著者
吉田 邦夫
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

現生の日本産漆液資料については、前年度に測定した岩手県、兵庫県、岡山県に続き、北海道網走、福島県、茨城県、京都府、岡山県の漆液資料を入手し、一定条件で酸化重合により硬化させ、漆塗膜を作成した。必要量を処理して、ストロンチウム同位体比を測定した。北海道の値がやや低<、^<87>Sr/^<86>Sr=0.705を示したが、他の資料は、0.7065-0.709の範囲に収まり、日本の8産地から入手した日本産漆はすべて、中国産の値が分布する0.712〜-0.715の範囲とは、明確に分離できることを確認した。漆塗膜のストロンチウム濃度に関して、中国産4資料は、5〜6ppmの値で、ほぼまとまった値を示すのに対して、日本産は、2〜5ppmのグループと、11〜14ppmを示す比較的高濃度のグループに二分されている。二つのグループは、列島における地域的な特徴を示しているわけではない。いくつかの産地について、栽培土壌のストロンチウム濃度を分折中である。縄文漆についての試行的な分析を行った。新潟県胎内市の野地遺跡(縄文時代後期後葉〜晩期前葉)から出土した漆資料を用いた。漆容器と思われる土器に付着した黒色漆について、漆塗膜と同様な処理を行い、同位体比の測定を行った。ストロンチウム濃度は、1.9ppmと低い値であった。ストロンチウム同位体比の値は日本産漆の領域、0.710以下を示している。資料が土器に付着した漆であったため、土壌が混入している恐れがあり、資料調製の方法に課題が残っているが、残渣のストロンチウム濃度が僅少であることを確認している。この資料は約3000BPの年代を示す資料で、埋蔵中の続成作用による影響はそれ程大きくないことが推定される。縄文時代の漆が列島産であることを、初めて明らかにすることが出来た。同遺跡の漆資料についでは、年代測定、熱分解-ガスクロマトグラフィー-質量分析計、FT-IR、断面分析、EPMA分析など、多方面からの総合的な分析を行っている。
著者
多川 則子 吉田 俊和
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.126-138, 2006

The present study examined the effects of daily communication on favorability in the perception of romantic relationships, with reference to Matsui's (1990) Developmental Stage Model of Romantic Love. The 484 participants were divided into three categories according to their current relational status: romantic relationships (154 undergraduates), one-sided non-mutual relationships (205 undergraduates), and regular heterosexual friendships (125 undergraduates). The latter two groups were included for comparison. Sternberg's (1997) Triangular Love Scale was used in order to measure favorability in participants' relationships. A separate scale was used to record information relating to daily communication. Participants were asked various questions regarding their relationships. Some examples included, 'Exchanging talk about daily events','Having a relationship-specific verbal style', and 'Perceiving the partner's reaction'. For the purposes of this study,'Exchanging talk about daily events' was discussed in terms of messages regarding content and relational meaning (Watzlawick, Bavelas, & Jackson, 1967). And 'Having a relationship-specific verbal style' was discussed in terms of relational culture (Wood, 1982). The results indicated that the all daily communicational behavior mentioned above influenced the level of favorability of romantic relationships.
著者
松田 ユリ子 吉田 美穂
出版者
東京大学大学院教育学研究科
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.179-190, 2015-03-31

This case study investigates students ’ inquiry-based learning process, by analyzing the relationship between their motivation for learning and learning-support environment. Qualitative methods were used to conduct a case study of one inquiry based learning class of 16 students in a high school with low prestige in Japan. The results showed that 13 students out of 16 (81.3%) enjoyed learning, though they encountered various difficulties in inquiry process. Key factors of developing students'motivation for learning through inquiry based learning are : 1) the subject teacher and the school librarian's flexible and observant responses according to students'difficulties encountered in the inquiry process, 2)supportive friends, families and others, 3) adequate teaching strategies and materials and 4)free and open environment of school library and supportive school culture.
著者
篠原 ひとみ 兒玉 英也 吉田 倫子 成田 好美
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.499-506, 2009-01
被引用文献数
1

