著者
中島 淳 SHAFIQUZZAMAN MD
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

飲用地下水の砒素汚染は世界規模の環境問題であり、バングラデシュ、インド西ベンガル、中国、タイ、ベトナム等々で報告されており、バングラデシュだけでも4,000万人以上が汚染地下水を飲用しているといわれている。これまでの研究で、鉄酸化バクテリアと鉄を利用したハイブリッド型砒素除去フィルターを開発したが、今年度は、これまでの研究成果を発展させ、以下を明らかにした。(1)フィルターの適正な維持管理手法砒素除去装置をバングラデッシュの砒素に汚染された地域に設置し、その性能を1年以上調査した。雨季には使用を休止した家庭もみられたものの、1年後においても砒素除去性能が維持されていた。手によるフィルターの簡易洗浄だけで、1年間の運転は可能と考えられた。また、鉄網の使用期間は1年間程度であるといえる。(2)フィルターを用いた持続可能な水利用システムの構築現地のNGOおよびクルナ工科大学と議論をし、クルナ市郊外の農村住民を対象とした砒素除去フィルターの普及方法を検討した。その試みとして、現地NGOのトレーニングセンターを使用して、砒素除去フィルターの製作と使用および維持管理に関するワークショップを開催し、NGOのモビライザーを中心とした参加者が、フィルターを製作した。すべて現地の材料と施設で、砒素除去装置の製作が可能であった。また、砒素除去性能の信頼性を高めるために、妨害物質のシリカの影響についても検討したが、現地濃度は影響を与える濃度レベルにはなかった。
著者
石津 浩一 杉本 直三 山田 亮 池田 昭夫 中本 裕士 大石 直也 酒井 晃二
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

FDG-PET画像による認知症の診断支援システム構築の基礎的検討を目的とした。健常者とMCI(早期認知症)の鑑別を、日本人の健常者23名、MCI患者58名で検討した。FDG-PET画像上に自動処理で116個の関心領域を設定し、各領域の全脳に対するFDG集積率を用いた。クラス判別にはSVMと研究代表者が独自に開発したk-index法を用いた結果、ROC解析のカーブ下面積はそれぞれ74.3%と71.1%であった。MCIの臨床診断の精度の低さを考慮すると画像のみでの判別として良好な結果と思われた。また多数の癌患者の脳FDG-PET画像では患者体重と大脳皮質のFDG集積に逆相関が見られた。
著者
長倉 真寿美
出版者
大正大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

居宅サービス利用水準が高く、出来る限り住み慣れた家庭や地域で生活を送ることが可能な地域ケアシステムは、地域の現状を把握した上で、限られた資源の中で最も効果が高い方法が選択され、老人保健福祉計画・介護保険事業計画等に組み込まれている。同時に、居宅サービスの提供に関わる機関・施設がネットワークを組み、高齢化の進行等の変化に対応しつつ、介護保険内外の適切なサービスの組み合わせが総合的かつ継続的に提供されるケアマネジメントが行われている。また、看取りへの対応ができていることも重要な要素である。
著者
川島 麗
出版者
独立行政法人国立国際医療研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

マウス小腸一次培養においてTNF-αによるアポトーシス誘導をcaspase活性として検出する実験系を作成した。これを用いてTNF-αにより引き起こされる消化管上皮細胞傷害はIL-13及びTWEAK/Fn14経路に部分的に依存することを明らかにした。さらにヒト潰瘍性大腸炎の炎症局所でもIL-13とともにTWEAK、Fn14発現が上昇することやヒト粘膜へのIL-13添加実験によりFn14発現が上昇することからも、これら因子の相互作用が潰瘍性大腸炎の炎症悪化にも関与する可能性が示唆された。
著者
丹松 美由紀
出版者
鳥取大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

