著者
坂本 一仁 室園 拓也 太田 祐一
雑誌
研究報告セキュリティ心理学とトラスト(SPT) (ISSN:21888744)
巻号頁・発行日
vol.2020-SPT-37, no.3, pp.1-8, 2020-05-07

同意管理プラットフォーム (CMP : Consent Management Platform) とは,個人データに対する個人の同意を管理するためのソフトウェアまたはサービスである.2018 年 5 月から EU 一般データ保護規則 (GDPR) が開始され,Cookie のようなオンライン識別子およびそれらに紐づくウェブ上の行動履歴も個人データとして扱われることになり,今日では多くのウェブサイトに CMP の導入が進んでいる.しかしながら,EU や米国における CMP 導入ウェブサイトの推移は明らかになってきている一方で,日本国内における状況は不透明である.また CMP のユーザーインターフェース (UI) に着目し,サイト利用者の認知に関するユーザスタディや,UI が GDPR に準拠しているかといった研究は行われているが,利用者の UI 操作が真に CMP の内部挙動に反映されているかといった詳細な調査は行われていない.そこで本稿では以降に示す 2 つの Research Questions (RQ) に対応する調査を実施した.RQ1 : 日本向けウェブサイトにおいて,CMP 導入は増加しているか? RQ2 : CMP サービスの挙動は正確であるか?調査は日本向けウェブサイト約 18 万URLに対して実施され,調査の結果,日本においても特定の CMP サービスが増加傾向にあること,詳細設定機能が確認された CMP のうち,約 65%は利用者の UI 操作が正確に内部挙動に反映されていないことが判明した.
著者
太田 博樹
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.115, no.2, pp.73-83, 2007 (Released:2007-12-22)
参考文献数
68

現在100種を上回る生物種で全ゲノム塩基配列決定が進行中もしくは完了し,『ゲノム博物学』といった様相を呈している。ヒト近縁種については,ヒト,チンパンジー,マカクの全ゲノム・ドラフト配列が発表され,これらゲノム情報の種間比較により分子レベルから人類進化へアプローチする研究は10年前に比べ格段に容易となった。ゲノムワイドの種内比較研究もヒトで最も進んでおり,国際HapMapプロジェクトが組織され,3大陸(アフリカ,ヨーロッパ,アジア)人類集団から百万個以上のDNA多型マーカーが同定された。各生物種の全ゲノム配列やヒト多型データは,データベースが整備されインターネットを介して容易に入手できる。こうしたゲノム科学の進展は「ヒト」および「人」に関わるあらゆる学問,産業,思想に革命的なインパクトを与えることが予想され,既にそうなりつつある。産業との関連においては,シークエンスやタイピングの効率の向上に重きが置かれがちだが,データ解釈の正確さを忘れない姿勢が科学者のあるべき姿であろう。この点において人類学的視点をゲノム科学へフィードバックする重要性が今後さらに増すに違いない。本稿では,ゲノム科学をめぐる世界的動向を概説し,ゲノム科学と人類学の関わりについて議論する。
著者
原 正一郎 太田 尚宏 小山 順子 黄 昱 恋田 知子 神作 研一 齋藤 真麻理 高科 真紀 有澤 知世
出版者
人間文化研究機構国文学研究資料館
雑誌
国文研ニューズ = NIJL News (ISSN:18831931)
巻号頁・発行日
no.51, pp.1-16, 2018-05-07

