著者
小川 正 相原 茂夫 森山 達哉 佐藤 文彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

1,食物アレルギー患者が血清中に保有するIgE抗体の認識する食品素材中のタンパク質成分を、網羅的にイムノブロット法を用いて検出、特定すると共に、Nー末端アミノ酸配列の分析を行って得られた情報を基に、コンピューターデータベースに基づく解析を行い、既知タンパク質成分に帰属し、同定した。これらの情報を基に、植物に特有の感染特異的タンパク質(PR-P)ファミリーに属するものを選択した。(1)患者血清の認識するタンパク質成分として、ニンジンより20kDaアレルゲンとして、cyclophilin(cyclospolin A binding protein)を同定した。(2)ジャガイモより、18kDaアレルゲンとして、シラカバ花粉症の主要アレルゲンBet v 1 homologueを同定した。患者血清は、ピーマンやリンゴ由来の18kDaと交差する。(3)トマトより45kDaアレルゲンとして、コルク質形成関連酸性ペルオキシダーゼを同定した。(4)二十日大根より、37kDaアレルゲンとしてGlutathione S-transferase,25kDaアレルゲンとして,feredoxine/NADH oxidoreductaseを同定した。(5)リコンビナントPR-5dを用いて患者血清をスクリニングしたが、認識抗体を保有する患者は確認することが出来なかった。この事実は、PR-5ファミリーに関しては感作能が低い(アレルゲン性が低い)と考えられる。以上のアレルゲンタンパク質にはPR-Pに分類される物が多いことが判明した。その他の帰属不明なタンパク質も,PR-Pである可能性は高い。これらの事実は、PR-Pがヒトの食物アレルギーの罹患、発症に関わる感作、即ちIgE抗体の産生を特異的に誘導していることを強く示唆するものである。また、これらのアレルゲンは植物界に広く分布し、互いに相同性が70-80%以上あることからパンアレルゲンとして交差反応性が問題となることが示唆された。一方、これらは素材をストレス下で栽培することにより、その含量が変化する事実を確認に下。従って、生産条件の管理が植物性食品のアレルゲン性を大きく左右することを立証した。2,植物性食品素材毎に抽出調製したタンパク質画分を二次元電気泳動を行って、一次元目の情報、等電点、二次元目の情報、分子量をセットとする画タンパク質の戸籍簿を作成する。更に、二次元のイムノブロットにより患者血清の認識するタンパク質成分をマッチングさせ、アレルゲンのとなるタンパク質成分を特定する。この特定成分上に、各種属性を三次元の情報として蓄積し、一食品素材一データベースシートを構築する。日本標準食品成分表と対比出来るようにする。更に、情報として、PR-Pの特徴であるストレス負荷によるアレルゲン性の増減をデータベース上に搭載し、食物アレルギー患者の治療、栄養指導における有効かつ緻密な情報源として提供することが可能である。又、低アレルゲン化の程度、加工食品における混合素材アレルゲンの網羅的解析が可能となるであろう。
著者
小林 直樹
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本年度はまず、すでに我々が提案していた線形論理に基づく並列計算の枠組であるACLを高階に拡張したHACLを提案し、その意味論・型システム等を与え、静的に型づけされた(HACLで書かれた)並列プログラムが実行時に型エラーを起こさない等の基本的な性質を証明した。また、それに基づいたインタプリタの処理系を作成して、HACLの特徴の一つである(多相型をもった)高階プロセスが非常に有効であることをプログラミングを通して確認した。さらに、HACLの上に、インヘリタンスをはじめとする種々の機能を備えた並列オブジェクト指向言語を実現でき、かつそのようにして実現された並列オブジェクト指向言語で書かれたプログラムがHACLの型システムをとおして型推論・型チェックが行なえることを示した。その副産物として、型推論をとおして並列オブジェクトのメソッドのディスパッチが定数コストで行なえるようにコンパイルできることも示した。これらの結果に基づいて実際に、並列オブジェクト指向言語のプログラムからHACLへのトランスレータのプロトタイプも作成した。また、HACLを含めた非同期通信に基づく並列言語の効率のよい実現のために、エフェクト解析の手法を応用した並列プログラムの通信に関する解析を行なう方法を提案し、HACLを通した定式化・基本的な性質の証明・解析システムのプロトタイプの実装を行なった。将来的にはこの静的解析システムをコンパイラに組み込み、並列プログラムの最適化コンパイルに役立てる予定である。上記理論的側面の研究と並行してHACLに基づいた処理系の実装を進めており、現在シングルCPUのワークステーション用のコンパイラのプロトタイプがほぼ完成した状況である。
著者
添田 仁
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

