著者
白井 將文
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.335-342, 2002-12-12

わが国では更年期と言えば女性特有なものと言う考えが支配的であるが,男性にも更年期は存在する.ただ女性の更年期に相当する年齢の男性に女性に見られるような症状があるかと言えば必ずしもそうではない.しかしその症状の程度には差こそあれ多くの男性に,倦怠感・不眠・うつ傾向・集中力の低下・性欲の減退・勃起障害(ED)などがみられる.男性の精巣も女性の卵巣と同様加齢と共に機能低下,即ち精子形成能の低下やホルモン分泌能の低下がみられるが女性と違い精子形成は続いているし,男性ホルモン分泌の減少も緩やかで,しかもこれら変化は個人差が大きい.従って出現する症状も女性程激しくなく,個人差も大きい.この男性に見られる各種症状のうち男性にとって最も関心の高いのが性欲の減退とEDである.加齢と共に勃起機能,特に夜間勃起の減少が見られ,年齢と共に男性ホルモンの欠乏に伴うEDも増加してくる.これら症例に男性ホルモン補充療法を行うと勃起力の回復だけでなく,気力や体調の改善も見られる.しかし,前立腺癌の存在を知らずに男性ホルモンを使用すると前立腺癌が発育してしまう危険があるので,ホルモン補充用法前には必ず前立腺癌の無いことを確認すると共にホルモン補充療法中も常に前立腺癌に対するチェックが必要である.また最近EDに対する経口治療薬のバイアグラ[○!R]が加齢に伴うEDにも使用され良好な成績が得られている.これらホルモン補充療法やバイアグラ投与で男性のみを元気にしても,ホルモン補充療法の普及していないわが国の女性の多くは性欲の減退や膣分泌液の減少に伴う性交痛などから性交を希望していないことが考えられ,女性に対するホルモン補充療法や膣分泌液を補う目的のリューブゼリー[○!R]の使用なども考慮しながらEDを治療していく必要がある.
著者
江川 直子
出版者
社会・経済システム学会
雑誌
社会・経済システム (ISSN:09135472)
巻号頁・発行日
no.27, pp.99-105, 2006-10-14

This paper examines Amartya Sen's "human functionings" and "capability". I also discuss the function of Talcott Parsons' "living systems" and his concept of "capability", my purpose is to show that capability in both Sen and Parsons is similar. Asserting that it is impossible to judge "well-being" through an analysis of wealth and its properties alone, Sen advocates considering human functionings. Sen writes : "A functioning is the achievement of a person : what he or she manages to do or to be." Furthermore, what Sen calls "capability" is the total complex of the various combinations of things that a person achieves. Capabilities Sen calls are concretely GNP per person, average life expectancy and literacy adopted as HDI (Human Development Index) by UNDP (United Nations Development Programme). Parsons makes a study of action theory in human throughout. And, he proposes the idea of "generalized symbolic media in interaction". I think that this is an analysis what Pareto calls "residue". Parsons describes the expression of meaningful symbol that constitutes residue as "capability". Then he writes that this capability is the best single criterion of a value element as distinguished from the factors of heredity and environment (Parsons 1937, The Structure of Social Action : 271). Both Sen and Parsons study to start from the theorem of Pareto. I think that Sen deals with capability in concrete, practical manner, while Parsons' capability is an analytical and abstract. Nevertheless, to both of them capability is a criterion for human happiness.
著者
伊藤 祐子 井上 薫 三浦 香織 山田 孝 品川 俊人 米田 隆志
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.164-169, 2006-12-25
参考文献数
5
被引用文献数
1

