著者
高村 宏子
出版者
東洋学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の主要テーマは、歴史的、文化的に多くの共通点をもつ米国、カナダにおける日系人、女性、先住民の第一次大戦参加と大戦後の市民権獲得との関係を検証することである。日系人は第一次大戦を市民権獲得のための絶好の機会ととらえ、カナダでは、196名の日系人がカナダ遠征軍に志願してヨーロッパ戦線で戦った。ハワイおよび米国本土からも約500名の日系人がアメリカ軍に志願した。しかし、大戦後、日系人復員兵の米国における帰化権、カナダにおける参政権は人種を理由に認められなかった。日系人たちは法廷闘争を通じて市民権獲得を試みたが、人種の壁に阻まれて挫折した。そこで、日系人復員兵らが、米国、カナダの在郷軍人会にそれぞれ働きかけた。その結果、カナダでは1931年にブリティッシュ・コロンビア州の州選挙法の改正によって、日系人大戦帰還兵の参政権が実現した。また米国では、日系人で大戦帰還兵のトクタロウ・スローカムのロビー活動によって、1935年にナイ・リー法が米国議会で可決され、アジア系の復員兵に帰化権が認められた。女性の場合、参政権の障害となったのは、女性は銃を担いで国を守ることができないという考え方であったが、第一次大戦で女性が正規軍に採用され、さらに軍事貢献以外でも女性の活躍が評価された。米国、カナダにおける議会の審議過程は、戦時中の女性の活躍が高く評価されたことを示している。これらの事例から、軍隊参加が一級市民としての資格を得るための重要な鍵であることが実証された。一方、先住民の市民権問題の複雑さも判明した。アメリカ軍、カナダ軍に志願した先住民は多いが、彼らの動機は必ずしも市民権獲得ではなかった。そして、市民権付与に関する基準もまた、日系人、女性、先住民の間で異なり、さまざまであることが明らかになった。
著者
三和 治 平岡 公一 松原 康雄 小林 捷哉 遠藤 興一 濱野 一郎
出版者
明治学院大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究は、高齢化社会の進行に伴ない今後、一層、必要とされるであろう在宅サービスを中心とする社会福祉供給システムにおいて、福祉行政機関とりわけ福祉事務所が、どのような組織機構をもち、またどのような運営方針の下に日常業務を遂行し、他の行政機関や民間社会福祉組織・団体などとどのように協力連携しているのか、また福祉事務所の現業員等の職員の専門性の水準がどの程度であり、その職員の行う援助活動にどのような問題があるのか、などを課題に、それらの状態、問題の把握と要因を実証的に調査研究し、それらへの対応に資することを目的に設定され実施された。わが国社会福祉行政機関の中核を占める福祉事務所の動向は、文献資料、現地調査によって、全体的に依然、社会福祉行政の重要部分を占めているものの、生活保護中心のもの、6法担当のものなどと多様化を示し、名称も同様に多様化している。専門性の指標としての社会福祉主事資格の取得率も停滞傾向を示している。所の運営方針も上級庁のそれによっている場合が多いように見られている。福祉事務所改革を行った岡山県、青森県、新潟県の各福祉事務所或いは福祉部門及び社会変動の激しい千葉県、市福祉事務所現業員を対象とした現業員の意識調査は、福祉事務所活動を現業員の立場からみようとしたものであるが、現業員の専門性に関わる意識、資格取得率に県、市による差が見られ、これらの関連性は今后の検討課題として残された。また福祉処遇についても県、地域による差があるが、それが現業員の状況に依拠するか、どうかは尚、慎重に例えば事例研究などを開いて検討したい課題である。福祉事務所改革は、積極的な意図、管轄地区の人変動などによる影響も少なくないなど単純ではない。それらは今後、他の地方自治体を対象として検証を要する課題としたい。
著者
玉井 克人
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

