著者
福原 敏男
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
no.45, pp.p257-325, 1992-12
被引用文献数
1

一つ物と称する稚児や人形がお渡りする祭礼がある。従来民俗学ではこれをヨリマシ(憑坐・依坐)・ヨリシロ(憑代・依代)と解釈してきた。それに対して、本稿では近畿・九州地方の事例を中心に検討することによって一つ物を再考する。一つ物は平安末期に畿内の祭礼において、馬長(童)が田楽・王の舞・獅子舞・十列・巫女神楽・相撲・競馬・流鏑馬という当時の典型的な祭礼芸能の構成に組み入れられることによって成立した。その成立の場は、宇治・春日・祇園・稲荷・今宮・日吉などの祭にある。一つ物は中世に畿内の祭礼・法会芸能から各地へ、天台―日吉社系の神事芸能構成の一つとして、あるいは八幡社放生会系の神事芸能構成の一つとして伝播した。各地に土着した一つ物は、中世祭祀組織や宮座が解体・変質すると多くのものは消えていった。一つ物はもともと若者や大人も勤め、その生命は意外性や目立つ趣向にあった。しかし、一つ物は祭という同一の形が繰り返される行為のなかで、芸もなくマンネリ化がすすみ多くのものは飽きられて消えていった。そのなかで、稚児や人形が動員されることによってのみ愛でられ命脈を保ち得た。一つ物は元来神賑であったので行列に参加する宗教的意味は希薄で、近代になって民俗学者により憑坐と解釈された。一つ物の本質が、本来の俗(渡り物の一種)から聖(神霊の憑坐)へと解釈されていき現在の定説となっている。一つ物はその発生の平安期の祭礼において、すでに神輿とともに登場している。神学的にいうなら神は神輿にのって御旅所にお渡りするのに、何故別に憑坐に神を憑らせなくてはならないのだろうか。「一つ物」の「一つ」は、数詞とともに一番という順序の意味もあり、一番最初にお渡りをする、一番目立つ、という二つの意味があるのではないか。一つ物の本質は、渡り物・神幸・神のみゆき(お渡り)・渡御・行列(パレード)における風流なのである。In some festivals, a child or doll called "Hitotsumono" passes in the procession. In folklore, this has been conventionally interpreted as Yorimashi or Yorishiro (an image into which the divine spirit enters). As against this, this paper reviews the Hitotsumono by investigating examples mainly in the Kinki and Kyûshû Districts. The Hitotsumono came into being in the late Heian Period in the festivals of the Kinai Region, when a horse driver (a child) was brought into the framework of then typical festival entertainments, such as Dengaku (ritual music and dancing performed in Shinto shrines and Buddhist temples), O-no-mai (King's Dance), Shishimai (ritual lion dance), Seinoo (Court dance performed at the Kasuga shrine), Mikokagura (shrine maidens' music and dancing), Sumô (wrestling), Kurabeuma (horse racing), and Yabusame (horseback archery). The Hitotsumono appeared in the festivals of shrines at Uji, Kasuga, Gion, Inari, Imamiya, and Hie. The Hitotsumono spread from these festivals in the Kinai Region in the early Middle Ages, to various parts of the country, as one of the entertainments for divine service connected with the Tendai-sect and Hie-Shrine, or as one of the entertainments for divine service connected with the Hachiman-Shrine Hôjôe (Buddhist ceremony in which captured animals and fish are released to fields, mountains, ponds or marshes). Many of the Hitotsumono, which became established in various areas, disappeared when the framework of the festivals of the Middle Ages and the Miyaza (local organizations for festivals) were dissolved, or changed in quality. The Hitotsumono was, originally, performed also by young people and adults, and its existence depended on unexpectedness and eye-catching ideas. However, in the repetition of the same acts in festivals, the Hitotsumono became stereotyped with no special art, and most of them lost popularity and disappeared. Only Hitotsumono which brought a child or a doll into the performance remained in existence. The Hitotsumono was originally a medium, so its participation in a parade had no religious meaning. In the Modern Age, folklorists came to consider it as an image into which the divine spirit enters. The interpretation of the essence of the Hitotsumono shifted from that of its original secular existence (a type of performance in the parade) to a sacred one (an image into which the divine spirit enters); the latter is the commonly accepted opinion at the present. The Hitotsumono already existed in festivals in the Heian Period, together with Mikoshi (portable shrines). From the theological viewpoint, the question is why a god should have to rest on a separate image, though the god passes to Otabisho (the resting place) by a portable shrine? "Hitotsu" of the Hitotsumono is not a cardinal number, but an ordinal number. It seems to have two meanings; the Hitotsumono passes by first, and it is the most conspicuous. The essence of the Hitotsumono is the elegance of the procession, the divine presence, the divine visit, or passage, or parade.
著者
福原 敏男
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.117, pp.251-268, 2004-02