近代日本は、近世の閉鎖的な「鎖国」を打開し、「開国」によって海外との「自由」な交通・取引を実現した国家として理解される。このような近世と近代との国際関係史が断絶したものであることを前提に議論する研究潮流を見直すために、近世・近代移行期の開港場における行政実務の構造的特質と、前近代の国際都市長崎で活躍した実務役人が開港場で果たした役割を分析することで、近代日本における国際関係の内実を近世的な到達点の上に解明した。
著者
川西 正子 小西 洋太郎 岡 佐智子 礒沢 淳子 卜田 真一郎
出版者
常磐会短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

幼児期の適切な食育は、その子どもの生涯の健康にかかわるとともに、子どもを取り巻く家族・社会の健康・健全性にもつながる。本研究では、食育の素材として"雑穀"に着目し、幼稚園,保育所での食育実施を試みた。素材の特性として、市販の雑穀の澱粉・雑穀粉の理化学的性質を検討し、澱粉ではその種類によりうるち種・もち種の両者があり、特にキノア澱粉の糊化温度が低いこと、ヒエ穀粒の粉では老化しやすいことが明らかとなった。また、アマランサス・ヒエを焼成パンの材料として小麦粉と置換し、調理科学的特性と食味との関連について検討した結果、雑穀を添加するとかたさと凝集性が増加すること、小麦粉との置換の上限は20%程度までであること、雑穀をポップ・熱処理することで栄養価(アミノ酸価)は変わらず食味が改善する可能性があることがわかった。大阪府下の保育所における食育の現状は、配膳・片付けに関わる体験、アレルギー児童への対応などについては比較的積極的に実施されていたが、食育に取組む体制づくり、地域を包括した活動などが今後の課題であることがわかった。旬を意識した食材・和食献立はある程度取り入れられていたが、地産地消への意識がまだ低い状況であった。また、餅つき・節分の豆まき・さつまいもの栽培とその食体験は多くの保育所で実施されていた。保育士などを対象とした質問紙調査では、雑穀を保育・食農教育に取り入れることができる可能性はある程度高いと考えられた。公立のH保育所にて雑穀を用いた食育実践を1年を通して実施した。種まき、栽培、収穫、おやつ作りと試食、わらを用いたエコクラフト、食と健康に関する話題提供、雑穀原産地(外国)の話などを4、5歳児対象として年間保育の中に組み込んだ。子ども達が楽しみながら食に関する興味をもったことなどが評価され、保育所全職員が食育活動に携わること、保護者へのアプローチが改善点として挙げられた。
著者
林 譲 横山 伊徳 加藤 友康 保谷 徹 久留島 典子 山家 浩樹 石川 徹也 井上 聡 榎原 雅治 遠藤 基郎 大内 英範 尾上 陽介 金子 拓 木村 直樹 小宮 木代良 近藤 成一 末柄 豊 藤原 重雄 松澤 克行 山田 太造 赤石 美奈 黒田 日出男 高橋 典幸 石川 寛夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008-05-12

東京大学史料編纂所が60年間にわたって収集・蓄積した採訪史料マイクロフィルムをデジタル化し、ボーンデジタルによる収集の仕様を確立し、一点目録情報などのメタデータを付与したデジタルデータを格納するアーカイヴハブ(デジタル画像史料収蔵庫)を構築し公開した。あわせて、デジタル画像史料群に基づく先端的プロジェクト・歴史オントロジー構築の研究を推進し、研究成果を公開した。
著者
幹 康
出版者
拓殖大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

