著者
浜田 弘明 金子 淳 犬塚 康博 横山 恵美 森本 いずみ 平松 左枝子 清水 周 橋場 万里子
出版者
桜美林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

「鶴田文庫」は、博物館学者・故鶴田総一郎旧蔵の博物館及び博物館学に関する蔵書・資料群で、その総量は段ボール箱約250箱に及び、桜美林大学図書館が所蔵している。本研究では、最も公開が望まれている国内外の書籍に重点を置き、約13,000点に及ぶ資料の目録化を実現した。合わせて、鶴田の業績を明らかにしつつ、日本における戦後博物館学の発展・展開過程を検討した。目録化された資料は、桜美林大学「桜美林資料展示室」の「鶴田文庫コーナー」で公開している。
著者
赤井 龍男 上田 晋之助 真鍋 逸平 古野 東洲 吉村 健次郎
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

本研究は種々の公益的機能の発揮に有効な林型であるとされる複層林を、耐陰性と生長速度の異なる樹種の段階混交した林分として造成し、しかも山村労務の減少、林業経営の不振に対応するため、一般の単純林施業のような集約技術ではなく、低コストの育林技術体系として確立させようとするものである。しかし現在日本には明確な技術によって育成された混交型複層林はないので、手入れ不足等の比較的粗放な方法で成林した各種の針広混交林の実態を調査し、解析する研究を主体とした。本年度にえられた主な研究成果は次のようである。昨年度は多雪地帯における不成績造林地について調査、解析したので、今年度は少雪地帯における事例として、和歌山県新宮営林署管内大又国有林の56年生スギ、ヒノキおよび大越国有林の33年生スギ不成績造林地の構造と成長経過を調査、解析した。その結果大又国有林の不成績林分には高木性の常緑、落葉広葉樹が多く混交し、スギ、ヒノキの樹高10m以上の優勢木は集中的に、広葉樹はランダムに分布し、全立木材積は約350m^3/haであるのに反し、大越国有林の場合には高木性の広葉樹は落葉樹のみで、しかもスギ造林木の本数が多く、両樹種ともランダムに分布し、その材積は約230m^3/haで少なく、両林分の現在の構造にはそれぞれ特徴があることがわかった。しかし樹高分布からみて両林分とも造林木は10mの高さで分離し、また直径成長から判断すると、劣勢木は下刈り終了後間もなく成長を減退させているほか、両林分の土壌は深く、物理性は良好であるなど類似点もあることから、両林分の不成績の原因は手入れ不足にあると結論された。また両林分はこのまま推移させても、前者は造林木を約40%、後者は約70%混交した複層林に育つ可能性が高い。それ故多雪地帯と同様、自生種の再生力の旺盛な地域では、むしろ粗放的に混交複層林に仕立てる方が有利と考えられた。
著者
小林 啓治
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

北丹後震災にかかわる被災地の町村の史料を悉皆調査した上で、重要史料をリストアップし、簿冊目録・件名目録を作成した。重要史料のデジタルデータを蓄積するとともに、京都府行政文書の中から北丹後震災関係文書をリストアップし、被災地史料とつきあわせて重要史料の翻刻を行い、史料集を刊行した。以上の史料に分析を加え、被災地の目からみた北丹後震災の被災状況、救護・救援活動の特質について解明した。
著者
岡崎 敦 丹下 栄 山田 雅彦 花田 洋一郎 大宅 明美 森 貴子 城戸 照子 徳橋 曜 足立 孝 岩波 敦子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、西欧中世文書史料を対象として、近年の西欧中世史料学・史料論研究の動向を整理・分析し、重要な論点を提示・検討することを目的とした。この際、西欧の主要地域や学界を広く視野におさめるとともに、比較史的観点を重視した。以上の目的を遂行するため、ときにゲスト研究者を招聘しながら、定期的にテーマを特定した研究会・シンポジウムを開催した。研究の成果は、個別論文や学会報告として公表するとともに、毎年度年次成果報告書を刊行して公開した。
著者
秋田谷 英次 白岩 孝行 成瀬 廉二
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

