著者
角替 晃
出版者
東京学芸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

(研究代表者の死亡により以下空欄。別紙をご参照願います。)
著者
重松 隆 川上 憲司 森 豊 関口 千春 重松 隆
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

微少重力に人体が曝露されると、骨組織、筋組織、カルシウム代謝などに影響を受けると言われている。微少無重力状態では比較的短時間で骨塩が減少し骨粗鬆症が生じるとの報告がある。この発生機序は本邦においては宇宙飛行の経験も少ないため、未だその詳細は不明な点が数多く残されている。今回邦人宇宙飛行士の協力により、骨塩、カルシウム代謝を計測する機会を得、4回のミッション(宇宙飛行)における解析を行ったので報告する。計測方法は、DXA(全身、腰椎、大腿骨、踵骨など)UBD(踵骨)24時間量、尿中カルシウムカリウム、リンなどを計測した。測定は飛行開始60、30日前、飛行より帰還当日、3、10、30、120日後に行われた。測定結果は、それぞれのミッションの飛行時間も異なるため若干のデーターのばらつきを認めた。得られたデータのなかで、確実に認めた傾向は以下のごとくである。微少重力によって、骨カルシウム代謝が影響を受けることが、ほぼ明らかとなった。骨塩量は、踵骨腰椎などの荷重骨でより減少傾向を示し、その影響は尿中への漏出という形で腎臓に影響をおよぼす。この機序の詳細は不明であるが副甲状腺の血清カルシウム値の変動に対する反応性の低下が関与している可能性が示唆された。微少重力の影響は、骨組織に対して、骨形成の低下と骨吸収の促進という形で現れることが予測され、この結果として骨塩量が減少する可能性が示唆される。微少重力の骨カルシウム代謝への影響については今後さらなる検討が必要である。
著者
坂本 亘 上野 正博
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

魚類の遊泳行動に見られる日周活動リズムの持つ役割を、魚群形成過程の面から検討した。カタクチイワシは活動機能が低下すると浮上し、機能が活発になると沈降し深い層に移動する。この傾向は比較的初期の仔魚期からあらわれることを確かめた。さらにこの浮上・沈降の日周性と流れの鉛直シア-とを組み合せると種ごとに移動して行く方向に差が生じ、次第に魚種ごとの群となって行くことを確かめるため、海洋において実験を行なった。鉛直シア-、つまり表層から次第に深い層に行くにつれ流向が変る傾向は若狭湾西部において明確にあらわれていることを確かめた。特に表層と10mとで比較すると、表層では沖合へ、10m層ではそれと全く逆の湾奥方向へ流れていることを実測により見出した。また、この流れの測定と同時に表層と10m層のカタクチイワシ仔魚の分布密度を比較したところ、表層に分布する仔魚は流れの収束・発散の影響を受けて、集中分布をする傾向が強いことがわかった。仔魚は微細なため、長時間連続的に遊泳行動を記録するための特殊な自動記録装置を開発した。これは発光ダイオ-ドと光トランジスタを230個組合せて作られており、仔魚が発光部を通過すると、その位置・時刻が自動的にマイクロコンピュ-タの中に記録として取り込まれるようになっている。測器の開発及びプログラムに1年半を要したために、カタクチイワシの仔魚発生時期(6月から8月)の研究の間に合わなかったが、カワムツを用いた実験では日周活動リズムを記録することに成功した。これらのカタクチイワシによる日周活動リズムの解析と並行して、実際に海洋を回遊しているアカウミガメの日周活動リズムの解析にも成功し、この活動リズムが大規模な回遊をする際の定位と深いかかわりのあることを確かめた。この部分はすでに学会誌に報告した。
著者
錦見 盛光 松井 仁淑
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

