著者
勝又 泰貴 竹井 仁 若尾 和昭 中村 学 美崎 定也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3O2113, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】 徒手療法の一手技である筋膜リリース(Myofascial Release;以下、MFR)は、穏やかな持続した伸張・圧力というその手技の特性から、可動域・アライメントの改善や急性・慢性の疼痛軽減を始めとして、パフォーマンスの向上など幅広く用いることができる。そのMFRを治療プログラムに取り入れることで機能障害が改善したという報告はいくつかあるが、MFRのみ施行時の効果と、1回の治療におけるMFRの効果の持続時間に関する報告はない。本研究では、MFRの効果の持続時間をスタティックストレッチングと比較し、効果の持続時間の違いを比較検討したので報告する。【方法】 対象者は腰部・下肢に既往のない健常者31名(男性16名、女性15名)で、年齢・身長・体重の平均値(標準偏差)はそれぞれ25.0(2.4)歳、165.6(8.7)cm、56.3(9.0)kgであった。この31名を無作為に以下の3群に分けた。a.腹臥位で、大腿後面に対しMFRを片側ずつ各180秒施行したMFR群10名、b.背臥位で股・膝関節90°屈曲位にて膝関節を伸展していき、ハムストリングスに対しストレッチングを片側ずつ各30秒、3セット(15秒のインターバル)施行したストレッチング群11名、c.介入なく測定のみを繰り返した対照群10名とした。 測定項目は自動・他動運動時における左右下肢伸展挙上角度(Active・Passive Straight Leg Raising angle;以下、ASLR、PSLR)、立位体前屈(Finger Floor Distance;以下、FFD)、長座体前屈(Sitting Forward Extension;以下、SFE)とし、SLRは5度単位で、FFDとSFEは0.1cm単位で測定を行った。また、SFEは足底を基準の0cmとして測定した。それぞれの介入前・直後・30分後・60分後・120分後・介入直後と同時刻の1日後・2日後に各項目を測定した。測定結果はそれぞれ、介入前との変化量を介入前で除した変化率(%)にて解析した。統計解析はSPSS ver12.0を用い、3群の年齢・身長・体重および各測定項目の介入前について分散分析とその後の多重比較(Tukey HSD法)を用い検討した。その後、各測定結果の性差は対応のないt検定を、SLRの左右差は対応のあるt検定を行いその影響について検討した。また、3群の各時期間の比較についてはTukey HSD法を用い、各群における介入前と比較した各時期の差はBonferroni法にて解析した。有意水準は5%とした。【説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に基づき、事前に本研究の目的と内容および学会発表に関するデータの取り扱いについて説明し、十分に理解した上での同意を得て実施した。【結果】 各群において年齢・身長・体重・各測定項目の介入前に有意差を認めなかった。また、性差と左右差に有意差を認めなかったため、男女ともに各測定項目の結果を同一に取り扱い、全被験者のASLRとPSLRの結果を左右平均して取り扱った。測定項目ごとに3群と時間的経過を2要因として二元配置分散分析後の多重比較の結果、ASLRはMFR群で全時期においてMFR群は対照群に比較して有意な増加を認めた。PSLRは全時期においてMFR群は対照群に、また、60分後以降はストレッチング群と比較して有意な増加を認めた。FFDは群と時期に有意差を認めなかった。SFEは1日後までMFR群は対照群に、また、30分後・120分後・1日後 でストレッチング群と比較して有意な増加を認めた。各群における介入前と比較した各時期の差については、MFR群のみASLR・PSLRで各時期に有意な増加を認め、SFEで1日後までに有意な増加を認めた。【考察】 本研究の結果より、MFRの効果は1日以上持続することが分かった。MFRとストレッチングの効果の持続時間という点では、明確に二つの手技に差を認めることはできなかったが、PSLRでMFRは60分後以降にストレッチングと比較して有意な増加を認めたことから、MFRはストレッチングに比べ他動運動時の伸張性の改善あるいは疼痛閾値の上昇を期待でき、その効果はストレッチングより持続すると考える。今回、FFDに有意差が出ずSFEに有意差が出た要因として、FFDでは上半身の自重によりハムストリングスの遠心性収縮が起き、慎重性の改善効果が減少してしまったのに対し、SFEでは重力の影響を受けず、ハムストリングスの伸張性の向上により骨盤が前傾した分だけ改善したと考える。【理学療法学研究としての意義】 MFRの効果の持続時間を明らかにすることで、治療プログラムの立案、治療頻度を考慮する上での参考となると考える。また、本研究を参考にその効果を延長させる方法なども今後の検討課題と考える。
著者
石田 真也 井上 昂治 中村 静 高梨 克也 河原 達也
雑誌
第79回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, no.1, pp.239-240, 2017-03-16