平成6、7の2年間で札幌市内の雪氷路面の調査を実施し、目視による新たな路面雪氷分類を作成した。これはスタッドレスタイヤと凍結防止剤の普及に伴って頻繁に発生する様になった路面状態に対応した分類である(つるつる路面に主眼)。路面状態は積雪量・気温の気象要素と交通量、及び道路の維持管理作業によって常に変化する。2冬期の観測結果から路面状況を定量化し気象要因と比較した。その結果、車の走行にとって問題となる「光る(すべる)路面」と「こぶ氷」の発生動態が解明された。この結果は、最悪な雪氷路面が発生する前に的確な維持管理作業を開始する指針となるものである。表層雪崩の原因である弱層の調査を本州の多雪山岳域まで広げた。放射冷却に起因する「表層しもざらめ雪」と「表面霜」からなる弱層は北海道以外でも表層雪崩の大きな原因となることが明らかとなった。雪崩災害を防ぐためには登山者・スキーヤへの啓蒙が重要である。普及活動として例えば、平成8年度全国山岳遭難対策協議会(文部省、岐阜県、警察庁等の主催)に招かれ講演した。平成7年は12月末から北海道では近年にない豪雪となり、やがて本州も豪雪に見舞われた。札幌圏ではこれまでの道路管理システムでは対応できず、あらゆる交通網は大混乱を引き起こした。大都市では、これまでのハード中心の対策には限界があり、新たな交通規制、きめ細かな情報公開、住民、ユーザーと行政との責任分担などソフト面での対応が不可欠な事が明らかとなった。10年以上にわたり豪雪がなかったため、住民、行政、マスコミとあらゆる機関の自然に対する危機意識が低下したこと、地方、国などの横の連携が不十分な事も災害要因となった。
著者
梅村 晃由 谷内 宏 内倉 章夫 白樫 正高 AKIO Uchikura HIROSHI Taniuchi
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1987

二年間にわたり、装置の設計、試作、実験を繰返えした結果として、まず水力輸送の各装置について、(1)雪分率測定機:管内を流れる雪水混合体中の雪の割合いを、試料を採取することなく、連続的に測定する装置として、実用化の目途を得た。(2)雪分率調整機:管内を流れる雪水混合体から水のみを抽出する(あるいは水を加える)ことにより、それより下流の雪の分率を調整する装置として、実用化の目途を得た。(3)雪押込機:雪を水と混合してポンプに吸い込ませるための攪はん混合装置の制御系の改善を行った。また市販のスラリーポンプの雪水混合特性を調べ、雪の水力輸送に適するものを選んだ。両者を結合して、市民の使用に適する雪押込機を製作した。つぎに、これらの装置を組合わせて、高い雪分率の輸送実験を行い、雪水二相流の流動特性について、つぎのような点を解明した。(1)流速一定の条件の下の、高い雪分率における直管内圧力損失(2)仕切り弁における圧力損失と閉塞の発生機構(3)雪塊の間欠的投入に伴う、輸送系内の雪分率の変動挙動開発された装置の市内現場における実用試験は、小雪年が続いたため、山から雪を運んで行われ、つぎのことを確認した。(1)装置は所期の輸送能力を有する。(2)閉塞は管路の収縮部における雪塊の停滞によって起る。(3)雪の投入を制御するための警報装置は所期の作動をする。しかし、この装置を市民に使ってもらって、稼動率や信頼性を知る試験は小雪のため行うことができず、今後の課題として残された。
著者
梅村 晃由 松本 昌二
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

