著者
越中 康治 目久田 純一 淡野 将太 徳岡 大
出版者
宮城教育大学
雑誌
宮城教育大学紀要 = Bulletin of Miyagi University of Education
巻号頁・発行日
no.54, pp.425-432, 2020-01-30

本研究の目的は,国民意識(国家的遺産への愛着,愛国心,国家主義,国際主義)と道徳教育均質化志向及び道徳の教科化に対する態度との関連について検討を行うことであった。教員を対象とした質問紙調査の結果,道徳教育均質化志向については,国家的遺産への愛着・愛国心・国家主義との間に正の相関,国際主義との間に負の相関がみられ,重回帰分析では国家的遺産への愛着から正の関連,国際主義から負の関連がみられた。また,道徳の教科化への賛意については,国家的遺産への愛着及び愛国心との間に正の相関がみられ,重回帰分析では国家的遺産への愛着から正の関連がみられた。これらの結果を踏まえ,国家的遺産への愛着が道徳教育均質化志向を媒介して道徳の教科化に対する態度に影響するかを検討するために間接効果の検定を行った結果,間接効果の有意性が確認された。すなわち,国家的遺産への愛着と道徳の教科化に対する賛意との関連性は,道徳教育均質化志向を介在させることによってよりよく説明された。
著者
奥中 康人 オクナカ ヤスト
雑誌
静岡文化芸術大学研究紀要 = Shizuoka University of Art and Culture Bulletin
巻号頁・発行日
vol.21, pp.225-241, 2021-03-31

本稿は、国立公文書館アジア歴史資料センターのデジタルアーカイブを用いて、西南戦争(明治十年)に関係する陸軍のラッパ信号の用い方を分析することを目的としている。同アーカイブを「喇叭」等のキーワードで検索し、抽出された約三二〇件のデータは、楽器としてのラッパについて、ラッパ手について、ラッパ信号についてのデータに分類することができる。とくにラッパ信号を中心に分析を進めると、数多くのフランスのラッパ信号が用いられたこと、戦争が終盤となった九月になってから数曲のマーチを練習していたことが明らかになっただけでなく、「喇叭暗号」という特殊な用法が存在したことがわかった。 ラッパ暗号とは、あらかじめ定められたラッパ信号を問答形式で交わすことによって敵・味方を識別する用法である。しかしながら、資料から読み取れるのは、ラッパ暗号が記載された手帳や文書が敵の手に渡り、何度も改正を余儀なくされたという失態である。ラッパ暗号の運用には問題はあったものの、総じてラッパ手たちは数多くのラッパ信号を吹奏していたようであり、それまでのラッパ教育が順調であったことがうかがえる。
著者
田中 朱美 高橋 潔 申 龍熙 増冨 祐司 山中 康裕 佐藤 友徳
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.I_237-I_248, 2012
被引用文献数
1

現在気候下の北海道のコメ収量変動を再現するため,潜在作物生産性モデルGAEZの北海道への適用可能性評価および改良を実施した.改良前のGAEZでは計算対象期間の大半で北海道のほぼ全域で気温条件を満たさず収量がゼロとなり,耐冷性の強化によってコメ栽培が可能となった北海道にはそのまま適用できなかった.モデルの改良として(1)気温条件の緩和,(2)バイオマス計算論理の変更,(3)出穂日推定論理の追加,および(4)障害型冷害の考慮を実施した.(1)により寒冷地でも収量を得ることが可能となるが,観測の収量変動をほとんど再現しなかった.(1)に加え(2),(3),(4)を組み合わせることで再現性は大幅に向上した.特に障害型冷害の考慮と出穂日の推定が北海道の観測収量変動の再現性向上に大きく寄与した.
著者
川島 陽子 田中 真一郎 近田 博之 石田 貴志 野中 康弘
出版者
一般社団法人 交通工学研究会
雑誌
交通工学論文集 (ISSN:21872929)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.B_21-B_30, 2018-02-01 (Released:2018-02-01)
参考文献数
9