ヒトを含む霊長類はビタミンCの合成ができないが、その原因は合成経路で働くグロノラクトン酸化酵素(GLO)の欠損による。われわれは、機能を有するラットのGLO遺伝子と機能を失ったヒトのGLO遺伝子の塩基配列をすでに報告した。本研究では、ヒトの遺伝子において特定された4つのエキソン(VII,IX,X,XII)の配列についてラットの配列と比較し分子進化学的検討を加えた。ヒトのGLO遺伝子における非同義置換は、遺伝子が機能をなくした後は選択圧を受けないため、同義置換と同じ頻度で生じてきたと推定される。この推定が正しいと仮定して、ヒトとラットの間の非同義サイトにおける置換数の値(0.16)と霊長類の同義サイトの進化速度(2.3×10^<-9>/サイト/年)とから、ヒトがGLOを失った時期は約7,000万年前以後と推測した。また、チンパンジーとマカクのゲノムDNAを鋳型にしてPCRを行い、エキソンXを増幅して得られたDNAの塩基配列を決定した。その結果、ヒトの配列と比べたホモロジーはそれぞれ97.6%と89.7%であった。これらの値は霊長類の祖先がGLOを失って以降、GLO遺伝子で塩基置換がランダムに起きていることを示しており、この遺伝子が進化の中立説を説明する恰好の例であることが分かった。さらに、ヒトの配列においてエキソンXIは欠失していることが分かっているので、この欠失が類人猿においても認められるか否かを調べた。ヒト、チンパンジー、およびゴリラのゲノムDNAを鋳型として、エキソンXからエキソンXIIにわたる領域をPCRによって増幅した結果、いずれも同一サイズ(23.5kbp)のDNAが得られたことから、エキソンXIの欠失はこれらの類人猿の分岐以前に起きたものと想定された。
著者
神奈木 玲児 卓 麗聖 田口 修 後藤 嘉子 田口 修 遊佐 亜希子
出版者
愛知県がんセンター(研究所)
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

細胞表層の糖鎖には接着分子としての機能を持つものがある。癌細胞ではシアリルルイスXやシアリルルイスaなどの糖鎖が発現し、これによって転移や浸潤が引き起こされる。癌細胞で糖鎖が変化する機構は、発癌早期においては、正常型糖鎖を合成する一連の遺伝子のエピジェネティック・サイレンシングが主原因の一つとなっていることを我々は明らかにした。一方、進行期の癌においては、癌細胞の低酸素抵抗性の獲得とともに機能亢進する転写因子hypoxia inducible factor(HIF)が、一連の糖鎖合成遺伝子の転写を誘導することが大きな要因となっていることを我々は明らかにした。
著者
足立 重和
出版者
愛知教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

今年度は、岐阜県郡上郡八幡町における「郡上おどり」の現状を事例にしつつ、伝統文化を「所有」するということは一体どのような現象なのか、その一端を明らかにしていきたい。昨年の報告書にて研究代表者が議論したことは、ある盆踊りが「郡上おどり」と名づけられた瞬間に生じる規範的な期待であった。具体的に言えば、「郡上おどりは誰のものなのか」が問題になったとき、「地元住民」は、踊り能力の有無にかかわらず、「郡上おどり」という名づけに付着した"郡上"という固有名詞に着目して、「郡上おどりは郡上八幡人のもの」という"思考のエコノミー"を行使するのである。このような規範的な期待のおかげで、地元住民は、いくら踊りを踊らなくても、踊りを崩して踊っても、それらの実践が「地元らしさ」「土臭さ」という表象を可能にさせてしまうがゆえに、郡上おどりの所有権を楽々と主張することができた。ただ、この戦略は、いわゆる「よそ者」に対しては通じるが、同じ「郡上八幡人」のあいだでの所有権争いになったときには、通じない。そこで、地元住民どうしは、自分たちを改めて「郡上八幡人」だと自己規定したうえで、自分たちの踊りには「風情がある」と語りつつ、絶えず差異化をはかろうとする。つまり、これらの事実から言えるのは、伝統文化の「所有」とは、常にある文化形態の担い方を他の担い方と同じ地平(=客観的な基準)で評価されることに対して拒絶していくことであり、そのような拒絶を通じて「自分たちがイニシアティブを保持している」ことを示すということである。そういった意味で、伝統文化の「所有」とは、何らかの実体を保持することではなく、たえず何らかの実体を保持しているかのように"示す"ことなのである。
著者
朝倉 康夫 羽藤 英二 井料 隆雅 多々納 裕一 長江 剛志 赤松 隆 吉井 稔雄 山本 俊行 中山 晶一朗
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

