著者
村上 元 森元 隆文 西山 薫 池田 望
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
pp.27.1.8, (Released:2018-05-18)
参考文献数
36
被引用文献数
1

本研究は,被害妄想的観念の頻度,確信度,苦痛度の3側面に対して影響を与える要因を検証することを目的とした。被害妄想的観念への影響要因としては原因帰属,不安,抑うつを想定した。原因帰属は,内在性,安定性,全般性の3次元とし,内在性についてはさらに内的帰属,外的–状況的帰属,外的–人的帰属の3次元に細分化した。研究には統合失調症患者48名が参加した。階層的重回帰分析の結果,被害妄想的観念の頻度には抑うつと全般性が,確信度には抑うつ,外的–人的帰属,および全般性が,苦痛度には抑うつと不安が影響を与えていた。以上のことから,被害妄想的観念の3側面それぞれは,影響をおよぼされる要因が異なることが示された。したがって,被害妄想的観念への介入に際しては,各側面ごとに,感情の統制,もしくは原因帰属の把握が必要であることが示唆された。
著者
堀野 敬 高森 啓史 馬場 秀夫
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.132-138, 2012 (Released:2012-05-15)
参考文献数
44

喫煙は膵癌発症の危険因子であるばかりではなく周術期合併症の危険因子でもある.しかしながら,膵癌手術の周術期に喫煙が及ぼす影響はほとんど報告されていない.膵癌手術症例96例を対象に喫煙の周術期に及ぼす影響をretrospectiveに解析した.本解析では,喫煙は手術部位感染(創部)の有意な危険因子であったが,循環器・脳血管・呼吸器術後合併症,入院期間および予後には影響を及ぼさなかった.この結果をもとに喫煙が膵癌手術周術期に与える影響を消化器外科領域における喫煙と周術期合併症の観点から概説した.
著者
森田 学 石村 均 石川 昭 小泉 和浩 渡邊 達夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.788-793, 1995-10-30 (Released:2017-10-06)
参考文献数
19
被引用文献数
15

本調査の目的は,再治療が必要とされた様々な歯科修復物について,再治療に至った原因と,それまでの使用年数を調べることである。調査は,岡山市と名古屋市の10歯科医院において行われた。対象は,歯科修復処置が施されているにもかかわらず,歯科医師の判断により,再治療または抜歯が適当と診断された3,120歯であった。調査時に,既存修復物の種類,および,再治療が必要であると判断された理由を記録した。また,その修復物の使用年数を,患者への聞き取り調査から求めた。その結果,レジン,インレー,鋳造冠,アマルガムの平均使用年数は,それぞれ5.2,5.4,7.1,そして7.4年であった。レジン,アマルガム,インレーでは,2次齲蝕を原因として再治療される場合が多く認められた。インレーや前歯部で汎用される補綴物では,脱落によって再治療される場合が多くみられた。しかも,その場合の使用年数は,他の原因で再治療された場合の使用年数と比べて短かった。従って,インレーや前歯部で汎用される補綴物については,その脱落を可及的に防ぐことで,使用年数を効果的に延ばせる可能性が示唆された。
著者
松尾 一輝 森 芳孝 増田 晃一
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.566-568, 2022 (Released:2022-10-10)
参考文献数
6

化石燃料に依存しない,究極のエネルギーを実現するために日本のレーザー核融合研究は始まった。脱炭素社会を実現するという世界的な動きの中で,社会の発展と持続可能性を同時に実現するレーザー核融合商用炉の重要性は,今後さらに高まっていくと考えられる。当社は,日本を拠点とするレーザー核融合エネルギーのスタートアップとしての地位を確立することで,民間資本を集め,高い開発リスクを受け入れながら,実用化に必要な技術開発を加速していく。さらに,レーザー核融合商用炉実現を目指す過程で得られる最先端の光制御技術・知見等を活用し,エネルギー分野にとどまらず,さまざまな産業分野の技術開発に貢献していきたいと考えている。
著者
鹿野 祐介 肥後 楽 小林 茉莉子 井上 眞梨 永山 翔太 長門 裕介 森下 翔 鈴木 径一郎 多湖 真琴 標葉 隆馬 岸本 充生
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.279-295, 2022-11-01 (Released:2022-11-14)
参考文献数
35

