著者
和泉 司
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

主として1926年に始まった文学懸賞である『サンデー毎日』大衆文芸の調査のため、『サンデー毎日』及び競合誌であった『週刊朝日』や同時代の文芸誌、特に大衆文芸誌、文芸同人誌の資料収集を行った。『サンデー毎日』については、国立国会図書館、東京・日本近代文学館に加え、大阪市立大学図書館所蔵のバックナンバーを利用させていただいた。また、1940年に『サンデー毎日』大衆文芸の当選を足がかりに文壇に登場した作家である長崎謙二郎と田村さえに関する調査も進めた。両者は同期当選をきっかけに知り合い、後に夫婦となっているが、両者の家族と連絡を取ることができ、私蔵されていた多くの関連資料を分けていただいた。その多くは現在散逸しているか、あるいは作家間の私信であり、当選作家のその後の文学活動を理解する上で大変貴重な資料である。加えて、1940年代に少女小説家・戯曲作家として活発に活動した作家・田郷虎雄の日記翻刻も着手した。この日記も、田郷の家族から預かったものであり、1940年から45年までの、文学懸賞当選作家の戦時下での文学活動が詳細に描き込まれており、その公開は今後の日本文学・文化研究に大きく資するものになると考えている。他に、『文藝首都』研究会に参加することで、同人誌である『文藝首都』の誕生経緯と、同誌が多くの新進作家を輩出し、その作家達が次々に文学賞を受賞していく過程において、同人誌運営と文学活動・文学賞の関わりを明確にまとめ始めている。
著者
川島 高峰 三浦 小太郎 宋 允復 荒木 和博 加藤 博 海老原 智治
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

北朝鮮帰還事業の前史は朝鮮戦争前後に遡ることが確認できた。当初、北朝鮮残留邦人の帰還交渉として開始した日本側の申出を北朝鮮側が在日朝鮮人の帰国運動へ転換していく過程であった。それは当時国交のなかった東アジア社会主義圏との間での邦人帰還交渉の一連に位置づけられ、邦人拉致工作の前史としてみた場合、その原型はシベリア抑留をめぐる日ソ間交渉にあり、これが日中、日朝で類似した戦略構造で繰り返されたものであった。
著者
五野井 郁夫
出版者
高千穂大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の成果は、類縁集団を基底としたグローバル・ジャスティス運動が世界政治に与えている影響を明らかにしたことである。本研究では、フローバル市民社会としてNGO以外にもオキュパイ・ウォールストリートや香港の抗議行動等、サイバースペースでの紐帯を活用した世界規模で見られる類縁集団ベースの運動を「社会運動2.0」と名付けて分析した。そこではグローバル・ジャスティス運動が、国際規範の形成と強化に寄与しており、これら新たな直接民主主義の波による国境のきわを越えた国際規範形成につき「社会運動のクラウド化」という概念を用いて説明し、現行のヘゲモニーや国際秩序への変更を求める同運動の特徴と動態を理論化した。
著者
井奈波 良一 鷲野 嘉映 高田 晴子 岩田 弘敏 森岡 郁晴 宮下 和久
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

埋蔵文化財発掘調査機関における労働安全衛生管理の実態と発掘作業の労働負担を明らかに、その対策を検討することを目的に、本研究を行った。都道府県教育委員会関連の発掘調査機関においては、「救急蘇生の講習会を開催している」および「定期健康診断を実施している」機関は25%以下であった。労働災害発生件数に関連する要因として、「独自に雇用している発掘作業員数が多いこと」および「安全衛生に関する規定がないこと」が抽出された。夏期に発掘現場の作業環境測定を行った結果、WBGT(湿球黒球温度指標)は中等度の労働強度における許容基準を超えている時間帯があった。鼓膜温は、発掘作業中上昇し、休憩によって下降するパターンを示した。体温の最大値は、午後の第1回目の休憩前に記録された。冬期に作業者の血圧等を経時的に測定した結果、収縮期血圧の最大値は発掘作業開始時点に記録された。これは主として発掘現場における寒冷曝露の結果と考えられる。ダブルプロダクトは、発掘作業中上昇し、休憩時に低下するパターンを示した。冬期における作業者に自覚症状を調査した結果、発掘作業中に防寒靴を使用する者の自覚症状の有症率は、使用しない者よりいくつかの項目について有意に低率であった。しかし、「足の冷え」については両者の間で有意差がなかった。これらの結果から、冬期の発掘作業を快適に行うための方策のひとつとして防寒靴の使用が勧められる。寒冷紗の効果をみるため模擬発掘現場で炎天下と寒冷紗のWBGTを測定した結果、寒冷紗下では乾球温度、湿球温度、黒球温度が低く、その結果、寒冷紗下のWBGTは炎天下より低くなっていた。したがって、夏期の発掘現場における寒冷紗の使用は、夏期の埋蔵文化財発掘作業を快適に行うための方策のひとつとして効果があることがわかった。しかし、寒冷紗下の風通しを悪くすると効果が低下することも明らかになった。
著者
白銀 勇太
出版者
九州大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2018-08-24

