著者
小林 喜平 郡司 敦子 村上 洋 矢ざき 貴啓 佐藤 正喜 桑原 克久
出版者
日本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

高齢者の咀嚼機能は一般的に歯の喪失に伴い低下する。ことに無歯顎者で著しく,総義歯の状況により十分な回復ができず,結果的に食物摂取,栄養確保が困難になる。咀嚼機能レベルに応じて適切な食物摂取が容易かつ確実に行なえるよう噛み易さを考慮し,食物の硬さを調整して栄養バランスの採れた一連の献立を提供し,それを利用しながら個人へ行なう食事指導は健康管理面からも効果的である。そこで可及的に同一食品を用いて普通食,刻み食,五分粥食,三分粥食,ミキサ-食へと展開させた一連の献立群に栄養学的検討を加え,総義歯患者の食事指導に役立つ展開食の開発を試みたところ以下のような結果を得た。1.60歳代前半の高齢者を対象とした展開食に超軟性食の三部粥食を追加検討したところ,(1)各献立とも各栄養素充足率は満たされ.(2)ビタミン類は調理損失をみこしており過剰傾向であり.(3)蛋白質の確保に1700kcal,70gを設定したので一般成人の理想値より多く.また豆・豆製品は各展開食に多く,三部粥食では芋類と砂糖が多い傾向であった。2.高齢者の嗜好の多い和食タイプに,食事選択範囲を広げる目的で洋食タイプを加えて比較検討したところ,(1)各栄養素充足率では,和食タイプ,洋食タイプとも同様の傾向であり,(2)食品群別充足率では,それぞれ異なる傾向がみられ,食品の選択に工夫を要すること,ならびに類似タイプの献立を連続摂取を避けることが示唆された。3.展開食の臨床応用の前準備として,65歳代,70歳代,80歳代を考慮し栄養摂取の観点から展開食構成を調整する際の問題点を検討するため,特別栄養護施設入所者を対象に5日間の昼食の喫食率としてグループ別残菜調査を検討したところ,(1)残菜率は15%から20%の範囲にあり,(2)献立により傾向は異なり,嗜好,盛りや味付け,固さや量,個人の全身状況,咀喝状況などの影響が示唆された。
著者
佐塚 隆志 春日 重光
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

種子高糖性のSugary Feteritaと種子低糖性の那系MS-3Bの雑種F2集団の分離比を調べた結果、種子高糖性は劣性の1遺伝子による支配であると予想された。ラフマッピングの結果、原因遺伝子は第7染色体長腕に座乗していることが示唆された。この候補領域にはスイートコーンの種子高糖性の原因遺伝子であり、デンプン合成系酵素をコードするSU1のオルソログ(SbSU1)が確認された。 SbSU1の塩基配列を両親品種で調べた結果、SbSU1では2ヶ所で1アミノ酸置換を引き起こす多型が見出され、他の植物のSU1との比較からSugary Feteritaのアリルが変異型と考えられた。Sugary Feteritaの原品種Feterita(種子低糖性)では、種子での貯蔵デンプン合成が盛んな開花後11日頃にSbSU1の高発現が確認された。これらのことから、Sugary Feteritaではこの変異によって種子でのデンプン合成に障害が生じ、糖が蓄積する可能性が示唆された。
著者
野村 哲郎 祝前 博明
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