高速道路の片側 2 車線区間である中央自動車道(下り線)多治見 IC~小牧東 IC 間の登坂車線設置区間において、我が国で初めて付加追越車線の試行運用を実施した。登坂車線運用時と付加追越車線運用時の交通状況を比較分析した結果、付加追越車線運用によってキープレフトが促進され、特に低速の大型車の最外側車線利用が顕著になった。また、相対的に速度が低い車両がより外側車線を利用するようになり、車線間の速度階層が明確になった。さらに、相対的に速度が高い最内側車線において車群形成が抑制されたことで追越行動の自由度が高まり、同時に危険を誘発する恐れのある左側からの追越行動が減少したことなど、付加追越車線運用が望ましい交通状況の実現に寄与できることを確認した。
著者
小寺 祐貴 横尾 慶紀 矢部 勇人 小橋 沙也香 田中 康正 山田 玄 高橋 弘毅
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会
雑誌
気管支学 (ISSN:02872137)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.301-305, 2016-07-25 (Released:2016-08-06)
参考文献数
15

背景.先天性食道閉鎖症は多くに気管食道瘻を合併する.多くは新生児期に手術療法を行うが,小児期に食道気管瘻が再開通することがある.症例.35歳女性.新生児期にGross C型先天性食道閉鎖症の手術を受けた.しかし,高校生の頃から肺炎を繰り返すようになった.近医で気管支拡張症と診断されていたが,肺炎を反復するために当科に精査入院となった.胸部X線では左下肺野に浸潤影を認め,胸部CTでは左下葉に限局する囊胞状の気管支拡張症と内腔の液面形成を認めた.また周囲には肺炎像も伴っていた.気管支鏡では気管膜様部に瘻孔を認めたため,気管食道瘻の再発を疑い上部消化管の精査を行った.上部消化管内視鏡では上部食道の前壁に瘻孔を認め,食道造影検査では造影剤が食道瘻孔を通じて気管から左下葉気管支へ流入する所見を認めた.以上から気管食道瘻の再開通と診断し,食道瘻孔部直接縫合閉鎖術を行った.気管支拡張症は長期間の感染の反復により形成されたと考えた.結論.先天性食道閉鎖症の手術歴のある患者が呼吸器感染症を繰り返す場合は,気管食道瘻の再開通の可能性がある.
著者
山中 康行
出版者
国公私立大学図書館協力委員会
雑誌
大学図書館研究 (ISSN:03860507)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.37-44, 2003-08-31 (Released:2017-12-12)

群馬大学附属図書館は,昭和41年新田岩松家の後裔である故新田義美(よしとみ)氏から旧新田男爵家に伝来された文献資料群の寄贈を受けた。寄贈時にもたらされた資料群の中に膨大な屑状の紙片があった。それらの紙片は屑としか見えない状態であったためにかえりみられることがなかった。平成13年春,この紙片の塊が廃棄寸前になって,日本画の下絵(粉本)であることが判明した。約1年半をかけて膨大な屑状の紙片の悉皆調査を行い,総点数1,265点の反故を画帳形式に復元整備した。寄贈者の遺族も知らなかった粉本の発見であった。平成15年3月には整理が終わるとともに群馬大学附属図書館所蔵「新田岩松家旧蔵粉本図録」が完成した。
著者
田中 康雄 遠藤 剛 山本 良一 岡邨 直人 関根 裕之 大野 健太 佐々木 幸絵 加藤 健太郎 山本 智章
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P2184-C4P2184, 2010

