著者
西村 忠己
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

骨導超音波知覚を解明するために、同様に周波数の高い高周波気導可聴音の知覚と比較検討することが重要であると思われる。その理由として骨導超音波が知覚できるのは、骨伝導のため、内耳に達したときに生体の非線形性により可聴音が生じるため聞こえているのではないかという説があるからである。本年度の検討では骨導超音波の聴取閾値を気導音の聴取閾値との相関関係を聴力正常者及び難聴者で求めた。仮に特定の周波数の可聴音が生じているとすると、骨導超音波の聴取閾値はその可聴音の聴取閾値と強い相関を示すはずである。つまり非線形性により高周波可聴音が生じているとするとその聴取閾値と強い相関関係を認めると推測される。実際に測定を行うと、骨導超音波の聴取閾値は高周波可聴音の聴取閾値と強い相関関係を示さず、また相関係数は、ピッチが明らかに低い低周波数の可聴音との相関係数よりも低い値を示した。このことから骨導超音波の知覚はピッチが高周波可聴音と似ているにもかかわらず、その知覚メカニズムは異なることが示された。また補聴システムに関する検討では、言語音を変調する方式についてAMとFM変調の優位性について脳磁図を用いて検討した。その結果AM変調と比較してFM変調の方が周波数弁別能の点について劣ることがわかった。しかしある程度の弁別が可能であることからFM変調を補助的に使用していくことが可能であると思われた。なお骨導超音波の臨床応用に関しては難聴者においても一定の効果が認められたが、症例数の問題や骨導超音波補聴器そのものが試行錯誤の段階であることも有りその効果の定量は困難であった。
著者
中川 誠司 添田 喜治 西村 忠己 細井 裕司 大塚 明香 今田 俊明 クール パトリシア N. メロツォフ アンドリュー N.
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

骨導(骨伝導)で呈示された超音波であれば,聴覚健常者はもとより,最重度難聴者にも知覚される.この骨導超音波知覚の末梢処理過程には,通常の聴覚とは異なる特異なメカニズムの存在が示唆されるが,その詳細は明らかにされていない.本提案課題では,骨導超音波知覚を利用した重度難聴者のための新型補聴器(骨導超音波補聴器)の開発に有用な知見の獲得を目指して,骨導超音波知覚メカニズムの全体像の解明に取り組んだ.聴覚末梢機能を反映する各種の生理反応の計測および骨導超音波の頭部内伝搬特性結果に基づき,骨導超音波知覚の末梢~中枢処理モデルを提案した.得られた知見は骨導超音波補聴器の最適化や適用基準の策定に有用である.
著者
小松 文夫 矢野 節子 岡村 経一 佐藤 ヒロミ
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血学会雑誌 (ISSN:05461448)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.170-174, 1983 (Released:2010-03-12)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

The frequency of anti-E antibody formation has a very important problem especially in Japanese, and it has been studies in our laboratory since 1981. The anti-E positive specimens were found in 10 of 250 (4.0%) Rh(ee) recipients who received more than 10 units of blood. On the other hand, the frequency of anti-E formation was only about 2% in all Rh(ee) recipients in cluding cases received less than 10 units of blood. In the latter series, almost a half recipients were transfused with less than 10 units. And in general, the incidence of Rh(ee) recipients who receive E-positive blood in random transfusion is presumed to be about 25% in Japanese.Consequently it is likely that the frequency of anti-E antibody formation is approximately 0.4-0.5% in all transfused recipients in Japan.
著者
カンサ ジョージ オデュロ 丸尾 達 篠原 温 伊東 正
出版者
Japanese Society for Tropical Agriculture
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.118-122, 1996-09-01 (Released:2010-03-19)
参考文献数
21

