著者
熊野 純彦 木村 純二 横山 聡子 古田 徹也 池松 辰男 岡田 安芸子 吉田 真樹 荒谷 大輔 中野 裕考 佐々木 雄大 麻生 博之 岡田 大助 山蔦 真之 朴 倍暎 三重野 清顕 宮村 悠介 頼住 光子 板東 洋介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2018年度は、本研究の主要達成課題のうち、「各層(家族・経済・超越)の各思想の内在的理解」を中心とする研究がなされた。近現代日本の共同体論を再検証するにあたっては、2017年度で取り組まれた「和辻共同体論の参照軸化」に加え、家族・経済・超越それぞれの層に関連する思想を巡る形成の背景に対しても、テクストに内在した読解を通じて光を当て直す必要がある。以下、そうした問題意識のもとに取り組まれた、2018年度の関連実績のうち主要なものを列挙する。(1)研究代表者の熊野純彦は、著書『本居宣長』において、近世から現代に至るまでの代表的な思想家たちによる宣長の思想の受容過程を丹念に整理・検証することで、それを近代日本の精神史の一齣として提示することを試みた。それを踏まえたうえで改めて宣長のテクストの読解を行い、今日の時代のなかでその思想の全体像を捉えかえそうとしたところに、本業績の特徴がある。(2)研究分担者宮村悠介は、主に本研究の研究分担者からなる研究会(2018年9月)にて、研究報告「家族は人格ではない 和辻共同体論のコンテクスト」を行い、和辻倫理学の形成過程におけるシェーラーの影響と対話の形跡を、具体的にテクストをあげつつ剔抉した。これは、翌年度の課題である「思想交錯実態の解明」にとってもモデルケースとなる試みである。(3)超越部会では台湾の徐興慶氏(中国文化大学教授)を招聘、大陸朱子学と、幕末から近代に至るまで様々な思想に陰に陽に影響を及ぼしてきた水戸学の影響関係について知見をあおいだ(「「中期水戸学」を如何に読み解くべきか 徳川ミュージアム所蔵の関係資料を視野に」2018年)。これにより、広く東アジアの思想伝統と近世以降現代に至るまでの日本思想の受容・対話の形跡を実証的に検証することの重要性を改めて共有できたことは、本研究の趣旨に照らしても重要な意義を持つと思われる。
著者
宮本 悟 池内 恵 岩田 拓夫 佐野 康子 横田 貴之
出版者
聖学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、国連安保理決議によって禁止されても継続しているアフリカ諸国に対する北朝鮮の武器貿易や軍事支援を調査することにある。本研究では、亡命者や韓国の情報機関の過去の記録、現地のメディアの報道などで北朝鮮と関係があるアフリカ諸国を特定し、さらにアフリカ現地で資料収集やインタビューを実施した。その結果、複数のアフリカ諸国で北朝鮮との軍事協力が発見された。調査結果は国連安保理制裁委員会への報告のみならず、書籍や論文、雑誌記事、さらにテレビやラジオ報道などで発表した。本研究は、北朝鮮とアフリカ諸国の軍事協力が拡大していることを日本のみならず、国際的に広めることにも大きく寄与したといえる。
著者
桑原 直巳 黒住 眞 川村 信三 夏秋 英房 川本 隆史 根占 献一 高祖 敏明 ウセレル アントニ 島村 絵里子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