【目的】<BR>平成19年度より小学5年生以下を対象とした学童野球検診を行っている.2年間の学童野球検診の結果より成長期投球肘障害の要因として身体機能面だけでなく,指導方法や大会運営など選手を取り巻く環境の問題が考えられた.昨年から各試合の投球数報告を義務付け,1投手の投球数を70球以内とする努力目標を掲げている.今回,3回目の検診を行なうとともに,指導者に対するアンケート調査と投球数の調査を実施した結果から障害予防活動の課題・展望について報告する.<BR>【方法】<BR>対象は学童新人野球大会に参加した62チーム中検診を希望した33チーム482名(5年生275名,4年生154名,3年生42名,2年生10名,1年生1名).大会会場にブースを設け医師,PTによる直接検診として四肢の理学所見および肘関節の超音波診断を行った.異常のあった投手に医療機関の受診をすすめた.事前に問診票を配布し,身長,体重,野球開始時期,投球側,練習時間,疼痛の有無,ポジション,痛みがある時の対応などについて調査した.また指導者に対してアンケートを配布し,野球経験,指導経験,練習時間,検診の必要性,投球制限,日本臨床スポーツ医学会の提言の認知などについて調査し,大会期間中の投手の投球数報告を集計し解析した.<BR>【説明と同意】<BR>事前に文書と口頭で各チームの監督,保護者に対して検診の目的,内容について説明し同意を得ている.<BR>【結果】<BR>超音波による直接検診で上腕骨小頭障害の選手は482名中8名(1.7%)であった.事前に配布した問診票は523名から回収し,肩・肘に痛みを感じたことのある選手は227人(43.4%).「肩・肘の痛みがあるとき誰に知らせるか」の質問に260名が回答し,親160名(61.5%),監督53名(20.4%),知らせない29名(11.2%),その他18名(6.9%)であった.「肩・肘に痛みがあるとき,投げることを休んだか」の質問に対し209名が回答し,「休んだ」98名(46.9%),「ポジションを変えた」7名(3.3%),「休まなかった」104名(49.8%)であった.複数回答による疼痛部位は,肩97名,肘86名,足首54名などであった.また指導者のアンケートでは38名(51.3%)から回答があり,年齢43.9±7.0歳,指導経験7.2±7.8(1~35)年で日本臨床スポーツ医学会の提言を知らない指導者は27名(71.1%)であった.大会での投手の投球数はコールドゲームを含めた大会98試合での投球数は平均78.9球であったが,コールドゲームを除いた34試合では88.1球で,投手交代の無かった試合での一人あたりの投球数は平均75.5球であった(昨年87.8±14.0).<BR>【考察】<BR>学童野球検診の目的は障害の早期発見であるが,大会会場にて直接検診を実施し,8名(1.7%)の上腕骨小頭障害を発見することが出来た.一方,問診票の結果から野球の競技特性から肩・肘の疼痛の訴えが多い.肩・肘に痛みがある場合,親に知らせる選手が160名(61.5%)と多く,肩・肘に痛みを有していても投球を休まない選手が104名(49.8%)と半数近い結果となった.成長期投球障害は進行した状態で初めて医療機関を受診する可能性があるため,チームの監督・コーチだけでなく保護者への障害予防の啓発も重要と考えられる.今回の投球数ではコールドゲームを除いた一人投手試合では平均75.5球と昨年の大会における同様の調査に比べて12球の減少で,投球数制限に対する指導者の理解が少しずつ浸透している結果と考えられた.しかし日本臨床スポーツ医学会の提言における50球という制限をはるかに越えていることから,今後さらに障害を予防するために現場と医療側との連携が求められる.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>学童野球検診は障害を早期発見することが目的である.特に上腕骨小頭障害は重症化することが報告されており検診において早期発見する意義は大きい.検診結果,問診結果,投球数を検討することは現在の子ども,監督の状況を把握し,野球をする子どもたちを守るための障害予防の一助になると考えられる.
著者
田中 康雄 遠藤 剛 山本 良一 岡邨 直人 関根 裕之 大野 健太 山本 智章
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P1458-C3P1458, 2009