スイカ (Citrulus lanatus Thunb.) 2品種 (‘Baoguan’, ‘Xinlan’) を供試し, 光照度 (50%, 100%) と気温 (33℃, 38℃) が, 光合成速度 (Pr) , 蒸散速度 (E) , 気孔伝導度 (gs) , 細胞内CO2濃度 (Ci) , および果実収量・糖度に及ぼす影響を調査した.高照度下で生育した植物体のPr, E, gsは, 低照度下でのものより高かった.品種について比較すると, いずれの気温でも高照度条件下で, ‘Baoguan’のPr, E, gsおよび収量が, ‘Xinlan’よりも高かった.光合成速度と蒸散速度, および気孔伝導度と収量の間には, 統計的に有意な正の相関が, また, 光合成速度と細胞内CO2濃度との間には負の相関が認められた.果実糖度 (Brix) は, 両品種ともに12.0~13.5の範囲にあり, 処理による影響は認められなかった.スイカの生育, 収量は, 遮光により低下したが, 50%遮光条件下でも実際栽培上の問題はなく, さらに光強度が高い熱帯アグロフォレストリー地域においては, 適度な遮光下でも十分に栽培が可能と推察された.
著者
符 儒徳
出版者
Kaichi International University
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.109-126, 2022-03-15 (Released:2022-04-28)

本稿では,システム評価指標(RASIS)とセキュリティ構成要素(CIARA)に着目し,これらの相互関係を可視化するための構造モデルの構築を試みる。その前に,三方陣(3×3 magic square)とプラトン立体(Platonic solids)との関係により,セキュリティ構成要素(CIARA)に関する構造モデルが得えられたが,1次変換(線形変換:linear transformation)を行うことによりシステム評価指標(RASIS)とセキュリティ構成要素(CIARA)とのトポロジカル関係(topological relations)を築くことができ,この関係を利用すれば,システム評価指標に関するバランスの取れた構造モデルが同様に得られる。また,メビウスの帯(Möbius strip/band)を用いることにより,システム評価指標(RASIS)とセキュリティ構成要素(CIARA)を組み合わせた構造モデルを得ることができる。これにより,新しい RAS と CIA を提案することができる。さらに,この組み合わせた構造モデルを簡単に作れる方法も示す。その考察においてはモデルの合理性はあることが示唆された。
著者
堂下 浩
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究 (ISSN:21899258)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.15-27, 2016-12-31 (Released:2017-08-10)
参考文献数
8

1999年12月、いわゆる「商工ローン」問題と呼ばれる、当時の事業者金融市場における大手2社であった商工ファンドと日栄によって引き起こされた違法な取立行為と過剰融資への対応として、出資法が国会で改正された。結果として、出資法の上限金利は年40.004%から年29.2%に引き下げられ、この上限金利規制は法改正から僅か6か月後の2000年6月に施行された。この上限金利引下げ措置は事業者金融業界だけでなく、消費者金融業界にも適用されることとなった。このため、大半の消費者金融会社は突然の規制強化に翻弄される事態に陥った。この当時、JCFA(日本消費者金融協会)は会員業者の経営実態を把握するためにアンケート調査を行っていた。 著者はその当時JCFAが行ったアンケート調査のデータを入手した。今回、本データを用いた分析の結果、十分な猶予期間なしに施行された上限金利引下げに対処するために、多くの消費者金融会社は短期的な利益を確保しようと与信基準を緩めたという実態が把握できた。その後、こうした与信行動は消費者金融市場において、いわゆる「多重債務問題」を引き起こす要因の一つとなったとも考えられる。
著者
徳永 直彰
雑誌
表現学
巻号頁・発行日
no.5, pp.1-10, 2019-03-05
著者
荒木 淳子 中原 淳 坂本 篤郎
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.319-329, 2011-03-30 (Released:2016-08-07)
参考文献数
43

