著者
坂元 章 桂 瑠以 木村 文香 田島 祥 松尾 由美
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

シャイネスの高さと初対面での行動の関係を調査した結果、顕在的にシャイな人は初対面でのスキルが不足していたり、あがったり落ち着かなくなったりするなどの反応がみられ、それにより質問をしたり会話を広げたりするような能動的な行動がみられないというプロセスがあることが示された。これを踏まえ、初対面場面での円滑なコミュニケーションを促進するスキルとしてSNS上での事前情報収集に着目し、その効果を実験によって検討した。分析の結果、対面前に相手の作成したブログを閲覧し、対面時の会話をシミュレーションしてみることで、初対面場面における緊張や過敏さ、自信のなさといったシャイネスの側面が改善されることが示された。
著者
岡本 源太
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、ジョルダーノ・ブルーノの「世界の複数性」の思想を調和も照応もなき多様性の哲学として読み解き、多様なものの共生という現代的課題に新たな視座を提起することを目的に、(1)ブルーノ『しるしのしるし』(1583)に見られる世界の複数性の存在論的基盤・倫理的含意、(2)世界の複数性の概念史におけるルネサンス・近世の音楽論の重要性、(3)ルネサンス哲学から近世自由思想に継承された自然主義的循環史観の重要性、を解明した。
著者
石山 洋 佐藤 達策 片桐 一男 板倉 聖宣 中山 茂 吉田 忠 酒井 シヅ 菅原 国香 中村 邦光
出版者
東海大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1991

南蛮文化導入期から顧みると,直接日本へ渡来した文物や学術よりも訪中したイエズス会士の著書を輸入して学んだ西洋科学技術の影響のほうが日本の文明に与えたものは大きかった。中国語訳された書物は、日本の最高に知的レベルの高い人びとが学びやすかったからである。江戸時代の前期はその消化に費やされた。とくにマテオ・リッチの業績が大きな影響を与えている。第2期として,蘭学興隆期がくる。ここでは,オランダ語の原書を日本人が直接読み,訳した。その訳語には,中国語訳の先例を探し,できるだけ,それを採用する努力がなされた。新訳語を造ることには消極的であった。しかし導入された知識は科学革命以後のもので,イエスズ会士がもたらしたルネサンス時代の訳語だけでは対應できず,止むを得ず新訳語の造語もおこなわれた。その過程を追ってみると,始めは音訳で入れ,次ぎに義訳へ訳し直す傾向が見られる。また直訳を志向しつつ,既存の義訳の蓄積も活用する傾向も指摘されている。別に留意されるべきことは,アヘン戦争後,中国へ進出した英米のミッションの新教宣教師による中国文の西洋知識普及書の存在である。これを利用した清朝知識の著作も含め,わが国へ紹介され,19世紀の西欧科学技術導入に影響を与えた。明治に入って,外来学術用語は多方面に滲透し,乱立した。情報流通の必要上,とくに教育上,訳語の標準化が求められてきた。政府直接ではないが,学協会を通じて,権威側で進められた。1880年代から開始された数学部門の例もあるが,訳語の統一が活発化するのは20世紀以後である。そこには先例となる中国語訳への依存は見られず、むしろ中国人の日本留学者などの手で,日本語訳が中国語訳の中に定着したりしている。各種の事例で例証することができた。
著者
斎藤 成也 伊藤 元己 田村 浩一郎 今西 規
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は,遺伝子系統樹と種系統樹のデータベースを試作することである。3年のあいだに,以下のものについて,すべての系統樹の図の入力を行った。斎藤が担当したのはMolecular Phylogenetics and Evolutionは1992年(第1巻)〜1997年(第8巻),Molecu1cu Biology and Evolutionは1983年(第1巻)〜1998年(第15巻),Journa1 of Molecular Evolutionは1993年(第36巻)〜1998年(第46巻),田村が担当したのは遺伝学雑誌/Genes and Genetic Systemsが1981年(第56巻)〜1997年(第72巻),Geneticsが1980年(第95巻)〜1997年(第146巻),Zoological Scienceが1984年(第1巻)〜1997年(第14巻),今西が担当したのはNatreが1991年(第349巻)〜1995年(第376巻),Scienceが1991年(第254巻)〜1995年(第267巻),PNASが1991年(第88巻)〜1995年(第92巻),伊藤が担当したしたのはAmerican Journal of Botanyが1988年(第75巻)〜1997年(第84巻),Evolutionが1990年(第44巻)〜19956年(第50巻),Systematic Botanyが1990年(第15巻)〜1995年(第20巻)である。この系統樹データベース"Jung1e"は斎藤が本科研費で購入したワークステーションに移して集中管理しており,WWWですでに公開している(URL=http://smi1er.1ab.nig.ac.jp/jung1e/ungle.htme)。著者名,諭文名,図の題名などのテキストを検索する子システムを現在準備中である。CDROMでも配布する予定である。
著者
金山 萬里子 金山 弥平
出版者
大阪医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

