著者
早川 美也子
出版者
上智大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、BSEやGMO(遺伝子組み換え食品)をはじめとする「食の安全」に関する規制政策に各国(地域)はどのように取り組み、またそれらの政策がどのような論理で形成されたのか政治学の立場から明らかにすることである。本年度は、消費者運動がいかに食の安全政策に影響力を与えているかについて、EUとの比較を視野に入れつつ、主として日本の国内レベルの分析を行った。日本では、国政レベルと地方レベルの規制政策に相違がみられる。地方レベルでは、独自の条例やガイドラインが作られ、消費者寄りの厳格な規制が実現したとされる一方、国政レベルでの規制は生産者寄りの緩やかなものである。なぜそのような結果が生じているのかについて、GMO(遺伝子組換え食品)をめぐる消費者運動に焦点をあてて考察した。GMOに関して厳格な規制を創設した北海道、岩手県、千葉県、新潟県、滋賀県、徳島県等の地方自治体の規制内容について調査するとともに、それらの自治体の政策と消費者運動との関わりについて調査した。当初は国政レベルでは生産者(流通業者含む)重視、地方レベルでは消費者重視の政策が採用されていると予測していたが、現実には双方のレベルにおいて生産者や業界に有利な政策となっていることが判明した。一見「消費者寄り」に見える政策が地方レベルで存在しえているのは、それが農産物の風評被害を恐れる生産者の利益と一致しているからである。食の安全を求める消費者運動は、実際には地元の農家や生協、食品流通団体などの「生産者」と強く結びついて展開され、そのアウトプットである政策は生産者の利益を代弁するものであった。これまで日本の市民運動は国政レベルにおいて弱く、地方レベルでは一定の影響力が認められると指摘されてきたが、この成果は先行研究の結論に一石を投じるものと言える。
著者
森田 孝夫 佐々木 厚司
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的は,阪神・淡路大震災においてさまざまな生活支援施設の地震対応を調査し,実時間で最適な地域施設の対応システムを開発することである。研究実績をまとめると次の通りである。1, 地域施設の対応システム開発(医療福祉系):医療福祉系施設において,日常活動の非常時展開,および地域活動の拠点的展開に対応するために,共用スペース規模の量的充実に対する建築計画的配慮と,異分野や異属性のサービスのマネージメントの必要性が明らかになった。2, 地域施設の対応システム開発(消防・救助系):甚大な被害を受けた地区では,地域施設・設備も被害を受ける可能性が高いために,人間集団の協力に頼る率が高くなる。焼失型では,芦屋市や神戸市長田区真野地区のような民間消防団や企業消防団といった集団力を発揮させるソフト計画が必要となる。ただし,前提条件は局地的な被害実態と広域的な被害実態の両方の迅速な把握である。3, 地域施設の対応システム開発(商業系):コンビニエンスストアが早期に稼働する実態が判明したが,その他の施設の対応は期待できない。むしろ被害者自身が被害が小さかった地域の商業施設へ出かけたり,他府県に住む親類などによる個人的な運搬が非常に活発に行われた。問題はそのような行動ができない災害弱者に対して支給する緊急生活支援物資の調達・配送ネットワークの確立が必要である。
著者
細谷 良夫 ELIOT M STARY G 成 崇徳 蒲地 典子 王 鐘翰 陳 捷先 石橋 崇雄 楠木 賢道 PAN A.T 加藤 直人 中見 立夫 松浦 茂 岸本 美緒 江夏 由樹 松浦 章 香坂 昌紀 河内 良弘 松村 潤 神田 信夫 STARY Gioban ELOT Mark TATIANA A.Pang WANG Zhong-han CHEN Jiw-xian CHENG Chong-de 王 禹浪 関 嘉禄
出版者
東北学院大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