イエズス会の修道会としての特質は国家の枠を超える国際的視点にある。また、その人文主義的な教育、就中修辞学教育の伝統は、直面する社会的現実に対して柔軟に対応する体質をもたらしている。本研究の結果、こうしたイエズス会の特徴が多様な文化と対話する基本姿勢をもたらしていることが明らかになった。第二バチカン公会議以降の今日、イエズス会を中心とするカトリック系人文主義教育は、社会正義の強調という方向を打ち出している。この方向は、グローバル化が進展しつつあり、移民の増加、地球レベルでの経済格差の拡大といった問題に直面している現代社会に対して様々な示唆を与えることが明らかになった。
著者
伊藤 毅志 保木 邦仁 西野 哲朗 棟方 渚 片寄 晴弘 池田 心
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、ゲームにおける人間のミスに着目し、人間らしいミスを犯すゲームAIの構築を目指し、以下の研究成果を得た。1)ゲームにおける人間の犯すミスの原因に着目した分類。2)人間の生物学的成約を考慮したモデルを持ったゲームAIの構築。3)ゲームにおける技量を自動的に調整して良い勝負を演出できるゲームAIの提案と評価。4)人間の思考の特徴である「流れ」を持たせ、人間らしいプレイを実現するゲームAIの提案。これらの研究の成果は、人間と対戦するゲームAIに「強さ」という方向性以外の新しい評価基準をもたらし、多様なゲームAIの指針となると考えられる。
著者
池谷 真 ALEV CANTAS 太田 章 櫻井 英俊 森実 飛鳥 佐藤 貴彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

将来の再生医療や創薬研究に資する安全な間葉系幹細胞をiPS細胞から効率的に得る方法を確立するため、異なる3つの細胞系譜(神経堤細胞と神経細胞と中胚葉細胞)を経由して間葉系幹細胞を誘導するゼノフリーの方法の開発を行った。また、同一ロットの細胞を大量に得るため、中間段階の細胞の拡大培養・凍結保存法の開発を試みた。誘導された間葉系幹細胞の品質は、骨・軟骨・脂肪への分化能で比較・評価した。神経堤細胞と中胚葉細胞を経由した分化誘導法の確立に成功し、神経細胞を経由した分化誘導法の確立には一部成功した。拡大培養については神経細胞について成功し、神経堤細胞、中胚葉細胞、間葉系幹細胞については一部成功した。
著者
盛永 審一郎 加藤 尚武 秋葉 悦子 浅見 昇吾 甲斐 克則 香川 知晶 忽那 敬三 久保田 顕二 蔵田 伸雄 小出 泰士 児玉 聡 小林 真紀 品川 哲彦 本田 まり 松田 純 飯田 亘之 水野 俊誠
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-11-18

終末期の意思決定に関する法制度・ガイドライン等を批判的に検討した結果、以下のことが明らかとなった。①医師ー患者関係に信頼性があり、透明性が担保されていれば、すべり坂の仮説はおこらないこと、②緩和ケアと安楽死は、相互に排他的なものではなくて、よき生の終結ケアの不可欠の要素であること、③それにもかかわらず、「すべり坂の仮説」を完全に払拭しえないのは、通常の医療である治療の差し控えや中止、緩和医療を施行するとき、患者の同意を医師が必ずしもとらないことにあること。したがって、通常の治療を含むすべての終末期ケアを透明にする仕組みの構築こそが『死の質の良さを』を保証する最上の道であると、我々は結論した。
著者
滝沢 龍
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

数万人規模の英国等で行われる複数の出生コホートの縦断的データを用いて、子ども期の逆境体験[虐待、いじめ、貧困(養育者の低い社会経済的地位)、本人の精神・行動障害(抑うつ・不安・精神病症状・自傷・希死念慮等)、養育者の精神障害等]が成人に至る一生涯の健康・生活への影響を立証するために生涯発達の視点から検討を続けている。英国ロンドン大学で行われる世界中の共同研究者との研究会議に定期的に参加し、解析・公表や次の計測計画について議論している。子ども期のいじめ被害体験が成人の健康サービスに及ぼす影響を社会的コストとして捉えて、英国King's College LondonとLondon School of Economicsとの英国大規模コホートを用いた共同研究で、子ども期のいじめ被害による50代までの社会的コスト[雇用・ヘルスサービス費用・貯蓄資産など]への影響が甚大であることを初めて明らかにし、学校での予防教育プログラムの費用の方が安価であることを示した(Brimblecombe et al, Social Science and Medicine. 2018)。これは逆境体験の累積インパクトを、「社会的コスト」によって<見える化>する試みであり、今後の健康政策・教育政策に示唆を与える結果である。
著者
諸岡 了介 相澤 出 田代 志門 桐原 健真 藤本 穣彦 板倉 有紀 河原 正典
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究プロジェクトでは、ケア実践との関連において現代日本における死生観の実態を明らかにすべく、各種の質的調査や、思想史的・宗教史的考察、海外事情の研究といった分担研究を集約しながら、在宅ホスピスを利用した患者遺族を対象とした大規模な調査票調査を実施した。調査票調査では、宮城県・福島県における在宅ホスピス診療所6カ所の利用者2223名に依頼状を送付して、663通の回答が得られた。その分析から、在宅療養時の患者や家族の不安感やニーズの詳細とともに、宗教的関心に経済的・社会的関心が絡み合った死生観の具体相が明らかにされた。
著者
酒谷 薫 岡本 雅子 小林 寛道 辻井 岳雄
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