発達障害児に対する作業療法では,対象児の障害に合わせ様々なアプローチ方法が提唱されている。その一つに感覚統合療法がある。感覚統合療法は,主に学習障害児や自閉症児,自閉傾向児に施行されており,障害の特性に合わせて前庭覚,固有覚,触覚などの感覚刺激を入力できる様々な遊具を使用する。ホーススイングは天井から吊られた遊具で,重力を利用して自在に揺らすことができる。前庭刺激を与えやすく使用頻度の高いもので,平衡反応に問題を持つ児のセラピーに利用することが多い。しかし,平衡反応の改善等の効果は観察による評価が主体であり,定量的評価が難しいのが現状である。そこで,本研究ではホーススイングの揺れをモータで制御し,セラピストの力加減に依存しない一定の刺激を与えられるシステムの開発および,3次元動作解析を用いた平衡反応の定量的評価手法の検討を行ったので報告する。
著者
森 敏生 海野 勇三 丸山 真司 田中 新治郎 中瀬古 哲 中西 匠 石田 智巳 則元 志郎 久保 健
出版者
武蔵野美術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、体育科教育における教授-学習内容の体系化と系統化を活動理論的アプローチから図ろうとしたものである。まず、体育が保障すべきスポーツリテラシーと本質的な学習課題について活動理論を基礎に論究した。水泳、器械運動、陸上、ボールゲームの各運動領域における教授.学習内容の体系化と系統化の試案を示した。その際、各運動領域の文化的特質と技術的特質、技術単位と技術の体系、そして技術指導の系統を実践的妥当性を考慮して示した。
著者
前川 一郎
出版者
創価大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、近年「ジンバブウェ問題」をめぐって先鋭化した「植民地責任」論と、これに対する戦後イギリス政府の対応とに着想を得て、イギリスの脱植民地化政策の特徴を明らかにすることである。本研究を通して、戦後イギリス政府が繰り返した植民地問題終焉論(「植民地支配の責任は終焉した」という言説)は、(1)戦後国際秩序における位置に拘泥されたイギリス政権中枢の国際社会観、その世界観に基づいた脱植民地化政策を反映したものであったこと、(2)それは同時にイギリス統治が植民地にもたらした負の現実やこれをめぐる記憶を封印する側面を伴っていたこと、(3)そうした経緯はそのまま過去に対するイギリス政府特有の歴史認識なり歴史観なりの表れと考えられることなどが明らかにされた。
著者
岡部 孝弘 佐藤 いまり 佐藤 洋一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-パターン処理 (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.88, no.8, pp.1440-1449, 2005-08-01
参考文献数
25

画像を手掛りに光源分布を推定する逆問題はinverse lightingと呼ばれ, 鏡面反射成分, 拡散反射成分, 及び, 影(キャストシャドウ)に基づく三つのアプローチが提案されている. 本研究では, 影に基づく光源推定がなぜうまく働くのかを明らかにするとともに, どのような基底関数が推定に適しているのかについて議論する. まず, 球面調和関数を用いた推定法を提案して周波数空間における解析を行い, 影に基づく光源推定の利点と問題点を明らかにする. 次に, 周波数空間における考察に基づいて, コンパクトなサポートと疎な展開係数をもつHaarウェーブレットを用いた効率的な推定法を提案する. 最後に, 球面調和関数を用いた手法とHaarウェーブレットを用いた手法を比較した実験結果を報告する.
著者
阿曽 正浩
出版者
北見工業大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

この研究では、ソ連崩壊後から1994年末までのロシア連邦における報道の自由の状況を整理した。研究の結果、次のような新たな知見が得られた。1.92年から93年9月ク-デタ-まで ソ連崩壊後、大統領・政府は、改革推進のためにマスメディアを利用しようと圧力をかけていた。マスメディアの中には、これに呼応して大統領側につくもの、虚偽や未確認情報の流布のため多くの訴訟を招くものがでてきた。議会側はこれを口実にして、マスメディア統制を試みた。この間、世論は、偏向報道には不満だったが、政府のマスメディア監督は容認していた。こうして、マスメディアをめぐる大統領・政府と議会との対立の激化自体が、公正な報道を歪める構造を形成していった。2.9月ク-デタ-以後 この対立を終結させたのは大統領のク-デタ-であった。その際、当然報道規制も行われた。その後行われた新議会選挙では、各党派に公正なテレビ宣伝を保障する制度が設けられたが、選挙宣伝の実態は大統領派に有利に運用された。それにもかかわらず、選挙結果は大統領派の期待どおりではなかった。選挙後の報道システムの改革の中で注目すべきものは、情報紛争裁判院である。これは、マスメディアをめぐる個別の紛争を解決するだけでなく、マスメディアを監督する国家機関でもある。この裁判院は、一応公正な判断をしているようだが報道の自由に対して抑制的であること、無責任な報道の是正に一定の効果を期待できるがそれが「上からの」行政的規制になるという点で、二重の意味で両義的である。それは、裁判院が現在のロシアの改革に内在する自己矛盾を体現しているからである。しかし、この両義的な裁判院でさえも、大統領・政府の報道規制への一定の歯止めになりうるというのが、ロシアの報道の自由の現状である。
著者
加藤 晃一
出版者
浜松医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