嘉永五年(一八五二)六月三日夜より三夜連続して、兵庫津の二七の町々(現在の神戸市兵庫区の二六町と中央区の相生町に相当する)が雨乞を目的として、西国街道を舞台に一大灯火行列を繰り広げた。本稿では、その光と色彩と音のページェントともいうべき造り物風流を取り上げて、その風流史的意義について考察する。雨乞というと連想されるのは修験者の祈禱など、すぐれて宗教的な行為である。しかし、本稿で取り上げる雨乞は、危機儀礼というにはあまりに華美であり、新出の『嘉永五子年六月 福原雨乞記』(神戸市立博物館蔵)の挿絵を見ると、あたかもテーマパークにおけるイベント・パレードを見るような、心うきうきする楽しさがある。それはまた、観客の視線を意識した祭礼行列のようでもある。同書巻末によると、惣人数一万三百人あまり、ほかに北浜と南浜の町より加勢人足約五〇〇〇人、松明一二〇〇、半鐘四〇七、太鼓三〇四、大釣鐘四、八丁鉦三〇、法螺貝六三、弓張提灯七一二〇が参加したと記される。一般的に、村落の雨乞いの方法として、村中の人々が鉦・太鼓・法螺貝などを鳴らしながら、松明を持って行列を作って氏神などを出発して村を一周し、近くの霊山に登り、河原に降りてきて松明を積んで燃やす千本松明行事が知られる。兵庫津の事例はその都市版と想定できるが、兵庫津の内でも、農民が集住する「地方十八町」のうち一六町が参加しており、日照りは農業にとって深刻であったことをうかがわせる。稲の生育期の旧暦六月初旬における降雨の多寡は、稲作にとって死活問題だからである。毎年繰り返される年中行事と異なり、雨乞のような一回性の臨時の行事においては、殊に、各町の創意工夫が発揮され、まさに風流の精神が溢れ出る行事ともいえよう。Starting on the third day of June 1852, the 27 machi of Hyogotsu (currently the 26 machi in Hyogoku and Aioi-machi in Chuo-ku, Kobe City) took part in a grand lantern procession along the Saigokukaido in which they prayed for rain. This paper looks at this refined "tsukuri-mono", which may also be described as a pageant of light, color and sound.The practice of praying for rain is associated with prayers by mountain ascetics, and as such is an exceedingly religious practice. However, the practice of praying for rain described here is too ostentatious for a ritual performed at a time of crisis, and from the illustrations contained in the newly found "Fukuhara Record of Prayers for Rain in June 1852" it is a lively and entertaining procession of the kind one would see at a parade at a theme park. It resembles a festival parade that is aware of the gaze of onlookers.At the end of this document it is recorded that a total of more than 10,300 people took part in the procession, as well as 5,000 helpers from Kitahama and Minamihama, 1,200 torches, 407 small hanging bells, 304 drums, 4 large hanging bells, 30 "hatcho" bells (usually attached to the body), 63 conch shells and 7,120 hand-held lanterns. The method of praying for rain for the villages involved the villagers using the bells, drums, conch shells, etc. to produce noise at the same time as they were forming a procession in which the participants held torches as they departed from the site of the tutelary deity, completing a circuit of the village, climbing a nearby sacred mountain, descending to the banks of a river where they gathered the torches together in a bundle and burned them in a practice known as the "thousand torches" (senbon shomei). We may assume that this example from Hyogotsu was an urban version, although peasants living in 16 of the 18 towns in the area within Hyogotsu took part in the procession, which suggests the seriousness of the continued dry weather for fanning. For rice cultivation, the amount of rain that falls in the beginning of the sixth month following the lunar calendar when the rice is starting to grow is a matter of life or death.Unlike the annual events that are repeated each year, practices like praying for rain that are special one-off practices display the creativity of each town and truly exhibit the spirit of refined practices (furyu).
著者
松田 外志朗 栗原 敏修 浅沼 博司 中江 晴彦 冨吉 浩雅 森田 正則 嶋津 岳士 平出 敦
出版者
近畿大学医学会
雑誌
近畿大学医学雑誌 = Medical journal of Kinki University (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1-2, pp.71-79, 2012-03-01