自然選択は、生物の適応的進化を説明する上で中心的な役割を果たしてきた。しかしながら、野外で実際に自然選択が働いたことを示す実例は極めて少ない。本研究では、ナミテントウの鞘翅斑紋多型における地理的勾配ならびにその年代変化を全国規模で調べ、環境変化とくに気候の温暖化との関係について調査した。本州、四国および九州のほとんどの採集地において、過去60年の間に黒化型(二紋型、四紋型、斑型)の遺伝子頻度が上昇し、非黒化型(紅型)の遺伝子頻度が低下していた。遺伝子頻度に見られた変化は、採集地に近接した気象測候所における繁殖季節の気温の上昇と呼応する傾向を示した。これらの結果は、自然選択による小進化の一例になり得るものと考えられた。
著者
久保田 賢一 久保田 真弓 岸 磨貴子 今野 貴之 山本 良太 関本 春菜 鳥井 新太 井上 彩子 上館 美緒里 (山口 美緒里)
出版者
関西大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、高等教育におけるグローバル人材を育成する学習環境をデザインするための要件を明らかにすることである。事例としてグローバルなフィールドで働く卒業生を多く輩出するX大学を取り上げ、卒業生に対する調査から現在とつながる学習環境について抽出した。結果、①大学入学前の学生個々の経験とグローバルなフィールドで働くことの接続、②本当にやりたいことの問い直しの機会、③意思を後押しする他者関係、④グローバルなフィールドで働くための領域設定と能力形成の機会、が学習環境として重要であることが示唆された。
著者
岡ノ谷 一夫
出版者
千葉大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

南米ペール産の齧歯類デグーは、昼行性で両親と子供、それに血縁のない「いそうろう」を交えた「拡張家族」を作って生活する。デグーは昼行性で、視覚聴覚あわせもった次元でコミュニケーションしていると考えられる。デグーは最低でも10種の発声信号を有し、尾でさまざまな形をつくり感情を表現すると言われている。私たちはこの動物がほ乳類における視聴覚統合を研究するためにふさわしいモデルではないかと考え、研究の可能性を探ることにした。まず、個々のデグーについて発声行動をオペラントとして餌を得る行動を条件づけしようとした。この条件付けはデグーにとっては難しいものであったようで、訓練完了まで2ヶ月を要した。しかしこの実験の最中で、私たちはきわめて興味深い現象を発見した。条件づけ訓練が続いている間に限って、デグーが自発的に入れ子構造を構成したのである。デグーは飼育施設内の砂浴び容器を基底となるカップとして用い、その中に餌入れを入れ、さらに餌入れの中に遊具である鞠を入れた。この行動は、2つがいのデグー双方が、また、それぞれの雌雄が独立に、また共同して行っていた。入れ子づくり行動を自発するのは、霊長類でもヒトのみである。チンパンジーではこの行動を訓練により引き出すことが出来るが、自発することはない。鳥類では、ヨウムにおいてこの行動が自発し、さらに自発した時期が2語文を発した時期に一致したとされている。デグーにおいても、発声の可塑性を引き出すような訓練と、階層構造を作ろうとした行動とが偶然同時期に観察されたことは興味深い。
著者
入來 篤史 岡ノ谷 一夫 熊澤 紀子
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

「好奇心」とは、新たな経験を求める行動傾向を表出するための内発的な動機付けの要素とされ、ヒトの創造性発現の重要な基盤になっていると考えられる。本研究は、熊手状の道具使用を習得する能力があることが予備実験により確認されている、齧歯類デグー(Degu; Octodon degu)を新モデル動物として用いて、高次認知機能研究の新たな座標軸たる「好奇心」という視点に切り込み、齧歯類ではこれまで類例の無い道具使用学習が、この動物に特徴的に発現する「好奇心」に由来するとの仮説に基づいて、道具使用を触発する脳内機構を神経科学的メカニズムの解明することを目的としてきた。昨年度は、齧歯類デグーが前肢による熊手状の道具使用を習得する能力のあることを確認し、新モデル動物として確立することやその訓練過程の軌跡の定量化に成功した。さらに、デグーが道具の機能を理解していることを示唆するデータと共にまとめた論文が、本年度PLoS ONE誌に掲載されることになった。さらに、本年度はこのモデルを用いて道具使用行動習得に伴うニューロン新生の変化について組織学的に検討したところ、海馬歯状回の新生ニューロン数が道具使用訓練群で増加しているという結果が得られている。また、大脳皮質についても検討を行ったところ、他のげっ歯類ではほとんど見られない幼弱ニューロンの存在を大脳皮質前頭野で確認しており、その細胞とニューロン新生との関連性について詳細に検討を進めている。
著者
川崎 了 廣吉 直樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