ガラスを爪などで引っ掻いたときに発生する背筋がゾッとするような音,これを「生理的不快音」と呼び,この種の音の物理的特性を明らかにすべく,この音の解析,合成を試みた.まず,この種の音が摩擦振動によって発生することに着目し,摩擦振動系の物理モデルを構成し,その運動方程式の解を求めた.これを記述するいくつかのパラメータ(物体間の摩擦係数,引っ張り速度等)を変化させることにより,モデルの挙動が変化することを確認した.特に,その変化は,不連続的に起こり,その境界領域ではカオス的な挙動を示すことも明らかになった.さらに,上記パラメータに一定の乱数を注入することによって,より現実的な音の合成が可能となることを確認した.不快音の本質ともいえるスティック・スリップの不規則性はこの乱数の与え方に依存するものであり,これが不快音合成の鍵となると思われる.1秒間程度の解を求め,スティック・スリップの変動を確認すると共に,聴感上の印象も確認した.この解はインパルス列として与えられるが,最終段階として,ガラス板自体のインパルス応答を別途採取し,それを畳み込むことによってガラス板に対する摩擦振動音の合成を試みた.現段階では,ガラス板のインパルス応答を採取する環境と方法に問題が残されており,必ずしも満足いくデータが得られていない.ガラスのインパルス応答は単に音の色付けを行なっているだけなのか,あるいは,その時間的変化等に不快性をもたらす要因が含まれているのかどうかを含め,問題が残されている.
著者
駒野 宏人
出版者
岩手医科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

本研究は、ミクログリアの持つ血液脳関門(BBB:blood-brain barder)通過機能に関与する分子を同定し、その実態を明らかにすることである。作年度は、マウス由来株化ミクログリアRa2[澤田(名古屋大学)により樹立]よりレトロウイルスベクターとするcDNAライブラリーを作成した。本年度は、トランスマイグレイションアッセイ(平成17年度確立)を用いて、作成したcDNAライブラリーより、ミクログリアの血液脳関門通過機能に関与する分子のスクリーニングを実施した。まず、BBBを構成している内皮細胞株(MBEC4細胞:Drug Metab.Phamacokin.19:270、2004)をトランスウェルの上部チャンバーのメンベレン上、(孔サイズ:3μM)に3日間培養し、上部と下部チャンバーとの抵抗値がほぼ200Ωになることを確認した。その後、cDNAで感染させたRa2(全細胞数5X10^6細胞、1ウェルあたり4x10^4細胞)を上部チャンバーに培養した。さらに培養3日後、下部チャンバーに移行したRa2を数えた。その結果、下部チャンバーに移行したRa2細胞数は、cDNAライブラリー感染依存に高いウェルも存在したが、現在、正確に、それに関与する分子の同定にまでは至らなかった。これは、スクリーニングの培養時間が長く、その間、MBEC4細胞が部分的に破損し、ベクター感染Ra2細胞(background)においても、下部チャンバーに移行する細胞数が多数認められたため、関与する分子の同定を困難にしていると考えられた。現在、培養時間を短縮するためのスクリーニング条件をより詳細に検討を進めている。
著者
植松 英穂 小島 智恵子 松岡 啓介
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究課題の目的は、(1)プラズマ・核融合分野における国際会議に関する基礎的年表とデータベースの作成、(2)資料に基づく核融合分野における国際交流の歴史調査、(3)研究者への史実補完のためのインタビューである。作成した国際会議に関する基礎的年表とデータベースは、自然科学研究機構核融合科学研究所や日本原子力研究開発機構、日本大学理工学部に所蔵された国際会議のプロシーディングスや歴史的文献資料をもとに作成した。年表やデータベースを作成する上で得られた基礎的データは、今後の核融合分野における国際交流の歴史研究で使用される。また、資料調査の中で核融合研究黎明期におけるいくつかの史実が判明したために、同調査結果を日本物理学会等で発表した。さらに、史実を補完する目的で核融合研究者へのインタビュー調査を実施した。現在、インタビュー記録のテープ起こしを行なっており、校正作業を行なったうえで文書記録として保存する予定である。
著者
日比谷 孟俊 内田 保廣 佐藤 悟 嶋津 恵子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

浮世絵の開板時期を特定することは困難な場合が多い. 描き込まれた様々な描画対象ならびに文字などの属性情報をコンピュータに取り込み,『吉原細見』にある遊女の在任期間と比較することにより,江戸後期に溪斎英泉が画いた花魁を主題とする 21シリーズ,218 枚の美人画について開板時期を特定することに成功した.同じ図柄で妓楼と遊女の名前を変えただけの異板が存在する場合があるが,遊女の紋に注目することにより,初版と後版との関係を明確にできる.
著者
松原 孝俊 キャンベル ロバート 今西 裕一郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