「実績の概要」1994〜96年の3年間にわたり、清朝史研究の基礎的な作業として、多岐にわたる清朝史料の体系的把握を目的に、満州語史料を中心とする各種史料の所在状況の調査及び版本と档案の関係を課題とする共同研究を実施した。研究活動は国外の研究分担者の協力を得て中国、台湾、香港、アメリカ、ロシアで実施したが、はじめに調査研究の対象となった主要な(1)史料所蔵機関と(2)史料名称を以下に列挙する。(1)史料所蔵機関(中国)第一歴史档案館、遼寧省档案館、吉林省档案館、吉林市档案館、黒龍江省档案館、北京図書館、科学院図書館、吉林大学図書館、中央民族学院図書館、遼寧省図書館、大連市図書館、中国社会科学院歴史研究所、中国社会科学経済研究所、中国社会科学院清史研究室、中国社会科学院近代史研究所、遼寧省博物館、黒龍江省博物館、黒龍江省民族博物館、新賓満族自治県博物館、伊通満族博物館、海拉尓民族博物館、阿里河鄂倫春族博物館、莫力達瓦文物管理所図書館、承徳市囲場県文物管理所、赫哲族民族博物館、赫哲族民族館(中華民国・台湾)台湾中央図書館、故宮博物院文献處、中央研究院近代史研究所、中央研究院歴史言語研究所(香港)香港大学図書館、香港理工学院図書館(アメリカ)カリホルニヤ大学(バ-クレイ)図書館、議会図書館、ハ-ヴァト大学燕京漢和図書館、プリンストン大学ゲスト図書館、ニューヨーク市立図書館(ロシア)ロシア科学アカデミー極東研究所中国学図書館(モスクワ)、ロシア科学アカデミー東洋学研究所(サンクトペテルブルグ)、サンクトペテルブルグ大学、サルトコフシチュドリン名称公衆図書館(2)主要な史料と史料系譜の名称無圏点「満文老档」、有圏点「満文老档」、満文「清実録」(太祖・太宗朝)、内国史院档、崇徳3年档、逃人档、〓批奏摺、戸科史書、礼科史書、内閣大庫漢文黄冊、戸部銀庫大進黄冊、戸部銀庫大出黄冊、江南銭糧冊、徽州文書、理藩院題本、黒龍江将軍衙門档案、三姓档、黒図档、尚務府档、朝鮮国来書簿、尚可喜事実冊档案、南満州鉄道北満経済調査所所蔵史料、哈爾濱学院所蔵史料、駐哈爾濱外務局特派員公署所蔵史料、満漢文清朝初期関係の石碑拓本、嫩江流域達斡尓族所蔵の満文史料、大楊樹付近の満族関係史料、烏蘇里江流域赫哲族所蔵の満族史料、琿春付近の満族関係史料、鴨緑江流域所在の満族関係史料「共同研究会の開催」上記各史料所蔵機関で、各種の資料をめぐり中国では王鍾翰、成崇徳、台湾で陳捷先、アメリカでエリオット、ロシアでタチアナ・パン各教授と個別課題で共同調査と研究を実施した。また文書史料のみならず、中国東北地域で、清朝初期史をめぐる石碑史料、宗譜や牌単などの祖先祭祀史料、鄂倫春族などを含む満族をめぐる口承伝承資料の採集などの現地調査と研究を関嘉禄、王禹浪研究員と共に行った。3年間にわたる共同研究のまとめとして、1996年12月に成崇徳教授を招聘、満族史研究会の招聘などで来日中の陳捷先、スターリ、パン、エリオット教授をまじえ、満漢文史料をめぐるシンポジュウムと満文版本目録作成のためのワークショップを5日間にわたり実施し、これまでの総括と今後の共同研究の方法を討議した。「成果」共同研究の実施の結果、各所蔵機関の資料状況が明らかになったことに併せて、個別資料の研究、すなわち実録の基礎となったであろう国内史院档の系譜や実録写本の検討、礼科史書と理藩院題本の関係、清朝から満州国に及ぶ東北土地文書の史料系譜、銭糧冊や黄冊などの清朝の経済政策を解明する基礎史料の整理などの官本と档冊の研究が行われた。同時に従来所在不明とされていた朝鮮国来書簿あるいは既に倒壊したと伝えられていた尚可喜神道碑の発見、あるいは逹斡尓族の満州語使用とその档冊や写本を見出した。これらの多くの成果は分担者それぞれの研究成果として公表されると共に「満族史研究通信」の誌上に史料状況を中心とする調査報告が公開されている。また満族史研究通信は国外に対する共同研究の成果の還元として、各国に送付され高い評価を得ている。
著者
松浦 章
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

清朝中国の国内沿海における海上輸送が、木造帆船即ちジャンク(Junk)によりどのように行われていたかを明らかにしたものである。中国大陸の沿海は数千キロに及んでいる。清代において優秀な航運能力があった帆船の航運活動に関して、特に山東半島を中心とする渤海・黄海沿海については山東省の青島における文献調査、華南沿海における福建省においては泉州地区における実地調査等によってその沿海航運について明らかにした。
著者
吉岡 尚文 権守 邦夫
出版者
秋田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

様々なアナフィラキシーショックのうち、抗原・抗体反応に起因するショックは例えば、IgA欠損症や他の血漿蛋白欠損患者への輸血でしばしば経験されることである。本研究はこれに類似するモデルをin vitroで作成し、肺動脈由来内皮細胞の挙動を検索することにより、その病態の解明と治療への応用を検討することを目的とした研究である。平成14年度の実験では、ヒト肺動脈由来の市販内皮細胞を培養し、コンフルエントになった時点で、抗ヒトハプトグロビン(Hp)を加えインキュベートし、次いで抗原液(ヒトHp)を添加後、細胞培養上清中に放出されると予想される様々な物質を経時的に測定した。