近世哲学の発展に多大の影響を与えたセクストス・エンペイリコス(紀元200年頃)の著作に認められるピュロン派懐疑哲学は、それまでの懐疑主義的議論、なかんずく前3世紀に懐疑主義に転換したアカデメイア派の諸議論を取り入れつつ、ギリシア認識論を集大成し、哲学の全領域を反省的に振り返るものであった。本研究では、セクストス著作におけるピュロン派、アカデメイア派の諸議論を通して、古代懐疑主義の特徴を明らかにし、現代認識論への新たな視点を提供しよう試みた。
著者
根ヶ山 徹 尾崎 千佳
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

山口大学総合図書館・人文学部・経済学部東亜経済研究所が所蔵する和古書と漢籍について,各部局の前身校である明倫館・山口明倫館・越氏塾・山口高等商業学校・山口高等学校から継承したもの,昭和24年5月に新制大学として発足して以降,徳山毛利棲息堂・庶民史料・若月紫蘭・赤松智城・四熊宗直・浅山良輔など聚書家の寄贈により収庫に帰したもの,その他,先覚の尽力によって意欲的に蓄積されたものを全面的に調査し,『山口大学所蔵和漢古典籍分類目録』を完成させた。
著者
野口 昌邦
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

乳癌の発生率や死亡率は、欧米と日本では大きく異なっており、その原因の一つとして脂肪摂取の違いが上げられる。すなわち、前者ではn-6系の多価不飽和脂肪酸(主にリノール酸)、後者ではn-3系の多価不飽和脂肪酸(主にEPAあるいはDHA)を多く摂取することが知られている。実験的にもリノール酸は乳癌の発生、増殖、転移に促進的に働き、EPAあるいはDHAはそれらに抑制的に働くことが知られている。そのため、乳癌の多い欧米のみならず、増加しつつある日本でも、EPAあるいはDHAは乳癌の予防および治療の点から注目を浴びている。そこで、In vivoおよびIn vitroの研究でリノール酸、EPAおよびDHAの作用機序について研究し、次の結果を得た。(1)リノール酸は、マウスに移植したホルモン非依存性乳癌(MM48)の増殖および転移を促進し、EPAおよびDHAはそれらを抑制した。(2)リノール酸は、In vitroでヒト乳癌細胞(MDA-MB-231)のProstagland in EやLeukotriene Bの分泌、および細胞増殖を促進した。しかし、EPAおよびDHAはそれらを抑制し、EPAの抑制はn-3/n-6比が1:0.69、DHAのそれはn-3/n-6比が1:2.08以上で認められ、更にそれらの抑制は培地中のLeukotriene BよりもProstaglandin Eの濃度と相関することが明かとなった。(3)リノール酸は、In vitroでヒト乳癌細胞(MDA-MB-231およびMCF-7)の増殖を促進し、更にMCF-7乳癌細胞ではc-mycの発現を促進することが明かとなった。以上、リノール酸、EPAおよびDHAの乳癌に対する作用機序はアラキドン酸代謝産物やc-mycなど癌遺伝子が関与していることが示唆されたが、依然、不明な点が多い。しかし、EPAあるいはDHAは乳癌の予防および治療において重要な役割を果たすと思われる。
著者
山本 経之
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

