著者
竹田 誠 永田 典代 福原 秀雄
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

肺炎や下気道炎を起こすウイルスは多様である。しかしながら、これら呼吸器ウイルスは、ウイルス種としては多様であるものの、それら呼吸器ウイルスの膜融合蛋白が宿主気道上皮のプロテアーゼで活性化するという共通の性質を持つと考えられる。申請者らは「プロテアーゼ依存性トロピズム」理論に立脚した考えのもとに、ウイルス活性化に関する研究を推進してきた。その結果、ノックアウトマウス技術を用いることで、呼吸器上皮細胞に発現しているセリンプロテアーゼTMPRSS2が、インフルエンザウイルスの生体内活性化酵素であることを証明した。本研究では、TMPRSS2の生理機能や細胞内動態の解析、TMPRSS2の阻害化合物の大規模スクリーニングを実施し、TMPRSS2阻害化合物の呼吸器ウイルス感染阻害効果を検証することを目的に実験を行なっている。また、MERSコロナウイルス受容体(CD26)導入遺伝子改変マウスならびにTMPRSS2 KOマウスを用いて、MERSコロナウイルスのin vivo増殖、病原性発現におけるTMPRSS2の役割を解明するとともに、TMPRSS2の阻害化合物による各種呼吸器ウイルスやMERSコロナウイルスの生体内での増殖抑制効果を明らかにすることを目的に実験を行った。本研究開始以前に、MERSコロナウイルス受容体(CD26)導入遺伝子改変マウス(CD26-tgマウス)を作出することによって、すでにMERSコロナウイルスのin vivo(マウス)モデルを確立していたので、本マウスとTMPRSS2 KOマウスを交配されることによって作出されるマウス(CD26-tg/TMPRSS2 KOマウス)を用いて、MERSコロナウイルスのin vivo増殖におけるTMPRSS2の役割を解析した。の結果、TMPRSS2がMERSコロナウイルスの気道での増殖ならびに気道で起こる免疫反応に重要な意義があることが確認された。
著者
太田 博樹 勝村 啓史 植田 信太郎 須田 亙 水野 文月 熊谷 真彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

【研究目的】先史時代の日本列島に住んでいた人々は2~3 千年ほど前に劇的な“食”の変化を経験した。すなわち狩猟採集が中心であった縄文時代から大規模農耕が始まった弥生時代にかけての食性の変化である。この変化が先史日本列島に与えた生物学的インパクトは大きかったと予想される。本研究では先史時代遺跡で見つかる糞石や歯石のメタゲノム解析をおこない、“食”の対象となっていた動植物の特定を実現する。【実施した計画の概要】長崎大学医歯(薬)学総合研究科・弦本敏行教授(連携研究者)が管理する弥生時代遺跡出土人骨から採取を行った歯石から、琉球大学・澤藤りかい(研究協力者)がDNA抽出を行った。また、福井県立若狭歴史博物館・主任(文化財調査員)鯵本眞友美(研究協力者)、若狭三方縄文博物館・小島秀彰主査、および茨城県・ひたちなか市埋蔵文化センター・稲田健一主査(研究協力者)が管理する縄文時代遺跡出土の糞石から、北里大学・若林賢(研究協力者)がDNA抽出を行った。それぞれの遺跡から10検体、1検体、1検体の合計12検体からDNA抽出をおこない、うち9試料から検出限界以上のDNA濃度が検出された。葉緑体DNAプライマーをもちいて、2検体3試料でPCR増幅が確認でき、これらについてPCRアンプリコンシークエンスをおこない植物性食物の解析をおこなった。吹上貝塚遺跡出土糞石からはヒトが食する植物のDNAがヒットした。一方、鳥浜貝塚遺跡出土糞石からは環境DNAと思われるDNAがヒットした。また、前者からはヒトのDNAだけでなくイヌのDNAも検出された。このことから、この糞石がヒトのものかイヌのものか、区別を付ける必要が生じ、現在、さらなる分析をし、検討中である。
著者
土肥 敏博 森田 克也 森岡 徳光 仲田 義啓 北山 滋雄
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