1.ボストン美術館所蔵和本調査:2012年5月、8月、10月調査実施。 ボストン美術館が提供する資料に対して、中野三敏、ロバート・キャンベルらの日本チームと、Yukio Lippit らハーバード大学チームが共同で、ボストン美術館との協議を経て、書名・著者・刊写年など書誌データなどを集積しつつ、ボストン美術館から世界に向けて発信される WEB 掲載和本書誌データの最大化を推進した。その結果、MFA 所蔵和本のほぼ全点約 7000 点以上、3万冊以上におよぶ調査が幸いにも終了した。本プロジェクト着手する前には、約 3000 点程度だと推定されていたが、William Sturgis Bigelow、Edward・Sylvester Morse、Ernest・Francisco Fenollosa ・岡倉覚三(天心)などの先人等が情熱を傾けて蒐集した和本数はその 2 倍以上であり、MFA 所蔵の絵本・画譜数は世界一であると判明した。 この研究会を契機として、韓国・台湾・中国・ヨーロッパ 8 ヶ国、アメリカ・カナダなどの専門家との情報ネットワークが構築できた。今後ともに、このネットワークを活用して、九州大学が当該情報の研究拠点となり、各国の和本所在情報を蒐集し、同時に関連する研究発信を続けたい。 また優秀な次世代日本学研究者および和本書誌スペシャリスト養成のために、ボストン美術館調査期間中に和本リテラシー・セミナーなどを実施し、今後現地の研究者によるボストン美術館書誌調査が可能となるように調査に共同で従事しつつ、その育成に努めた。その結果、国内11 機関と海外11機関の計22機関間の在外和本所在情報ネットワークが形成された。このネットワークを活用して、九州大学が当該情報の研究拠点となり、各国の和本所在情報を収集し、同時に関連する研究発信を続けたい。
著者
栗原 聡 菅原 俊治
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

局所的な情報に基づいて自律的に動作する多数のエージェントにて構成されるマルチエージェントシステムを構築する際に,システムをボトムアップに構成する手法と,トップダウンに構築する手法とを融合させる方法の創出を目的とし,両者を競合させて動的平衡状態とする方法を提案した.そして,次世代知的交通制御システムを題材として,渋滞状況予測手法と信号機制御手法を提案し,両手法を効果的な融合を実現させることに成功した
著者
吉村 あき子
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究では、自然言語の肯定極性文脈と否定極性文脈がどのような関係にあり、母語話者がそれらをどのように認知・認識しているかに関して、そのメカニズムの解明を試みた。本研究の出発点はvan der Wouden(1997)である。彼は、オランダ語の否定文脈は、弱い方からmonotone decreasing(MD),antiadditive(AA),antimorphic(AM)というブール特性で定義できる3つの階層をなしており、これは他の言語にも適用できると主張する。この分析の他の言語へ適用可能性を検証することによって引き出された結果は、次のようにまとめられる。(a)英語母語話者は、否定文脈の認識に関して、上記3特性ではなく、本研究で定義した二重否定(DN)特性に敏感に反応する。(b)英語の否定極性項目(NPI)は、最も弱いMD否定文脈にまで現れるNPIが多く弱いNPIの方に大きく片寄っている。(c)日本語母語話者は、否定文脈の認識に関して、AM特性とDN特性に敏感に反応する。(d)日本語のNPIは、最も強いAM否定文脈にのみ現れるNPIとDN特性が成立する否定文脈に現れるNPIまでが観察され、それより弱い否定環境には観察されないという意味で強いNPIに大きく片寄っている。(e)日本語には、オランダと語同じく、肯定極性項目と否定極性項目の両方の特性を併せ持つ両極項目、即ち、monotone increasingの肯定文と最も強いAM否定文脈には現れないが、その中間に位置するMD文脈とAA文脈にのみ現れる「一滴でも」のような両極項目、が存在する。このように、極性とは、否定と肯定を両極としてその中間値を許す段階的に移行するスケールであり、何を否定環境と認識するかという外枠は共通だとしても、その中の強さの違いを認識する仕方は、どの言語の話者であるかによって異なっていることが、本研究によって明らかになった。
著者
渡辺 康行
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

