著者
高野 真理子 小川 大輔 重松 照伸 藤井 総一郎 早川 信彦 岡崎 守宏
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.519-522, 2008 (Released:2009-05-20)
参考文献数
21

症例は72歳男性.アルコール性肝硬変と糖尿病の既往があり,認知症のため近医に入院し,クエチアピン100 mg/日の投与が開始された.投与開始約5カ月後に発熱が出現し,血糖666 mg/dl, HbA1c 14.0%, CRP 37.0 mg/dlと高値の上,尿中ケトン体が陽性のため,当院へ搬送された.受診時動脈血ガスでpH 7.12と低下しており,また,胸部X線写真にて肺炎像を認め,糖尿病性ケトアシドーシスおよび肺炎と診断され,入院となった.入院後はクエチアピン内服を中止とし,輸液とインスリン,抗生剤投与にて加療した.徐々に状態は改善し,血糖に関してはコントロール良好となり,最終的にインスリンを離脱することができた.クエチアピンは血糖値を上昇させる副作用があり,まれに糖尿病性昏睡や糖尿病性ケトアシドーシスを来たすことが報告されている.クエチアピンを投与する際は,定期的に血糖を測定し,これらの重篤な副作用を未然に防止することが重要である.
著者
小川 令 百束 比古
出版者
日本医科大学医学会
雑誌
日本医科大学医学会雑誌 (ISSN:13498975)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.121-128, 2005 (Released:2005-07-20)
参考文献数
25
被引用文献数
2 1

Keloids and hypertorphic scar often present difficulties in treatment, and they are a severe problem for every surgeon. In our department, keloids have been treated with multimodal therapy including excision, postoperative electron-beam irradiation, tranilast medication and pressure treatment using silicon gel sheets or bandages. Moreover, we have added a new protocol of electron-beam irradiation which the dose is changed by keloid sites. This trial proposes a new method. In this paper, we introduce some new twists to prevent recurrence of keloid being in use in our department, along with the future prospects of keloid treatment.
著者
吉田 圭佑 小川 剛史
出版者
特定非営利活動法人 日本バーチャルリアリティ学会
雑誌
日本バーチャルリアリティ学会論文誌 (ISSN:1344011X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.189-196, 2018 (Released:2018-09-30)
参考文献数
36

In this paper, we propose a novel method to virtually simulate the sensation of spiciness by applying thermal grill illusion to the human tongue. We describe our tongue stimulator equipped with interlaced warm and cool bars. To evaluate the effectiveness of this method, the system was experimentally tested in two studies. The first experimental results show that spicy taste was perceived by causing thermal grill illusion on the tongue. The second experimental results show that the strength of spicy perception is affected by both of average temperature and difference in temperature between warm and cool stimuli.
著者
増田 安政 小川 勇 山田 満 西村 仁三 高橋 宏
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.526-530, 1969 (Released:2011-10-19)
参考文献数
14

We investigated the effect of sulphur spring in bathing and its oral use on fasting blood sugar and alimentary hyperglycemia of 24 healthy adults. Mood sugar were measured by Somogy-Nelson's method and following results were obtained.When the temperature of hot spring water was maintained at 40°C, very few cases revealed the increase of blood sugar immediately after bathing, but on the other hand when it was maintained at 43-44°C, more than half of the cases increased, as the time passes by, however, the blood sugar values in the both groups showed the trend toward decrease and no remarkable differences between were noted.While apparent decrease of blood sugar by drinking tap water was not observed after one hour, by drinking of sulphur spring water 6 cases revealed the decrease, and further after 2 hours in the former no influence was found except only one case, but in the latter 8 cases showed apparently the decrease of blood sugar.No significant differences of blood sugar levels were observed between both groups, one administered glucose dissolved in tap water and the other supplied that dissolved in hot spring water orally.When took a bath after drinking of glucose solution, after 2 hours blood sugar showed same level or decreased, but after 3 hours almost all cases decreased as compared with the value before bathing.Those blood sugar lowering effect was supposed to be due to the action of gas such as sulphureted hydrogen through skin and further in its inhalation and further more due tö the thermal stimulus in bathing.
著者
小川 節郎 鈴木 実 荒川 明雄 荒木 信二郎 吉山 保
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.141-152, 2010-05-25 (Released:2010-08-22)
参考文献数
15
被引用文献数
18

