著者
大塚 英作 平野 雅章 古門 麻貴 田名部 元成 橋本 雅隆 松井 美樹
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

電子商取引の本格化によって新しいビジネスモデルが提唱され、これを実現するためのサプライチェーン・マネジメントのあり方が議論されはじめている。海外の事例としてウォルマートを、国内の事例として株式会社しまむらを取りあげ、小売業態を起点とするサプライチェーンにおけるロジスティクス・ネットワークの構造とオペレーションについて検討した結果、小売業態を起点としたサプライチェーンに、構造上・オペレーション上の特長を見出すことが出来、中間流通における物流機能の高度化は、小売業態の設計の中に組み込まれてはじめて可能になることが理解された。サプライチェーンの革新的効率化の道具として注目されているRFID(無線タグ)についても広範なサーベイを行い、その問題点、技術的課題、応用可能性などについて検討を行った。また、伝統的な企業(ブリック&モルタル)が情報技術をフルに活用する企業(クリック&モルタル)に移行(「ネットトランジション」と呼びます)するには、単にホウムペイジを作成すればよいわけではなく、企業がおかれた競争環境の他に企業自身の組織能力を見極め、自社の優位性を活かし不利をカヴァーするような、戦略と一体となった情報システムの使い方を編み出すとともに、一旦設定された戦略と情報システムの組み合わせも、競争環境や技術の変化に対応して見直していく必要もあるわけであるが、本研究では、既存企業が戦略的に情報システムを活用するためのネットトランジションの戦略パターンおよびネットトランジションに必要な組織能力・ネットトランジションプロセスのマネジメントのあり方について検討した。これらの成果を実験的に検証するためのシミュレーターとしてビジネスゲームを構築した。さらに、本研究では、これからの企業情報システムとして期待されるERPサーバーを実際に稼動させ、その可能性や操作性、新しいビジネスモデルやサプライチェーンへの応用などについて経験を積むことが出来た。
著者
秋元 英一 須藤 功 村山 祐三 地主 敏樹 加藤 一誠 佐藤 千登勢 山本 明代 久田 由佳子 原口 弥生 橋川 健竜 篠原 総一 篠原 総一
出版者
帝京平成大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ニュー・エコノミーと呼ばれる情報技術革命とグローバリゼーションを基盤とした経済システムのパターンは1990年代以降のアメリカに典型的に見られたが、それの進展の内的メカニズムと労働、金融、テクノロジーを含む経済的、歴史的諸側面を解明し、国際シンポジウムを開催し、内外研究者の交流を図ると同時に、その成果を千葉大学公共センターの英文ジャーナルに全面的に公表した。
著者
松原 孝俊 稲葉 継雄 出水 薫 原 智弘
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究プロジェクトの成果の一つは「『敗戦国』ニッポンに帰りたくなかった日本人」の検討を踏まえて、「在朝内地人」という作業仮説を提出し、「内地」の日本人とは異なるタイプの「外地」型日本人が出現していたと論じた。もう一つは「帝国日本が崩壊した直後の、米軍政庁による統治が始まるまでの『真空』地帯となった時期の朝鮮半島の歴史的考察」において、いかなる政治的メカニズムが作用し、いかなる社会的秩序が崩壊し、いかなる金融システムが機能不全に陥り、いかにして警察権・裁判権が移譲されていったかなどを、引揚者らに対するオールヒストリー調査を活用して、文字資料に顕在化しない事実の解明に努めたことである。
著者
城田 愛
出版者
大分県立芸術文化短期大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

