著者
森田 啓 片岡 暁夫 近藤 良享
出版者
Japan Society for the Philosophy of Sport and Physical Education
雑誌
体育・スポーツ哲学研究 (ISSN:09155104)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.25-43, 1998 (Released:2010-04-30)
参考文献数
48

The purpose of this study is to show that the sport world should choose the common good based on the dispute between liberalist and communitarian.Though the word liberalism is ambiguous, we define liberalism as the thought based on unencumbered selves (M. J. Sandel), which includes utilitarianism, deontological liberalism, or revisionist's liberalism. Needless to say, liberalism depends on civic virtues.Liberal democracy in this century destroys the civic virtues, so that liberalism reaches the extreme relativism which denies the past and present values and goodness and affirms the unlimited selfishness, especially economic one.In favor of communitarians' criticism, we agree with Sandel's contention of situated selves rather than ‘unencumbered selves’ and propose that we should make an effort to recover the common good in our society.Turning to the sport world, we have gradually swept away its original ethics such as sportsmanship, fair play and the mind of social relationship in England in 19th century. And now the sport world also accepts the tendency of the unlimited self-interest, especially economic one.The ethics of ordinary world has nothing to do with that of the sport world, but the latter bases on the former. In conclusion, we must note that the sport world should maintain the traditional common good because the ordinary world also needs to reinstate us in the common good.
著者
有馬 多久充 梁 葉飛 森田 愛子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第21回大会
巻号頁・発行日
pp.83, 2023 (Released:2023-10-18)

内声化は頭の中で文章を音読する活動のことであり,内声化中に聞こえる声の種類や鮮明さには個人差がある。本研究では,大学生を対象に挿絵の有無 (研究1) や会話主の種類 (研究2) が,内声化の具象性にどのような影響を与えるか検討を行った。研究1では,挿絵の有無を操作した文章の読解後に,研究2では,文章の会話主 (人間・人間以外) を操作した文章の読解後に,内声化量と内声化の具象性について評定を求めた。その結果,研究1では,挿絵なし条件では,登場人物に合わせた声での内声化や声の使い分けがやや行われにくかった。研究2では,人間以外が会話主である条件では,文章によって内声化時の声の種類数が変化する人が多かった。これらの結果から,個人の内声化のしかたは一貫しているわけではなく,聞こえている声の種類数は文章によって変化しており,会話主の種類といった文章の特性によって変化のしかたが異なることが明らかとなった。
著者
横関 彩佳 森田 倫正 小浜 尚也 永見 慎輔 福永 真哉
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.173-179, 2022-12-31 (Released:2023-04-30)
参考文献数
26

【目的】高齢者の嚥下障害の有無は誤嚥性肺炎と密接に関連し,その発症リスクを増加させることが指摘されている.そのため,早期から嚥下機能の評価や対応を行うことが望ましい.当院では,嚥下障害が疑われた症例に対し,主に嚥下内視鏡検査(VE)を用いて評価を行っている.VE 検査は簡便に実施することができ,質の高い評価が可能であるものの,本邦ではVE 検査所見から誤嚥性肺炎発症との関連因子を検討した報告は少なく,十分な研究が行われていない.そこで本研究では,臨床現場でしばしば遭遇する高齢者の誤嚥性肺炎に焦点をあて,VE 検査所見から嚥下動態を解析することで,誤嚥性肺炎の発症に関連する因子を明らかにすることを目的とした.【対象と方法】当院にて嚥下障害が疑われVE 検査を受けた65 歳以上の高齢者254 例を対象とし,1 カ月以内に誤嚥性肺炎発症の既往がある群(54 例)と非発症群(200 例)で,VE 検査における嚥下動態について統計学的に比較検定を行い,関連性を検討した.加えて,検査時の姿勢,藤島の摂食嚥下能力グレード(FILS),栄養状態について統計学的に比較検討を行った.【結果】誤嚥性肺炎既往群と非既往群の群間比較では,男性,高年齢,神経変性疾患の有無,検査時の姿勢,FILS で有意差を認めた(p<0.05).VE 検査所見では,声門閉鎖の程度,梨状陥凹唾液貯留,早期咽頭流入,水分の梨状陥凹残留で有意差を認めた(p<0.05).誤嚥性肺炎の既往の有無を目的変数,2 群間の比較で有意差を認めたVE 検査項目を説明変数としたロジスティック回帰分析では,早期咽頭流入が抽出された.【結論】本研究の結果,誤嚥性肺炎の既往がある高齢者のVE検査所見から,誤嚥性肺炎の既往に関連する因子として早期咽頭流入に着目する必要があると考えられた.
著者
森田 清三 杉本 宜昭 阿部 真之
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.51-54, 2010-03-30 (Released:2020-01-21)
参考文献数
9