○研究目的国立情報学研究所「次世代学術基盤共同構築事業・学術機関リポジトリ構築連携支援事業・平成20-21年度委託事業(領域2)」の「ユーザ・コミュニティ構築による持続可能なシステム改善の枠組みの形成」プロジェクトで構築された、機関リポジトリ・ソフトウェア5種類の利用環境を提供するデモサイト(体験サイト)「UsrCom」の利用による未設置機関への影響、利用教育の効果について検証するものである。○研究方法「UsrCom」を利用した登録演習を行った国立情報学研究所の学術ポータル担当者研修(2回)とDRFワークショップ(2回、内1回は主催)で、主催者の協力の下、参加者アンケートの一部を用いて「UsrCom」の利用調査を実施し、分析を行った。また図書館司書課程の授業において「UsrCom」を用いた演習を行った別府大学や「UsrCom」を管理する千葉大学を訪問調査し、デモサイトに必要な機能等について意見聴取を行った。○研究成果利用調査では、研修後の復習や職場内研修等での「UsrCom」の教育効果を認める回答が多数あり、また未設置機関においては導入前のソフトウェア比較・検証のツールとして有効性を認める回答が多数あった。訪問調査では、平成24年度開始の司書課程の新カリキュラムでメタデータ作成演習が必要になることから、演習における「UsrCom」の活用で単位の実質化が期待でき、教育効果も高いとの意見を得た。本研究により機関リポジトリ未設置機関における「UsrCom」の影響力の大きさと利用教育における高い効果が認められた。
著者
黄 盛彬
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、北朝鮮の新聞、放送、映画などのメディアにおいて、「日本」がどのように表現され、認識され構築され続けているのかを詳細に分析することによって、そのような「日本認識」が、北朝鮮の自画像=ナショナル・アイデンティティとは、どのように結ばれているのかを探ることにある。具体的な研究課題としては、第一、北朝鮮の主要なメディアにおける「日本関連表現」を可能な限り収集し、その量的な推移およびそこに表われている認識の変遷を探る、第二、その「日本認識」を鏡とする「自画像=ナショナル・アイデンティティ」の推移、変遷について考察することにある。本年度においては、第一、日本内外の北朝鮮及び日本関連の研究動向をレビューする作業を引き続き展開した。とりわけ、海外において日本論が再び関心を集める中、日本論及び日本イメージの諸研究のレビューを行いながら比較分析に取り組んだ。また、北朝鮮の核実験で世界の関心が集まってきたなかで、ジャーナリズムにおける北朝鮮論にも注目し、幅広く最新の資料を収集した。また、核実験、その後の6者協議に至る過程のなかで、北朝鮮のメディアがどのような日本に関する報道を行っているかについても分析した。第二、昨年度の調査に続き、『労働新聞』の記事分析に取り組んだ。また、日本国内で発行されている『朝鮮新報』も分析対象に加え、日本関連記事を集め、分析作業に取り組んだ。また、関連作業として、NHKと各民放テレビのニュース番組を録画し、内容分析を行っている。昨年度の戦後60年関連の「靖国問題」「反日」をめぐる報道内容の研究及び北朝鮮における報道などとの比較に引き続き、今年度も同様の観点からさまざまな比較分析を試みた。研究成果の公表については、現在、出版の編集作業が進行中であり、2007年度中には公表出来る予定である。また、2007年度中に内外の学会などで積極的に報告を行い、海外の研究者との国際学会でのパネルなども実現したい。
著者
竹内 武昭 矢野 栄二 中尾 睦宏
出版者
帝京大学
巻号頁・発行日
2008

職場でのうつ病スクリーニングの一般性を検討するため,2008年度某企業の健康診断において約600名の男性従業員に対して, DSM-IVの半構造化面接と気分質問調査票(Profile of Mood States:POMSの両方によるうつ病診断を行ったデータクリーニングを行い,不十分なデータを削除したのち592入の男性データを対象データとした。解析では, DSM-IV大うつ・小うつ病診断を基準とし, POMSうつ得点の感度・特異度を調べて受信者操作特性下面積(Area Under the Curve: AUC)を算出(オリジナル)。同様にPOMSうつ質問1項目のAUC(15通り)と大うつ・小うつ病のAUC比較も行った。大うつ病の有病率は,25人(4.2%),小うつ病は27入(4.6%)であった。POMSオリジナル版の大うつ病に対するAUCは0.71,小うつ病に対するAUCは0.63であった。POMSの1項目でみると,大うつ病に対しては"ゆううつだ"のAUCが0.73と最も高く, "あれこれ心配だ"(0.72), "気持ちが沈んで暗い"(0.72)が続いた。小うつ病に対しては"くたびれた"のAUCが0.70と最も高く, "疲れた"(0.69),"ゆううつだ" (0.67)が続いた。面接によるうつ病の診断が質問調査票でもある程度出来るという本研究の結果は,2006年度に我々の発表した論文(Takeuchi T, Nakao M, Yano E. Primary Care & Community Psychiatry 11:13-9, 2006)を他施設で検証し,その一般性の可能性を広げる結果となった。来年度以降の複数施設における自殺予防を目的としたコホート比較検討試験実施の基盤となる意味で重要である。
著者
伊藤浩之
雑誌
研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)
巻号頁・発行日
vol.2010-HCI-136, no.9, pp.1-1, 2010-01-15