下記のとおり調査・研究をおこない、これまでに得られたデータをもとに、以下の口頭発表にて、成果の一部を報告した。1 琉球大学移民研究センターおよびWorldwide Uchinanchu Business Association共催「Worldwide Uchinanchu Business Association第9回世界大会in関西」における「移民会議」のワークショップ「在日ウチナーンチュのアイデンティティ」「大阪沖縄系三世の視点・始点からFrom the」(Starting) Point of An Osaka-born Sansei Uchinanchu」平成17年4月6日、スイスホテル南海大阪2 北海道調査(5月20日〜23日)(1)北海道開拓記念館・開拓村の調査(2)日本文化人類学会の第39回研究大会に参加した。(3)アイヌ民族博物館の調査を実施した。3 沖縄調査(5月27日〜31日)(1)国際交流基金・琉球大学の招聘で来日中のハワイ生まれの沖縄系二世の作家について、移民に関する作品執筆調査等に関するインタビューに応じてもらった。(2)第二次世界大戦前、ハワイ移民し帰郷した移住者に関する聞き取り、およびテニアンへ移住し、戦後に引き上げした本人の移住に関するライフヒストリーの聞取り調査をおこなった。(3)上記(1)の二世が琉球大学のアメリカ文学の授業での「Lucky Come Hawaii」(1965年アメリカで出版)に関する特別講演、その後、作品および作家本人や家族のライフヒストリーに関する調査を実施した。4 横浜調査(6月17日〜19日)6月17日には、JICA海外移住資料館における館内でのボランティア活動、研究、各種事業に関して、当館の研究員たちにインタビューを行った。また、常設展示の内容に関する調査を実施した。6月18日には、ハワイ大学マノア校夏期特別授業社会学部人類学部共通科目"Okinawans Locally and Globally" Tour-Summer 2005の当館見学に関する参与観察を行い、当スタディ・ツアーの参加者に当館の展示に関する筆記アンケートに応じてもらい、数人にはインタビュー調査を実施した。また、鶴見沖縄県人会館に移動後、鶴見沖縄県人会会計部長・川崎沖縄芸能研究会副会長仲宗根嘉氏に、沖縄県からの移住に関するご本人の来歴および鶴見地区在住の沖縄系移住者たちの活動等に関するインタビューを行った。5 沖縄調査(6月22日〜29日)ハワイ大学マノア校夏期特別授業社会学部人類学部共通科目"Okinawans Locally and Globally" Tourに同行し、(1)沖縄県立平和祈念資料館、(2)沖縄県立博物館、(3)南風原文化センター、(4)琉球大学移民研究センター、(5)読谷村立歴史民俗資料館、(6)石川市立歴史民俗資料館、(7)旧海軍司令部壕資料館、(8)沖縄県立図書館、(9)沖縄県公文書館において調査を実施した。6/23は上記(1)常設展中の「国策移民」等、6/24は(2)常設展中の海外移住に関する展示、(3)常設展中の「移民」のコーナー等に関する調査を実施し、また(4)にて、ハワイ大学と琉球大学移民研究センターおよびアメリカ研究センターの教員・学生たちとのワークショップに参加した。6/25は(5)と(6)の沖縄の民俗に関する展示に対してハワイからの沖縄系移民たちにインタビューを実施した。6/26は(1)と(7)における沖縄戦に関する展示の調査、6/27〜6/29は(8)と(9)において沖縄からの移民に関する沖縄県および琉球政府関連の書類、新聞記事、雑誌『雄飛』、移民の展示に関する論文等の調査、複写入手を行った。6 博士学位論文(平成18年3月22日提出)これまでの研究成果の一部を、博士学位論文「エイサーにみるオキナワンたちのアイデンティティ:ハワイ沖縄系移民たちにみる『つながり』の創出」としてまとめ、京都大学大学院人間・環境学研究科に提出し、現在、審査中である。
著者
安室 憲一
出版者
神戸商科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