その結果、ICAM-1とVCAM-1に放出量の変化が認められたことから、平成15年度は抗原や抗体の容量依存性の検討、さらに培養液中に白血球細胞やTNFαを加え、炎症反応を促進させる系を作成した。この系を用い、ICAM-1とVCAM-1の濃度を1時間ごとに6時間迄、12時間ごとに48時間迄経時的に測定し、抗原や抗体の量、白血球細胞や、TNFαの影響を検討したが、再現性のあるデーターは得られなかった。むしろ、細胞培養液に異物(ある種のヒト血清蛋白や抗体であるウサギ血清)を加えることで、細胞は刺激されてICAM-1とVCAM-1のような物資を放出したのではないかということが示唆される結果を得た。肺動脈の内皮細胞は何らかの物質を放出している可能性が示唆されたが、今回の研究からはアナフィラキシーショックと関連ある重要因子の特定や内皮細胞の確定的反応を確認することは困難であった。
著者
大川 四郎 加藤 順一 原 禎嗣 上野 利三 桝居 孝
出版者
愛知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

まず、太平洋戦争中の捕虜問題の背景として、防衛省防衛研究所図書館所蔵「金原節三業務日誌摘録」に見られる、陸軍中枢の捕虜観を検討した。当初、当時の俘虜情報局長官は、日本が批准していないとはいえ、俘虜の待遇に関するジュネーブ条約の遵守を主張した。しかし、当時の陸相はこれに反対し、捕虜軽視策が強行された。こうした捕虜観が、軍内部の上意下達機構を通じて、戦場あるいは収容所の現場で、捕虜と直接に接する日本軍将兵らに投影され、例えば虐待という形で現出した(第1部)。次に、本研究の主対象である、日本赤十字社所蔵の太平洋戦争中旧文書(以下、「日赤戦中文書」と略)を調査した。この「日赤戦中文書」には、欠落部分が多いので、本研究では、在ジュネーブ赤十字国際委員会(以下、ICRCと略)附属文書館所蔵の対日関係文書で補完していくという手法を用いた。もっとも、ICRC文書館所蔵文書が膨大であり、実際に閲覧・分析し得た文書は1944年前半期までであった。そこで、分析の対象時期を1942年から1944年前半期と限定し、具体的には、(1)俘虜収容所視察、(2)救恤品配給、(3)赤十字通信、に関する旧文書について検討した。(1)立会人抜きの自由対話が禁じられていたため、俘虜収容所視察が形骸化していた、だが、その枠内ではあれ、函館俘虜収容所のように捕虜処遇に尽力した実例があったこと、(2)日赤俘虜救恤委員部とICRC駐日代表部の尽力で、各種救恤品が各捕虜収容所に配給されていた、だが、救恤品が最終的に、名宛人である捕虜本人にまで届いたかどうかまでは、確認できなかった、(3)赤十字通信は俘虜情報局、日赤俘虜救恤委員部、ICRC駐日代表部の協力で開設されたものであること、を明らかにした(第2部)。総じて、陸軍側の捕虜軽視策に著しく阻まれたが、ICRC駐日代表部と連携した日赤俘虜救恤委員部の捕虜救恤業務が続行された。
著者
埴淵 知哉
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年度は,世界都市システム研究に関する包括的なレビューをおこなった.これまでは,NPO/NGOといった非営利・非政府組織を取り上げ,その空間組織やネットワーク,また地域との関係性などについて,インタビュー調査を中心とした質的調査を用いた研究を進めてきた.本年度は,これらを都市システム研究の再構築に結びつけるという問題意識から,近年の世界都市システム研究の展開を包括的に整理し,さらにこれまでの事例研究の成果を踏まえ,今後の方向性を議論した.近年のグローバル化の進展に伴い,世界全体を視野に入れた都市システムが注目されるようになり,とりわけ1990年代後半以降は,理論的検討や仮説提示に加えて本格的な実証研究も進められるようになった.この研究領域を切り開いたのは,GaWCという研究グループである.そこでまず,GaWCが想定する基本的な都市システム概念を抽出した.第一に,世界都市が他の世界都市との関係性の中において成立するという世界都市概念の転換を指摘し,第二に,領域的な国民国家のモザイクに対して,世界都市のネットワークというオルタナティブなメタ・ジオグラフィーを提示するというGaWCの根本的な問題意識を示した.続いて,急速に研究が進みつつある実証研究を整理し,連結ネットワークモデルや社会ネットワーク分析などの手法,グローバル・サービス企業などの関係性データを中心としながら,さまざまな手法・指標によって,多元的な世界都市システムが実証的に描き出されてきた点を明らかにした.そして今後の方向性として,NPO/NGOが企業・政府に対するオルタナティブな組織として,グローバル化時代の都市システム再構築に寄与しうる可能性を提示し,このような組織の観点を明示的に都市システム研究に取り入れる道筋を示した.
