著者
谷本 奈穂 渡邉 大輔
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.55-69, 2016 (Released:2016-08-06)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本稿の目的は,近代家族の理念の出発点ともいえるロマンティック・ラブ・イデオロギーが,現在どうなっているかを検討することである.ロマンティック・ラブ・イデオロギーの概要をふりかえった後,雑誌記事の分析および別れの語彙の分析から仮説を立てた.(1)ロマンティック・ラブ・イデオロギーは90年代以降に衰退し,(2)代わりに「ロマンティック・マリッジ・イデオロギー」と名付けるべきものがせり出してきている,という仮説である.量的データから,仮説(1)(2)とも検証された.またとくに,ロマンティック・マリッジ・イデオロギーは,若い女性や恋愛機会の多い人に支持されていることも分かった.ただし,ロマンティック・マリッジ・イデオロギーは,恋愛を解放しても結婚は解放しなかった.結婚へのハードルは高いものといえる.
著者
中嶋 正之 白井 暁彦 谷本 正幸
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会誌 (ISSN:13426907)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.882-888, 2015 (Released:2017-11-01)
参考文献数
3
被引用文献数
4
著者
谷本 晃久
出版者
北海道大学大学院文学研究科北方研究教育センター = Center for Northern Humanities, Graduate School of Letters, Hokkaido University
雑誌
北方人文研究 = Journal of the Center for Northern Humanities (ISSN:1882773X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.109-121, 2014-03-31

Dr. Yoshishige Hayashi (1922-2013) is an agricultural economic history researcher who had taught at Hokkaido University for a long time. His area of research is traditional agricultural culture of the Ainu. He is well known for his detailed field work conducted from the 1950s to the 1960s on Ainu society across Hokkaido. Also known for his research style which is heavily influenced by the interdisciplinary method of study at the Research Institute for Northern Culture, he was engaged in the compilation of Hokkaido history along with Dr.Shin-ichiro Takakura. This transcript, which is a recollection of research activities conducted by Dr. Hayashi in 2006, is arguably a valuable record that recounts in detail a side of Ainu and the northern culture studies developed out of Hokkaido University between the 1950s and 1980s.
著者
張 成年 山本 敏博 渡辺 一俊 藤浪 祐一郎 兼松 正衛 長谷川 夏樹 岡村 寛 水田 浩治 宮脇 大 秦 安史 櫻井 泉 生嶋 登 北田 修一 谷本 尚史 羽生 和弘 小林 豊 鳥羽 光晴
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.190-197, 2013 (Released:2013-03-22)
参考文献数
17
被引用文献数
3 2

アサリ殻模様の非対称性は優性遺伝形質である。非対称型(A)頻度は北海道と関東周辺で高く(14.5~28.1%),東北,浜名湖以西,中国で低かった(0~9.9%)。千葉県盤州では A 型頻度が低いと考えられる地域のアサリが 2007 年まで放流されてきた。盤洲の 2005 年度標本では殻長 20 mm 未満で A 型が 22%,25 mm 以上で 0% であり大型グループで放流個体が多いことが示されたが,2011 年以降の標本ではサイズによらず A 型が 17.2~20.3% 見られ,放流個体による遺伝的攪乱が限定的であることが示された。
著者
谷本 芳美 渡辺 美鈴 河野 令 広田 千賀 高崎 恭輔 河野 公一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.52-57, 2010 (Released:2010-03-25)
参考文献数
27
被引用文献数
43 64 12

目的:高齢者の介護予防に向けた健康づくりを支援するために,日本人を対象とした大サンプル数の調査から筋肉量を測定し,部位別に筋肉量の加齢による特徴を明らかにすることを目的とした.方法:18歳以上の日本人4,003人(男性1,702人,女性2,301人)を対象者とし,平成19年5月から平成20年9月にかけて上肢,下肢,体幹部および全身筋肉量の測定を行った.対象者は大都市近郊や農村在住の住民,大学の学生や教職員,民間企業の職員,地域の既存施設(図書館,老人福祉センターなど)の利用者である.マルチ周波数体組成計MC-190(タニタ社)を使用して筋肉量を測定し,性,年齢別に検討した.結果:筋肉量はすべての部位において年齢に関わらず男性が女性よりも有意に多く,また,加齢に伴う減少の割合は男性の方が女性よりも大きいことを示した.部位別の特徴として,下肢は20歳代ごろより加齢に伴い著明な減少を,上肢は高齢期より緩やかな減少を,体幹部は中年期頃まで緩やかに上昇した後減少を示した.さらにこれらの総和である全身筋肉量は中年期頃まで微量に増加あるいは横ばい状態から減少した.このように筋肉量の加齢変化は部位により異なり,減少率が最も大きいのは下肢で,次に全身,上肢,体幹部の順であった.結論:本研究では日本人筋肉量の部位別の加齢変化が明らかとなった.特に下肢筋肉量は早期より加齢に伴い大きく減少することから,高齢期の健康づくりにおいて下肢筋肉量に注目した支援の必要性が示された.
著者
谷本 奈穂
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.3-14, 2017 (Released:2018-06-13)
参考文献数
29