理科実験に対して敷居の高さを感じている小学校教員を対象として,科学や実験に対する苦手意識の克服プログラムの開発を目的に,小学校教員対象講習会(教員向け出前おもしろ実験室)を計画・実施・評価した.これまでの知見から,休日またはわざわざ出向く形での事業に参加者を募ることは難しいことが察せられた.そこで,できるだけ多くの教員が参加しやすいように次のようなプログラムで実施した.1.すでに開発済みの小学生対象の「出前おもしろ実験室」を開催した.2.「出前おもしろ実験室」終了後(放課後),小学校教員に対して(1)気軽にでき,(2)教科書への導入につながる実験を指導し解説する講習会を実施した.3.開催前には,教員の意識と希望調査を行ない,開催後はアンケートを実施した.4.アンケート結果や,県内外の科学・技術館などと交流し情報収集することにより,開催方法,内容などを随時見直し,より効果的なものとなるよう改良しながらいくつかの形式で実施した.(1)グループ別研修:事前に希望する分野の調査を行い,それに沿った実験を指導した.実施回数2回参加人数24名(2)全員研修:準備した実験と部外講師による講義を行った.実施回数1回参加人数25名(3)他事業との共同企画:実施回数2回参加人数20名総計69名の小学校教員を対象として講習会を開催することができ,事後アンケートの結果によると,大方の参加者から高い評価を得ている.子どもを対象とした「出前おもしろ実験室」とリンクさせることで効果的なプログラムを構築できた.この研究を通して,予想以上に実験を苦手とする教員が多く,小学校教員の理科実験離れが深刻であると感じている.やらなければいけないという義務感ではなく,やってみると楽しいという意識をもつことが教員にも必要であるという知見を得た.このような活動は何より継続することで大きな効果が得られる.今後も本研究と実践を通じて,いろいろな理科授業のかたちを提案し,小学校の理科授業における実験不足を補うことに寄与できるものと期待する.
著者
片山 規央
出版者
福島県立医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

(1)今回の研究では、ラットが社会的活動をしている時の前頭前皮質、視床背内側核の単一ニューロン活動を初めて記録した。更に、フェンサイクリジンがそれらの神経活動を変化させることを示した。(2)腹側被蓋野ニューロンについては、社会的行動と報酬課題をしている時の神経活動を初めて記録し、フェンサイクリジンが社会的活動や報酬課題による神経活動を抑制することを示した。これらの結果から、今回の記録部位の神経活動が変化することが統合失調症の症状発現に関与していることが示唆された。
著者
羅 翠恂
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度の研究では、四川地域の成都盆地東部に集中する晩唐期の千手観音像を主たる研究対象とし、これらの像が、腹前で阿弥陀の定印を結ぶことを筆頭に、四川地域における中唐期までの造像と異なる特徴を示すことに着目した。千手観音関連の経典では、千手観音を信仰しそのダラニを唱える者が「いかなる浄土にも往生できる」という功徳を説くが、弥陀定印をはじめとする晩唐期の造像に見られる特徴が、数ある浄土の中でも特に阿弥陀浄土への往生を願う信仰と結びつくものである可能性について、同時期の四川地域における仏教信仰の動向に鑑みながら探ることを目的とした。そのためまず、これまで未見であった四川地域東部に残る晩唐期の記年作例3件を調査・撮影した。またこれに加え、イギリス、大英博物館並びにフランス、ギメ東洋美術館にて、敦煌莫高窟蔵経洞から発見された絹本や紙本の絵画(所謂「敦煌画」)晩唐期の千手観音像10件あまりの調査・撮影を行った。これらは、四川と並んで千手観音像の多い敦煌地域に残る作例の中でも、晩唐期から五代にかけての記年作例が含まれる重要な作例群である。本年度の調査結果と昨年度までに収集済みのデータを合わせた結果、四川地域に残る唐~宋代の千手観音像に関しては、全ての記年作例と、報告や論文から把握できる作例のほぼ全件を網羅することができた。このため、記年作例が少ないことから年代比定が困難とされてきた四川地域の作例に関して、おおよその年代比定を行うことが可能となり、時代ごとの形式変遷を把握することができた。また、大英博物館とギメ東洋美術館所蔵の作例に関しても、実地調査を行うことで持物や眷属の種類や位置を具体的につかむことができ、四川の作例を分析する上での手がかりを得ることができた。
著者
高橋 大輔
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究は、進化的時間スケールにおける形質進化と群集構造との関わりを明らかにしようというものである。本研究では食物網構造に注目し、計算機モデルを用いて捕食被食関係の進化的構築過程を解析する事で、進化的時間スケールにおいて個々の個体への選択圧が群集という大規模な構造に対して及ぼす影響を明らかにする。特に、これまでの解析で群集内の種多様性が急激に変化しうる事が観察されており、群集内での相互作用の進化に伴った多様性の増大及び減少過程がいかなるプロセスによってもたらされているかを明確にするというものであった。先年度までに、生産者及び植食者という栄養段階の低い種の動態が群衆全体の動態に強く影響している事が観察されていた。植食者の出現によって多様な群集の進化は開始し、植食者の絶滅が生産者間の競争を介して群集全体に伝搬する事で崩壊が開始する。本年度の研究ではさらにシミュレーションを増やし、より多くのパラメータにおいて同様な動態がみられる事を確認し、提案しているメカニズムの頑健な事を確認し、投稿論文とした。また、個体群動態の理論研究では複数の個体群が移動分散によって接続されたときに動態は異なる事が知られている。このため群集間の移動を考慮した場合も同様の結果をもたらすかどうかを拡張したモデルで検討した。結果、一方の群集にのみ天敵を持つ種が存在し、この種が他方の群集から移入することで群集は常に撹乱を受けるため、複雑な群集は群集間の移動が稀な場合に特に不安定化した。上記研究は、進化的時間スケールにおいては群集内の多様性はきわめて複雑な挙動をする事、またそのメカニズムを理解するためには進化生態学的観点からアプローチが不可欠である事を示した。本研究では個体ベースの進化モデルを用いる事で群集動態と進化動態を統一的に扱い、実際に観察される捕食被食関係の進化のさらなる理解に貢献できた。
著者
小塚 真啓
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究では,特にエージェンシー理論の知見に基づき,法人所得課税を正当化する先行研究に着目し,当該先行研究の分析に課税権者を加えることにより,その帰結がどのように異なることになるのかを主として検討したところ,課税権者を含めた利益最大化(あるべき所得課税の実現)という観点からすると,パス・スルー課税に代えて法人所得課税を実施するということにより十分なエージェンシー・コストが削減されることはない,との結果が得られた。
著者
川原田 洋 宋 光燮 梅沢 仁
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