【はじめに】昨年報告した平成19年度の少年野球検診の結果より、成長期投球肘障害の要因として少年野球選手の身体機能面だけでなく、指導方法や大会運営など選手を取り巻く環境の問題が考えられた.今回、投手に絞ったメディカルチェックを行なうと共に、指導者に対するアンケート調査と大会中の各試合における投球数の調査を実施した.その結果から障害予防活動の課題・展望について報告する.<BR><BR>【方法】対象は学童新人野球大会に参加した51チーム中検診を希望した39チームの投手74名(5年生63名、4年生10名、3年生1名)である.大会会場にて医師、PTによる直接検診として四肢の理学所見および肘関節の超音波診断を行った.異常ありの投手に医療機関の受診をすすめた.検診後に問診票を配布し、身長、体重、野球開始時期、投球側、練習時間、疼痛の有無、ポジション、痛みがある時の対応などについて調査した.また指導者に対してアンケートを配布し、野球経験、指導経験、練習時間、検診の必要性、投球制限、日本臨床スポーツ医学会の提言の認知などについて調査し、大会期間中の投手の投球数報告を義務化した.<BR><BR>【結果】直接検診で異常ありの投手は74名中23名(31.1%)でこのうち12名(52.2%)が医療機関を受診し、そのうち11名に内側型野球肘が確認された.問診票は74名中59名(79.7%)から回答があり、身体に疼痛を訴えている選手は35人(59.3%)で、その中で医療機関を受診しているのは2名(5.7%)であった.複数回答による疼痛部位は、肘25名、肩13名、踵7名などであった.また指導者のアンケートでは20名(51.3%)から回答があり、年齢42.9±6.8歳、指導経験7.1±6.5年で日本臨床スポーツ医学会の提言を知らない指導者は15名(75%)であった.今回から採用されたコールドゲームを含めた大会全102試合での投球数は平均73.5球であったが、コールドゲームを除いた65試合の平均投球数は94.0球で投手交代の無かった試合での一人あたりの投球数は平均87.8球であった.<BR><BR>【考察】少年野球検診の目的は障害の早期発見であるが、投手を中心に直接検診を実施し、11名(13.9%)の内側型野球肘を発見することが出来た.一方問診票の結果から、痛みを有している選手が35名で、そのうち医療機関へ受診しているケースは2名と極端に少なく、成長期投球障害が進行した状態で始めて医療機関を受診する可能性があるため、早期から障害予防に取り組む必要性がある.今回の投球数カウントではコールドゲームを除いた一人投手試合では平均87.8球と日本臨床スポーツ医学会の提言における50球という制限をはるかに越えている.今後大会準備委員会への医療側からの参加、投球制限などの特別ルールの提案など障害を予防するために現場と医療側との連携が求められる.
著者
山中 康彰 辻野 亮 鳥居 春己
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 = Bulletin of Center for Natural Environment Education, Nara University of Education (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.21-30, 2021-03-31

春日山原始林 (奈良県奈良市) において哺乳類相とニホンジカCervus nippon の生息密度を明らかにするために、スポットライトセンサス法とカメラトラップ法、糞粒法の3種を用いて野外調査を行った。スポットライトセンサス調査を2009年11月~2010年12月に56回、カメラトラップ調査を2009年12月~2010年12月に行い、ニホンジカ、イノシシSus scrofa、ムササビPetaurista leucogenys をはじめとした哺乳類14種が確認できた。スポットライトセンサス法と糞粒法によるニホンジカの推定生息密度は、それぞれ28.5頭/km2と66.6 頭/km2 (2010年12月)であった。ニホンジカの推定生息密度と撮影頻度指数は冬期の1月が最も高く (2010年1月、推定生息密度50.0 頭/km2、撮影頻度指数105.5)、その他の季節は低かった (平均推定生息密度24.6頭/km2、平均撮影頻度指数12.2)。ニホンジカの推定生息密度と撮影頻度指数には有意な正の相関が見られた(ρ= 0.795、p= 0.012、N= 13)。
著者
田中 康夫
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1354, pp.116-119, 2006-08-21

およそ6年前、私は長野県の人たちから知事になってほしいと請われました。当時の長野県は財政的にも末期的な状態で、明治初期の「お雇い外国人」として招聘されたようなものでした。 その意味で、8月6日の長野県知事選挙の結果は敗北ではなく、投票に行った県民の過半数が田中康夫に頼らない選択肢を選んだということ。
著者
出口 幸一 吉田 洋 梅田 聡 野口 侑記 田中 康博
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.81-85, 2014-02-20 (Released:2014-02-20)
参考文献数
11