The Research Center on Ethical, Legal, and Social Issues (ELSI) at Osaka University and mercari R4D started a practical joint research project in 2021 to innovate based on the concept of ELSI and responsible research and innovation (RRI). This paper describes the research and practice conducted in this joint project on (A) upgrading the ethics review process for research and development, (B) assessing AI-based solution technologies and strengthening AI governance, and (C) conducting a feasibility study for participatory technology assessment on quantum technology, respectively. In this paper, we illustrate the methods and processes of this project, as well as the results of these individual studies, and share critical reflections on the ELSI/RRI knowledge production processes from the perspectives of both ELSI researchers and members of the private sector. Our results provide evidence of the contribution to innovation governance in science and technology from ELSI/RRI research and the knowledge of the humanities and social sciences.
著者
吉場 史朗 加藤 俊一 大谷 慎一 小原 邦義 前田 清子 南 睦彦 寺内 純一 渡会 義弘 金森 平和 稲葉 頌一 絹川 直子
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.48-57, 2009 (Released:2009-06-30)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

目的: 人間が一生の間にどの程度,輸血を受けるのかを知ることは,献血の際に,ボランティア·ドナーに説明するための必要なデータの一つである. 方法: 輸血回数を求めるに当たって,1.年齢別·性別人口,2.供給された献血本数,3.輸血を受けた患者の性別と年齢,を2つの県で集めた.第一は2002年の福岡県で,もう一つは2005年の神奈川県であった.各年齢の輸血回数の計算は,[Page=nage/Nage×T/t]の式で求めた.{Page:nage:各年齢の輸血患者実数,各年齢(Nage)ごとの輸血回数,T: 一年間に供給された血液本数,t: 病院で輸注された血液本数} 結果: 1)福岡県の2002年の全人口は,5,034,311名であった(男性2,391,829; 女性2,642,482).地域の赤十字血液センターは福岡県で輸血されるすべての血液をカバーしていた.2002年の血液供給本数は226,533本であった.一つの大学病院で輸血された患者数は,1,190名(男性646,女性544)であった.これらの患者に使用された血液は13,298本(男性7,210,女性6,088)であった.2)神奈川県の2005年の人口は,8,748,731名であった(男性4,420,831; 女性4,327,900).地域の赤十字血液センターは福岡県と同様,県内使用血液のすべてをカバーしていた.2005年の供給本数は297,592本であった.5つの大学病院と1つのがん専門病院で輸血を受けた患者の総数は3,744名(男性1,673,女性2,071)であった.これらの患者に使用された血液は57,405本(男性31,760,女性25,645)であった.男性の寿命を79歳とすれば,福岡県で0.420回,神奈川県では0.297回輸血を受けていた.女性の平均寿命を87歳とすれば,福岡県では0.344回,神奈川県では0.275回輸血を受けていた. 結論: 我々のデータから,日本人は一生の間に男性は1/3,女性は1/4が輸血を受けると考えられた.さらに,輸血の可能性は80歳以上で男性,女性ともに急増していた.
著者
安達 友広 久保 勝裕 西森 雅広
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.546-552, 2015-10-25 (Released:2015-11-05)
参考文献数
24
被引用文献数
1