[抄録] 糖尿病患者の増加及び高齢化に伴い, 低血糖症例は増加している.重症症例は, 意識障害などのため他者の援助を必要とし, 救急搬送されることが多い.低血糖症例にいかに対応するかは救急医療の現場において重要な問題である.近畿大学医学部附属病院では, 低血糖症例のほとんどが救急診療部門(ER)において初期治療がなされている.当院ERにおいて, 2008年4月から2010年3月までの2年間で84回の低血糖によるER受診があった.意識障害あるいは意識消失を主訴とする症例が多く, 高齢者の割合も高い.内分泌代謝内科で治療されている症例は半数以下であり, 糖尿病以外の疾患のために他の診療科かかりつけとなっている症例が多かった.低血糖症例に対し適切な初期診療を行うために, 当院における低血糖症例の特徴を検討し, 初期診療において必要な情報について解説する.また, 初期診療において, 注意を要する症例として, 低血糖が10時間以上遷延した7症例, 糖尿病治療を受けていなかった非糖尿病の12症例をとりあげる.さらに, 患者の高齢化や社会的な要因から留意すべき点について考察する.
著者
阿部 なつ江 金松 敏也 末次 大輔 山崎 俊嗣 岩森 光 安間 了 平野 直人 折橋 裕二 原田 尚美 富士原 敏也
出版者
日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, pp.189-189, 2010

海洋研究開発機構・海洋研究船「みらい」によるMR08-06航海(通称:SORA 2009: South Pacific Ocean Research Activity 2009)は、南太平洋および沈み込み帯における地質学・地球物理学的研究ならびにチリ沖における古海洋環境変動復元研究を行う事を目的とし、平成21年1月15日(木)関根浜出港 ~ 平成21年4月8日(水)バルパライソ入港までの計84日間、3レグに渡り実施され,レグ1は、1月15日関根浜出港~3月14日バルパライソ入港までの59日間実施された。そのレグ1における航海実施概要と,太平洋横断中の海底地形・重力の測定結果を発表する。
著者
伊藤 剛 中村 和也 日野原 達哉 栗原 敏之
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.345-358, 2021-10-13 (Released:2021-10-20)
参考文献数
46
被引用文献数
5

本論では,足尾山地鳴神山東方に分布する足尾帯ジュラ紀付加体の大間々コンプレックス及び黒保根–桐生コンプレックスから産出した放散虫を報告する.三畳紀放散虫及びコノドント片が大間々コンプレックスのチャートから産出した.中期ジュラ紀のバッジョシアン期及びバトニアン前期の放散虫が大間々コンプレックスと黒保根–桐生コンプレックスの泥岩から得られた.先行研究で両コンプレックスから報告された中では,泥岩に含まれるバッジョシアン期の放散虫が最も若い記録であった.従って,本研究で報告したバトニアン階下部の泥岩は,より若い記録となる.
著者
神原 敏光 周 艶陽 川嶋 善仁 岸田 直子 水谷 健二 池田 孝夫 亀山 孝一郎
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.179-186, 2003-09-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
12
被引用文献数
1