会陰部杭創は転落・転倒などにより生じる稀な鈍的外傷である.我々は2 例の小児会陰部杭創を経験したので報告する.〈症例1〉9 歳男児.入浴中風呂の湯かき棒(樹脂製)が肛門に刺入した.自ら抜去したが,出血,腹痛が持続するため翌朝当科受診した.CT 検査で腹水,遊離ガス像を認め,会陰部杭創による穿孔性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.開腹すると直腸前壁が穿孔していた.穿孔部は縫合閉鎖し,S 状結腸に人工肛門を造設した.〈症例2〉3 歳女児.箸(木製)を持って転倒した際,箸が右会陰部に刺入した.CT 検査で異物を骨盤腔内に認めたが,明らかな臓器損傷は認めなかったため,X 線透視下に異物を抜去した.折れた箸先端が7 cm 刺入していた.創部を縫合閉鎖し第5 病日に退院した.会陰部杭創では症例により損傷臓器とその程度がさまざまであり,受診後速やかにそれらを把握したうえで,治療方針を決定することが重要である.
著者
田中 康嗣 後藤 昌史 光井 康博 後藤 雅史 吉川 英一郎 久米 慎一郎 大川 孝浩 樋口 富士男 永田 見生 志波 直人
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.673-675, 2013-09-25 (Released:2013-11-26)
参考文献数
5

50歳,女性.アレルギー疾患の既往はなし.右肩石灰沈着性腱板炎に対し鏡視下石灰摘出および腱板縫合術施行.腱板縫合には2個のチタン製金属アンカーを使用した.術後3週目より顔面,体幹および手指の皮疹と著明な掻痒感が出現.抗アレルギー剤内服,外用等で経過観察するも症状は改善しなかった.術後6カ月目で金属アレルギーを疑い,パッチテストを行ったが陰性であった.患者の同意を得て初回手術後より7カ月目に,ミニオープン法下にアンカー抜去ならびに腱板再縫合術を施行.手術時,特に異常所見は認めなかった.アンカー抜去後2日目より皮疹と掻痒感は消失し,再手術後から2年の現在,肩関節痛,可動域制限は認めず腱板修復状態も良好である.金属製アンカーを用いた腱板縫合術後,長期にわたるアレルギー様反応が生じた際は,例えパッチテストが陰性であったとしても金属アンカーの抜去を考慮すべきかもしれない.
著者
浜中 康弘 豊田 剛己 林(池田) 恭子
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.817-824, 2005-12-05 (Released:2017-06-28)
参考文献数
30
被引用文献数
2

コーヒー粕堆肥を1ha当たり年間40トン,4年間連用したコーヒー粕堆肥連用土壌(コーヒー区)は,トマト根腐萎凋病に対して抑制効果を有した。コーヒー区における各種病原性F.oxysporumの小型分生胞子の発芽率は化学肥料を連用した土壌と比べて低く,コーヒー区は高い静菌作用を示すことがわかった。ついで,リファンピシン・カナマイシンをコーヒーに添加したが,発芽率の増大は認められなかったため,コーヒー区の静菌作用には細菌以外の微生物が関与していると推論された。また,基質誘導呼吸阻害法により,コーヒー区の主要な微生物群集は糸状菌であることが明らかとなった。そこで,土壌中において菌糸状で存在する糸状菌を分離し,それらのトマト根腐萎凋病菌胞子発芽抑制能を評価したところ,49株中F.oxysporumに近縁な3株が特に顕著な抑制能を示した。これらをオートクレーブ処理したコーヒー区土壌に接種したところ,2株により根腐萎凋病が顕著に抑制された。以上から,F.oxysporumに近縁な菌株が病原菌の発芽抑制に関与する可能性が,また,発病抑制にも関与する可能性が示された。
著者
三浦 文子 吉野 正代 富岡 光枝 長谷川 美彩 田中 康富 嶺井 里美 尾形 真規子 佐藤 麻子 岩本 安彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.865-870, 2009-10-30 (Released:2010-03-01)
参考文献数
8

簡易血糖測定器は,糖尿病患者が自己管理に用いるだけでなく,臨床現場での迅速な血糖測定に活用されることも多い.安定性については今までにも報告されているが,近年,測定時間の短縮化,血液量の微量化などの改良がなされてきている.そこで,環境・検体要因が血糖測定の安定性に支障をきたすことがないか,5機種の簡易血糖測定器を用いて,高低3濃度の血糖値について検討を行った.5機種とも同時再現性と希釈直線性は良好であった.静脈血血漿と指尖血全血の相関は各機種とも良好であったが,測定環境,患者因子,共存物質の影響で測定原理の違いや機種により測定値にばらつきが認められた.特に,環境因子の影響は血糖濃度により差異が認められ,使用方法や測定環境と共に,血糖実測値の高低による各因子の影響を含め測定値の評価をする必要のあることが示された.
著者
桝本 妙子 山田 陽介 山田 実 中谷 友樹 三宅 基子 渡邊 裕也 吉田 司 横山 慶一 山縣 恵美 伊達 平和 南里 妃名子 小松 光代 吉中 康子 藤原 佳典 岡山 寧子 木村 みさか
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.390-401, 2015 (Released:2015-10-27)
参考文献数
43
被引用文献数
6

