著者
武田 清香
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

はじめに、PCMと躯体蓄熱を併用した床吹出し空調システムについて、数値シミュレーションにより夏季冷房時のピークカットに有効な運転方法について検討した。1)午前中に循環風量を少なくすることで、床下からの過剰な放熱および室温の低下を防止できることを示した。今回の計算においては、最大32m^3/h/m^2に対し、70%の22m^3/h/m^2で送風する場合、良好な蓄放熱特性および室内環境が得られることがわかった。2)夜間10時間に加え、午前中にも冷凍機を運転して蓄熱を行うことにより、PCMからの放熱をピーク時間帯まで持続させる方法を提案した。6kg/m^2以上のPCMを用いる場合には、シーズンを通して高い夜間移行率でピークカットを行えることを示した。3)設定室温が28℃のとき、26℃の場合に比べ、午前中の室内温熱環境が改善される様子が確認できた。このときピーク負荷時間帯にもPMVはほぼ中立を示し、シーズンを通して快適な室内環境となることがわかった。続いて、同システムにおいて省エネルギー性を維持しながら外気処理(除湿)機能を付加することを目的とし、夜間蓄熱時の低温排熱を用いた潜熱顕熱分離空調システムを提案した。1)シリカゲル製ハニカムを用いた吸脱着実験から、総括物質伝達係数を1.0×10^<-5>m/sと同定した。2)デシカントシステムの給排気出口温湿度を算出する数値計算プログラムを作成し、デシカントシステムにおける低温排熱の利用可能性について検討した。40℃排熱を用いて再生を行うと、1段除湿の場合は必要除湿量の約4割、2段除湿の場合には約8割を賄えることが示された。また、デシカントシステムのみで全て除湿する場合、1段除湿で約90℃、2段除湿で約53℃の再生温度が必要であることがわかった。
著者
當間 孝子 宮城 一郎 武田 富美子 岸本 涼子 阿波根 綾子
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.309-319, 1998
被引用文献数
4 2

沖縄県の20健常者家庭において, 寝具, 寝室床細塵中のダニ相やダニ数が調査された。寝具の中ではスプリングベッドマット(GM, 3,076)に, 寝具ではカーペットを敷いた床(4,775)に最もダニが多いことが明らかになった。調査したスプリングベット及びカーペット床の37.5%が1m^2当たり5,001個体以上のダニが採取され, 1,000以下のダニがとれたスプリングベットマットとカーペット敷床はなかった。スプリングベットマットを使用している人の敷布団にはダニが有意に多かった。寝具, 寝室床で最も多くとれたダニはDermatophagoides pteronyssinus(寝具75-99%, 寝室床75-96%)であり, Blomia tropicalis (0.4-11,0.9-5.8), Tyrophagus putrescentiae (0.03-4.2,0.1-9.8)とつづいた。
著者
森原 剛史 武田 雅俊 工藤 喬 田中 稔久
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