ウイルスが宿主の細胞に寄生し自身を再生産する際、宿主細胞の様々な因子(宿主因子)を利用することが知られている。複数のウイルスに共通する宿主因子を発見すれば、その宿主因子をターゲットとすることで、様々なウイルスに効果のある広域の抗ウイルス薬の開発につながると考えられる。本研究ではウイルス同士が共通の宿主因子を奪い合うことで「干渉」しあうメカニズムの解明を通して、複数種のウイルスに共通する宿主因子を発見し、広域抗ウイルス薬の開発につなげていくことを目的としている。
著者
藤井 千春
出版者
岩手県立博物館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

アオメエソ属(Chlorophthalmus)魚類のマルアオメエソ(C.borealis、通称メヒカリ)の発光の研究は、肛門周辺の発光器に発光バクテリアを共生させていること以外殆ど行われていない。本研究では、発光器がありながら発光が確認されていないマルアオメエソの発光を、ふくしま海洋科学館で飼育されている個体を用いて高感度CCDにより微弱な発光点として世界で初めて撮影した。また、摂餌等で運動が活発になる午前0時頃にやや強い発光を確認した。平成23年度学術研究調査船淡青丸の研究航海で、高速仔稚魚定量採集ネット(MOHTネット)及びビームトロールを用いた黒潮流域の採集調査を実施した。マルアオメエソの着底期稚魚と親魚を採集することはできなかったが、船上での高感度CCDを用いた暗視野での撮影方法を確立した。静岡県沼津市戸田沖で採集されたマルアオメエソ成魚の発光器切片標本をミクロトームで作製し、顕微鏡で観察・記録写真の撮影を行った。その結果、この魚の原始的な発光器には発光バクテリアをほとんど確認することはできなかった。進化の過程で微弱な発光に意義があるとすれば、成熟の度合いと発光バクテリア量に何らかの相関関係がある可能性が示唆された。さらに、東京大学大気海洋研究所(猿渡敏郎)、ふくしま海洋科学館(山内信弥)と協力し学際的な共同研究を行い、マルアオメエソに対する社会認識を向上させるために、インターネット上の日本魚類学会ホームページでの研究紹介を介して、研究成果を発信した。本研究は、従来の固定標本を用いた発光器構造研究だけではわからないマルアオメエソの発光を伴う行動生態を、飼育下での高感度CCDを用いた暗視野での撮影記録により解明に一歩近づいたことに意義がある。平成22・23年に日本魚類学会例会で口頭発表した成果は、岩手県立博物館平成25年度企画展においてパネル・標本展示のみならず動画による情報公開することが決定している。
著者
丸山 泰弘
出版者
立正大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、まず①“War on Drugs”政策終焉以降のアメリカにおける薬物政策とドラッグ・コート政策およびアメリカ国内のハーム・リダクション政策について調査および研究を行うことを第一目標とし、②国際的なハーム・リダクション政策との関係の中で欧州の薬物政策、とくに社会的資源の役割と諸問題について刑事司法に依存しない薬物政策を検討することが第二目標とした。さらに、③上記①および②を検討することで近年の危険ドラッグ対策のように規制によってのみ対応することの問題点と刑事司法に依存しない日本の薬物政策について検討を行うことを第三目標とし、調査研究及び研究報告を行った。
著者
染谷 香理 鈴木 愛乃
出版者
東京藝術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、これまで主観が反映されやすく曖昧であるが故に研究されてこなかった日本画の技法書に着目し、データベースを作成して一度に多量の情報を比較できるようにすることで、画家の経験や感性に基づく技法を正しく理解し継承することを目的としたものである。データベースには江戸中期から明治期に刊行された日本画の技法書を十数篇ほど登録し、技法別の検索とフリーワードによる検索を可能にした。また併せて江戸中期から後期の日本画技法書の翻刻集の編纂も行った。
著者
後藤 奈美 Sawler Jason Myles Sean
出版者
独立行政法人酒類総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本の在来ブドウ品種‘甲州’は、東洋系Vitis viniferaとされていたが、異なる意見もあった。そこで‘甲州’の分類的位置づけを明らかにすることを目的に、DNA多型解析を行った。核DNAの一塩基多形(SNPs)解析の結果、‘甲州’の祖先はV. viniferaが70%強、東洋系野生種が30%弱であることが示唆された。また、母方から遺伝する葉緑体DNAの部分シーケンスは野生型で、中国の野生ブドウV. davidiiに最も近かった。以上の結果から、‘甲州’はV. viniferaの割合が高いが、母方の祖先にV. davidiiまたは近縁の野生種を持つ交雑品種であることが明らかになった。
著者
金子 弥生 小池 伸介 古谷 雅理
出版者
東京農工大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