アロディニアは,本来痛みを伝えない触角,冷覚など非侵害性の刺激によって痛みを生じる現象であり,神経因性疼痛neuropathic painの主症状として知られている.その発症機構は十分に解明されていない.血小板活性化因子(PAF)は炎症のメディエーターとして,とくに強力な浮腫誘発物質として知られる.しかし,痛覚伝導における役割は知られていない.本件研究は脊髄での痛覚伝導におけるPAFの役割について検討し,以下の結果を得た.1.PAFのマウス脊髄腔内投与は10fg〜1pgにおいてアロディニアを誘発した.PAF誘発アロディニアはPAF受容体拮抗薬TCV-309,WEB2086,BN50739およびATP P2X受容体拮抗薬pyridoxalphosphate-6-azophenyl-2,4-disulfonic acid(PPADS),NMDA受容体MK801および7-NI,morphine,QYNAD,minocyclineにより抑制された.2.PAF, NO donors, glutamate誘発アロディニアはNOスカベンジャー,guanylate cyclase inhibitor,G kinase inhibitorにより抑制され,cGMP誘導体によるアロディニアはG kinase inhibitorのみによって抑制された.3.PAFは培養後根神経節細胞からATPの遊離を引き起こした。PAF受容体mRNAはDRG,脊髄,ミクログリアにRT-PCRにより発現が確認された.4.PAFの脊髄腔内投与により脊髄背側表層にOX-42陽性ミクログリアが観察された.5.アモザピンの静脈内投与はPAF並びにcGMP誘発アロディニアを用量依存的に抑制した.これらの結果よりPAFは強いアロディニアを誘発し,その機序にATP P2X受容体,NMDA受容体,NOならびcyclic GMP/G-cyclaseカスケードが関与することが示唆された.この過程にミクログリアが関与することが示唆された.また,グリシントランスポーター遮断薬の抗アロディニア薬としての有用性が示唆された.また,Interleukin-1は疼痛伝達に係わりの深いP/Q type Ca2+ channelの発現を抑制すること,NSAIDsの一部はMDRを抑制して神経毒性を高める作用を有する事を認めた.以上,本研究で得られた知見より,PAF誘発アロディニアは神経因性疼痛の発症機序および新規治療薬開発のための有益なモデルとなることが示唆されその応用が期待される.
著者
小林 浩 吉田 昭三 春田 祥司 重富 洋志 吉澤 順子 野口 武俊
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

子宮内膜症からの癌化機序として遺伝子不安定性等を検討した。繰り返す月経血の逆流による酸化ストレスにより、子宮内膜症自体に遺伝子変異が生じており、脱落膜化機能に関連した遺伝子群がメチル化され発現低下していた。これはすでに子宮内膜症患者の正所子宮内膜においてもその発現変化を確認できた。毎月おこる月経血に含まれるヘモグロビンによるヘムや鉄により酸化ストレスによりG→T変異を起こし遺伝子変異が惹起された。元来胎児期から子宮内膜に遺伝子変異を有していると推定された女性が、生後に繰り返す出血により広範囲な遺伝子変異が発生し、鉄による酸化ストレスの影響を受けて子宮内膜症から発がんする機序を検討した。
著者
柴田 里程 清水 邦夫 神保 雅一 加藤 剛
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

神経細胞網の発火,心拍,降雨,地震,金融商品の取引発生,店への客の来店など,さまざまな点過程データに共通に適用可能なデータオリエンテッドなモデル構築手法を開発するとともに,ひとつのモデルライブラリーとして蓄積した.また,適切なデータ取得に必要な実験計画,データ解析をトータルにサポートするソフトウエア環境の構築,時系列モデルとの関連性の研究も並行して進めた.本研究は,現象と数理モデルを結びつける道筋を明らかにし,その道筋つまりメタデータを蓄積し,支援環境として実現する一般的な研究計画の一環であり,特に点過程データに焦点を絞ったものである.ライブラリーは,クラスタリングのある点過程に対する汎用なモデル,隠れマルコフ点過程モデル,隠れ準マルコフ点過程モデル,混合点過程モデル,多変量点過程モデル,ゼロにリセットされたのち単調に増加する強度関数モデル,モデルそれぞれに関する最尤解探索離散化アルゴリズムなどからなり,その適用事例は,神経細胞の膜電位,心拍,降雨,地震発生,美容院来店,金融商品取引発生など多岐に渡る.また,モデル構築を容易にするための統合環境も構築した。本環境はDandDに基づくものであり,Textile Plotをはじめとするさまざまなデータヴィジュアリゼーション手法の充実が一つの特徴である.
著者
小山 隆太
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