原子間力顕微鏡による力学的原子操作について最初に説明し,つぎに,異種原子交換型垂直原子操作現象の発見と,これが探針先端原子を試料表面原子と室温で直接垂直交換できる夢の交換型単原子ペンであることについて明らかにする.最後に,原子埋め込み文字“Si”の組み立てにより,交換型単原子ペンによる室温での高速ナノパターンニングの可能性を示す.
著者
加藤 和子 駒込 乃莉子 峯木 眞知子 森田 幸雄
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.259-265, 2019 (Released:2019-05-23)
参考文献数
15
被引用文献数
1

セレウス菌食中毒における赤飯の危害要因について検討した. 市販赤飯は34検体を購入し, 購入当日と18℃, 24時間保存したものを試料とした. 赤飯製造に用いる食材として, ささげ (10検体), あずき (7検体), ごま (12検体) の29検体を購入し試料とした. 細菌検査は一般生菌とバチルス属菌の定量検査を実施し, 分離したバチルス属菌は菌種の同定を行った. 一般生菌数1.5×104CFU/gとバチルス属菌5.2×102CFU/gが検出される汚染ごまを用いて160℃における殺菌時間の検討を行った. 購入当日の赤飯は3/34検体から, 24時間保存後の赤飯からは8/34検体からバチルス属菌が検出された. ささげ, あずき, ごまでは各々2/10検体, 1/7検体, 3/12検体からBacillus cereus, B. mycoides, B. lentus等のバチルス属菌が検出された. 汚染ごまを160℃に加熱したところバチルス属菌は未検出となった. 市販赤飯やささげ, あずき, ごまからバチルス属菌が分離されることが確認された. ごまは赤飯のセレウス属菌の高い危害要因であると思われることから, 振りかける前にはよく加熱することが必要と思われた.
著者
森田 龍僊
出版者
密教研究会
雑誌
密教文化 (ISSN:02869837)
巻号頁・発行日
vol.1974, no.105, pp.1-19, 1974-02-15 (Released:2010-03-12)
著者
宮﨑 友裕 森田 哲夫 木之下 僚太郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.11, pp.22-00166, 2023 (Released:2023-11-20)
参考文献数
10

本研究では,DMOによる観光満足度調査の際,来訪前の期待度を合わせて収集・分析することで,DMOが自地域の代表的な観光施設の評価・改善点の把握につなげることを試行した.調査では道の駅の各機能について,来訪者の事前の期待度と来訪時の満足度,総合満足度を各5段階で収集した.集計・分析の結果から,「道の駅」来訪者の期待度の強い項目として駐車場・トイレ・物産品販売を得た.道の駅総合満足度を目的変数とした重回帰分析による満足度モデルでは,駐車場の満足度と期待度の差分を有意な説明変数として得た.来訪者は駐車場に関して事前に道の駅の他の機能に比べ強く意識している可能性が示された.期待度が大きい項目では,事前の情報提供の改良等により総合満足度を向上できると考える.
著者
清水 充 野田 勉 山野 哲夫 山田 明男 森田 茂
出版者
Osaka Urban Living and Health Association
雑誌
生活衛生 (ISSN:05824176)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.215-220, 1993-09-10 (Released:2010-03-11)
参考文献数
20