本稿では,傾聴対話システムにおける多様な応答の種類の選択や内容について述べる.近年,人間がロボットやエージェントと対話する機会が増えており,その中でも人間と自然な雑談を行えるシステムの研究が盛んである.本研究では,より自然な傾聴対話システムを構築するため,音声状態のユーザの発話を入力として,それに対する「掘り下げ質問」,「繰り返し応答」,「語彙的応答」,「自分語り」,「評価応答」の全ての応答を生成し,そのうちから文脈や先行発話の特徴を基に,統計的に適切な応答を1つ選択し,出力するシステムを提案する.
著者
鮫島 達夫 前田 岳 土井 永史 中村 満 一瀬 邦弘 米良 仁志 武山 静夫 小倉 美津雄 諏訪 浩 松浦 礼子
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.126-133, 2000

神経ブロック, 各種薬物療法などの効果なく, 反応性にうつ状態を呈した帯状疱疹後神経痛 (PHN) 10例に対し電気けいれん療法 (ECT) を施行し, その長期観察を行なった. 全例で持続性疼痛, 発作性疼痛, allodynia がみられ, 意欲低下, 食思不振など日常生活に支障をきたし, 抑うつ症状がみられた. 第1クールでこれらは改善したが, 7例に2~26カ月で疼痛, allodynia の再発がみられた. Allodynia の再発は, 知覚障害のある一定部位にみられ, 徐々に拡大した. しかし, 抑うつ症状の増悪はなかった. ECT第2クールは, 第1クール後5~26カ月後に施行し, より少ない回数で同様の効果を得ることができたことから, ECTの鎮痛効果に耐性を生じにくいことが示唆された. 以上より, ECT鎮痛効果は永続的ではないが, 1クール後数週間に1回施行する維持療法的ECT (continuation ECT: ECT-Cまたは maintenance ECT: ECT-M) を施行することで, 緩解維持できる可能性が示された. 対象に認めた抑うつ症状は疼痛の遷延化による2次的なものであり, 抑うつ症状の改善もECTの鎮痛効果による2次的産物であることが示唆された.<br>ECTは「痛み知覚」と「苦悩」の階層に働きかけるものであり,「侵害受容」,「痛み行動」には直接効果を示さないことから, その適応には痛みの多面的病態把握, すなわち生物-心理-社会的側面からの病態評価が必要となる.
著者
中村 一樹 大田 佳奈 佐伯 友夏里
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.I_909-I_917, 2018 (Released:2019-01-10)
参考文献数
31

近年開発が進むVR技術や生理評価手法は,体感型の評価ツールとして,多様なルート環境を動学的に評価することを可能としている.そこで本研究では,体感型評価ツールを用いた歩行ルート評価の基礎的分析を行い,その特徴を整理することを目的とする.まず,VRと生理指標による空間評価手法について文献レビューを行い,歩行空間評価における体感型評価の可能性を整理した.そして,基礎的な実験によりこの可能性を例証するため,VRの視覚ツールとしての特徴を把握し,ケーススタディ地区においてVRと心拍による歩行ルート評価結果を比較した.この結果,VR評価と心拍評価で新たな歩行空間評価の可能性を示す整合的な結果が見られ,これらの組合せ評価の潜在的な有用性が確認された.
著者
藤木 卓 森田 裕介 全 柄徳 李 相秀 渡辺 健次 下川 俊彦 柳生 大輔 上薗 恒太郎 中村 千秋
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.395-404, 2006
参考文献数
16
被引用文献数
5