NSAID誘導体によるAβ42産生の抑制作用は認められなかった。背景遺伝子を混合させたAPPトランスジェニックマウスはAβ蓄積を修飾する遺伝子群の収集には大変有効であった。候補遺伝子アプローチで炎症関連遺伝子の関与を調べたが、有意な関係は認められなかった。高齢者の血中CRPと認知機能の変化の関係は本研究機関では認められなかった。
著者
加瀬 友喜 田吹 亮一 速水 格 武田 正倫 遠藤 一佳 千葉 聡
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1.海底洞窟特有のソビエツブ科巻貝の2新属4新種、クチキレエビスガイ科の1新属2新種、従来全く知られていない殻形態を示す1新属1新種(Pluviostillac palauensis)を発見、報告した。2.海底洞窟のシラタマアマガイ属巻貝の殻体を検討し,2新種を含む6種を識別し,コハクカノコガイ属と単系統群(コハクカノコガイ科)を構成することを明らかにした.また、それらの軟体の解剖学的研究を進め、殻体による結果を支持した。3.マーシャル島の化石種を検討し,この種はシラタマアマガイ属に近縁な新属であることを明らかにし,同類が中新世には既に海底洞窟のような環境に適応していたことを示した.4.海底洞窟のシラタマアマガイ属と河川に生息するコハクカノコガイ類の殻体および軟体の解剖学的研究を進めた。また、両者の環境を繋ぐanchialineやhyporheic環境から多くの未知のコハクカノコガイ類を発見し、それらを分類学的に検討し、2新属を認めた。5.コハクカノコガイ類を含むアマガイ上目の解剖と分子系統学的研究から、同目は複数回地上環境へ進出し、また、コハクカノコガイ類は海底洞窟などの隠生的な環境に適応した後、anchialineやhyporheic環境、さらに地上の河川に進出したことを明らかにした。6.海底洞窟及びanchialine環境の微小甲殻類のカラヌス目Ridgewayia属の1新種を見いだした。この種は北大西洋や地中海の種に近縁であることが強く示唆された.また、アミ目のHeteromysoides属とHeteromysis属の4新種、BochusaceaのThetispelecaris属の1新種を見いだした。Thetispelecaris属の新種は同属の2番目の記録であり、その由来は海底洞窟から深海に進化したことが示唆された。
著者
武田 富美子 當間 孝子 宮城 一郎
出版者
日本ダニ学会
雑誌
日本ダニ学会誌 (ISSN:09181067)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.127-133, 1998-11-25
被引用文献数
4

沖縄県内の床の塵中ダニについては, 従来2.0mmまたは0.5mmメッシュと0.075mmメッシュのふるいを使ってダニを分離した結果が報告されてきた.今回はTarsonemus属のような小型のダニを逃がさないために0.032mmメッシュのふるいを加え, 沖縄県内の3軒の家(A, B, C)から寝室床の塵を採集し各種ダニの出現頻度と出現数を調査した.ヤケヒョウヒダニDermatophagoides pteronyssinusが優占種で, 総ダニ数の43.4%であったが, Tarsonemus属のホコリダニTarsonemus spp.は23.4%, Tarsonemus属同様小型のミジンイレコダニCryptoplophora absconditaも12.1%を占めることを確認した.室内塵中から多数のミジンイレコダニが報告されたのはこれが初めてである.ヤケヒョウヒダニ, ホソツメダニCheyletus eruditus, Bak属のツメダニBak sp., イエササラダニHaplochthonius simplex, カザリヒワダニCosmochthonius reticulatus, ミジンイレコダニおよびTarsonemus属のホコリダニは, 年間を通して検出された.また, Cosmoglyphus sp.はこれまで日本の室内塵中からの報告はなかったが, Cの寝室床の5月には総ダニ数の22.2%を占めた.
著者
武田 光夫
出版者
電気通信大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

従来の代表的な非接触立体計測法であるモアレ法は,連続で滑らかな形状の物体に対しては有効であるが,モアレ縞の縞次数に飛びが生じるような強い段差や不連続性をもつ物体は測定できない.また,ステレオ視差法は,ステレオ画像の対応点決定の計算量が多いという問題に加えて,反射率が一様な表面を持つ物体の場合には照合する特徴点が得られないという問題がある.本研究では,従来の立体計測法が対応できないこれらの物体の形状を非接触で自動計測することを目的として以下のように新しい立体計測法の原理を考案し実験によりその有効性を実証した.(1)従来のモアレ法やステレオ視差法のような基線を媒介とした3角測量法的な原理に代わるものとして,光波干渉を利用した直接的な2点間測距の原理を採用し,それを被測定物体上の全点に対して多点同時並列的に実現するような新しい方法の原理を考案した.粗面物体を測定できるようにスペックル干渉計と類似な光学系を用いたが,スペックル干渉計測法は物体の元の位置・形状からの相対的な変位・変形を測る,いわば差分量△hの計測技術であったのに対して,本研究の方法は,位置・形状そのもの,すなわちh自身の計測技術である点にその特長と新規性がある.(2)光源に波長走査可能な半導体レーザを用い,干渉計のなかにテレセントリック結像系を導入し,物体をイメージセンサ上に共役結像することにより,粗面物体上の各点からの散乱光を再統合して各点が互いに独立な干渉光路をもつ(画素と同数の)超多チャンネル測距干渉計が実現できることを見いだし,上述の原理に基づく立体計測システムを構築した.(3)段差のある針状物体や深穴の形状を非接触自動測定することにより原利の有効性を実験的に確認した.
著者
梶田 将司 小林 大祐 武田 一哉 板倉 文忠
出版者
一般社団法人日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.337-345, 1997-05-01
被引用文献数
31