●メッセージ国文学研究資料館情報システムの今昔物語●研究ノート読書時間は森の中――尾張藩「殿山守」資料に見る山間村落のひとこま――現代における古典文学コミカライズの傾向について●トピックス平成29年度 連続講座「初めてのくずし字で読む『百人一首』」平成30年度 連続講座「多摩地域の歴史アーカイブズ(古文書)を読む」特別展示 「伊勢物語のかがやき――鉄心斎文庫の世界――」第15回日本古典籍講習会(平成29年度)国際研究ワークショップ「江戸の知と随想」2017冬パリフォーラム「東アジアにおける知の往還」第一回――書物と文化――日本古典籍セミナー国際研究交流集会「災害国におけるアーカイブズ保存のこれから――技術交流・危機管理から地方再生へ――」平成30年度 アーカイブズ・カレッジ(史料管理学研修会通算第64回)の開催閲覧室だより第4回日本語の歴史的典籍国際研究集会の開催「古典」オーロラハンター3LOD Challenge 2017の最優秀賞に当館の「日本古典籍データセット」が使用されました総合研究大学院大学日本文学研究専攻の近況●表紙絵資料紹介山東京伝書簡
著者
貝瀬 利一 大屋-太田 幸子 越智 崇文 大久保 徹 花岡 研一 Kurt J. IRGOLIC 櫻井 照明 松原 チヨ
出版者
Japanese Society for Food Hygiene and Safety
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.135-141_1, 1996-06-05 (Released:2009-12-11)
参考文献数
40
被引用文献数
22 32

海藻中に含まれる有機ヒ素化合物アルセノ糖の毒性学的評価を培養細胞を用いて行った. 被験ヒ素化合物は有機化学的に合成し, 細胞増殖阻止試験, 染色体異常誘発性試験及び姉妹染色分体交換誘発試験について検討を行った. アルセノ糖の50%細胞増殖阻止濃度 (ID50) は2mg/mlで, 亜ヒ酸ナトリウムの毒性の1/2800, ヒ酸ナトリウムの1/300であった. 染色体異常は5mg/mlの濃度においても15%の頻度でしか誘発されず, また姉妹染色分体交換 (SCE) を起こさないことから, 細胞毒性の低いヒ素化合物であることが推定された.
著者
岩崎 泰昌 奈女良 昭 宇根 一暢 太田 浩平 木田 佳子 廣橋 伸之 谷川 攻一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.10, pp.797-803, 2014-10-15 (Released:2015-03-12)
参考文献数
12

室内など閉鎖空間での火災による傷病者は,熱傷の他に一酸化炭素中毒(CO)を合併することが多いが,同時に化学繊維などの燃焼で発生したシアン化水素の吸入によりシアン中毒を生じることがある。室内火災の現場から救出されCO中毒にシアン中毒を合併した1例を経験したので報告する。症例は18歳の男性。ビル内にある飲食店の一室で火災に巻き込まれて,消防により倒れているところを救助され,火災発生から約1時間後に当院救命救急センターへ搬送された。来院時,意識はGlasgow coma scale score 3,顔面にII度熱傷 7%,両手にIII度熱傷 5%を受傷しており,気道内に大量の煤を伴う気道熱傷を認めた。血中乳酸値は13.5mmol/Lで高度の乳酸アシドーシスを認め,carboxyhemoglobin(COHb)濃度は33.8%,来院から1時間後の血中シアン濃度は,4.3µg/mLであった。乳酸値は来院後12時間で正常化,100%酸素換気下でCOHb濃度は来院3時間後に5%以下,シアン濃度は来院4.5時間後に0.3µg/mLにそれぞれ低下したが,意識の回復は認めなかった。来院時の頭部CTでは,軽度の脳浮腫と皮髄境界の不鮮明化を呈し,第3病日には明らかな皮髄境界の消失と高度の脳浮腫が認められ,来院から6日後に低酸素脳症で死亡した。来院1時間後の血中シアン濃度は,致死レベルを越えていたことから,COHb濃度の上昇による酸素運搬障害に加えて,シアン中毒による脳細胞の細胞内窒息により,来院時からすでに高度の低酸素脳症が生じたものと考えられた。本症例では,シアン中毒の解毒薬であるヒドロキソコバラミンの投与はできなかったが,室内などの閉鎖空間での火災による傷病者に対しては,ヒドロキソコバラミンを早期に投与する必要性があると考えられた。
著者
太田 樹 内田 俊也
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.5, pp.906-916, 2015-05-10 (Released:2016-05-10)
参考文献数
6
被引用文献数
1 3