豪雪都市において, 雪害を経済的に評価する根拠を確立するために, 都市のある地域で, ある時刻に何円の損害が生じているかを雪害度と定義し, これを積算する方法を先に提案した. 今回は, この方法を長岡市の代表的な商業地区, 工業地区および住宅地区に適用し, その有用性を検証した. このとき, 毎日の積雪の変化を推計するための除排雪分析法を導入し, 毎日の雪害度の変化を気象や除排雪作業の条件と関係づけて試算するようにした. 主な結果はつぎのようにまとめられた.(1)観測地点は, 2km×5kmの平坦な市街地の中にあるにもかかわらず, 自然積雪深には, 場所によってかなりの差がみられた. 一般に, 繁華街では積雪が少なく, これは地域暖房および自動車の排熱が融雪を促進しているものと考えられる.(2)商業地域では, 除雪が頻繁に行われ, 堆雪深は他の地域より低い状態に保たれた. このため除雪費用が高くなり, その分, 他の地域と比べて雪害度があがったと考えられる.(3)自動車および歩行者の交通量は, 全ての地域でほとんど積雪の影響を受けておらず, 商業地域では, むしろ自動車交通量が増加する傾向さえみられた. 一方, バイクや自転車は, 積雪深が増えるにつれて交通量が減少することがわかった. これより, 本年度のような小雪のときは, 有雪時と無雪時で道路の利用率の変化はなく, 除排雪に要する費用が雪害度の主要部分をなすことがわかった.(4)上記の結果は, 62年冬および63年冬のデータに基づいているが, この年はそれぞれ数年に1度, 2年に1度の小雪年であり, 雪害度の検証のためには, さらに, 大雪年についての調査が必要である.
著者
小堀 爲雄 宮島 昌克 高山 純一 辻本 哲郎 北浦 勝 飯田 恭敬
出版者
金沢大学
雑誌
自然災害特別研究
巻号頁・発行日
1986

1.初積雪日から数日間の平均気温,積雪量の変動から,ひと冬の積雪量を推定する方法を開発した。すなわち、過去の記録において、初積雪日から25日間の平均気温,積雪量のフーリエスペクトルの形状の変化に注目することにより、ひと冬の累積積雪量が3000cm以上である大雪と、1000cm以下の小雪,その中間の平年という3つのパターンに分類することができた。今後は、初積雪日以前のデータも利用するなどして、さらに短期間でひと冬の積雪量を予測できるように改善する必要がある。2.不完全剛結節点を木造家屋の仕口部に適用して屋根雪荷重作用時の木造家屋のたわみ解析を実施した。その結果、軒先部の巻き出れなどが軒先部に及ぼす影響を定量的に評価することができた。また、このことが最適屋根雪下ろし時期を決定する際に非常に重要なポイントであることもわかった。3.家庭からの排熱の利用という観点から、台所の換気扇から排出される温風を利用して、軒先部の屋根雪を融かす装置を作成し、実験を行った。しかし、今冬は暖冬で積雪量が非常に少なかったので、その効果を十分に検討するまでには至らなかった。しかし、2.で得られた成果を考慮すると、この装置は屋根雪下ろしの軽減に大きく貢献するものと期待される。4.生活道路の除排雪を効率的に行うための一手段として、住民参加による生活道路の除排雪順位決定システムを提案し、実際の道路網への適用を試みた。その結果、本システムを用いることにより、行政側と住民,あるいは住民同士の除排雪順位に対する合意形成が得られることが明らかになった。しかし、本システムにより、得られる順位が必ずしも物理的に最適な除排雪順位と一致しているとはいえないので、今後は、システムの最適化も考慮した方法に改善する必要がある。5.以上の成果を踏まえて、路上積雪と屋根雪の合理的除排雪システムについて考察し、今後さらに究明すべき課題を提示した。
著者
大熊 孝 大川 秀雄 鈴木 哲
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