甘草の化粧品添加物としてのさらなる利用を目的に, Glycyrrhiza inflata Batalinの根から調製したリコカルコンAを主要成分とする抽出物である油溶性甘草エキスP-Uについて, 新たな皮膚科学的有用性を検討した。その結果, 本抽出物はテストステロン5α-リダクターゼ, リパーゼおよびホスホリパーゼA2の阻害作用やアンドロゲン受容体結合阻害, 抗菌およびSOD様作用など, スキンケア, 特にニキビの形成や悪化の抑制に係わる種々の作用を示した。これらの試験結果を基に, ニキビ患者に対する油溶性甘草エキスP-Uの効果を検証し, その有効性が推定された。
著者
松原 敏浩
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.55-65, 1984-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本研究の目的は, リーダーシップ行動の部下のモラールへの影響が, 部下のパーソナリティ, 部下の職務特性, 部下の職位水準によってどのように規定されるかを検討するものである。リーダーシップ行動は, PM式リーダーシップ測定尺度によって測定された。モデレーターである部下のパーソナリティ特性は, YG性格検査, 職務特性は質問紙によって測定された。そして部下のモラールも質問紙によって測定された。得られた主な結果は, 次の通りであった。1. 部下によって認知された上司の目標達成行動 (P行動) と部下のモラール (満足感次元) との関係は, 情緒的に安定した部下の方が, そうでなひものよりもより高い正の相関を示した。2. P行動と部下のモラールの凝集性次元との関係は, 社会的活動性に富む部下の方がそうでないものよりもより高い正の相関を示した。3. P行動と凝集性次元との関係は, 多様性に富む職務, 協力の必要性のある職務のものの方がそうでないものよりもより高い正の関係を示した。4. P行動と部下のモラールとの蘭係は, 部下の職位水準の上昇とともに増加した。5. 部下によって認知された上司の集団維持行動 (M行動) とモラールとの関係におよぼすモデレーターとしての部下のパーソナリティ特性の役割は, P行動の場合ほど明確でなかった。6. M行動とモラールとの関係は, 多様性に欠ける職務の方が富む職務よりもより高い正の相関を示した。7. 部下の成長欲求は, モデレーターの役割が明確でなかった。結果は, Houseのパス・ゴール理論, 三隅のPM理論から考察された。
著者
屋敷(土肥) 圭子 木曽 昭典 周 艶陽 岩崎 大剛 神原 敏光 水谷 健二
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.274-280, 2009
被引用文献数
1

皮膚組織における皮下脂肪の増加は,リンパ管や血管を圧迫し皮膚のたるみやむくみなどのトラブルを引き起こすだけではなく,ボディラインを崩すセルライトなどを形成する。われわれは,植物抽出物のさらなる応用を化粧品に広げるために,皮下由来の脂肪細胞に対する分化誘導抑制作用および脂肪分解促進作用について検討した。本研究では,ヒト皮下由来の前駆脂肪細胞を用いて,分化誘導抑制作用について数種類の植物抽出物をスクリーニングした結果,オウレン抽出物とその主成分であるベルベリンに作用があることを見出した。さらに,前駆脂肪細胞から成熟脂肪細胞へ分化するさいに関与する遺伝子発現を解析した結果,オウレン抽出物およびベルベリンにこれらの遺伝子を抑制する作用が認められた。また,オウレン抽出物およびベルベリンには,成熟脂肪細胞に対して脂肪分解作用および熱産生関連遺伝子の発現促進作用を有することが明らかになった。本研究においてわれわれが検討したオウレン抽出物およびその主成分ベルベリンは,中性脂肪を増やさず,すでに蓄積した脂肪を分解することが期待され,ボディケア製品やスリミング化粧品などへの応用が示唆された。
著者
上原 敏則 粟國 敦男 金城 健 我謝 猛次
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.506-512, 2013-09-25 (Released:2013-11-26)
参考文献数
3