3-panel runway装置ならびに2-または3-lever operant装置を用いて、短期記憶における大脳辺縁系諸核の機能局在性を脳の局所破壊ならびに脳内微量注入法を用いて明らかにした。1)嗅球摘出によって3-panel runway taskでの参照記憶ならびに作業記憶は共に著しく障害された。また3-lever operant装置を用いての遅延見本合わせ課題(DMTS)および2-lever operant装置を用いての逆転学習は共に障害された。2)背側海馬(DH)破壊によって作業記憶及びDMTSは著しく障害されたが参照記憶には影響なかった。またmuscarinic antagonistスコポラミン、nicotinic antagonistメカミラミン、BZD/GABA_A agonistムシモールおよびクロルジアゼポキサイド、5-HT_<1A> agonist 8-OH DPAT、NMDA antagonist CGS 19755およびCPP、NO合成阻害剤L-NAMEのDH内微量注入によって、作業記憶は障害された。DH破壊による記憶障害はcholinesterase阻害剤フィゾスチグミンおよびテトラヒドロアミノアクリジン(THA)によって改善された。3)乳頭体(MB)破壊によって作業記憶・参照記憶は共に障害されたが、DMTSや逆転学習には影響なかった。一方、視床背内側核(DMT)破壊によってDMTSだけが著しく障害された。MBまたはDMT破壊によって惹起される記憶障害はTHAによって改善されなかった。4)扁桃体基底外側部(BLA)破壊によって作業記憶は著しく障害されたが、参照記憶は変化なかった。この障害は扁桃体皮質腹側部破壊では認められなかった。スコポラミンおよびCPPのBLA内微量注入により、参照記憶には影響なかったが作業記憶は障害された。5)大脳基底部破壊により作業記憶・参照記憶及びDMTSは著しく障害された。また逆転学習も障害された。このように脳の局所破壊によって、破壊部位に依存した特徴的な記憶障害が惹起された。これらの成果は脳における記憶の機能的局在性を理解する上において有用な糸口を与えてくれた。
著者
林田 敏子
出版者
摂南大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

第一次世界大戦期のイギリスでは「カーキ・フィーバー」と呼ばれる制服熱が高まり、多くの女性が制服を着用する職業に殺到した。女性による制服の着用は、愛国心を表明する手段として社会の一定の理解を得る一方、男と女の境界を侵犯する行為として危険視された。本研究では、イギリス初の女性警察組織(Women Police Service:WPS)の制服をめぐっておこなわれた裁判を通して、大戦期におけるジェンダーとセクシュアリティの問題について考察した。裁きの主たる対象となったWPSの指導者M・アレンにとって、制服は旧来のジェンダー秩序を打ち破り、男性の領域に進出する道具であると同時に、自らの性的アイデンティティ(レズビアニズム)を表現する手段でもあった。本研究では、当時のイギリスで、レズビアニズムという概念がまだ流布していなかった事実に注目し、性科学の分野で女性同士のホモセクシュアル行為がどのようにとらえられていたのか分析するとともに、そうした概念が知的フィールドを越えて社会に広まった契機・背景・過程について考察した。制服裁判は、アレンのセクシュアリティを「暴露」することによって、レズビアニズムが概念化されるきっかけをつくるとともに、男性だけでなく女性のあいだにもホモセクシュアルの関係が成り立つとする点で「性的平等化」の契機にもなりうるものだった。第一次世界大戦は「レズビアニズムの発見」というもっとも極端なかたちで、女性のセクシュアリティに関する規範を破壊し、従来のジェンダー秩序に大きな修正を迫ったのである。以上の成果をもとに、研究会で口頭発表(於「越境する歴史学」2007年11月11日)をおこなった上で、論文「制服の時代-第一次世界大戦期イギリスにおけるジェンダーとセクシュアリティ-」を執筆し、『西洋史学』(日本西洋史学会)に投稿(2008年2月)した。
著者
伊藤 毅志
出版者
電気通信大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