情報通信技術の高度化に伴い,GPS,携帯電話,PHS などの移動体通信システムの利用者数は飛躍的に増加しつつある.移動体通信による位置特定機能を用いると,機器を携帯する個々のヒトの位置特定が可能であり,過去数年の間に移動体通信機器を利用した交通行動調査手法が数多く提案されてきている.移動体通信を利用したヒトの交通行動の観測と分析手法については,1998 年に研究代表者らがITS 世界会議で発表した論文を皮切りに国内外で研究が進められている.国内ではプローブ車両による道路交通流の観測に代表されるように,実務面でも移動体観測への関心が高まっている.しかしながらこれに関連する既往研究のほとんどは平常時の交通行動を対象としたものであり,災害時を想定した観測システムの開発や分析手法に関する研究は見られない.一方,災害時の交通ネットワークのリスク評価に関しては,多様なアプローチから研究されてきているが,災害時の交通行動に関する実証データを得ることが困難であるために,実際の交通ネットワークを対象としたリスク評価研究の蓄積は必ずしも十分ではない.移動体通信機器を応用して災害時の交通行動を,災害を模した状況において実証的に把握することは,災害時の交通ネットワークのリスク評価の信頼性をより高め,また,より精緻な場面への応用ができるようになることが期待されよう.
著者
廣田 照幸 田原 宏人 筒井 美紀 本田 由紀 小玉 重夫 苅谷 剛彦 大内 裕和 本田 由紀 小玉 重夫 苅谷 剛彦 大内 裕和 清水 睦美 千田 有紀
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1990年代から現在に至る約20年の教育社会学の研究成果と教育現実の変動との関係の見直しの必要性が明らかになった。政治のレベルでの55年体制、経済のレベルでの日本的雇用システムを、暗黙の前提とした研究枠組みを脱する必要が浮かび上がった。特に、教育政策の立案-実施の過程に働く政治的な諸力が、1990年代初頭から大きく変容したこと、また、卒業生の受け皿である労働市場や雇用システムが、1990年代半ば以降、大きく変容したこと、その二つが、教育政策をめぐる議論に対しても、学校や生徒の現実に対しても、大きな意味を持っていた。とはいえ、実証性を研究の主要なツールとしてきた教育社会学は、そのような大きな構造変動を理論や研究枠組みのレベルで適切にとらえきれないまま、2000年代の教育改革の中で、部分的・断片的な実証データをもとにした推論を余儀なくされる状況に陥ってきたといえる。こうした検討を踏まえて、本研究から明らかになったのは、新たな政治・経済の枠組みをとらえた社会科学の知見を、教育社会学内部に取り込む必要性である。特に、グローバル資本主義の展開が政治や経済のあり方を左右する際、どういう選択肢が理論レベルであり得るのかをふまえ、それらの選択肢が教育政策に及ぼす影響を予測することの重要性が、明らかにされた。
著者
竹内 洋 富田 英典 稲垣 恭子 佐藤 卓己 井上 義和
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

総合雑誌を中心とする論壇の「衰退」や、インターネットを中心とする新しい論壇の「誕生」といった現象の背後で進行してきたメディア史的な変動の過程について、中長期的なスパンで実証的に分析した。論壇的公共圏の成立の重要な契機として、進歩的文化人による「革新幻想」公共圏の形成があったことを示し、さらに論壇的公共圏の変容を解明するために、様々なタイプの雑誌メディアの変容過程について調査している。
著者
豊澤 英子 中野 重行 小手川 喜美子
出版者
大分医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

研究目的:本研究は、老年者の服薬コンプライアンス(遵守)に関与する要因の分析およびノンコンプライアンス患者への看護介入の効果について明らかにすることを目的とした。研究方法:通院治療中の老人患者(65歳以上)および成人患者(64歳以下)のうち、研究の目的と方法について説明し、同意を得ることができた患者を対象として面接調査を行い、服薬コンプライアンスに影響する要因を検討した。また、ノンコンプライアンス行動を示した患者の追跡調査を行うことにより、服薬コンプライアンスの改善を目的とした看護介入の有用性を明らかにした。統計解析は、X^2test、t-test、Mann-Whitney U-testおよびKruskal-Wallis testを用いた。研究結果および考察:1.調査対象者は老人101名と成人105名の計206名であった。老人は成人に比し、複数処方の実際を担当医師に報告する割合が高かった(各々 p<0.01,p<0.05)。老人は成人より服用薬剤の種類は多いが、自己評価による服薬遵守は良好であった(p<0.01)。また、飲み忘れも少なかった(p<0.001)。老年者・若年者ともに、治療期間が5年以下の者あるいは治療効果有りと判断した者では、自己申告によるコンプライアンスは良好であつた(各々p<0.05)。2.ノンコンプライアンス行動を示した患者10名を6カ月間追跡調査した結果、定期的に面接し、服薬指導および健康問題の解決に関する話し合いをもった患者では、服薬コンプライアンスが改善した。看護ケアプランに基づく看護介入が有効であることが示唆された。結語:老人は成人に比し、服薬に対する関心が高く、望ましい服薬行動を取っていた。また、両者ともに、治療期間、治療効果に関する患者の認識および薬物治療への不安が服薬コンプライアンスに影響しており、ケアプランに基づく看護介入がそれらの改善に有効であった。
著者
粟野 宏
出版者
山形大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