日本の経済団体を中心に「図書・資料センター」を調査し、基礎資料の発見と体系化を試みたが、戦後の日本の法人外交に関して基礎資料がなく、論議や交渉の過程を記録したアーカイブが存在しないことが判った。経済外交に関する資料の収集や整理が体系化されていないことは国家的損失といえる。アンケート調査により、9.11同時多発テロの後に日本の代表的多国籍企業が、どのような世界認識をもち、どのようなリスク対応戦略をとっているかを明らかにした。主な発見史実は、日本企業の世界認知が多様化していること。国益(日本人の雇用を守ることと定義)から離反せざるを得ない企業が相当数あった。日本企業は、国益と企業益が一致する「貿易立国」から、国益から企業益が自立する「グローバル」段階に達したようである。自立した企業は企業益を守るために「法人外交」の意識と組織を持ちはじめている。とくに東京以外の地域に立地する中堅規模の企業に、外務省に頼らない「法人外交」への志向性が強く見られた。海外でのヒアリング調査では、EU、米国、中国、東南アジアを訪問した。同時多発テロ以降の米国における経営環境については、ハーバード大学のジョーンズ教授(Geoffrey Jones)と議論し、今後の研究協力を約束した。現地調査では、松下電器産業の欧州、北米、アジア統括本社、その他多数の日系企業をヒアリングした。ヒアリングの結果、日系企業では進出先国の中央政府を意識した外交から、地方政府・地域社会をパートナーとした「地域外交」へと比重がシフトしていること。「地域」が独自性をもつことにより、「国家」を経由せずに、グローバルなリンケージを形成しつつあること。そのグローバル・リンケージの有力な手段として、日系子会社や地域統括本社が地域に貢献し始めていることを見出した。以上の研究成果を纏めて、近日中に著書として公刊する予定である。
著者
高橋 明善 古城 利明 若林 敬子 大内 雅利 黒柳 晴夫 桑原 政則
出版者
東京国際大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

一 研究課題1 日米特別行動委員会(SACO)合意に基づく沖縄の基地返還・移設、跡地利用に関する研究(1)名護市における基地移設・ジュゴン保護と住民運動。(2)普天間飛行場移設問題の政治過程。(3)読谷飛行場の返還と跡地利用計画に関して1996年のSACO合意以来の経過を追跡研究した。2 基地引き受けの代替として進められる地域振興策と内発的振興の研究を次の場面で実施した。(1)基地移設に関する日米SACO合意の実施過程。(2)移設先並びに沖縄北部振興(3)読谷飛行場跡地利用 (4)普天間飛行場跡地利用 (5)環境保全と観光開発3 沖縄を中心とする国際交流の研究。沖縄の持つ国際性を移民社会と歴史研究の中で検討した。(1)中国と沖縄の歴史的交流の研究 (2)ブラジルにおける沖縄文化 (3)歴史の中の沖縄とアジア二 研究上の留意点と得られた成果主要研究テーマである基地の返還・移設問題に関して次のような問題を特に重視した。(1)沖縄の戦略的位置づけの変化による米軍再編と基地負担軽減問題。(2)移設元の普天間基地所属の沖縄国際大学への落下、騒音、婦女暴行、危険な訓練実施などの基地被害、基地災害がもたらす基地批判世論の盛り上がり。(3)普天間基地の名護市移設がもたらす環境破壊に反対する運動の国際的拡がり。(4)知事先頭の日米地位協定改定要求運動。(5)以上の結果としてもたらされた普天間基地移設見直しと日米政府の政策転換。(6)普天間基地移設をめぐる政治過程と跡地利用問題。(7)読谷飛行場の返還と跡地利用計画の進展。得られた最も重要な知見は次の2点にある。(1)環境保全への配慮なくしては基地問題の処理も、地域振興も不可能であるほどに環境問題が地城政策の実施にとって根本的な重要性をもつにいたった。(2)沖縄の基地の存在と基地政策は、日米政府による世界最強のシステムが作り出したものである。しかし、そのシステム世界も住民の生活世界からの抵抗を受けることにより、政策を調整・譲歩せざるを得なくなったという重要な帰結がもたらされた。ふたつの世界の葛藤のダイナミズムの研究を通して歴史変動への想像力を拡大することができた。
著者
井上 達紀
出版者
早稲田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