水電解質異常は,高齢化,薬剤の増加,原疾患と合併症および治療法の多様化とともに,日常臨床において遭遇する機会が増加している.中でも,水・ナトリウム(Na)代謝異常は頻度が高く,様々な疾患や病態に関連し,患者の生活の質や予後に直接影響する.脱水,低Na血症,高Na血症のいずれについても必要とされる基礎知識を再確認し,病態生理を理解して適切かつ迅速に診断と治療を行わなければならない.
著者
日本プライマリ・ケア連合学会 専門医部会運営委員会 アンケート班 遠井 敬大 村田 亜紀子 太田 浩 小宮山 学 大橋 博樹 草場 鉄周
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.243-249, 2016 (Released:2016-12-26)
被引用文献数
3 6

日本プライマリ・ケア連合学会(以下JPCAと略す)では,以前より専門医の育成に尽力してきた.家庭医療専門医が身につけている,外来・在宅・病棟診療において幅広い健康問題に適確に対応する臨床能力や継続的な診療から患者・家族との信頼関係を構築し地域全体の健康向上に寄与する能力は重要と考えられてきた.しかし実際に専門医がどこでどのように活動しているかは調査されたことはなかった.今国家庭医療専門医に対して現在の活動内容に関する実態調査を行った.それにより専門医の所在,提供している診療内容等が具体的に明らかになった.
著者
西川 友章 松澤 孝紀 太田 和晃 内田 直希 西村 卓也 井出 哲
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Subduction zone megathrust earthquakes result from the interplay between fast dynamic rupture and slow deformation processes, which are directly observed as various slow earthquakes, including tectonic tremors, very low-frequency earthquake (VLFs) and slow slip events (SSEs), and indirectly suggested by a temporal change in the frequency of repeating earthquakes and the occurrence of episodic earthquake swarms. Some megathrust earthquakes have been preceded by slow earthquakes and terminated near the areas where slow earthquakes were frequently observed. While capturing the entire spectrum of slow earthquake activity is crucial for estimating the occurrence time and rupture extent of future megathrust earthquakes in a given subduction zone, such an observation is generally difficult, and slow earthquake activity is poorly understood in most subduction zones, including the Japan Trench, which hosted the 2011 Mw9.0 Tohoku-Oki earthquake. Here we reveal the slow earthquake activity in the Japan Trench in detail using tectonic tremors, which we detected in the seismograms of a new ocean-bottom seismograph network, VLFs, SSEs, repeating earthquakes, and earthquake swarms. We show that the slow earthquake distribution is complementary to the rupture area of the Tohoku-Oki earthquake and correlates with the structural heterogeneity along the Japan Trench. Concentrated slow earthquake activities were observed in the afterslip area of the Tohoku-Oki earthquake, which is located to the south of the fore-arc geological segment boundary. Our results suggest that the megathrust in the Japan Trench is divided into three segments that are characterised by different frictional properties, and that the rupture of the Tohoku-Oki earthquake, which nucleated in the central segment, was terminated by the two adjacent segments.
著者
横畑 泰志 横田 昌嗣 太田 英利
出版者
広島大学平和科学研究センター
雑誌
IPSHU研究報告シリ-ズ (ISSN:13425935)
巻号頁・発行日
no.42, pp.307-326, 2009-03
被引用文献数
1

松尾雅嗣教授退職記念論文集 平和学を拓く
著者
今西 祐一郎 伊藤 鉄也 鈴木 淳 青田 寿美 呉 格 太田 尚宏 寺島 恒世 谷川 惠一
出版者
人間文化研究機構国文学研究資料館
雑誌
国文研ニューズ = NIJL News (ISSN:18831931)
巻号頁・発行日
no.31, pp.1-16, 2013-05-10