我々は、てんかん原性の獲得に寄与する現象として、乳幼児期に生じる複雑型熱性けいれんと、脳内免疫細胞であるマイクログリアに着目した。熱性けいれんは通常38℃以上の発熱によって引き起こされるが、けいれん状態が重篤な複雑型熱性けいれんは、将来のてんかん発症に関与することが示唆されている。しかし、複雑型熱性けいれん後のてんかん原性の獲得過程におけるマイクログリアの役割は殆ど明らかにされていない。そこで、本研究では高温刺激によって誘導する実験的熱性けいれんモデルマウスを利用して、熱性けいれんによるマイクログリアのプロパティ変化を詳細に検証した。その結果、熱性けいれん後の歯状回では、マイクログリアが抑制性シナプスを貪食することで、シナプスE/Iバランスが興奮性優位に傾斜することが明らかになった。なお、シナプスE/Iバランス破綻の結果として、熱性けいれん後のけいれん閾値が低下した。また、これらの現象は、マイクログリアの不活性化薬であるミノサイクリンによって抑制された。マイクログリアは補体を認識してシナプスを貪食するが、我々は、熱性けいれん後の抑制性シナプスに補体が局在することを発見した。さらに、補体の局在化の一因として、熱性けいれん時の脳内温度に活性化領域を有する温度感受性受容体「TRPV4」が関与することを明らかにした。以上の発見は、マイクログリアやTRPV4をターゲットとした「抗てんかん原性」薬の創薬に貢献しうる。
著者
工田 昌也
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

研究計画に従い内耳障害の基本的機序にはフリーラジカルとアポトーシスが関係していること、耳毒性薬剤による障害が、抗酸化剤、NOS抑制剤、ニューロトロフィン、アポトーシス抑制剤により軽減されることを、in vitroの実験系を用いて明らかにした。さらに、これらの感覚細胞障害軽減作用には各種薬剤によりフリーラジカルの産生が制御され、それによりアポトーシスが抑制されたことが強く関わっていることが明らかとなった。続いて、各種薬剤の併用効果を検討した結果、抗酸化剤+ニューロトロフィンというような作用機序の異なる薬剤の組み合わせで相乗効果が得られることが確認された。また、感覚細胞障害予防の観点から、HSPに注目しその内耳での働きを検討した結果、テプレノンの投与により、内耳に安全にHSPが誘導され、それにより感覚細胞障害の予防効果が発現することが明らかとなった。また、ラット感染モデルを用いた実験で抗酸化剤が聴力障害を予防する効果があること、抗酸化剤は鼓室内投与、全身投与のいずれでも有効であることが明らかとなった。一方、内耳障害の機序の一つとして中耳からLPSが効率に内耳に移行すること、移行経路には様々な経路があることを明らかにした。さらに、実際の臨床レベルでメニエール病のめまい、難聴に関して抗酸化剤を投与して治療効果を検討した結果良好な成績が得られた。加えて老人性難聴に対しても抗酸化剤による治療が有効であることを臨床的に確認した。これらの成果は40th Workshop on Inner Ear Biology、第13、14回日本耳科学会、第62、63回日本めまい平衡医学会で発表されると共に10編の論文にまとめられた。
著者
井田 徹哉 和泉 充
出版者
広島商船高等専門学校
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

次世代の船舶推進用電動機/発電機に高温超電導バルク磁石を搭載してその性能を飛躍的に向上させるために必要な、バルク磁石へのパルス着磁技術の開発を行った。本研究課題ではバルク磁石の特性に合わせたパルス磁場を発生させることを目標として、30K以下までの温度制御が可能なパルス着磁装置、25kJ出力のパルス着磁電源と表面の磁束密度分布を1ms以内で続けて計測可能な磁場センサを開発し、パルス着磁実験を試みた。
著者
岡田 勇 山本 仁志 諏訪 博彦
出版者
創価大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