近年の生体信号測定技術の進歩に伴い、人の脳活動を記録し、コンピュータが記録データをリアルタイムに判別することで、筋肉を動かすことなく、まさに 「考えるだけで」 外部物理デバイスを操作するという技術が注目を集めている。これは、昔から 「念力カーソル」 として噂されてきた技術であり、攻殻機動隊やマトリックスなどの SF で描かれている世界へとつながる一歩であるとイメージすると分かり易い。脳神経科学と工学 (コンピュータ、ロボティクスなど) を融合させるこれらの試みは、ブレイン・マシン・インタフェースやブレイン・コンピュータ・インタフェースと呼ばれている。講演では、この新奇な研究分野の簡単な紹介を行う。特に、脳科学研究に対して何をもたらす可能性があるのか、またどのような問題点 (研究方法、倫理、社会問題など) が予想されるのかをわかりやすく説明する。
著者
Yoshihiko Kito
出版者
Japan Society of Smooth Muscle Research
雑誌
Journal of Smooth Muscle Research (ISSN:09168737)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.47-53, 2011 (Released:2011-07-15)
参考文献数
33
被引用文献数
8 20

Intramuscular interstitial cells of Cajal (ICC-IM) are found within the smooth muscle layers of the stomach. ICC-IM are mainly spindle shaped cells with bipolar processes orientated along the long axis of surrounding smooth muscle cells. ICC-IM make close contacts with nerve varicosities and form gap junctions with neighbouring smooth muscle cells, indicating that ICC-IM mediate enteric motor neurotransmission. These morphological properties of ICC-IM are similar throughout the stomach. However, the electrical properties of these cells differ from region to region. In the fundus, ICC-IM generate spontaneous transient depolarizations (STDs), resulting in an ongoing discharge of unitary potentials in the smooth muscle cells. ICC-IM in the corpus generate slow waves and as they fire at the highest frequency they serve as the dominant pacemaker cells in the stomach. On the other hand, ICC-IM in the antrum generate the secondary component of slow waves triggered by the initial component that propagates passively from myenteric ICC (ICC-MY). Thus, the different electrical properties of ICC-IM play a critical role in creating the distinct functions of the proximal and distal regions of the stomach such that the fundus acts as a reservoir of food, the corpus as a dominant pacemaker region, while the antrum acts as a region for mixing and propulsion of food.
著者
Masahito Sato Satoru Fujita Atushi Saito Yoshio Ikeda Hitoshi Kitazawa Minoru Takahashi Junji Ishiguro Masaaki Okabe Yuichi Nakamura Tsuneo Nagai Hiroshi Watanabe Makoto Kodama Yoshifusa Aizawa
出版者
The Japanese Circulation Society
雑誌
Circulation Journal (ISSN:13469843)
巻号頁・発行日
vol.70, no.8, pp.947-953, 2006 (Released:2006-07-25)
参考文献数
24
被引用文献数
70 91

Background On October 23, 2004, a major earthquake, which registered 6.8 on the Richter scale, occurred in Niigata Prefecture in Japan. Emotional stress is important as a trigger of transient left ventricular apical ballooning (so-called `Takotsubo' cardiomyopathy), but its incidence and clinical profile immediately after a natural disaster have not been fully elucidated. Methods and Results `Takotsubo' cardiomyopathy was diagnosed in 16 patients (1 man, 15 women, mean age 71.5 years) within 1 month after the earthquake. Of them, 13 (81%) lived in areas where the Japan Meteorological Agency seismic intensity scale registered 6 or above, and 11 (69%) developed symptoms on the day of the earthquake. The incidence of `Takotsubo' cardiomyopathy 1 month after the earthquake was approximately 24-fold higher near the epicenter than that before the earthquake. Conclusion `Takotsubo' cardiomyopathy can occur on the day of the earthquake in elderly women living near the epicenter. (Circ J 2006; 70: 947 - 953)
著者
田中 孝男
出版者
東京医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