乳児期の夜泣きに関して,母親211人に対しアンケート調査を行った。その結果,乳児の母親の18%が夜泣きに直面しており,その中の3割程度が深刻な状況にあると予測できた。夜泣きの開始時期は,生後5〜7ヵ月と生後1ヵ月以内が多かった。夜泣きの開始時期が7ヵ月以降の場合では,夜泣きの継続月数が長引く傾向が認められた。生後3ヵ月以前に開始した夜泣きは,持続時間が長く時間帯が0〜1時のものが多く,一方,4ヵ月以降に開始した夜泣きは,2時以降に多く持続時間は短い傾向がみられた。児の性別,出生体重,授乳方法やさまざまな保育環境に関するパラメーターについて,夜泣きの有無に関連するものはみいだせなかった。一度目覚めるとなかなか寝ない児の割合が夜泣きのある児で有意に高かった(<005)。今回得られた情報は,乳児期における夜泣きへの看護介入の基本情報として,重要と考えられる。
著者
吉田 真吾
出版者
東京大学東洋文化研究所
雑誌
東洋文化研究所紀要 (ISSN:05638089)
巻号頁・発行日
vol.160, pp.79-126, 2011-12

In 1960, the U.S. and Japanese governments signed the new U.S.-Japan security treaty, replacing the old one which had been concluded in 1951. Why did these two governments decide to form the new treaty? While the process of the treaty negotiations which started in 1958 have received abundant scholarly attention, the question of why the two governments decided to launch the negotiations has not been scrutinized. To fill this void, this paper addresses the question and puts forward three main arguments as the reasons behind the formation of the new treaty. First, as the character of the Cold War shifted from military confrontation to political-economic competition in the mid-1950s, American policymakers feared that Japan might disengage itself from the U.S. and approach the Communist bloc, and thus deemed concessions to Japan's demands regarding U.S.-Japan security relations necessary. Second, since the military tensions of the Cold War had seemingly lessened, Japanese society started to criticize U.S. military presence in Japan and began to call for the creation of a more "equal" security treaty. Third, as a result of the U.S. combat forces'withdrawals, to which the two governments agreed to mitigate the criticism from Japanese society in 1957, Japanese policymakers grew concerned that the U.S. security guarantee to Japan had become less credible, which they sought to rectify by formalizing the U.S. defense commitment to Japan in the form of a new treaty.
著者
吉村 賢治 日高達 吉田 将
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.40-46, 1983-01-15
被引用文献数
31

文節内における単語間の連接規則を記述した文法規則を用いるべた書き日本語文の形態素解析では 日本語文としては不適当な解析を含む多くの解析結果が生じる.これらの解析結果から正しい解析を効率的に得る方法として ヒューリスティックな構報が利用される.従来 この手法としては最長一致法が用いられているが 根拠が明らかでないうえに解析結果に尤度による優先順位をつけることができないという根本的な欠点がある本論文では 解析結果の文節数によってその尤度を評価する文節数最小法を提案し この手法に適した表方式の形態素解析アルゴリズムを与える.アルゴリズムの能率は 最悪の場合に必要とするステップ数 メモリ数ともに入力文字列の長さnに対してΟ(n^2)である.また 1 000文の入力文に対して解析実験を行い 文節数最小法の有効性を確認した.その結果 960文については文節数が最小となる解析に正解が存在し 残り40文も一つ文節数が多い解析に正解が存在した.その他 能率 最初に出力される解析結果の誤り率 尤度による順位付けの能力についても最長一致法と比較実験を行った.最初に出力される解析結果の誤り率は 文節数最小法で7.0% 最長一致法で12.4%であり このことも文節数最小法の有効を十分示している.
著者
吉田 正章 佐々木 武 三町 勝久 松本 圭司
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

絵有方程式の又曲黒写像の離散的類似を得ることに成功した。この結果、離散正則関数及び離散曲面の特異点研究に或方向を与えた。(3,6)型超幾何微分方程式の測多価群が四型領域の離散部分群になる場合と、有限群になる場合に数論的関係があることを示した。空間内の平面配置特に6枚の場合に切り取られる図形を記述した。一般次元の舌寝超平面配置で切り取られる図形を組み合わせ的に調べた。FA型超幾何微分方程式の測多価群の生成元を求めた。
著者
草野 佑介 粟屋 智就 齊藤 景子 吉田 健司 井手 見名子 加藤 竹雄 平家 俊男 加藤 寿宏
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.445-448, 2015 (Released:2015-11-20)
参考文献数
9