リベラリズムを基礎とする憲法学にとって中核的をなす思考は「国家の倫理的中立性」である。本研究は、「国家の宗教的中立性」や「国家の信条的中立性」という原則が、裁判においてどのように作用しているかを、日本とドイツを素材として考察した。その結果、こうした客観的原則が法解釈の場面で働く場面は限定的にとどまること、そのことを踏まえてまずは主観的権利論で論じていくほうが適切な場合が多いということを論じた。
著者
志賀 幹郎 竹田 ゆう子 史 杰 所澤 潤 李 明玉 田中 亜子
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

韓国、中国、台湾で実地調査を行い、報告書にそれぞれ論文、調査報告として公表した。韓国に関しては、英語教育の早期化に関連する英語村についての調査報告、および日本語教育の実態についてのインタビュー記事を掲載した。中国に関しては、中国東北部朝鮮族自治区における外国語教育動向を詳しく紹介した。台湾に関しては、現地語教育の実際を収集資料を駆使して明らかにすることができた。いずれも、実地調査による最新の情報をもとに論じたもので、外国語教育が国・地域の実情と複雑に関連し合う状況の一端を示せたと考える。また、国内外の研究協力者の寄稿を報告書に多数収載することができた。研究協力者は、本研究のテーマに関心を寄せ、様々に意見交換や情報提供を行ってくれた。寄稿原稿には、韓国における初等英語教員養成の問題を扱った論文、韓国の日本語教科書の内容分析を行った論文、日本の英語教育改革動向の概論、日本のバイリンガル英語校に関する論考、日本の小学校における外国語教育実践の報告等があり、本研究のテーマを様々に掘り下げている。報告書以外に、本研究の成果は平成18年度に「海外の外国語教育(韓国の場合)」(日本語教育学会主催研修会)(志賀)の題で公表したほか、同年度に「韓国の英語教育早期化動向-初等学校第1学年からの英語必修化計画」(志賀)、「中国における外国語教育の政治過程-建国初期から文革期のコリアンチャイニーズを中心に-」(李)の二編の雑誌論文としても公表した。本研究により、各国・地域の英語教育早期化の現状は、国際的動向の一様な現れというよりは、それぞれの国・地域の固有性の中でよく理解されるという了解が得られたと考える。また、英語教育および第二外国語教育の早期化の大きな課題は、言語教育の公共性をいかにして確保するかであり、各国・地域の取り組みは、そのための奮闘の軌跡として興味深いものであることが分かった。
著者
大沼 保昭 MALKSOO Lauri
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

日本が国際社会に参加を開始した当時のロシアの国際法的及び外交的な基本的立場の定式化を行った、私と同国人であるエストニア生まれの国際法学者のフリードリッヒ・マルテンス(1845-1909>への関心から私の研究は始まった。日本滞在中、マルテンスの対象とした19世紀後半のロシアの国際法的外交的立場の単なる記述から、ヨーロッパ中心主義的国際法の受容態度の日露両国の比較考察という新たな視角を獲得することができた。この結果、「18世紀より20世紀にいたるロシアの国際法学史」に関する研究の草稿を完成させることができた。結論的には日露両国のヨーロッパ中心主義的な国際法秩序への参加には、従来考えられてきた以上に類似性と相違性がともに存在することが判明した。まず両国はヨーロッパ中心主義的国際法理論のコピーに努めたが、これは同時に西欧に対する自国の周辺性を両国がともに受諾したことを意味する。しかし第一次大戦後(及びロシアでは社会主義革命後)、西欧列強の偽善の一つに過ぎないとして、両国の国際法理論は従来の国際法の普遍性主張に対して懐疑的な方向へと向かっていった。ところが1945年以降、敗戦国日本は普遍主義的、西欧中心的な主流的立場に回帰したが、主要戦勝国であったロシアは1991年のソ連邦崩壊まで反西欧的国際法理論を採用してきた。だが今日では、異なる文明は異なる国際法観を有するので、国際法に関して文際的(文明間の対話の)観点が不可欠である旨主張する大沼保昭教授と類似の主張を行う論者がロシアにおいても存在するに至っている。共産主義イデオロギーが敗退した今日のロシアは、今後、1917年以前の西欧中心主義的な主流的国際法思考に回帰するのか、それとも「人権」等の西欧的概念に対抗しつつ独自の文明観に立つアプローチを展開するのかが最大の問題であるといえる。
著者
肥前 洋一 船木 由喜彦 河野 勝 谷口 尚子 境家 史郎 荒井 紀一郎 上條 良夫 神作 憲司 加藤 淳子 井手 弘子
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