現代社会に蔓延するストレスは、様々な疾患の主要原因の一つである。本研究では、近赤外分光法(NIRS)を用いて、前頭前野の神経活動を計測し、自律神経系・内分泌系機能及び心理状態とともに、ストレスを客観的に評価する方法を開発した。さらに本法を用いて、中高齢者における運動療法のストレス緩和効果について検討し、軽い運動でもストレス緩和効果があることを明らかにした。さらに高齢者に軽い運動を負荷することにより、前頭前野のワーキングメモリー課題に対する反応性が上昇し、パフォーマンスが向上することが示唆された。本ストレス評価法と運動療法を組み合わせることにより、ストレス性疾患を予防できる可能性がある。
著者
押田 龍夫 遠藤 秀紀 本川 雅治 木村 順平 Son Truong Nguyen Thida Oo Wynn Than
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

インドシナ半島に生息するリス科齧歯類等の小型哺乳類において,河川及び海洋による地理的隔離が種分化の要因であることが示唆された.しかしながら,現在のインドシナ半島に存在するメコン川等の地理的障壁では簡単に説明することが出来ない系統地理学的結果も得られたことから,今後さらに詳細な研究が必要であることが示された.また,研究計画の主目的とは逸れるが,新種のコウモリ1種及びリス1種をベトナムにおいて発見し記載・報告することに成功した.
著者
関根 康正 鈴木 晋介 根本 達 志賀 浄邦
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

関根は、2018年8月~9月に英国現地調査を実施した。移民3世が登場する1990年代以降、インド系移民社会内部に新たに現象してきた「不可触民」差別に対する解放運動の実態について関係組織を訪問しインタビューを行った。また、ロンドン大学SOAS図書館で関係資料収集を行った。2019年1月の研究会でその成果を「英国・ロンドンでのインド系移民のアンベードカラトの反差別運動について」と題して報告をした。根本は2018年8月~9月および2019年2月~3月、インドのナーグプルで計4週間のフィールドワークを行なった。特に仏教僧佐々井秀嶺が現地に保管する不可触民解放運動史料の確認・整理に取り組みつつ、佐々井と仏教徒による創発的な宗教実践と当事者性の拡張について調査を実施した。これに加え、ナーグプルおよび近隣農村におけるダリト(元不可触民)活動家男性と上位カースト女性の異カースト間結婚の調査にも取り組んだ。鈴木は2019年2月にスリランカでのフィールドワークを行った。シンハラ仏教僧や在スリランカ・インド僧(Mahamevnawa僧院)への追加インタビューを通じて、南アジア上座部仏教圏におけるアンベードカライト的言説の評価の輻輳性の考察に資する言説データを蓄積するとともに、巡礼を中心としたインド、スリランカ両国仏教徒のトランスナショナル・ネットワークの実態に関する一次資料の収集に取り組んだ。志賀は文献研究として、アンベードカルによる『ブッダとそのダンマ』の第3部と『改宗(ヒンドゥー教からの離脱)』のテキスト分析と内容の比較を行った。定例の研究会においては、仏教徒のアイデンティティの二重性、改宗が持つ意味、仏教徒の行為主体性等について考察し報告した。また2019年3月にインド・ナーグプルを訪問し、トランスナショナルな仏教者ネットワークや仏教徒の行為主体性などについて現地調査を行った。
著者
石井 健
出版者
独立行政法人医薬基盤研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

