著者
加藤 ひろの 伊藤 昭治 西尾 恵一 村林 麻紀 脇坂 さおり
出版者
日本図書館研究会
雑誌
図書館界 (ISSN:00409669)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.362-375, 2014-03-01

日本社会の高齢化が進む今,公共図書館では高齢者の利用増加や高齢者サービスの必要性が語られるが,その一方で高齢者サービスの理念や手法が現場で確立しているとはまだ言い難い。そこで,高齢者サービスには何が必要なのか探るため,公共図書館での高齢者の利用実態やニーズを知ることを目的として,都市近郊と地方の双方から対象館を選び,統計分析や図書館訪問調査を行った。その結果,高齢者の利用は人口構成比と比べればまだ少ないこと,利用実態としては小説の利用の多さなどに特徴はあるが,地域性や性別などにより異なり多様であること,などが分かり,一人一人に細やかに応えるサービスの必要性が明らかになった。
著者
神代 ちひろ
出版者
日本アフリカ学会
雑誌
アフリカ研究 (ISSN:00654140)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.84, pp.17-30, 2014-05-31 (Released:2014-07-17)
参考文献数
23

本稿では,ブルキナファソ農村における女性住民組織の事例を取り上げ,組織の女性たちが開発援助の経験を積み重ね,その経験を活用しながら生活の便宜に合わせて独自の活動を創出したことについて,マイクロファイナンス(MF)の利用を中心にそのプロセスを明らかにした。昨今,住民自身の自主性や主体性を尊重した参加型開発が提唱される中で,住民組織が地域開発に活用されるようになった。事例とした組織は互助を目的として作られ,その後複数の援助を受けながら活動を展開してきた。その過程でMF機関の利用を始め,さらにNGOにより導入された手法で内部資金を運用したMFの運営を経験すると,それらの方法を取り入れてMFの自主運営に乗り出した。そしてMF機関に対して利用条件に関する交渉を行い一定の成果を上げると,自分たちの都合に合わせて修正を加えながらMFの自主運営をつぎつぎと展開させていった。それを可能にした要因は,組織の女性たちがMFの自主運営を行うために必要な技術と知識を身につけてきたこと,結成当初からの全ての組織活動の経験を通して自信を培ってきたことであった。MFの借り手,ひいては開発援助の受け手は,受動的な存在ではなく,積み重ねてきた経験を活用して,みずから新しい活動を創り出す力をもつのである。
著者
所 功 川北 靖之 黒住 祥祐 小林 一彦 宮川 康子 若松 正志 海野 圭介 山口 剛史 飯塚 ひろみ 石田 俊 今江 廣道 宇野 日出生 岸本 香織 京條 寛樹 久世 奈欧 (野村 奈欧) 嵯峨井 建 笹部 昌利 篠田 孝一 宍戸 忠男 末松 剛 土橋 誠 橋本 富太郎 松本 公一 村山 弘太郎 山本 宗尚 吉野 健一 米田 裕之 若杉 準治
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

近世(江戸時代)の賀茂大社(上賀茂・下鴨両社)では、世襲の社家神職たちにより、朝廷と幕府の支援をえて、葵祭や社務が運営されてきた。私共は、その実情を伝える社家の記録や祭礼の絵巻などを、朝廷の御記や公家の日記などと照合しながら、相互関係の解明に努めた。その成果は、本学日本文化研究所の紀要や所報などに発表し、また本学図書館所蔵の賀茂関係絵巻などは大半をデジタル化し詞書(ことばがき)の解読も加えて貴重書アーカイブスに公開している。
著者
阿部 ひと美 今井 正司 根建 金男
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.1-9, 2011 (Released:2012-02-29)
参考文献数
23

役割固定法(fixed-role therapy: FRT; Kelly, 1955)は,構成主義的な理論のひとつであるパーソナル・コンストラクト理論(personal construct theory: PCT)に基づいた心理的介入技法である。本研究では,演じる役割を決定する手続きに実験参加者の意思決定を取り入れるという改良を加えたFRTを開発し,その社会不安に対する効果を実証的に検討することを目的とした。実験参加者は,社会不安傾向が高い大学生であり,改良型FRT群(11名),従来の標準的な手続きにのっとった標準型FRT群(10名),統制群(11名)に割り振られ,2週間にわたる実験に参加した。その結果,改良型FRT群,標準型FRT群では,統制群と比較して社会不安が有意に低減した。また,改良型FRT群では,標準型FRT群と比較して,社会不安が有意に低減する傾向が示された。さらに,PCTに基づいたアセスメント法であるレパートリー・グリッド法を用いた評定の結果,改良型FRT群では,標準型FRT群よりすぐれた効果が示された。したがって,改良型FRTはすぐれた社会不安低減効果を有することが示唆された。
著者
畑下 博世 川井 八重 坪倉 繁美 河田 志帆 笠松 隆洋 鈴木 ひとみ 西出 りつ子
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.287-293, 2014-01-31

