著者
上田 修一 安形 輝 池内 淳 石田 栄美 野末 道子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

研究の目的は,分野を限定せず,日本語及び英語の学術論文への直接的なアクセスを保証し,公開された検索アルゴリズムを用いた学術論文に特化した検索エンジンの構築と評価である。ウェブクローリングを行うために機関リポジトリ収載ファイルを調査し,深層ウェブの存在などウェブ構造を明らかにした。また,日本語および英語で書かれた全分野の学術論文の構成要素と構成を調査し,その結果に基づいて,学術論文の自動判定を行うための判定ルールを構築した。次いでウェブから約300万件の日本語PDFファイルを収集し, Solrによる検索エンジンの構築を行った。既存の検索エンジンと比較評価を行った結果,構築した検索エンジン「アレセイア」は,論文へのアクセスの点で優れており,高い確率で学術論文を自動判定できることが明らかになった。
著者
有吉 慶介 脇田 昌英 美山 透 吉田 聡
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

平成29年度の貫通観測に関して,観測準備として,気象センサーの防水防爆対策として既成のプラスチックケースからアルミケースへの差し替え,ソーラーパネルの独立固定方式への変更,表層連続観測用のドラム,UWTVへのCTD取付工具などを購入した.GNSS-Rの観測については,当初の計画には盛り込まれていなかったが,海面高度の精密観測をする上で必要なため,九州大学からの協力を得て実施することにした.これらの観測機器を用いた他,GNSS-Rや表層連続観測装置などを借用手配することにより,地球深部探査船「ちきゅう」が清水港に停泊している期間を狙って,2017年11月30日~12月1日に気象センサー,海水の表層・鉛直のCTD装置,GNSS-Rの設置,2018年1月10日~12日に鉛直CTDと表層連続観測の電池交換を兼ねた動作確認,2018年2月27日に観測機器の撤収を行った.回収データを解析した結果,どのセンサーも,動作環境などで問題があったものの,きちんと設定すれば同時連続観測が出来ることを確認した.これらの成果は, Ocean Sciences Meeting, Blue Earth Science Technology 等で発表した他,マサチューセッツ工科大学(MIT),カーネギー研究所,ハーバード大学,アメリカ海洋大気庁 (NOAA) などでもセミナーとして発表した.また,来年度に開催する国際学会(JpGU, AOGS) でもセッションを提案し,採択された.さらに,上記の学会の場を通じて,貫通観測に関して,国際学術誌での特集号も組まれることとなるなど,国内外での反響も得られた.
著者
中川 尚史 川本 芳 村山 美穂 中道 正之 半谷 吾郎 山田 一憲 松村 秀一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ニホンザルは順位序列が明確な専制型と分類されてきた。しかし、野生群は乳母行動から、餌付け群は給餌実験時の攻撃性から評価した結果、勝山、小豆島は専制型、屋久島、淡路島は寛容型と個体群間変異があった。他方、モノアミン酸化酵素A遺伝子およびアンドロゲン受容体遺伝子の頻度に個体群間変異があり、屋久島では前者の短いアリル、淡路島では後者の長いアリルが高頻度で見られた。これはアカゲザルやヒトの攻撃性と遺伝子型の関連と一致する傾向であった。また、ミトコンドリアDNAによる分子系統関係も、屋久島と淡路島は比較的近縁であることを示し、社会様式の違いに遺伝的背景があることを示唆する結果となった。
著者
中谷 功治
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