著者
福武 慎太郎
出版者
上智大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

2005年7月後半より約1ヶ月間にわたって東ティモールにおいて現地調査を実施した。インドネシアと国境を接するコバリマ県スアイ周辺村落において、当該地域の歴史および社会構造を把握するために、リアアダットと呼ばれる長老たちにインタビューを実施した。言語と慣習法を共有するインドネシア側の東ヌサトゥンガラ州ベル県おいてもインタビューを実施し、国境をこえた共同体の歴史と現在の親族ネットワークの拡がりについて考察するためのデータを収集した。当該地域では1999年の東ティモール住民投票後の騒乱の結果、東ティモール側の住民の大半が難民としてインドネシア側へと避難し、難民の大半は親族を頼って村落部に居住した。調査の結果、東ティモール側のスアイの人々が難民としてインドネシア側に移動するのはこれがはじめてではなく、20世紀前半におこった反植民地闘争の時以来、今回で4度目にあたることが判明した。数度にわたる大量移動の結果、東ティモール出身の人々による村々がインドネシア側国境周辺に形成された。結果として当該地域における難民は、難民キャンプに居住せず、血縁関係のある村へ避難した。国連機関UNHCRによる難民支援は、難民キャンプを中心に実施されたため、村へ避難した人々に支援物資や情報は届きにくかった。また支援活動が独立派と反独立派という図式の中で実施されたことも、インドネシア側と血縁関係があることから反独立派とみられた住民に対し、支援が届きにくい要因となっていた。帰国後、これらの調査で得られたデータを整理し、学会誌への投稿論文の草稿を執筆した。
著者
甲斐 雅亮
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本研究課題の目的は、DNA検出用の新たな超高感度プローブを創製することである。研究代表者らは、昨年度の研究において、多糖分子に、水溶性を損なうことなく低分子量の化学発光物質であるルミノールまたはイソルミノールを多数結合させる強発光性高分子の合成手法を確立した。本年度は、平均分子量200万のデキストラン分子[(Glc)_<12300>]に、まずルミノール(Lu)、又は、イソルミノール(Ilu)を結合させた(Ilu)_<3700>-(Glc)_<1230>及び(Lu)_<1900>-(Glc)_<12300>を合成し、分光学的測定値を比較した。その結果、両高分子の蛍光強度は遊離のルミノールやイソルミノールの約60-80倍の強度しか得られなかったが、化学発光強度は、(Ilu)_<3700>-(Glc)_<12300>では遊離のイソルミノールの7700倍を示し、(Lu)_<1900>-(Glc)_<12300>では遊離のルミノールの210倍を示した。このことから、デキストランに導入する低分子量化学発光物質としてはイソルミノールの方が優れていることが示唆された。また、溶液中のこれらの発光性高分子の化学発光の検出感度は、蛍光のそれよりも約100倍高く、約2×10^<-16>molの検出限界(S/N=2)を示した。次に、イソルミノールとビオチン(Bio)の結合数をコントロールした3種の化学発光性デキストラン分子、(Ilu)_<850>-(Bio)_<330>-(Glc)_<12300>、(Ilu)_<600>-(Bio)_<660>-(Glc)_<12300>及び(Ilu)_<400>-(Bio)_<1100>-(Glc)_<12300>を合成した。DNAのハイブリダイゼーションアッセイ用のナイロン膜にスポットした時、等モルのそれらの化学発光強度は、分子中のイソルミノールの結合比にほぼ相応していた。さらに、これらの化学発光性デキストランは、分子中のビオチンを介して膜上のアビジンと結合して、特異的に化学発光スポットを与えた。以上のことから、本研究で開発した化学発光性デキストラン分子は、アビジンに特異的に結合し、超高感度な発光プローブとしての適用が期待できる。