ケラチン5(K5)遺伝子プロモーター・GFP遺伝子を有する遺伝子改変マウス(トランスジェニックマウス)より骨髄細胞を採取し、骨髄間葉系幹細胞を培養した。培地にBMP4を添加することにより、GFP陽性細胞が出現することを明らかにした。これらの細胞をヌードマウス皮膚に装着したチャンバー内に移植し、皮膚が再生した後にGFP陽性表皮細胞の出現を検討した。その結果、再生表皮内に散在性にGFP陽性表皮細胞が存在すること、その一部は毛包および毛組織に分化していることが明らかになった。K5・GFPトランスジェニックマウス骨髄を移植したマウス皮膚に全層性創傷を作製し、その治癒過程でのGFP陽性表皮細胞出現を検討した。その結果、創傷治癒後に表皮内GFP陽性細胞の出現を確認した。表皮内での陽性率は、数%で、一部毛包では、数10%の細胞でGFP陽性であった。また、創傷閉鎖からGFP陽性細胞出現までの日数は、6ヶ月間の経過内では4ヶ月以降から顕著に陽性率が高くなる傾向を示した。即ち、創傷形成直後から骨髄細胞の創部への誘導は開始されるが、表皮細胞への形質転換後は増殖までにある程度の日数が必要であると考えられる。K5・GFPトランスジェニックマウス骨髄から間葉系幹細胞を分離・培養し、創傷モデルヌードマウスの尾静脈から連日7日間静脈内投与した。その結果、創傷治癒後皮膚毛包部に尾静脈投与したGFP陽性骨髄細胞が集積し、表皮を再生していることが明らかとなった。以上のデータにより、骨髄間葉系幹細胞が表皮細胞再生に寄与しうる可能性が示され、重症熱傷や先天性表皮水庖症などの難治性潰瘍治療に応用可能と考えられる。
著者
荒谷 邦雄 細谷 忠嗣 楠見 淳子 苅部 治紀
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

近年、日本でも国外外来種に対する規制や防除がようやく本格化したが、国内外来種への対応は大きく遅れている。 移入先に容易に定着し地域固有の個体群とも交雑が生じる上に交雑個体の識別が極めて困難な国内外来種はまさに「見えない脅威」であり、その対策は急務である。そこで本研究では、意図的に導入されたペット昆虫を対象に、形態測定学や分子遺伝学的な手法を利用して、国内外来種の実態把握や生態リスク評価、交雑個体の検出、在来個体群の進化的重要単位の認識などを実施し、国内外来種の「見えない脅威」の可視化とそのリスク管理を試み、在来の多様性保全のための効率的かつ効果的なペット昆虫問題の拡大防止策の提言を目指した。
著者
田村 朋美
出版者
独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