東アジアは,木版印刷術のみならず,活版印刷術においても先駆的で輝かしい業績を誇っている.グーテンベルク革命にさきだつこと4世紀,西暦1040年ごろ,中国の畢昇は陶磁製の活字(膠泥活字)をつくり,人類史上初の活版印刷をはじめた.1314年,中国の王〓は,木活字をつくり印刷をした.朝鮮では早くも1234年に銅活版印刷がはじめられた記録があり,以後東アジアとしては例外的に活版印刷術がさかんにおこなわれた.活版印刷術は,16世紀末,2つのルートによって日本にもつたえられた.1つは,豊臣秀吉による朝鮮侵略のさいに,朝鮮から銅活字がもたらされ,徳川家康が17世紀はじめにかけて銅活字や木活字の利用に道をひらいた.もう1つは,16世紀後半に西欧の印刷術がイベリア半島からもたらされた.それは「きりしたん版」とよばれる.このように,西欧の活版印刷術にくらべて,東アジアに活版印刷術が登場したのは時期的に早かったが,東アジア中に普及したとはいえない.グーテンベルクの技術体系が,またたくまに西欧世界にひろまってそれを変革してしまったこととは,あまりに対照的である.そのおもな要因として,しばしば表意・象形文字としての漢字に代表される複雑な文字体系が指摘される.しかしここでは,それにとどまらない技術に内在する要因について考察した.東西の活版印刷術を比較したときに,もっとも大きなちがいは母型による活字の複製である.グーテンベルクの技術体系では,母型から低融点金属の鋳造により活字が大量生産されるのに対し,東アジアの活版印刷術ではそうではなかった.木活字では,一つずつ手で彫刻されるので,複製としてはきわめて低水準といわざるを得なかった.銅活字にあっても,融点が高いことに加えて,母型には砂型が用いられたので,作業性も鋳造精度も著しく劣る.こうした活字の複製のための母型の事実上の不在が,技術に内在する要因とみることができる.
著者
宗政 五十緒 寺谷 隆
出版者
龍谷大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1・円光寺(京都市左京区一乗寺)の現存する木製活字の調査・研究を行なった。その結果は『円光寺の文化財ー伏見版木製活字などー』(円光寺.1991年5月刊)の「円光寺木製活字とその付属品」(『円光寺所蔵 伏見版木活字関係歴史資料調査報告書』[京都府教育委員会.1991年3月発行]の再録)の論文として発表した。これに引つづいて、本年度は円光寺現存木製活字(以下、円光寺活字と略称する)と、伏見版以外の活字版との関係について,研究を進め,これにより,円光寺活字のもつ近世初期の文化史上の意義が解明できることになった。円光寺活字と最も関係の深いものは徳川家康が駿河で出版を行なった駿河版(金属製活字を使用した活字版)との関係である。この金属製活字は鋳造活字であるので、鋳造するための字母を必要としたはずである。この字母は木製で、円光寺活字を彫造した慈眼・台林・半右衛門らによって製作されたものあると、私は推定する。2・諸種の古活字版を調査するに、東福寺版に円光寺活字を使用したのではないかと推測されるものが存する(例えば,『十九史略通考』)。また、片仮名活字はこれまで、伏見版に使用された例が発見されていないが、円光寺現存の片仮名活字は確かに使用されたと推測できることから、伏見版以外の活字版を製作した際に貸出されて使用されたことが考えられることになった。片仮名交りの『東鑑』などと考えあわせて、今後、更に調査・研究が行なわれねばならない。3・本研究によって、古活字版の出版者が、軍一の形態の活字のみならず、複数の形態の活字を所有していて、注文主に応じて,所在活字をさまざまに利用して、出版物を製作していたことが明瞭に把握できることになった。その一例は、円光寺活字の彫字工台林の出版活動である。彼が刊行した『課抄』はその具体的なものである。
著者
天野 克也
出版者
武蔵工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1.住宅地街路からみたマント空間の評価構造は、居住者は『開放感』『安心感』『親近感』、大学生は『安心感』『視線感』『親近感』、中学生は『親近感』『開放感』『安心感』の3因子構造で説明できること、中学生は、実質的には『親近感』の1軸構造であり、空間を自分にとって親しみを感じる空間か、感じない空間かという1つの観点から評価していること、『視線感』は大学生特有にみられる因子であり、来街者としての大学生は、画像から空間情報を認識して判断しているが、中学生は、空間情報だけでは他者の視線を意識できないこと、一方、居住者は、自分が住んでいる住宅地では、住まいの内からの視線を安心・安全の意識と結びつけて捉えていることを明らかにし、居住者、大学生、中学生ともに犯罪発生の多い地区は『親近感』の低い地区であり、親近感のある空間形成が防犯の面から重要であることを示した。2.敷地が街路に対して閉鎖的なまちは、まち全体として閉鎖的な傾向にあること、居住者は住まいを閉鎖的にして、防犯上安心であると評価する傾向がみられること、マント空間が閉鎖的になるほど犯罪発生は増加する傾向があることを明らかにし、程よく開かれたまち、即ち街路側、隣地側の閉鎖度が低く街路に対して居間の窓が面しているような住まいによって構成されるまちは犯罪者に狙われにくいことを示した。3.5つの住まいの工夫、即ち、(1)住まいと街路間の見通しを確保すること、(2)居間・食事室などの団簗の部屋と街路間で双方の気配を感じられるようにすること、(3)隣地間の見通しを確保すること、(4)住まいの駐車場を街路に対して閉鎖的にしないこと、(5)前庭の意匠を工夫して自分の敷地であることを明確にすること、はいずれも重要で取り入れてもよいと居住者に評価されたこと、街路に対する閉鎖度は30%のものが最も多く支持され、住まいのプライバシーおよび街路への開放性をそれぞれある程度確保し、しかも居住者に受け入れられる閉鎖度は30%程度であるといえること等を明らかにし、防犯環境設計の原則に加え、美しい町にすること、またその状態を維持することが重要であることを指摘した。
著者
佐藤 泰介 亀谷 由隆
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

