著者
宋 相載
出版者
広島工業大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、見込生産と受注生産の両生産形態の下で、市場の多様化なニーズに迅速にかつ経済的に対処することを狙いとし、製品の形状、寸法、製造方法などの類似性に基づくグループ生産と労働者の希望労働時間を重視したフレキシブル労働時間制の下で、生産と販売の両部門の裁量労働制を導入し、労働の成果を評価し応分の報酬を与えることによって、企業の収益増大と労働者への高い報酬を実現する最適なインセンティブ設計問題について定式化し理論解析を行なった。企業の高収益性と労働者の満足度を同時達成させるインセンティブ機構の設計に当り、本研究ではプリンシパル・エイジェンシー理論を用いて、生産能力増大に励む生産部門での努力と潜在的な市場需要の開拓をに励む販売部門での需要量拡大努力の相乗効果が生みだす生産実績を労働者の努力水準に応じて成果配分ルールを最適に決める。詳細には、生産現場における完全情報を有する各セル内の労働者は、生産準備のための段取りやセル内の運搬時間の短縮、残業時間の設定、希望労働時間の延長などによる生産可能時間の増大に権限と裁量性を与え、生産量増大のために励む。また、販売部門の労働者は、独自の類似製品を専門的な製品知識や顧客情報に基づいて製品需要品の拡大に励む。その結果としてもたらされる成果は、生産量増大のために投入した努力水準と不確実的な環境要素によって事前に決められた最適な成果配分ルールに従って、企業と生産・販売部門の両労働者の三者に配分される。これによって、多様な価値観をもった優秀な人材は生産システムと融合化され、長期間安定した職場を与えることができると共に、企業は状況変化にフレキシブルかつ経済的に適応しつつ適正利益を確保できる競争優位を占める人間主体のフレキシブルな生産システムの枠組が解明された。
著者
八代 充史 早見 均 佐野 陽子 内藤 恵 守島 基博 清家 篤 石田 英夫 樋口 美雄 金子 晃 八代 充史 早見 均 宮本 安美
出版者
慶応義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

これまで労働市場では、労働者の保護を目的にして様々な規制がなされてきた。こうした規制は、労働市場における労働者の交渉力を高め、彼らの基本的人権を守るという重要な役割を果たしてきた。しかし、労働市場における需給バランスの変化や、労働者の所得水準の向上によって、こうした規制の中で時代にそぐわなくなったものが多々見られることも事実である。従って戦後労働法制の基本枠組みが構築されて50年を経た今日、労働市場の規制緩和について議論することは重要であると言えるだろう。しかし労働市場の規制緩和は、民営職業紹介や人材派遣業など職業安定行政に係わるもの、裁量労働制や雇用契約期間の弾力化、女性保護規定の緩和など労働基準行政に係わるもの、さらには企業内労働市場の人事管理や労使関係に係わるものまで多岐に渡っている。この研究では、こうした幅広い問題領域の中で主に労働基準法関係に焦点を絞って検討を行った。ただし報告書の第2章では、労働市場の規制緩和に関する問題領域全体を鳥瞰している。我々は、労働市場の規制緩和について各界の有識者を講師に招いてヒアリングを実施し、文献の収集・検討を行った。それに基づいて企業に対する郵送質問紙調査や企業の訪問調査を実施した。郵送質問紙調査では、労働基準法の規制緩和が企業のビジネスチャンスや雇用機会とどの様に関連するかという点を明らかにすることに努めた。
著者
中村 圭介 石田 浩 佐藤 博樹 仁田 道夫 石田 光男 本田 由紀
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