帯状疱疹の皮疹消褪後に3カ月以上痛みが持続している帯状疱疹後神経痛患者371例を対象に,プレガバリン150 mg/日,300 mg/日,600 mg/日(1日2回投与)を13週間投与したときの有効性および安全性を無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験にて検討した.いずれのプレガバリン群においても疼痛は投与開始1週後から速やかに軽減し,最終評価時の疼痛スコアは300 mg/日群および600 mg/日群ではプラセボ群に比べ有意に低下した.プレガバリンは痛みに伴う睡眠障害を改善し,アロディニアや痛覚過敏にも有効であることが示された.主な有害事象は浮動性めまい,傾眠,便秘,末梢性浮腫,体重増加などであった.これらの有害事象は用量依存的に発現頻度が高くなる傾向があったが,ほとんどが軽度または中等度であった.以上の結果より,プレガバリンは帯状疱疹後神経痛に対して有用性の高い薬剤であることが示された.
著者
小川 和孝
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.225-244, 2017

<p> 本論文では,日本の教育政策に対する人々の選好に関して,公的支出の水準と支出の配分を,それぞれ区別して分析する。これによって,日本の公教育におけるマクロな特徴を支えている,ミクロな意識構造を明らかにする。<br> 2011年に東京都内で行われた質問紙調査をデータとして,(1)税金を増やしてでも教育への公的支出を拡大すべきか,(2)異なる教育段階間ではどこに資源を配分すべきか,(3)同一教育段階内では,エリート的・非エリート的学校のどちらに資源を配分すべきか,という3つの次元を従属変数とする。独立変数としては,人々の持つ利害と,平等性規範が影響するという仮説を立てる。具体的には,性別,年齢,学歴,世帯年収,政党支持,高校生以下の子どもの有無,就業の有無を用いる。<br> 第一に,公的支出の水準に関しては,学歴や世帯収入による選好の違いは見られず,政党支持と高校以下の子どもの有無が影響している。第二に,異なる教育段階間における支出では,高学歴者は低次の教育段階への配分を望み,また左派的な人々は高次の教育段階への配分を望む傾向にある。第三に,同一教育段階内における支出では,高学歴者や富裕な人々はエリート的な教育機関への配分を,また左派的な人々は非エリート的な教育機関への配分を,それぞれ支持している。これらの理論的な示唆として,高等教育への公的支出に伴う逆進性と,意識の次元に見られる社会的な閉鎖性について考察する。</p>
著者
水野 学 小川 進
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.66-78, 2004-09-20 (Released:2022-08-03)
参考文献数
20

本稿では,食品スーパー業界において,競争優位に貢献するノウハウをあえて同業者に公開することによって得られるいくつかのプラスの効果を明らかにした.関西スーパーが獲得した「価格交渉力」「資源吸引」「専用機器開発」という3つの効果は,先行研究が指摘していなかったものである.以上の発見に加えて,本稿では,このノウハウ公開が成立した要因についても示唆した.
著者
小川 順子
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.73-92, 2006-10