PRISMは将棋の戦略や文章の曖昧性の解決といった複雑な確率事象を表現し、事象の分布の統計的パラメータをデータから自動的に学習する能力を持つ、世界的に見てもユニークなプログラミング言語である。今年度は確率的モデリング言語としての能力を更に強化するため、様々な改良を行い、PRISM1.11として公開した。PRISM1.11では、(1)PRISMの探索部分の実装言語であるB-Prologの最新バージョンであるB-Prolog7.0との統合を行い、メモリ効率を向上させた。(2)並列EM学習が行えるようになった。確率文脈自由文法のパラメータ学習ではCPU数にほぼ比例して数十倍の速度向上がみられた。(3)決定性のアニーリング方式に基づいたEM学習が利用できるようにした。これはEM学習の局所解の問題を避けるのに効果が期待できる。(4)N-viterbiアルゴリズムを実装し、上位N個のビタビ解を求められるようにした。(5)次に述べるようにベイズ的学習法である変分ベイズ学習法を実装した。確率モデリングでは通常最尤推定に基づくパラメータ学習を行うが、PRISMでは新たにパラメータにディリクレ分布を事前分布として導入し、ディリクレ分布のハイパーパラメータを変分ベイズ学習により学習出来るようにした。そのためPRISM用の変分ベイズ学習アルゴリズムを導出し、実装した。PRISMの変分ベイ学習は従来知られていた隠れマルコフモデルや確率文脈自由文法をはるかに越える範囲の変分ベイズ学習を可能にしており、例えば、バイオフィフォマティクスで使われるプロファイル隠れマルコフモデルの変分ベイズ学習が可能になった。
著者
筒井 美紀 本田 由紀 阿部 真大 櫻井 純理 櫻井 純理 堀 有喜衣 居郷 至伸 御旅屋 達 伊藤 秀樹 福田 詩織 田近 恵子 喜始 照宣 小柏 円
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