平成15年度の研究成果として,8世紀中葉から9世紀初頭にかけてのタグマとは,いまだ国家における「中央軍」としての役割を果たすまでには至っておらず,むしろその司令官を中心として帝国政府の政治過程に深く関わるなど,皇帝あるいはそれを擁立しようとする勢力の手先となって活動する「近衛連隊」と呼ぶべき存在であったことが判明した。以上の成果を受けて,本年度は「近衛連隊」としてのタグマのその後の展開を考察することにした。その際に注目されたのがタグマの兵力規模の問題である。W・トレッドゴールドは,同時代に活躍したイスラム圏の地理学者のデータをもとにして,9世紀初頭に整備された4つの騎兵タグマ(近衛連隊)のそれぞれが4000名,合計1万6千の兵力を擁していたと推計した。これに対してJ・ハルドンからは,これは余りにも大きな見積もりであり,タグマは首都近郊に駐屯するより小規模な集団であると反論がなされている。本研究では,時代はやや下って10世紀となるが,実際の帝国による遠征の軍備・人員を詳細に記録した『ビザンツ帝国儀式について』に収められている記述に注目した。そこに登場するタグマの兵力は,各々の連隊ごとに数百名程度であり,記述内容からタグマごとの総兵力はせいぜい1千名前後であるとの推計が妥当であることが判明した。つまり,十分な整備がなされた時期のタグマの全兵力は4〜5千名前後となるのである。ここからは,トレッドゴールドの推計は修正を求められることとなり,あわせて当時においてさえタグマを「中央軍」といった独立した決戦兵力と見なすことはふさわしくない,との結論が導き出せるのである。
著者
三成 美保 姫岡 とし子 小浜 正子 井野瀬 久美恵 久留島 典子 桜井 万里子 小川 眞里子 香川 檀 羽場 久美子 荻野 美穂 富永 智津子 桃木 至朗 成田 龍一
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の主な成果は、以下の3つである。①三成・姫岡・小浜編『歴史を読み替えるージェンダーから見た世界史』2014年と長野・久留島・長編『歴史を読み替えるージェンダーから見た日本史』2015年の刊行。②前者(『読み替える(世界史編)』)の合評会を兼ねた公開シンポジウムの開催(2014年7月)。③科研費共同研究会(比較ジェンダー史研究会)独自のウェブサイト(http://ch-gender.jp/wp/)の開設。このウェブサイトは、『読み替える』の情報を補足すること及びジェンダー史WEB事典として活用されることをめざしている。また、高校教科書の書き換え案も提示している。
著者
望月 修
出版者
東洋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