上位頚髄損傷では四肢麻痺に加え呼吸筋麻痺(respiratory quadriplegia)を伴い急性呼吸不全のため人工呼吸器での呼吸管理が必要となる.当医療センター開設後このような急性呼吸不全を伴う四肢麻痺の症例を8例経験した.来院時に直ちに挿管となったのが4例,そのほかは数時間後また数日後に挿管となった.2例は死亡した.これらの症例の脊髄損傷レベル,脊髄損傷程度(フランケル分類),合併損傷,など予後に影響するとおもわれる因子を調査した.死亡例の1例はC2椎体骨折で椎骨動脈損傷が疑われており,来院時より意識無く挿管となり5日後に死亡した.死亡例のもう1例は後縦靱帯骨化症を伴っており来院時意識呼吸とも安定していたが,2日後に突然心肺停止となり死亡された.環軸椎脱臼の1例は4年後の現在も人工呼吸器からの離脱無く,残りの5例は気管切開後人工呼吸器から離脱できた.これらの損傷レベルはC2/3脱臼以下で,来院時1例を除いてフランケル分類で完全麻痺のAであった.またC5/6脱臼の下位頚椎損傷も1例あった.
著者
福原 敏男
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
no.57, pp.p1-23, 1994-03
被引用文献数
1

筆者はこれまでに、祭礼芸能である一つもの・細男について考察し、これを平安末期に成立した田楽・王の舞・獅子舞・十列・巫女神楽・競馬・流鏑馬・神楽・舞楽・神子渡等からなる一連の芸能として位置づけた。京都・奈良の古社の祭礼において、「日使」と称する役が、上記の諸芸能とともに、祭礼に参加する事例がある。従来の日使に関する先行研究は、春日若宮祭礼に限られ、ここに神聖性が指摘された。日使は黒袍表袴に長い裾をひいた姿で、奉幣を主な役割とし、芸能的所作がないからであった。本稿では、春日祭・春日若宮祭礼、東大寺八幡宮転害会、大山崎離宮八幡宮の日使神事、山城宇治田原三社祭に参加する日使を対象にした。史料と絵画に基づく検討の結果、日使の成立を楽人の風流に求めた。日使が伝播した地における宗教性は、その所役を荷った人々の階層の問題である。Up until now the writer has studied Saino-o, one of the ritual arts, and has ranked it as one of the series of arts that came into existence in the later Heian Period and was comprised of Dengaku, Ō-no-mai, Shishimai, Totsura, Miko-Kagura, Kurade-uma, Yabusame, Kagura, Bugaku, Mikowatashi, etc. In the festivals of the ancient shrines of Kyōto and Nara, there are instances where a character named 'Hinotukai' participates in the festival together with those named above.Preceding research into the Hinotsukai has been confined to the Kasuga Wakamiya Festival, in which its sanctity has been pointed out. This is because the Hinotsukai, dressed in a formal black overgown (Ho) and long trailing hakama, played a major part in the offering, and showed no artistic behaviour. This paper deals with the Hinotsukai participating in the Kasuga Festival, the Kasuga Wakamiya Festival, the Tōdaiji Hachimangu Tegaie, the divine services of the Ōyamazaki Rikyū Hachimangu, and the Yamashiro-Uji-Tahara Triple Shrine Festival. The results of a study based on historical materials and folklore show that what the Hinotsukai in each case share in common is that a line can be drawn between this and the other artistic, elegant dancing; and that while it has become more refined, the religious element can be strongly felt.
著者
板宮 朋基 村上 智一 小笠原 敏記 川崎 浩司 下川 信也
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B3(海洋開発) (ISSN:21854688)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.I_773-I_778, 2018 (Released:2018-09-12)
参考文献数
19

最大級台風の最悪コースによる三大湾への襲来に対する高潮浸水予測の数値計算は,これまで数多く行われている.その結果は自治体などにおいてハザードマップなどの防災情報として活用されている.しかし,地域の住民や子供たちに有益な防災情報として提供していると思われがちであるが,実際には災害をリアルに捉えることが難しく,発災時に取るべき行動を,感覚的・知覚的に学ぶことができない.そこで本研究では,数値計算で得られる高潮浸水の結果を基に,専門知識がない人でも直感的に浸水状況を理解してもらうため,VR(人工現実感)ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いた高潮想定没入体験システムの開発と有用性の評価を行う.HMDはスマートフォンに装着して用いるため,1セット当たり約9万円と低価格で構築でき,運用が容易である.
著者
飛田 幹男 辻 宏道 高橋 保博 川原 敏雄
出版者
日本測地学会
雑誌
測地学会誌 (ISSN:00380830)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.181-192, 2003-09-25 (Released:2010-09-07)
参考文献数
9