●メッセージ国文学研究資料館41年●研究ノート『和泉式部日記jの本文異同への新視点一傍記混入から見えてくるもの-合羽摺り絵本『彩色画選』とカラリスト松寿堂「蔵書印データベース」にできること-つながるデータ、可視化する書脈『中国古籍総目』の編纂について●トピックス平成24年度日本古典籍講習会人間文化研究機織連携展示「記憶をつなぐ一津波災害と文化遺産一」国文学研究資料館常設展示「和書のさまざま」百人一首たまてばこ平成25年度アーカイブズカレッジ(史料管理学研修会通算第59回)の開催新収資料紹介総合研究大学院大学日本文学研究専攻の近況.
著者
重宗 明子 三浦 清之 上原 泰樹 小林 陽 古賀 義昭 内山田 博士 佐本 四郎 笹原 英樹 後藤 明俊 太田久稔#清水博之#藤田米一#石坂昇助#.中川原捷洋#奥野員敏#山田利昭#小牧有三#堀内久満#福井清美#大槻寛#丸山清明
出版者
農業技術研究機構中央農業総合研究センター
雑誌
中央農業総合研究センター研究報告 (ISSN:18816738)
巻号頁・発行日
no.16, pp.17-37, 2011-03

「華麗舞」は1979年に北陸農業試験場(現中央農業総合研究センター・北陸研究センター)において,超多収品種の育成を目的として,インド型多収品種「密陽23号」を母とし,日本型多収品種「アキヒカリ」を父とする人工交配を行って育成された品種である.1990年から「北陸149号」の系統名で関係各府県における奨励品種決定調査試験およびその他の試験に供試してきたものであり,2006年10月4日に新品種として「水稲農林415号」に命名登録された「華麗舞」の特性の概要は以下のとおりである.1. 出穂期は「コシヒカリ」より4~5日早く,成熟期は「コシヒカリ」より5~9日早く,育成地では"中生の早"である.2. 稈長は「コシヒカリj」より20cm程短く" 短",穂長は「コシヒカリ」より長く" やや長"穂数は「コシヒカリ」より少なく"少",草型は"穂重型" で,脱粒性は"難"である.粒形は"細長"である.千粒重は「コシヒカリ」よりやや軽い. 3.収量は,標肥では「コシヒカリ」より少ないが,多肥では「コシヒカリ」並である.4.炊飯米は, 「コシヒカリ」.「日本晴」よりも粘りが少なく,硬い.表面の粘りが少ないのでとろみのあるカレーソースとのなじみが良く,カレーライスへの嗜好性が高い.5. いもち病真性抵抗性遺伝子はPiaとPibを併せ持つと推定され,葉いもち圃場抵抗性は"中",穂いもち圃場抵抗性は不明である.穂発芽性は"やや易",障害型耐冷性は"極弱"である.
著者
越村 俊一 江川 新一 久保 達彦 近藤 久禎 マス エリック 小林 広明 金谷 泰宏 太田 雄策 市川 学 柴崎 亮介 佐々木 宏之
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2021-07-05

リアルタイムシミュレーション,センシングの融合による広域被害把握,被災地内外の人の移動と社会動態把握,医療需要および被災地の医療活動状況を入力としたマルチエージェントシミュレーションで構成する仮想世界でのwhat-ifの分析を通じて,物理世界となる被災地での災害医療チームの活動を支援するための「災害医療デジタルツイン」を構築する.災害医療の最前線で活動する研究者との協働を通じて,南海トラフ連続地震により連続して来襲する津波のリスク下において,医療システムの一部の機能が一定期間低下しても,被災地内外の災害医療の機能を速やかに回復できる医療レジリエンスの再構築を先導する.
著者
越智 知子 木下 葉子 太田 千穂 丸山 武紀 新谷 〓 菅野 道廣
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
日本油化学会誌 (ISSN:13418327)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.275-283, 1996-03-20 (Released:2009-10-16)
参考文献数
15
被引用文献数
2 3