Irlen症候群は視知覚の異常が原因とされる読字障害の特殊型である. 特定の遮光レンズ眼鏡やカラーフィルムにより症状が改善することが特徴とされているが, それらの効果には懐疑的な意見も多くIrlen症候群の存在自体にも議論がある. 今回, 我々は羞明などの視覚過敏症状を呈し, 遮光レンズ眼鏡の有無により読字能力が大幅に左右された読字障害の8歳女児を経験した. 遮光レンズ眼鏡がプラセボ効果である心因性視力障害の可能性は完全には否定できないものの, その症状や経過はIrlen症候群の特徴に非常によく合致していた. 本症例では, 遮光レンズ眼鏡非装用下では全く本が読めない状態から, 遮光レンズ眼鏡装用下では年齢相応の読字能力を示し, 何らかの光学的な情報処理の異常が読字に影響を与えていると推察された. Irlen症候群は現在では読字障害, 学習障害全般や一般人口を対照に曖昧にその概念を拡げているが, その科学的な意味付けには本症例のような特徴的な症例を集積する必要がある. 同時に, 遮光レンズ眼鏡という簡便な手法により容易に矯正されうる点で, 学習障害に携わる医療関係者や支援者が記憶しておくべき概念であると考えられる.
著者
吉田 忠義 乾 迪雄
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10, pp.1327-1332, 1980-10-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

くも膜下出血(SAH)に心室細動の合併した例を報告した.患者は51才の女性で, 1978年2月6日激しい頭痛,悪心,嘔吐とおよそ1分間の意識消失があり,某院に入院した.腰椎穿刺の結果SAHが疑われた.入院8日目に痙〓を伴う意識消失発作が出現し,その後1日3~4回同様の発作が続いたため,当科に転院した.意識は清明,軽度の項部硬直(+).腱反射に異常なく,病的反射も認めなかつた.運動麻痺や知覚障害もなかつた.軽度のうつ血乳頭を認めた.髄液は黄色調であつた.心電図は著明なQTc延長と巨大陰性T波を示した. CT scanは側脳室の軽度拡大を示した. four vessel studyで,右内頚動脈-後交通動脈の分岐部に嚢状動脈瘤と右内頚動脈終末部から中大脳動脈の3分岐部までに亘り,著明な動脈痙〓を認めた. 2月18日痙〓を伴う意識消失発作が起こつた.心電図は心室細動を示した.直ちに心マッサージ,酸素吸入,直流除細動, lidocaine, phenytoin, diazepamが投与され,心室細動は治療された. 4月5日脳外科で動脈瘤に対しclippingが行なわれた.術後経過よく, 5月13日に退院した. 5月12日の心電図ではまだQTの延長があつた. SAHの死因として,直接の脳病変によるものだけでなく,本例の如く同時に併発した心室細動による場合も示唆された.心電図上QTの延長している場合,心室細動が併発し易くなることを文献的に考案し, lidocaineなどの抗不整脈薬の使用が有用であると論じた.
著者
南 雅代 隈 隆成 浅井 沙紀 髙橋 浩 吉田 英一
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.128, no.1, pp.239-244, 2022-11-03 (Released:2022-11-03)
参考文献数
20
被引用文献数
1

Numerous carbonate concretion samples were collected during dredging around Nagoya Port in the 1960s. Most of the samples contained biological remains, including crabs, sea urchins, and bivalves, which formed their nuclei. In this study, the radiocarbon (14C) ages of the shells of the biological remains inside the concretions, as well as of the concretions themselves, were determined. Based on the metabolic carbon ratios of the bivalvia and sea urchin shells, which were calculated using δ13C values, the 14C ages of the shells and those of the metabolic carbon were estimated to be 7,350-7,050 cal BP and 9,680-9,430 cal BP, respectively. The 14C ages of the carbonate concretions were older than those of the shells due to the addition of metabolic carbon with older ages to the carbon of the concretion. The corrected age after removal of the old carbon was estimated to be 7,530-7,270 cal BP. The near-identical corrected ages of the shells and concretions indicate that the carbonate concretions in the Nagoya Port area formed rapidly after the death of the organisms, which is consistent with morphological evidence of rapid concretion formation in the sediment.
著者
石浦 良平 飯田 拓也 柿木 章伸 安藤 瑞生 吉田 昌史 齊藤 祐毅 山岨 達也 光嶋 勲
出版者
日本頭頸部癌学会
雑誌
頭頸部癌 (ISSN:13495747)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.76-78, 2017-04-25 (Released:2017-06-16)
参考文献数
7