土や岩の代表的なセメント物質の1つである炭酸カルシウムを主成分とし, 自然の土の中に生息する微生物の代謝活動を利用した環境に優しく新しい遺構, 遺物, 石造文化財などの保存材料(強化材料, 接着剤, 補填材料など)を作製した。また, 作製した保存材料を使用した土の力学・水理学特性およびその使用前後における微生物の菌数と帰属分類群について調査し, 新たに作製した保存材料の有効性について評価を実施した。その結果, 保存材料として有効であるとの見通しが大略得られた。
著者
小鹿 一
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

オニヒトデから発見したステロイド配糖体acanthasteroside B3は、PC12細胞の神経様突起伸長作用およびマウス記憶改善効果を示す。したがって神経変性疾患の治療薬への応用が期待できるため、未解決であった(1)分子標的や作用機構、(2)安定供給、という2つの重要な課題に取り組んだ。1.作用機構の解析: acanthasteroside B3は、神経成長因子(NGF)によるMAPキナーゼ(ERK, p38)の活性化を増強するが、NGF受容体の活性化は増強せず、標的が不明であった。そこで、MAPキナーゼ上流の既知の分子(Ras, NGF受容体TrkAなど)の活性化の有無をウェスタンブロット法により調べた。その結果、極微量のNGF共存下で、acanthasteroside B3はNGFによるTrkAの微弱な活性化(リン酸化)を増強していることがわかった。そこで、NGFを事前に培地中でインキュベートした後にPC12細胞に投与したところ、インキュベート時間に応じてNGFの突起伸長効果が低下し、acanthasteroside B3により回復した。したがって、acanthasteroside B3のNGF増強作用は、NGFの安定化が一要因と考えられた。2.活性類縁体の合成と記憶改善効果の確認: オニヒトデからのステロイド配糖体の供給は、材料入手の不安定性、危険性、煩雑な精製作業など困難が伴う。そこで応用化を視野に、構造活性相関に則した単純化類縁体の合成を行った。従来合成した類縁体はNGF増強活性を示したが難水溶性のため動物実験を断念していた。そこで、PC12細胞に対する突起伸長活性と高い水溶性を兼ね備えた数種の類縁体を安価なエルゴステロールから合成した。合成類縁体は天然acanthasteroside B3の活性の約50%の活性を示したが、残念ながら水溶性は低かった。今後はステロイド核の水酸基の数をさらに増加させた類縁体の合成を目指す。
著者
小平 久正
出版者
北里大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

H. pyloriは、菌体側の定着因子と宿主側の受容体との結合性を介して胃粘膜ゲル層および表層粘膜に定着している。その受容体の多くは糖蛋白や糖脂質であることが知られている。本研究の目的は薬物により影響を受けた胃粘液糖鎖構造の変化が、H. pyloriの結合に影響を及ぼすか否かを検討することである。1.胃粘液糖鎖構造をレクチン組織化学およびELISA法を用いて胃粘液ゲル層、表層粘膜、深層粘膜に分類した。H. pylori受容体糖鎖構造の一部として取られるシアル酸は粘液ゲル層において、フコースは粘液ゲル層および胃粘膜表層において観察された(日本薬学会第116年会発表予定、投稿準備中)。2.胃粘膜直接刺激性のあるアスピリンあるいはカプサイシン経口投与で胃粘液分泌性が増加し、表層粘膜におけるシアロムチンの増加と胃粘液ゲル層におけるシアル酸の増加を認めた(アメリカ消化器病学会発表予定)。3.上記薬物処置により得られた胃粘液を精製し、H. pylori分画抗原を固相化したELISAプレート(HM-CAP)に対する結合性を検討した。アスピリン処置により得られた粘液ゲル層ムチンは正常マウスに比べてHM-CAPに対する高い結合性が認められた。以上のことから、H. pylori受容体に関与する糖鎖は胃粘液ゲル層および粘膜表層において認められ、これら糖鎖との結合性にアスピリンが影響する可能性が示唆された。
著者
桂 紹隆 吉田 哲 片岡 啓 志賀 浄邦 護山 真也 能仁 正顕
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

