劣化基準を考慮してシステムをこうちくした。その結果,本エキスパートシステムを用いて絶縁診断結果は,専門家により判定した診断に比較して84%の確度で一致するというシステム評価結果を得ることができた。さらに,測定値を入力してシステムを稼働させるのではなく,自動的に常時診断とトレンド管理を可能にするために,(株)フジクラの好意により同社製の活線絶縁診断装置にGP-IBケーブルを介してデータを自動入力できるように,エキスパートシステムを改良した。このように,実用化したシステムを実系統において確認するために,ある工場に布設されている6系統の稼働ケーブルを使用して実用化試験を実施して完成させた。
著者
秋月 有紀
出版者
富山大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

首都圏および大阪都市圏で建設件数が急増している地下大規模空間に対する火災安全設計手法の開発が急がれている。そこで京都大学防災研究所田中哮義教授と共同研究を行い、昨年実験で収集したデータに基づき、火災時に発生する視環境の低下(停電や火災煙による視野輝度の減衰)を避難者の視力に換算し、取扱が容易な指数関数を用いて避難者の歩行速度および避難時心理状態を予測するモデル式を構築した。この成果はアジアオセアニア国際火災会議で報告し、平成20年度に国際火災学会(査読付論文)として対外報告することが決定した。さらにトンネルを模した実大実験空間において燃焼実験を行い、燃焼に伴う空間内温度・風速分布の測定に合わせて視野輝度分布の経時変化を測定した。トンネル内の温度分布実測値は、既存の二層ゾーンモデルを発展させた多層ゾーンモデルの予測値とよく対応したが、視野輝度分布は取扱が容易な二層ゾーンモデルで十分説明できることを確認した。関西大学原直也准教授および前出田中教授との共同研究において、閉空間の床面照度簡易予測モデルを構築し、実在する地下街駐車場での車両火災を例にシミュレーションを行った結果を、国際照明学会で報告した。また避難誘導灯や非常口サインなどの避難誘導ツールの実態把握を行うにあたり、前出田中教授・摂南大学岩田三千子教授・同志社女子大学奥田紫乃講師と共同研究を行い、効率的なサイン設置状況の把握方法について調査データに基づき検討し、成果を平成20年度建築学会(査読付論文)および国際色彩学会で報告する予定である。さらに照明学会屋外防災照明調査研究委員会の委員として東南海地震対策に熱心に取り組んでいる和歌山県・静岡県の夜間屋外照明の災害時対応について行政ヒアリングを行い、前年度に調査した四国の結果と合わせて年度末に開催されたシンポジウムで地方自治体の夜間避難対策の現状について報告した。
著者
土井 悦四郎 小林 猛 久保田 清 河村 幸雄 上野川 修一 松野 隆一
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1991

本研究班は2グループよりなる。1のグループは、化学工学的手法を用いて研究を行い、2のグループは、分子論的手法を用いて、研究し、両者の討論により研究を進めてきた。1のグループは、食品のマイクロ波加熱を、速度論的に解析する手法を開発し、エクストルージョンクッキング、高周波処理による水分収着挙動を熱力学関数による解析を行った(久保田)。高度不飽和脂肪酸の包括、粉末化による酸化抑制効果を包括剤としてマルトデキストリン、プルラン、カゼインナトリウウム、及びゼラチンを使用し、酸素透過速度により評価した。そして拡散速度が、膜の含水率に依存する事を見いだした(松野)水/油/乳化剤の三成分よりなるW/O/W型エマルシヨンについて分散小胞粒子の水透過性、ゼーター電位に及ぼす小糖類の影響を詳細に調べた(松本)。2のグループは、モノクローナル抗体を用いて、β-ラクトグロブリンの変性構造の中間状態における立体配置を検出することに成功した(上野川)。α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンの混合系あるいは他のタンパク質の加熱ゲルの構造と、ゲル形成機構を明らかにした。大豆タンパク質の加工特性並びに生理機能(抗高血圧症)の分子機構を検討した(河村)。卵白アルブミン、血清アルブミン、リゾチームなどの各種食品タンパク質の加熱ゲル形成過程を詳細に検討し、普遍性のあるゲル網目構造の形成機構に関するモデルを構築し、その妥当性を証明した(土井、中村)。1と2のグループの結果を総合して食品物性の分子論的知見と化学工学的手法による結果の矛盾点を討論し、食品物性研究の新しい方向を見いだした。以上の結果は今後のわが国の食品科学研究にたいして新しい方向を与え、食品製造、加工の実用面にも大いに貢献するものである。
著者
赤江 剛夫 諸泉 利嗣 守田 秀則 石黒 宗秀 濱田 浩正 濱田 浩正
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