日本では,企業で働く個人にも,自ら学びながら主体的にキャリア構築をすることが求められつつある.しかし,キャリア構築に向けた社会人の学習に関する研究は少ない(濱中2007).そこで本研究では,社会人の学習にとって重要な場である職場(松尾2006)に着目し,個人の仕事に対する態度(挑戦性・柔軟性),職場環境がキャリア確立(荒木2007,2009)に及ぼす影響について,階層線形モデル(hierarchical linear model)による分析をおこなった.17社,1214名の質問紙調査の回答を分析した結果,キャリア確立には個人の挑戦性,柔軟性が重要であること,職場における仕事内容の明示化は個人の挑戦性がキャリア確立に与える効果に正の影響を,知識やノウハウを教え合うといった支援的環境は負の影響を与えることが示された.個人の挑戦性をキャリア確立につなげるためには,職場において,仕事の目的や内容を明示化することが求められる.また,挑戦性が低い人には職場の支援的環境を整えることも必要であると言える.
著者
大戸 朋子 吉田 悠 東條 直也 新井田 統
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第54回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.D10, 2020 (Released:2020-09-12)

本発表は、子育て期にある母親とKDDI総合研究所との共創プロジェクトを事例とし、母親にとってのサードプレイスとはどのような場所なのかを検討したものである。Oldenburgはサードプレイスを、社会的な立場や役割から解放された“私”に戻れる場所だと捉えているが、今回のプロトタイプでは、子育て期の母親にとってのサードプレイスとは、“母親としての私”が満たされる場所であることが明らかとなった。
著者
持齋 康弘 堀 繁 仲間 浩一
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.7-12, 1995-10-25 (Released:2018-12-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1

AFTER THE WORLD WAR II, NATIONAL PARKWAY IN THE U.S.A. HAD BEEN A MODEL OF ROADS LOCATED IN SCENIC AREAS IN JAPAN. HOWEVER, IT COULD NOT WORK OUT WELL. THIS STUDY AIMS TO CLARIFY TRANSITION OF CONCEPT ON PLANNING AND DESIGNING OF ROADS IN SCENIC AREAS IN JAPAN. IN LATE 1950'S, SOME ROADS WERE CONSTRUCTED WITH CONCEPT OF NATIONAL PARKWAY IN JAPAN. HOWEVER, THEY WERE LACK OF CONCEPT OF INTRODUCING REGIONAL HISTORY AND CULTURE WITH "STOP", LANDSCAPING ALONG ROADS, OR LAND-USE CONTROL. INSTEAD WE ATTEMPTED TO DEVELOP ATTRACTION OF ROADS IN SCENIC AREAS MAINLY IN ENJOYING PROMINENT NATURAL ENVIRONMENT AND GRAND SPECTACLE. THAT ESSENTIALLY CAUSED DESTRUCTION OF NATURAL ENVIRONMENT, AND SOCIAL DENIAL OF FURTHER CONSTRUCTION.
著者
石田 正
出版者
美学会
雑誌
美学 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.16-25, 1968-03-30 (Released:2017-05-22)

Der Begriff des Motivs im gewohnlichen Gebrauch des Wortes ist mehrdeutig. Es ist erstens notig, das Motiv von dem Stoff zu unterscheiden. Dann mussen wir klarmachen, wie es mit dem Darstellungsgegenstand in Beziehung sein. Auf einem attischen Mischkrug, z.B. sind die ins Meer springenden Knaben, die das Eintauchen der Sterne symbolisieren, dargestellt. Die Knaben sind Darstellungsgegenstande, die Sterne, das Motiv. So kann man sagen, der Darstellungsgegenstand ist sichtbar, das Motiv unsichtbar, trotzdem besteht es ihm voraus. Hierher ist das Motiv folgendermassen zu definieren : es ist unsichtbares Subjectum, das den Darstellungsgegenstand tragt und ihn ins Dasein bewegt. Diese Definition kann man auf die Landschftsmalerei, wo das Motiv und der Darstellungsgegenstand voneinander ununterschiedbar scheinen, anwenden. In beiden Fallen aber sind die Gehalte der Motive ganz verschieden. Die Wandlungen des Motivs entsprechen dem Ubergang von der Kunst, die nur dienen will, zu der, die asthetisch genossen sein will.
著者
松原 彩 髙木 明 木谷 芳晴 山下 勝 鳥居 紘子 倉田 馨介 音成 恵梨子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.9, pp.1183-1190, 2020-09-20 (Released:2020-10-01)
参考文献数
13