1.河川水温の変化の測定と解析昭和63年12月から平成2年12月まで信濃川水系において水温,気温を9地点について測定し、一年を通じて水温と気温に強い相関があること、及び降雪の混入によって水温が急激に下がるとともに降雪が終れば回復することが明らかとなった。水温と気温の変化の位相差を考慮して、水温と気温、降雪量などと重相関分析と行うことによって、水温の年変化及び日変化を追跡することが可能となった。このモデルにより、昭和56年豪雪時の小出地点の水温を測定し、豪雪年でも消融雪溝が利用可能なことを明らかにした。2.流雪溝・消融雪溝の流雪・融雪能力の改善流雪溝の流雪能力を埋論的に明らかにするには条件設定が困難で十分に成果をあげることはできなかったが、現地及び室内実験によって設計に使用すべき流雪能力を求めることができた。また、流雪溝の壁面を塗装することによって、一定流量に対し2倍以上に流雪能力を高め得ることを明らかにした。消融雪溝に関しては、流量、水温が与えられれば理論的に融雪能力を算定でき、それは実験結果と良く符合することを明らかにした。また、効率的に融かすには堰の高さを低くし、多段構造にするのが良いことを明らかにした。3.除雪システムの運用に関する研究岩手県沢内村や新潟県津南町、十日町市など特別豪雪地帯における除雪システムを調査することによって、冬期除雪体制の確立が地域振興の基盤であることを明らかにするとともに、行政と住民組織との協力システムが多種・多様な形態・内容で存在し、それぞれ個別では出し得ない大きな力を発揮していることを明らかにした。
著者
水野 毅 高崎 正也 村山 誠
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本課題では,負の剛性を持つ支持機構を利用したアクティブ除振装置の実用化を目指した研究を実施した.(1)負の剛性を持つ支持機構としてゼロパワー磁気浮上機構を利用した装置では,負の剛性の大きさが除振テーブル上の搭載物の重量によって変化するため,直動外乱に対する剛性が低下してしまうという問題がある.この問題の解決方法として非線形補償法を提案し,浮上対象物の1自由度を制御する磁気浮上基礎実験装置において,提案する非線形補償によって負の剛性の大きさが一定に保たれることを実証した.(2)負の剛性を持つ支持機構をリニアアクチュエータを利用して実現することを提案し,そのための制御方法を明らかにした.さらに,空気圧アクチュエータを利用して除振テーブルの垂直方向の3自由度の運動をアクティブに制御する除振装置を試作し,性能の評価を行った.(3)ゼロパワー磁気浮上機構を利用した除振装置のもう一つの問題は,従来の構造では永久磁石の吸引力によって除振テーブルの全重量を支えなければないので,実用的には除振テーブルの大面積化が難しいことである.この問題を解決する方法として,荷重支持機構を導入することを提案した.支持機構によって,除振テーブルに作用する重力より大きな上向きの力を発生するようにすれば,ベース一正のばね-中間台-ハイブリッド磁石-除振テーブルと単純に下から積み上げていく構成が可能となることを示した.(4)荷重支持機構を備えた6自由度アクティブ除振装置の試作を行なった.垂直方向の3自由度の運動に対して,4つのハイブリッド磁石によるモード制御を適用することによって,直動外乱に対する高剛性を実現できることを実験的に確認した.さらに,非線形補償を導入することによって,除振テーブルに大きな直動外乱が作用しても,高い剛性が維持されることを実証した.
著者
登尾 啓史 宮崎 文夫 平井 慎一 北嶋 彰 吉田 晴行 大西 克彦
出版者
大阪電気通信大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

近年、医療事故などの理由で、医学や歯学の初学者が手術オペレーションを訓練する機会が著しく減少している。この問題を解決するため、我々はコンピュータが創り出す複合現実感の世界で、医学や歯学の手術シミュレーションが実施できるよう、筋肉や骨のモデルを構築し、その視覚や触覚のリアリティを評価した。この評価には、力センサや高速度カメラを用いた計測による評価、および歯科医師による体感評価を利用した。
著者
横須賀 俊司 松岡 克尚 津田 英二
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