インターネット上のB2Cショッピングサイト、そのトップページ(HTMLとして書かれた文字情報)を収集し、ショッピングサイトと定義づけられるキーワードを抽出した。抽出したキーワードは、おおまかに、検索・商品紹介・カート・量・ログイン・発注決済配送・カスタマサービスに関する説明・運営会社に関する説明・法的な説明・ユーザナビゲーション・コミュニティ、へと分類される。得られたキーワードは英語・フランス語・韓国語・ベトナム語・中国語(繁体字と簡体字)に翻訳した。また、その翻訳者から該当するキーワードがネイティブなショッピングサイトで使われているかどうかの意見を得た。多言語への切り替え機能に関しては、日本発の多言語に切り替えることのできるB2Cショッピングサイトは、ユニクロ・無印といった多国展開しているグローバル企業以外は、あっても日英のみであり、3ヵ国以上の切り替えはほとんどみあたらなかった。英・中・韓・仏・越のうち、日英の次に多い多言語B2Cサイトは日中であった。また、他国語のページは、日本語のサイトがそのまま翻訳されたものではなく、むしろ、各国向けにローカライズされたものがほとんどであった。本調査研究により、インターネット上のB2Cショップが提供しているショッピング機能を、自動巡回ソフトによる蓄積された文字情報をもとに数量化・統計情報化する礎を構築できたと考えている。
著者
田中 きく代 阿河 雄二郎 竹中 興慈 横山 良 金澤 周作 佐保 吉一 田和 正孝 山 泰幸 鈴木 七美 中谷 功治 辻本 庸子 濱口 忠大 笠井 俊和
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、海域史の視点から18・19世紀に北大西洋に出現するワールドの構造に、文化的次元から切り込み、そこにみられた諸関係を全体として捉えるものである。海洋だけでなく、海と陸の境界の地域に、海からのまなざしを照射することで、そこに国家的な枠組みを超えた新たな共時性を映し出せるのではないか。また、海洋を渡る様々なネットワークや結節点に、境界域の小さな共同体を結びつけていくことも可能ではないか。このような着想で、共同の研究会を持ち、各々が現地調査に出た。また、最終年度に、新たなアトランティック・ヒストリーの可能性を模索する国際海洋シンポジウム「海洋ネットワークから捉える大西洋海域史」を開催した。なお、田中きく代、関西学院大学出版会、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B)研究成果報告書『18・19世紀北大西洋海域における文化空間の解体と再生-「境界域」の視点から-』を、報告書として刊行している。
著者
内田 耕一 寺井 崇二 山本 直樹 飯塚 徳男 坂井田 功
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

我々は漢方薬・防風通聖散(TJ-62)および大柴胡湯(TJ-8)の非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に対する治療効果の検討のため、ラットコリン欠乏性脂肪性肝炎・肝硬変モデルを用いて実験を行なった。防風通聖散投与群および大柴胡湯投与群は肝線維化を有意に改善した。肝星細胞の活性化を有意に抑制した。また肝発癌については前癌性病変のマーカーであるGSTP蛋白の発現が、防風通聖散投与群と大柴胡湯投与群では有意に抑制した。これらの漢方薬での結果を2008年11月米国、サンフランシスコで開催された第95回アメリカ肝臓病学会でそれぞれ発表した。
著者
後藤田 貴子
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究はシンナーを吸引する人における肝障害について検討することである.トルエン序在下で培養したヒト肝癌細胞で障害が認められ,トルエンを吸入させたラットの肝臓でも障害が認められた.また,ラットのトルエン吸入群で肝線維化が認められ,肝線維化に影響を及ぼす因子も増加していた,よって,トルエンが直接,肝細胞の障害を引き起こし,さらに,トルエン吸入により肝線維化に影響を及ぼす因子が活性化することにより,肝」臓に線維化をもたらす可能性が示唆された.
著者
田口 真 吉田 和哉 中西 洋喜 高橋 幸弘 坂野井 健
出版者
国立極地研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