輸入品及び国産品のビスケット類に含まれているトランス脂肪酸量について調査した。1) 総トランス酸含量には輸入品及び国産品ともかなりの幅があった。主たるトランス酸は輸入品及び国産品ともt-18 : 1 であった。また, 輸入品の1銘柄と国産品の3銘柄から魚油硬化油に由来する少量の t-20 : 1, t-22 : 1が検出された。2) 輸入品の多くの試料はトランス酸を20%以上含み, 国産品の多くの試料のトランス酸は 15% 以下で, トコトリエノールが検出された。このことは輸入品は植物硬化油を多く配合し, 国産品はパーム油と植物硬化油を混合して用いることが示された。3) 各試料の1サービング当たりのトランス酸含有量は輸入品では 0.26~1.78, 国産品では 0, 40~1, 05 と算出された。日本人の1人1日当たりのビスケット摂取量から求めたトランス酸の摂取量は230 (輸入品) ~140 (国産品) と見積もられた。
著者
松多 信尚 太田 陽子 安藤 雅孝 原口 強 西川 由香 Switzer Adam LIN Cheng-Horng
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.88, 2010 (Released:2010-11-22)

台湾はユーラシアプレートとフィリピン海プレート上のルソン弧の衝突によって形成されている.その衝突速度は82mm/yr程度で衝突しており,多くの活断層やプレート境界が存在する.特に東海岸に大津波を起こす可能性のある給源としては,琉球トレンチと沖合の海底活断層が考えられる.もしそこで地震が発生すれば,東海岸の海底地形は急に浅くなることから,大きな津波が来襲すると考えられる.台湾の歴史津波記録は少ない.東海岸の詳細な記録があるのは日本統治時代以降である.その中には東海岸に大きな津波の襲来した記録はなく,チリ地震などでも津波が台湾に押し寄せたことは無かったため,台湾では東海岸には津波が来ないと信じる人が多い. しかし,台湾の東海岸は無人だったわけでなく,阿美族と言われる原住民族が主にすんでいた.彼らの伝承の中には”津波”を思わせる伝承も少なくない.その例の中に,阿美族の創世神話の一つがある. これは通りすがりの旅人の神がそこに住んでいた神の一家を懲らしめるために海の神に頼んで大波を起こすという話である.その中で海の神が旅人の神に「今日から五日後,月が丸くなった夜に海ががたんがたんと鳴るでしょう.その時あなた方は星のある山をめがけて逃げなさい」と言い,いよいよその日,旅人の神は星の輝く山に向け逃げ,山頂に着いた頃海はにわかに鳴り始め大波はみるみる高まって,そこに住んでいた神の一家を押し流す.しかし,大波に襲われた一家はかろうじて助かる.それを不満に感じた旅の神は再度海の神に頼むと,海の神は再度大波を起こす.とある.これは,まさに津波が押し寄せたと考えられる.南西の島に住むタオ族の伝説にも津波を思わせる言い伝えがある.この神話も突然大波が押し寄せたという.このように東海岸には津波が押し寄せたと思われる伝承が点在する. 最近の津波の記録と思われる話が成功という町に存在する.これは昭和12年に印刷された安倍明義著「台湾地名研究」にある.その中の新港(現在の成功)の説明には「この地名は大正九年にマラウラウを新港に改めた.」とあり,「8,90年前に畑地が津波に洗われて草木が皆枯死したために,その有様をラウラウといい地名とした」とある.8,90年前とは,経験者が生存している可能性もあり,確かな出来事と思われる.これは,1840-50年頃と思われる.我々はこの言い伝えを頼りに成功で津波堆積物を探す調査を実施した. 成功には5段の完新世段丘が分布する.川沿いの_I_面と_II_面は,厚い堆積物が見られる.これは,氷期でできた谷を埋めた堆積物と考えられる.一方東側に見られる海成の面と川沿いの_III_面の堆積物は厚くなく,基盤を確認することが出来る. 阿美族の集落は高位の段丘の上にあり,成功の地名の由来になった津波が阿美族の集落に被害が及んだ報告はない.したがって,最高位段丘まで遡上したことはないと考えられる.一方,_IV_,_V_面のみに津波が遡上したのであれば,その範囲は限られており,地名の変更を行うほどのインパクトがあったとは考えがたい.したがって,我々は_III_面まで津波が遡上したと考えて,掘削調査を行うことにした. 成功の町の中心部が位置する_III_面は_II_面によって川の陰になっており,堆積物は河成の礫質ではなく,海の影響が強い砂質で構成されると予想された.この_III_面の範囲は日本統治時代以前は湿地であり,日本人が段丘崖の基部に排水溝を掘ることで利用できる土地となったという.この話からこの範囲には湿地性の堆積物が予想された. 我々はまずハンドオーガーによって予備調査を新港中学校の西南の地点で行った.その結果,peatに挟まれた海の貝を含む砂が見られた.我々はこの砂の下位のpeatの年代を測定し,上部が1810-1570 Cal Yrs B.P.,下位が3070-2860 Cal Yrs .B.P.という値が得られたため,同地点を中心にジオスライサー調査を行った.その結果,陸生のカタツムリの殻が見られるpeat質な地層の間に厚さ50cm程度の二枚の海生の貝を含む砂層を確認し,砂層の間の地層から2340-2150 Cal yrs B.P.,下位の層から2990-2790 Cal yrs B.P.の年代を得た.これらの年代には,すでに海水準は安定しているため,海水準が上昇することはない.また,この地は7-15m/kyr程度の速度で隆起している.したがって,砂層堆積時の標高はかなり低かったと考えられ,離水した地域にイベント的に海水が入り込んだことは事実だが,津波と断定するのは難しい.しかし,我々は砂層が上方に細粒化することなどから,津波の可能性が高いと考えており,珪藻分析などを行う予定である. 調査の目的であった最近の津波の確実な証拠は認められなかった.
著者
功刀 浩 太田 深秀 若林 千里 秀瀬 真輔 小澤 隼人 大久保 勉
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.177-181, 2016 (Released:2018-07-20)
参考文献数
14
被引用文献数
1