1.ホワイトカラーの業績管理の方法には三種類ある。第一の方法は売上高、利益率・高、費用など経営指標を部、課レベルに分割し、その達成状況を定期的にモニターし、進捗の遅れを発見した場合にその原因を探り、対策を講ずるというものである。第二の方法は経験的に割り出された目標値(たとえば開発にかかる時間等)を実績値と常に比較し、乖離が発見された場合にその原因を探り、対策を講じるというものである。第三の方法は、スタッフ部門などでみられるが、具体的な数字目標なしに定性的目標(定性的な年度計画など)の達成状況を定期的にモニターするというもので、もっとも緩やかな方法である。これらの方法で部門の成果を定期的に測定し、計画の遅れや乖離を発見し、対策を考案、実施している。これが部門別業績管理の仕組みと実際である。いわゆる成果主義的人事管理は、こうした部門別業績管理のありようを前提として設計され、目標達成に責任を負える立場にいる者(課長以上の管理職)を対象にしている場合にのみ、順調に機能する。もっとも、部門別業績管理の仕組みがきちんと出来上がっていれば、それと別の論理によって人事管理制度をつくりあげることは可能であり、私たちの事例でもそうしたケースはみられた。2.成果主義的人事管理はホワイトカラー個々人を評価することにつながり、これに呼応するように自らのキャリアを自らが開拓するホワイトカラーも増えつつある。社会人大学院は彼らにとって貴重なステップをなす。社会人大学院修了者の半数以上が外部労働市場への志向をもち、定着志向の者であっても企業内でのキャリア展開に大学院教育の経験が反映されていることを認めている。3.今後、本を2冊程度、刊行する予定である。
著者
坂井 素思 馬場 康彦 色川 卓男 影山 摩子弥 永井 暁子 濱本 知寿香
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

この研究の目的は、「生活政策学」という研究分野の可能性について、基礎的かつ応用的な模索を行うことにある。現代社会の変動は、少子高齢化やサービス経済化などを通じて、政府・市場・家計などの経済領域に対して、かなり強い影響を及ぼしてきている。たとえば、労働や社会組織のフレキシビリティ問題は、典型例である。あるいは、少子高齢社会の中での柔軟な「仕事と家庭」との社会的な調整の問題などが起こってきている。このため、今日の生活領域では、政府が行う公共政策、企業や家庭が行う経営・運営なとが「ミックスした状況」のもとで政策が立てられてきている。このような状況のなかで、これらの社会変動のもたらす弊害に対して、総合的な視点が求められている。このような変動する社会の不確実な状況に対して、一方では市場経済のなかで個人がそれぞれ能力を高めて、これに対処することが求められ、他方で個人では対処が困難なときには、公共政策が企てられてきている。実際には、このような二つの領域が接するところで、はじめてこれらの行動原理が調整される必要があり、ここに生活政策学が求められる可能性がある。基礎的な研究作業では、「生活政策」とは何かについての理論的な研究の展望が行われた。従来、「政策」とは政府が中心として私的分野へ介入を行うような公式的な施策が基本的なものであった。けれども、今日では政府以外の組織によって行われるインフォーマルな施策にも、「政策」と同等の位置づけが行われるようになってきている。このような状況のなかで、これらの複合的な政策に関する整合的な理論が求められている。「生活政策学」に関する応用的な研究を行う段階では、それまで行ってきた基礎的な研究、その性質についておおよその見通しが得られたので、これらの成果を基にして、公共領域と市場領域、市場領域と家計領域、さらに家計領域と公共領域などに見られる中間的な組織や経済制度を対象に選んで、「事例研究」を進めてきている。このなかで、国や地方公共団体のIT政策の生活政策的意味についての検討を試みた研究、または、成果主義や裁量労働制などが導入されている現代における労働生活過程のシステム転換について考察を行った研究、あるいは、生活領域における「ケア」のあり方のなかに、社会の中間的な組織化の原理があると考え、このようなケア組織化の特性についての研究、さらには、平成不況の特質について、現代日本の家計構造を調べることで明らかにしている研究などの成果が上がってきている。
著者
田中 幸子 香取 洋子 酒井 一博 追木 さやか
出版者
山形大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