平成28年5月28日・29日に龍谷大学において国際ワークショップ「Bhaviveka and Satyadvaya」を開催した。京都大学の出口康夫教授の基調講演"Bhaviveka on Negation from a Contemporary Viewpoint"のあと、米国のDavid Eckel, Mark Siderits教授、中国の葉少勇、何歓歓、李生海博士、日本の一郷正道、斎藤明教授他8名、合計15名の研究発表が行われた。Eckel, Siderits, 一郷教授の発表は「インド学チベット学研究」第20号に既に掲載されている。李博士の研究は、Journal of Indian Philosophyに掲載される予定である。近年斎藤教授を中心に進められているBhaviveka(清弁)研究の国際ワークショップを引き継ぐものであり、上記の研究成果は、ラトナーカラシャーンティの『般若波羅蜜多論』の内容理解、とくに対論者である中観派の学匠の見解を同定するの大いに貢献した。『般若波羅蜜多論』を読解するための定例研究会を引き続き行い、平成29年3月には全編を読了することができた。主として関係文献へのレファレンスからなる詳細な和訳研究は一応完成することができた。ただし、梵語原典の校訂者である羅鴻博士の来日が実現しなかったため、「和訳研究」の出版には、もう少し時間をかけることとした。平成29年3月には、タイのマヒドン大学で開催された「ジュニャーナシュリーミトラ研究会」に参加し、『般若波羅蜜多論』の梗概を紹介すると同時に、ハンブルク大学のIsaccson教授の「有相証明論」の読書会に参加し、ラトナーカラシャーンティの「無相論」の理解を深めることができた。
著者
廣瀬 丈洋
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

沈み込み帯で発生するスロー地震には、水が深く関与していると考えられている。しかし、スロー地震の物理的発生メカニズムはまだよくわかっていない。本研究では、間隙水圧比(静岩圧に対する水圧の割合)がスロー地震の発生と密接に関わっているという仮説を、地震発生域の熱水環境を再現した低~高速すべり摩擦実験によって検証したい。特に、「断層の摩擦特性が間隙水圧比の変動によってどのように変化するのか」ということを詳細に調べて、物質学的視点からスロー地震の発生機構の解明を目指す。平成29年度は、初年度に設置した回転式熱水摩擦試験のシール、載荷、昇温性能を確認するための予備試験を進めるとともに、粉末模擬断層試料をもちいて摩擦実験をおこなえるように試料ホルダーの改良と試料作製ツールの研究開発を行った。作成した試料ホルダーとスロー地震発生場に存在しうる物質を用いた予備実験は順調に進んでいるが、熱水条件下での実験を行うには労働安全衛生法に基づく第一種圧力容器の落成検査等の手続きが必要であり、最終年度前半に手続きを進める予定である。実際にスロー地震発生場でどの程度の異常間隙水圧が存在しているのかを調べて、その結果を実験条件に反映すべく、南海トラフ室戸沖のスロー地震発生場における間隙水圧を掘削時に観察された遷移的泥水フローの解析から推定することを試みた。その結果、室戸沖プレート境界直下で、静水圧より2~4 MPaほど大きな異常間隙水圧が推定された。この値は間隙水圧比に換算すると約0.4となる。今後この値を基準値として間隙水圧比を変化させて、水圧比と摩擦特性の相関関係を探る予定である。
著者
山崎 新太郎 田房 友典
出版者
北見工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では沿岸水域における地すべり地形の発見と,地形から考えられる地すべりと津波の関係を分析するために,過去の浅深測量成果から疑わしい地形を調査し,さらにその調査を効率的に進めるためのシステムの開発を行った.特に,低コストで運用可能な高解像度ソナーやサイドスキャンソナーを持ち,リアルタイム走査位置を遠隔で受信し,さらに遠隔操作によって水域を網羅的に調査する無人船システムの開発に成功した.これにより,水底地形と底質の効率的な調査が可能になった.筆者らは,その調査システムの全部または一部を利用して,国内5箇所の水域を調査し,沿岸水域で発生した地すべりの地形および地質構造を複数確認した.
著者
荒木 元朗 渡部 昌実 定平 卓也 植木 英雄
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