日韓の中学校間において生徒同士の討論を含む授業を行うために,インターネット上で高精細動画の伝送が可能なツールを用いて,2箇所の授業会場と司会・通訳会場の3地点を結ぶ遠隔授業を実践した.この授業では,交流授業の後「海を越えてエネルギの未来を考えよう」をテーマに,電気エネルギの利用や夢の発電に関する討論を行った.そして,授業及びトラフィックと伝送画質,対話支援環境,遅延の影響を検討し,以下の結論を得た.日韓間の中学校において,高精細動画と翻訳チャット,Web-GIS教材を用いた遠隔授業が実践できた.主観評価から,学習者,教師,参観学生にとって有用性の高い授業であったことが分かった.トラフィック評価から,福岡-長崎間では安定した通信ができたが,福岡-光州間では十分な帯域が確保できなかった.伝送画質評価から,福岡-長崎間の対面型の画質はPQR2.4〜3.4,福岡-光州間はPQR9.1〜13.5を示した.翻訳チャットやWeb-GIS教材の利用は,授業中の対話支援に有用であった.遅延の影響は,通訳や発言調整により目立たなかった.
著者
岡本 有紀子 中村 康夫 工藤 正治
出版者
一般社団法人 日本医薬品情報学会
雑誌
医薬品情報学 (ISSN:13451464)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.82-93, 2021-08-31 (Released:2021-09-25)
参考文献数
14

Objective: The guidance on “what to do when patients missed a dose” is an important item of medication instructions; however, only a small number of prescription drugs contain it. The “Drug Guide for Patients” and “Kusuri-no-Shiori” are documents designed to facilitate medication instructions for patients, having a section on “what to do when patients missed a dose.” Specific descriptions under it differ among medication instruction documents for some drugs, including those containing the same active pharmaceutical ingredients; however, the actual status of such discrepancies has not been clarified. In this study, we conducted a fact-finding survey to clarify such discrepancies using two medication instruction documents for drugs containing the same active pharmaceutical ingredients.Methods: The medication instructions of “Drug Guides for Patients” and “Kusuri-no-Shiori” for 532 active pharmaceutical ingredients used in oral drugs were included in the survey. After reading the descriptions under the “what to do when patients missed a dose” section, we divided them into six groups and determined whether the descriptions for the same ingredient in the documents fell in the same group.Results: For 186 ingredients (35.0%), we identified discrepancies between the documents. Among these, the instructions for 61 ingredients (11.5%) contained contradicting descriptions, such as “take the missed dose as soon as you remember” in one document and “always let go of the missed dose” in another document.Conclusions: A substantial number of discrepancies in descriptions about “what to do when patients missed a dose” were found between the two documents, raising concerns of confusion in medication instructions when the documents used were different. Therefore, the descriptions should be improved to resolve the discrepancies among medication instruction documents. Moreover, it is important for pharmacists or other healthcare professionals to review the descriptions thoroughly before using the document to provide appropriate medication instructions without confusion.
著者
岸本歩 宮地修平 西村真美 中村友美
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.857-861, 2019-03-01