物体が水面に衝突する際,水しぶきが上がり,バシャン,ピチャンといった音がすることは身近によく経験する.本研究の工学的目標は生物に見習って(バイオミメティクス)このような水しぶきの飛散を低減すること,生活騒音を低減することである.模型を用いて,先頭形状,後尾形状,表面性状(親水性,疎水性など)の水しぶきおよび発生音に対する影響をレイノルズ数,ウェーバー数,フルード数を系統的に変えて、高速度カメラを用いた計測・観測を行うことによって調べた.高分子ゲル表面上の速度分布計測(PIV法)を行い,水流と壁面材質の干渉を調べた結果、高分子ゲルでも膨潤度が高いとスリップ速度が大きくなることがわかった.すなわち,突入物体表面上の水膜流の速度が速くなるのでスプラッシュを飛ばし易くなる.このことは本研究によって初めて明らかになったことであり,予想と全く逆の結果であった.気泡の取り込みに関しては,物体の突入速度によって,3通りに分類できることを明らかにした.その結果,発生する音も3通りあることがわかる.すなわち,水の音は気泡の音であるから,音の発生は気泡の取り込まれ方に依存する.親水性の表面であると,物体が水中に空気柱を作りやすくなり,それが細かくちぎれることによって,多くの気泡が水中に取り込まれる.先頭形状および後尾形状として半球,円柱,円錐,頭を切った円錐,回転放物体,流線型物体の組み合わせを試した結果,先頭形状は細かな水滴状の飛沫の形成に影響し,後方形状は水中に形成される空気柱のちぎれ,すなわち,気泡形成に影響することを明らかにした.
著者
北原 恵 小勝 禮子 金 惠信 香川 檀 レベッカ ジェニスン 池田 忍
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本プロジェクトは、美術(史)で周縁化されてきた女性アーティストに焦点を絞り、海外・日本におけるジェンダーの視点からの美術史研究や、表象文化理論とアート実践の調査を行い、特にアジア太平洋戦争期の女性美術家の活動を実証的に跡付けることによって、戦争や暴力、ディアスポラに関わる表象・アートを明らかにした。
著者
角村 法久
出版者
徳島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究目的 : 申請者は、「研究者の自由な発想に基づく研究」の科研費(JSPS)とその対極にある「政策課題対応型研究開発」のA-STEP (JST)の審査制度に関し、主に次の4つの観点に注目して比較検討を試みることを計画した。1. 審査委員選考方法(例 : 科研費は、審査委員候補者データベースを整備し、JSPS設置の学術システム研究センターで、毎年選考を行っている。)2. 審査委員配置状況(例 : 科研費は1段審査委員を細目毎、2段審査委員を分科毎に配置している。)3. 審査過程(例 : 科研費は、書面審査と合議審査の2段審査制をとっている。)4, 審査制度の変更過程(例 : 科研費は平成25年度応募時に、若手研究Bで複数細目選択制を採用した。)研究方法 : 検討に際しては、公募要領、審査委員名簿、審査規程、審査マニュアルなど、科研費、A-STEPに関するJSPS、JST各々のHPに掲載されている情報を基に審査制度の詳細に迫った。これは、公開情報でどの程度審査制度の実態に迫ることができるかを具体的に実践することで、研究機関の事務職員であれば、誰もが分析できるということを明らかにしたいと考えたからである。研究成果 : 科研費とA-STEPの審査制度の違いとして次のことが分かった。科研費審査委員の特徴 : 科研費採択経験のある研究者←→技術移転に精通する研究者、企業経験者 : A-STEP側 科研費の審査委員選考方法 : JSPSにてPOが候補者DBを用いて選考←→JSTにて選考 : A-STEPの選考方法科研費審査委員配置状況 : 第1段審査委員は細目毎←→書類審査は細目毎(【FS】ステージのみ) : A-STEP側第2段審査委員は分科毎←→面接審査は評価委員が対応また、今回の研究を通じて、各審査制度の仕組みがわかったことを踏まえ、研究支援の立場にある事務職員が、どのように競争的資金を分析すれば良いのか、又研究者にどのようにアドバイスをすればよいのか、一例を示すことが出来た。その他 : A-STEPについては、科研費と比較して必ずしも多くの情報が得られた訳ではなかった。これは、技術移転を目指すA-STEPの性格上、「技術」を理解し、「実用化」の可能性を見抜く力が審査委員に求められるが、そのような能力や知識・経験を持っている人材が少ないからではないかと考えられる。従って、基本的には、継続して専門委員を依頼するほかなく、結果的に科研費の審査委員とは異なり、専門委員名について非公開で対応することに繋がっていると考えた。
著者
加野 芳正 吉田 文 飯田 浩之 米澤 彰純 古賀 正義 堤 孝晃
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究課題は4つのパートからなっていて、それを研究代表者(加野芳正)と4人の研究者の共同研究として進めてきた。それらの作業は、(1)学会の歴史に関する資料の収集と整理、そして分析、(2)日本教育社会学会の先輩会員(教育社会学第2世代、第3世代)へのインタビュー調査、(3)教育社会学の学術的課題(学問的課題、現代的的課題)による日本語論文集=全2巻の刊行、(4)日本の教育社会学の学問的水準を広く世界に発信することを目的とした英語論文集の刊行、である。(1)については資料がほぼそろい、8月下旬までに報告書として刊行する予定である。(2)については、18人に対するインタビューを完了するとともに読み物風に整理して、『日本の教育社会学と18人の軌跡-オーラルヒストリーによる語り』東洋館出版社、2018年8月刊行予定である。原稿はほぼ出そろっている。(3)については『教育社会学のフロンティア1-学問としての展開と課題』(日本教育社会学会編、本田由紀、中村髙康責任編集、2017年10月)、『教育社会学のフロンティア2-変容する社会と教育のゆくえ』(日本教育社会学会編、稲垣恭子、内田良責任編集、2018年3月)として、いずれも岩波書店から刊行した。4)英語論文集については、Japan’s Education in the Global Age-Sociological Reflection and Future Direction-(Akiyoshi Yonezawaほか責任編集)として今年中には刊行される予定である。すでにすべての審査を終え、原稿を出版社であるSpringer に送付している。本研究は順調に進展しているが、図書の刊行に向けての調整が必要なため、研究期間を1年間延長することにした。また、研究成果は『教育社会学事典』(丸善、2018年1月刊行)にも活用されている。
著者
飯田 仁 岡本 雅史 大庭 真人 石本 祐一 阪田 真己子 細馬 宏通 榎本 美香
出版者
東京工科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