外耳道癌は稀かつ予後不良な疾患である。その危険因子として過剰な耳かきが臨床上推測されているが,統計学的に検討した報告は少ない。今回,我々は当科で加療を行った外耳道癌患者14例を対象とし年齢,性別,耳かき頻度,耳かきに使用する道具の材質,罹患側,病理組織について検討した。また,本研究に同意を得た健常人69名を対象とし,年齢,性別,耳かき頻度,耳かきに使用する道具の材質について調査し患者群と比較検討した。その結果,50歳未満の若年群における患者群と健常人群間において,有意に耳かき頻度,および硬質素材を用いる率が高かった。今回の結果から,過剰な刺激の耳かきが外耳道癌発生を誘発する可能性が示唆された。
著者
吉田 寛
出版者
美学会
雑誌
美学 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.25-36, 2010-06-30 (Released:2017-05-22)

Scholars in many disciplines have talked about the "hegemony of vision" in the modern Western culture and philosophy. We also know that the most critical issue of modern philosophy of perception had been the compatibility between vision and touch, as viewed in the prolonged discussion of Molyneux's Question. But, on the contrary, we know very little about the significance of audition and hearing in the tradition of modern philosophy. This paper is thus intended as a historical sketch of the status of hearing, examining the texts of three philosophers. For Herder, the ear is the most nearest sense to the soul, and the audition stands in the middle of our five senses, dominating the others. But, at the same time, he also attaches great importance to touch, inheriting the tradition of Molyneux's Question, and therefore presupposes a kinship between hearing and touch. Kant exiles the ear from his conception of the critique of judgment, preferring the eye as a normative sense for disinterested and formal judgment. But he emphasizes a moral function of the ear in his critique of practical reason, as an organ hearing the voice of reason, i.e. the divine voice. The ear, finally, gains a definitive advantage over the eye with Hegel. He describes the progress of Romantic art from painting to music as a process of the "negation of dimension." In his view, time is negation (or sublation) form of space, and equally the audition is that of vision. We can say therefore that the hypothetical "hegemony of vision" was never stable, and the status of seeing has always been challenged and undermined by the hearing in the course of modern philosophy.
著者
吉田 正
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.852-856, 2019 (Released:2020-04-02)
参考文献数
10

80年の時を経た今となっても,核分裂発見の物語は分かりにくい。ここで扱う両大戦のあいだの7年間(1934〜1940年)はナチスの全権掌握から開戦までの苛烈な時代に一致し,発見に至る経緯はこの時代背景ぬきには理解しにくい。いつ,誰が,どう決定的なことを成したのかに焦点をあわせ,核分裂の発見という現代の我々にも計り知れない影響を与えた出来事を,人々の果たした役割や時代推移の節目ふしめに注意を払いながら見てゆく。
著者
高田 浩次 安達 茂樹 大塚 隆嗣 辻 昭一郎 吉田 公彦 戸倉 夏木 中野 太郎
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.96, no.1, pp.25-28, 2022-01-20 (Released:2022-01-28)
参考文献数
8

The reported major adverse reactions to COVID-19 vaccination are fever, headache, and malaise, but the possibility of other adverse effects should be considered. We encountered a patient who developed facial nerve paralysis with aseptic meningitis after COVID-19 vaccination. The patient was clinically diagnosed as having Ramsay Hunt syndrome, but there is the possibility that the vaccination contributed to re-activation of the varicella-zoster virus. Immediate treatment should be undertaken for facial nerve paralysis as well as critical anaphylactic shock, and careful observations should be made for the possibility of delayed adverse reactions, such as facial paralysis, to COVID-19 vaccination.
著者
佐藤 寛輝 張 思遠 本多 一貴 佐藤 颯哉 吉田 国光
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.3-15, 2023 (Released:2023-04-21)
参考文献数
31