惑星大気・プラズマの光学的リモートセンシングを目的とした気球搭載望遠鏡システムを開発した。アルミ角材で構成されるゴンドラを設計・製作した。望遠鏡、太陽電池パネル、PC及び高圧電源を収納する気密容器、ジャイロ(CMG)を収納する防水容器、デカップリング機構がゴンドラに取り付けられる。CMGとデカップリング機構の制御によって、目標精度である約0.2°でゴンドラの姿勢を制御できることが確認された。望遠鏡の光路を波長帯で分け、中心波長400nm及び900nmのバンドパスフィルターを通して別々のCCDビデオカメラで撮像する。経緯台制御によって星像を約0.01°の精度で追尾できることを実験で確認した。望遠鏡視野に天体を捉えたのちは、星像位置検出用光電子増倍管からの出力をフィードバックして2軸可動ミラーマウントを制御することで、星像を視野中心に安定化できることを確認した。追尾性能向上のため、サンセンサーの視野をやや広くし、ガイド鏡の視野をやや狭くする改良を施した。ゴンドラ重量は約300kgとなった。電源は太陽電池から約250Wを供給するが、ニッケル水素充電池でノミナル消費電力を2時間まで供給することが可能である。ニッケル水素充電池の低温特性を測定し、性能に問題ないことを確認した。太陽電池と組み合わせた充放電回路を設計・製作した。熱真空試験を実施し、成層圏環境下で問題なく動作することを確認した。将来、北極で本格的な実験を実施するための調査として、ESRANGEの気球実験担当者と打ち合わせた。10月には実際にスウェーデン・キルナにある気球実験フィールドを視察した。これまでの開発成果を国際学会や国内学会・シンポジウムで発表した。また成果をまとめてAdv.Geosci.誌に投稿し受理された。
著者
佐藤 博信 松浦 尚志 都築 尊 松永 興昌 片渕 三千綱 生山 隆
出版者
福岡歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

老年性骨粗鬆症モデルマウス(SAMP6)の下顎骨が骨粗鬆症様の骨の性質を有する可能性を組織学的および生化学的に検証した.コントロールマウス(SAMR1)と比べると,SAMP6の下顎骨は骨形態計測学的に骨量が少なく,骨基質の透過型電子顕微鏡像で明らかなコラーゲン線維の狭小化が認められた.両マウスの下顎骨の骨基質の生化学分析によると,その大部分はI型コラーゲンであった.SAMP6の下顎骨は,SAMR1に比べ,基質中のコラーゲン量が少なく,またコラーゲンの翻訳後修飾の一つであるハイドロキシリシンの量が多く認められた.リシンのハイドロキシル化が亢進するとコラーゲン線維の狭小化が起こることが報告されており,SAMP6の下顎骨のコラーゲンに認められるコラーゲン線維の狭小化はおそらくリシンのハイドロキシル化の亢進が関与しているものと推察された.リシンのハイドロキシル化の亢進は,同マウスおよび骨粗鬆症患者の大腿骨でも認められることが報告されており,骨粗霧症の骨質に大きく関与するコラーゲン性状に,コラーゲン翻訳後修飾の一つであるリシンのハイドロキシル化が寄与している可能性が示唆された.本研究の結果から,老年性骨粗鬆症モデルマウスの下顎骨は骨量的にも骨質的にも骨粗鬆症様の性質を有していることが明らかとなった.骨粗鬆症患者の顎骨も量的のみならず質的に低下している可能性が考えられ,今後の臨床研究により骨粗鬆症患者での傾向を明らかにしていくとともに,ゲノム解析による骨質診断法の確立とそれに対応した歯科治療の開発へと発展させていける可能性が見出せた.
著者
野村 新
出版者
大分大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

教育はその国や地域の歴史や伝統など文化の上に構想されねばならない。沖縄には歌や踊り、漆器や織物など豊かな伝統文化があるが、沖縄の教育が本土並の学力の育成を追求するあまり、伝統文化と無関係に学校教育が実践されることが起こりかねない。本研究では具体的な学校教育のなかで、沖縄の民謡や民踊、棒術などを授業や学校行事などに取り入れながら、学力形成の在り方を追究するもので、沖縄の歴史や文化を調査するとともに、浦添市立宮城小学校・宮城幼稚園の教師たちと共同で授業や学校行事などの立案・実践・分析はもとより、研究者自身も授業や身体的表現活動を指導して研究を深めた。特に1992年10月の運動会では、行進や野外劇、創作舞踊など、沖縄の曲やリズムや踊りの「結い回る」や「エーサー」、「カチャシー」を取り入れ、伝統武術の「棒術」などを種目として取り上げた。1993年2月の学芸会にも「エーサ」や「さびら」などの沖縄のリズムと踊りと「沖縄空手」や沖縄の民話「きじむなー」を基盤に、「かさじぞう」を初め「ペルシアの市場にて」や「走れメロス」のオペレッタを上演した。また研究者自身が沖縄をテーマにした150行の叙事詩「不死鳥の如く」を書き、それに梶山正人(千葉経済短期大学教授)が沖縄固有の曲と中国の曲を基調とした作曲をして表現活動の実践させるなど、沖縄の伝統的な唄や踊りのリズムと本土の民話や欧米調の物語や曲想との結合と、歌や身体的表現活動と教科の授業を関連させて学力の育成を試みた。研究の結果、子どもたちに構成・演出・表現などで多面的に追究する思考力や創造性や感性や社会性が育ち、追求力や集中力、持久力や自立心や耐性などの精神的な意志力の形成が顕著にみられ授業や学級活動との相互関連性のなかで学力が充実するなど、伝統文化を教育に生かす方向性をとらえることができた。
著者
紺野 茂樹
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