明治期の北海道内陸部で建設されたグリッド市街地の多くは、「殖民地区画制度」に基づいて計画された。これらは合理的に農耕地を開拓するための原野区画と一体的に形成され、空間的には原野区画とその軸性が一致するのが特徴である。特に、原野区画の基準となった「基線」は、開拓道路として地域で最も早くに開削され、沿道に市街地が開設された場合が多いことから、市街地の空間構成を考える上でその性格を把握することは重要である。一般的に、北海道の空間計画における「基線」は、高燥地であること、勾配や凹凸が少ないこと、原野区画の基準線として当該原野を長く貫くこと、等の合理的な理由に基づくものとされてきた。しかし、基線上に山当ての現象が見られる等、それだけでは説明できない場合も指摘されている。本論では、歴史的資料を用いて原野の空間計画の考え方を分析すると同時に、羊蹄山周辺地域の事例分析から「基線」の設定と山当ての関係を考察し、それらが合理性だけではなく、デザイン的要素も加味した計画手法であったことを明らかにした。
著者
藤井 歌倫 川上 敬子 宮本 真豪 明樂 一隆 三澤 亜純 中尾 紗由美 田内 麻依子 宮村 知弥 中林 誠 丸山 大介 中山 健 佐々木 康 森岡 幹
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.266-271, 2023 (Released:2023-08-30)
参考文献数
15

子宮内膜症のリンパ節での発生は稀少部位子宮内膜症とされている.子宮内膜症のリンパ節病変は骨盤内リンパ節が多く,骨盤内の深部子宮内膜症を伴うことが多い.今回,深部子宮内膜症を伴わない傍大動脈リンパ節子宮内膜症の一例を経験した.症例は44歳,過多月経による貧血のため,当科へ紹介となった.MRI検査で子宮腺筋症および子宮筋腫を認めた.子宮筋腫は8.7cm大で,拡散強調画像で軽度高信号とADC mapで一部低信号を呈したため悪性を否定できなかった.全身検索のため造影CT検査を施行したところ,多発肺動脈血栓と左下肢静脈血栓,12×25mm大の嚢胞状に腫大した右傍大動脈リンパ節を認めた.抗凝固療法および下大静脈フィルター留置後に腹式子宮全摘術と両側卵管摘出術と右傍大動脈リンパ節生検を施行した.術中所見では,骨盤および腹腔内に内膜症病変を認めなかった.術後病理診断では,子宮筋腫と子宮腺筋症に悪性所見を認めなかった.腫大リンパ節に内膜症病変を認めた.子宮内膜細胞がリンパ管や血管を介して骨盤外臓器に出現することが報告されていることを考慮すると,孤立したリンパ節に子宮内膜症が発生したものと考えられた.今回は偶発的に発見されたが,嚢胞状に腫大したリンパ節病変を認めた場合,悪性疾患によるリンパ節転移のほかにリンパ節子宮内膜症を考慮する必要がある.
著者
大森 理絵 長谷川 寿一
出版者
日本動物心理学会
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.3-14, 2009 (Released:2009-07-28)
参考文献数
48
被引用文献数
1 1

Based on results of molecular phylogenetic analyses and archaeological evidences, most researchers believe that the dog is descended from the wolf and that east Asia was the central place for the early events of domestication around 15,000-20,000BP. Many different theories of domestication have been proposed in respect of the evolutionary mechanism, and each theory can explain a particular aspect of the process which has different evolutionary backgrounds by its stage and phase. The dog is established in modern society as a companion animal. It has physiological and psychological benefits to human, which include facilitating therapy, reducing stress, and socialization. In addition to that, the dog has positive effects on child development and elderly people.
著者
金森 美江子 野口 絵里子 金森 達之 大森 毅 瀬戸 康雄
出版者
日本法科学技術学会
雑誌
日本法科学技術学会誌 (ISSN:18801323)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.145-151, 2011 (Released:2011-08-12)
参考文献数
12
被引用文献数
2 2

We ascertained that one of the lachrymator, allyl isothiocyanate (AITC), reacted with alkyl alcohol to form O-alkyl allylthiocarbamate. AITC was incubated with methanol, ethanol (EtOH) or 2-propanol, respectively, and analyzed by gas chromatography/mass spectrometry (GC/MS). On the total ion chromatogram of the reaction mixture, one peak appeared which was different from AITC, and the molecular weight was 131, 145 or 159, respectively. The reaction product of AITC with EtOH was prepared from the mixture. By 1H nuclear magnetic resonance (NMR) analysis, six pairs of the signals which resembled each other appeared at room temperature and some of the paired signals overlapped by heating. It was suggested that the reaction product of AITC with EtOH was O-ethyl allylthiocarbamate, and that it was composed of the mixture of conformational isomers at room temperature.
著者
森田 隆二
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.352-356, 2010-04-10 (Released:2019-09-27)
参考文献数
4