計2回の漫才収録を通じ,漫才師および観客のデータを収集した.ツッコミ役が聞き手は,ツッコミ・同意のどちらを行うのかにより,ボケ役への顔を向ける潜時に違いがあることが分かった.また,モーションキャプチャによりツッコミを行う際に顔の向きとともに,近づくということが確認された.最後に,「身体ノリ」は観客の有無にかかわらず行われる一方で,観客のいる方が発生しやすく,また,同じネタでも観客の有無によってその表現は異なることがわかった.
著者
荒谷 邦雄
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、様々な食性を示すコガネムシ上科を対象に、形態やDNAを用いて各群の間の系統関係を明らかにし、得られた系統情報に様々な餌食物の資源的特性を加味することで、本上科の食性進化の史的概観を探ることを試みた。コガネムシ上科の各分類群の系統解析に関しては、まず、クワガタムシ科について、幼虫形態および16SリボソームRNA遺伝子を用いて世界の全亜科、アジア産のほぼ全属間の系統関係を明らかにした。また、分類学的に混乱が多いDorcus属に関してはRAPD法やCOI遺伝子による解析も行い、属内の詳細な系統関係も明らかにすることができた。16SリボソームRNA遺伝子を用いてクロツヤムシ科に関しては世界の全亜科間、コガネムシ科に関しては全世界のカブトムシ亜科の主な属間の系統解析を行った。さらにコガネムシ上科全体に関しては、16SリボソームRNA遺伝子を用いてクワガタムシ科、クロツヤムシ科、コガネムシ科、センチコガネ科、コブスジコガネ科、アカマダラセンチコガネ科、アツバコガネ科の科間の系統関係を明らかにし、後翅脈等の構造に基づいて構築されていた従来のコガネムシ上科の系統関係との比較を行った。得られた系統関係に基づき、クワガタムシ科をはじめとする食材性の群における褐色、白色、軟の各腐朽型への選好性の進化が主に幼虫の木材構成高分子に対する消化能力の獲得と深く関わっていることを明らかにした。さらに腐植物食性のテナガコガネ等や好白蟻性の群に関しては、高窒素含有量を求めて食材性のものから二次的に移行した可能性が高いことを示唆した。これは腐植物食性が原始的な食性であるとする従来の見解を大きく改めさせるものである。さらに食性とも深く関わる亜社会性の起源に関しても議論すると共に、亜社会性のクロツヤムシ科では食性の違いが前肢や体の厚み等の形態変化をもたらしていることをも明らかにした。
著者
香川 靖雄 岩本 禎彦 蒲池 桂子 田中 明 川端 輝江 中山 一大
出版者
女子栄養大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

目的:健康維持に不可欠なEPA,DHAの摂取量が殆どない菜食者の中で、Δ5脂肪酸不飽和化酵素の遺伝子多型rs174547のC型ではALAからのEPA,DHA合成能が低いためその健康状態を研究した。結果:DHA摂取量0gの純菜食者+乳菜食者の血清と赤血球脂肪酸はTT型に比べてALAはC/CC型で増加し、血清EPA,DHAは減少し、ω3指数(赤血球EPA+DHA)は3.2に減少していたがAAの減少も著明であった。純菜食+乳菜食の健康状態は国民健康・栄養調査の一般日本人の健康度を上回り多型間に差が無かった。健康度はEPA/AA比の増加とDHA保持能増加で低いDHA摂取量を補償すると推定した。
著者
今中 哲二 川野 徳幸 竹峰 誠一郎 進藤 眞人 鈴木 真奈美 真下 俊樹 平林 今日子 高橋 博子 振津 かつみ 木村 真三 七沢 潔 玉山 ともよ
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

代表者の今中は以前よりチェルノブイリ原発事故の調査を行ってきた。福島原発事故の長期的問題を考えるため、広島・長崎原爆被害やセミパラチンスク核実験被害の調査を行っている川野徳幸、マーシャル諸島での核実験被害調査を行っている竹峰誠一郎らとともに、原子力開発がはじまって以来世界中で発生した様々な核災害の後始末について調査を行った。核災害は、放射線被曝や放射能汚染といった問題にとどまらず、社会的に幅広い被害をもたらしており、その多くは災害が起きてから50年以上たっても解決されないことが示された。得られた成果は2017年11月12日に東京で開催した報告会で発表し、12編の報告を含むレポートにまとめた。
著者
月村 辰雄 安藤 宏 佐藤 健二 木下 直之 高野 彰 姜 雄 野島 陽子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、東京大学総合図書館に保存されている千数百冊におよぶ明治初期の洋書教科書の分類整理を主要な目的とし、あわせてそれらの教科書が用いられていた大学南校・開成学校等における教育の実態、またそれらの教科書を通じてもたらされたヨーロッパ文化の受容形態を、残された洋書教科書そのものに即して明らかにしようとするものである。研究第1年度においては、主として著者名・書名・印記・書き込みの有無などを調査対象として教科書群のデータ採録にあたった。第2年度においては、採録されたデータのデジタル・データ化にあたり、エクセル・データとして著者名のアルファベット順教科書一覧表を作成した。あわせて今後の研究資料体としての活用を見越した分類法について各種の方法を検討した。第3年度は、このデータをもとに明治初期の東京大学の教育史との関連において各種の研究を進めたが、その主な成果は以下の通りである。(1)東京外国語学校の分離にともなって移管された初期東大の洋書教科書群の一部が、明治前期の諸学校の変遷の結果、現在一橋大学を始めとする各所に分散保管されていること。(2)大学南校から開成学校、東京大学へと移行する教育方針は専門教育化と英語専修化の二つであり、それが残存教科書群からも窺えること。すなわち、南校まで仏・独の多方面の教科書がその後は法学科・工学科学生のための語学書に限定されること。また、書き込みのノートを検討しても英語による下調べが一般化すること、など。(3)工学系の教科書群の選定にきわめて強く外国人教師ワグネルの意向が反映していること。(4)さらに、明治4年の貢進生について、新たな視点から精細な調査をおこなったこと。なお、教科書群の分類リストは校正のうえ、別途公刊の予定である。
著者
細田 千尋
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

