著者
北 泰行 藤岡 弘道 土肥 寿文
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

興味深い生物活性を有するが微量しか得られず、複雑な高次構造を有する数種の天然物、生体機能分子、またその鍵骨格の構築のための、環境にやさしい独創的な合成法を確立した。これらの得られた新規化合物群を基に、独自の薬物評価系を持つ他研究者や研究科と共同研究の下、新しい作用機作を有する新規医薬品候補化合物の創生に向けた創薬研究を推進した。
著者
FEDOROVA ANASTASIA (2013) フィオードロワ アナスタシア (2011-2012)
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本年度、申請者はこれまでのリーサーチを通して収集された一次資料の整理作業を行い、その分析をもとに"Japan's Quest for Cinematic Realism frorm the Perspective of Cultural Dialogue between Japan and Soviet Russia, 1925-1955"(和訳 : 「ソビエト・ロシアとの文化対話から見た日本映画史におけるリアリズムの追求、1925-19551」)というタイトルの博士論文を執筆した。本博士論文において、申請者は当初計画されていた研究課題を大幅に拡充した。即ち、本論文は、ソビエト・ロシアに留学し、そこで育んできたリアリズム観やモンタージュに対する知識を自らの作品のなかで応用してみせた日本を代表するドキュメンタリー映画監督である亀井文夫の作風ばかりでなく、1925年から1955年までの日本映画における、より広い意味での「リアリズム追求の歴史」を、日本とソビエト・ロシアとの映画交流を軸に論じているのである。申請者の博士論文は、1925年から1955年までの間におこった日ソ間の映画交流(相互間における映画作品や映画理論の受容、留学体験を通しての映画知識の共有、合作映画の製作など)を詳細に分析することで、これらの交流を促進させていたのが、日本とソビエト・ロシア両者におけるリアリズムに対する強い感心であったことを明らかにしている。結論部分では、日ソ両映画界に共通していたこの強い感心が、ハリウッド映画の世界的影響力への対抗心から来るものであったと主張され、日ソの映画人が目指していたリアリズムという芸術潮流は、メインストリーム(ハリウッド映画)に対するイデオロギー的及び美学的アルターナティヴの追求として定義付けられている。
著者
友清 衣利子
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

強風被害の拡大には風速だけでなく、建物の耐風性能の良し悪しもまた関連があるが、木造か鉄筋コンクリート造かなど、数値で表すことのできない構造物の特性が強風被害に及ぼす影響を定量的に評価するのは難しい。本研究では心理統計学的な手法を用いて構造物の特性を数量化し、被害影響因子を抽出してその寄与率を評価した。さらに抽出された影響因子をもとに耐風性能を考慮して風速を補正し、実態により対応した住家被害率を算定する手法を提案した。
著者
児玉 靖司 鈴木 啓司 渡邊 正己
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

放射線被曝後の生存細胞に、遅延性に染色体異常が誘導されることが知られている。本研究は、放射線による遅延型染色体異常の形成に、テロメア不安定化が関与するという仮説について検証するものである。まず、ヒト正常細胞を用いて、放射線誘発遅延型染色体異常に対する酸素濃度の影響を調べた。通常20%の酸素分圧を、1/10の2%に低下させることにより、放射線による遅延型染色体異常は、約65%減少することが明らかになった。このことは、放射線被曝後の酸素ストレスが遅延型染色体異常形成に関与していることを示している。次に、scidマウス細胞にみられるDNA二重鎖切断の修復欠損が、放射線誘発遅延型染色体異常にどの様な影響を及ぼすかについて調べた。その結果、scid突然変異は、自然発生および放射線誘発遅延型染色体異常の頻度を増加させることが明らかになった。この結果は、scidマウス細胞で欠損している非相同末端結合修復が、自然発生および放射線誘発遺伝的不安定性を抑制していることを示唆している。次に、テロメア不安定化について、テロメアFISH法により調べたところ、放射線照射によりテロメア不安定化が促進され、テロメア構造が残存した状態で2つの染色体が融合する染色体異常が増加することが分かった。さらに、scidマウス細胞で欠損しているDNA依存的プロテインキナーゼ触媒サブユニット(DNA-PKcs)が、テロメアの安定維持に寄与していることが示唆された。以上の結果を踏まえて、放射線による遅延型染色体異常の誘発メカニズムについて、次のモデルを提唱する。すなわち、放射線被曝した細胞にテロメア不安定化が誘発され、テロメア融合(fusion)-架橋形成(bridge)-染色体切断(breakage)と続く一連のFBBサイクルが誘起されることにより、遺伝的不安定性が持続的に生じ、遅延型染色体異常が形成される。