ダイヤモンドトランジスタの性能向上および安定性向上を目的とした要素技術として、(1)FIB装置を用いたシート抵抗IkΩ/sq.以下の局所低抵抗層の形成技術、(2)2×10^<-4>[Ωcm]の熱的安定性のある超高濃度ボロンドープダイヤモンド(ボロン濃度:1.42×10^<22>[cm^<-3>])の成膜技術、(3)従来のCaF_2絶縁膜よりも3桁以上のゲートリーク電流低減を達成した、高品質なAl_2O_3ゲート絶縁膜形成技術、(4)低消費電力化を目的とした、オゾン処理によるダイヤモンドFETの閾値制御技術、を開発した。デバイス評価手法としては、De-embedding手法を導入することで、寄生成分の影響を除去し、ダイヤモンドMISFETの真性特性評価が可能となった。また、水素終端ダイヤモンド中に形成されるホール蓄積層のキャリア走行メカニズム解明を念頭に、移動度の実行垂直電界依存性を明らかにした。デバイス作製のプロセス技術としては、ゲート長0.2μm以下の微細ゲート構造作製のためのセルフアラインプロセスと、ゲート抵抗の低減を目的としたT型ゲート電極構造の作製プロセスを確立した。ダイヤモンドMISFET作製と特性評価としては、前述の微細プロセス技術を用いて、ゲート長0.15μmのダイヤモンドMISFETの作製に成功し、遮断周波数30GHz、最高発振周波数48GHzを達成した。また、Al_2O_3ゲート絶縁膜を用いたダイヤモンドMISFETの作製に成功し、絶縁膜厚3nm、ゲート長0.3μmにて遮断周波数30GHz、最高発振周波数60GHzを達成した。更に、世界で初めてダイヤモンドMISFETにおいてロードプル測定を行い、ゲート幅100μm,ゲート長0.3μmのデバイスにおいて、1GHzの高周波大信号入力時に電力密度2.14W/mmが得られた。この値は報告されているGaAsFETやSi LDMOSの電力密度の最高値よりも優れたものであり、ハイパワー高周波トランジスタとしてのダイヤモンドFETの優位性を確認できた。
著者
星野 力 丸山 勉 HUGO deGaris 徳永 幸彦 佐倉 統 池上 高志 葛岡 英明
出版者
筑波大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究課題でなされた研究をいくつかのカテゴリーに分け、概要を記す。(1)自己複製・自己組織化○マシンによって書き換えられるテープと、テープによって書き換えられるマシンの共進化を研究した。(池上)○自己複製のモデルを観察し、その条件とクラス分けを行なった。(田中、津本)○生物(大腸菌、酵素)による無細胞自己増殖系を実験した。(2)群と生態、進化○魚相互間の運動が創発的に出現する観察を行ない魚群行動を調べた。(三宮、飯間、中峰)○自然界の進化の特徴である進化と共に丸くなる適応度地形を考察した。(徳永)○個体の繁殖と分散のみを仮定した人工生命的シミュレーションを行った(河田)○多重遺伝子族におけるコピー数の増加シミュレーションを行ない、種々の遺伝的冗長性を調べた。(館田)(3)中立進化と頑健性○8つの赤外近接センサーと2つの車輪からなるロボットの行動モデルにおける中立変異の爆発的発現を解析した。(星野)○ロボットの行動進化において、フラクタル性と頑健性との関係を明らかにした。未解決の難問(3階層以上の多段創発の困難)を指摘した。(佐倉)(4)その他○ニューライトネットの進化を10万ニューロンの回路を進化させることで研究した。(deGaris)○細菌の走行性を支える分子機構をシミュレーションによって再現した。(大竹、辻、加藤)○脊椎植物の力学対応進化学を確立した。(西原、松田、森沢)○所要時間最短という利己的な行動を行なうカ-ナビの設計を研究した。(星野、葛岡)○FPGA(適応的に構造を再構成するゲートアレイ)を多数並列に結合しテープとマシンの共進化モデルを長時間計算しようとしている。(丸山)
著者
舩橋 晴俊 壽福 眞美 徳安 彰 佐藤 成基 岡野内 正 津田 正太郎 宮島 喬 吉村 真子 上林 千恵子 石坂 悦男 藤田 真文 奥 武則 須藤 春夫 金井 明人 池田 寛二 田中 充 堀川 三郎 島本 美保子 樋口 明彦 荒井 容子 平塚 眞樹 三井 さよ 鈴木 智之 田嶋 淳子 増田 正人 小林 直毅 土橋 臣吾 宇野 斉 鈴木 宗徳 長谷部 俊治 原田 悦子 羽場 久美子 田中 義久 湯浅 陽一 伊藤 守 上村 泰裕 丹羽 美之 宮本 みち子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本プロジェクトは、グローバル化問題、環境問題、移民・マイノリティ問題、若者問題、メディア公共圏、ユビキタス社会、ケア問題といった具体的な社会問題領域についての実証的研究を通して、社会制御システム論、公共圏論および規範理論に関する理論的研究を発展させた。公共圏の豊富化が現代社会における制御能力向上の鍵であり、それを担う主体形成が重要である。また、社会制御には合理性のみならず道理性の原則が必要である。
著者
小林 秀樹
出版者
千葉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