人間が音声として知覚する音がその他の音とどのように異なるのかを探求するため, 本研究では, ヒューマンスピーチライク(HSL)雑音を導入し, HSL雑音に含まれる音声的特徴を分析する。HSL雑音は, 複数の音声を加算的に重畳して作られるバブル雑音の一種で, その重畳回数に応じて音声的な信号から音声の長時間スペクトルを反映した定常雑音へと聴感は変化する。まず, この聴感上の変化を主観評価実験により定量化する。そして, HSL雑音に含まれる音声的特徴を振幅分布のガウス性, スペクトル微細構造の時間的変動性, スペクトル包絡の時間的変動性の三つの観点で分析した。その結果, HSL雑音の差分信号のガウス性及び, HSL雑音のスペクトル包絡の時間的変動が音声的特徴に大きく寄与していることが分かった。
著者
関 直臣 ジャオ レイ 小島 悠 池淵 大輔 長谷川 揚平 大久保 直昭 武田 晴大 香嶋 俊裕 白井 利明 宇佐美 公良 砂田 徹也 金井 遵 並木 美太郎 近藤 正章 中村 宏 天野 英晴
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.93, no.6, pp.920-930, 2010-06-01

本論文はパワーゲーティング(PG)を使った演算器レベルでの動的スリープ制御による消費電力削減機構の実装及び評価を行う.MIPS R3000のALUからシフタ,乗算器,除算器を分離し,それぞれを動的にパワーゲーティングを行う.省電力化を施したR3000コアと16kByteのL1キャッシュ,TLBを合わせて,ASPLA 90nmで試作チップGeyser-0としてテープアウトした.Geyser-0の性能,電力と面積をポストレイアウト後のシミュレーションにより評価した.この結果,4種類のアプリケーションについてリーク電力は平均約47%減らすことができた.一方,スリープ制御の実装によって生じたエリアオーバヘッドは41%であった.
著者
石綿 肇 杉田 たき子 武田 明治
出版者
日本食品化学学会
雑誌
日本食品化学学会誌 (ISSN:13412094)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.145-150, 1997-02-24

プラスチック製品は、生態系において分解しにくいことから環境問題として大きく取り上げられている。生分解プラスチックの開発、製品化も図られているが、現在、市販されている製品は大部分が既存プラスチックである。分解促進のために、ポリエチレンのような熱可塑性プラスチックへのデンプンの添加なども試みられている。メラミン樹脂をはじめとする熱硬化性プラスチックは、物理的強度を保つために、通常、製造原料として17%から50%のセルロースが加えられている。そこで、環境保全の観点から、メラミン食器の酵素的及び非酵素的分解について検討を試みた。食器用の未硬化メラミン樹脂コンパウンド及び2種類のメラミン樹脂製コップを粉砕したものを試料として用いた。コンパウンド及びコップ粉末に0.1Mリン酸緩衝液(pH4.5)中40℃でセルラーゼを48時間作用させたところ、コンパウンドではグルコースとして603ppm、コップ粉末では88ppmの糖が遊離した。セルラーゼ無添加では遊離糖は検出されなかった(Fig. 1及び2)。遊離糖のHPLC分析を行ったところ、主成分はグルコースで、セロビオースは見られなかった(Fig. 3)。この時、ホルムアルデヒドとメラミンモノマーの増加がみられたが、セルラーゼの添加による促進は認められなかった。従って、ホルムアルデヒドとメラミンモノマーの増加は、樹脂の非酵素的分解によるものである。コップ粉末での48時間後におけるこれら3種類のモノマーの合計は、原料の約3%であった。メラミン樹脂の非酵素的分解は、温度が高いほど促進され、また、酸性あるいはアルカリ性で促進された(Fig. 5)。これらの結果は、メラミン樹脂は自然環境下で酵素的、非酵素的に徐々に分解されることを示している。遊離したメラミンモノマーはある種の微生物により資化されることが知られており、モノマーによる二次汚染の可能性は低いと考えられる。
著者
宮崎 隆志 横井 敏郎 上原 慎一 石黒 広昭 藤野 友紀 間宮 正幸 大高 研道 日置 真世 武田 るい子 大高 研道 向谷地 生良 仲真 紀子 駒川 智子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