地方分権化は就労支援政策においても進められているが、その理念と実践は労働法制・行政組織法と矛盾しており自治体と支援機関は構造的ジレンマを強いられている。しかし関係者はその相対的自立性によって、法やルールの柔軟な解釈や資源の転用戦略を駆使するとともに、社会本体の変革意識を有している。とはいえ労働市場に関しては、進んでいない。変革的ビジョンを解釈する文化的資源の不足が、政治的迷走を引き起こしている。
著者
山本 英子
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

デザイナーは多くの人に好まれる製品を創りだすことが求められる.本研究では,人の好みに影響する,製品に対する印象にはいくつかの種類があると仮定し,人が製品を見て表現できた印象から一歩踏み込んだ「深い印象」に注目し,印象分析を行なう.この深い印象の性質を捉えるために,意味ネットワークを利用して,「構造」と「非明示的な印象」を伴う仮想印象ネットワークを構築する手法を提案し,その構造を分析した.その結果,好みの違いを分析に用いたいくつかのネットワーク指標を使って説明できることを示した.これにより,深い印象のレベルで,好きという印象を形成するプロセスは嫌いという印象とは異なることが示唆された.
著者
浜井 浩一 辰野 文理
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

近時、日本では、凶悪犯罪の増加など治安の悪化が大きな社会問題として取り上げられている。マスコミには、凶悪犯罪が起こるたびに、凶悪犯罪が多発しているといった枕詞に続いて、認知件数や検挙率といった警察統計が頻繁に登場するようになった。多くの国民にとって治安の悪化は疑問の余地のないもののようにとらえられている。しかし、認知件数は、あくまでも警察に事件が届けられ、警察が犯罪として認知したものを計上したもので、警察の対応によって大きく数字が変化するなど、犯罪発生をそのまま反映したものではない。本研究プロジェクトは、こうした警察統計の持つ問題点を克服し、正確な犯罪動向を測定するため、日本版犯罪被害調査を開発することを目的としている。具体的には、日本だけでなく英米などの警察統計等を詳細に分析し、その犯罪指標としての特徴、限界等を明らかにすると共に、英米での犯罪被害調査の実情及び成果について調査研究を実施した。この部分の成果については、2006年1,月に『犯罪統計入門(日本評論社)』として刊行した。そして、その成果を踏まえつつ、2006年度からは、日本の犯罪事情を正確にとらえることのできる犯罪被害調査の開発に取りかかった。また、本研究では、新たに調査票(質問紙)を作るだけでなく、調査の実査方法についても検討した。調査対象者を二つのグループに分け、一つのグループについては、従来から日本の世論調査等でよく用いられている訪問面接方式によって調査を実施し、もう一つのグループについては訪問留置き方式によって調査を実施した。これは、近時、個人情報に対する国民の意識の高まり等によって、世論調査・社会調査の実施環境が著しく悪化し、調査の回答率が低下したことに加えて、調査実施に対する苦情も増大しつつある現実を踏まえてのものである。さらに、回収率の低下が調査の信頼性にどのような影響を与えるのかを検討するため、無回答者に対して、質問項目を絞った簡易質問紙を郵便で送付する追跡(二次)調査を実施し、その結果を訪問調査の結果と比較した。今後は、この成果を踏まえ、個人情報保護下における犯罪被害調査のあり方について検討する。
著者
細江 達郎 横井 修一 PRIMA Oky Dicky A 細越 久美子
出版者
岩手県立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