精神障害者が入院医療中心の生活から地域生活中心へ転換を図るために,保健所が現在の取組みから考える課題や,今後の保健所の役割について検討することを目的に,全国518保健所を対象に精神保健福祉活動の実態調査を行い,238保健所から回答を得た(回収率45.9%)。地域生活中心への転換に向けた保健所の取り組みとしては,関係機関との調整や連絡会などが行われていた。しかし,長期入院中の患者にアプローチし,退院促進を図る活動実践は約3割に過ぎなかった。都道府県保健所は地域の実態を把握することが容易でないことが予測されるが,これまでの活動で得た経験を生かし,市町村と協同して活動を展開していくことが重要である。また,地域生活を支える保健所の課題として,住民への啓蒙,住宅整備,相談支援体制,就労支援があげられた。これらの充実に向けて,保健所が今後どのような役割を果たしていくのかを検討していく必要のあることが明らかになった。
著者
松田 ひとみ 奥野 純子 柳 久子
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

特定高齢者に対して昼間の活動性の向上と夜間の睡眠効率を高くするために、計画的な昼寝の導入による効果を明らかにすることを目的とした。ピッツバーグの睡眠質問票、GDS15とSF8の質問紙および活動量計と連続血圧計により日内変動に関する測定を行った。その結果、75歳以上の高齢者は夜間の睡眠の質が低く、翌日の昼寝を40分以上とることによって補完していること。また昼間の睡眠は午後5時前に行うことにより、夜間の睡眠の質を低下させることなく、昼間の活動を促進させ疲労を回復させていると考えられた。さらに高血圧疾患のある高齢者は、夜間の睡眠の質が低下し、昼寝による効果が得られていない可能性が見いだされた。
著者
篠原 ひとみ 兒玉 英也
出版者
秋田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

乳児の夜泣きへの看護介入方法を探索するために、児の唾液中のメラトニン濃度が睡眠-覚醒リズムの発達の有効な指標となり得るかどうかを明らかにすることを目的に児の唾液中のメラトニン濃度を測定した。そして起床時刻、就寝時刻、最長持続睡眠時間、総睡眠時間、昼寝回数、昼寝時間、保育環境との関係を分析した。対象は生後3-15ヵ月の児(平均7.6±3.2ヵ月)67名(男児36例、女児31例)とその母親である。唾液は母親が1日4回、朝起床時(6時-9時)、昼(11時-13時)、夕方(15時-18時)、夜就寝前(20時-23時)に採取した。67名の唾液中のメラトニン濃度の平均値(SD)は朝起床時40.1(35.3)、昼13.6(21.7)、夕方14.6(24.7)、夜就寝前23.2(28.4)であり、昼や夕に高濃度(10pg/ml)を示す児は生後3-5ヵ月に多く認められた。児の1日の総睡眠時間、最長持続睡眠時間、夜間の覚醒回数、昼寝回数との関係では、昼と夜のメラトニン濃度は昼寝回数と正の相関、昼のメラトニン濃度と最長持続睡眠時間に負の相関、朝のメラトニン濃度と総睡眠時間に負の相関が認められた。また夕と夜のメラトニン濃度は1週間当たりの外気浴日数と負の相関が認められた。生後3-5ヵ月の乳児では昼や夕でもメラトニン濃度が高値を示す例が多く認められたが、月齢と伴にその頻度は減少した。昼のメラトニン濃度が高値の場合昼寝回数が多く、最長持続睡眠時間が短縮する傾向がみられたことから、生後5ヵ月以降、月齢が進んでも日中のメラトニン濃度が高値の場合、睡眠-覚醒リズムの発達の遅れを検討する必要があると考えられる。
著者
砂山 幸雄 尾崎 文昭 坂元 ひろ子 村田 雄二郎 高見澤 磨 石井 剛 菅原 慶乃 加治 宏基 佐藤 普美子 晏 〓 佐藤 普美子 晏 〓
出版者
愛知大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、市場経済化の急速な進展によって大きく変容を遂げつつある中国について、文化の側面から変化の内容と方向を探求することをめざしたものである。言説分析の方法により、主として1990年代以降の政治、思想、イデオロギー言説、文学作品や文化批評を分析し、従来から存在していた近代と反近代(近代批判)、グローバル化と土着性の対立に加え、近年では近代性内部の諸価値相互の対立が顕著になっていることを明らかにした。また、それが中国政治の展開、社会の変化といかに密接に関連しているかを考察した。
著者
伊藤 ちひろ 岩井原 瑞穂 上林 弥彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. DC, ディペンダブルコンピューティング (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.102, no.378, pp.13-18, 2002-10-11