社会的に排除された若者の移行支援の課題を明らかにした。彼・彼女らの「生きづらさ」の背後には、生活世界を構成する諸コミュニティの断片化がある。したがって移行支援のためには断片化したコミュニティを再統合することが必要であるが、そのためには多様性が保障された新たな媒介的コミュニティを構築することが有効であること、およびそのコミュニティを中心にした地域的な支援システムを構想することが必要であることを明らかにした。
著者
小柳 公代 本多 秀太郎 武田 裕紀
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

我々は、科学思想上でのデカルト、パスカルのこれまでの位置づけに疑問を提出し、通説成立のゆえんを当時の時代状況の中へ置きなおして検討し、それを広く内外の研究者に発信することを目的として2年間の研究活動をおこなった。具体的には次の7項目:(1)実験や科学史での専門的知識をもつ研究協力者をまじえた研究会、(2)海外協力研究者を招聘してのワークショップ、(3)海外調査研究、(4)公開実験会、(5)デカルト、パスカル科学、思想関係書誌作成、(6)科学史学会年会での報告、(7)成果報告集(欧文)の刊行、を挙げた。このうち(2)が海外研究分担者の来日とりやめによって実現できなかったほかは、すべて実行し、多くの稔りをえた。研究会での討議から、デカルトでは17世紀のネーデルランド、イギリスをも含む生理学の発展に注目すべきことを発信し、パスカルについては、計算機の考察から単位数の研究を深め、『パンセ』のパスカルとの有機的関係なども議論できた。とりわけ、数種の真空中の真空実験の復原公開実験と科学映画のプロ撮影者による図解つき記録映画DVD作成は、予期した以上の反響をよび、大きな成果をあげた。ブレーズ・パスカル国際センター主催のDVD上映会では、我々の研究報告に対して、フランス・イタリアの研究者たちから多くの意見が寄せられた。我々もまた20年前に詮議した「実行可能性」「思考実験」の問題から、空気の弾性についてのパスカル、ロベルヴァルの認識の違いを討議するところへと進んた。また、装置のガラス管端をふさぐ「膀胱膜」の正体を追求し、パスカルの風船の実験との関連などで研究を進捗させた。実際に膀胱膜、膀胱風船を作って実験することが今後の課題である。収集したデカルト・パスカル書誌は、近々にWEB搭載して、内外の研究者の供覧に付する。
著者
武田 健
出版者
東京理科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