ベーチェット病患者血清中の抗網膜自己抗体の一つは抗網膜HSP60抗体である。患者は口腔内に再発するアフタや抜歯を契機に眼発作が起こるため、そこに常在する溶連菌が重要と考えられてきた。Sangius溶連菌HSPに対して特異的なγσT細胞も検出されている。エルシニア、溶連菌,網膜芽細胞腫および網膜のHSP60に対する免疫応答を検討したところ、抗網膜HSP60ならびに抗溶連菌HSP60に対してベーチェット病では著しい抗対価の上昇を示す。また,網膜HSP60をラットに接種すると平均12日目にぶどう膜炎が起り、組織学的に松果体炎を伴いにくい点でS抗原やIRBPによるEAUと相違した。ベーチェット病ではHLA-B51が疾患感受性であるとの報告はある。一方,その炎症はCD4陽性T細胞によるとされるが,それを誘導するHLA classII・自己抗原ペプチド複合体の様子は,今まで自己抗原が明確に同定されていなかった。ベーチェット病の自己抗原は網膜HSP60と考え疾患機序解明や治療法へのフィードバックを目的に本実験を計画した。平成11年度に明らかにした点は,網膜と溶血連鎖球菌S.PyogenesのHSP60がベーチェット病の発症に関わると考え,その性状を分子生物学的に解析した点である。すなわち,S.Pyogenesから抽出したDNAとウシ網膜cDNA libraryを鋳型にHSP60遺伝子領域をpolymerase chain reaction法で増幅し,増幅された断片をDNAシークエンサーにて塩基配列を決定し,アミノ酸の配列を推定した。解析結果をもとにペプチドを合成した。ペプチドを完全Freundのアジュバンドと混和し,ラットに接種して実験的ぶどう膜炎が発症するか否か検討した。その結果,ウシ網膜およびS.Pyogenes HSP60について,約200残基の内部配列を決定した。その結果,両者の配列は47%相同した。主として、ヒトHSP65の245-259番に相当する網膜HSP60と溶連菌HSP60のペプチドで実験的ぶどう膜炎の発症がみられた。網膜とS.PyogenesのHSP60のアミノ酸配列をもとに,ベーチェット病の発症機序を今後も検討することは,意義あると考えた。上記の結果を論文にまとめ,題:網膜及び溶連菌HSP60の分子生物学的検討,筆者,田中ら,日本眼科学会雑誌に投稿し,平成12年1月に同誌に受理された。
著者
馬場 章 吉見 俊哉 佐藤 健二 五百籏頭 薫 添野 勉 研谷 紀夫 木下 直之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

国内外の名刺判写真の悉皆的な所蔵調査を行ってデジタルデータ化し、デジタルデータを活用した調査研究結果を通じた名刺判写真の生産・流通・消費・保存プロセスの分析と印刷媒体への接続、それによるパブリックな視覚的イメージの生産に注目し、それらが指し示す明治期の社会的高位に属する人々のコミュニケーションモデル、社会モデルの再構築を試みた。これらを通じ、写真資料という、従来歴史資料としての活用が不十分であった資料から読み解くことのできる「歴史情報」とそれに基づいた新たな歴史像、社会像を構築するための基礎を築いた。
著者
春山 成子 葛葉 泰久 宮岡 邦任 佐藤 照子
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

中部ミヤンマーにおいて中心となるイラワジ河流域の自然環境の変動を完新世に照準に合わせてオールコアボーリングによって得た試料、衛星画像を用いた地形解析を中心にして行った。その結果、完新世の初期には現在のデルタは扇状地として形成されていたものが完新世中期以降に自然堤防地帯からデルタ地域への変遷が認められるようになった。人間の世紀以降の流域の土地被覆変化は河川の流出土砂量に影響を与えことが河川流路変動から明らかになった。
著者
松原 豊 本田 晋也 高田 広章
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.8, pp.2387-2401, 2011-08-15

分散リアルタイムシステムにおいて,個別に開発・検証されたリアルタイムアプリケーションを,単一のプロセッサに統合して動作させるための階層型スケジューリングアルゴリズムが数多く提案されている.本論文では,統合前に,プリエンプティブな固定優先度ベーススケジューリングによりスケジュール可能なリアルタイムアプリケーションを対象に,優先度設計を変更することなく統合後もスケジュール可能であることを保証する階層型スケジューリングアルゴリズムを提案する.提案アルゴリズムの正当性を理論的に証明し,さらに,スケジューリングシミュレータを用いて,同一のアプリケーションに対するスケジュール可能性を従来アルゴリズムと比較した.その結果,従来アルゴリズムでは統合後にデッドラインをミスしてしまうアプリケーションが,提案アルゴリズムによりスケジュール可能であることを確認した.