将棋を題材にして、人間のエキスパートの学習過程について研究してきた。学習支援の形として、将棋の感想戦に注目した。感想戦とは、対局が終了した後、対局者同士が一局の将棋を振り返りて、反省点を述べ合う一種の協調学習過程である。研究では、様々な棋力の被験者を用意して、実際に感想戦を行って貰い、その過程をビデオで録画して、どのような学習が行われているのか分析した。また、エキスパートの高い問題解決能力のメカニズムを調べるためにトッププロ棋士の認知的過程をアイカメラや発話プロトコル分析を用いて考察する研究を進めてきた。その成果は、論文や研究会報告・海外の国際会議発表を通して、報告してきた。その結果、感想戦では、一局の対局を直感的な言葉で表現する能力と、その対局中でどこが悪かったのかを反省し教訓帰納として反芻する過程が重要であることが明らかになってきた。そこで、まず始めに、一局の対局を言葉で説明するためのコンピュータシステムの構築を目指した。将棋の棋譜データをもとに、一局の将棋について将棋用語を用いて表現することが可能なシステムの構築を行い、研究会報告などでその成果を報告した。そして、さらにそのシステムを用い、学習者に対局を行わせた後、一局の将棋を振り返らせて、反芻させる機能を持たせた学習支援システムの構築を目指している。14年度の終了が近づいているが、現在、そのシステムの構築に一通りの目処が立ったところで、これから、具体的に被験者を用いて、このシステムを使わせて、学習支援システムとしての有効性の検証に入っていく予定である。
著者
中村 裕之 荻野 景規 長瀬 博文 吉田 雅美
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

低レベルマイクロ波の全身暴露によってもたらされる内分泌免疫系への影響を脳内神経伝達物質との関連において解明することを目的に、マイクロ波(周波数2,450MHz、強度2mW/cm^2、90分間)暴露による脾臓細胞中ナチュラルキラー細胞活性(NKCA)、血中の諸指標と下垂体と胎盤のβ一エンドルフィン(βEP)の変化を妊娠ラットあるいは処女ラットにおいて検討した。このレベルのマイクロ波は、処女ラット、妊娠ラットでそれぞれ、0.8と0.9°Cの温度上昇をもたらしたが、血中コルチコステロンへの有意な変化は引き起こさなかった。処女ラットでは認められなかったが、妊娠ラットのマイクロ波暴露群のNKCAは非暴露群に比べ有意に減少した。オピオイド受容体拮抗剤であるnaloxoneの前処置では、妊娠期におけるマイクロ波によって低下したNKCAと、上昇したPRL、低下した視床下部medianeminenceのCRHをreverseした。一方、CRH受容体拮抗剤であるα-helicalCRHのicv投与によっても同じく、マイクロ波暴露によって上昇した血中プロラクチン(PRL)と下垂体βEPと、減少したNKCAをreverseした。これらの結果から、妊娠中のマイクロ波暴露による免疫機能低下には、マイクロ波暴露に際して視床下部CRH神経系と、視床下部あるいは下垂体のオピオイド神経系が刺激され、その結果、下垂体PRLが活性化されるという中枢性機序が考えられた。その際のマイクロ波による生体影響は、マイク口波の温熱作用と非温熱作用の両作用によると考えられた。
著者
河内 敦
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

われわれが先に開発した[o-(フルオロジメチルシリル)フェニル]リチウムとジクロロゲルミレン・ジオキサン錯体との反応により, ゲルマニウム上にo-(フルオロジメチルシリル)フェニル基を二つ有するベンゾシラゲルマシクロブテン1が生成した。化合物1にテトラヒドロピラン中, [2. 2. 2]クリプタンド存在下でフッ化カリウムを作用させると, フッ化物イオンがケイ素原子上を攻撃することでゲルマニウムーケイ素結合の切断が起こり, ゲルミルポタシウム2が選択的に生成した。X線結晶構造解析の結果, 2は求核部位であるゲルミルアニオンの周りを求電子部位であるフルオロシラン三つが取り囲むという特異な構造を有していることが明らかとなった。このように求核部位と求電子部位とが接近していながら, 反応せずに安定に存在していることは驚くべきことであり, 求核性・求電子性の本質を明らかにする上で重要な知見といえる。さらに, 2にBF_3・Et_2Oを作用させると今度は分子内求核置換反応が促進され, ベンゾシラゲルマシクロブテン1が再生した。これは, ホウ素原子の空のp軌道とフッ素原子の非共有電子対とが相互作用することで, σ*(Si-F)軌道のエネルギーレベルが低下し, ケイ素原子上が求核置換反応を受けやすくなったためと説明できる。以上のようにわれわれは, 14族元素間結合の切断-再結合を制御することにより, ベンゾシラゲルマシクロブテン環を可逆的に開環-閉環させることに成功した。このような14族元素間結合の可逆的な切断-再結合反応は過去に類を見ないものである。
著者
齋藤 芳子
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