ナノマテリアルは電子材料や化粧品、塗料等様々な製品に汎用されており、今や現代の生活に欠かせないものとなっている。本研究では化粧品に用いられているナノマテリアルの皮膚透過性に関して、信頼性の高い知見を加えることを目的とし、酸化チタン微粒子と単分散モデルである金ナノ粒子を用い、in vivoでマウスにおける皮膚透過性を検証した。健常皮膚だけでなく、炎症皮膚、アトピー性皮膚炎発症皮膚を作成し、その皮膚に対して酸化チタン微粒子および分散性の高い金ナノ粒子、蛍光物質(FITC)を結合させた金ナノ粒子を24時間曝露した。粒子を曝露した皮膚組織の電子顕微鏡観察結果から、酸化チタン微粒子および金ナノ粒子は角質層内部に局在することが明らかになった。また、FITCが結合した金ナノ粒子を曝露した皮膚組織に関しては蛍光顕微鏡観察し、粒子が皮膚表層や毛包内部に局在すること、炎症により表皮を欠損した皮膚部位においては粒子が真皮層内部に侵入することを捉えた。また、真皮層内への粒子透過が確認された炎症皮膚に対して金ナノ粒子を24時間曝露し、その個体の血液内金質量をICP-MSによって測定したが、検出可能範囲内での粒子透過は見られなかった。これらのことからナノ粒子が健常皮膚を透過し、全身循環へ移行する可能性は極めて低いことが示唆された。角質層が剥がれるような皮膚の状態では、ナノ粒子が皮内に透過することが認められた。以上の結果、化粧品中のナノ粒子は健常人の皮膚では健康影響はほとんどないと考えられるが、損傷した皮膚への塗布には注意が必要でることが示唆された。定量的な研究が残されているが、妊娠期に皮下投与した酸化チタンナノ粒子が産仔脳神経系に影響を及ぼす結果を得ており、社会的に極めて意義の高い研究となった。
著者
武田 はるか
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、現代作家サミュエル・ベケット(1906-1989)、マルグリット・デュラス(1914-1996)、ナタリー・サロート(1900-1999)の作品を分析対象に据え、三作家による多分野(小説、劇、映像等)に亘る「声」の表現の探究の独自性とその複雑な相互関係を、厳密な作品分析に基づいて解明し、文学における「声」の問題の重要性を明示することを目的とする。本年度は、言葉とイメージの関係を作家たちがどのように捉え、かれらが共通して、(1)なぜ抽象的な声の表現を必要としたのか、(2)かれらがいかにして声を(あるいは声をともなう言葉を)表現し、それがなにを可能にしたのか、以上の二点を基軸に、これまで個別に行った作品分析の成果を下地にした考察を展開した。かれらの作品を全体的かつ具体的に辿ると、言葉によるイメージの表現には(テクストであれ、映像作品であれ)、共通して、言葉への強い執着と紙一重の懐疑が出発点としてあり、それが、かれらの作品に、断片的で輪郭の不確かなイメージを、頻度を高めながら繰り返させる。この点に着目し、(1)そこにどのように声の問題がかかわっているのか、(2)書かれたテクストにおける声の扱い方と、劇や映画における物質的な声を扱う実験的試み、これら異なる声へのアプローチが、いかなる共通の一貫した意図によって進められたのかを明示し、(3)さらにはその意図が、晩年の作家たちを、いかなる声のエクリチュールに向かわせたのかを、とりわけ自伝的・伝記的要素の独特の組み込み方に着目しながら分析した。この過程に、作家ごとの表現方法の変遷と、その差異を明確化することで、かれらの作品が、いかに必然的なかたちで記憶の問題に結びついているのかも明らかになった。「声」の問題は、アウシュヴィッツ以後の世界ゆえに生じた問題として検討する視点が立てられるが、本年度は、ジャック・デリダやモーリス・ブランショの声にまつわる議論の再検討を詳細に行うことで多くの示唆を得、戦後文学という時代性のみに思考を還元せず、エクリチュールと記憶の問題に根底的にかかわる問題として、声にかんする哲学的な考察をより自由に展開できる足場ができたため、作家たちの試みを単純化することなく、より広い視点からとらえなおし、かれらの文学のありかたを通して、文学とはなにかを問い直すことができるようになった。学術振興会の研究員に採用され、補助金を受けることで、研究指導の委託の制度によって、パリ第八大学のブリューノ・クレマン教授のもと、フランスでの研究を進めることができ、また、これに付随して、フランス国立図書館およびフランス国立視聴覚研究所(INA)、そして、イギリスのレディングにあるアーカイブでのベケットの映像資料の調査を行うという、日本ではできなかったことが可能になり、非常に大きな意義があった(費用は学術振興会の研究遂行費でまかなった)。非常にコーパスの広いテーマ研究であるため、補助金交付期間終了後も、引き続き、残された課題を遂行し、発表していく必要がある。期間中、研究資料のひとつであるデュラスの短いテクストの翻訳を水声社刊行の『水声通信』(28号)にささやかながら寄稿することができた。また、日本での資料調査のために一時帰国した際には、指導教官からの提案を受け、所属する大学院フランス文学科の修士以上のすべての学生・研究者を対象に、本研究にかんする四十五分間の発表をする貴重な機会を得た。さまざまな時代・作家を扱う専門家たちを対象に、一般的かつ専門的な内容の発表を行ったことで、テーマ研究のひとつの可能性を打ち出すことができた。以上の翻訳および発表は、学会や雑誌への公の研究発表ではないため、項目11の欄には未記入だが(なお、同じ理由から、帰国費用は私費によった)、個別作家研究が主流の日本の研究者たちに、テーマ研究の可能性、重要性をうったえることができたという意味でも重要な意義を持ったと考えている。今後、より正式な形での発表を行うことを強く希望している。
著者
近藤 哲 蜂須賀 喜多男 山口 晃弘 堀 明洋 広瀬 省吾 深田 伸二 宮地 正彦 碓氷 章彦 渡辺 英世 石橋 宏之 加藤 純爾 神田 裕 松下 昌裕 中野 哲 武田 功 小沢 洋
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.17, no.11, pp.1987-1995, 1984-11-01
被引用文献数
23