現在、里山生態系保全にとっての大きな課題は、在来種の選好生息地の確保と外来種対策である。本研究では在来中型食肉目保全を目的として、種判別を自動、低労力、低コストで行うことのできる動物自動識別装置を開発した。この装置により、食肉目群集共通のKey Habitatを調べ、種間相互作用の将来の変化を視野に入れた在来種の個体群構造を把握、生息地保全策について考察した。さらに、システムを応用して外来種(アライグマ、ハクビシン)選択捕獲装置「ラクーンターミネーター」を製作した。
著者
鈴木 珠水 馬醫 世志子 大野 ゆう子
出版者
群馬パース大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

高校生の化学物質に対する過敏性が高まっている背景があり、化学物質過敏症(以下MCS)の予防方策の検討を行った。群馬県内の10の高校の390名の高校生及び10名の養護教諭または保健主事に無記名の調査を実施した。MCS啓蒙ポスターでは30%(117名)が“不要なものを体から出す”ことに興味を持っていた。また全体の7.4%(29名)がMCS高リスク群であったが、これとMCS啓蒙ポスターの内容やMCS各予防法の興味の強さには関連がみられなかった。アレルギー症状や手足の冷えなどの症状があると、各予防法への興味が強くなる傾向が有意だっため、この特徴別に支援していくことがMCS啓蒙の鍵になると考える。
著者
藤木 卓 森田 裕介 寺嶋 浩介 柳生 大輔 竹田 仰 相原 玲二 近堂 徹
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,原爆への科学技術的認識を育てることを意図したVR(Virtual Reality)技術を活用した学習環境を構築し,それを用いた遠隔授業実践を行うことを目的として研究を行った。その結果,携帯端末との連携を図るVR学習環境及び,それを遠隔地から操作するとともにテレビ会議映像の立体視伝送を行う環境を開発することができた。そして,これらの環境を用いた授業実践を行い効果を確認するとともに,今後の課題を把握することができた。
著者
岩崎 務
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