オージオグラムで感音難聴の像を呈する6耳の耳小骨固着病変 (アブミ骨底を除く) に対して固着解除術を行い, 良好な気骨導改善を認めたので報告する. 6耳の術前気骨導差は平均で 7.8dB と小さく聴力検査上, 感音難聴と診断される症例だったが, 気密耳鏡で耳小骨固着が示唆され, 耳小骨筋反射, 高分解能側頭骨 CT で耳小骨固着症と診断, 固着解除術を施行した. 固着はツチ骨頭固着4耳と, キヌタ骨体部固着2耳だった. これらの術後の聴力改善は, 6症例平均で気導 18.6dB, 骨導 15.3dB だった. 耳小骨固着症例の中には, 見かけ上感音難聴の聴力像を呈する症例があり, 固着解除により大幅な聴力改善を示す症例があることを報告する.
著者
Mariam KARIM Tooba IQBAL Allah NAWAZ Keisuke YAKU Takashi NAKAGAWA
出版者
Center for Academic Publications Japan
雑誌
Journal of Nutritional Science and Vitaminology (ISSN:03014800)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.184-189, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)
参考文献数
34
被引用文献数
1

Nicotinamide adenine dinucleotide (NAD+) is a coenzyme that mediates many redox reactions in energy metabolism. NAD+ is also a substrate for ADP-ribosylation and deacetylation by poly (ADP-ribose) polymerase and sirtuin, respectively. Nicotinamide mononucleotide adenylyltransferase 1 (Nmnat1) is a NAD+ biosynthesizing enzyme found in the nucleus. Recent research has shown that the maintaining NAD+ levels is critical for sustaining muscle functions both in physiological and pathological conditions. However, the role of Nmnat1 in skeletal muscle remains unexplored. In this study, we generated skeletal muscle-specific Nmnat1 knockout (M-Nmnat1 KO) mice and investigated its role in skeletal muscle. We found that NAD+ levels were significantly lower in the skeletal muscle of M-Nmnat1 KO mice than in control mice. M-Nmnat1 KO mice, in contrast, had similar body weight and normal muscle histology. Furthermore, the distribution of muscle fiber size and gene expressions of muscle fiber type gene expression were comparable in M-Nmnat1 KO and control mice. Finally, we investigated the role of Nmnat1 in muscle regeneration using cardiotoxin-induced muscle injury model, but muscle regeneration appeared almost normal in M-Nmnat1 KO mice. These findings imply that Nmnat1 has a redundancy in the pathophysiology of skeletal muscle.
著者
山田 理恵
出版者
一般社団法人 日本体育・スポーツ・健康学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.415-428, 2015 (Released:2015-12-18)
参考文献数
29
被引用文献数
3 1

The game of dakyugi (literally, “hitting-ball-game”), involving 3 components of play (hitting a ball, throwing a ball, and pushing of opponents), is a traditional stick game that has been passed down to the present in Kuwana City (Mie Prefecture).   The purposes of this study were to examine the process of the game's revival and cultural features, and to clarify the significance of dakyugi as a traditional sport in regional development through sports. The materials used in this study were mainly collected through fieldwork at the Rikkyo Area Great Meeting and interviews with members of the preservation association, as well as investigation of historical sources.   In the Meiji era, dakyugi had been played as a bravery game by boys in the Kuwana gijyuku, which inherited the idea of the Rikkyou-kan, a school in the fiefdom of Kuwana. Although dakyugi declined after World War II, it was revived to mark the 150th anniversary of Matsudaira Sadanobu's death in May 1978.   Today, dakyugi is performed at the Kuwana Municipal Rikkyo Elementary School supported by the Dakyugi Preservation Association. Boys and girls of the school play the game at the athletic meeting held jointly by the school and Rikkyo area community. The game of dakyugi in Kuwana is noteworthy in promoting the behavior pattern and style of samurai culture that characterized the Edo era. In addition, dakyugi is considered to play an important role in the revitalization of provincial cities and in the establishment of local regional identity.   The significance of traditional Japanese culture is emphasized in the present school education program. The current study indicates that traditional Japanese sport culture can play an important role in regional development in Japan.