著者
星野 顕宏 阿部 祥英 冨家 俊弥 校條 愛子 中村 俊紀 齋藤 多賀子 酒井 菜穂 伊藤 良子 神谷 太郎 北林 耐 板橋 家頭夫
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.217-224, 2010 (Released:2010-10-07)
参考文献数
24

気管支喘息呼吸不全の児に対して硫酸マグネシウム(MgSO4)を点滴静注し,気管挿管を回避しえた女児例を経験した.本症例は2歳11ヵ月時に喘鳴と呼吸困難を認め,気管支喘息呼吸不全の診断で入院した.ステロイド薬静注,アミノフィリン持続点滴,イソプロテレノール持続吸入による治療を行ったが,呼吸状態は改善せず,不穏と高二酸化炭素血症認めた.気管挿管を考慮したが侵襲性が高いため,50mg/kgのMgSO4を20分かけて点滴静注した.速やかに不穏の軽快と呼吸状態の改善が得られ,投与開始1時間後に二酸化炭素分圧,心拍数,呼吸数はそれぞれ54.9mmHgから46.5 mmHg,157回/分から126回/分,48回/分から40回/分に低下した.MgSO4の有害事象は認めなかった.MgSO4は気管支平滑筋細胞からのカルシウムの駆出を増加させ,平滑筋の収縮を抑制させると考えられている.MgSO4は即効性のある薬剤として有効である可能性があり,特に治療抵抗性で気管挿管を考慮する症例にそれを回避する目的で投与する価値があると考える.
著者
酒井 章吾 井本 稔 大内 辰郎 大岩 正芳
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.6, pp.739-744, 1986-06-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
20
被引用文献数
2

ab initio UHF MO(STO-3G)法によってC6H5COO・の平衡構造をもとめ, C6H5平面とCOO・平面とが直交し, COO・は2A'対称をもつものとした。すなわち不対電子の軌道はCOO・平面にあり, σ 電子ラジカルである。また電子総計63個なので, 不対電子をα-スピン状態として,ψα32が見かけのフロンティアαMOとなる。しかしそれはフェニル基のπ電子を容れている。ラジカル不対電子をもつ分子軌道はip2s(その対応βMOはψβ34)であることをそれぞれのMOの内容からきめた。またψα32~ψα36のαMOについて, それぞれの対応するβMOを定め, それぞれのMOのもつ電子の性質の種類を示した。
著者
酒井 美里
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.66, no.7, pp.325-330, 2016

スマートフォン知財訴訟や体重計の意匠,腕時計の商標など,身近な製品に関する知財訴訟を目にする機会が多くなっている。また,平成27年より特許異議申立制度の運用が開始されるなど,審判制度にも新たな動きが発生している。しかし日本だけを例にとってみても,審判や訴訟に関する情報としての審決公報や審判記録情報,判決文などは,その管轄が特許庁審判部,知財高裁,高等裁判所と多岐にわたり「ここさえ見ればすべての情報を簡単に入手可能」とはいかないのが現状である。したがって一般の特許情報利用者には,その入手や利用方法の把握が難しく,ましてや審判や訴訟の情報整理など,より敷居が高く感じられる,といった状況にもある。本稿では日本及び米国を中心に,知財審判・訴訟に関する情報の種類ならびに情報入手方法を概説する。
著者
酒井 平一
出版者
公益社団法人 有機合成化学協会
雑誌
有機合成化学協会誌 (ISSN:00379980)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.243-250, 1981-03-01 (Released:2009-11-13)
参考文献数
2
被引用文献数
4 5

戦後発達した科学技術の中で最も人類の福祉に役立ったものは, まず抗生物質があげられるべきであろう。乳幼児の肺炎, 疫痢, 青年の結核をはじめとして, 恐ろしい伝染病の脅威をほとんど解消して, われわれの平均寿命を著しく延長したことは, 抗生物質の発展とその普及の賜といってよかろう。その中でもβ-ラクタム抗生物質は最も重要な抗生物質であり, 変動しつつある感染症に対応する主役として, 関連業界の中でも研究の中心となっている。以下その現状について簡単な解説を試みたい。
著者
坂本 杏子 佐藤 智照 小竹 直子 〓 瑩 チュウ ロザリン 金 英周 小野 創 酒井 弘
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. TL, 思考と言語 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.184, pp.23-28, 2008-08-01
参考文献数
6
被引用文献数
1