化学的合成品以外の食品添加物31種36品目についてマウスおよびラットにおける急性経口毒性試験を実施し、以下の結果を得た。1) 投与量が5.0g/kg以下の用量で動物の死亡が認められた試料はパルマローザ、ボアドローズ、茶抽出物、キラヤ抽出物、ヒノキチオールの5品目であった。これらのうちキラヤ抽出物およびヒノキチオールのLD50値はいずれも2.0g/kg以下であった。2) キラヤ抽出物を経口投与したマウスでは腺胃および小腸粘膜に浮腫、出血がみられた。3) ヒノキチオールを経口投与したマウスでは間代性および強直性痙攣がみられた。4) 上記以外の試料では動物の死亡は認められなかったが、観察期間終了の剖検ではクチナシ黄色素投与による肝臓の肉眼的変化が観察された。
著者
柴田 俊子 奥住 祥恵 篠原 有由子 森田 文子 光永 知和子 嶋本 圭 大音 清香 井上 賢治
出版者
日本視機能看護学会
雑誌
日本視機能看護学会誌 (ISSN:24333107)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.28-31, 2023 (Released:2023-11-22)
参考文献数
3

目的:A病院における夜間・休日の救急患者電話対応の業務の統一化を図るためにマニュアルを作成し評価を行う。 方法:調査期間:2020年3月~ 7月 対象:看護師が電話対応をした66件 方法:電話対応アンケートに記載されたアンケート内容を収集分析。 結果:電話総数66件のうちマニュアルを参照しなかったのは57件(86%),マニュアルを参照したのは9件(14%)だった。この9件の内訳は手術後の症状3件,アトロピン硫酸塩水和物に対する副作用2件,病状2件, ボトックス®注射1件,クレーム1件だった。 考察:マニュアルを作成することにより病棟では関わらない処置の確認や医師への連絡が簡便になり,病棟看護師の電話対応の統一や看護師の不安の軽減に繋がった。夜間や休日は病棟看護師に他部署の役割が求められる為,定期的にマニュアルの見直しや,追加修正等を行う必要がある。
著者
森田 果 尾野 嘉邦
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

日本の法学研究では,実証研究が少しずつ出現し始めてはいるものの,観察データに依拠したものが主で,実験データを利用した実証研究は少ない。そこで本研究は,実験データに基づいた実証研究を展開することを主要な目的とする。米国においては,どの裁判官がどの判決文を執筆したかが明らかなことから,裁判官の属性や当事者の属性が判決にどのような影響を与えるのかについての研究が盛んである。これに対し,日本では,このようなデータが存在しないことから,同様の研究が難しい。そこで,本研究では,日本においても実施可能な,実験を活用した司法政治の実証研究の手法を探っていく。
著者
森 俊人 谷津 元樹 森田 武史 江上 周作 鵜飼 孝典 福田 賢一郎
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会第二種研究会資料 (ISSN:24365556)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.SWO-059, pp.08, 2023-03-17 (Released:2023-03-23)

DBpediaやWikidataなどの大規模知識グラフは集合知により構築されるため,人手で構築するのには限界があり,不完全な知識グラフが構築されることがある.この問題を解決するために,知識グラフ中の欠損したエンティティや関係を補完する知識グラフ補完に関する研究が行われている.最近は,知識グラフの埋め込みに基づく知識グラフ補完の研究が注目されている.知識グラフの埋め込みに基づく手法の多くは,学習時に利用する知識グラフ(既存の知識グラフ)に含まれるエンティティの表現ベクトルを用いて関係予測などを行う.既存の知識グラフに含まれないエンティティ(未知エンティティ)は表現ベクトルを計算することができないため,未知エンティティに関する知識グラフ補完を行うことは困難である.最新の話題に対応した知識グラフに基づく質問応答や対話システムを構築するためには,未知エンティティを対象とした知識グラフの構築や補完が必要だと考えられる.本研究は,Wikipediaの赤リンクをDBpediaにおける未知エンティティとみなし,DBpediaを拡張することを目的とする.赤リンクとはWikipediaにまだ存在しない記事(記事名)への,初期設定では赤色で表示されるリンクであり,DBpedia上には赤リンクに対応するエンティティは基本的には存在しない.赤リンクはその性質上,記事が作られるべきであると判断されて作られているため,今後,赤リンクに対応する記事が作成され,DBpediaにおける新たなエンティティとして追加される可能性が高い.本稿では,Wikipediaの記事から赤リンクを抽出して未知エンティティとみなし,DBpediaにおける既存エンティティとの関係構築を行う方法について検討する.
著者
加藤 博史 小澤 亘 小川 栄二 マーサ メンセンディー 山田 裕子 石川 久仁子 牧田 幸文 森田 ゆり
出版者
龍谷大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