吃逆(しゃっくり)は横隔膜の不随意のけいれん性収縮によって生じ,吸気が閉鎖している声門を急激に通過するために特有の音が発生する。通常反復して発生するが,一過性のことが多い。しかし長時間持続し,食物摂取困難,不眠,精神的疲労をきたすこともあるため,その治療法を十分に知っておく必要があると言われている。薬物治療においては,クロルプロマジンを除き適応外使用であるため,エビデンスに乏しい。独立行政法人国立病院機構姫路医療センターでは,吃逆の治療薬として院内製剤の柿蔕(シテイ)の煎じ薬が使用されている。我々は薬剤師として,とりわけがん化学療法中の患者に使われる事例を多く経験したので,それらの事例解析をとおして,柿蔕の位置づけを考察した。
著者
河岸 重則 小川 孝雄 中村 修一 田中 敏子 安部 一紀 深井 穫博
出版者
九州歯科学会
雑誌
九州歯科学会雑誌 (ISSN:03686833)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.258-263, 2000
参考文献数
9
被引用文献数
1

ネパール王国テチョー村における国際保健医療協力の一環として, 1997年に村人の健康に直結する生活用水の水質調査を実施した.村では水道水不足のため, 溜め池の水や湧き水も生活用水として利用されていた.このため, 水道の水源, 水道施設, 溜め池, 湧き水などから採取した試料について, 一般細菌など健康に関わる基本的な12項目について検査を実施した.この調査で明らかになった問題点の一つは, 全ての試料で砒素が検出され, 特に湧き水と溜め池の水ではかなり高い値を示したことである.しかし, この調査では簡易測定法で実施されたため正確な砒素濃度は不明であった.そこでこの度, 原子吸光法を用いて砒素の精密測定を実施した.試料は水道施設, 溜め池, 湧き水について前回と同じ場所で採取した.砒素の精密分析は現地では不可能なため, 帰国直前に採水し, 九州歯科大学で行った.その結果簡易法と異なり, 原子吸光法ではいずれの試料にも砒素は検出されなかった.砒素の簡易測定法は, 他の測定項目に比して適用範囲が狭く, 測定は慎重に行うべきことが示唆される.いずれにせよ, この結果は村の水は砒素に関しては安全であることを示す.また, 前回検査しなかった残留塩素についても, 簡易法により測定した.水道水は一応さらし粉処理されていたが, 残留塩素は検出されなかった.これはこの水には容易に細菌が繁殖しやすい可能性がある事を示し, 早急な対策が必要である.さらに, 我々は以前フッ素洗口の実施に先立ち簡易法でフッ素の測定を行っていたが, 今回精密測定を実施した.全ての試料でフッ素濃度は0.2 mg/l以下であった.これは以前の結果を確証し, フッ素洗口の意義の根拠を与えるものである.
著者
木内 敦詞 中村 友浩 荒井 弘和 浦井 良太郎 橋本 公雄
出版者
公益社団法人 全国大学体育連合
雑誌
大学体育学 7.1 (ISSN:13491296)
巻号頁・発行日
pp.69-76, 2010-03-15 (Released:2018-01-09)

生活習慣と学力が関連することはこれまで経験的に述べられてきた.しかしながら,それを十分に裏づける学術的データはわが国においてほとんど提出されていない.本研究は,大学初年次生の生活習慣と修学状況(取得単位数)との関係を明らかにすることを目的とした.近畿圏にある工科系大学男子1068名が本研究に参加した.彼らの初年次前期取得単位数は以下のとおりであった;25単位以上(52%,N=554:A群),20-24単位(30%,N=317:B群),15-19単位(12%,N=131:C群),15単位未満(6%,N=66:D群)。前期授業終了時における健康度・生活習慣診断検査(DIHAL.2,徳永2003)から,以下のことが明らかとなった.すなわち,「食事」「休養」尺度および「生活習慣の合計」において,D<C<B<A群の順位傾向とともに,D群に対するA群の有意な高値(P<.01)が示された.特に,「食事の規則性」「睡眠の規則性」スコアにおいては,明確なD<C<B<A群の順位性とともに,食事や睡眠を軸とした"規則的な生活リズム"の重要性が示された.これらの結果は,大学入学直後から教育の枠組みの中で,健康的なライフスタイル構築のための健康教育を実施することの必要性を支持している.
著者
金 幸夫 鳥巣 岳彦 中村 雅彦 黒木 健次 多治見 新造
出版者
West-Japanese Society of Orthopedics & Traumatology
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.32-36, 1990-10-25 (Released:2010-02-25)
参考文献数
12