先行文献を踏まえた上で、複数の理工系研究室の参与観察およびインタビューを実施し、研究室における活動・生活を通じて学生が発達する様子を確認するとともに、指導教員が重視していること・配慮していることや、それらを学生がどのように受け止めているかなどについても知見を得た。これらの知見を、他の教育学研究者と議論したり、別の研究室を率いる指導教員等に意見を求めたりする中で、さらに精査した。得られた知見は、『シリーズ大学の教授法5 研究指導』(玉川大学出版部、2018)における15章のうちの5章にまとめ、上梓した。
著者
杉山 昌史
出版者
近畿大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究においては、マウス糸球体腎炎としてウシ血清アルブミン(以下BSA)による血清病腎炎を用いた。8週齢の雌IL-18R KO S129/B6マウスと、同じく8週齢の雌S129/B6マウスに、BSAを投与して血清病腎炎を作製し比較検討を行った。投与方法は前感作として、BSA 0.2mgを完全アジュバンドと混合し、マウス皮下に2週ごとに4回投与し、その後抗原として、BSA1.0mg/日をマウス腹腔内に連日4週間投与した。投与前、前感作中、抗原投与中は2週間ごとに検尿を実施し、蛋白尿定量を行った。投与終了後、屠殺し腎臓を摘出して、パラフィン包埋によるPAS染色標本と凍結切片を作製し、検鏡により糸球体病変、尿細管病変の評価を行い、蛋白尿の所見とともに腎炎の評価に用いた。評価についてはいずれも病理標本よりスコア化した。すなわち、糸球体病変については、正常糸球体の0点から、硝子化や半月体形成を来している高度糸球体病変の3点までの4段階で評価し、尿細管病変については、障害尿細管の割合よりスコア化を行った。マウス生存率はいずれも100%であった。BSA投与終了時の蛋白尿は、正常対照マウスにおいては10匹中4匹が3+、6匹が2+であったのに対して、IL-18R KOでは10匹とも1+であった。糸球体病変については正常対照マウスにおける平均スコアは、3.52であり、IL-18R KOにおいては0.85であった。尿細管病変については、正常対照マウスにおける障害尿細管の割合は、45.7%であり、IL-18R KOにおいては7.5%であった。また、凍結切片における糸球体免疫グロブリンの沈着も同様にスコア化したところ、正常対照マウスの平均1.8に対し、IL-18R KOでは平均0.9と抑制されていた(0〜3点)。これらのことから1L-18の抑制はマウス糸球体腎炎の進展を抑制することが示唆された。
著者
河名 俊男
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