著者
牧 義之
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、雑誌『改造』の伏字調査とともに、「内閲」に関する資料の整理を行なった。「内閲」が終了する昭和2年までの誌面を調査した結果、一つの記事の中で複数種が混合で使われているものが見られた。特に社会主義関連の記事に多く、語句(×印が多い)以外の文章単位の伏字(3点リーダーが多い)は、危険箇所として指摘された部分でもあると思われるので、「内閲」による結果であると想像される。関連資料の調査では、新聞・雑誌の記事から、大正10年には「内検閲」の言葉が見られ、慣習的に行なわれていたことが分かる。明治期の末までは、「出版前に原稿を検閲して出版後の安全を確保するが如き便宜法」を希望する記事(『読売新聞』明治43年9月10日)が見られたので、原則「内閲」は行われていない。発売禁止回避の為、当局と発行者の双方が歩み寄る「内閲」は、大正期以降昭和2年までのおよそ10年程度の期間に行なわれていたと推定される。廃止の理由については諸説あるが、大正14年中頃には廃止の噂が流れ、「現今では『そんな規定がないから』の口実で内閲願は苦もなく一蹴される」(同」大正15・3・20)という記事が示すように、内務省側も出版物の増大を理由に断わることが多かった。廃止を決定的にした原因の一つが、山崎今朝弥による禁止処分に対する訴訟事件である。大審院の判決により「国家警察権ノ発動ヲ阻止スルカ如キ」「内閲」の「契約ハ無効」(『法律新報』第120号、昭和2・8・25)とされたことが廃止の根拠とされたであろうと思われる。検閲と文学との関連性に関して、「狂演のテーブル--戦前期・脚本検閲官論--」(『JunCture超域的日本文化研究』第3号)、「永井荷風の検閲意識--発禁関連言説の点検と『つゆのあとさき』本文の分析から--」(『中京国文学』第31号)、「森田草平『輪廻』伏字表記考--戦前期検閲作品の差別用語問題--」(『文学・語学』第202号)の3篇を発表した。
著者
岡本 絵莉
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

本研究の目的は、日本の研究型大学における研究コミュニティの多様性に着目したモデル化とそれぞれのモデルに即した支援策の提示である。具体的な成果として、多様なコミュニティに関するケース教材の作成を目指して研究を実施した。本研究の社会的背景としては、大学における研究支援(Research Administration)の重要性が高まっていることがある。日本の研究型大学は、最先端の研究活動だけでなく、それにもとづく教育、社会貢献など、時には相反するように見える多様なミッションを担っている。これらの実質的な担い手は、多様な研究コミュニティである。本研究では、この研究コミュニティという単位に着目し、その多様性を踏まえた支援策として、ケース教材の作成を目指した。本研究の方法としては、主に教育学の分野で発展してきたコミュニティ理論にもとづき、大学の研究コミュニティに対するインタビュー調査を企画・実施した。主な調査対象となった工学系分野の大学研究室に関しては、過去に研究代表者が実施した質問紙調査のデータを再分析し、活用した。具体的なインタビュー調査は、再抽出した研究室に依頼し、それぞれの構成員(教員・学生)に対して、それぞれ30分~1時間実施した。実施したインタビュー調査を通じて、研究コミュニティを規定する要因(分野、資金、強調されるミッション、構成員の特性、存続期間等)が明らかになった。また、経営学の分野で実務者の教育目的で作成・活用されてきたケース教材の完成に向けて、必要な質的データを取得することができた。
著者
白鳥 成彦 田島 悠史 田尻 慎太郎
出版者
嘉悦大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は日々変化し蓄積していく学生データと大学における教学データを確率的に関連付けたモデルを構築し、大学生の退学を防止する為に行う教育サービスの意思決定を支援することである。平成29年度は平成28年度に作成した学生モデルの再構築と教学サービスとの統合、さらに学会等における成果の発表を行った。(1)学生モデルの再構築では平成28年度に行った一次成果の報告におけるフィードバックを経て学生モデルの再構築を行った。具体的には中退に関連する変数を2群:入学時の変数と入学後の変数に分け、その統合によって学生の状態を推測していくモデルにした。結果としてマクロ的な変数のみで動的な動きを表現できなかった前年度のモデルに対して、学期ごとの動きを表現することができるようになり、より中退までの具体的な動きを扱うことができるようになった。次に(2)学生モデルを用いて教学サービスとの統合を行った。具体的には作成した学生モデルを教職員に公開し、その学生ごとに適した形の教学サービスはどのようなものかを考えるワークショップを5回行った。学生モデルから出される中退・卒業までのパターンごとに適切な教学サービスにどのようなものがあるのかを導出した。学生パターンごとに教員が行うサービス、職員が行うサービス、カウンセラーが行うサービスに分け、それぞれのタイプごとにいつ、どのサービスを行うことが適切なのかを導出した。最後に(3)以上の学生モデル、教学サービスの統合部分を学会発表論文としてまとめ、発表を行った。