害者ソーシャルワークを実践していくには、まず、今のソーシャルワーカーが自分自身を自己変革していく必要がある。その次に、ソーシャルワーク理論における現在の到達点である交互作用モデルを拠り所にしながら、人と環境という二元論的とらえ方を改め、人と環境を一元論的にとらえていくことが求められる。そのために、障害者の身体を交互作用が生じる場としてとらえていかなければならない。さらに、これまでとは異なるオルタナティブな障害者ソーシャルワーク専門職を実現するために、科学化・アカデミックな理論を必ずしも求めるのではなく、障害者の経験知に基づく活動を支えていき、ソーシャルワーカー自身が相対化できる視点や知識を形成していかなければならないのである。
著者
金 憲経 鈴木 隆雄 吉田 英世 大渕 修一 權 珍嬉 石垣 和子 島田 裕之 吉田 英世 齋藤 京子 古名 丈人 大渕 修一 鈴木 隆雄
出版者
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

老年症候群の複数徴候保持者の割合は15.3%と高く,老年症候群の複数徴候には転倒恐怖感,通常歩行速度が有意に関連した.複数徴候保持者の徴候解消を目的とした3ヶ月間の包括的運動プログラムの効果を検証した結果,生活機能低下や尿失禁が有意に改善された.とくに,歩行機能が向上された群で改善率が高かった.以上の結果より,包括的運動介入は複数徴候改善に有効であり,歩行機能の向上は徴候改善に寄与することを検出した.
著者
猪木 慶治 ZWIRNER Fabi ALVAREZーGAUM ルイス VENEZIANO Ga ELLIS John 加藤 晃史 小川 格 川合 光 風間 洋一 江口 徹 NARAIN Kumar SCHELLEKENS バート ALTARELLI Gu MARTIN Andre JACOB Mauric ALVAREZ Gaum 北沢 良久
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

1.現在、素粒子物理学の中で最も重要な課題の一つに電弱相互作用の自発的対称性の破れの起源という問題がある。標準模型においてはSU(2)×U(1)ゲ-ジ対称性の破れは、素のヒッグス場によって起こるとされているが、本当に正しいかどうかの実験的な確証は得られていない。ゲ-ジ対称性の破れを調べるための鍵として、W_LW_L散乱(W_Lは縦波のW)の研究が重要と考えられる。それは高エネルギ-(E≫m_W)においては、W_Lが等価定理によって南部ーコ-ルドスト-ン(NG)ボソンのようにふるまうからである。標準模型においてはヒッグスの自己結合定数はヒッグス質量の2乗に比例するのでヒッグス粒子が1TeV以下に存在しなければ摂動論は適用できない。猪木は日笠(KEK)と協力して、W_LW_L散乱の分部波振巾を、ヒッグス粒子ドミナンスと破れたカイラル対称性に基づく低エネルギ-定理という一般的要請をつかって、ユニタリティ-を満たすように決定した。すなわち、W_LW_L散乱においてtー、uーチャネルにヒッグス粒子を交換することによってsーチャネルに同じ量子数をもったヒッグス粒子があらわれるという要請をおき、低エネルギ-定理をつかって、I=J=0振巾をヒッグス粒子の自己結合定数λのみであらわすことができた。そしてλ→小のときは標準模型に一致し、λ→大になると標準模型からのずれが大きくなることが分かった。このような理論的予測をLHC/SSC、更にはJLC等の加速器で調べることにより、標準模型をこえた理論をさぐるための突破口としたい。2.LEPの実験結果は、超対称性を持った理論が統一理論の候補として有望であることを示唆しているが、これまでの超対称理論の予言は、摂動の最低次の計算に基づいていた。Zwirner等は近似を進めて中性Higgs粒子の質量および混合角を1ーloopでのふく射補正まで計算し、LEP IおよびLEP IIでのHiggs粒子生成の可能性を分析した。3.Wittenは昨年度、2次元のブラックホ-ルのモデルが可解な共形場の理論の一種で記述される事を示した。こうして得られる2次元のブラックホ-ルは、中心にある特異点においても理論は整合的で破綻せず、特異点と事象の地平線を入れかえるduality変換をもつ、という特有の性質をもっている。2次元ブラックホ-ルを記述するゲ-ジ化されたWessーZuminoーWitten模型は、特異点付近で平坦なU(1)ゲ-ジ場を記述する位相的場の理論に近づく。江口はこの事情をより詳しくみるためにWessーZuminoーWitten模型を超対称化し、これを更にtwistして位相的場の理論を作りその性質を調べた。位相的場の理論はBRS不変性をもつために、経路積分がBRS変換の固定点からの寄与で支配される。ブラックホ-ルのモデルでBRS変換の固定点は中心の特異点に一致する。従って時空の特異点が位相的場の理論で書き表される事がわかった。4.Wittenによって始められた位相的な場の理論は、多様体の位相的構造を調べるための新しい強力な手段であるにとどまらず、2次元量子重力理論が共形不変性を持った位相的な場の理論とみなしうるという発見にともない、物理理論としても非常に重要な性格をおびてきている。通常位相的共形不変理論は、風間・鈴木モデルを代表とするN=2超共形不変理論から江口・梁のtwistingによってえられる。風間は最近、位相的共形代数の一般的構造を調べることにより、今まで知られていなかった新しい位相共形代数を見いだし、位相共形代数の枠を広げた。さらにこの代数が隠れたN=1超共形対称性をもった理論のtwistingにより得られることも示した。5.川合は福間(東大)、中山(KEK)と協力して2次元の重力理論を連続極限として持つようなランダム面の理論を考え、その母関数が満たすべきSchwingerーDyson方程式を調べた。その結果、2次元量子重力や紐の理論の背後にはW_∞という大きな対称性が隠されており、その帰結として、SchwingerーDyson方程式がVirasoro代数やW代数の形式的真空条件として統一的に記述されることがわかった。
著者
矢崎 紘一
出版者
東京女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