研究最終年度は、平成20年度・21年度の調査結果を踏まえて、具体的な立地を想定して組合所有住宅の計画モデルを作成し需要供給のあり方について検討を行った。本研究では、LLCまたはLLPを用いた組合所有コープ住宅の可能性について、日本における大正時代の住宅組合法の検証、LLPまたはLLCを用いた先駆的事業の調査、北米の住宅生協法人法を含めた様々な法人形態の比較検討、具体的な立地を想定したケーススタディ、金融の可能性の検討などを通じて解明するものである。組合所有住宅は、区分所有が定着した日本では一般的に普及するメリットには乏しい。しかし、公的賃貸住宅の払下げ、密集市街地の再生、高齢者住宅等において、賃貸住宅の良さを生かして経営でき、かつ入居者の自主運営の努力を生かせる点で適している場合がある。この場合、LLC(合同会社)が、住宅組合の法人形態として比較的使いやすいことが明らかにされた。また、組合所有住宅に対する融資については、一般化することは現時点では困難であるが、「街なか居住再生ファンド」を用いることで、当該ファンドの目的に合致した事業については融資が組み立てられる可能性がある。これは、リーマンショックの影響で銀行等による不動産融資が停滞する中で、各銀行等が抱える不動産融資債権を買い取り、それをまとめて証券化する構想から検討が進められたものである。これにより、銀行が次の不動産融資に乗り出しやすくするとともに、地方都市を含めてノンリコースローンを日本に定着させようと意図したものである。また、老朽団地の定期借地権による払い下げのように、外部からの融資を必要としない事業であれば、さらに実現の可能性は高まろう。
著者
井上 誠章
出版者
三重大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