看護系大学教員が健康な状態で就労を継続し, キャリア形成を可能にする働き方を検討する目的で, 看護系大学教員の就労状況を職業性ストレスに注目して分析した。質問紙調査票配布の協力が得られた看護系大学99 校の教員1653 名に自記式質問紙調査を実施した。664 名から回収, 女性543 名を分析対象とした。職業性ストレスを従属変数にKruskal Wallis 検定を行った結果, 助手と助教は教授より, 博士課程在学中の者は大学院に在学していない者より, 職場の対人関係でのストレス得点が有意に高かった。助手や助教のストレスに配慮して職場における良好な職場の人間関係を構築していくこと, 進学している教員に対して支援策を検討することの重要性が示唆された。
著者
土屋 俊
出版者
独立行政法人大学改革支援・学位授与機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

20世紀末から近年にかけて学術、高等教育の分野において生じている「知識のオープン化」の動向について、その進展の現状を調査し、認識論・知識論における理論の観点および学術・高等教育にかかわる社会的体制の変容という観点とから考察し、その動向とその帰趨を明らかにした。とくに、哲学的観点から重要であると思われる「知識」に関する概念の変化を予想し、同時に、学術的活動の局面(ソフトウェア、学術論文、研究データ、研究活動)ごとにおけるオープン化の意義づけの相違を明らかにした。
著者
尾畑 佑樹
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

ヒトの消化管粘膜は、およそ100兆個の腸内細菌に曝されている。腸内細菌は宿主の消化酵素では分解できない食物繊維などを微生物発酵により分解し、終末代謝産物として様々な低分子化合物を産生する。これら代謝物は、宿主細胞の栄養源として利用されている他、免疫系調節因子として機能している。しかしながら、腸内代謝物が免疫系を修飾する分子メカニズムは不明であった。本研究課題の目的は、腸内細菌が粘膜バリア機能の維持に重要なイムノグロブリンA(IgA)産生B細胞を誘導するメカニズムを解明することである。無菌マウスに通常のマウス由来の腸内細菌を定着させたマウスの解析から、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸の一つである「酪酸」が大腸のIgA産生B細胞の誘導を促すことが分かった。そこで、酪酸によるIgA誘導作用機序を明らかにするため、未熟B細胞をIgA誘導条件下で培養し、酪酸添加によるIgA陽性細胞割合の変化を調べた。その結果、酪酸を添加してもIgA産生細胞の割合に変化は見られなかった。これより、酪酸はB細胞以外の腸管内細胞に作用し、間接的にIgA誘導を促す可能性が示唆された。そこで、生体内における酪酸の作用を調べるため、酪酸を含む餌をマウスに一定期間与え、大腸の免疫学的表現型を解析した。その結果、酪酸は大腸の腸上皮細胞におけるTGFβの発現および樹状細胞におけるレチノイン酸(RA)合成酵素の活性(ALDH活性)を高めた。TGFβおよびRAは、IgA誘導に必須の因子であることから、酪酸はこれら因子の発現を高めることで、間接的にIgA産生細胞を増やす可能性が示唆された。現在、本現象の分子メカニズムの解析を行うとともに、本研究成果の論文化に向けた準備を進めている。
著者
家中 茂 興梠 克久 鎌田 磨人 佐藤 宣子 松村 和則 笠松 浩樹 藤本 仰一 田村 隆雄
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

中山間地域の新たな生業として自伐型林業をとりあげた。技術研修や山林確保など自治体の支援を得ながら新規参入している地域起こし協力隊の事例や旧来の自伐林業者が共同組織化しつつ地域の担い手となっている事例など、産業としての林業とはちがう価値創造的な活動がみられた。典型的な自伐林家の山林における植物群落調査では、自然の分布を反映した地形に応じた分布がみられ、自然を活かす森林管理の手法として注目された。
著者
長坂 一郎
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ブルバキの数学的構造主義とヒルベルトの形式主義からの影響を軸としてパタン・ランゲージに至るアレグザンダーの初期理論の全体像を明らかにした.具体的には『システムを生成するシステム』(1967)に挙げられている「システム」に関する二つの概念,「全体としてのシステム」と「生成システム」が,それぞれブルバキの数学的構造主義における「構造」とヒルベルトの形式主義における「形式システム」に対応し,特に後者に関しては,「生成プロセス」が形式システムにおける証明プロセスをモデルにして構築されていることを示した.さらに,アレグザンダーの初期理論の全体構成は,統語論と意味論の分離をその特徴として持つヒルベルトの形式主義の中に位置づけることが可能であり,「構造」はその枠組みの中で意味論を与える役割を担っていることを明らかにした.
著者
津富 宏
出版者
静岡県立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