盛岡市と周辺町村を対象とし、犯罪発生場面を物的・人的環境との動的関係から調査し、その発生抑制条件を明らかにした。そのことから地方における犯罪防止対策の基礎データを分析し、今後の研究の手がかりを提供した。本年度は具体的には以下について実施した。(1)GISによる犯罪分析窃盗犯とその地理的環境要因との関連分析を継続して行い、利用形態別の建物の割合と面積に基づいてクラスタ分析を行い、町丁目ごとに特徴を把握することが可能となった。その結果、対象地域は繁華街地域、繁華街・住宅混在地域・住宅中心地域に分類され、犯罪手口との関連が明らかとなった。これまで市町村(区)単位、交番管轄単位で分析されていたが、本研究によりさらに詳細な分析が可能となるだけでなく、防犯の面でも地域特性に応じた対策の検討が可能となった。(2)防犯意識向上のための地域安全マップ作製の効果に関する調査地域安全マップの効果は被害防止能力、コミュニケーション能力、地域への愛着心、非行防止能力の向上がある。それぞれの尺度を作成し、岩手県内農村部の一小学校児童を対象に調査を実施した。地域住民を含む地域安全活動に児童が参加し、実施前・後・3ヶ月後の能力の変化を調査し、安全活動の関与の効果について明らかにした。まとめとして、地方における犯罪発生は都市およびその周辺部においては罪種とその地域の建物利用形態との関係により発生の態様が異なり、農村部においては地域住民の安全対策への関与により犯罪発生・抑制に差異が出ることが確認され、今後、地方における犯罪防止はそれぞれの地域特性に応じたきめ細かい施策が必要とされる。3年間に渡る本研究はその基礎的な資料を提供するものである。
著者
水野 惠司 元村 直靖
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1)一般に普及する29の安全地図事例を収集し、その特徴を分析した。主に学校単位で保護者や生徒により作成される安全地図は、犯罪や交通事故の危険想定箇所について原因や周辺環境についての説明がある。主に警察で作成される安全地図は、府県単位の範囲の、犯罪や交通事故の正確な発生箇所と内容を示すが、原因や環境については説明されない。前者は保護者や生徒が犯罪事故を地図化し原因や環境を考える中で、防犯防事故技能の向上が期待できるが、情報が主観的で経験的であること、地図の範囲が狭く、視野が限定される特徴がある。後者は広い範囲の客観的情報を広範囲に伝えることができるが、原因と周辺環境の説明を欠くために、地図の具体的活用方法に不十分さがある。2)安全地図に対する保繊者の意見を参考に、計二版の安全地図が作成された。さらに、小学3年社会科授業においての授業が行われ、そこで、安全地図に描かれた不審者の分布、子ども110番の家分布図が利用された。3)大阪北部、兵庫県東部の11市区町を対象に、犯罪と交通事故の空間分析を行った結果、犯罪と交通事故は、地域内の複数箇所に集中するが,その分布は大人と異なる場合が多い。中学校校区単位での子ども人口と犯罪・交通事故件数とは正の相関がある一方で、校区間には有意な発生率の差異が見られ、校区内に発生地点の粗密が見られた。道路や土地利用図との重ね合わせ分析の結果、犯罪の場合、住宅地域特に中高層住宅に多く発生する。また商業地の周辺地域や商業地と住宅地との混在地域に発生が多くなる。このような場所は、通行量の多い場所から、少し住宅地内に入り、人の監視が少なくなる場所に相当する。交通事故の場合、幹線道路上とその近辺に大半が分布する。また住宅地と商業地に多く発生している。子どもの行動が地域の経済社会活動と関連し、交通事故の集中する場所となっていることを示している。
著者
山岸 俊男 山岸 みどり 高橋 伸幸 結城 雅樹 石井 敬子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

実験室に設定された「実験社会」を用いて、関係の固定化による「安心」の提供が不可能な状況を作り出し、関係の固定化を媒介しない形での自発的な社会秩序の形成を可能とする原理を明らかにすることをめざした。そしてこの最終目的を達成するために、一連の実験研究を通して、まず第1に、機会主義的関係の信頼関係への変換に際してリスクテイキングが不可欠の役割を果たすこと、そして更に、この変換のために必要とされる社会関係的および社会制度的な条件を明らかにすることを明らかにした。具体的には、以下の諸点を明らかにした。◆信頼関係の形成に際してはリスクテイキングが重要な役割を果たす。◆信頼関係形成においては、信頼行動と協力行動とを切り離し、信頼に伴うリスクを最小限に抑えつつ協力行動をとる戦略が極めて有効である。◆情報非対称性が生み出すエージェンシー問題の解決に際して評判が果たす役割は、社会ないし市場の開放性・閉鎖性に応じて異なってくる。閉鎖的社会ではネガティブ評判が、開放的社会ではポジティブ評判が有効である。◆相互協力を達成するための集団内での非協力者に対する罰行動と、他集団の成員に対する罰行動は、異なる心理メカニズムに基づいている。◆1回限りの囚人のジレンマにおける協力行動の説明原理としての効用変換モデルの限界を克服するためには、ヒューリスティック・モデルが有効である。◆内集団成員に対する協力行動は、集団内部での一般交換に対する期待が欠かせない。この証拠は、最小条件集団においても国籍集団においても存在する。ただし、集団内で相互作用が存在する場合には、この期待は内集団成員に対する協力行動にとって必要ではない。◆集団主義的社会制度の経験は、集団主義的(ないし相互協調的)自己観と原因帰属(すなわち集団主義的信念システム)を顕在化する。