近年,緑茶の飲用頻度が高いとうつ病など精神疾患のリスクが低いことが指摘されている。緑茶特有の成分であるテアニン(L-theanine:N-ethyl-L-glutamine)は,グルタミン酸に類似したアミノ酸で,リラックス効果があることが知られていた。筆者らは動物実験により,テアニンはprepulse inhibition[PPI]で評価した感覚運動ゲイティング障害を改善する効果があるほか,持続的投与では強制水泳テストの無動時間を減少させ,海馬での脳由来神経因子の発現を高めるなど抗うつ様効果も認める結果を得た。健常者を対象にテアニン(200mgまたは400mg)を単回投与するとPPIが上昇することを見いだした。慢性統合失調症患者に8週間投与したところ,陽性症状や睡眠を改善する効果がみられた。大うつ病患者に対する8週間のオープン試験では,うつ症状,不安症状,睡眠症状に加えて認知機能の改善が観察された。以上から,テアニンは多彩な向精神作用をもち,統合失調症やうつ病といった精神疾患に対して有用である可能性が示唆された。
著者
佐藤 佑太郎 太田 経介 松田 涼 濵田 恭子 髙松 泰行
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.12356, (Released:2023-06-09)
参考文献数
46

【目的】進行性核上性麻痺患者の病棟内歩行の自立度と歩行機能,バランス機能,全般的な認知機能および前頭葉機能との関連性を検討し,抽出された項目のカットオフ値を算出することを目的とした。【方法】進行性核上性麻痺患者86名を対象とした。歩行機能,バランス機能,全般的な認知機能および前頭葉機能が病棟内歩行自立と関連するかを多重ロジスティック回帰分析で検討し,抽出された項目をreceiver operating characteristic curve(ROC)にてカットオフ値を算出した。【結果】歩行自立に対してバランス機能評価である,姿勢安定性テストとBerg Balance Scale(以下,BBS)が関連し(p<0.01),カットオフ値は姿勢安定性テストで2点,BBSで45点であった。【結論】進行性核上性麻痺患者における病棟内歩行自立可否には姿勢安定性テストやBBSの包括的なバランス機能が関連することが示唆された。
著者
盛 克己 中村 謙介 太田 東吾 貝田 豊郷 富田 寛 村山 和子 村山 照之 佐橋 佳郎
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.27-32, 1989-07-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
7