コヒーレンスという言葉は,物理の多くの分野で使われる言葉である.「可干渉性」を表すことは知っていても,どうもその物理的意味のイメージがわかない読者もおられよう.光を題材として,さまざまなところに現れるコヒーレンスについての定量的な定義,コヒーレンス時間,コヒーレンス長さ,物質(量子系)のコヒーレンスについて,その概要を説明する.
著者
森 俊文 松本 早代 井本 佳孝 四宮 寛彦 和田 哲 友成 哲 谷口 達哉 北村 晋志 六車 直樹 高山 哲治
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.254-258, 2014-05-20 (Released:2014-05-30)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

症例は21歳,フィリピン人女性.18歳までフィリピンにて生育,以降日本に在住.呼吸困難の精査目的で撮影したCT検査で肝臓内に網目状模様を認め,日本住血吸虫症を疑い血清抗体価を測定したところ高値であった.プラジカンテル40 mg/kg/日を投与し,6カ月後に抗体価は低下した.本邦では,新たな日本住血吸虫症はみられなくなったが,輸入症例や陳旧症例の報告が散見される.非流行地域において特徴的な肝画像所見を呈したことにより発見された本症の1例を報告する.
著者
多田 実加 大森 圭貢 佐々木 祥太郎 最上谷 拓磨 榊原 陽太郎 宮﨑 登美子
出版者
学校法人高知学園 高知リハビリテーション学院
雑誌
高知リハビリテーション学院紀要 (ISSN:13455648)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.65-74, 2018-03-30 (Released:2019-08-07)
参考文献数
47

本邦におけるHand-held Dynamometer(以下,HHD) を用いた膝伸展筋力測定方法を文献検証した.医中誌のデータベースを用い,「Hand-held Dynamometer」,「ハンドヘルドダイナモメーター」,「徒手筋力計」のキーワードで文献検索を行った.抽出された文献のうち膝伸展筋力測定方法に関して再現性と妥当性が検討された32文献を対象とした.運動器疾患を有さない対象者において再現性を検討した報告は16文献あり,その内15文献はHHDにベルト固定を併用していた.端座位でベルト固定を併用した測定における級内相関係数は,検者内,検者間ともに1つの論文を除きすべて0.9を超えていた.一方,筋力水準が高い場合,ベルト固定なし条件での再現性は不良であった.同時的妥当性を検討した8文献では,7文献においてベルト固定が行われていた.いずれも等速性筋力測定装置などによって得られた値との間に強い相関関係を認めていた(0.73~0.98).運動器疾患を有する対象者で検討した8文献では,4文献においてベルト固定が併用されており,検者内級内相関係数は0.9を超えていた.ベルト固定を併用していない1文献でも,級内相関係数は0.9を超えていたが,測定された筋力は極めて低値であった.運動器疾患のない対象者においては,端座位でのベルト固定を併用したHHDによる測定方法が選択されるべきである.
著者
森 義之 中瀬 一
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.653-657, 2004-03-31 (Released:2010-09-24)
参考文献数
15
被引用文献数
3

症例は, 64歳男性。27歳時に統合失調症と診断され, 当院精神科閉鎖病棟入院中で, 以前から異食を繰り返していたが, 自然排泄されていた。2001年4月16日, 発熱をきたすも解熱剤にて経過観察。しかし, 発熱の継続と, 腹痛を訴えたため, 2日後に腹部X線, 超音波検査施行。単三乾電池による穿孔性腹膜炎と診断し, 緊急手術を施行した。開腹時所見では, 単三乾電池1個が上行結腸の穿孔部から露出していた。摘出標本では, 穿孔部周辺の大腸粘膜が広範囲に潰瘍を形成しており, 乾電池2本が大腸壁の潰瘍壁にはまりこみ, その内の1個が穿孔部から露出していた。消化管異物による穿孔は, ほとんどが鋭的異物によるものであり, 単三乾電池による消化管穿孔例は過去に報告をみない。統合失調症患者における異食した単三乾電池による大腸穿孔性腹膜炎の1例を経験したので報告する。
著者
後藤 拓朗 村田 尚道 前川 享子 神田 ゆう子 小林 幸生 森 貴幸 宮脇 卓也 江草 正彦
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.209-216, 2013-12-31 (Released:2020-05-28)
参考文献数
29