美容整形は「劣等感」や「他者に対するアピール」のために行われると信じられてきたが、むしろ実践者たちは「自己満足」を最も重視する。ただし同時に、「他者」による外見の評価を気にしてもいた。先行研究では、この他者を「異性」や、より一般的な「社会」(一般化された他者)と措定し、日常生活において「具体的に誰なのか」は見落としてきた。そこで、本論は、美容整形希望者・実践者が外見について準拠する「具体的な他者」を明らかにすることを試みる。なお、先行研究では実践者の「動機」に注目されがちだったが、本稿では実践者たちの「コミュニケーション」のレベルに注目した分析を行う。さらに先行研究の調査は、美容整形経験者だけを対象としたものが主だが、本論では実践者へのインタビューを行いつつも、希望者/非希望者や、あるいは経験者/非経験者の比較分析も行う。実際に「美容整形経験と何が結びつくか」は、両者の比較をしてこそ見出しうるからだ。さて分析から明らかになったのは、希望者・実践者が重視する他者とは、第一に「同性友人」であり、次いで「母」や「姉妹」であることだ。美容整形にコミットするのは男性より女性が多いことを踏まえるなら、「女性同士のネットワーク」が重要であるともいえる。女性にとって、異性や社会(一般化された他者)ではなく、「身近にいる同性」とのコミュニケーションの中に、外見を変える「地平」が成立しているのである。
著者
下代 昇平 谷本 道哉
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集 第68回(2017) (ISSN:24241946)
巻号頁・発行日
pp.128_1, 2017 (Released:2018-02-15)

背景・目的:近年運動において、体幹の剛体化は、四肢の土台としての働き、下肢から上肢への力の伝達等の観点から注目されている。体幹を剛体化させるトレーニング(TR)としてプランクなどの体幹TRが注目されており、実施の際には腹圧の上昇を伴うことが重要といわれている。本研究では体幹TRをはじめ、各種運動時の腹圧を調べることを目的とした。なお、腹腔の構造上、腹圧の上昇は体幹を伸展させるトルクが生じる。この観点からの検証、考察も行うこととした。方法:プランク・バックブリッジ等の体幹TR、スクワット・ベンチプレス等の各種筋力TR、ジャンプ・投打動作等のダイナミックな競技動作を実施し、運動中の腹圧を肛門よりカテーテル式圧力計を挿入して測定した。結果:腹圧の上昇の程度は「体幹TR(3~10%)<<筋力TR(7~47%程度)<ダイナミックな競技動作(38~61%:いずれもバルサルバを100%とする)」であり、体幹TRは小さい値であった。また、体幹伸展トルクを生じるような動作において特に腹圧が高まる様子は観察されなかった。
著者
中村 和夫 小林 奈保子 谷本 守正
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.444-447, 2014-09-15 (Released:2014-10-31)
参考文献数
13
被引用文献数
2 5

食用きのこ12株のフスマ固体培養を行い,その抽出液の凝乳活性を測定した結果,ヤマブシタケ(Hericium erinaceum) NBRC 100328に高い凝乳活性を見い出した.さらにMAFF7株のヤマブシタケについて凝乳活性を測定したところ,4株について凝乳活性が存在した.これら5株について低温殺菌牛乳を用いたカードの作製を行った結果,5株全てにおいてカードの作製が可能であった.全凝乳活性およびカード収量が高かった,Hericium erinaceum MAFF 435060,MAFF 430234,NBRC 100328をチーズ作製に適した株として選抜した.
著者
下代 昇平 谷本 道哉
出版者
日本実験力学会
雑誌
実験力学 (ISSN:13464930)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.184-191, 2018-10-11 (Released:2018-10-12)
参考文献数
31