著者
小林 謙一
出版者
独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

日本列島、韓半島、中国における武器・武具の資料を比較すると、それぞれの地域間の交流を示す資料が明らかになる一方で、各地域に特徴的な在地の独自性を示す資料の存在も明らかになった。日本列島に関しては、弥生時代以降、弓矢をはじめとする攻撃用武器と甲冑等の防禦具は、相互に関連しつつ変遷してきたが、5世紀中葉には、同時に、新式の攻撃用武器、防禦具が導入された。これらは基本的に騎兵装備であり、中国東北地方、高句麗から韓半島を経由して日本列島にもたらされたことが明らかになった。ただし、中国東北地方で4世紀に成立した、馬も鎧を着用した重装騎兵の装備は、韓半島南端においても出土しており、両者が同一の系譜であることが確認できるのであるが、日本列島では、馬甲・馬冑の出土が皆無に近い状況であることから、ほとんど普及しなかったと考えられる。このことは、騎兵装備が騎兵戦という戦闘方法と一体で導入されたのではなく、より性能の高い新式の武器・武具として取り入れられたことを物語っている。当時の日本列島において、重装騎兵の装備は、必要とされなかったのである。東アジア各地域における武装の相違は、戦闘方法の違いでもあった。一方、防禦施設についても、高句麗古墳の壁画に描かれた城壁や土城を巡る高い土塁は、日本列島で確認されていない。こうした点も、武器・武具は、日本列島内における戦いに対処する装備として整えられてきた一因と考えられる。さらに、騎兵と関連する馬に関して、日本列島においては、馬具の出現が、騎兵装備より時期的に先行している事実も加味すれば、その時点における必要なものを選択して取り入れるという、受容する側の状況があったことも考慮すべきであろう。
著者
林 春男 山下 裕介 田中 重好 能島 暢呂 亀田 弘行 河田 恵昭
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

災害復旧に従事する防災機関のロジスティクス・マネージメントにおいて,災害対応を緊急対策,応急対策,復旧・復興対策という相互に独立し,異なる目標を持つ3種類の対策の組み合わせとして考えることが可能である.しかも,この3種類の対策はすべて災害発生直後から同時に,別々の担当グループによって実施される必要性が明らかになった.その間でのニーズと資源の相互調整過程にロジスティクス・マネージメントの本質があると考え,それを可能にする情報システムの構築を行った.1)防災CALSの構想 災害対策をおこなう関連部局間での状況認識の共有と資源調整を可能にするための情報処理標準の必要性を明らかにし,そのプロトタイプを検討した.2)被害状況の把握,対応状況の整理,資源動員計画の立案,周知広報による情報共有の確立を統一的に推進するシステムの構築を目的として,カリフォルニア州が開発した“OASIS" (OPERATIONAL AREA SATELLITE INFORMATION SYSTEM)と,わが国の災害情報処理報告形式とを比較検討し,わが国における合理的な災害情報処理様式の検討を行った.3)合理的な意思決定を支援するためには,災害対応の各局面における制約条件,過去の教訓棟を的確に参照しうるシステムが必要となるという認識のもとに,SGML (Standard General Markup Language)による災害情報管理システムのプロトタイプを構築した.各種防災計画の改訂や検索に強力な武器になることが明らかになった.4)阪神淡路大震災で初めて注目され,今後の利用法の検討が考えられるべきボランティア問題に関して,実態調査を重ねその問題点を明らかにした.