インターネットの発展により、電子商取引の機会が増大している。電子商取引の特徴は、互いに会ったことのないような当事者間での金品の授受が行われることである。このような取引では、認証などの手段によってあらかじめ取引相手の身元が保証される訳ではない。従って、相手を完全に信頼した取引を行うことは困難となるため、相手のリスクを考慮した機構が必要である。本稿では、このようなリスク管理のために分割送付を行う商品と代金の交換機構において,取引が中断された場合の回復プロトコロルについて述べる.また、また、取引の中止によって起こり得る損害の回復方法として、保険の導入について述べる。
著者
松久 ひとみ 橋本 学
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会誌 (ISSN:13426907)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.J252-J255, 2014 (Released:2014-05-23)
参考文献数
10
被引用文献数
3

Identifying subtle human facial expressions is important in human interactions such as human-robot communications. We propose a method to classify two types of facial expression, neutral (expressionless) and the subtle expression of happiness, using an image acquired with a camera. In the proposed method, facial shape features such as wrinkle-angle or unevenness of face surface are extracted via Gabor filters in multiple ROIs on a human face. High angle resolution Gabor filters are used to detect subtle facial expressions and the positions of the detection window and Gabor filter parameters are optimized by a learning process using AdaBoost. Changes to facial expression are estimated by comparing an input image to a learned database with the features. Experimental results showed that the proposed system has a 0.84 precision rate and a 0.91 recall rate in the case of detecting subtle changes.
著者
久保田 ひろい
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究では、英語発話に見られる"語尾上げ口調(High rising terminals:以下HRT)"の多用の拡大という言語現象を対象とし、その機能を解明することを目的とする。1.映像資料への非言語情報および韻律のラベリング作業統計的な分析に向けデータ量を増やすため、昨年度に引き続き、収集したチュートリアル形式の説明談話の映像資料に対し、動画編集ソフト上で、動作・視線・句末音調のラベリングを行った。2.節・発話・談話情報のラベリング作業1.で統語的・語用論的境界によって分割した「発話」をさらに、韻律的境界で「節」に分割し、発話と節の関係性を表現するために、それぞれにIDを付与した。さらに談話構造との関係性も変数として取り入れるために、談話境界の認定を行い、談話IDも追加した。これによりどの発話がいくつの節から構成され、どの談話のどの位置にあるのかというような情報を分析に取り入れられるようにした。3.データベースの分析1.2.により作成したデータベースを用い、昨年度の事例分析で示唆された「新しいトピックへの移行段階でのHRTの生起とそれに同期する指さし、視線の切り替え」という傾向を統計的に検討した。これにより、HRTの生起はそれぞれの工程の冒頭部に集中し、多くの場合、指さし、視線の切り替えという順番で生じていることが確認された。また、上記の結果について「視点の操作」という観点から考察を行った。新情報を導入する際に、視線と指さしによって聞き手との間に視覚の共有状態を作り出した上で、それを共有基盤に追加したという確認の合図としてHRTのような音調が使用されているだけでなく、非言語情報・発話・それに伴う韻律が協働して新たな工程へ移行する場面が定型化されることにより、結果として全体の談話の構造化が促されていると考えられる。
著者
池本 幸生 松井 範惇 坪井 ひろみ
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

社会的企業は、経済性を維持しつつ、援助や支援に頼ることなく社会的目的を達成する持続的活動として多くの国で実践されている。このような活動を成り立たせている仕組みは利他的動機から生まれており、アマルティア・センのケイパビリティ・アプローチによって説明することができる。本研究では、バングラデシュのグラミン銀行の活動、ベトナムのコーヒー、タイの有機農業を事例とし、その仕組みと効果に関する分析を上記の枠組みで分析を行った。
著者
齋藤 ひろみ 森 篤嗣 橋本 ゆかり 岩田 一成 菅原 雅枝
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

国内でも外国人の児童生徒が増加しているが、日本生まれ日本育ちの子どもの言語発達支援・教育が新たな課題となっている。本研究では、こうした日本生育外国人児童生徒(日本籍の児童も含む)のリテラシーの発達について、作文を書く力に焦点化して調査を行った。外国児童生徒と日本人児童生徒から、出来事作文と意見文作文という2つのジャンルの作文データを収集し、産出量、表記、語彙、文法、内容構成等の観点で分析を行った。その結果、産出量、社会性の表出には日本人児童と同等の発達が見られたが、特殊音表記、文法適格性、結束性、陳述の適確さ・多様さ、論理性にやや遅れが見られ、これらを意識した指導が求められる。
著者
辻川 ひとみ 北浦 かほる
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.63, no.506, pp.69-74, 1998
被引用文献数
1