割れ窓理論によると、町のわすかな「秩序の乱れ(例えは、落書きや放置された建物なと)」が地域住民の不安・無力感を喚起し、地域に対する働きかけが減少することで、より重大な犯罪を引き起こすとされる。本研究は、静岡県のある2地域において、割れ窓理論に基づく介入(清掃およびパトロール活動)を各地域4ヶ月弱ずつ時期をずらして実施し、その効果を比較した日本で初めての分析である。研究最終年度の本年度は、これまでの研究で得たデータの分析を行った。主な分析内容と結果は以下の通りである。1.各地域への介入の効果をオッズ比により検討した。分析結果から、(1)全刑法犯に対しては介入の効果は無いかあるいは逆効果がありえる、(2)屋内刑法犯に対しては介入の効果がありえる、(3)屋外刑法犯に対しては介入の効果が無いかあるいは逆効果がありえることが明らかになった。ただし、この分析は、統計的有意性検定ではない。2.次に、犯罪件数の増減が、介入の有無によるものかどうかとの有意性検定を行うため、ログリニア分析を行った。複数のモデルを分析したが、いずれの分析においても、地域のもともとの犯罪発生水準あるいは時期的な変動による有意な影響しか認められず、介入の有無による有意差は認められなかった。現段階での分析結果から、割れ窓理論に基づく介入(ゴミ拾いや落書き消しなど)は犯罪を有意に減少させるには至らないという知見が得られた。つまり、直接的な犯罪抑止効果は無かった。今後は、間接的な効果に焦点を当ててさらに分析を進めることが課題となる。
著者
横須賀 誠
出版者
日本獣医生命科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

キンカチョウの鼻腔と嗅上皮の形態学的特性を解析した。また、行動観察でこのトリの餌好選性の有無、ニオイによる嫌悪学習試験の可能性を解析した。その結果、(a)他のスズメ目と同様に左右独立した1対の嗅神経束が存在し嗅球は左右区別のない単一嗅球であることが確認された。さらに (b)鼻腔の構造は単純である、(c)鼻腔の最後部に嗅上皮が存在する、(d)嗅上皮は嗅細胞、支持細胞、基底細胞で構成されている、(e)線毛と微絨毛を共存する嗅細胞が存在する、などを確認した。(f) ニオイ情報による嫌悪学習試験の成立は確認出来なかった。本研究によって、キンカチョウの嗅覚系の形態学的基盤を明らかにすることが出来た。
著者
生田 和良 小野 悦郎
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