著者
冨田 敏夫 神尾 好是
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

黄色ブドウ球菌のロイコシジン及びγヘモリジンは2成分性血球崩壊毒素である。我々は、ヒト血清中のγヘモリジン阻害物資の精製に成功し、阻害物資をビトロネクチン及びそのフラグメントであると同定した。即ち、ロイコシジン及びγヘモリジンの新規機能、すなわちビトロネクチン結合能を初めて明らかにした。本研究では、(1)ビトロネクチンがγヘモリジンのHlg2成分およびロイコシジンのLukS成分に特異的に結合して両毒素の活性を阻害する事実を明らかにし、(2)ビトロネクチンの毒素分子結合ドメインの決定を試みた。ビトロネクチンの毒素阻害ドメインを決定するために、プラスミンによるビトロネクチンの限定分解をおこない、38kDaの阻害活性フラグメント(:89番目セリンから始まる)を分離した。さらに、このフラグメントをトリプシン分解した結果、C末端側が切断された24kDaの活性フラグメントが得られた。従って、ビトロネクチンの毒素阻害部位はhemopexin 1ドメインのC末端側及びhemopexin 2ドメインのN末端側の両者を含むことが明らかになった。また、(3)ビトロネクチン・毒素複合体中の両分子のモル比を測定した結果、平均して6分子のビトロネクチンが1分子の毒素を結合していた。この複合体中の毒素成分はSDS存在下で遊離するが、ビトロネクチンは複合体として存在していた。さらに、電子顕微鏡観察では、約20nmの球状構造が見られ、この球状構造が毒素成分1分子を保持するビトロネクチン複合体であると考えられた。
著者
山口 猛央 高羽 洋允 酒井 康行 中尾 真一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

生体膜ではイオンゲートが存在し、イオンシグナルが来たときにだけ細孔を開閉する。情報伝達シグナルにより細胞内外の特定イオンや物質の濃度を調節することが可能である。人工膜中にセンサー(包接ホスト)やアクチュエーター(環境応答ゲル)を組み合わせ、シグナルを認識したときにだけ細孔を高速に開閉する分子認識イオンゲート膜の開発に成功している。この膜はカリウムなど特定イオンが来たときにだけポリマー鎖が細孔内で膨潤し細孔を閉じる機能を有する。本研究では、この情報シグナル認識機能を人工代謝機能へと応用した新規なハイブリッド型人工臓器を提案する。情報認識膜の表面に細胞を成長させる。細胞の一部が死滅すると全体の細胞へ悪影響を与え(生体では炎症など)、機能を維持できない。多くの細胞はカリウムポンプにより細胞内でカリウム濃度が高い状態を維持している。通常、細胞内部でのカリウムイオン濃度は4000ppmであり、血漿中の濃度は200ppmである。細胞が死滅すると細胞膜が破壊されカリウムイオンが外部へ流れ出す。膜がこの情報物質を認識し死滅細胞近辺だけポリマー鎖が膨潤し親水化すると、死滅細胞近辺の細胞が表面から剥がれる。さらに膜細孔も閉じ細胞質は透過側へは流れでない。拡散によりカリウムイオン濃度が低下するとポリマー鎖は収縮し、初めの状態と同じように細胞が増殖し細胞組織を再構成する。これを繰り返すことにより、常に組織は新しい細胞と代謝され、長期間機能を維持する。生体においては、食細胞などにより細胞が消化され代謝が促進されているが、ここでは人工膜界面が細胞死の情報を認識し代謝する役割を担う。死細胞から放出されたカリウムイオンを膜が認識し、死細胞を選択的に系から除去できることを確認した。さらに、炎症性物資をも除去することにより、このシステムでは素早く細胞が復元されることも確認した。
著者
海野 徳仁 平田 直 小菅 正裕 松島 健 飯尾 能久 鷺谷 威 笠原 稔 丸井 英明 田中 淳 岡田 知己 浅野 陽一 今泉 俊文 三浦 哲 源栄 正人 纐纈 一起 福岡 浩 渥美 公秀 大矢根 淳 吉井 博明
出版者
東北大学
巻号頁・発行日
2008

臨時余震観測から本震時には西傾斜の震源断層が主に活動したが、それと直交する東傾斜の余震活動もみられた。震源域直下の深さ30~40kmには低速度域が広く存在しており、そこから3本の低速度域が地表の活火山にまで続いていた。GPS観測データから本震時すべりは岩手・宮城県境付近で最も大きかった。本震後の顕著な余効すべりは震源断層の浅部延長で発生し、地震時すべりと余効すべりは相補的である。強震動データでは0.1~0.3秒の短周期成分が卓越していため震度6弱の割には建物被害が少なかった。
著者
花田 英輔 工藤 孝人