本論の目的は、美空ひばりが銀幕で果たした役割を考察することによって、チャンバラ映画と大衆演劇の密接な関係を確認することである。戦後一九五〇年代から六〇年代にかけて、日本映画は黄金期を迎える。当時は週替わり二本立て興行が行われており、組み合わせとして、現代劇映画と時代劇映画をセットにするケースが多かった。そのように大量生産されたチャンバラ映画を中心とした時代劇映画のほとんどは、大衆娯楽映画として位置づけられ、連続上映することから「プログラム・ピクチャア」とも呼ばれている。映画産業を支え、発展させ、もっとも観客を動員したこれらの映画群を考察することには意義があると考える。そして、これらの映画群で重要なのが「スター」であった。そのようなスターの果たした役割を看過することはできないであろう。本論では、戦後のスターとして、あるいは戦後に光り輝いた女優として活躍した一人であるにもかかわらず、「映画スター」としての側面をほとんど語られることがない「美空ひばり」に焦点を当てた。そして、彼女によってどのように演劇と映画の関係が象徴されたのかを検証することを試みた。
著者
豊島 学 蒋 緒光 小川 覚之 廣川 信隆 吉川 武男
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10.11, pp.531-537, 2020-10-05 (Released:2020-10-17)
参考文献数
46

統合失調症は約100人に1人が発症する比較的頻度の高い精神疾患である.幻覚・妄想などの特徴的な症状に加えて,意欲が低下し感情が鈍麻する,認知機能が障害されるなどの症状があり,社会生活に支障が出ることが多い.統合失調症の病因・病態には,複数の遺伝的要因と環境要因の関与が考えられているが,分子メカニズムにはいまだ不明な部分が多い.近年,統合失調症の病因・病態に酸化ストレス(カルボニルストレス)や小胞体ストレスの関与が示唆さており,それらストレスによるタンパク質の「質」の低下(凝集化などによる機能低下)が注目されようになった.本稿では,統合失調症の基礎知識から研究方法について紹介したのち,細胞内ストレスに注目して,統合失調症で見られるタンパク質の「質」の変化について概説する.
著者
小川 真規 和田 耕治 小森 友貴 太田 由紀
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.32-41, 2022-01-20 (Released:2022-01-25)
参考文献数
12

目的:病院機能評価に認定された関東地方の医療機関における産業保健活動を把握することである.方法:470医療機関に質問票を郵送した.質問項目は,病院規模,産業保健体制,感染症対策,メンタルヘルス対策,働き方改革への取り組み,産業保健上の優先課題である.結果:140医療機関から回答を得た.職場巡視の毎月実施率は6割弱であった.入職時の肝炎検査,4種抗体検査は65%程度の実施率だが,インフルエンザワクチンはすべての医療機関で行われていた.多くの医療機関で産業医にメンタルヘルスに関する相談ができる体制があった.働き方改革は,カンファレンスの時間の工夫,タスクシフト・シェアに取り組んでいた.今後の課題は,血液媒介感染症予防,呼吸器感染対策,医療従事者の健康管理を多くの医療機関が挙げていた.結論:医療機関の産業保健活動は,法定項目及び感染症関連の項目は実施率が高かった.働き方改革は,カンファレンスの時間工夫,タスクシフト・シェアの取り組みが上位を占めていた.
著者
小川 泰寛
出版者
北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院
雑誌
メディア・コミュニケーション研究 (ISSN:18825303)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.1-38, 2009-03-25

We may be given to understand that the story of the three caskets in The Merchant of Venice has a remarkable affinity with a folk tale of marriage proposal involving difficult questions in which a beautiful princess puts riddles to a suitor who will lose his life on the spot in case he turns out to be incapable of solving them. While in the Shakespearean canon the initial portion of Pericles most exactly fits in with this motif, our story seems to be a disguised and yet impressive variation upon it. Considering that they are deprived of the opportunity of begetting legitimate heirs thereafter, the lifelong celibacy to which Portia subjects unsuccessful suitors corresponds, in a symbolic way, to the deadly disaster that awaits the losers of the game in the folk tale as well as in the Shakespearean romance. The supposedly puzzling inscriptions attached to the caskets manifest themselves as difficult questions in the tale of marriage proposal in question. Each suitor actually addresses himself to deciphering them one by one. What is crucial with this schematized picture is that riddling is latent in the controversial episode of a song about "fancy" being sung. As is notorious, only Bassanio, the hero of this story, with whom Portia has fallen in love at first sight, is blessed with this vitally important musical design. By appropriately taking the cue offered in the shape of a sort of a riddle, he succeeds in choosing the correct casket. Portia proves inventive enough to solve her own dilemma where her desire to break the rule of the game and her absolute obligation to follow it clash with each other. Since she did not directly inform Bassanio of the correct casket, she is no way to blame. Riddling functioned as a clever stratagem to circumvent the strange will of the late lord of Belmont. At any rate, Bassanio wins, growing aware of the entrapping danger of deceptive. ornament, which ironically enough, he assumes himself, masquerading as something of a prince, while he is in actuality financially nothing, even less than nothing, as he has avowed to Portia. This nothing will organically relate to the nothing to which Antonio, his benefactor is to be financially brought, causing the pound of flesh court to be held.
著者
福森 崇貴 小川 俊樹
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.13-19, 2006 (Released:2006-10-07)
参考文献数
22
被引用文献数
4 2 6