1771 年に宮古・八重山諸島に襲来した明和津波の各島での最高遡上高は、宮古島で約10m、多良間島で約15m、石垣島で約30mと推測される。各島の津波石の年代測定から、明和津波以前の津波として、西暦1667 年、西暦1500 年、約500 年前、約1000 年前、および約2400 年前の時期が推定される。1951 年のルース台風と2007 年の台風4 号の高波による岩塊の打ち上げと移動を確認した。沖縄島周辺島の古宇利島の海岸地形から、海食崖の後退規模を推定した。
著者
浦野 茂 水川 喜文 中村 和生
出版者
三重県立看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、発達障害者(とりわけ広汎性発達障害の小学生高学年の児童)の療育場面の相互行為の構造を、社会生活技能訓練(SST)を事例としながら、エスノメソドロジー・会話分析の手法によって解明することである。この結果、次が明らかになった。 (1)療育場面は、 児童の積極的参加を不可欠な資源とした相互行為として構成されている。(2)療育場面の相互行為の中心的部分は、参加者の行為上の問題を積極的に可視的にする技術と、それによって可視化された問題に対して参加者が療育者とともに修復していく実践から、成り立っている。(3)療育場面は、一方で児童の積極的な参加に依拠しながらも、他方でその行為を問題の顕れと修復の実行という観点のもとで療育者によって受け止められていくという、強い制約をもつ。したがって今後の課題は、こうした制約から自由な、発達障害者への支援実践について検討することとなる。
著者
餘利野 直人
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では,(1)電力システムの構造変化と信頼性の低下,(2)電圧・無効電力制御の潜在能力の評価法が存在しないこと、(3)競争環境下における電圧・無効電力制御の計画法や調達法の不備、という現状に対して解を与えることを目的として研究を遂行した。研究成果は以下のようにまとめられる。想定故障に対して無効電力制御機器の制御動作を組み込んだシステム状態遷移モデルを構築し、多数の想定故障に対して指定した信頼度レベルを実現する設備計画手法を開発した。ここでは大停電を回避する最終手段は負荷遮断であることに着目し、想定故障毎に負荷遮断量および負荷遮断コストを算出し、指定した想定故障に対して供給信頼度を維持するための設備投資および制御実施を含めた全体コスト(年間コスト換算値)を最小化している。無効電力は平常時の送電損失の低減、想定故障に対する信頼性維持、送電可能容量の増加などに寄与するので、上記計画法に基づいて、無効電力価値の算出法を検討した結果、上記の無効電力の効用は、等価な有効電力の価値に置き換えることで、無効電力の実質的な価値として提示できることを示した。さらに無効電力供給の市場調達法に関して、英国の長期契約を前提とした入札方式をモデルとして、改良型市場調達モデルの検討も行った。本研究のアプローチは、従来にない大規模かつ非線形な混合整数計画問題として定式化されているため、計算のロバスト性や計算時間の観点から種々の検討を行い、計算アルゴリズムの効率化を図っている。また、上記の研究に関連して、無効電力機器を含めた制御器のロバストな設計法、停電事故の波及に甚大な影響を及ぼしたモーリレー不必要動作を回避するための効果的な系統制御法、自然エネルギー電源や分散電源を含む系統経済性・信頼性評価法、電力系統効率運用および監視技術についても成果が得られた。
著者
松田 毅 中山 康雄 加藤 雅人 長坂 一郎 茶谷 直人
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

我が国の哲学会においてはいぜん十分には認知されていない「メレオロジーとオントロジー」の主題群に関して、古代から現代を貫く概念と問題の連関・発展についての見通しを得た。また、「部分と全体」の問題と関わりの深い哲学者たちに焦点を定めた、これまで未開拓であった哲学史的分析とそれを基盤にした諸問題に関する現代的探究により、特に生命や心の存在論的探求への「部分と全体」の観点からのアプローチの有効性と可能性とが示された。
著者
山下 俊一 FOFANOVA O ASTAKHOVA LN DIMETCHIK EP 柴田 義貞 星 正治 難波 裕幸 伊東 正博 KOTOVA AL ASHATAKNOVA エルエヌ DEMETCHIK EP ASHTAKNOVA L DEMETCHIK E.
出版者
長崎大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