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本年度は、医療における総合的な電磁環境を構成するべき要素のうち、電源重畳ノイズ、接地および放射電磁界シミュレーションに重点を置いて研究をすすめた。また、これまでの研究成果を2つの国際学会を含む多くの学会で口頭もしくはポスターにて発表した。(医療現場における電磁環境の総合的な調査:電源ノイズ)IT化が進む医療機関における電源供給のあり方として、医療機器とその他という目的を明確にした供給体制と、JIS規格(JIS T 1022)に則ったコンセント区分および非常電源のあり方についてまとめ、解説論文として報告した。(医療現場における電磁環境の総合的な調査:接地)電気で駆動する医療機器は、接地が不良となった場合には動作が不安定となり、特に微小信号を取り扱う検査機器にあっては正しい検査結果が得られない場合がある。そこでJIS規格等で定められた病院接地(C種)を作成し、理想的接地(抵抗値10Ω内)および不良接地を人工的に作成し、その簡便な判別方法及び影響について調べた。この結果は平成20年度に報告の予定である。(電磁環境シミュレーションの開発と実証試験)これまで2次元空間で行ってきた放射電磁界の分布シミュレーションを3次元空間に拡張することを目指し、プログラムを改良した。応用例の1つとして、MRI室用電磁波シールドサッシの特性評価に関するシミュレーションを行った。この結果は平成20年度に発表の予定である。
著者
大田 一郎 原 憲昭
出版者
熊本電波工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では,コイルやトランスを使わずに,コンデンサとICスイッチだけで電圧変換できるスイッチトキャパシタ(SC)回路を用いて,超小型軽量のACアダプタを実現させる.平成17年度には,研究の最終年度で,過渡応答試験とワールドワイド入力の対応について検証を行った.電源投入時と瞬時停電時の過渡応答試験を行った結果,電源投入時の過渡応答では,従来のSC電源に比べ,突入電流を半分以下に減少させることができた.即ち,従来のSC電源(電子情報通信学会論文誌,vol.J76-C-II, no.6,pp.422-431,June 1993参照)では,300μFのキャパシタ4個を同時に商用電源に接続するのに比べ,提案回路では全波整流後の平滑キャパシタが30μFと小さいので,ソフトスタート回路を付加しなくても大きな突入電流を防ぐことができる.瞬時停電の応答は,従来方式の総容量1,200μFに対して,提案方式の総容量は180μFと約117に軽減しているので,出力の時定数が117に減少して全負荷時では半周期の瞬時停電でも出力電圧を維持することができない.なお,復帰後の応答は突入電流が小さく良好である.次に,世界中の電源電圧に無調整で対応できるACアダプタにする必要があるので,入力電圧を100V〜240V,周波数を50〜60Hzと変化させた場合の特性を明らかにする.個別部品で実験回路を組んでいるため,配線の引き回しにより,電源部では雑音を発生しやすく,制御部では雑音を拾いやすい回路になっている.このため入力電圧を高くすると,制御回路が誤動作したため,まだ実験での検証を終えていない.今回の試作では個別部品による動作の検証,および,計算機シミュレーションによる特性解析を行ったが,今後,制御回路の誤動作を防ぐため,キャパシタ以外の全ての素子をICチップ化して,実用化の見通しを検証したいと思っている.
著者
内田 裕之
出版者
山梨大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、金属ナノ粒子と混合導電性酸化物間の特異な相互作用を解明・制御して高性能電極を開発し、ナノイオニクスの発展に貢献することを目的とする。本年度は、以下の成果を得た。1) 噴霧プラズマ法で合成したNi-SDC複合粒子のNi粒子サイズ制御とSOFCアノード特性昨年度報告したように、組成と粒径がよく制御されたSDC固溶体とNiOの複合粒子がSSP法により一段階で簡便に合成できる。この粒子は中空状であり、Ni, Ce, Smが均一に分布していた。水素気流中800〜1000℃で1時間還元処理するとNiOは全てNiに還元できた。NiとSDC間の強い相互作用により、SDC表面にアンカーされた状態でNi粒子が析出し、Ni結晶子サイズは、1000℃還元では50nm、800℃では37nmであった。還元温度を低くするほどNi粒径を小さく制御できることがわかった。このNi-SDCをYSZ電解質に取り付けてSOFCアノード特性を評価した結果、17vol%-Niで最大活性を示すことを見出した。2) ヘテロ界面制御 : 混合導電性酸化物LSCF酸素極の長期耐久性La_<0.6>Sr_<0.4>Co_<0.2>Fe_<0.8>O_3(LSCF)+SDC/LSCF二重層構造電極を900℃、0.5A/cm^2で酸素発生させ、5000時間の耐久性を実証できた。落雷での停電での急冷、作業停電での室温までのヒートサイクルにも耐え、0.15V以下(vs. air)という高い性能を維持できた。試験開始時と再起動時に、一度上昇した電位が緩やかに回復する原因は、電極内の粒子同士の焼結がガス拡散性を抑制しない程度に進行してイオンと電子の導電ネットワークが向上し、有効反応領域が増大することに加え、LSCF中のCoの価数変化または相変化が起こっている可能性が高いことを明らかにした。
著者
阿部 茂 金子 裕良