社会、教育等における成功には目標達成にむけた努力を継続する力“persistence”が必要である。この能力は課題内容に依存しない能力であるとされている一方、その神経基盤は明らかでなかった。そこで、本研究では、異なる実験参加意欲の高い被験者群に、数種類の長期学習実験介入を行い、その継続有無と、神経基盤差の関連性の解明、及び、継続力を上げる手法の開発を行った。その結果、前頭極の灰白質及び周辺の白質神経繊維の発達度合いから、努力継続力を予測する事が可能である事を明らかにし更に、達成感の細かい授与や、人格特性に合わせた教示法が、前頭極の発達を促し、努力継続力を強化出来る事を明らかにした。
著者
松田 和之
出版者
福井大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011-04-28

反カトリック的な思想の持ち主であると見なされていたジャン・コクトーは、最晩年にカトリックの礼拝堂4堂の全面的な装飾を手がけている。本研究の目的は、それらの礼拝堂の壁面に描かれた不可解な図案の数々に関するテクスト分析と図像解析を通じて、謎めいた彼の宗教観に関する理解を深めることにある。その意味を見極めるのが困難な図案も少なくなかったが、検討を重ねた結果、コクトーの教会美術作品に異端的・オカルト的な象徴性が用いられている可能性を指摘するに至った。そうした意匠は、彼がカトリックに対して抱き続けたアンビヴァレントな感情を物語るものであると考えられる。
著者
松本 鈴子 中野 綾美 佐東 美緒
出版者
高知女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、母親が安心して育児ができ、次回の妊娠・出産へとつなげるために、心的外傷後ストレスを引き起こしている母親はどのような出産体験をしたのか明らかにし、出産後の母親の心的外傷後ストレス障害(PTSD)を予防するための対応策を看護の視点から提案することを目的とした。その結果、出産後1か月時に心的外傷後体験が高く、PTSDハイリスクであった健常新生児の母親とNICU入院児の母親は『母体の生命の危険』『耐えがたい疼痛』『母体の健康状態の悪化』などの恐怖や苦痛体験をしていたことが明らかになった。PTSDローリスクであった健常新生児の母親は「陣痛を耐え、乗り越えたことが自信や充実感になった」「信頼できる看護者や医師、家族がそばにいる支援が安心感やよろこびにつながった」と、母親が自分なりに出産体験を肯定的に受け止めていた。また、NICU入院児の母親の中に「予想していた以上の看護や医師の説明、何かあれば相談できる医療従事者、家族の支え」によって安心感や意欲につながっていた。そして、出産後6か月時にPTSDであった母親は両群の割合には有意な差がなかったが、健常新生児の母親2.9%(n=174)、NICU入院児の母親3.6%(n=111)であった。心的外傷体験にならないように予防的ケアすること、そして、母親の反応をアセスメントし、心的外傷体験や心的外傷後ストレス症状出現の早期発見、継続したケアをすることが大切である。
著者
大山 七穂
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

平成12年度は、マスメディア(新聞記事)に表出された社会規範に関するメディア・フレームが人々の規範意識に影響を及ぼすものと考え、新聞の内容分析を行った。「成人の日」の社説と、「人生案内」というコラムへの投書とそれに対する回答の分析を行ったが、「大人」を大人たらしめる規範の希薄化と、投書内容の個人化および問題解決の脱規範化を見出すことができた。平成13年度はそれを受けて、意識調査を実施した。調査の主な目的は、現在の人々がどのような規範意識をもっているのかその意識構造を明らかにして、そこから社会規範の変化を検討するとともに、メディア・フレームがどの程度影響を及ほすのか検証することである。調査対象は、神奈川県の一般成人男女1500名であり、443名からの回答を得た。規範意識には、変わった側面もあり、変わらない側面もあった。日本の伝統的な社会規範は予想していた以上に保持されていたが、家族をめぐる規範や性規範には大きな性差、年齢差がみられた。規範の曖昧化、希薄化については、一部の結果からそうした傾向を認めることができる。若年層の方が、全般的に判断の根拠が不明確で、その時その場の自己欲求に左右されやすく、一貫性に欠けていた。メディア・フレームについては、残念ながら明らかな影響を析出することはできなかった。ただし、家庭や学校で教えられたとする道徳内容が主として旧来の規範であるという結果をみると、変わりつつある社会規範の判断枠組はメディアが提供している可能性が大きいといえよう。