ボルナ病ウイルス(BDV)は神径細胞親和性のマイナス鎖、一本鎖のRNAウイルスで、これまでに少なくとも6遺伝子が同定されている。感染細胞には、p40(ヌクレオプロテイン)とp24(リン酸化蛋白)が主要ウイルス蛋白として検出されるが、ウイルス粒子にはp40蛋白が主要で、p24蛋白はほとんど倹出されない。BDVは、ウマに脳炎症状を引き起こすウイルスとして分離された。ヒトにおいては、精神疾患患者とBDV感染との関連性が指摘されている。私たちはこれまでに、パーキンソン病(PD)患者の剖検脳(黒質領域)において、BDV感染が高率(9例中6例)に認められることを初めて見いだした。また、陽性であった6例中の4例において、新生仔スナネズミ脳内へのBDV伝播が可能であった。本研究では、PD病態におけるBDVの関与の可能性を検討した。BDVを脳内接種した新生仔スナネズミにおいて、接種BDVの感染価依存的にBDV脳内伝播が激しく、歩行異常等の症状後、死亡するまでの時間も速く経過した。接種したBDVの感染価にかかわらず、脳幹部でBDVが検出できる時期にほぼ一致して神経症状が観察された。このBDV接種スナネズミでは、抗p40抗体はほとんど検出されずに抗p24抗体が検出された。さらに、p24遺伝子をGFAP、ヒトセロトニン受容体遺伝子プロモーターの下流に導入することにより、脳内でp24蛋白を発現するトランスジェニックマウスを作出したところ、一部の系統で神経症状(首振りや歩様異常など)が認められ、BDV発現が海馬や小脳において認められた。以上、脳内の特定部位へのBDV持続感染が成立し、p24が発現することが神経症状出現へと導く可能性が示唆された。
著者
生田 和良 朝長 啓造 小野 悦郎
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

最近の研究によりボルナ病ウイルス(BDV)がヒトの脳内に感染していることが明らかとなった。私たちは、パーキンソン病患者の剖検脳にBDVの遺伝子が高率に検出されることを報告してきた。そこで本研究では、パーキンソン病の発症とBDV感染との関連性について検討を行うことを目的として、パーキンソン病のモデル動物の確立に向けたBDVの中枢神経病原性の解明に向けた研究を行った。BDV p24蛋白質はBDVの主要抗原であり、BDVの中枢神経病原性に深く関与していると考えられている。そこで、p24蛋白質を脳内のみに発現するトランスジェニックマウス(p24-Tg)数系統を作出し、その表現型ならびに脳内におけるp24蛋白質の発現について解析を行った。その結果、線条体を含む領域にp24蛋白質を発現した数匹のp24-Tgマウスにおいて、後肢麻痺などの神経症状が観察された。また、Tgマウスは脳内栄養因子(BDNF)の発現低下が認められ、神経症状との相関性が示唆された。さらに、p24蛋白質が神経細胞の機能に与える影響を探るため、p24蛋白質と結合する宿主側因子の同定を行い、p24蛋白質が神経細胞細胞の生存維持に関与していると考えられている神経突起伸張因子(amphoterin)と特異的に結合することを明らかにした。今回の解析により、脳内におけるBDV p24蛋白質の発現が、脳内栄養因子の発現ならびに神経細胞の生存維持に影響を与えている可能性が示唆された。このことは、BDVの感染がドーパミン産生ニューロン変性の促進要因のひとつとなっている可能性も示している。今後さらに、p24蛋白質の神経細胞死への関与を詳細に解析する必要があると考えられる。
著者
戸祭 由美夫 平井 松午 平川 一臣 木村 圭司 増井 正哉 土平 博 澤柿 教伸 小野寺 淳 財城 真寿美 澤柿 教伸 宮崎 良美
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

幕末の蝦夷地には、ロシア帝国をはじめとする列強の進出に備えるため、幕府の箱館奉行所をはじめ、東北諸藩による陣屋・囲郭が軍事施設として沿岸各地に建設された。本研究は、そのような軍事施設を研究対象として、歴史地理学・地図学・地形学・気候学・建築学の研究者が共同研究チームを組んで、古地図・空中写真・数値地図・気象観測資料といった多様な資料や現地調査によって、とりわけ蝦夷地南西部に主たる焦点を当てて、それら軍事施設と周辺部の景観を3次元画像の形で復原した。
著者
中村 ふくみ 赤尾 信明
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

多彩な臨床像を呈するトキソカラ症について、臨床的特徴の解析とその病態に関連する因子について検討の検討を試みた。しかし感染源となる牛レバーの生食が禁止された影響か、症例の登録はわずか1例に留まった。一方でトキソカラ症類似の慢性好酸球性肺炎の患者を診断し、新たな鑑別疾患の存在が明らかとなった。また従来使用していたToxocaraCHEKが製造中止となり、同等あるいはそれ以上の感度と特異性を持つ診断キットの開発が必要となった。新たにToxocaraICAを試作し、ToxocaraCHEKと同等の感度を有していることを確認した。
著者
小林 英城
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