イセエビは千葉県以南の本州の太平洋側,九州沿岸,種子島,奄美大島,屋久島,韓国の済州島および台湾北岸に生息する重要な漁獲対象種である.このイセエビの親個体群構造に関しては,以下の2つの仮説が考えられた.すなわち,1)全くランダムに混ざり合って各々の水域に分散して着底するのか,それとも,2)特定の水域にあるまとまりを持ってプエルルス幼生として着底するのかである.上記いずれの場合においても,今後イセエビの合理的な資源管理を行うためには,イセエビの親個体群構造を把握することは必要不可欠であり,かつそれを把握することは上記のフィロゾーマ幼生の輸送・分散経路を含んだ幼生加入過程のさらなる解明の糸口になる.昨年度までの結果を踏まえて,五島列島,三重および千葉よりそれぞれイセエビ成体サンプルを採集し,それらのmtDNAのCOI領域を解析した.この結果,前年度までの予想どおり,イセエビの親個体群は大きくはひとつの個体群を形成することが明らかになった.これらとあわせて,黒潮流路とイセエビの漁獲量変動との関係の調査を行った.その結果,各県の漁獲量の変動より,本邦のイセエビは,潮岬以西と以東の2つのグループに,すなわち九州を中心したグループと三重,静岡および千葉の3県によってまとめられるグループに分割できた.これらの結果からは,イセエビは遺伝的に均一な大きな一つの個体群を形成しており,そのなかで潮岬以西と以東に分割できるような地域個体群が存在するという結論が引き出せる.
著者
谷原 真一
出版者
自治医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

地域における多・重複受診者の受療行動及び服薬状況などの実態把握を目的として、T県A市の老人医療受給対象者のうち、1997年6〜8月又は1998年6〜8月の期間で受診件数(診療報酬請求明細書の枚数)が上位1%の者(多受診者)、及び1月間に同一診療科を3か所以上受診したか、2月以上連続して同一診療科を2か所以上受診した者(重複受診者)を対象に保健婦による聞き取り調査を実施した。調査対象とされた317人中、241人(76.0%)から回答が得られた。薬剤服用状況については、処方された薬剤を全て服用すると回答した者が202人(83.8%)、一部のみ服用すると回答した者が39人(16.2%)であった。1日に処方されている薬剤数の合計は、平均11.8錠であった。最大値は37錠であり、「なし」と回答した者が5名認められた。1日平均5-9錠を処方されている者が全体で73人(30.3%)ともっとも多く、33人(13.7%)が1日20錠以上の薬剤を処方されていた。薬剤服用状況別に1日の平均処方薬剤数をみると、一部のみ服用すると回答した群が10.2錠、全て服用すると回答した群が12.2錠と、全て服用する者の方でより多くの薬剤を処方されている傾向が認められた。老人保健医療給付対象者中の多・重複受診者の大半が処方された薬剤を全て服用していたことが明らかになった。しかし、実際に受けている医療行為の全てが有効に利用されているわけではない事例も存在することが示された。高齢者に必要な医療サービスを提供しつつ、医療費の高騰を抑制するためには、多・重複受診者と判定されたものを一律に指導するのではなく、診療内容に関する情報を把握しておくことが重要と考えられた。
著者
加地 秀
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

培養網膜色素上皮細胞(RPE)へのアミロイドβ負荷により血管内皮増殖因子(VEGF)の産生は増加するが、その際に小胞体ストレスマーカーも増加しており、これらは小胞体ストレスを抑制する薬剤である4-フェニル酪酸(PBA)により抑制可能であった。
著者
柳田 伸顕 手塚 康誠 兼田 正治 工藤 研二
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