本研究は,不快な情動をあらかじめ回避しようとする傾向(不快情動回避心性)が,現代の青年に特徴的とされる友人関係に対してどのように影響を及ぼすのかについて検討することを目的として行われた。具体的には,不快情動回避心性は,自己開示に伴う自己の傷つきの予測を媒介して表面的な友人関係へとつながるという因果モデルを想定し,その検証を行った。本研究では,大学生190名(男性61名,女性129名)を対象として,質問紙調査が実施された。構造方程式モデリングによるパス解析の結果,不快情動回避心性から「群れ」「気遣い」へは直接的な影響のみが認められ,また,不快情動回避心性から「ふれあい回避」については,傷つきの予測を媒介要因とする影響のみが認められた。このことから,直接的あるいは間接的に,不快情動の回避が青年期の表面的な友人関係のもち方へとつながっていくことが示唆された。
著者
小川 時洋 松田 いづみ 常岡 充子
出版者
日本法科学技術学会
雑誌
日本法科学技術学会誌 (ISSN:18801323)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.35-44, 2013 (Released:2013-02-20)
参考文献数
20
被引用文献数
10 12

Currently, polygraph examinations in Japan use the concealed information test (CIT) to determine whether a suspect knows specific details of a crime. The present study examined the accuracy of the CIT as a memory detection technique in a mock-theft experiment. Participants were randomly assigned to either an encoding or non-encoding group. An expert polygrapher who was not informed of the group assignments, conducted a CIT that consisted of two questions. One inquired about a card number chosen by the participant, and the other regarded an item that had been stolen. Analyses focused on the second question. Roughly 20% of cases were judged inconclusive while sensitivity and specificity for the remaining cases were 86% and 95%, respectively. Analysis was repeated using modified Lykken scoring, and rates of inconclusive cases, sensitivity, and specificity by this method were 25%, 83%, and 91%, respectively.
著者
小川 博士 髙林 厚志 池野 弘昭 竹本 石樹 平田 豊誠 松本 伸示
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.345-356, 2019-03-25 (Released:2019-04-12)
参考文献数
32
被引用文献数
3