著者
野口 悟
出版者
高知大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

国公私立525大学を対象に外部資金獲得に対しての研究支援事務サポートの実態調査をアンケート形式で実施し、252大学から回答を得た(回収率48%)。本調査では、修士以上の学位を持つ職員の研究支援部門への配置状況、URA(ユニバーシティ・リサーチ星アドミニストレーター)の配置、事務部門の一元化、特徴的な取組事例等についても研究支援事務サポートの新たな展開に繋げることを目的として行うた。当初、私が最も期待していた修士以上の学位を有する職員の積極的な採用や異動を行って事務サポートを強化している大学は、ほとんどなく(私学1大学/252大学)、現状では通常の事務職員の人事異動の一環で異動が行われており、専門的なスキルや知識の継承に支障をきたしていた。この現状を打破する施策として、平成23年度以降URA職(教職中間職の専門職)が注目されており、URA職の設置状況についても調査した。URA類似職も含めた設置割合は12%(30大学/250大学)であったが、設置していない220大学に対してURA職の必要性について尋ねると約半数の98大学が必要と答えた。今後、我が国での研究支援の在り方がURAの活躍によって変化してくることが推察される。また、各大学の特徴的な取り組みとしては、「ブラッシュアップ制度」「インセンティブ制度」が最も多く、その他には「若手への研究費の配分」「独自の研究業績DB開発」、経費のかからない対策としては「職員による各研究室訪問による情報収集」や「ワンストップサービスの実現」といった取組があった。なお、この調査結果は報告書としてまとめており、希望があれば配布することとし、全国の大学における外部資金獲得サポート業務の新たな展開の一助になると考えている。(jm-snoguchi@kochi-u.ac.jpへ連絡していただければ配布します)(調査協力大学へは別途配布)
著者
金子 元久
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

大学教育の内容・水準を規定するのは単にカリキュラムや授業技術だけではなく、大学組織が教員と学生をどのように編成し、教育機能を発現させていくかが重要なカギであることが認識されてきた。そうした観点からこの研究では、①大学の組織形態とその構造・機能はどのように概念化することができ、また国際的にみればどのような特徴があるのか、②その中にどのような利害関係、ダイナミクスが働き、それが教育機能にどのような影響を与えているのか、そして③組織構造を改革するにはどのような可能性と条件があるのか、を明らかにすることを目的とした。そのために以下の作業をおこなったA.国際調査・比較: 上の観点から大学組織の形態と大学教員のあり方について、諸外国のケースについて文献調査をおこなうとともに、特にアメリカ、ドイツの大学に訪問調査をおこなった。とくに日本の「学部」のあり方がどのような特徴をもっているのかを明らかにするために、ドイツについてはカッセル大学、 大学の事例を詳細に調査し、日本との相違を明らかにした。B.日本における事例調査分析: 日本の大学の組織的特質とその変化を明らかにするために文献調査を行うとともに、筑波大学、京都大学、金沢大学、熊本大学、九州大学について詳細なインタビュー調査を行った。C.大学・学部データの作成とその分析: 分析の基礎として日本の国公私立大学について、大学別、学部別の学生数、教員数などのデータべースを作成した。以上の作業をもとにして、大学組織と、教員のあり方、教育機能のあり方について分析を行った。これに基づいて、日本の特質をまとめるとともに、アメリカ、ドイツ、イギリスから大学組織・教員についての専門家を招聘し、University Organization and the Professoriate と題する国際会議の準備をおこなった。
著者
加茂 憲一
出版者
札幌医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では,がん罹患・死亡データから特に全国規模のデータに着目し,それを解析するための手法の開発を行った.ロジスティック回帰モデルとモデル選択規準量を用いて,全国罹患数推計に関して,登録の完全性を補正する方法を構築し, 現在の報告値が20〜30%ほどの過小評価である可能性を指摘した.また,生命表の考え方を用いて,がん罹患・死亡生涯リスク確率を推定し,男性の2人に1人が,女性の3人に1人ががんに罹患するという結果を得た.