傷寒論には, 誤治によって病態が崩れてしまった「壊病」という状態があることが記載されている。同じように「合病」や「併病」の記載もある。後者については, 多くの先輩たちによりその病態や治療についての研究がなされ,「合病」については1つの処方で対処し,「併病」については先表後裏・合法・先外後内・先急後緩で対処することが明かになっている。しかし,「壊病」についてはその病態や治療についての報告はあまりみられない。しかし, 誤治などによって病状がはっきりしなくなることは臨床的にはよくみられ, その中には「壊病」と考えられる症例があると思われる。今回, 臨床経験を通じて,「壊病」の病態の解明及び治療の一助として, 1つの考えを示唆してみた。
著者
大場 健裕 小野 良輔 榊 善成 加藤 拓也 太田 萌香 藤岡 祥平 佐々木 和広 倉 秀治
出版者
一般社団法人 日本スポーツ理学療法学会
雑誌
スポーツ理学療法学 (ISSN:27584356)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.13-20, 2023-03-23 (Released:2023-03-23)
参考文献数
34

【目的】人工靭帯による内側膝蓋大腿靭帯再建術(以下MPFLR)および脛骨粗面移行術(TTO)を併用した症例(以下MPFLR+TTO)における膝伸展筋力の特徴を明らかにすること。【方法】MPFLR群15名,MPFLR+TTO群11名を対象に,最終フォローアップ時(MPFL群22.8±15.6ヶ月;MPFL+TTO群22.8±9.6ヶ月)の等尺性膝伸展筋力を,膝関節90度及び30度で測定し,健患差および健患比を検証した。【結果】MPFLR群では,術側と非術側の間に等尺性膝伸展筋力の有意差はみられなかった。MPFLR+TTO群では,術側が非術側と比較して,有意に低い等尺性膝伸展筋力を示した。健患比は,MPFLR+TTO群がMPFLR群と比較して有意に低値を示した。【結論】人工靭帯によるMPFLRは,良好な膝伸展筋力の回復が得られる。一方で,TTOを併用した場合,膝伸展筋力の健患差が残存し,単独MPFLRと比較して術後の筋力回復が得られにくいことが示唆された。
著者
太田 英伶奈
出版者
美学会
雑誌
美学 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.37-48, 2019 (Released:2021-05-08)

Byzantine illuminated psalters with full-page illuminations for specific psalms (notably Ps. 1, 50, 77, 151) and for the Odes are called as ‘Aristocratic psalters’. The term derives from a mere impression that these psalters were commissioned by Byzantine aristocrats, though in reality 4 manuscripts out of 6 which we know the name of its patron were ordered by monks and nuns. The manuscript Dionysiou 65 housed by the monastery of the same name in Mount Athos is of special interest amongst these 6 manuscripts, with a illumination depicting its patron, Sabas, as the deceased. Including this image, the manuscript has at its beginning a unique iconographical programme which could be labeled as ‘Sabas’s Salvation Cycle’, consisting of 7 full-page illuminations. The 3 illuminations, ‘Sabas worshipping the Virgin (f. 12v)’, ‘Solomon (f. 13r)’ and ‘David (f. 13v)’ wrap up this cycle. The whole illuminations of the manuscript have not been fully studied, yet previous research on these 3 illuminations are particularly scarce probably due to their iconic nature, compared to the other illuminations with more narrative elements. This paper discusses the function of these 3 illuminations as prefigurating the Virgin and praying for the patron’s salvation.