まず取り組んだのは、「苦しむことを望まない」という、全人類に共通する属性に依拠する、「共苦の連帯」の反対物である、排外主義的民族主義の分析である。集団的な「些細な差異に拘るナルシシズム」(フロイト)に基づく、この排外主義的民族主義は、1930年代から40年代にかけて猛威を振い、冷戦後、世界各地で不死鳥のように蘇った。その最も陰惨な形が、90年代の旧ユーゴやルワンダ等における、そしてイスラエルによる現在進行形の、「民族浄化」である。具体的には、まずは従来から親しんできた、30年代から40年代にかけての『権威と家族』をはじめとするフランクフルト学派とその周辺の思想家達による、ファシズム-ナチズムおよび反ユダヤ主義の分析や、丸山眞男による天皇制軍国主義の分析等を繙き、今日でも学ぶに値する洞察にアクセントを置いて、再構成した。これらの社会心理学的研究で展開されているのは、マルクスの唯物論とフロイト精神分析の総合を目指して行われた、ファシズムの大衆=群衆心理分析である。しかし大いに驚いたのは、この30-40年代の大衆=群衆心理のかなりの部分が、90年代以降の日本のそれも含めた排外主義的民族主義において、反復しているという点であった。更に、他者の苦しみに対する想像力として、これまでのホルクハイマー-ショーペンハウアーにおける「共苦(Mitleid)」に加えて、ルソーにおける「憐れみ(pitie)」やスコットランド啓蒙における「同感(sympathy)」の思想史的・現代的意義と問題性についても、イグナティエフやマルガリートといった、現在存命中の内外の思想家による研究と照らし合わせながら探究した。そして、この過程の中で、これまではあまり視野に入っていなかった、世界人権宣言をはじめとする、人権を国家の枠組みを超えて普遍化しようとする、国際法上の試みにも取り組み始めた。
著者
田中 勝
出版者
豊田工業高等専門学校
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

まちづくりの出発点は住民参加であり、学校や家庭、地域社会などのあらゆる場で適切なまちづくり教育が行われていく必要がある。本研究は、まちづくり教育の先進国である英国を日本のモデルに位置づけ、(1)都市・住宅事情史とその社会的背景、(2)小中学校におけるまちづくり教育の実践と評価の2点について日英比較を行った。研究成果を要約すると、以下の如くである。1.英国のまちづくり教育は自然環境保護に出発し、社会改善運動の歴史の中で都市環境教育をも含めた環境教育の一分野として確率した。特に産業革命後の急速な都市化に対する都市計画の中で、初等教育や社会教育におけるまちづくり教育の意義(プル-デンレポート、スケフィントンレポート)を常に確認していた点が日本とは決定的に異なる。2.英国独自の教育体系とカリキュラムの中でまちづくり教育に関する多様な提案や実験が行われている。レディング大学では環境教育の指導者育成と情報交換を行い、ロンドンのア-バンスタディセンターではコミュニティにおける都市環境教育の拠点として最新の情報提供や教材作成(ア-バントレイル)を行っている。アイアンブリッジに代表されるエコミュージアム手法を用いたまちづくり教育は、小中学生に都市の時間的な変容と空間体験をしてもらう意味で極めて有効であり、わが国でも既存の凍結的博物館施設をエコミュージアムとして再生していくことが望まれる。3.英国に比べて日本の都市・住宅事情は戦後にドラステックな変貌を遂げ、その多様な内容が教育現場で適切に把握されていない状況にある。まちづくり教育は環境教育の中では全く新しい概念であり、現実の都市計画と連動していない点にも問題がある。4.豊田市のまちづくり副読本を作成するために市内小中学校の校歌を収集し、その中から市民の環境イメージとしての都市景観要素(猿投山や矢作川、逢妻川)を抽出した。
著者
中牧 弘允 住原 則也 塩路 有子 澤野 雅彦 廣山 謙介 日置 弘一郎
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