我々は既にヒト細胞では「腎機能を担う腎小体・尿細管の再生につながる腎組織幹細胞」を樹立している。今回腎組織幹細胞における病的ストレス制御機構の解明を目指す。病的ストレスには腎移植・急性腎不全における腎虚血再還流障害を選択した。腎虚血再灌流モデルとしては8-12週の雄性C57BL/6マウスを麻酔下に開腹し、腎動静脈を一括クランプする。電灯・heatpadを用いてマウスの腹腔内温度を32℃に保ち、35分後に腎動静脈を開放(unclamp)する。一方「我々が独自に開発した2つの新技術:「逆行性幹細胞誘導法」および「組織特異的幹細胞分離法」に基づき誘導・分離したマウスの「腎組織幹細胞」を樹立し、「腎虚血再灌流モデル」において上記のヒトまたはマウスの「腎組織幹細胞」を用いて、腎組織幹細胞の腎虚血再灌流モデルにおける腎臓再生能力を解析する。昨年度に引き続きヒトの正常人由来の腎組織幹細胞と人工多能性幹(iPS)細胞との発現遺伝子比較解析を網羅的に行い、腎の病的ストレス状態時に腎組織内で関与する既知の分子群について解析を行った。引き続き腎組織幹細胞における病的ストレスの制御機構の候補シグナリングの解析を続けている。
著者
冨家 直明 田山 淳 小川 豊太 村椿 智彦
出版者
北海道医療大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では成人の肥満に対する認知行動療法の効果をシステマティックレビューを用いて明らかにすることである。レビューのデータベースにはThe Cochrane Library、MEDLINE、PsycINFO、CINAHLが活用され、認知行動療法、リラクセーション法を用いて体重をアウトカムにした論文が調査の対象になった。メタアナリシスが実施され、11研究が対象になった。認知行動療法は有意に体重を減少させた。リラクセーション法に関しては十分な研究数が集まらなかった。認知行動療法は成人肥満の体重減少にともに効果的であるといえた。
著者
上野 健爾 山田 泰彦 齋藤 政彦 加藤 文元 神保 道夫 齋藤 秀司
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

上野はJ.Andersenとの共同研究で,曲線が退化する際のアーベル的共形場理論(bc系の理論)を構成した.この結果は,非アーベル的共形場理論からモジュラー函手を構成する際に,アーベル的共形場理論の分数ベキとのテンソル積を取ることが必要となり,点付き代数曲線のモジュライ空間の境界でのテンソル積の挙動を調べるために使われた.さらに,このモジュラー函手から構成される3次元多様体の不変量は,リー代数がsl(2,C)の時はReshetikhin-Turaevが構成した不変量と一致することがほぼ明らかになった.証明の詳細な詰めは次年度の研究で行う予定である.また,上野はアーベル的共形場理論を代数曲面の場合に拡張するための予備的な考察を行った.齋藤政彦はパンルヴェ方程式の初期値空間の研究を行い,初期値空間として登場する岡本・パンルヴェ対が逆にパンルヴェ方程式を決定することを,岡本・パンルヴェ対に変形理論を適用することによって示した.山田は多変数のパンルヴェ方程式を対称性の観点から研究した.また,神保は量子場の相関関数とq直交多項式との関連を考察した.また,齋藤秀司は非特異代数多様体のChow群に関するBloch-Beilinsonフィルター付けについて考察した.加藤はMumford曲線に関する研究を行い,Mumford曲線を被覆として持つ非アルキメデス的オービフォールドの特徴付けを与え,またモジュライ空間でのMumford曲線のなす軌跡の性質について新しい知見を得た.またMumfordによる擬射影平面の志村多様体としての具体的な構成を与えた.
著者
杉本 大三 井上 貴子 杉本 良男 杉本 星子 柳澤 悠 粟屋 利江 Anandhi Shanmugasundaram
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