Recently, athletes tend to focus on trunk stability during sports movements. Trunk stability is thought to play the role of an upper and lower limbs' foundation and to improve transfer capacity of power from the lower limbs to the upper limbs. Intra-abdominal pressure (IAP) development is considered to be important for trunk stability training exercises such as planks. The purpose of this study was to examine how IAP changed in sports movements and to compare IAP during various types of movements. Ten healthy men with resistance training experience of more than 1 year performed movements. Maximal IAP during the valsalva maneuver (maxIAP) was measured. The subjects performed trunk stability training (TST), trunk muscles resistance training (TRT), upper and lower limbs movement muscles resistance training (LRT) and dynamic sports movement (DSM). IAP value during TST (8~19%maxIAP) was significantly lower than that during DSM and LRT and was almost the same as that during TRT. IAP value during DSM was the highest (37~62%maxIAP) in all movement groups. IAP value correlated at erector spinae muscles electromyography (EMG) during TRT, LRT and DSM (P<0.05). These results suggest that IAP development did not appear during TST. IAP development may be related to trunk extension moment.
著者
小林 盾 谷本 奈穂
出版者
成蹊大学文学部学会
雑誌
成蹊大学文学部紀要 (ISSN:05867797)
巻号頁・発行日
no.51, pp.99-113, 2016-03

この論文では、人びとの容姿がキャリア形成、家族形成、心理にどう影響するのかを分析することで、社会的不平等における容姿(ルックス、身体的魅力)の役割を解明する。そこで、人びとは美容資本に時間や労力を人的資本として自分に投資し、地位達成の向上などで回収すると仮定した。エビデンスとして、ランダムサンプリング調査を実施してデータ収集した(有効回収数297人、有効回収率60.9%)。20 歳時の容姿(とくに顔)について、1下から10上の10段階で、主観的評価を測定した。分析の結果、以下が分かった。(1)容姿の分布は、男女ともにランク5と7~8の二山をもった。男女で分布に違いはなかった。(2)容姿の規定要因では、性別による違いはなかった。(3)容姿の帰結では、容姿がよいと、役職につきやすく、所得が増えた(所得は男性のみ)。多くの人から告白され、交際人数や結婚のチャンスや子どもの数が増えた。さらに、高い階層にいると感じ、自信があり、幸福だった(幸福は男性のみ)。(4)このように、男性ほど容姿の影響が強かった。これは、男性のほうが美容資本への投資が不均等なため、容姿が社会的不平等につながりやすいからかもしれない。以上から、容姿はライフチャンスを拡大させたり制約しうる。この点で、容姿は社会的不平等の一要因といえよう。
著者
谷本 道哉
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.3-9, 2020 (Released:2020-07-31)
参考文献数
17

体幹トレーニングとして,体幹の剛体化を目的としたプランクが行われることが多い。体幹屈曲筋・伸展筋の筋力トレーニングとして活用されることもある。また,腹横筋の活動促通を目的としたドローインもよく行われる。しかし,プランクでは実際には体幹を剛体化させるBracingも腹圧の上昇もしていない。また,そもそも多くの競技動作では体幹は固定させるよりも,大きく動作して力学的仕事を行っており,これらから考えるとプランクの意義を見出しにくい。ただし,反証データもあるが,プランクの実施による競技パフォーマンスの向上を認める報告もある。そのメカニズムは明確ではないが,選手にとって効果を実感できるのであれば,プランクの実施はプラスとなるかもしれない。また,ドローインには腹横筋の筋活動の促通効果が腰痛患者において認められる。ただし,腹横筋の筋活動レベルは競技動作そのもののほうがドローインよりもはるかに高い。競技動作を十分に行える身体機能を有する競技選手においては,ドローインを行う意義は薄いかもしれない。プランクやドローインの意義には不明確な部分があるが,体幹の機能から考えて,体幹動作の強い筋力と大きな可動性を有することが重要であることはおよそ間違いないであろう。これらの機能改善には,体幹屈曲筋・伸展筋の筋力トレーニングと体幹の可動性獲得の動作トレーニングが有用となるだろう。
著者
谷本 武史
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.15-21, 2010 (Released:2010-04-28)
参考文献数
18

従来のインフルエンザワクチンの接種経路は皮下・筋肉内のいずれかであり,その接種目的は,血清に液性免疫を誘導することによる重症化の予防に重点を置いたものである.これに対して感染防御を念頭に置いた場合,インフルエンザの感染経路は粘膜であることから,粘膜に免疫を誘導する手段として,経鼻・経口などのルートで粘膜へワクチンを接種し,局所免疫系を刺激することが有望と考えられる.そのなかでも,抗原の変性のリスクが少なく,接種抗原量を少なくできる経鼻吸収型ワクチンが注目されている.
著者
谷本 俊明 上本 哲
出版者
[広島県立農業試験場]
巻号頁・発行日
no.45, pp.69-78, 1982 (Released:2011-03-05)
著者
谷本 千雅子 高島 亜理沙
出版者
日本スポーツとジェンダー学会
雑誌
スポーツとジェンダー研究 (ISSN:13482157)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.6-21, 2017 (Released:2017-12-10)
参考文献数
22