古代ローマの詩人たちから、紀元前1世紀に活躍したカトゥッルス、ウェルギリウス、ホラティウスを取り上げ、その詩作品を「家郷喪失者」の観点から比較研究を行ない、以下のような考察を得た。カトゥッルスの恋愛詩、とくにレスビアとの恋を歌うものは、恋人との関係を、信義や義務に基づいた人間同士の正しい関係を表わす一連の言葉を用いて表現している点で独特であるが、そのような関係が実現する場所として「家」が強調されている。ウェルギリウスでは、最初の詩集『牧歌』において描かれる故郷の土地を追われる牧夫の慨嘆と悲しみに、家郷喪失の危機に面した詩人の経験が重ねられるし、その原因となった内乱は道徳的な退廃をもたらしていると見られている。『農耕詩』では、家郷がそのような混乱した世界が再生するための拠り所とされ、詩人は農耕民族であるローマ人の持つ本来の道徳的理想を示そうとしている。ホラティウスでは、初期の詩において、内乱によって自ら崩壊しようとするローマを去って、新しい故国となるべき理想郷を求めようと詩人が呼びかけるとき、詩人の被った家郷の土地没収と、共和派としての敗北が色濃く反映している。これらの詩人に共通して見られる倫理性は、彼らの出自、すなわち家郷と関連していると考えられる。カトゥッルスとウェルギリウスは、北イタリアのトランスパダナの、ホラティウスは南イタリアの地方都市出身であり、ワイズマンも指摘しているように、これらの田園都市では、ローマ人の古風な道徳観が中央以上に根強く存続しており、入植者の末裔である住民たちは新しい家郷の建設の中で伝統的な道徳を保持し、そのことに誇りを抱いてきた。このことが、あるいは恋愛に対しての、あるいは内戦に揺れる国の状況に対しての、あるいは自己の詩作活動に対しての、彼らの視点に大きく影響している。
著者
渡邉 守邦 鈴木 俊幸 岡 雅彦 大塚 英明 水上 文義 松永 知海
出版者
実践女子大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