在日コリアンや中国からの帰国者は、言葉や習慣の壁を持って地域で生きている。中でも、高齢者、障害者は特別な生活支援が必要であり、その充実の方策を探る調査を京都市において行った。調査の結果、「福祉関係者を知っている人」は、日本人43%、コリアン32.6%、中国帰国者20%、「不幸感をもつ人」は、日本人6.4%、中国帰国者10%、コリアン20%であった。また、「幸福感をもつ人」は、日本人44.5%、コリアン35.7%、中国帰国者10%であった。その他のデータからも、日本に暮らす外国籍の人や外国の風習を身につけた人たちの生活支援の必要性と地域の人たちとつなぐ機能の必要性を明らかにしえた。
著者
日本耳鼻咽喉科学会福祉医療・乳幼児委員会 守本 倫子 益田 慎 麻生 伸 樫尾 明憲 神田 幸彦 中澤 操 増田 佐和子 森田 訓子 中川 尚志 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.9, pp.1221-1228, 2019-09-20 (Released:2019-10-02)
参考文献数
11

乳幼児の自覚的聴力検査から得られる情報は重要であり, 可能な限り信頼性の高いデータを短時間に得る必要がある. これらの検査技術の困難度, 信頼度が年齢 (3歳未満, 3~6歳, 6歳以上の3群に分類) や発達レベル (定型発達, 発達障害, 知的発達障害の3群に分類) から受ける影響を, 聴力検査にかかった時間および検者が声かけなどに対する反応などから感じた聴力検査結果との整合性を「検査信頼度」として評価, 検討を行った. 研究参加施設は大学病院, 総合病院, クリニックなど15施設である. 検査の信頼度は, 3歳未満では知的発達障害児で41%, 定型発達児58%, 発達障害児50%と知的発達障害児が有意に低かった. 3~6歳では定型発達児88%, 発達障害児75%, 知的発達障害児73%であり, 6歳以上では発達障害児と定型発達児はどちらも90%以上であったが, 知的発達障害児のみ77%であった. 検査にかかる時間も3歳未満では, 発達による差異は認められなかったが, 3~6歳未満および6歳以上においては, 発達障害児と定型発達児に比べて知的発達障害児の検査時間は有意に長かった. 6歳未満の児への聴力検査には技術と時間がかかること, 発達障害・知的発達障害があるとさらに検者の検査にかける時間や高度な技術が必要となることが明らかになった.
著者
庄司 裕佳子 千住 猛士 森田 祐輔 田中 ゆき 杉本 理恵
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.497-503, 2023-10-01 (Released:2023-10-12)
参考文献数
21

進行肝細胞癌に対するアテゾリズマブ(Atezo)+ベバシズマブ(Bev)併用療法開始直後に発症した腫瘍の胆囊穿破による胆道出血の1例を報告する.症例は70代男性.進行肝細胞癌に対して,day1に一次薬物療法としてAtezo+Bev併用療法を導入したところ,day2に心窩部痛が出現した.Day3に腫瘍の胆囊穿破による胆道出血から胆管閉塞を来したと判断し,緊急ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査)で胆道ドレナージを行った.腫瘍からの出血に対しては,day6に腫瘍血管A6に対してTAE(肝動脈塞栓療法)を施行した.Bevが胆道出血に関与したと考えられ,Atezo+Bev併用療法は中止し,レンバチニブ(Len)を導入し,その後のCTでは腫瘍の縮小を認めた.
著者
遠藤 大斗 宇野 裕美 岸田 治 森田 健太郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2318, (Released:2023-09-08)
参考文献数
47