この期間に行った研究の成果は,大別して,次の3つにまとめられる。1)光円錐上での南部・ジョナ-ラジニオ模型の定式化とその一般化。2)核子の相対論的クォーク模型による形状因子,構造関数の計算。3)クォーク・クラスター模型によるバリオン間相互作用の総合報告の完成。このうち,1)は東海大学のベンツ助教授たちとの共同研究で行った,南部・ジョナ-ラジニオ(NJL)模型の光円錐上におけるハミルトニアン形式の定式化を検討し,ドイツ,エルランゲン大学のレンツ教授,ティース教授および東京大学の太田教授たちと,光円錐上でのカイラル対称性とその破れの記述法の問題に一般化して,ワード・高橋の恒等式を用いた考察を進めるとともに,発散の正則化について新しい手法の提案を行った。2)はベンツ助教授,理化学研究所の石井博士,台湾国立大学の峯尾博士たちとの共同研究で,NJL模型に基く核子の相対論的クォーク模型において,クォーク間相互作用に軸性ベクトル状態でのものを含めて,核子の電弱形状因子や構造関数を計算し,その影響を調べるとともに,簡単化したクォーク・ダイクォーク模型により核物質での核子の構造変化を調べた。3)は東京工業大学の岡教授,上智大学の清水教授たちと20年近くにわたって進めてきたクォーク・クラスター模型によるバリオン間相互作用の研究の総合報告を完成させ,Prog. Theor. Phys. のSupplementの1冊として出版した。
著者
滝 充 惣脇 宏 大槻 達也 宮下 和己 滝 充
出版者
国立教育政策研究所
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