(1)インド洋津波による農地海水被曝事例を調査した。衛星画像と地形情報を用いて被害域を推定する方法を提案した。(2)現地除塩枠試験により、海水被曝地の除塩方法として湛水リーチング法が最も効果的であることを見出した。(3)湛水リーチングによる除塩用水量を評価する除塩特性指標を提案し、その有用性をカラム実験と数値シミュレーションで確認した。(4)除塩特性指標を対象地域にマッピングし、人為的な除塩必要性を判定した。(5)沿岸低平農地の除塩のための最適用水配分の策定法を開発した。
著者
米道 学
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

(目的)房総半島には他の地域から隔離されたヒメコマツ個体群が分布されているが1970年以降マツ材線虫病によってよって急激に個体数を減少させている。1960年代には房総半島には10,000本以上のヒメコマツが生存していたと推定されているがマツ材線虫病等により現在100本以下となった。生存個体はある程度マツ材線虫病に抵抗性を持つ可能性がある。千葉演習林では、保全の一環として実生と接ぎ木による増殖を行っている。今回、実生苗木でマツ材線虫を接種して材線虫抵抗性の検証を行った。また、接ぎ木の成功率が高くないことから挿し木による増殖を試みた。(方法)人工林由来の前沢6号(9本)・前沢9号(17本)・天然林由来の西ノ沢7号(31本)の実生苗木(3家系)で強病原力材線虫(Ka-4)を接種(5,000頭/本)した。対照として千葉演習林抵抗性アカマツ実生苗木(1家系20本)・感受性アカマツ苗木(1家系19本)にも同様に接種を行った。挿し木は、実生苗木の2家系(各40本合計80本)と接木クローン1家系(20本)で行った。挿し床はプランターに鹿沼土を敷き床とした。全プランターはビニール袋に入れて密閉状態とした。密閉状態のプランターの置き場所はビニールハウス内とした。プランターの半分で温床マット(実生各20本合計40本・接木各10本)を敷き半分を露地(実生各20本合計40本・接木10本)とした。さし穂は全て発根促進のためIBA0.4%を5秒間浸漬した。(結果と考察)材線虫を接種した人工林由来(2家系)の枯死率35~56%、天然林由来(1家系)の枯死率の枯死率が55%で対照として接種した抵抗性アカマツの15%より高く感受性アカマツ74%より低い結果となった。ヒメコマツ苗木の抵抗性は抵抗性アカマツと感受性アカマツの中間程度の抵抗性が示唆された。今後、家系数を増やして接種を行い抵抗性の検証をする必要性があろう。挿し木では接木の穂を挿し付けた個体では発根が無く、実生由来の穂を挿し付けた2家系で発根が確認されたが、大半が枯死していた。発根率が温床有りで30~35%、露地で35~45%であった。今回の発根率からヒメコマツの挿し木は可能であろうが、苗の大半が枯死したことから発根後の養苗が課題となった。
著者
塩崎 修志
出版者
大阪府立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