マリアナ海溝チャレンジャー海淵に生息するカイコウオオソコエビは新規セルラーゼを保持するが、生物多様性に関する条約の成立により、工学利用が困難となった。そこで伊豆小笠原海溝を調査した結果、底部に生息するヨコエビも同様のセルラーゼを保持することがわかった。伊豆小笠原海溝から採取したヨコエビより全RNAを抽出し、次世代シーケンサーにて塩基配列を決定した。その塩基配列よりセルラーゼの配列を検索した結果、7本の候補を見出した。しかし、同配列をcDNAからPCR増幅を試みたが成功に至らず、情報学的な交雑が予想された。
著者
林 淑美 大塚 博 内藤 由直 中川 成美 兵頭 かおり
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、中野重治の肉筆原稿、書簡、日記などの調査と研究である。加えて、最近困難な状況にある文学館との協力の社会的意義の追求も目的である。近代文学研究において肉筆原稿等第一次資料の調査はきわめて大切であるが、調査の対象となる原物は適切に整理・保存・収集されねばならず、そのための作業は研究者の重要な任務である。中野重治の第一次資料を所蔵しているのは石川近代文学館、神奈川近代文学館、中野重治文庫記念坂井市丸岡図書館、日本近代文学館である。これら文学館との協力によって、本研究の肉筆原稿・書簡の整理と調査、戦後日記の翻字とデータ化等が実現した。
著者
三宅 和子 岡本 能里子 村松 賢一 永瀬 治郎
出版者
東洋大学短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

アトランタ五輪の女子マラソンテレビ放送は視聴者の批判を浴びたが批判の的はアナウンサー(以下「アナ」)と解説者(以下「解説」)の言語行動に集中していた。本研究はこの批判が日本の言語社会構成員の規範や期待感を反映しているものと考え、どのような要因が視聴者の不快感を招いたかを究明する。女子テレビ放送の特徴を明確するため、比較として同マラソンのラジオ放送、男子マラソンのテレビ放送を使用し、数量的、質的研究の二つのアプローチで分析を行った。数量的研究ではこの放送のビデオを視聴した被験者(185名)にアンケート調査を行い、アナ・解説に対しての総合評価を目的変数、評価の要因と考えられる要素を説明変数とする重回帰分析を行った。その結果、評価の要因としてアナと解説に共通して「相手とのコンビネーション」と「声の特徴」、そのほかアナでは「説明内容の適切性」「緊張度」「説明の自然さ」「気になる表現の有無」など、解説では「解説としてのわきまえ」「態度」などが抽出された。質的研究では、女子マラソンをラジオ、テレビの放送の音声面で比較したところ、ラジオのアナ・トークがきわめて定型的なスポーツ放送独特のリズムパタンを実現し、解説がそれに合わせるいわゆる「餅つき」形であるのに対し、テレビはアナと解説のリズムが不定型で、あいづちの欠如やずれでリズムが作り上げられていない。また、女子のテレビ、ラジオ放送、男子テレビ放送の談話を比較すると、女子テレビ放送はアナ・解説に相づちがほとんどなく種類も少ない、発話が長く、話者交替時にインターアクションが3層構造をなさない、対話型話段から実況形話段の移行時に解説に対するアナのフォローがない、解説の発話権が自己主張的で、アナの使うべき談話標識を使う、などの現象が見られた。このように女子テレビではアナと解説の役割分担が欠如し、対話型インターアクションが放棄されているが、数量的研究の結果も支持するように、このことが視聴者の不快感と特に関連が深く、翻ればそこが日本の言語社会のスポーツ放送に望まれる談話を示唆しているといえよう。