目的 地域在住自立高齢者の転倒リスクとその関連要因および性差を検討した。方法 京都府亀岡市の65歳以上の全高齢者の中で要介護 3 以上を除く18,231人に対して2011年 7~8 月に行った自記式留め置き式質問紙調査への回答者13,159人のうち(回収率72.2%),要支援・要介護認定者を除く「自立高齢者」12,054人について分析した。調査票は個別に配布し郵送で回収した。調査内容には,基本属性,鳥羽らによる転倒リスク簡易評価指標 5 項目,日常生活圏域ニーズ調査基本チェックリスト25項目,老研式活動能力指標13項目を用い,高齢者の諸機能や生活機能の低下の有無を示す 9 つの指標(①運動機能,②低栄養,③口腔機能,④閉じこもり,⑤物忘れ,⑥うつ傾向,⑦ IADL,⑧知的能動性,⑨社会的役割)で調査した。分析は,性,年齢別の転倒リスクとその関連要因および性差をカイ二乗検定とロジスティック回帰分析により把握し,9 つの評価指標を独立変数,年齢と教育年数を共変量,転倒リスクを従属変数とするロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行って各要因による転倒リスクへの独立した影響を性別ごとに分析した。結果 本調査回答者の過去 1 年間の転倒率は20.8%で,転倒リスク高群は26.6%であった。転倒リスクは,男女とも加齢とともに高くなり,女性はすべての年齢層において男性よりも高かった。また,男女とも,すべての評価指標と転倒リスクとの関連がみられ,それぞれの要因を調整した結果では,男性は運動機能,低栄養,口腔機能,物忘れ,うつ傾向,IADL に,女性は運動機能,口腔機能,物忘れ,うつ傾向,IADL に有意な関連がみられ,運動機能低下は男女とも最も強い要因であった。性差では,低栄養,口腔機能は男性の方に,IADL,知的能動性は女性の方に転倒リスクとの関連が強かった。結論 地域在住自立高齢者の 5 人に 1 人は過去 1 年間に転倒を経験し,4 人に 1 人は転倒リスクを有していた。転倒リスクと 9 つすべての評価指標との間に有意な関連がみられ,とくに男女とも運動機能低下が最も大きかった。また,転倒リスクに影響する要因に性差がみられ,性別を考慮した支援策が必要と示唆された。
著者
田中 康一
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.417-438, 1995
被引用文献数
2 1