インフルエンザワクチンと一口に言ってもその形態によって弱毒化生ワクチン、不活化全粒子ワクチン、不活化スプリットワクチンの3種類に分類されるが、ウイルス感染免疫の研究に比べ各ワクチンによる免疫学的作用機序に関する詳細な検討はなされていなかった。今回、マウス、ヒト両方の実験系を用いて、スプリットワクチンでは自然免疫の活性化がほとんど見られないが、同じ不活化ワクチンでも、全粒子ワクチンでは、中のウイルスゲノム(RNA)がTLR7を活性化して、高い免疫原性(抗原特異的CD4T細胞、B細胞誘導能)を発揮することを示した。その効果に形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid DC ; pDC)が必須で、TLR7によるI型インターフェロンを介していること、生ワクチンはさらにRLR, NLRでもない未知の自然免疫シグナルを誘導することを示した(Koyama S et al Plasmacytoid dendritic cells delineate immunogenicity of influenza vaccine subtypes. Sci Transl Med. 2(25): 24ra25.(2010))。次に、臨床でもっとも長く、そして頻繁に用いられているアラムアジュバント(ミョウバン)の自然免疫メカニズムの一端として、アラムが、好中球遊走、その好中球の細胞死、そしてDNAを主成分とするネット状物質(neutrophil extracellular traps(NETs))を放出させることを明らかにした。そしてそのDNAがアラムのアジュバント効果、特にIgEの産生に重要で、炎症性樹状細胞(inflammatory DC)といわれる抗原提示細胞の細胞内DNA認識機構を介していることが明らかになった。実際TBK1、IRF3欠損マウスではアラムのアジュバント効果の一部が著名に減弱していた(Marichal T, et al DNA released from dying host cells mediates aluminum adjuvant activity. Nat Med. 2011 17(8): 996-1002.)。このようにアジュバント(因子)の分子メカニズムを免疫学的に明らかにできるようになり、ワクチンやアジュバントの開発研究において、その有効性や安全性の向上に寄与できることが期待される。
著者
内田 九州男 松原 弘宣 寺内 浩 山川 廣司 藤田 勝久 加藤 國安
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

[資料収集と現状把握](1)日本国内。2700件余の四国遍路関係資料・文献のデータを収集し、原資料では、納経帳等愛媛県歴史文化博物館蔵の資料、また接待資料や『四国霊験奇応記』、伊予小松藩会所日記等の写真を収集した。(2)海外。中国、チベット、スペイン、イギリスへ出張し、巡礼の現状、旅行・宗教のルート等の調査を実施した。[口頭発表](1)愛媛大学公開講座または愛媛大学法文学部開放講座を3年間で3回(年に1回)実施し、合計22本の講演を行った。(2)平成15年度に「四国遍路と世界の巡礼-その歴史的諸相の解明と東西比較-」(国内シンポジウム)を開き、12本の報告を行った。16年度はフランスから巡礼研究者2名を招き「四国遍路と世界の巡礼-歴史的諸相の解明と東西比較-」(国際シンポジウム)を開いた。このシンポジウムに国内からは11本の報告を用意した。また個人による個別の口頭発表を約20本おこなった。[学会誌その他の発表]遍路・巡礼・旅・いやし等多方面からの研究成果を50編余の論文・小論等にまとめ発表した。[印刷物]研究成果を以下のように刊行した。『四国遍路と世界の巡礼 平成15年度愛媛大学国内シンポジウムプロシーディングズ』(平成16年2月)、『愛媛大学「四国遍路と世界の巡礼」国際シンポジウム』(平成16年10月)、『愛媛大学「四国遍路と世界の巡礼」国際シンポジウムプロシーディングズ』(平成17年3月)。また個人の関係著書は9冊に及んだ。3ヶ年の研究活動を通して、国内の四国遍路や六部研究を初め古代ギリシャや近世イギリスの巡礼等、諸巡礼とその時代環境の解明等の個別研究を大きく前進させたと同時に、その国際比較の基礎を築いたと評価できる。
著者
北澤 毅 有本 真紀 間山 広朗 鶴田 真紀 小野 奈生子
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