原発性十二指腸癌7切除例を対象として臨床的検討を行った. 5例は UGI, 内視鏡, 生検の3者で診断可能であったが, 2例は膵癌の十二指腸浸潤との鑑別が困難であった. しかし US と CT で膵癌を否定しえた. 血管造影では4例中2例が十二指腸原発と確認しえた. さらに切除可能性, 根治性を推定するのに有用であった. リンパ節転移は全例に認められ, 非治癒切除4例中3例の非治癒因子, 治癒切除後再発2例中1例の再発因子となっていたした. したがって, 乳頭上部癌では膵頭部癌第1群リンパ節郭清をともなう膵頭十二指腸切除を原則とし, 乳頭下部癌では腸間膜根部リンパ節をより徹底郭清し状況によっては血管合併切除再建が必要と思われた.
著者
加藤 内蔵進 松本 淳 武田 喬男
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

1.梅雨前線帯付近の広域水収支過程の解析の一環として、人工衛星のマイクロ波放射計データ(SSM/Iの19.35GHzと85.5GHz)に基づき、Liu and Curry(1992)のアルゴリズムを用いて、海上も含めた前線帯付近の降水量分布を評価した。日本列島で冷夏・大雨だった1993年と猛暑・渇水に見舞われた1994年暖候期等を例に解析を行ない、次の点が明らかになった。(1)梅雨前線が日本付近で特に活発であった93年7月初めには、東シナ海〜日本列島で5日雨量140ミリを越える大雨域が南北約300kmと広域に広がり、その南北の少雨域との間のきわだったコントラストが明らかになった。気象庁のレーダーアメダス合成データのある日本近傍で比較すると、それと良く一致していた。(2)このような特徴を持つ降雨分布が、93年には8月も含めて出現しやすかったのに加え、台風に伴う降水量も多かったが、94年は梅雨前線帯の位置が93年に比べ北偏したのみでなく、そこでの降水量自体も少ない傾向にあったことが分かった。(3)93年は、平年に比べて梅雨前線帯付近での下層の頃圧性は大変強く、前線帯での降水の強化と集中に関しては、南からの多量の水蒸気輸送に加えて、なんらかの傾圧性の役割も大きかったものと考えられる。2.前線帯スケール水収支過程におけるメソα降水系の役割評価の前段階として、1996年6〜7月における種子島周辺域での別途経費による集中豪雨特別観測データも利用して、期間中の前線帯とメソα降水系の振舞いの概要を調べた。その結果、(1)梅雨期にしては希なぐらい発達した低気圧に伴う寒冷前線付近の現象、(2)九州南部で発生・発達した積乱雲群の集団から、メソα低気圧の種が形成され中部日本の前線帯の水循環にも大きな影響を与えた例、等、今後の相互比較解析のための特に興味深い事例を抽出できた。