We reported a case of a 58-year-old man who sustained dislocation of the knee with patella tendon rapture.Primary operative treatment was carried out. The treated knee was placed in a cast for seven days, then early quadriceps exercise was started. One year after surgery, the knee was stable and painless with flexion movement from 0 to 120 degrees.
著者
饗場 篤 中村 健司
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

本研究では、化学発がん物質をH-ras遺伝子欠損マウスに用いて、発がんにおけるH-ras遺伝子の役割を直接検証すること、および新たながん遺伝子を単離することを目的とした。H-ras遺伝子欠損マウスおよび野生型マウスにDMBAの単回投与およびTPAの反復投与により、パピローマの形成能を調べた。その結果、野生型では一匹あたり、平均約16個のパピローマが観察されたのに対して、H-rasヘテロ型欠損、ホモ型欠損マウスでは、その2分の1、および7分の1程度の数のパピローマしか観察されなかった。このことはH-ras遺伝子がパピローマの形成において重要な役割を果しているが、その形成に必須ではないことを示している。また、パピローマのDNAを抽出し、H-,K-,N-rasのすべてについて12,13,61番目のアミノ酸残基をコードするDNA塩基配列を決定したところ、野生型マウスに形成されたパピローマのDNAではすべてH-rasの61番目のコドンに突然変異が検出された。一方、H-rasホモ型欠損マウスに形成されたパピローマのDNAでは半数以上でK-ras遺伝子の12,13,61番目のコドンのいずれかに突然変異が検出され、他のパピローマでは、K-,N-ras遺伝子のいずれにも突然変異は検出されなかった。この結果により、K-ras遺伝子の活性化によってでも皮膚パピローマの形成はおこることを初めて示すことができた。今後は同様の系を用いて、腫瘍の悪性化にどのようにH-ras,K-ras遺伝子および他の発がん遺伝子が関与しているかを検討したい。
著者
中村 久美 今井 範子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.561-572, 2004

屋外物置購入世帯を対象に調査を行い, その購入経緯や収納状況を明らかにするとともに, 居住者の収納に関わる生活スタイルとの関連から, 屋外物置の位置付けやあり方を考察した.結果を以下に要約する.<BR>1) 屋外物置の収納内容を詳細に見ると, 屋外使用品のみ収納している世帯が45%をしめる.中高年層を中心に, 屋内使用の日常品や, 季節用品などの非日常品を収納している世帯も少なくない.さらにびん・缶などの資源ゴミの保管場所として活用されることも多い.<BR>2) ほとんどの世帯が, 収納スペースの不足する部屋を指摘している.屋外物置の収納物は, 収納スペース不足の指摘のある居室に対応するモノであり, 住宅諸室からあふれ出たモノを, 屋外物置に収容していることが確認できる.<BR>3) モノの持ち方や片付けに対する生活態度, 意識より, 収納に関わる生活スタイルをみると, 物持ちがよくそれらをきちっと管理する「こだわりタイプ」 の世帯が半数をしめる.とにかくモノを持つことに価値をおく「とりそろえタイプ」も3割存在する.一方限られたモノをきっちり管理する「すっきりタイプ」やモノを持つことも整理することにも消極的な「あっさりタイプ」は少数派である.<BR>4) 屋外物置の位置付けとして, 1つは, 屋外使用の生活用品, 用具の収納庫としての使い方がある. 実際に収納される屋外使用品は, 積雪地域特有の生活用品や, 温暖地域のガーデニング用具, あるいはスポーツ, レジャー用品など, 地域性を反映する.「すっきりタイプ」の居住者はこの種の使い方が多い.このタイプは若年層が多いことから今後このような使い方は増えると考えられる.<BR>5) 「こだわりタイプ」を中心に, 住宅内にあふれるモノを受け入れることで, 居住スペースの確保と住宅内収納スペースの有効利用を図る使われ方がされており, 住宅内収納空間の不適応を補う, 消極的な意味ながら, 屋外物置を設置する意義は見出しうる. 一方, 屋外物置は一時収納, 処分保留のスペースと位置付けて使われる場合もあり, 住み手がモノの保有や管理のあり方を考えるうえで, 以前の蔵や納戸に替わる有効なスペースとして積極的に評価できる.また, 資源ゴミの分別保管場所としての用途は, そのスペースがまだ一般には住宅内に確保されていない現状では貴重である.<BR>6) 屋外生活品の専用庫として使われる物置は, 収納物とそれに対応する設置場所ごとに, ふさわしいデザインが求められる.一方, 住宅内の収納スペースの延長として使われる場合, 屋内生活品を含めた多様な収納物に配慮して, 耐久性, 棚数, 換気などへの配慮を要する.
著者
中村 克明
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.109, pp.177-232, 2006