本稿は,埼玉県行田市で毎週日曜日に開催されている「行田はちまんマルシェ」を事例にマルシェという空間の利用が,出店者の経済活動や日常生活にいかなる役割を果たしているのかを明らかにした。マルシェへ農作物や飲食物,工芸品などを出品する出店者が,各人の生産活動もしくは日常生活のなかで,マルシェでの直売という行為をどのように位置づけながら利用し,出店者にとっていかなる経験を生み出しているのかを分析した。そして,マルシェという空間の利用を通じて得られた経験,もしくはマルシェでの直売活動によって他所で得られた経験が生産者の経済活動や日常生活にいかなる役割を果たすのかを考察した。その結果,マルシェ自体は出店者にとって経済的機能を期待する空間とはなっていなかったが,出店者の出店を通じて様々なスケールで得た経験が常設店舗や他所の出店先での経済活動には直接的,間接的にポジティブに作用していた。この作用は経済規模として小さいものの,出店者のマルシェでの活動を媒介して中心市街地を超えた行田市という広い範囲に及んでいた。マルシェは開催を主導した自治体からみると商品を販売するイベントであった。他方,マルシェという空間を主に利用する出店者にとっては市場的価値を期待するものではなく,出店者のマルシェで得た経験は出店者が行田市各所で経済活動を展開させる際にポジティブに作用するものであった。
著者
吉田 喜久子
出版者
宗教哲学会
雑誌
宗教哲学研究 (ISSN:02897105)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.60-77, 1988 (Released:2018-03-15)

Im neuplatonischen Denken wird alles als Resultat der Entfaltung des Einen, der ersten Hypostase, angesehen. Das Eine, welches in keinem Sinne Differenz und Andersheit enthält, ist für alles Seiende einschließlich der menschlichen Seele sowohl der Ursprung wie auch Ziel, zu dem die Seele über den Geist, d. h. über die in sich durch Differenz relationale Einheit, zurückkehren soll. Die Einheit des Einen wurde innerhalb des Christentums vor allem von den mystischen Strömungen tradiert. Erstmals bei Meister Eckhart ist das neuplatonische Eine mittels der proklischen negatio negationis, doch im von Eckhart veränderten Sinne, zum entscheidenden Element einer christlichen Ontologie geworden. Obgleich das Eine bei Eckhart, das grundsätzlich wohl aus seinen religiös erfahrenen Überzeugungen stammt, nicht nur vom Standpunkt der historischen Einflüsse oder Zusammenhänge zu erklären ist, kann die Notwendigkeit, warum bei Eckhart das neuplatonische Eine sich mit dem christlichen absoluten Sein verbinden muß, schon im neuplatonischen Einen selbst gefunden werden. Wegen dieses Einen konnte Eckhart, anders als Thomas von Aquin, das Sein, welches die ganze Struktur der mittelalterlichen Metaphysik stützt, auf seine Absolutheit hin untersuchen. Doch das Eine ist bei Eckhart nicht nur die Einheit als einziges Wesen der Dreiheit Gottes, weil es sowohl ontologischer als auch soteriologischer Grund für die Beziehung des Menschen zu Gott ist.
著者
吉田 幸司
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.85-97,126, 2005-03-21 (Released:2011-05-30)
参考文献数
24
被引用文献数
6 3

2002年日韓ワールドカップ開催のために、候補地自治体は各地で新しいスタジアムを建設した。埼玉県によって建設された県営埼玉スタジアム2002も、その一つである。埼玉県はスタジアム建設当初から地元のJリーグチーム、浦和レッズのホームスタジアム誘致をめざしてきた。しかし、スタジアム完成から3年以上が経過しても、浦和レッズのホームスタジアムは、さいたま市営の浦和駒場スタジアムのまま、移転はなされずにきた。このホームスタジアム移転をめぐって、県とクラブはそれぞれの思惑で埼玉スタジアムの移転・使用の正当性の根拠として「公共性」を主張してきた。本稿ではまず、スポーツ社会学領域における公共性論を、暫定的に「スポーツの持つ公共性」を論じる立場と、「スポーツの創造する公共性」の可能性を探る立場という、二つの潮流として整理し、その上で、浦和レッズ・サポーターへの参与観察を元にした、事例研究を考察した。埼玉スタジアムを核とした「スポーツによるまちづくり」という公共事業が公共性=公益性を担保する、というロジックを「大義」とした埼玉県の思惑にレッズ・サポーターは一方的に屈服してしまうことなく、また表立って抵抗するわけでもなかった。だがそれでもホームスタジアム移転をクラブは留保してきた。その理由を「聖地」駒場で築き上げてきたレッズ・サポーターの「浦和スタイル」に見出す。本論文は、このホームスタジアムの移転に際して、これまで県やクラブの主張する公共性の「大義」に、レッズ・サポーターはかかわることがなかったことを踏まえ、それでもこの移転問題に「かかわらざるをえない」レッズ・サポーターを、その浦和スタイルから捉えかえす試みである。