本研究では,成人日本語母語話者が新奇動詞を学習する際に,助詞を手がかりにした意味推論を行うかどうかを検討する実験を行った.その結果,日本語母語話者は助詞の違いに応じて使役事象から異なる局面を切り出して動詞と対応づけることが明らかにされた.さらに動詞の意味推論には,名詞句とガ格助詞を手がかりとした項構造の決定と,項構造に基づく事象の切り出しという二つの段階が関与していることが示唆された.
著者
佐藤 克明 坂 勉 酒井 純 高木 善昭
出版者
一般社団法人 粉体粉末冶金協会
雑誌
粉体および粉末冶金 (ISSN:05328799)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.1328-1332, 1996-11-15
参考文献数
1

The pulleys are used to be produced by powder metal due to cost performance and high productivity. Recently, the timing belt pulleys for automotive engine are required extra high functions which have sensor or light weight, and the complex shape pulleys are tend to increase. This report introduces the examples of the design and engineering of these pulleys as follows.<BR>1)The light weight pulleys with thin wall curtain shape rim are lighter than stamping pulleys.<BR>2)The cam shaft pulleys with sensing cam are manufactured as utilizing powder flow during compacting.<BR>3)The crank shaft pulleys with sensing cam at flange portion for miss fire detection have high accuracy of angle phase between key way and sensing cam.
著者
田中 裕 安梅 勅江 酒井 初恵 宮崎 勝宣 庄司 ときえ
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.23-32, 2005-09-30 (Released:2017-09-15)

長時間におよぶ乳児保育利用児の5年後の発達に影響を与えている要因について、育児環境、保護者の育児意識、子どもの属性、子どもの社会適応、子どもの要因、保育時間等の関連を明らかにした。全国認可保育園71園において保護者と園児の担当保育専門職に質問紙調査を実施し、追跡可能であった30名を有効回答とした。その結果、5年後の子どもの発達への関連要因として、家族で一緒に食事をする機会が乏しい場合には「粗大運動」「対人技術」「理解」領域で、また育児支援者がいない場合には「粗大運動」「コミュニケーション」領域で、さらに育児に対する自信がない場合、保育園に適応していない場合には「微細運動」領域で、きょうだいがいない場合には「対人技術」領域で、有意にリスクが高くなっていた。「乳児保育の時間の長さ」はいずれの発達領域でも有意に関連しないことが示された。
著者
藤田 郁代 三宅 孝子 高橋 泰子 酒井 経子 秋武 美紀子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.6-13, 1977
被引用文献数
2 4

The present study was designed to investigate the process of syntactic recognition of heard sentences in aphasics, especially the effect of changes in word order on syntactic recognition.<BR>Comprehension performance of 27 aphasics was studied by using two types cf active and passive test senteces; sentences having basic word order and sentences having converse word order.<BR>The results comfirmed earlier observations reporting that comprehension of sentences having converse word order was significantly poorer than comprehension of sentences having basic word order. It was suggested that there were two strategies employed by aphasics; the word order strategy and the particle strategy. Subjects were classified into four groups according to ability to use the strategies.<BR>The correlation between the syntactic comprehension and the other variables was discussed.
著者
河嵜 唯衣 赤松 利恵 酒井 雅司 藤原 恵子 玉浦 有紀
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.175-184, 2021-08-01 (Released:2021-10-02)
参考文献数
29

【目的】高齢の入院患者等の栄養管理に関する看護・介護職員の態度尺度(The Staff Attitudes to Nutritional Nursing Geriatric Care Scale: SANN-G)の日本語版を作成し,妥当性・信頼性を評価すること。【方法】日本語に翻訳したSANN-G18項目を用いて,自記式質問紙調査を実施し,都内の病院及び介護老人保健施設に勤務する看護師・看護助手及び介護士計493名が回答した。1か月後,回答者のうち108名を対象に再調査を実施した。構成概念妥当性,基準関連妥当性,内部一貫性及び再現信頼性を検討した。【結果】490名を解析対象とした(適格率99.4%)。探索的因子分析の結果,2因子10項目が得られ,確証的因子分析の適合度指標も良好な値が得られた。10項目のクロンバックαは0.733であり,初回調査と再調査の合計得点の相関係数は,ρ=0.628(p<0.001)だった。基準関連妥当性の検討では,栄養管理の知識,栄養管理より優先される業務負荷及び入院患者等の栄養管理に関する情報共有との相関係数は,それぞれρ=-0.021(p=0.639),0.158(p<0.001),0.176(p<0.001)だった。【結論】SANN-G日本語版は,原版の因子構造とは異なっていたものの,妥当性・信頼性が確認された。
著者
藤原 治 増田 富士雄 酒井 哲弥 入月 俊明 布施 圭介
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.489-501, 1999-12-01
参考文献数
47
被引用文献数
7 9