本研究文献目録は,大正デモクラシー期を中心に活躍した軍事評論家・水野広徳に関する諸資料を収録したものである.作成の目的は,近代日本を代表する平和主義者でありながら,ほとんど忘れられた存在になっている水野とその思想の全貌を解明するための資料を書誌の形で研究者,市民に提供することである.ここでは,諸資料を「著作の復刻等」「研究書・伝記」「小説・エッセイ」「書誌」「辞典・事典」「年表」「論文の復刻」「雑誌論文・記事」「雑誌小説」「新聞記事」「ホームページ」の11項目に分類し,各項目中は--「雑誌小説」=著者(名)別・年月日順,「新聞記事」=新聞別・年月日順,「ホームページ」=URLのアルファベット順である以外は--それぞれ(原則として)出版年順に排列した.収録した資料は,1945(昭和20)年11月から2006(平成18)年10月まで(ただし,「新聞記事」に関しては1984[昭和59]年8月から2006[平成18]年11月中旬まで)に出版(発行)されたものとした.なお,「ホームページ」については2006(平成18)年11月2日時点でのURLを記した.本研究資料目録が,水野研究の進展に些かなりとも寄与できるものとなるならば幸いである.
著者
中村 純夫
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.57-66, 1997-03-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

1.大阪府高槻市でハシボソガラスについて,1990年から1992年まで親子関係の変化を調べた。変化の過程は,4つの段階に分けることができた。2.第1段階:巣立ちから,幼鳥が独自に餌を取るようになるまで。親は子の接近を受容し,攻撃的反応を示さなかった。3.第2段階:まず雄親が幼鳥の接近に対して,牽制や威嚇で応じるようになり,親子の間合いが広がった。雌親は始めは受容的だったが,後に雄親と同じ反応を示した。幼鳥は親のなわばりの外での活動時間を増やしてゆき独立に向った。4.第3段階:両親ともに幼鳥に対してにわかに攻撃的になり,幼鳥は家族ねぐらから出て,生活の中心を親のなわばりの外に移した。その後,同腹の幼鳥は別々に行動するようになった。5.第4段階:親のなわばりへの滞在は更に減少し不規則になり,接近時には必ず牽制や威嚇を受けた。次の繁殖開始までには,親のなわばりに寄り付かなくなった。6.雄親は第2段階と第3段階で雌親より攻撃性が高かった。第2段階の始めに雌親が受容的であったのは,急激な変化を避ける効果があった。第3段階で両親がそろって厳しい態度になったことが,幼鳥の独立を決定づけた。7.幼鳥の発達に応じて親は次の段階への移行を調節している可能性がある。また幼鳥が独立してゆく節目である,親のなわばり内での観察時間が減少し始めた時期と同腹の幼鳥が別行動を取るようになった時期が両年で一致していた。独立を決定する要因が親子間の対立だけではないことを示唆している。8.幼鳥が第2段階以降のどこで独立するかを決める要因としては,親のなわばりの餌条件や親がなわばりを保持する期間などが考えられる。