【目的】カプサイシンは赤唐辛子に多く含まれる成分で,嚥下反射の促進効果が認められている.咽頭の知覚神経からサブスタンスP(以下SP)を粘膜中に放出させ,SP濃度が上昇することによって反射が惹起されやすくなるとされている.現在,嚥下障害のある患者が容易に摂取できるように,フィルム形状のオブラートにカプサイシンを含有させたカプサイシン含有フィルムが市販されている.しかし,摂取後の嚥下反射促進効果については,十分検討されていない.そこで,本研究では,カプサイシン含有フィルム摂取後の嚥下反射と咳嗽反射への効果,および唾液中SP 濃度への影響について検討した.【方法】対象は,20 歳から40 歳までの成人男性(17 名)とした.カプサイシン含有フィルム(カプサイシン含有量1.5 μg/枚)とプラセボフィルムを用い,クロスオーバー二重盲検法にて行った.フィルムを摂取する10 分前の安静時の値を基準として,摂取後10 分ごとに6 回の嚥下反射および咳嗽反射を評価した.嚥下反射の評価として,簡易嚥下誘発試験による嚥下潜時を測定した.咳嗽反射の評価は,1% クエン酸生理食塩水を用いて咳テストを行った.さらに,摂取前10 分,摂取後10,20 分に唾液を採取し,ELISAキットにて唾液中SP 濃度を測定した.プラセボフィルム摂取時の値をコントロール群,カプサイシン含有フィルム摂取時の値をカプサイシン群として,両群を比較した.統計学的分析はFriedman test およびWilcoxon の符号順位和検定を用いて行った.【結果】カプサイシン群では,摂取前と比較して摂取後40 分で嚥下潜時の短縮を認め,コントロール群では差は認められなかった.また,コントロール群と比較して,カプサイシン群は嚥下潜時が摂取後20,40 分で有意に低値を示していた.その他の時間および他の評価項目では,有意差を認めなかった.【結論】カプサイシン含有フィルム摂取により,嚥下反射の促進効果が,摂取後40 分に認められた.
著者
末森 明夫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.411-428, 2020 (Released:2021-12-31)
参考文献数
56
被引用文献数
1

本稿はアクターネットワーク論および存在様態論を基盤とする非近代主義を援用し,徳川時代より大正時代に至る史料にみる日本聾唖教育言説の変遷の追跡を通して,明治時代における日本聾唖教育制度の欧米化という事象を相対化し,徳川時代と明治時代の間における日本聾唖教育言説の連続性を前景化し,日本聾唖教育史に新たな地平を築くことを眼目とした.具体的には,徳川時代の史料にみる唖ないし仕形(=手話)に関連する記述を分析し,唖の周囲に配置された唖教育に携わる人たち(=人間的要素)や庶民教化政策,手習塾,徒弟制度(=非人間的要素)が異種混淆的に関係性を構築し,唖が諸要素との関係性の下に実在化していく様相を明らかにした.また,仕形を唖の周囲に配置された人間的要素および非人間的要素の動態的関係性として把握し,聾文化論にみる「聞こえない身体」と「手話を使う身体」の不可分的関係性は,「聞こえない身体」と「手話を使う身体」の関係性が一時的に一義的関係性を伴う仲介項に変化し外在化(=純化)したものであることを明らかにした.さらに,徳川時代の日本社会において,唖や仕形をはじめとする諸要素の関係性が変化し続け,明治時代を経て現在の聾文化論が内包する諸問題にもつながっていることを明らかにし,非近代主義に則った日本聾唖教育史の再布置をはかった.