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.「避難救出運転方式」とその輸送能力計算方式の開発エレベータを併用した場合の避難時間短縮効果を明らかにした。非火災時の全館全員避難の場合、ビルを縦に(ゾーン数+1)の区画に分け、最下区画の人は階段だけで避難し、残りの区画の人は各区画の最下階まで階段で下り、その階で玄関階との間を往復運転するエレベータに乗り避難する方式が、最適なことを示した。高層ビルほど短縮効果は大きく、16階ビルでは約1/3の15分程度で避難でき、避難用エレベータの有効性を確認できた。2.停電でも避難運転ができるエレベータの電源方式と運転方式火災時は停電の危険があり、ビルの非常電源では1台程度しかエレベータを運転できないため、停電時に全エレベータを運転できる電源方式が不可欠である。避難時は下方交通のため避難乗客の位置エネルギーを利用すれば、エレベータに小容量の回生電力蓄電装置を設置するだけで、停電時でも運転継続できる可能性がある。このための最適なエレベータ運転方式と電気二重層コンデンサを用いた省エネ率の高い電源方式を明らかにした。3.避難者行動ミクロモデルとそれを用いた避難シミュレーション手法避難時の階段歩行のイベントシミュレーション手法を開発した。エレベータのシミュレータと統合すれば、様々な状況における避難シミュレーションが可能となる。4.避難用エレベータの乗場における車いす利用者の画像認識避難時には身障者を特別に誘導する必要がある。エレベータ乗場の車いすの人を健常者と識別可能な画像認識手法を開発した。移動体の輪郭線と速度を求める性能の良いアルゴリズムで特許を出願した。
著者
伯野 元彦 鈴木 崇伸
出版者
東洋大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究の2年前の当初の目的は、日本の諸施設構造物は十分耐震的であるので、相当強い地震に対しても中破程度はしても、崩壊することは無く、その下敷となって犠牲者が数多く出るなどということはないので、それでも発生する震後火災から逃れるために、「近代的火の見櫓」という高層ビルの屋上などに設置されたビデオ・カメラなどによって、発生した火災の火元,避難路の状況(橋が落ちて通れないことはないかなど)を、オンライン的に収集し,そのデータに基づいて、ワークステーションによって避難シミュレーションを行い、住民に適当な避難路を示そうというものであった。しかしながら、現実には多数の木造家屋,ビル,高速道路,新幹線など、地震に対して堅牢かつ粘り強いと思われていた構造物が、脆くも崩壊し、6、300人以上の方々が亡くなった。このように、この研究開始時に想定していた構造物の崩壊は殆ど無いという仮定は崩れたが、この研究の主目的である地震災害を、震後なるべく早く把握するという事は、一層重要になってきたのである。地震後、何回もの現地調査によって明らかになった事を列挙すると次のようである。(1)強震後停電は必ず起こる。そのため、震後被害を早期に把握するための、例えばビデオ・カメラは、動作不能となってしまう。(2)その停電をカバーするためには、予備発電機が必要であるが、水冷式のものであると、震後の断水の影響のため、結局は使えない事が多い。容量は小さいが、空冷式の予備発電機を利用するしか方法はない。(3)電源は確保できても、折角集めた被害に関する情報を送る手段が地震のためやられるという次の壁が出現する。ただ、この手法が実現できれば、その効果は大変なものであるから、何とか今後も研究を続けて行かなければならない。
著者
樋口 広芳 仁平 義明 石田 健 加藤 和弘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究ではまず,都市におけるカラスと人間生活との摩擦の現状について広く調査した.その結果,ゴミの食い散らかし,人への襲撃,高圧鉄塔への営巣による停電,列車や航空機との衝突など,さまざまな種類の摩擦が生じていることが明らかになった.次に,そうした個々の摩擦の事例について,発生の状況や仕組をいろいろな情報収集と野外観察から明らかにした.ゴミの食い散らかしは,カラスが食物として好む生ゴミが手に入りやすい地域を中心に発生していた.具体的には,プラスチック製のゴミ袋に入れられて路上に放置される地域,とくにその状態が朝の遅い時間まで続くところで頻発していた.生ゴミが大量に出され,カラスの食物になることは,カラスの個体数を増加させる根本原因になっており,それがカラスと人間生活とのさまざまな摩擦の発生につながっていることが示唆された.人への襲撃については,5月から6月に集中し,カラスの巣の付近で発生すること,親鳥が巣やヒナを防衛するための行動であることなどが明らかになった.襲撃は人の背後から飛んできて行なわれ,後頭部を足で蹴るという例が多かった.蹴られることによって頭から出血する例もあるが,大部分は大きな怪我には至らない.高圧鉄塔への営巣による停電は,絶縁上必要な距離を保っている,電線と鉄塔の接地部分の間にカラスが造巣したり,はさまったりすることによって発生していた.関東地方では,カラスによる停電事故が毎年40〜50件起きている.列車や航空機との衝突は,時速数100キロの速度で走ってくる新幹線や航空機を鳥がよけきれずに発生していた.空港では,空港が漁港,河口,ゴミの大規模処分場などの付近につくられている場合に衝突が多発していた.そうした場所にカラスなどが数多く生息しているからである.