今年度(第二年度)は、初年度に行った理論研究で明らかとなった協力を維持しうる規範が、実際の人間の規範意識として受容されているのかどうかを実証的に検討した。具体的には前半(2018.4-9)において、実験システムの仕様設計・構築・実装(外注)を行い、後半(2018.10-3)において、実際に被験者実験を行い規範意識の測定を行う。実施機関は創価大学と立正大学であり、それぞれの大学において研究倫理委員会などに実施の申請を行い承認を求めた。実証研究では、本研究で独自に開発した専用の経済実験システムを用いて行った。このシステムでは理論研究で明らかになった点、すなわち、行為者を評価する際にどのような情報に注目するかを測定する必要がある。従来知られていた規範では、行為者を評価する際に、一次情報(当該行為者が過去どのような行為をしたか)にまず着目し必要に応じて二次情報(当該行為者の行為が誰に対してなされたのか)に着目するという形態が主流であった。しかし本研究の理論研究では二次情報にまず着目し次に一次情報に着目するような評価ルールをもつ規範を新たな発見することができたため、この点を識別することが実験の大きな目的となる。被験者実験ではまずは大学生をサンプルとして実施した。実験は予備実験で実施の段取りを確認したのちに本実験として7回実施し、140名余りのサンプルを確保できた。この分析の結果、確かに理論として発見された規範が人間にも観察されることが確認できた。この結果は直ちに論文化して発表した。第三年度では理論と実験結果を統合して新たな理論仮説と分析に挑戦する。
著者
三木 敦朗 奥山 洋一郎 白澤 紘明 斎藤 仁志
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

森林管理を持続可能な水準に高めることが求められていますが、一方でそれを実行する市町村では人材確保が難しいという現状があります。行政担当者の意志決定を支援するAIシステムがあれば、担当者は住民や関係者との合意形成等に専念することができ、持続可能な森林管理と行政コストの圧縮が両立できるのではないかと考えます。本研究は、そうしたAIの可能性を調査・実験等によって検証します。また、こうしたシステムが導入されたとき、森林管理や合意形成のあり方がどのように変化するのかを、制度と人材育成の面からも検討します。
著者
神田 道子 旭 洋一郎 天野 マキ 細井 洋子
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、女性の社会参画を推進すると観点に立ち、教育、福祉、医療領域の女性リーダーについて、調査に基づいてジェンダー関係の差別の構造について分析した。その際、コンパラブル・ワース、組織のタイプ、所属するスペース、スペースの中で権力関係を伴う位置=プレイスの概念を用いてアプローチした。調査は、公立小中学校の校長・教頭、福祉施設の施設長、公立病院の看護部長・婦長、コントロールグループとして地方自治体の管理職者、組織のタイプが異なる社会活動リーダー(女性問題、教育、学習、福祉活動)を対象に行った。分析を通して以下の知見が得られた。1.所属するスペースのジェンダー構成によって人事、マネージメントなどによる影響力に差があり、女性比率が高い小学校、病院などは強い影響力をもつ。しかし、これらはコンパラブル・ワースが問題になる領域であり、差別の構造の複雑さが明らかになった。2.ジェンダーの意識、女性問題認識などでは、職業リーダーと社会活動リーダーとの間に差がみられた。「学校」「病院」リーダーは性役割の固定化につながる意識がみられた。参画可能性があり、影響力をもつプレイスに座ったとしても、それが男女平等を質的に進める参画には結びつかない場合もあることを示している。3.リーダーの生活を情報資源、人間関係資源、時間資源の所有状況などから分析し、その生活を明らかにした。
著者
西森 克彦 東田 陽博 尾仲 達史 坂本 浩隆 黒田 久美 八尾 寛
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

脳内オキシトシン(OXT)と受容体は社会行動の制御機能を持ち、ヒト鼻腔投与OXTが社会性を高める事から自閉症への投与試験も開始された。本研究ではOXTR発現性神経の社会行動制御機構を解析した。まずOXTによる5-HT分泌制御の役割を解析した。そして、社会識別時にMeAのOXTR発現神経の多くでc-Fos活性化を検出した。5-HT神経特異的OXTR遺伝子KOマウスを作製、当該神経の機能解析を行ったが社会記憶の障害は見出せなかった。体温調節能に関わる淡蒼縫線核のOXTR発現性Glutaminergic神経を見出した。一方、OXTR発現性I型味細胞の解析を進め、その性質について新しい情報を得た。
著者
内田 諭 内田 聖二 赤野 一郎 Danny Minn 工藤 洋路 石井 康毅 ハズウェル クリストファー
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