実験1.ポリアミンの処理方法の検討 塩基態および塩酸塩態ポリアミンの花振るい抑制における効果の差違を検討したところ,プトレッシンとスペルミジンでは効果に差違は無かったが,スペルミンは塩酸塩態の方が抑制効果は高かった.巨峰を用いて,プトレッシン,スペルミジンおよびスペルミンの2種あるいは全てを混用して花振るいに及ぼす影響を調査したところ,いずれの組み合わせにおいても着粒率は増加せず,果粒重量にも影響しなかった.また,茎葉を含め花房にポリアミンを噴霧処理した場合においても,巨峰の着粒は処理により促進されなかった.実験2.ポリアミンがブドウのエチレン代謝に及ぼす影響 ブドウの葉を用いて,試験管内での葉からのエチレン放出に及ぼすポリアミン処理の影響を調査したところ,塩基態ポリアミンは有意に葉からのエチレン発生を抑制した.また,抑制効果はスペルミジンとスペルミンでは3mMの濃度で高かったのに対してプトレッシンは5mMの濃度で高く,エチレン発生抑制効果の最適濃度がそれぞれ異なることが明らかとなった.花房にプトレッシンを処理した場合においても,花房からのエチレン発生は有意に抑制された.なお,果粒中のエチレンの前駆体であるアミノサイクロプロパン1カルボン酸は常法では分析できなかった.ブドウ果粒には分析を妨げる供雑物が多く含まれるため,これらの供雑物を除くことのできる新たな手法が必要であると考えられる.実験3.ブドウ花粉の発芽に及ぼすポリアミンの影響 デラウェアと巨峰の花粉を用いて,試験管内での花粉発芽におけるポリアミンの影響を調査したところ,巨峰においてはポリアミンは花粉発芽に影響しなかったが,巨峰に比べ花粉稔性の低いデラウェアでは培地へプトレッシン処理により花粉発芽が促進された.また,高温下や発芽に必要なホウ酸無添加培地上での花粉の発芽に対しても培地へのポリアミン添加は発芽を促した.また,開花前にポリアミンを処理した花から採取した花粉は無処理花粉に比べて発芽率は高かった.以上から,落果を助長するエチレンの発生抑制と花粉発芽促進による受精促進がポリアミンによるブドウの着粒促進効果の要因と推察された.
著者
樋口 昭 蒲生 郷昭 中野 照男 増山 賢治 山本 宏子 細井 尚子
出版者
創造学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、2003年度から2005年度までの3年間、中国新彊ウイグル自治区において、フィードワークを行った。この地域の主要民族であるウイグル族の音楽を楽器に焦点を当て、調査・研究をおこない、あわせて、この地域は、今日、イスラム教を信仰するウイグル族などの人たちが生活を営むが、シルクロード交流の最盛期は、佛教王国が繁栄していたので、このふたつの時代の音楽は、何らかの影響関係にあったかを着眼点のひとつとして、この地域の過去と現在の音楽を調査した。佛教時代の音楽に関しては、この地域の残る石窟の壁画に描かれた音楽描写を調査した。調査した石窟は、キジル、クムトラ、キジルガハ、ベゼクリク、トヨクの各千仏洞であった。,これらの石窟に描かれる音楽は、楽器が多く、それらの楽器の形態の比較研究を行い、当時の音楽状況を探った。今日のウイグル族の音楽も同様に楽器に焦点を当てて、楽器の形態、製造工程、演奏法などを中心に、ウイグル族の楽器データを収集した。調査した楽器は、ラワップ、ドッタル、タンブル、ギジェク、サタール、ホシタル、シャフタール、チャン、カールン、ダップ、ナグラ、タシ、サパイ、ネイ、スルナイ、バリマンであった。これらの楽器について今日の形態を調査し、地域差、楽器改良による材質や形の変化をたどり、楽器がウイグル族の人たちのなかで、いかに扱われ、変遷を経たか考察した。この地域の楽器は、今日も改良を重ね、新しい楽器を考案続けている。蛇皮の使用が良い例である。これを用いはじめたのは新しい。改良や材質の変化、新楽器の考案は、つねに新しい音楽表現と結びついている。ウイグル族の最高音楽芸術である12ムカムの演奏が楽器を中心とする音楽文化の頂点にあり、そこに向かって、楽器は変容を重ねているのである。なお、佛教時代と今日のムカムに至る楽器文化には、直接の関係は見いだせず、佛教時代の楽器は、中国(漢族)、朝鮮半島、日本へと繋がる雅楽の楽器として位置づけられる。
著者
今川 真治
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は, 幼児・児童・生徒および学生を受け入れているグループホームや高齢者福祉施設において, これら若年者との交流が, 入居している認知症高齢者にどのような影響を与えうるのかを,高齢者の行動を分析することによって検証することを目的とした。若年者の適度で穏やかな関わりかけは, 認知症高齢者に肯定的な感情を惹起したと思われたが, 認知症度が重度である場合には, 交流に対する忌避的な行動が生起しやすかった。