著者
山田 奨治 梅田 三千雄 川口 洋 柴山 守 加藤 寧 石谷 康人
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、つぎのような成果を得ることができた。1.古文書文字認識手法の基礎的研究古文書文字に特有な文字認識機能と文字切り出し方法について検討した。限定された文字種のデータに対して既存の日本語手書き文字認識技術を適用し、95%を超える認識率が得られることを確認すると同時に、文字切り出し及び正規化に関して新しい手法を開発した。2.古文書文字認識研究のためのデータベース作成古文書文字認識研究を推進するための、25万字に及ぶ古文書文字データベースを完成させ、その一部をすでに公開している。3.古文書解読支援システムのユーザインタフェースの開発古文書解読知識を利用した証文類の翻刻支援システムと古文書翻刻支援のための電子辞書のプロトタイプを実装した。前者はn-gram情報を使って不明文字の正解候補を提示するシステムで、利用試験の結果、その有用性が確認された。後者のプロトタイプには2種類ある。第1は、文字コードからくずし字を検索し、さらに例示された文字と類字した文字をオンラインとオフラインの文字認識技術の応用により検索する機能を持っている。第2のプロトタイプは、タブレット入力された文字と外形が似たくずし字をオフライン文字認識によって検索する機能を持っている。
著者
長田 謙一 木村 理恵子 椎原 伸博 佐藤 道信 山本 和弘 楠見 清 山崎 明子 加藤 薫 木田 拓也 熊倉 純子 藤川 哲 鴻野 わか菜 後小路 雅弘 水越 伸 山口 祥平 毛利 嘉孝 森 司 暮沢 剛巳 神野 真吾 竹中 悠美
出版者
名古屋芸術大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、個別研究およびその総合を通して、以下の知見を獲得するに至った。近代社会において「自律性」を有する独自システムを形成したと理解されてきた芸術は、1980年代以降、アジア諸国、ロシア・旧東欧圏、そしてアフリカまでをも包含して成立する「グローバル・アートワールド」を成立させ、それは非西洋圏に進む「ビエンナーレ現象」に象徴される。今や芸術は、グローバル経済進捗に導かれグローバル/ローカルな政治に支えられて、経済・政治との相互分立的境界を溶解させ、諸領域相互溶融的な性格を強めている。しかし、それゆえにまた、現代の芸術は、それ自体が政治的・経済的等々の社会性格を顕在化させることともなる。
著者
松田 岳士 重田 勝介 渡辺 雄貴 加藤 浩
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、大学生が科目を選択する際に必要となる情報を提供することを目的に、教学IRデータと学生の自己管理学習(SDL)レディネスを用いて科目選択の支援を可能にするシステムを開発し、評価したものである。開発したシステムには、SDLレディネスに関するアンケートの結果・授業で求められるSDLレディネスとのマッチング・同じ授業の過去の成績分布・単位取得確率などが表示される。学生からの評価の結果、各画面で示した情報は、おおむね科目選択に役立つと受け止められたが、表示内容・インターフェースともに改善の余地が指摘された。
著者
戸次 大介
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究の目的は、メタラムダ計算とモナドを用いて、意味・談話情報を統一的に記述することである。具体的な研究項目は、1) メタラムダ計算とモナドの基礎理論、2) モナドによる意味・談話情報の記述と経験的検証、の二つからなる。1) については、メタラムダ計算の型付き言語としての形式的性質(圏論的意味論、代入操作の健全性、αβη変換の健全性、等)を示し、2)については、メタラムダ計算においては「非決定性モナド」「大域変数モナド」「継続モナド」「慣習の含意のモナド」の四つのモナドを用いることによって、意味・談話の境界に位置する複数の言語現象を統一的に表現できることを示した。