相模トラフ周辺で過去1万年間に発生した地震イベントを,房総半島南部と三浦半島に分布する4つの沖積低地の内湾堆積物から検出した.<br>堆積相解析の結果,基底に侵食面をもち,上方へ細粒化する砂層や砂礫層によって,自生の貝化石を含む均質な泥質層の堆積が中断されるイベントが,各沖積低地で10回以上識別された.また,一部の砂層では,海と陸の両方向の古流向が見られる.内湾堆積物に含まれるこれらの粗粒堆積物は,いわゆる"イベント堆積物"である.<br>タフォノミーの視点からの化石群集の分析によって,イベント堆積物の供給源や運搬・堆積プロセスが推定された.イベント堆積物は,内湾泥底と岩礁など,通常は共存しない異なる環境に棲む貝化石群集が混合しており,湾周辺からの堆積物の取り込みと内湾底への再堆積を示す.湾奥の汽水域や湾中央で堆積した泥層に挾まれる2枚のイベント堆積物は,外洋性の貝形虫化石を多量に含み,外洋水が湾奥に侵入したことを示す.これらは津波堆積物の可能性がある.<br>137個の高密度の<sup>14</sup>C年代測定によって,7枚のイベント堆積物が相模湾沿岸で広域に追跡され,乱泥流が南関東沿岸の広域で同時に繰り返し起きたことが推定された.5枚のイベント堆積物は,南関東に分布する完新世海岸段丘の離水と近似した年代を示し,津波起源であることが強く示唆される.<br>化石群集から復元した古水深変動から,イベント堆積物を挾む2つの層準で急激な海面低下が見いだされた.このイベントは海底の地震隆起と地震に伴う津波を示すと考えられる.<br>地層から地震イベントを検出することは,古地震研究に有力な情報を提供し,地震テクトニクスの新たな研究方法として貢献すると考えられる.
著者
清水 洋 松本 聡 酒井 慎一 岡田 知己 渡辺 俊樹 飯尾 能久 相澤 広記 松島 健 高橋 浩晃 中尾 茂 鈴木 康弘 後藤 秀昭 大倉 敬宏 山本 希 中道 治久 山中 浩明 神野 達夫 三宅 弘恵 纐纈 一起 浅野 公之 松島 信一 福岡 浩 若井 明彦 大井 昌弘 田村 圭子 木村 玲欧 井ノ口 宗成 前原 喜彦 赤星 朋比古 宇津木 充 上嶋 誠 王 功輝 ハザリカ ヘマンタ 矢田 俊文 高橋 和雄
出版者
九州大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2016-04-22

2016年熊本地震について、地震活動や地殻変動、活断層、火山活動への影響、地震災害の特徴などを調査した。その結果、熊本地震は布田川・日奈久断層帯の右横ずれ運動によって発生したが、複数の断層面と複雑な断層形状を持つことを明らかにした。また、建物被害や土砂災害の地盤との関係、特に、地盤の過剰間隙水圧が地すべりの発生要因であることを明らかにした。さらに、災害情報や災害過程、被災救援、エコノミークラス症候群などについての調査から、広域複合災害の問題点と対応策を提示した。
著者
川上 紳一 大野 照文 高野 雅夫 酒井 英男 石渡 良志
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、ナミビアで採集した縞状炭酸塩岩の解析に基づいて、スノーボール・アース仮説を検証することである。現生代後期の氷河堆積物を覆う縞状炭酸塩岩は温暖な気候で堆積したものと考えられており、地質学における大きな謎であるとされた。氷河堆積物と縞状炭酸塩岩の組み合わせは、地球表面が前面的に凍結したとすると合理的に説明ができる。しかし、そのようなことは気候学的にありえないとされてきた。申請者らは、ナミビアで採集したラストフ縞状炭酸塩岩の化学的分析を行い、縞の解析から堆積速度の見積もりを試みてきた。層厚14mの縞状炭酸塩岩は、酸素、炭素同位体比からみて、3つの区間に区分されることが明らかになった。酸素同位体、炭素同位体比の変動は、スノーボール・アース仮説から導かれる論理的帰結と合致しているものと解釈された。現生代後期の炭酸塩岩の堆積環境の解析に、酸素同位体比が利用できることを世界に先駆けて示すことができた。一方、縞の解析では、区間2にメートルオーダーの明瞭な堆積サイクルが認められていた。このサイクルは、カルサイトに富んだ部分とドロマイトに富んだ部分の繰り返しで特徴づけられる。それぞれのサイクルには、ミリメートルスケールのラミナがあり、メートルスケールの堆積サイクルには、約1500枚のラミナが含まれていることが明らかになった。ラストフ縞状炭酸塩岩のラミナが1年ごとの環境の繰り返しを反映していることを論じた。一方、ナミビアのマイエバーグ縞状炭酸塩岩にはミリメートルスケールの縞とセンチメートルスケールの縞が形成されている。このような縞が潮汐リズムを反映したものである可能性を指摘した。この解釈によるとマイエバーグ縞状炭酸塩岩の堆積速度は、約25cm/年となる。これらの縞の解析から縞状炭酸塩岩に記録された炭素同位体比の変動の時間スケールは、数1000年であると見積もられた。これは新生代古第三紀の突発的温暖化事件(LPTM)における炭素同位体比の変動の時間スケールに比べ、一桁近く小さいことになる。以上の結果を総合すると、われわれが採集した氷河堆積物を直接覆う縞状炭酸塩岩の地球化学的特徴は、スノーボール・アース仮説と符合していることが明らかになった。
著者
酒井 達郎 川合 弘志
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.13, no.9, pp.385-387, 1966-09-15 (Released:2009-04-21)
参考文献数
5

