- 著者
-
吉田 航
- 出版者
- 日本教育社会学会
- 雑誌
- 教育社会学研究 (ISSN:03873145)
- 巻号頁・発行日
- vol.107, pp.89-109, 2020-11-30 (Released:2022-06-20)
- 参考文献数
- 32
高等教育の学校歴が初職に与える影響は,先行研究によってくり返し検討されており,大学選抜度が初職の企業規模に与える効果が一貫して確認されてきた。一方で,学校歴の位置づけを企業側から捉えた研究は少なく,とくにその企業間異質性についてはほとんど検討されていない。そこで本稿では,どのような制度・慣行を持つ大企業で高選抜度大学からの採用が多いのかについて,大学別採用実績データの計量分析を通じて検討した。 学校歴が入社後の訓練可能性を表すシグナルとして捉えられてきたことを踏まえ,採用時に訓練可能性が重視される程度と関連する制度・慣行として,技術職採用制度と長期雇用慣行に着目した。技術職採用を行う企業では,一般的な訓練可能性よりも特定の職務能力が重視されると想定し,上位大学からの採用が少なくなると予想した。一方,平均勤続年数が長い企業では,長期的な企業内訓練(OJT)がより実施される傾向にあると想定し,上位大学からの採用が多くなると予想した。 分析の結果,技術職採用を行う企業では,上位大学からの採用が少なくなる傾向が概ね確認された。さらに,平均勤続年数が長い企業では,上位大学からの採用が一貫して多くなっていた。これらは,学校歴を訓練可能性のシグナルとみなしてきた想定を支持する経験的な知見であると同時に,長期安定雇用が維持されている企業への就職に学校歴が寄与している可能性も示唆している。