(1)19年度末に実施した「小学校学級担任調査」では、愛知県A市の協力を得て、6つの小学校の4〜6年生の学級担任から、暴力行動等で気になる児童26名の情報を収集した。その中の6年生11名(母集団は850名あまり)に着目し、彼らが中学1年生になった20年度の変化を追跡した。2年間分のデータからは、次のような知見が得られた。(1)11名中6名については、軽度の発達障害や規範意識の未熟さ等の問題から、小学校教諭によって「暴力的」と評価された可能性が高い。必ずしも積極的に他人を攻撃しているわけではなく、行為を自制できないことで、結果的にトラブルを起こしていると見られる。(2)一方、残る5名については、ストレス症状が顕著に見られ、それがいじめ等の攻撃的な行為に向かわせている可能性が高い。中学に進学してストレス状態が緩和された場合には、暴力的な行動がなくなった事例も見られた。(3)中学校の「暴力」の把握は、後者の事例が中心となっていることからと、小学校の把握との間にズレがあることがわかった。(2)ヨーロッパの学校における暴力事情の調査からは、以下の知見が得られた。(1)欧米のbullying概念が、日本で言うところの「いじめ」と「暴力行為(校内暴力)」を明確に区別しないまま論じられている。(2)その背景にあるのは日本とは比べものにならないほど激しい「暴力行為」が日常化していること、等が分かった。
著者
丸山 宏 潘 立波 金 敬雄 柳田 賢二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、中国とロシアの極東における国境地域および国境付近に住む少数民族の精神文化および言語文化が、社会主義の新中国およびソビエトが成立して以降、特に1970年代末から1980年代にかけて市場経済の導入と社会体制の変動が起こる中で、どのように構造変動しているのかを解明しようとしたものである。本研究は平成11年度と12年度の2年間にわたり行われた。初年度は、関連文献の国内外における調査と収集を行った。2年目において研究代表者の丸山宏は、9月に中国内モンゴルに赴き、聞き取り調査と文献収集を行い、エヴェンキ族、オロチョン族、ホジェン族などのツングース系民族について、現代史における生活の変化を跡づけることを試みた。1949年から90年代初までの各民族自治旗の民族人口比率の激変、社会制度や生活様式の変化にともなうシャマニズム文化の断絶、漢族との婚姻率の高さや民族語教育の不備による言語文化の喪失などの諸問題について、その変化の実態を整理することができた。柳田賢二は、中国の朝鮮族居住地域で資料収集した他、極東から中央アジアに移住させられたロシアの高麗人の言語がロシア語の影響下で変容している実態を考察し、将来において極東ロシアの朝鮮系の人々の言語と比較するための予備的基礎作業を行った。金敬雄は中国朝鮮族の言語の変遷に関して、新中国成立以降、文革期を経て、韓国との国交樹立以後までを時期区分し、特に中国語と韓国の朝鮮語からの特徴的な語彙の受容から新しい朝鮮語が成立しつつあることを検討した。潘立波はホジェン族の民間英雄叙事文学である伊瑪堪を取り挙げ、1930年代の記録と90年代の記録を比較し、民間文学の記録という領域における時代性とその異同点を整理した。
著者
高橋 誠 田中 重好 木村 玲欧 島田 弦 海津 正倫 木股 文昭 岡本 耕平 黒田 達朗 上村 泰裕 川崎 浩司 伊賀 聖屋
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

インド洋大津波の最大被災地、インドネシアのバンダアチェとその周辺地域を事例に、被災から緊急対応、復興過程についてフィールド調査を行い、被害の状況、被害拡大の社会・文化的要因、避難行動と緊急対応、被災者の移動と非被災地との関係、住宅復興と地域の社会変動、支援構造と調整メカニズム、災害文化と地域防災力などの諸点において、超巨大災害と地元社会に及ぼす影響と、その対応メカニズムに関する重要な知見を得た。
著者
八木 浩司 佐藤 浩
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

低ヒマラヤ山地斜面に発達する地すべり地形の分布図作成を通して,地すべりの発生しやすい地形・地質条件を明らかにすることでハザードマップ作成のための危険度判定基準を明らかにした.
著者
高森 昭光
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

第2種高温超伝導体バルクに生じる「ピン止め効果」を応用して浮上支持した永久磁石を参照振子とした、地震の回転成分を測定する回転地震計の研究開発を行った。実際にプロトタイプ回転地震計を製作し、各種ノイズの評価や実験室内で実際の回転地震波の試験的観測を行った。実験期間の制約から長期にわたる実際の観測所での観測は実施できなかったが、実験室内での試験観測によってほぼ目標の分解能を達成したことを確認できた。