インドにおける消費生活の変化を、食料や衣服などのモノの消費、宗教に関連する消費、タミル語雑誌広告などの面から多面的に検討してインドの消費市場の急激な拡大を実証するとともに、そこに表れた社会の構造的変化を浮き彫りにした。また、都市部貧困層の消費生活を分析し、低品質・低価格品への選好が強いことなどの特徴を明らかにしたうえで、そうした消費パターンが、多くの都市部貧困層の出身地である農村部のそれと共通していることを示し、都市・農村間の人的・物的循環がインドの消費市場のあり方を強く規定していること、このことが今後のインドの消費市場の発展を制約する要因となりうることなどを指摘した。
著者
三尾 稔 八木 祐子 小牧 幸代 中島 岳志
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

1990年代以降インドの各都市では、新しい型のヒンドゥー祭礼が姿を現し、急速に人気を集めるという現象が見られる。新しい都市型祭礼の特徴は以下の通りである。即ち、1.地縁や血縁などの伝統的な社会関係によらず自発的意思に基づく個別の参加を基本とすること。2.祭礼を挙行する主体と祭礼の観客となる大衆とが明確に分離していること。3.挙行主体と観衆の分離により、祭礼のパフォーマンス性が明確となっていること。都市型祭礼の流行現象は、経済の急速な発展、都市の新中間層の成長と消費社会化、ヒンドゥー・ナショナリズムの隆盛など、現代インドの政治・社会状況が密接に関連すると推測される。この調査では、経済発展による社会変化とヒンドゥー・ナショナリズムの台頭が著しいインド北部および西部の諸都市を対象に、新しい祭礼の広がりとその社会的・政治的背景を人類学的な観点から探求した。さらに、村落部やムスリム社会の動向をも調査し、都市のヒンドゥー中産階層との比較も行った。その結果、1.地方都市にまで消費社会化の傾向が顕著になっていること。2.どの都市のヒンドゥー祭礼にもイベント的な要素が新しく姿を現していること。3.祭礼は新中間層の青年を中心により幅広い支持を集め、一層盛んになる傾向にあること。4.社会変化は村落部にも及び村落の伝統的な社会構造が衰退していることなどが確認された。一方、ムスリムの祭礼では、世界的なイスラーム潮流を背景に祝祭性やイベント性がむしろ抑えられる傾向が見られた。また都市型祭礼とナショナリズムとの関係は、都市によってその関連の強弱に差がみられた。これには、各都市の社会構成や政治状況が反映していると思われる。各都市の個別の成立事情や社会構成を考慮に入れながら、よりきめ細かくインドの都市社会とヒンドゥー・ナショナリズムの関係を精査・分析することが今後の課題となる。
著者
小川 園子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、攻撃行動の表出と、個体の不安情動性や社会的刺激に対する反応性のレベルとの関係、さらにストレス負荷による変容について、攻撃、不安情動性、社会認知、ストレス反応の制御への関与が示唆されている、エストロゲンレセプターベータ(ER-β)が果たす役割に焦点をあてて解析した。(1)エストロゲンによる不安関連行動の制御におけるER-βの役割を同定するために、性腺除去後に慢性的なエストロゲン処置を施された雄マウスの不安関連行動を明暗箱往来テストにより測定したところ、野生型(WT)マウスでは、エストロゲン処置により不安レベルの低減が見られたが、ER-βの遺伝子欠損マウス(βERKO)では、エストロゲンは全く効果がなかった。また、攻撃行動、情動行動への関与が指摘されているセロトニン関連遺伝子であるセロトニントランスポーター(SERT)のmRNAレベルを、ER-βが高濃度で存在する中脳背側縫線核で測定したところ、WTマウスではエストロゲン依存的なSERTの増加が見られたが、βERKOマウスでは全く変化がなかった。(2)雄マウスの攻撃行動は、生後5-6週間目の思春期到来の前後に発現し始め、その後性成熟とともに成体レベルの達することが知られている。我々は以前、βERKO雄マウスにおいて思春期前後の攻撃行動の増大すなわち攻撃性を抑制する脳内機構の異常を示唆する結果を報告した。本実験では、この様な攻撃性の異常を示すβERKOマウスにおいて、新生仔期での母親からの分離ストレスが、思春期での攻撃性のレベルや社会的探索行動テスト場面での不安行動に及ぼす影響について検討した。母親からの分離ストレスが負荷された雄マウスでは、5週令での攻撃行動の発現が遺伝子型を問わず減少していたが、βERKOマウスにおいて特に顕著な減少が見られた。従って、ストレス応答システムの発達にER-βが関与していることが示唆された。
著者
仲山 慶
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は,魚類を対象として感染症の発症を主要なエンドポイントとした免疫毒性評価手法を確立し,下水処理水中に含まれる医薬品等の感染症の発症リスクへの寄与を明らかにすることを目的としている。平成29年度は,免疫毒性の評価対象物質をスクリーニングするために,愛媛県内の下水処理場の処理水を隔週で採取し,81種類の医薬品および生活関連化学物質(PPCPs)を通年モニタリングした。その結果,解熱鎮痛消炎剤や高脂血症治療剤,潰瘍治療剤,抗ヒスタミン剤,一部の抗菌剤が高頻度かつ比較的高濃度で検出された。また,先の若手研究(B)(26740030)で構築した感染・暴露試験法のスループットを向上させるため,先の試験では魚体重10g程度のコイを用いていたところを,1 g程度のコイを使用し,試験のスモールスケール化を図った。1 mg/Lのデキサメタゾンの存在下で,コイに3.8 × 10の2乗~4乗CFU/mLのAeromonas salmonicidaを浸漬感染させたところ,感染後17日目に30~40%の個体が死亡した。一方,感染のみの非暴露区では0~10%のへい死率となり,本試験で使用したサイズのコイであっても,デキサメタゾンの免疫抑制作用が検出可能であった。試験法の改良により,試験水量が従来法の40%程度で試験の実施が可能となった。以上の結果から,スモールスケール化した試験系で,比較的検出濃度の高かった非ステロイド系抗炎症薬の免疫毒性評価を実施することとした。
著者
大宮 邦雄 渡邊 巖 西原 宏史 熊澤 修造 宮本 和久 魚住 武司 小野寺 一清 大宮 邦雄
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