Correction vectors from coordinates in datum sheet to coordinates surveyed by static GPS at 57 Japanese islands in Tokyo Datum are calculated and compiled. The magnitude of the corrections of Iwo-jima, Daito-jima, Tarama-jima, Ishigaki-jima, and Yonaguni-jima islands exceeds 200 m, because the coordinates in datum sheet in Tokyo Datum were determined by astronomical survey of several tens of years ago. The correction vectors represent internal consistency in Tokyo Datum and can be used for corrections of island maps in Tokyo Datum, e.g., maps in car navigation systems.
著者
栗原 敏 福田 康一郎 佐藤 達夫 江藤 一洋 福島 統 神津 忠彦 高瀬 浩造
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2001

1.共用試験Computer-based Testing (CBT)の試験システムの開発および運用に関する研究:平成13年度にCBTシステムの基本的開発を行った。データベース構造および問題入力ソフトについては東京慈恵会医科大学において総合試験システム(Exam98)を参考に研究、開発を行い、出題方式(コンピュータ試験)、サーバーでの問題管理などは独自開発を行い、平成14年2月からの第1回CBTトライアルに投入した。第1回トライアルで発見されたシステム上の問題点を平成14年度の本研究により改修し、平成15年2月からの第2回CBTトライアルに投入している。2.MCQ問題の作成とその質の確保に関する研究:第1回トライアルでは5肢択一形式のいわゆるタイプAの多肢選択問題を出題し、出題したすべての問題を解答率、識別指数、解答パターンを参考に検証した。この検討の結果、共用試験CBTの問題の質を確保するためには、項目反応理論の適応が必要であるとの結論に至り、現在、項目反応理論のCBTへの適応の検討が続いている。第2回CBTトライアルでは、さらにわが国の独自開発による順次解答型連門形式を試行している。順次解答2連門形式、順次解答4連門形式は、コンピュータ試験の特性を生かしたもので、問題解答後次の問題に移ったら前の問題には戻れないタイプのもので、紙と鉛筆の試験では実施できなかったものである。このタイプを用いることで、受験者が一つの症例について順次情報が集積されていく過程の中での判断を問うものである。本形式は米国のSTEP1にもなく、わが国独自の出題形式である。3.客観的臨床能力試験(OSCE)の開発と運用に関する研究:平成13年度の共用試験OSCEは医科、歯科あわせて20校で、少数トライアルとなった。この第1回OSCEトライアルでの学生成績を集め、評点の評価者間較差の研究を行った。4.歯学における試験の作成と運用に関する研究:医科、歯科ではとくにOSCEの課題に大きな相違があり、その相違が運用にどのように影響するかのデータを集積した。
著者
杉原 敏道 有馬 慶美 郷 貴大 三島 誠一 武田 貴好
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.159-162, 2003 (Released:2003-08-13)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1 1

適切なメタ認知能力を兼ね備えた学生は問題を適切に感知することが可能となるため学力は高いと予想される。本研究では,理学療法における学生教育の一助とすべく,メタ認知能力と学力の関係について検討を行った。その結果,両項の間に有意な相関関係が認められた(r=0.95,p<0.01)。このことは,学力へのメタ認知の関与を明らかにするとともに,教授方略としてのメタ認知能力獲得の重要性を示唆するものと考えられた。したがって,学内教育においては,単に知識を伝授するような教授方略を用いるのではなく,メタ認知能力を促すような教授方略を用いることが重要であると考察された。
著者
近藤 成一 海老澤 衷 稲葉 伸道 本多 博之 柳原 敏昭 高橋 敏子 遠藤 基郎 渡邉 正男 神野 潔 野村 朋弘 金子 拓 西田 友広 遠藤 珠紀 山田 太造 岡本 隆明
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

未刊古文書釈文作成のための協調作業環境を構築することにより、未刊古文書の釈文を歴史学のコミュニティにおいて協同で行うことを提起し、史料編纂のあり方について新たな可能性を模索するとともに、歴史学のコミュニティの実体形成にも寄与する基礎とした。釈文作成のために外部から自由な書き込みを許す部分と、作成された成果を史料編纂所の管理のもとに公開する部分を構築し、前者から後者にデータを選択して移行するシステムを設けた。