2018年度の研究計画は和英連語辞書に収録すべき見出し語の選定と連語抽出の試行を主眼とし、次の3段階で実施した。・(1)見出し語の選定:BCCWJやTWCなどの日本語大規模コーパスを用いて、収録すべき見出し語の選定を行った。名詞を中心に選定し、日本の英語教育(特に高等学校レベル)の実情に合ったものになるように心がけた。・(2)連語表現の抽出の試行:(1)で選定した見出し語のうち、頻度の高い最重要名詞について、連語表現の抽出を行った。研究分担者の意見や研究会や学会などでの専門家からの助言、コーパスにおける共起指数等を基に、教育目的で有益な連語表現を選定した。また、次年度以降の研究・執筆作業が円滑に行えるよう、連語抽出に関する全体の方針について議論し、手続きをある程度明確化した。・(3)英訳の試行:(2)で抽出した連語表現について、英訳を予備的に実施した。英語母語話者の意見・助言を基に、特に日本語と英語でずれのある表現について集中的に討議した(例えば、「体」は英語ではbodyであるが、「体が温まる」はbecome warm from inside、「体が覚える」はbecome automaticなどのように必ずしもbodyを使うとは限らず特別な注意が必要となる)。これらの作業に加えて、辞書を公開する際に用いるウェブインタフェースのプロトタイプを作成した。これにより、早い段階から研究の最終成果物のイメージを共有することが可能となった。
著者
戸田 正憲 和多田 正義 田村 浩一郎 加藤 徹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

全ゲノム配列情報を「骨格」として,さまざまな部分配列情報を網羅的に利用可能にする,分子系統解析のための新しい方法論を考案し,モデル生物群としてのショウジョウバエ科の系統解析を行った.その結果,極めて高い解像度の系統樹が推定され,新しい方法論の有効性が実証されるとともに,これまで未解明の部分があった最大の属,ショウジョウバエ属について,いくつかの重要な新しい系統情報が得られた.これにより,ショウジョウバエ科の系統分類学および進化学的枠組みを大きく変える必要がある.
著者
出利葉 浩司 宮武 公夫 財部 香枝 矢口 祐人 宮武 公夫 財部 香枝 矢口 祐人
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

明治年間に北海道を訪問し、アイヌの人びとに出会った西洋人とくにアメリカ人が残した記録類について、「出会い」という視点からながめてみることが本研究の目的である。日記、書簡類などのうち、ハイラム・ヒラー書簡、ロミン・ヒチコック講演草稿、セントルイス万国博覧会におけるフレデリック・スター収集資料記載情報については、翻刻、翻訳し、公表することができた。また、セントルイス万国博覧会、ロンドン万国博覧会をめぐる人類学的問題について、調査された資料をもとに、それぞれ論考をまとめることができた。
著者
菊池 誠 岡本 賢吾 岡田 光弘 三好 博之
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