1 前年度の総括第一回の打合会を3月21日に行った。これは今年が最終年度に当り、取りまとめを急ぐところから、前倒し的に開催したものである。2 調査活動(1)前年度までの実績を継続して「箪笥」「木箱」双方の活字につき配列を終え、新調した箪笥のレプリカを使って収納した。なお、この作業に要する補助者の謝金に関しては、寛永寺に要請して過分のご配慮を得た。(2)刷本の調査研究使用される活字の同定を中心に、台東区の護国山天王寺、杉並区の佼成図書館、港区の三縁山増上寺、京都市の五台山清涼寺、同市大谷大学図書館、奈良県の豊山長谷寺等の所蔵資料について実地調査を行った。このうち、天王寺と佼成図書館との分は、天保期の重彫活字の調査である。3 木質研究今年度から新たに京都大学木質科学研究所の伊東隆夫氏を研究分担者にお迎えして、活字の木質的特徴を中心に研究を行った。4 成果の公表研究分担者それぞれが関連する研究分野につき個別に成果を発表したほか、本研究の成果を報告書にまとめ、印刷刊行した。
著者
萩原 かおり 羽石 英里 河原 英紀 岸本 宏子 下倉 結衣 本多 清志
出版者
昭和音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ミュージカル俳優は声を酷使することが多いが、未だ彼らの喉の健康を守る効果的な発声・訓練法が確立されているとは言い難い。本研究では、歌手の多くが体感している「喉・胸が開く」という感覚を手掛りに手技を用いての発声実験、アンケート、聴覚印象評価、MRI動画の撮像を行うことで、健康的な発声法を構築するための方法を探った。その結果、体感・評価スコア・音圧レベルの好変化、声帯位置の下制が観察される等「喉・胸が開く」という感覚に対する科学的根拠を得ることができたと考えられる。またそのMRI動画を用いての視覚による発声への影響についても良い結果が得られ、健康的な発声法訓練のための道筋を見つけることができた。
著者
数馬 広二
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、「江戸時代関東農村における剣術流派の存在形態に関する基礎的な研究」である。17世紀初頭に関東(上野国(こうづけ)・下総国(しもうさ)・上総国(かずさ)・安房国(あわ)・常陸国(ひたち)・相模国(さがみ)・下野国(しもつけ)・武蔵国(むさし))に存在した剣術流派は、江戸時代、帰農した中世武士によって農村で武芸が伝承された、と考えられている。この仮説において、(1)馬庭念流(まにわねんりゅう)(群馬県)(2)新当流(しんとうりゅう)(茨城県)(3)新影流(しんかげりゅう)(群馬県)(4)外他流(とだりゅう)(千葉県)をとりあげ、分布と内容を明らかにすることを目的とし、以下の点が判明した。1.上野国で馬庭念流を中興した友松氏宗(ともまつうじむね) (偽庵(ぎあん))は彦根藩で「未来記念流」を指導した。友松の弟子、永居新五左衞門が、柳生新陰流(やぎゅうしんかげりゅう)と未来記念流(みらいきねんりゅう)の2流を併せた「江武知明流正法兵法」を創始しているので、友松が念流(ねんりゅう)を彦根藩と上州農村へそれぞれ伝えた。技法においても「犬之巻」「象之巻」「虎之巻」などの内容が両者で共通する。2.下総国、常陸国に興った新当流、神道流は16世紀に関東の上野国農村にも普及していた。今回調査した新当流文書は岐阜県大垣市立図書館・桜井家文書、山口県防府市毛利博物館蔵文書であった。3.常陸国の新当流の真壁氏幹(まかべうじも)と(暗夜軒(あんやけん)・1550-1622)は真壁(まかべ)城の城主であったとともに鹿島神宮(かしまじんぐう)の「鹿島大使」役を務めた。このことから関東農村のみならず関西方面へも鹿島信仰を弘めることも視野に入れ、新当流を普及したことが考えられる。4.上総国安房国に普及した外他流は、伊藤一刀斎が(いとういっとうさい)、1580年(天正8)頃、外他(とだ)一刀斎景久(かげひさ)と名乗り、南総里見家家臣の宇部壱岐守弘政(うべいきかみひろまさ)、石田新兵衛(いしだしんべえ)、御子神助四郎(みこがみすけしろう)、古藤田勘解由(ことうだかげゆ)などへ指南した。その内容を文書にみると、「五点」「殺人刀(せつにんとう)、活人剣(かつにんけん)」「卍(まんじ)」など、一刀流との共通術語が確認される。また、神前儀式や神饌などが記されていた点できわめて中世的な兵法を表していた。また武器絵図には、里見家の水軍が水上戦で用いた武器(熊手、長刀、突く棒、さす又など)も描かれている。5.近江国堅田(おうみかただ)(滋賀県大津市堅田)は、外他流を創始した伊藤一刀齋の出身地という説がある。その堅田で居初(いそめ)家は1100年続く琵琶湖船頭頭の家。ここで外他流の祖流、冨田流文書(寛永年間)が所蔵されており、堅田水軍と伊藤一刀斎そして関東の里見(さとみ)水軍への伝播へ結びつく可能性もでてきた。6.幕末期上総国・下総国・安房国など現在の千葉県農村で普及した不二心流(ふじしんりゅう)開祖・中村一心斎(なかむらいっしんさい)(中村八平)の江戸における動向を伺うことができた。すなわち、関東における農村と江戸の剣術流派をつなげたのは江戸で活動していた剣術家たちであった。7.江戸幕末期、関東農村にもひろがった、「しない打ち込み試合稽古法」導入の理由の一つとして、外国船の着船によることが、弘前(ひろさき)藩文書(文久2年「御自筆の写」)に読み取ることができた。
著者
田中 誠二 安居 拓恵 辻井 直 西出 雄大
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

サバクトビバッタは混み合いに反応して、行動や形態、体色などを著しく変化する相変異を示す。ふだんは個体数が少なく、単独生活を好む習性があり、孤独相とよばれている。大発生すると群生相化して、体色は黒化し、集団で行進したり群飛して作物を食い荒らす群生相になる。本研究は、群生相化の刺激要因を特定し、相変異のメカニズムの解明を目指すのが目的である。孤独相幼虫の体色は緑などの薄い色だが、混み合いを経験すると黒くなる。この刺激として、視覚が重要な役割を果たしており、ビデオでバッタの集団を見せると、黒化することが分かった。
著者
溝上 智惠子 清水 一彦 歳森 敦 池内 淳 石井 啓豊 逸村 裕 植松 貞夫 宇陀 則彦 永田 治樹 長谷川 秀彦 石井 夏生利 呑海 沙織 孫 誌衒 松林 麻実子 原 淳之 井上 拓 佐藤 翔
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、大学教育の実質化を進展させるための学習支援サービスの1つとして、大学生の主体的学習を促進させる実空間「ラーニング・コモンズ」 (Learning Commons)に着目し、その現状と課題を明らかにした。1990 年代に、北米地域から導入・整備が始まったラーニング・コモンズは、現在各国の高等教育改革や大学図書館の状況を反映して、多様な形態で展開しつつあること、学習成果の視点からの評価はいずれの国でもまだ不十分な段階にあることが明らかになった。
著者
相原 剣
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