The author's purpose was to elucidate the mechanisms of the location and transfer of the headquarters of an enterprise.The author did a case study on an enterprise and used several kinds of numerical indicators and written statements from annual financial reports, corporate history book and other materials about the enterprise to explain the reasons for and the processes of the location and transfer of functional departments of its corporate headquarters, including those for purchasing, production control, sales, personnel, finance, general accounting, planning, general affairs, and the strategic decision making, with the help of theories of business management.For example, the transition of the financial ratios and the spatial distribution of financial sources of the enterprise were used to explain the location and transfer of its Finance Dept. and the transition of the spatial distribution of labor was used to explain those of its Personnel Dept.The implications resulting from the analysis of the differences and similarities between the transferring processes of those functional departments greatly helped to extract some common and important rules for the location and transfer of functional departments of the corporate headquarters.In this empirical analysis, Snow Brand Milk Products Co., Ltd. (founded in 1925), Japan's largest dairy products company, was selected as a case study.The main reasons for choosing this enterprise were the abundant data concerning its financing and location since its foundation, and its experience in transferring its headquarters from the city of Sapporo, the largest city of Hokkaido, the northernmost of Japan's four main islands, to the capital city of Tokyo, the location of the nation's largest money market, most of the headquarters of the nation's largest banks and of other private and/or public organizations, the most important market for selling products, and the location with the most efficient access for transportation, communication and information processing.The facts found in the empirical study are summarized as follows:1. Until the company established its management base in the Hokkaido area, its financing depended on the local financial institutions and its Finance Dept. was located in Sapporo. But, as the company gradually expanded its operational space nationally, the volume of financial demand dramatically increased and came to depend on large financial institutions based in Tokyo and finally the Finance Dept. was transferred to Tokyo. Its gradual transfer started in 1958, just before the company started its nation-wide expansion, and took about two years to finish. Simultaneously, the transfer of the General Accounting Dept., the Planning Dept., and the Board of Directors occurred.2. As the locations of its plants and sales offices expanded nationally, the distribution of its labor also dispersed nationally. Accordingly the Production Control Dept. and the Personnel Dept., transferred to Tokyo, seeking for the most efficient access infrastructure to secure a national scale of transportation, telecommunication and information processing. As for the Personnel Dept., its gradual transfer started in 1958 and took more than seven years to finish and for Production Dept. about 10years, while the Sales Dept. had been located in Tokyo since the foundation of the enterprise.3. The General Affairs Dept. transferred following the locational shift of other departments.4. These transferring processes all involved a gradual transfer of authority from Sapporo to Tokyo and a spatial division of business management/administration both between and within functional departments was observed.Possible rules for the location of the functional departments based on the facts above are as follows:1. The location of a corporate headquarters is subject to the location of its functional departments.
著者
廻角 侑弥 久保 峰鳴 福本 貴彦 今北 英高 藤井 唯誌 稲垣 有佐 田中 康仁
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.779-783, 2020 (Released:2020-12-19)
参考文献数
20

〔目的〕変形性膝関節症(膝OA)患者の歩行能力と自己効力感の関連性を検討することとした.〔対象と方法〕対象は膝OA患者67名とした.測定項目は,10 m歩行速度,Timed up and go test(TUG),自己効力感,疼痛,膝関節伸展筋力,足趾把持力,痛みの破局的思考とし,関係性を分析した.〔結果〕10 m歩行速度とTUGはそれぞれ,自己効力感,膝関節伸展筋力,足趾把持力,痛みの破局的思考との間に有意な相関関係を認めた.また,10 m歩行速度とTUGに影響する因子として,自己効力感と膝関節伸展筋力が抽出された.〔結語〕膝OA患者の歩行能力には歩行に対する自己効力感が影響することが示唆された.
著者
森田 秋子 小林 修二 濱中 康治 三吉 佐和子 飯島 節
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.708-711, 2005-11-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
6

脳血管障害発症後早期に半側空間無視 (unilateral spatial neglect 以下USN) を呈し, その後机上検査および行動観察において所見が認められなくなった患者の長期経過を追った. 症例1は61歳男性, 3年前の右被殻出血後に左USNが出現したが, その後机上検査および行動観察にてUSNは出現しなくなり自宅へ退院した. しかし, 百人一首遊びあるいは電動車椅子操作などのストレスのかかる場面で, 左USNが再び出現した. 症例2は62歳男性, 初回の右被殻出血後に左USNが出現したが, 退院時には机上検査, 行動所見ともに所見は認められなかった. 6年後あらたに右片麻痺をきたし, 大脳左半球の脳梗塞が疑われた. 再発作直後は両方向への注意低下を認めたが, 徐々に左USNが明らかに認められるようになった. 症例3は70歳男性, 64歳時に右被殻梗塞発症後早期に左USNが出現したが, その後机上検査でも行動所見でも認められなくなり自宅退院した. 6年後ADLと知的レベルの全般的な低下を来たし, 検査の結果左USNが再び検出された.3例では, 発症早期に机上検査と行動所見において明らかな左USNが認められたが, その後所見は出現しなくなった. しかし, 新規課題あるいは難易度の高い課題, 疲労時, 反対側に出現した脳梗塞などによりUSNが再び出現した.USNは, USNそのものの重症度, 患者の課題遂行能力および環境要因, の3つの要素の相対的な関係において出現様式が規定されるものと考えられた. 一度は検出できなくなったUSNが, 全般的注意機能の低下や環境変化などにともなって再び出現する場合があることは, 高齢者においてとくに注意すべきである.