最終年度にあたるため、イギリスでの補足調査を実施するとともに、研究成果のとりまとめをおこなった。報告書には日本語版と英語版を掲載した。(1)宗教共同体に関しては、三井がクエーカ-の企業体であるロウントゥリー(ヨーク)の調査を継続し、クエーカーのダービー家によって創始された製鉄業の象徴的建造物であるアイアンブリッジを訪問した。(2)企業博物館に関しては、中牧、広山がストーク・オン・トレントとバートン・アポン・トレントでそれぞれ陶器業と醸造業の補充調査を実施した。ケリーはバートン・アポン・トレントに合流するとともに、他の醸造業の博物館についても調査を実施した。住原とセジウィックはスコットランドで昨年度着手した蒸留酒のビジターセンターについて補充調査を実施した。廣山、中牧、ヘンドリーはロンドンでウエルカム財団ならびにその資料を展示した大英博物館企画展の調査を実施した。澤野はレディングでハントゥリー&パーマー社の補充調査をおこなった。(3)観光産業の経営文化に関しては、塩路が引き続きコッツウォルズ地域を対象に、とくに陶器をめぐる産業と家庭と関係について補充調査を実施した。(4)マツナガは長期滞日中のため現地調査はおこなわなかったが、報告書の英語版の監修に当たった。(5)日置は勤務校の責務のため、現地調査を実施しなかった。(6)オックスフォード・ブルックス大学でミニ・シンポジウムを開催し、メンバー以外の研究者や学生の参加を得た。
著者
石川 宏之
出版者
横浜国立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

1.研究の背景と目的近年、都市や農村では市街地空洞化や過疎化、少子高齢化など様々な地域課題を抱えている。そうした中、英国では地域再生の手段としてミュージアム活動が用いられている。但し、持続可能なまちづくりを展開させていくには地域住民の協力と行政による支援が不可欠であり、さらに専門家で組織されるNPOなどがミュージアムの運営に関わっていくことが重要である。本研究では、都市にアメニティを与える地域遺産をミュージアム活動により管理運営するための諸要因や諸条件を明らかにすることを目的とする。2.研究方法と調査概要方法として先ずミュージアムの活動経緯から事業手法の特徴を把握し、次に財源及び公的補助金どの関わりから経営方法を捉え、最後に地域遺産を管理運営するための条件を明らかにする。調査対象は、イングランド中西部のシュロップシャー州で活動するアイアンブリッジ・ゴージ・ミュージアム・トラストである。選定理由はチャリティ団体によるインディペンデント・ミュージアムとして独自で資金調達を行ないながら総合的に地域遺産を管理運営しているからである。調査手法として現地を訪れ文献資料を収集し、関係者に対して聴き取り調査を行なった。3.結果ミュージアム活動の視点から地域遺産の管理運営の方法を捉え、以下の2つのことが指摘できた。民間非営利団体のトラストにより都市空間にアメニティを提供する自然や文化・産業などの地域遺産を管理運営することが可能である。但し、それらの公的活動に対して行政機関からの資金援助が必要であることがわかった。ミュージアムの持つ文化・芸術的なイメージは、衰退した地域の環境を一新させ、新たな企業の誘致や観光客を引き寄せる働きもあることがわかった。但し事業を拡大するには安定した自主財源を確保することが重要であり、民間企業並の経営手法のノウハウを取り入れることが必要である。
著者
藤原 兌子
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