2018年度においては、研究実施計画に基づき、〈A〉「学校的社会化基礎研究」、〈B〉発達障害研究、〈C〉「尋常1年生の誕生」および「児童観」の変容に関する歴史社会学研究を行った。〈A〉については、社会化論に関する理論・方法論的研究として、構築主義と学校的社会化という観点から、逸脱と社会化に関する理論的方法論的な検討を行った。また、経験的研究として、関東地方の小学校・幼稚園、中国地方のこども園でのフィールドワークを実施した。その成果として、幼稚園の教育場面における学校的な相互行為形式や、成員カテゴリ-の使用のされ方に着目して、<園児であろうとする>子ども達の実践方法を分析した。〈B〉については、関東地方の小学校において特別支援教育に在籍している児童の観察調査や、小学校時代に特別支援学級から普通級に転籍した経験をもつ中学3年生に関するインタビュー調査を実施した。また、発達障害児に関してこれまでに収集した資料データの整理を行った。こうした調査、作業を通して、「逸脱」を構成する概念装置としての「発達障害児」に対する「子どもらしさ」の語られ方や、放課後児童クラブでの発達障害児支援における支援員の葛藤についての検討を行った。〈C〉では、近代学校開始以来、小学校への新規参入者が「児童になる」様相と、彼らをとりまく保護者や教員のもつ「児童観」の変容を歴史社会学の観点から明らかにした。また、これまでに収集した一次史料のデータベース化と分析を継続し、大正期になされた児童への評価から教師の児童観の検討を行った。以上の調査研究の進展に伴って、2018年度には、学会発表や学術論文に加えて、学校における教師の方法論を社会学的立場から描き出した編著(北澤・間山編)、および発達障害の社会学研究としての単著(鶴田)を公刊した。
著者
中村 肇 上谷 良行 西山 馨 松尾 雅文 白川 卓 竹島 泰弘
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

グルコース6リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症は新生児黄疸の重要な原因と考えられている。しかし我が国ではその頻度は少なく、G6PD欠損症と新生児黄疸、特に核黄疸発生との分子レベルでの検討はなされていない。本研究は、G6PD欠損症が多発しているフィリピンで新生児黄疸特に核黄疸とG6PD欠損症との関連をその遺伝子の異常を基盤にして明らかにするものである。そのため、フィリピン総合病院をはじめ、メトロマニラ地区にある病院で出生した新生児を対象としてG6PD欠損症の新生児マススクリーニングを実施した。これまでに、約3万人の新生児を対象として実施し、人口の約3%がG6PD欠損症であることが判明してきた。新生児スクリーニングにより多くのG6PD欠損症が発見されたが、発見された症例の中に少なからず女児例が混在していた。本来G6PD欠損症は伴性劣性遺伝をとり、女性はたとえ遺伝子の異常をもったとしてもキャリアーとなり、男性のみに発生するものである。今回、女児でG6PD欠損症と診断した症例は、本来キャリアーで無症状であるはずのものがX染色体の不活化に偏りがあり、正常の遺伝子をもつX染色体が強く不活化され異常な遺伝子をもつX染色体が強く活性化されているものと考えられた。そこで、G6PD欠損症と診断された女児を対象に遺伝子からのmRNAの解析を行い、正常と異常のどちらの遺伝子から転写されたものが多いかを調べ、女性G6PD欠損症の不活化の偏りについて検討した。その結果、予想通りX染色体の不活化の偏りがあり、こうした女児G6PD欠損症では正常の遺伝子を持つX染色体が強く不活化されていることが判明した。
著者
高田 秀重 綿貫 豊
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

海洋漂流プラスチックおよび海岸漂着プラスチック中に添加剤由来および周辺の海水中から吸着してきた有機汚染物質が1ng/g~10000ng/g程度の濃度で含まれることを明らかにした。これらの有機汚染物質はプラスチックが生物に摂食された場合に、生物の組織中に移行することを、海鳥を対象にして、明らかにした。添加剤由来の化学物質の海鳥への移行において、海鳥の胃内のストマックオイルという油に富む消化液による溶出が鍵となっていることを室内溶出実験により明らかにした。今後、摂食プラスチックを介した化学物質の生物への曝露について、その規模と広がりを明らかにしていく必要がある。
著者
平田 結喜緒 七里 眞義
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