全体的に申請時より深化した研究課題を文献学的な精緻さをもって遂行していく為、広範な調査と整理・分析を進めていった。特に、ヴァイマル期及びナチ時代の同性愛シーン・関連状況について、ベルリンのノレンドルフ地区、パンコウ地区など解放運動の拠点の実態分析、当時の旅行ガイドの精査を、広範な資料を基に進めていった。焦点化した作詞家ブルーノ・バルツについては、ベルリンのブルーノ・バルツ・アーカイブとの連携を保ち乍ら、その作品・思想・人脈等に関して更なる掘り下げを行った。マグヌス・ヒルシュフェルトやフリードリッヒ・ラッヅワイト、アドルフ・ブラント等の個人史にとどまらず、都市文化としてベルリンの同性愛解放運動全体を俯瞰的に捉え直すべく研究を遂行した。ラッズワイトによって1924年に発行された世界初のレズビアン雑誌Die Freundinに関して、ベルリンのゲイ博物館の研究員との意見交換を行い乍ら、ヴァルドフ等の女性同性愛シュラーガー分析を行った。同性愛文化研究叢書であるBibliothek rosa Winkelの成果を土台としながら、マイノリティの領域からメジャーな領域へと移行する文化動態のなかに現れるホモフォビア(同性愛嫌悪)の表象に焦点をあてた文献調査も広範に行い、当時の同性愛に関する禁忌の実態とポップ・カルチャーへの表出をデータ化し整理していく作業を進めた。また、収容所で作成された歌集に着目し、そこでの改作・替え歌を分析し、強制収容所に於ける娯楽音楽の有り様を明らかにする作業を行った。収容所環境下でのポップ・カルチャーの実態を解き明かす作業に関しては、ウィーンのQWIEN(ゲイ/レズビアン文化歴史研究センター)との相互的な協力関係を基に調査・研究を進めた。
著者
天野 晶夫 永井 良三 長谷川 昭
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1. 糖尿病における運動時赤血球酸素運搬能の障害糖化ヘモグロビンの酸素高親和性に注目し、糖尿病において運動耐容能と糖化ヘモグロビンが逆相関することを見出した。さらに、糖尿病ではP50(ヘモグロビンが50%酸素と飽和したときの酸素分圧で、酸素解離シフトを反映)の変化量は少なかった。即ち、運動時酸素解離曲線の右方へのシフトが抑制され、運動耐容能低下をもたらすことが明らかになった。2. 糖尿病における運動時乳酸アシドーシスに対する赤血球酸素運搬能の適応不全嫌気性代謝閾値(AT)以上の運動で発生する乳酸アシドーシスは活動骨格筋でのhypoxiaを代償するためにヘモグロビン酸素解離を促進させるという適応現象を惹起するが、酸素高親和性の糖化ヘモグロビンが高値である糖尿病においてこの現象が生じるか検討した。糖尿病では一定の運動量に対する乳酸値の上昇が大であるにもかかわらず、P50の変化は少なかった。即ち、乳酸アシドーシスによる酸素解離の促進という適応は起こらなかった。この適応不全が運動耐容能の低下の一因と推測された。3. 糖尿病における運動時骨格筋の酸素運搬能の障害糖化ヘモグロビンの酸素高親和性により、運動時の活動骨格筋でも酸素運搬障害が生じるかを明らかにするために、酸素化、脱酸素化ヘモグロビン、組織酸素飽和度の絶対値表示が可能となった新しい近赤外線モニターを用いて検討した。糖尿病では運動時の組織酸素飽和度(SdO2)の低下が軽度で、酸素利用率((SpO2-SdO2)/SpO2)SpO2:パルスオキシメータによる動脈血酸素飽和度)の増加も少なかった。即ち、糖尿病ではヘモグロビン酸素高親和性により運動時骨格筋でも酸素利用能の低下が起こり、運動耐容能低下につながることが明らかになった。