骨髄抑制剤(MS:5-FU+CP)+G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)併用療法による梗塞後心機能改善効果とメカニズムの検討を以下の4群のウサギで検討した。(1)骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群:梗塞後1、2日目にMSを静注、梗塞後3日目より5日間G-CSFを皮下注射、(2)G-CSF単独療法群:梗塞後1、2日目に生理食塩水を静注、3日目より5日間G-CSFを皮下注射、(3)MS単独療法群;梗塞後1、2日目にMSを静注、3日目より5日間生理食塩水を投与、(4)非治療梗塞群:梗塞後7日間生理食塩水を投与。結果および考察A)梗塞前および28日後左室駆出率・左室壁厚・左室径は、骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群で、改善が最も良好であった。B)CD^<34>陽性単核球は骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群およびG-CSF単独療法群で高度に増加した。C)共焦点レーザー顕微鏡では、骨髄由来(赤色の蛍光色素DiI陽性)の心筋細胞は骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群でもっとも多かった。しかし、その頻度は骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群でも1-2%程度で、心機能改善効果を説明するには少なすぎた。D)梗塞7日目に摘出した心筋組織のVEGFおよびMMP-1のウエスターンブロット解析では骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群がもっとも多かった。E)梗塞28日目に摘出したモデルウサギ心では左室重量および心筋細胞のサイズに4群間で差がなかった。しかし、陳旧性梗塞領域は非治療梗塞群で最大で、骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群で最小であった。また、CD31陽性毛細血管およびα-平滑筋アクチン陽性筋線維芽細胞数は骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群で最も多かった。以上より、骨髄抑制剤+G-CSF併用療法群での高度の心機能改善効果の成因は骨髄由来の心筋細胞再生よりはMMP等のサイトカインの関与が重要と思われる。
著者
山口 寛二 伊藤 義人
出版者
京都府立医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

肝臓に高発現するDGAT2を抑制することで肝脂肪化は改善されたが線維化は悪化することとなった。一時的な肝脂肪化は、遊離脂肪酸の毒性からの回避を目的に肝保護的に働いていると考えられた。
著者
平野 隆文
出版者
青山学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

1年目は,主に16世紀後半から17世紀初頭に多く刊行された。民衆的な小冊子である『カナール』 (瓦版)を採り上げ,そこに於ける悪魔の表象に関し分析を施した。瓦版の悪魔は,神の敵という側面を希薄にしており,専ら神の「エージェント」として,天の怒りを人間にもたらす存在へと変貌を遂げている。そのため, 「黒衣の男」として登場し,極めて残虐な「肉体的」刑罰を人間に加えている。ある意味で「人間的」な「暴力装置」として機能しており,魂を狙う伝統的な悪魔像は,ほぼ姿を消しているのである。また,医師ジャン・ヴァイヤーの「魔女論」にも分析を施し,この書が従来言われてきたように,魔女狩りの中止を訴えた「人道的」な書であるという固定観念を括弧に括り,その多様な側面を明らかにした。特に,数々のノンフィクションを差し挟んでいる点で,魔女論というジャンルでは,極めて異色な存在であることを明らかにできたと思われる。2年目は,ヴァイヤーの論敵として,常に激しい非難を浴びせた,16世紀後半のユマニスト,ジャン・ボダンの「魔女論」を主に採り上げた。ボダンのこの書は,帰納法的論理学を基に著された,厳密な意味での「論考」であり,魔女撲滅を狙った扇動的な文書であるという定説を覆すことができたと思われる。また,ボダンが,従来異端の範疇に括られていた魔女から,その宗教的な側面を徐々に剥ぎ落とし,刑事犯として裁こうとしている点も明らかにした。ボダンは,魔女の問題を.国家という観点から把握しており,国家を神の怒りから護るために,世俗の裁判権を重視したのである。尚,以上の研究成果は,約2年間に亙る雑誌『ふらんす』での連載(「悪魔のいるルネサンス」)及び1999年3月に東京大学に提出した博士学位論文という形に結実している。