此の研究者、柳田(研究代表者)、工藤、兼田、手塚による研究課題'群のコホモロジーとBP理論の研究'において幸いにも多くのコホモロジーを計算することができ、それらをかなりの数の論文として発表することができた。まず柳田とアメリカの共同研究者によってBP-theoryとMorava K-theoryの関係が詳しく調べられた。その結果もしMorava K-theoryが偶数次元の元だけで生成されていればBP-theoryもそうなる事を証明した。またBSL(Z)のmod2コホモロジーを完全に決定した。工藤と柳田はH-空間、特に例外リー群がtorsionを持つ場合にホモトピー性質(homotopy normality,homotopy nilpotency)を詳しく調べた。兼田は標数正の代数群のコホモォジーの良いfiltrationを与えている。
著者
田中 永美
出版者
石川工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

近年、科学離れと同様に、ものづくり離れが社会問題となっている。ものづくり教育を推進するには、学生や若者が、それまでどのようなものづくりの環境に触れて育ってきているかが重要である。本研究の目的は、インストラクショナルデザインの手法を取り入れ、科学教育の入り口にある小学生を対象に、ものづくり体験教材を企画し、開発を行うことである。インストラクショナルデザインプロセスに基づき、以下のように、計画、実施した。(1)ニーズ調査・初期分析(Analyze)学習対象者を、石川県羽咋市少年少女発明クラブ(小学3~4年生対象、31名)とし、7月にアンケート調査を実施した。(アンケート回答者20名)小学理科での実験用工作がそのまま電子工作の経験となる事例が多かった。また、自宅で電子工作を行ったことがある児童は1名であった。実施希望の最も多かった光る工作について教材を企画、開発することにした。(2)設計(Design)、開発(Development)小学理科の電気の単元で学ぶ目標の一つである、電気の通り道が理解できることを本教材の学習目標とした。実施時期が12月中旬であったため、テーマを「クリスマス」とし、照明用として多用されるようになったLEDを取り上げることにした。(3)実装・実施(Implement)羽咋市少年少女発明クラブの12月月例活動として、ものづくり体験教室「クリスマス電子工作」を実施した。(平成21年12月19日(土)13時30分~15時30分、参加者25名)(4)評価(Evaluate)ものづくり体験教室を実施後、アンケート調査を実施した。設定した学習目標は96%が達成した。得られた経過と成果を、平成21年度実験実習技術研究会(平成22年3月5日:琉球大学)に発表した。平成22年12月18日に同様のものづくり体験教室を継続実施予定である。
著者
岩尾 慎介
出版者
立教大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究において、特異なトロピカル曲線と、対応する超離散可積分系をしらべた。通常の可積分系の理論において、滑らかな曲線に対応するテータ関数を用いて得られる解を、準周期解と呼ぶ。ここで、元の曲線代わりに特異な曲線を用いると、その特異性の大きさに応じて、ソリトン解、多項式解、と、より特殊な解を得られる。以上の理論は、超離散可積分系においても、同様に成り立つと考えられる。実際、超離散KdV方程式・超離散戸田方程式・超離散KP方程式などの準周期解は、トロピカル曲線に付随するトロピカルテータ関数を用いて記述で出来ることが知られている。本研究では、超離散可積分系のソリトン解、多項式解を、トロピカル幾何の文脈で解くことを行った。この際、現れるトロピカル曲線は何らかの意味で「特異」なものになると期待されるが、純粋なトロピカル幾何学で知られている「特異トロピカル曲線」の定義では、上記の目標を達することは出来ない。本研究では可積分系の手法によって、新たな特異トロピカル曲線の定義を独自に導出した。具体的な手順は以下の通り:1.離散可積分系の「Lax方程式」を用いて、代数曲線の定義多項式を求める。この時、周期境界条件を課すと滑らかな曲線を得られることは古くから知られているが、周期境界条件を緩めることで、特異曲線があらわれるようにすることができる。2.得られた特異曲線を超離散化する。超離散可積分系への自然な応用が存在するという理由から、私はこちらの「特異トロピカル曲線」の定義のほうがより正当であると信じる。
著者
稲村 吉高
出版者
大阪歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

セボフルランポストコンディショニングはオートファジーを誘導し,梗塞サイズを減少させた.セボフルラン投与群でみられたLC3-II/I発現の増強は3MAの投与により消失した.また再灌流120分でセボフルラン投与群ではオートファゴゾーム形成が有意に認められ,3MAの投与でその形成は抑制された.セボフルランポストコンディショニングの心筋保護効果にはオートファジーの誘導が必要であることが示唆された.