水素ガスはクリーンなエネルギーとして注目されている。本研究ではヒドロゲナーゼ、ニトロゲナーゼ両システムの研究者が意見を交換しながら、水素ガス生産のために培養工学、遺伝子工学的方法で系を改良することをねらって研究を行った。小野寺は水素ガス発生能にすぐれているAzotobacterのミュータントを得た。またアンモニアで抑制されず、高い水素ガス発生能をもった窒素固定菌を土壌から分離した。いずれのアプロウチも今後の新微生物探索の方向を示唆する。魚住は窒素固定菌Azospirillum lipoferumのニトロゲナーゼ遺伝子の転写時および転写後のアンモニアによる活性抑制の機構解明を行い、高アンモニアで窒素固定活性が抑制されない菌TAIを作成した。熊沢は水素ガス発生能の高いらん藻の改良に取り組み、アンモニアによる窒素固定抑制のかからない条件では窒素ガス存在下でも水素ガス発生が継続することを明らかにした。いずれも、ニトロゲナーゼで水素ガスが発生するとアンモニアができにくくなることを考慮して、アンモニアでニトロゲナーゼ活性が抑制されないようにする試みである。西原は酸素ガスと熱に強く、酸性条件で水素ガス発生に強く傾いたヒドロゲナーゼを海洋性細菌Hydrogenovibrioから取り出した。このヒドロゲナーゼは酵素を利用した水素ガス発生に利用できそうである。浅田はらん藻に真正細菌のヒドロゲナーゼ遺伝子を組み込み、水素ガス発生の光エネルギー利用効率を高めようとした。宮本はNoxと二酸化炭素含有ガスを利用する海産微細藻類から乳酸菌と光合成細菌を使って水素ガスを高い効率で生産することに成功した。二酸化炭素削減技術のひとつの有望な方向を示すものである。大宮は難分解性物質からの水素ガス生産に利用するため、Clostridiumのキティナーゼ遺伝子を解析した。渡辺はアゾラと共生しているらん藻の水素ガス発生活性の窒素固定活性にたいする相対比はらん藻の窒素固定活性高いほど高くなるこを見いだした。これらの研究はいずれも水素ガス生物生産の今後の改良戦略の基礎となる知見を与えた。