This study is to investigate how was the city of Edo with remodeled five compositional elements K.Lynch proposed. I used Edo-zu-byobu and Edo-meisyo-zu-byobu. And this is to investigate factors that form image of the city and support legibility of the districts for the people. As the result, 1) How to image of the city varies according to the social level and life style. 2) There is difference of district's forms between two Edo-zu-byobu. One was characterized by "water", another was characterized by "street". 3) Street furniture would be one of factors on legibility of the district.
著者
伊藤 映 福岡 俊之 藤田 卓志 西山 聡一 渡辺 和之 田口 ひとみ
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.351-352, 1993-03-01

近年、パーソナルコンピュータはその普及のめざましいものがあるが、個人が生活のパートナーとして使うとうい点ではまだまだ、心理的にはパーソナルとはいえない状況である。我々は、コンピュータの操作性という意味での「物理的な壁」はもとより、人とコンピュータのスムーズでかつ深いコミュニケーションを阻む「心理的な壁」をも取り除いた「つき合いたくなるコンピュータ」のためのヒューマンインタフェースの研究を行っている。特に、コンピュータ上に、賢いだけでなく親しみをもって接することのできる生物のような「エージェント」を用いた対話を提案している。その研究の一環として、コンピュータの内部世界を写し出し、利用者とその世界との仲介を行う「仮想生物」というエージェントの導入を提案し、コンピュータ内の「仮想世界」に没入し、仮想生物と対話できるシステムを試作した。本稿では、試作したシステムの概要とその基本モデルの考え方、更にシステムの基盤となるプラットフォームの実現例について述べる。
著者
松崎 浩之 笹 公和 堀内 一穂 横山 祐典 柴田 康行 村松 康行 本山 秀明 川村 堅二 瀬川 高弘 宮原 ひろ子 戸崎 裕貴
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

南極ドームふじアイスコア中の過去72万年にわたる宇宙線生成核種記録を加速器質量分析で分析した。特徴的な宇宙線イベント(ラシャンプ、ブレーク、アイスランドベイズン)を詳細に解析したところ、宇宙線生成核種(特にベリリウム10)の記録が、グn一バルなイベントの記録となっていることが証明された。これにより、古環境研究における、より信頼性の高い年代指標を確立する道が拓けた。
著者
江口 ひらり 土橋 葵 下田 真紀
出版者
Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.216-218, 2011-03-01

本研究は,平成22 (2010)年度日本農芸化学会大会(開催地 東京)時に開催された第5回「ジュニア農芸化学会」において"優秀賞"に選ばれた.環境廃棄物(プリントなどの廃棄ペーパー)の再資源化を,キノコの栽培という簡便な手段で達成しようとする先進的,かつ実用的な研究である.本技術は,様々なタイプの廃棄ペーパーに適用可能であり,また環境負荷が少なく,資源・エネルギーの循環を促進する経済的なメリットもある.21世紀にふさわしいグリーンテクノロジーとして,その実用化が期待される.
著者
吉田 倫子 篠原 ひとみ 兒玉 英也 成田 好美 杉山 俊博
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.472-480, 2012-01

味覚センサにより,乳腺炎を発症した母親の母乳の味の変化について検討した。母乳育児中で産後2ヵ月まで乳房トラブルのない母親18人(対照群)と,乳腺炎で外来を受診した産後1年以内の母親14人(乳腺炎群)を対象とした。対象から採取された母乳は,味覚センサ(味認識装量SA-402B)を用い,酸味,塩味,苦味,旨味,渋味の5種類の味覚項目について分析した。対照群の母乳の味は,初乳から成乳への移行に伴い苦味の増加(p<0.01),塩味と旨味の減少(p<0.01,p<0.05)がみられ,成乳となってからは変化がなかった。乳腺炎群は対照群と比較すると旨味の増加(p<0.01)と渋味の低下(p<0.01)が認められた。また,患側の母乳は健側に比べて塩味と旨味が増加(p<0.05,p<0.01)し,酸味が低下(p<0.05)していた。そして,治癒後には苦味と渋味が増加(p<0.01,p<0.05)していた。以上より,乳腺炎時の母乳は塩味や旨味が増加し,酸味や苦味,渋味が低下することが考えられる。乳腺炎群の8割の児に授乳を拒否する行動が観察され,児は鋭敏にこのような味の変化を認知していると推定された。