著者
柳澤 有吾
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、「テロとの戦い」や「人道的介入」も視野に入れつつ、現代における「正義の戦争」の可能性と現実性に関して原理的・哲学的考察とその歴史的な裏づけを図ることを目指すものである。中でも「非戦闘員保護の原則」に注目して、それが極限状況の中でどこまで維持できるのか、また維持できないときにそれはどう扱われるべきなのかに焦点を合わせて考察を進めてきた。今回はとくに、ドイツで憲法裁判所にまで持ち込まれることになった「航空安全法」をめぐる議論を集中的に検討した。ハイジャックされてテロリストの武器となった旅客機の撃墜命令を防衛大臣は出せることになっているが、それは正当な行為なのか不正なのか、正当防衛なのか緊急避難なのか、実行者あるいは命令者は免責されればよいのか、それともやはり正当化は欠かせないのか等々、疑問が次々と沸き起こる。これは、きわめて政治的な問題であると同時に、「人間の尊厳」や基本権としての「生命権」のもつ意味と限界が問われた事例であり、戦争倫理の観点からも重要な問題が提出されていることが確認された。「非戦闘員保護」の問題の射程は広い。研究期間内に参画することとなったS.G.ポスト編『生命倫理学事典』の翻訳作業を通して、戦闘員であると同時に非戦闘員でもある軍医務官のディレンマという側面からこの問題にアプローチする可能性とともに、生命倫理学における「戦争」の位置についても考えることができた。さらに、新たに浮上してきた課題として、戦争(倫理)をその表象ないし記憶という側面から捉え直す作業もまたひとつの重要な問題領域をなすと思われる。そこで報告集にはミュンスター「彫刻プロジェクト」における作品のいくつかを分析・検討した論文を収録した。
著者
長谷 亜蘭
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

摩擦に伴う表面の磁化現象のメカニズムの解明のために,磁束密度測定実験と顕微鏡観察部に摩擦系を組み込んだin-situ観察実験(その場観察実験)の二つの摩擦実験を行った.磁束密度測定実験では,摩擦による磁束密度変化と摩擦面損傷状態などとの関連性を調査した.in-situ観察実験では,摩擦による磁区構造変化を観察し,トライボロジー現象との関連性を調査した.また,磁気力顕微鏡(MFM)を用いた摩擦面の観察・分析を行った.以上の実験を主に純金属材料(Fe,Co,Ni)に関して実施した.本研究で明らかになった点け,以下のとおりである.1)凝着摩耗(移着)による損傷が摩擦表面の磁化と関係している.2)一つの摩耗粒子および微細な摩耗粒子の集合は一方向に磁化する.3)一方向に磁化した大きな摩耗粒子や移着粒子からの漏えい磁場が,周囲の微細な摩耗粒子の磁化に影響を与えている.4)摩擦面上の摩耗粒子および移着粒子が,摩擦磁化の大きな一因である.5)摩耗による移着粒子の生成や弾塑性変形による逆磁歪効果により,摩擦面直下における磁区構造の変化が生じている.6)摩擦前後のMFM像の比較から,摩耗素子のようなナノオーダーで摩擦表面が磁化していることが確認できた.本研究成果より,摩耗素子のような微視的な原因と移着粒子や摩耗粒子のような巨視的な原因が,摩擦磁化現象に関わっていることを明らかにできた.