The participation of transgender and intersex athletes in sport has been a controversial issue. Since transgender and intersex women have been assumed to have unfair physical advantages over women, they have been excluded from women’s competition over the course of the history of the Olympic Games and other competitive sporting events. On the other hand, in case of the non-competitive sport events such as at school as well as community athletic meets, the sporting opportunities of transgender and intersex individuals have started to be encouraged more and more. These exclusive/ inclusive attitudes toward transgender and intersex women suggest that the degree of tolerance changes depending on the competitiveness/non-competitiveness of the events. The current study, therefore, examined how the competitive attitudes in general influence the tolerance towards participation of transgender and intersex individuals in sport events at various athletic levels. Quantitative data (N=89) ranging in age from 18-65 was gathered from the participants of an LGBT Pride Parade in Nagoya, Japan, regarding their gender and sexual identities, sports experiences, interests in Olympic Games, competitive attitudes, and tolerance towards transgender and intersex athletes participating in sport events, ranging from school and community athletic meets to regional, national and international competitions. Findings revealed that the tolerance level declines as the competitiveness of the event increases, and that people who highly value competitiveness are less likely to be tolerant, especially regarding the most competitive sport events. This means that the value of competition in female sports and respect for human rights of transgender and intersex athletes contradict and exclude each other in women’s sports, one of the arenas where binaries of gender are so concrete.
著者
小林 隆人 谷本 丈夫 北原 正彦
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-12, 2004-06-30
被引用文献数
1

オオムラサキ(鱗翅目,タテハチョウ科)の保護を目的とした森林管理手法の確立に必要な資料を得るため,面積の広い森林が連続的に分布する栃木県真岡市下篭谷地区と都市化が進んで面積が狭い森林がパッチ状に分布する伊勢崎地区において,森林群落のタイプとその面積,寄主植物であるエノキの本数,エノキの根元で越冬する本種の幼虫の個体数,夏季における成虫の目撃個体数を調査した.両地区とも,アカマツ-クリ・コナラ林およびクヌギ,コナラ,針葉樹,タケの人工林などがパッチ状に分布し,アカマツ-クリ・コナラ林の面積率が最も高かった.本種の寄主植物であるエノキの母樹(樹高2m以上)は,森林地帯,農家の屋敷地,荒地に小集団で存在した.母樹の本数は両地区ともアカマツ-クリ・コナラ林で最も多く,他の森林群落および土地利用では少なかった.地区別の本数は下篭谷地区と比べて,伊勢崎では顕著に多かった.当年,1年生など発芽して間もないエノキの椎樹は,森林の部分的な伐採から1年ほど経た比較的新しい林縁部に見られた.下篭谷では,胸高直径が15cm以上25cm未満のエノキにおける本種の越冬幼虫の個体数が,他のサイズのエノキよりも有意に多くなったが,伊勢崎では幼虫個体数はエノキのサイズの間で有意に異ならなかった.一方,木の周囲の森林および落葉広葉樹二次林の面積と越冬幼虫の個体数との間には,両地区とも有意な正の相関が認められた.成虫の確認個体数は下篭谷地区で多く,成虫の多くはクヌギ林およびその付近で確認された.以上の結果から,落葉広葉樹二次林に対して土地利用の変換を伴う部分的な伐採を行うことは,エノキの密度を増加させる反面,本種の越冬幼虫や成虫の密度を減少させることが示唆された.このような両者の相反する生息条件を満たすには,クヌギ林とエノキが備わったある広さの落葉広葉樹二次林を伐期が異なる小班に区分することが必要である.
著者
谷本 晃久
出版者
北海道大学大学院文学研究科北方研究教育センター
雑誌
北方人文研究 (ISSN:1882773X)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.95-109, 2018-03-31

近世・近代移行期に札幌市中心部にみられたアイヌ集落の地理的付置については、従来ふたつの見解があり、判然としなかった。本稿ではこの問題につき、おもに開拓使の公文書を用いた検討をおこなった。その結果、1965年に山田秀三の唱えた見解に、より妥当性があることを考察した。 また、1935年に高倉新一郎の記した見解を支持する大きな根拠となっていた「偕楽園図」所載の「土人家」については、1879年に札幌を視察した香港総督ヘンネッシー卿(Sir John Pope HENNESSY)の要望に応じて札幌郡対雁村の樺太アイヌをして急遽作成せしめられた復元家屋であったことを実証した。 その背景には、札幌中心部のアイヌ集落が開拓政策の進展に伴い移転を強いられた経緯があったこと、ならびに対ロシア政策に伴い札幌近郊に樺太アイヌが移住させられていた経緯があったことを指摘した。くわえて、復元家屋設置の経緯は、ヨーロッパ人による当該集落墓地盗掘の動機と同様、当時欧米人がアイヌに向けていた関心がその背景にあった点も指摘した。