(1) 本実験は千歳飴の曲り防止のため行なったもので,製造後どのような保管温度に置かれても粘度が1010Poise以上あれば曲りは防止できる。(2) 濃縮温度140℃と145°~150℃では飴内部の結合状態が異なり,140℃の場合は145℃に比較すれば非常に曲りやすい。(3) 濃縮温度140°~150℃における見掛け活性化エネルギーは測定温度領域25°~40℃で85.4~63.2kcal/molである。
著者
松尾 光弘 松田 理登 石橋 孝明 菊池 優花 山北 伊織 盛 夏希 今村 鮎美 坂本 貴良 田代 佑治 酒井 泰良 山中 佳樹 西立野 興文 湯淺 高志
出版者
Japanese Society of Cryobiology and Cryotechnology
雑誌
低温生物工学会誌 (ISSN:13407902)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.37-43, 2015-04-15 (Released:2017-06-15)

Low temperature have been broadly applied for storage technique of various vegetable and crops. Sweetpotato is one of the most popular crops grown in tropical and temperature regions. Because sweetpotato, originated from semi-tropical plants, is susceptible to cold stress, severe chilling stress by itself causes deterioration and/or irreversible damage in sweetpotato tuber tissues. However, mechanisms involved in physiological and biochemical changes of sweetpotato under chilling stress remain unclear. Thus, we focused on the gene expression profiles of cold stress-responsive transcriptional factors and carbohydrate metabolisms of sweetpotato in response to chilling stress. A sweetpotato homolog of Drought Responsive Element Binding factor (swDREB) is induced in sweetpotato within 6 h after treatment of chilling stresses. The expression of swDREB under chilling stress was maintained until 3 d. Chilling stress sequentially upregulated the expression of β-amylase (β-AMY) and trehalose-6-phosphate phosphatase (TPP). Increase of amylase activity and sugar content was also observed in sweet potato under chilling stress, These results suggest that swDREB mediates the expression of β-AMY and TPP via a cold stress-responsive transcription factor cascade, leading to degradation of starch in sweetpotato tuber and accumulation of maltose and trehalose.
著者
酒井 直樹
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 = NIHON KENKYŪ (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.11-22, 2016-06-30

アジア太平洋戦争後の東アジアで、日本はアジアの近代化の寵児とみなされ、アジアで唯一の先進国と呼ばれてきた。冷戦秩序下のパックス・アメリカーナ(アメリカの支配下の平和の意味)で日本は、東アジアにおけるアメリカ合州国の反共政策の中枢の役割を担い、「下請けの帝国」の地位を与えられ、経済的・政治的な特別待遇を享受してきた。日本研究は、この状況下で、欧米研究者による地域研究と日本人研究者の日本文学・日本史の間の共犯構造の下で、育成されてきたと言ってよい。「失われた二十年」の後、地域研究としての日本研究も日本文化論としての日本研究も根本的な変身を迫られている。それは、東アジアの研究者の眼差しを無視した日本研究が最早成り立つことができないからで、これまでの日本文化論に典型的にみられる欧米と日本の間の文明論的な転移構造にもとづく日本研究を維持することができなくなってきたからである。これからの日本研究には、合州国と日本の植民地意識を同時に俎上にあげるような理論的な視点が重要になってきている。