現代の数学の哲学には (1) 数学の算術および集合論への還元,(2) 一階論理上での集合論の公理化,(3) 一階論理による証明概念の形式化,(4) チューリング機械による計算可能性の特徴付けという[四つの原理]がある.本研究はこの[四つの原理]と現代の[標準的数学観]の関係,[四つの原理]とそれらの相互の関係をに検討することで,数学の哲学の新たな展開と,計算・推論・情報の概念の哲学的解明を目指すものである.2018年度中には以下の活動を行った.(1) 2018年9月3日から9月6日まで神戸大学六甲台第二キャンパス内工学研究科において「数学基礎論サマースクール(テーマ:証明論,特に算術の無矛盾性証明)」を開催した.(2) 2018年9月18日から20日まで神戸大学瀧川記念会館において「Symposium on Advances in Mathematical Logic 2018(竹内外史追悼シンポジウム)」を会した.(3) 日本科学哲学会2018年度大会においてワークショップ「計算の哲学:推論および物理的現象との関係の再考に向けて」を開催した.(4) 共立数学文献を読む会において講演「幾何学の基礎に関するフレーゲ・ヒルベルト論争について」を菊池誠が行なった.これらの活動の結果として,以下の成果を得た.(1) 竹内の証明論と集合論の哲学の特徴について分析を行い20世紀の数学基礎論についての議論の枠組みの詳細を定めた.(2) フレーゲ以前の論理学,フレーゲ,ヒルベルトの量化と含意についての考え方の共通点と相違点の分析の重要性を明らかにした..(4) 量子論理の基本的な性質についての議論を進めた.(5) 不完全性定理と有限の立場についての分析を行なった.
著者
大沢 真理 小笠原 祐子 ロバーツ グレンダ 田中 和子 合場 敬子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、経済グローバル化のもとで、「ニュー・エコノミー」として生じているとされる産業構造や労働組織など変化について、英、独、米および日本について、ジェンダー関係との関連を比較分析するもの。たとえば、産業や労働の組織の「フラット化」や「柔軟化」が語られながら、じつは社会的格差の拡大が懸念されること、また、近年の規制改革や福祉国家改革のベクトルでも、規制緩和や民営化ばかりではなく、再規制化やセーフティネット強化の要素が見逃せないこと、これらの事象のいずれもジェンダー関係と交差していること、が指摘される。対象4国は、今日の世界経済で大きな比重をもち、かつ相互に意味ある好対照をなしている。なにより4つの国は、異なる性格のジェンダー・レジームを持っている。アメリカは女性の就業を促進する方向に最も進んでおり、日本は女性の世帯内役割を最優先するジェンダー・レジームであるように見える。福祉と産業労働、家庭を横断するジェンダー・レジームは、収斂しているのか、あるいは強い経路依存性のもとで分岐しているのかなどの論点が、本研究で解明され発表されてきた。すなわち、2002年9月3日には東京大学において、公開シンポジウム「グローバル時代の「ニュー・エコノミー」-日米欧の比較ジェンダー分析」を開催し、本研究のコンセプトについて研究グループの外部から意見等を得た。その内容は、雑誌『現代思想』31巻1号(2003年1月号)の特集「トランスナショナル・フェミニズム」として発表された。2003年9月末にはブレーメン大学、2004年3月初めには日本国内で、海外共同研究者との研究会を集中的に開催した。研究の成果を広く社会に還元するべく、2004年3月4日に東京大学において、公開シンポジウム「グローバル時代の「ニュー・エコノミー」-日米欧の比較ジェンダー分析II」を開催(第18回東大社研シンポジウム)。
著者
酒井 大輔 檜山 明彦 平山 令明 升井 伸治
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究計画の目的は、椎間板髄核細胞の分化、生存を制御する転写因子ネットワークについてiPS技術を用いて解析し、未だ詳細には解明されていない、iPS細胞や間葉系幹細胞などからの椎間板髄核前駆細胞の誘導法を確立することである。その後、明らかとなったコア転写因子を用いて、髄核細胞の機能向上、コア転写因子を標的とした新規治療法の開発など椎間板再生医療研究に広く応用することである。実験1椎間板髄核細胞のiPS化:コア転写因子を同定するiPS干渉法を行うために、椎間板髄核細胞のiPS化を行った。京都大学iPS研究所のiPS化プロトコールに従いiPS細胞評価は細胞形態変化とアルカリフォスファターゼ染色にて行った。その結果、椎間板髄核細胞のiPS化が認められたが、酸素分圧の調整など検討材料が得られた。実験2椎間板髄核細胞iPS化の高効率化、遺伝子導入効率の向上:椎間板髄核細胞はiPS化したものの導出効率が低く、iPS干渉法で阻害度を測定するには不十分であったため、iPS化の高効率化を行った。GFPにて遺伝子導入効率が良い酸素分圧、培養条件を検討した。その結果、低酸素+α-MEM培地の条件にて高いGFP発現率(80%)を認め、常酸素+D-MEM培地の条件では発現率は低かった(46.2%)。そこで酸素分圧と、細胞密度を振ってiPS化工程を行った結果、全工程を低酸素条件でした群ではiPS化は起こらなかった。遺伝子導入時は低酸素条件で行い、その後は常酸素条件に戻した群で多数のiPSコロニーを認めた。これは一般的に線維芽細胞のiPS化では低酸素にてiPSコロニー数は増加することが知られているが、低酸素、HIF1A、HIF2Aは髄核細胞の特性としても非常に重要であることが知られているため、低酸素条件が髄核細胞形質を維持させたことが考えられ、新たな知見を見出した。現在、転写因子の絞り込みを行なっている。
著者
鈴木 亮子 遠藤 智子 中山 俊秀 横森 大輔 土屋 智行 柴崎 礼士郎
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-07-18