糖質ステロイド(GC)や非ステロイド性消炎剤(NSAID)は炎症や免疫を抑制する薬剤として広く臨床的に用いられている。しかしGCやNSAIDの作用機序については不明な点が多く、血管での誘導型NO合成酵素(iNOS)の発現に対する効果も未知である。そこで培養ラット血管平滑筋細胞(VSMC)を用いて炎症性サイトカイン(IL-1,TNF-α)によるiNOS発現とNO生成に及ぼすGCとNSAIDの作用を分子レベルで解析した。デキタメタゾン(DEX)とNSAID(アスピリン、サルチル酸)はいずれもIL-1やTNF-αによるNO生成を著明に抑制した。DEXはサイトカインによるiNOS遺伝子の発現を抑制し、この作用はIkBのリン酸化と分解を抑制する結果、NF-kBの活性化を阻止することによることが明らかとなった。一方アスピリンやサルチル酸はNF-kBの活性化やiNOS遺伝子の発現には影響を与えなかったが、iNOS蛋白の発現を抑制した。またアスピリンは直接iNOSの酵素活性を抑制したが、DEXやサルチル酸は無効であった。したがって血管平滑筋では炎症性サイトカインによるNO生成に対してGCとNSAIDの抑制機序の作用点が異なっており、GCはiNOSの転写レベルで、NSAIDは翻訳あるいは翻訳後レベルで阻害していることが明らかとなった。これらの成績は敗血症性ショックや動脈硬化性血管病変における炎症性メディエーターとしてのiNOS由来NOの治療戦略を考える上で重要である。
著者
ゲーマン・ジェフリー ジョセフ 飯嶋 秀治 小田 博志 マーティン カイリー・アン ルアレン アン エリス バヤヤナ ティブスヌグエ (汪 明輝)
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、最終報告書の編集にアイヌ民族当事者たちのインプット・フィドバックも含め、当事者たちの声を研究プロジェクトの中心に据えること=アクション・リサーチ研究を目指してきた。先住民族による合同研究会を継続的に実施することにより、先住民族アイヌの「知」を規定する様々な要因を特定できた。また、先住民族同士の合同研究の在り様に関する斬新な理論・方法論を発見した。このようにアイヌ民族の「知」を規定する社会的構造と文化伝承のメカニズムの両面を同時に取り入れた研究として、本研究はこの国初と言って良いであろう。国際発表をしたところで、研究方法は称賛され、注目もされている。
著者
高橋 淳 影山 和郎 金田 重裕 大澤 勇
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

プラスチックス製(ポリエステル等)の柔軟なシートまたは袋による海上輸送技術(シール材またはコンテナとしての利用)が、低コストで低環境負荷型な輸送手段として注目されている。本研究では、このウォーターバッグに関して、疲労メカニズム解明と損傷(すなわち内容物流出のリアルタイム)検知システム開発の2つの検討を行った。すなわち、まず、ウォーターバッグの損傷の主要因と考えられている(内容物輸送後の)リールへの巻き取り時等における疲労損傷発生に関し、室内実験として「巻き取り模擬試験」を行い、それに基づき「損傷発生メカニズム解明」ならびに「疲労プロセス解明」を行った。この際に、万能試験機制御装置を導入し、既存設備である万能試験機(島津UH-500KNI)を本研究用途に改造してデータの収集を行った。その結果に基づき、繰り返しによる疲労損傷プロセスの解明が行なわれ、より長寿命で信頼性の高いウォーターバッグ設計への提言を行うと共に、モニタリングによる損傷検出のための方針を策定した。一方、上記の検討を通して明らかとなった損傷の形態や大きさの情報をもとに、過剰な設計を避けて最適なライフサイクルコストを実現することを目的として、ウォーターバッグ内外の電位差変化に着目した低コストな損傷検知システムの開発を行った。具体的には、「巻き取り模擬試験」のデータと考察をふまえた実際の損傷形態と大きさにもとづき、電位差変化により損傷の有無と場所を検知するための理論構築を行い、検知システムを開発した。