我が国の理科教育では,科学や理科学習に対する態度の低迷が問題となっている。本研究は,実社会・実生活との関連を志向する真正の学習論に着目し,中学校理科において,単元開発及び実践を行い,科学や理科学習に対する態度の向上に有効であるかを明らかにすることを目的とした。この目的を達成するために,中学校第2学年の生徒132人を対象として,「電流と磁界」の単元開発を行い,授業を実施した。学習効果を検証するために,「科学や理科学習に対する態度」に関する質問紙を用いて事前事後調査を行った。また,単元後の生徒の感想記述を分析した。その結果,「科学に関する全般的価値」や「科学に関する個人的価値」などにおいて,事後の平均値の方が事前のそれよりも有意に高かった。また,生徒の感想記述を計量テキスト分析し,コード化した。コード間のJaccard係数を算出したところ,「科学の内容」と「日常生活」や「日常生活」と「有用感」などの関連度が高かった。以上のことから,実社会・実生活との関連を志向する真正の学習論に着目した中学校理科授業が,生徒の科学や理科学習に対する態度の改善に一定の効果があることが明らかとなった。
著者
伊藤 祥江 髙木 聖 小川 優喜 瀧野 皓哉 早藤 亮兵 川出 佳代子 今村 隼 稲垣 潤一 林 由布子 中村 優希 加藤 陽子 森 紀康 鈴木 重行 今村 康宏
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI1176, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】2000年に回復期リハビリテーション病棟(以下、リハ病棟)制度が創設され、医療施設の機能分化が進められた。急性期病院における在院日数は短縮され、長期の入院を必要とする脳卒中片麻痺患者はリハ病棟を有する病院への転院を余儀なくされる。脳卒中ガイドラインにおいては早期リハを積極的に行うことが強く勧められており、その内容には下肢装具を用いての早期歩行訓練も含まれている。しかし、装具処方から完成までには通常1~2週間を要することなどから、急性期病院における片麻痺患者に対する積極的な早期装具処方は容易ではなく、装具適応患者に対する装具処方のほとんどが、リハ病棟転院後に行われているのが実情であろう。その結果、歩行能力の改善が遅れ、入院期間が長くなっていることが推測される。当院は人口約14万7千人の医療圏における中核病院で、平成18年にリハ病棟を開設した。現在は当院一般病棟からの転棟患者ならびに近隣の救急病院からの転院患者も広く受け入れている。今回われわれは、当院リハ病棟に入院した脳卒中片麻痺患者において、下肢装具作製時期が発症から退院までの日数におよぼす影響について検討したので若干の考察とともに報告する。【方法】平成18年12月から平成22年7月までの間に当院リハ病棟に入院し、理学療法を施行した初回発症の脳卒中片麻痺患者のうち、下肢装具を作製した32例を対象とした。内訳は脳梗塞25例、脳出血7例、男性15例、女性17例、右麻痺13例、左麻痺19例、平均年齢69.5±13.3歳であった。当院の一般病棟からリハ病棟に転棟した群(以下、A群)と他院での急性期治療後に当院リハ病棟に入院した群(以下、B群)の2群に分けた。これら2群について(1)作製した装具の内訳ならびに(2)発症から当院リハ病棟退院までの日数について調査した。また、(2)に含まれる1)発症から装具採型までの日数、2)発症からリハ病棟入院までの日数、3)リハ病棟入院から装具採型までの日数、4)リハ病棟入院から退院までの日数の各項目についても合わせて調査した。2群間の比較は対応のないt検定を用いて行い、5%未満を有意な差と判断した。【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言をもとに実施し、収集した個人情報は当院の個人情報保護方針をもとに取り扱っている。【結果】(1)A群は長下肢装具(以下、KAFO)3例、金属支柱付短下肢装具(以下、支柱AFO)13例、プラスチック製短下肢装具(以下、P-AFO)1例であった。B群はKAFO2例、支柱AFO6例、P-AFO7例であった。(2)A群で137.2±32.5日、B群では166.8±30.2日でA群の方が有意に短かった。(2)-1)A群で22.5±9.8日、B群では48.2±12.4日でA群の方が有意に短かった。(2)-2)A群で21.9±7.3日、B群では33.8±11.3日でA群の方が有意に短かった。(2)-3)A群で0.65±9.8日、B群では14.5±7.1日でA群の方が有意に短かった。(2)-4)A群で115.2±31.5日、B群では131.5±32.3日でA群の方が短かったが、有意差はみられなかった。【考察】本研究では、装具作製時期ならびにリハ病棟入院時期に着目し、発症からリハ病棟退院までを4つの期間に分けて入院日数との関連について検討した。その結果、リハ病棟入院日数においては両群間に差はなかったが、A群においてはリハ病棟転棟とほぼ同時期に装具の採型がされており、発症からの日数も有意に短かった。このことから、早期の装具処方によりリハ病棟転棟後もリハが途絶えることなく継続することが可能で、早期に歩行が獲得できたものと思われる。その結果、発症から退院までの期間を短縮したと考えられる。一方、B群においてはリハ病棟入院時期のみならず装具作製時期も有意に遅かった。リハ病棟入院日数にはA群と差がなかったことから、作製時期が発症から退院までの日数に影響をおよぼしたものと考えられる。急性期病院においては在院日数の短縮、作製途中での転院の可能性、また義肢装具士の来院頻度など積極的な装具作製を妨げる多くの要因があることが推測される。近年、急性期病院において装具が作製されることは少なく、リハ病院での作製件数が増加傾向にあること、また、リハ病棟が急性期にシフトしてきていることが報告されている。B群では当院リハ病棟転院から装具採型まで約2週間要していたことから、今後は転院後早期から装具処方について検討する必要があろう。2007年から連携パスが運用され始めている。それが単なる情報提供に留まらず、片麻痺患者に対する早期の装具処方、スムーズなリハの継続、そして早期の在宅復帰につながるよう連携することが必要であろう。【理学療法学研究としての意義】脳卒中発症後の早期装具作製は早期歩行獲得、在院日数の短縮に結びつく。それを推進するための地域連携について考えるものである。
著者
小川 真和子
出版者
地域漁業学会
雑誌
地域漁業研究 (ISSN:13427857)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.87-118, 2015-10-01 (Released:2020-06-26)
参考文献数
24