イトウは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにCRとして掲載されている国内最大級の淡水魚であり、土地開発があまり進んでいない湿原や湿地帯をその流域に含む河川に生息する。そのため、湿地帯に形成される河川の氾濫原はイトウの生息環境に重要であると考えられてきた。しかし、本種に関するこれまでの知見は成魚に関するものが多く、幼魚に関する科学的知見は乏しい。本研究では、イトウの幼魚から成魚までの生息環境特性を明らかにするとともに、同所的に生息する同科魚類との比較を行い、本種の保全対策に寄与することを目的とした。調査は北海道大学雨龍研究林を流れるブトカマベツ川で行った。本河川には氾濫原が存在し、川筋が幾本にも分かれる網状流路が発達している。調査は網状流路が形成する分流域と本流域の2つに分けて実施し、河川規模の小さい分流域ではエレクトロフィッシャーを用いた捕獲を行い、河川規模の大きい本流域ではシュノーケリングを用いた潜水目視を行った。さらに、調査地点の物理環境と捕獲された個体の胃内容物を調べた。30地点で実施した分流域調査の結果、捕獲されたイトウは尾叉長69-137mmの幼魚であった。分流域の物理環境について主成分分析を行った結果、流速が遅く濁度が高いという止水的環境においてイトウ幼魚の生息密度が高くなる傾向が認められた。イトウ幼魚の胃内容物からは、魚類や両生類といった大型動物や動物プランクトンのミジンコ目が確認され、イワナおよびヤマメと比べて陸生落下動物の割合が少なかった。21地点で行った本流域調査の結果、目視されたイトウはいずれも体長300-800 mmの若魚・成魚であった。本流域の物理環境の主成分分析の結果、倒木などのカバー割合が高く深い淵においてイトウ若魚・成魚の生息密度が高くなる傾向が認められた。以上の結果から、イトウ幼魚は氾濫原に形成される流速が極めて遅い場所を選択的に利用するのに対し、イトウ若魚・成魚は流れのある本流で深くカバーのある環境を選択的に利用し生息していることが明らかになった。また、イトウ幼魚は成魚と同様に魚食性を示すことに加え、他のサケ科魚類が選好する陸生落下昆虫以外の餌資源を多く利用することが分かり、イトウは幼魚のときから他のサケ科魚類とは異なる摂餌行動をもつと考えられた。今後、イトウの野生個体群を保全していくためには、氾濫原環境の保全が極めて重要であると考えられた。
著者
澁川 紀代子 成田 浩二 下岡 良典 森田 一豊
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.11, pp.2830-2831, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
5

Streptobacillus moniliformis感染症は皮膚発疹と関節炎を特徴とする急性熱性疾患で,通常はネズミの咬傷によって人に感染し鼠咬症と呼ばれる.症例は糖尿病を基礎疾患にもつ87歳男性.左肩関節痛と腰痛で発症し,両足に数mmの線状の傷を多数認めた.入院時の血液培養でグラム陰性桿菌を検出し,16S rRNA遺伝子特異的PCR法にてStreptobacillus moniliformisと同定され鼠咬症と診断した.PAPM/BP,MINOを投与し,AMPC内服継続によりCRPは陰性化した.
著者
黒木 直美 宮下 奈々 日野 義之 茅嶋 康太郎 藤野 善久 高田 幹夫 永田 智久 山瀧 一 櫻木 園子 菅 裕彦 森田 哲也 伊藤 昭好 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.49-59, 2009 (Released:2009-10-08)
参考文献数
28
被引用文献数
2 1

小規模事業場において良好実践を行っている事業者の産業保健ニーズに関する質的調査:黒木直美ほか.産業医科大学医学部公衆衛生学―本研究では,小規模事業場における事業者の産業保健ニーズあるいは良好実践の動機を把握することを目的とした.これまでの調査では小規模事業場における産業保健活動の遅れが報告されている.これらの知見は主に質問紙調査から得られたものである.しかし,小規模事業場には事業者の意識が直接反映されるという特徴があり,積極的に産業保健活動に取り組んでいる事業場も存在している.このような小規模事業場の良好実践例において,事業者のニーズを分析した研究はこれまでにない.産業保健に対する事業者の動機を明らかにすることは小規模事業場間に良好実践を水平展開する一助となると考えられる.そこで,我々は産業保健活動の良好実践が行われている小規模事業場10社の事業者と半構造化面接を行い,その逐語録をKJ法を用いた質的手法で分析した.その結果,事業者はもっぱら「よい会社」,「よい経営」を強く意識していることが明らかになった.「よい経営」のための要素には「人材確保」,「取引先の信用」,「社会的信用」,「社長自身の健康」という4つがあった.事業者はこれらの要素を達成するため職場の安全,従業員の健康に関する活動は当たり前であると考えていた.さらに,具体的な活動には「コストの問題」,「担当者の問題」,「時間がない」,「外部資源」という既知の制約があった.調査結果から,経営と安全衛生活動を関連づけることが小規模事業場における安全衛生活動の向上に寄与すると考えられた. (産衛誌2009; 51: 49-59)