著者
鳥居 朋子 杉本 和弘 岡田 有司 野田 文香
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

米国及び豪州の事例分析の結果、大学マネジメントにおける上級管理職とIRの機能的連携の特徴として、1.重層的な組織構造の枠組の中、時には組織横断的なタスクフォースを結成することにより様々な階層の管理職が職責に応じたリーダーシップを柔軟に発揮していること、2.かかるリーダーシップにおいては、IR組織が提供する客観性の高いデータや情報を、学内の対話を促進するトリガーとして活用していることが解明された。
著者
外山 勝彦 小川 泰弘 松原 茂樹 角田 篤泰 BENNETT F・GEROGE Jr. 松浦 好治
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

本研究は,計算機による法制執務支援システムの開発を目的とし,特に,膨大な数の法令文書の構造化により,法令改正に伴う法令統合作業の自動化,高度化,迅速化が可能であることを明らかにする.本年度は,法令自動統合システムの実現と検証に関して,次の研究を行った.1.法令文書用DTDの拡充前年度に引き続き,わが国の法令文書の構造化のための文書型定義(DTD)を拡充した.特に,表,改正規定など,法令文書中に出現する複雑な構造を定式化する手法を明らかにした.2.法令文書自動タグ付けツールの拡充前年度までに開発した法令文書自動タグ付けツールを拡充したDTDに対応させるとともに,スクリプト化により使い勝手を向上させた.3.法令自動統合システムの実現と検証法令自動統合システムのプロトタイプを開発した.また,同システムの動作検証のために,法律17本(改め節965,改正箇所4,355)の新規制定時バージョンから一部改正法令に従って自動統合を繰り返し,現行バージョンと比較する実験を実施したところ,原データの誤植に伴うエラー,文字列の置換において,置換箇所の前後の文脈に注意して実行しなければならない場合を除き,良好な結果を得た.4.構造化法令データの蓄積主要法令101本の日本語原文および英訳,および,昭和22〜23年に新規制定された法律約300本について,構造化法令データを作成,蓄積した.なお,前者の構造化には,上述のタグ付けツールを用いた.
著者
橋本 鉱市 荒井 英治郎 丸山 和昭
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、「高等教育界」を高等教育に関与する多様な「参加者」が様々な「問題群」の中からある選択肢をめぐって葛藤、調整、妥協を展開する政治的領域であると措定し、この問題群(重要問題としてイシュー)と参加者群(その中核に主要アクター)の両者、また各々の内部ならびに相互の関係を包括的に把握し、この界に独自の政策形成・決定のメカニズムを定量的・定性的(計量テキスト分析、ネットワーク分析、インタビューなどによる方法)に解明した。その成果の一部として、『高等教育の政策過程』(玉川大学出版部、2014年)を上梓した。
著者
足立 文彦 門脇 正行
出版者
島根大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

1日当たりの潅水量を同一にした条件で、潅水の頻度と時間を変化させた3つの潅水方法でサツマイモ品種テラスライム(丸葉黄葉)とベニアズマを栽培し、植被展開速度と物質生産を比較した。島根大学生物資源科学部3号館屋上に設置した高さ0.1mの木枠内に屋上緑化用軽量土壌をいれ栽培圃場とした。供試サツマイモ品種を5月下旬に、栽植密度2.5株/m^2で移植した。潅水は点滴潅水チューブに潅水タイマーを用いて日当たり約8mm/dayとなるよう与えた。朝1回潅水を行う区(朝1回区)、朝と昼に行う区(朝昼区)、約20分間隔に1分間潅水を行う区(常時潅水区)の3つの潅水処理を行った。植被展開速度をデジタルカメラによる画像解析法で求めるとともに、8月下旬から熱収支式各項(Rn、LE、H、G)、地温、気孔伝導度、土層毎の体積土壌水分含量を測定し、収穫期にバイオマス調査を行った。いずれのサツマイモ品種も葉面積が拡大する時期の植被展開速度は朝1回区に比較し、朝昼区、常時潅水区で大きく、常時潅水区が早期に植被を確立した。収穫期のバイオマス量も朝昼区、常時潅水区は朝1回区に比較して大きかった。朝1回区の気孔伝導度は午前中高いものの午後に急激に減少したのに対して、朝昼区、常時潅水区の気孔伝導度は午後も高く維持されていた。このことは、朝1回区の畝の表層土壌水分含量が午後に低下することに加えて、サツマイモの根長密度が表層に多く、下層には少ない根系特性を持つことから水分ストレスが生じ、物質生産が抑制されたものと示唆された。従って、日中の畝表層の土壌水分含量が高く維持されるよう、頻繁に灌水を行うことにより、日蒸発量程度に使用水量を限定した場合でもサツマイモの植被展開と熱低減が効率化できると結論された。