20世紀初頭以降,日本人がハワイの漁業を独占したことに対して,ハワイ準州政府や米連邦政府が取った政策について,本稿は主にアメリカ合衆国公文書記録管理局(United States National Archives and Records Administration)所蔵の米連邦政府商務省,内務省,国務省,陸海軍,およびそれらとハワイ準州政府側との折衝に関する資料の分析を通して実証的に検討する。1927年以降,ハワイ準州政府,特に魚類鳥獣課は,連邦政府に対してハワイの漁業振興のための支援を求めたが,連邦政府は,商務省漁業局(1940年以降は内務省魚類及び野生生物局),内務省準州島嶼課が中心となって連邦政府予算によるハワイ海域の漁業調査の実現を画策した。そのねらいはハワイの食糧自給率の向上と,有事に備えた食糧備蓄の推進であった。一方,米海軍やF. D. ルーズベルト大統領は日本人漁船と日本海軍艦船を同一視し,その排斥に努めた。そして太平洋戦争開始後は日本人から漁船を没収し,その漁労を禁止した。しかしハワイ準州政財界や地元住民の,漁業再開を求める声は根強く,1943年以降には上記の連邦政府官庁による漁業復興へ向けた動きが加速した。1947年に連邦議会で可決された,太平洋における漁業調査法案は,ハワイの漁業振興のみならず中部太平洋におけるアメリカの漁業利権の確保を目指しており,ハワイ準州並びに連邦政府関係官庁による協力体制の結晶であった。
著者
植田 智之 中西 惇也 倉本 到 馬場 惇 吉川 雄一郎 小川 浩平 石黒 浩
雑誌
研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI) (ISSN:21888760)
巻号頁・発行日
vol.2019-HCI-184, no.16, pp.1-8, 2019-07-15

いじめにおいて,傍観者はいじめを止めたいという道徳観を持ちながらも,いじめに巻きこまれる懸念や気恥ずかしさといった理由から,積極的に仲裁を行わないという問題がある.そこで,チャットグループ内の一人の傍観者を装ってチャットボットが仲裁する発言を代替し,装われた傍観者に半強制的に仲裁を行わせる手法を提案する.これにより,仲裁を装われた傍観者に仲裁者としての自らの役割を半強制的に自覚させる効果が期待される.この効果を検証するため,被害者に協力する仲裁行動,被害者を攻撃する加担行動の両方を被験者が自由に取ることができるシステムを作成し実験を行った.提案手法により被験者の仲裁行動が増加し,加担行動が抑制する様子が観察された.このことから,チャットボットが仲裁を装うことで被験者に仲裁をする役目を自覚させ,いじめを縮退させる行動へ誘導できると考えられる.