領域全体の主題である実験社会科学の確立に向け、政治学分野の実験研究を発展させた。具体的には、実験室実験・fMRI実験・調査実験を実施して「民主主義政治はいかにして機能することが可能か」という課題に取り組むとともに、政治学における実験的手法の有用性を検討する論文・図書の出版および報告会の開催を行った。
著者
大本 久美子 鈴木 真由子 タン ミッシェル
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

公正で持続可能な社会の形成者としての「消費者市民」を育成するために、リーガルリテラシーを育むことが重要であるという認識のもと、本研究では、リーガルリテラシーを育む消費者市民教育のカリキュラム開発を行い、教員養成のための大学授業シラバスと教材を提案した。海外の先駆的な取組の視察調査などから課題を把握し、子どもの発達段階に合わせた教育課題を明確にした。コンシューマー・リーガルリテラシーの道徳的要素を『配慮、思いやりによって自らの行動に責任を持つ』と『道徳、倫理、社会的正義の判断によって意思決定し、社会の一員として協働し社会参画できる』こととし、それらを育むことができる授業内容と教材を開発した。
著者
鈴木 正朝 高木 浩光
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

特定個人の識別情報(PII)該当性は、情報プライバシー規制で最も中心概念の1つである。個人データ保護法の範囲はPIIに該当するかどうかによって決定される。さらに情報科学は多くの状況では、非PIIであっても特定個人を識別し得ることがあることを示す。PIIは特定個人の識別情報と特定個人の識別可能情報に区分できるが、その区分の有用性を再検討し、新たにPIIを再構成していかなければならない。この理論を検討する一つの素材としてIDに着目し、PIIの従前の考え方が新たな問題にどう対応できるか、立法的検討を行い提案した。
著者
高井 昌吏 谷本 奈穂 石田 あゆう 坂田 謙司 福間 良明 村瀬 敬子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ポピュラー・カルチャーのなかで形成される戦争の表象を、ジェンダーの視点から考察した。たとえば、男らしい戦争イメージの形成では、『男たちの大和』『連合艦隊』などの映画、さらに「大和ミュージアム」や知覧という観光、あるいはプラモデルなどが大きく絡んでいる。女らしさやこどもらしさについては、むしろ『ガラスのうさぎ』『火垂るの墓』などの児童書・アニメの影響が大きい。こうした点を考慮し、それぞれの戦争(沖縄戦、原爆、空襲など)が社会的に受容されるうえで主に寄与したポピュラー・カルチャーに着目し、それらを横断しながら構築される戦争イメージについて分析した。
著者
高橋 達也 藤盛 啓成
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、マーシャル諸島で1993年から調査して独自に設定した5821人のコホートの10年間における甲状腺がん、乳がん、肺がん及び白血病の罹患と放射線被曝との関連(放射線被曝線量-がん罹患反応関係)を明らかにすることである。現在まで、現地保健関係者らの協力でNuclear Claim Tribunal(NCT:がん登録)と病院記録でコホート構成員の甲状腺がん、乳がん、肺がん、及び白血病罹患状況の調査を継続している。NCTはマーシャル諸島の被曝者が放射線被曝の影響によると推定される病気になったときの医療費や補償金を支払うための機関で、米国とマーシャル政府の条約に基づいて設置されている。主ながん34種類が登録・補償対象になるのでほぼすべてのがん症例を把握している。また、登録・補償の権利はマーシャル住民が国外に移住しても失わないので多くの住民が国外から登録している。また、がんで死亡した場合は遺族が代理で登録し補償を受ける。マーシャル諸島には2つの国立病院、すなわち、マジュロ及びイーバイ国立病院がある。この病院は同国で唯一のがんなどを診断治療する施設である。これらのファイルから、がん症例をコホートの構成員かどうか確認している。現在までにコホートに甲状腺がん76例、乳がん17例、肺がん29例、白血病12例が発生したことが確認された。さらに、がん罹患の情報を継続的に収集する。コホート構成員のうち93年に6人、94年に32人、95年に72人が死亡している。さらに、死亡等によるコホートからの脱落数を現在調査中である。