旧ソ連邦の崩壊後、1994年から3年間ベラル-シを中心に学術共同研究「小児甲状腺がん特別調査」を行ってきた。すでに関係機関や保健省、ミンスク医科大学、ゴメリ医科大学、ゴメリ診断センターとは良好な協力関係を構築し、放射能高汚染地区の小児検診活動が軌道に乗っている。昨年出版したNagasaki Symposium; Radiation and Human Health(Elsevier,1996)ではベラル-シ以外ウクライナ、ロシア、カザフ等の旧ソ連邦の放射線被曝者の実態を明らかにしてきた。1994年〜1995年の一期目はベラル-シ、ゴメリ州を中心に小児甲状腺検診プログラムの疫学調査の基盤整備を行い、共通の診断基準、統一されたプロトコールを作成し甲状腺疾患の確定診断を行った。特にエコー下吸引針生検(FNAB)を現地に導入し、細胞診を確立することで最終診断の上手術の適応を判定可能となった。更にゴメリ州で発見された小児甲状腺がん患者がミンスク甲状腺がんセンターで手術されることから、連携をとり、組織診断の確認や患者の追跡調査を行った(Thyroid 5; 153-154,1995,Thyroid 5; 365-368,1995,Int.J.Cancer 65; 29-33,1996)。チェルノブイリ周辺では慢性ヨード不足のため地方性甲状腺腫の診断の為、尿中ヨードの測定装置を開発し、現地での測定に役立て一定の成果を得た。すなわちヨード不足と甲状腺腫大の関係を明らかにした(Clin Chem 414; 581-585,1995)。一方、ヒト甲状腺発癌の分子機構や病態生理の解明のためには種々の基礎実験を行い、甲状腺癌組織におけるPTHrPの異常発現と悪性憎悪の関連性を明らかにした(J Pathol 175; 227-236,1995)。特に放射線誘発甲状腺癌の研究では細胞内情報伝達系の特徴から、細胞周期停止とアポトーシスの解離現象を解析した(Cancer Res 55; 2075-2080,1995)。その他TSH受容体の遺伝子異常(J Endocrinol Invest 18; 283-296,1995)、RET遺伝子異常(Endocrine J 42; 245-250,1995)などについても解析を行った。1995年〜1996年の二期目はベラル-シの小児甲状腺癌の激増がチェルノブイリの原発事故によるとする各国際機関発表を基本に被曝線量の再評価を試みた。しかし、ベラル-シの多くのデータは当時のソ連邦特にモスクワ放射線生物研究所を中心に測定、管理されており、窓口交渉やデータの共有化等で未解決の問題を残している。更にチェルノブイリ原発事故の対応はセミパラチンスクにおける467回の核実験の対策マニュアルに基づいて行われたことが明らかとなり、カザフを訪問し健康被害の実態調査(1958-1990年)について検討を加えた。一方、甲状腺癌の基礎研究においてはいくつかの新知見が得られている。1996年-1997年の三年目は、チェルノブイリ原発事故後激増する小児甲状腺がんの細胞診活動を継続し、30,000人の小児検診のうち60名近いがんを発見した。同時にほかの甲状腺疾患の診断が可能であった(Acta Cytol in press 1997)。チェルノブイリ以外に旧ソ連邦では467回の核実験を行ったセミパラチンスクが注目されるが、更に全土で100回以上の平和利用目的の原爆資料が判明した。甲状腺癌細胞を用いた基礎実験ではp53遺伝子の機能解析を温度感受性変異p53ベクター導入株を用いて行った。その結果、放射線照射における細胞周期停止とアポトーシスの解離現象にp53以外の因子が関与することが判明した。更にDNA二重鎖切断の再修復にp53が重要な役割を担っていることが明らかにされret再配列との関連性等が示唆された(Oncogene in press 1997)。TSH受容体遺伝子や脱感作の研究も進展している。しかしながら、放射線誘発甲状腺含発症の分子機構は未だ十分解明されておらず更なる研究が必要である。貴重なチェルノブイリ原発事故周辺の小児甲状腺がん組織の散逸やデータの損失を未然に防ぐためにも国際協調の下、Chernobyl Thyroid Tissue BankやPatient Network Systemなどの体制づくりも必要である。
著者
加藤 久典
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

食品を摂取した動物がどのような応答を示すかを、多数の分子を網羅的に解析するオミクス解析という手法で解析した。遺伝子発現量、タンパク質量、代謝物量など、様々な網羅的解析を組み合わせた。この方向の研究を推進するためのデータベースや解析ツールを改良し、その有効性を実証した。食品のみならず、運動や日内リズムなど関係する生活習慣の影響も合わせて解析することに成功した。