「言語の定型性」という、従来の言語研究では殆ど顧みられてこなかった側面が、実際の言語使用では広汎に見られることが近年指摘されてきている。定型性の理解に向けて、実際の人々の言語使用を記録したデータをもとに観察・分析・記述を蓄積しつつ、言語の定型性を中軸に据えた文法理論の構築を試みることが、私たちのもつ言語知識の全体像の理解に不可欠であると考え、本研究では日中英3言語の会話をはじめとするデータの分析に取り組んでいる。定型性の分析に向けての情報収集を行った初年度に続き、2018年度はデータと向き合い個々のメンバーの専門性を生かした研究活動を進めることができた(業績参照)。2018年5月に年間活動予定を定め二通りのデータセッションを行った。まず同じ動画データ(大学生の会話)を見ながらメンバーそれぞれの定型性と言語使用に関する気付きを共有し合った後、個々のメンバーが日・中・英語のデータから短いセグメントを持ち寄り議論をした。定型性を分析する上でポイントになるリサーチクエスチョンのリストを作成した。これらが研究をまとめる際の糸口になる。9月には国際学会(Referentiality Workshop)などに複数のメンバーが研究発表を行い海外の学者との研究交流を深めた。2018年12月に海外研究協力者のHongyin Tao氏(UCLA)と大野剛氏(U of Alberta)を招聘し東京外国語大学で国際ワークショップを開催し、言語の定型性を中心に据えた理論化を見据えた発表を聞くことができた。2019年3月6日から7日にかけて九州大学で行った第3回目の会合ではこれまでの研究会合を振り返り今後の方向性を議論した。相互行為分析からは少し離れた立場の方々を招いて言語の定型性に関する議論を深める案などが出された。2020年3月には定型性研究の先鞭をつけたAlison Wray氏をイギリスから招いて国際ワークショップを開催する方向で動き出している。
著者
木島 章文 樋口 貴広 島 弘幸 奥村 基生 鈴木 聡
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

小学校2, 4, 6年生を対象とした実験を完了し,以下の結果を得た(現状も分析を続行している).1) 三者跳躍課題の遂行に伴うミスの回数を学年間で比較した結果,第2学年以上になるとミスの回数が多くなる傾向が見られた.2年生においては一方向のみあるいは定型的に跳躍方向を切り替える組(例えば,左右1回ずつ交互に,あるいは2回ずつ交互になど)が7割がたを占め,第4学年以上になると不規則に跳躍方向を切り返す組が7割がたを占めていた.また第6学年では成人と同じく,反時計回り方向へ跳躍するケースが顕著に多くなった(平均で成功回数の7割).2)先導跳躍者に対する他二者の遅れに関して学年間に有意差はなかったが,全ての学年における遅れ時間が,成人より有意に大きかった.また先導・追従性に差がない等質群においては,成人と同じく,正方形条件における遅れが正三角形条件における遅れより大きい傾向があった.また先導性に差がある異質群においては,成人とは逆に,正方形条件において先導児童が早期に跳躍することを示す二者先導(一者追従)型の協応パタンを示す傾向が強かった.3)等質群では,三者の配置が対称な正三角形条件において三者それぞれが他を先導する確率が等しく(約33%),正方形条件では跳躍方向に空き地を持つ一者が先導する確率が抜きん出て高く,他の二者が先導することはほとんどなかった.これら協応パタンは成人のパタンと同じ性質であり,それぞれの地形における跳躍者の配置の対称性から群論に基づいて予測したパタンと一致する.一方で異質群においては先導児童が場の制約に反して先導する傾向が高かった.そこで現れるパタンの時空間対称性は地形から予測される対称性より低い.現在,跳躍者の個性が地形の幾何学対称性から予測される協応パタンの対称性が,そこに配置される跳躍者の個性によって崩れることを説明する数理モデルを検討している.