古代ガラスにはSrが100~500 ppm含まれており、地中海周辺地域の出土品を中心にSr同位体比による産地推定が行われている。一方、日本出土品でSr同位体比分析が行われた例はほとんどない。本研究では、日本出土のガラス製遺物のSr同位体比分析を実施し、これまで特定することのできなかった生産地の特定を目指すものである。研究期間の前半では、化学組成において地中海周辺地域で生産された可能性の高いナトロンガラス(Group SI)を分析対象とした。さらに、主成分はナトロンガラスに類似するものの、微量成分や製作技法から判断すると南~東南アジア産と考えられる「ナトロン主体ガラス」(Group SIV)も調査した。その結果、Group SIは確かに地中海周辺地域で生産された「ナトロンガラス」であるが、Group SIVは真正の「ナトロンガラス」ではないことが確認された。さらに、日本出土のナトロンガラス(Group SI)の多くは、現在のイスラエル周辺で生産された可能性が高いことが明らかとなった。研究期間の後半では、インド~東南アジアで生産されたと考えられるカリガラスおよび高アルミナソーダガラスのSr同位体比を測定した。その結果、これらのガラスは地中海産のナトロンガラスとは全く異なる値を示した。特にカリガラス(Group PI)は今回調査した資料の中で最も高い値を示した。筆者らは製品の流通状況などからGroup PIのカリガラスについてインド産の可能性があると考えているが、インドのガンジス川流域の土壌は高いSr同位体比をもつことが知られており、関連性が注目される。最終年度では、これまでに実施した同位体比分析の結果について学会誌で報告するとともに、Sr同位体比にNd同位体比を組み合わせた日本出土のナトロンガラスの産地同定についても試みた。その結果、地中海産のガラスと矛盾しない結果が得られた。
著者
勝村 誠 重森 臣広 田林 葉 森 隆知 森 正美
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本プロジェクト研究は京都府総務部地方課、京都府企画環境部企画参事、京都府農業会議、府内各基礎自治体と連携しながら進められた。研究の目的は、地方政府の各セクションが中央政府の国土政策・地域政策とのかかわりで、それぞれどのように地域振興政策を展開しつつあるのかを具体的に検証していくことにあった。本プロジェクト研究の過程においては、京都府総務部地方課の協力を得て、歴代の「地域づくり施策」担当者にインタビュー調査を行うとともに、業務を通じて収集された資料のうち公表可能なものを提供していただいた。都道府県の「地域づくり」施策については全国に設置された協議会を府県で運営しているケースが大半であるが、全国的なルール作りや財源保障がないために都道府県政のなかにこの施策がどう位置付くかによって、各府県の実情はさまざまである。また、ソフト事業であり、予算の有無にかかわらずできることはあるため、担当者がこの施策に可能性を見いだすか、否かによって、事業の進展が左右されることも明らかになった。また、本研究プロジェクトがきっかけとなり、京都府地域づくり交流ネットワーク推進協議会と「地・生きネット京都」のメンバーで、実施に地域づくりかかわっているリーダの人々と交流を深め、リーダはどのようにして生まれるのかを、ライフヒストリー調査によって明らかにしてきた。報告書にはライフヒストリー調査の成果を掲載することができなかったが、調査によって得られた知見は報告書の随所に反映されている。地域づくりは自主的に進められなければならないが、その担い手にはある種の使命感が欠かせない。また、地域においてそのリーダを支える基盤も重要である。このたびの調査対象者を見る限りでは、地域づくりリーダの資質として、当該地域とそこに暮らす人びとへの愛着・愛情、まわりからの信頼が必要条件であるという結論が得られた。最後に、プロジェクトの活動を通じて京都府職員の方の共同研究への参加を得て、研究成果も執筆していただけたことも大きな意義があると思う。
著者
小秋元 段 黄 正夏 李 載貞 李 章姫
出版者
法政大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

近世初頭に日本で始まった活字印刷(古活字版)の起源は、朝鮮活字版にあるとする説と、キリシタン版にあるとする説が対立している。近年ではキリシタン版起源説が有力になりつつあるが、その根拠には疑問とすべき点が多々ある。本研究では、韓国の活字版研究の最新の成果を踏まえ、朝鮮活字版から日本の古活字版への連続性を究明し、日本の古活字版の起源が朝鮮活字版にあることを明らかにした。
著者
泉田 邦彦
出版者
東北大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究は、南奥海道地域の相馬氏・岩城氏を主軸に据え、南奥と隣接する中奥の葛西氏・常陸の佐竹氏や江戸氏も射程に入れた調査を行う。研究基盤となるのは、3年間の計画的な史料調査である。研究フィールドである福島県浜通りは、原発事故被災地である。一連の研究を通じて、地域における震災の位置づけを相対化すべく、現地でシンポジウムを開催し、中世史研究の立場から、震災と被災地の関係を捉え直す方向性を探る。
著者
藤本 由香里 Jaqueline BERNDT 椎名 ゆかり 伊藤 剛 夏目 房之介 ルスカ レナト・リベラ トゥルモンド フレデリック
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

研究期間中に北米各地、アルゼンチン、北欧・東欧・ロシア、その他欧州、東南アジア、東アジア、中東…計22の国と地域を調査。またローマ・上海・バンコク等8都市で図像アンケート・集計を行った。最終年度に、①ストックホルム国際コミック祭で「コミックとMangaの間」②ストックホルム大学での3日間の国際学会"Manga, Comics and Japan: Area Studies as Media Studies" ③明治大学でヨーロッパとアメリカから作家を招いての国際シンポジウム、④藤本・伊藤・夏目・ベルント・椎名・レナトによるまとめの研究発表と共同討議、計4回の国際会議を開催。研究を締めくくった.
著者
吉永 進一 安藤 礼二 岩田 真美 大澤 広嗣 大谷 栄一 岡田 正彦 高橋 原 星野 靖二 守屋 友江 碧海 寿広 江島 尚俊
出版者
舞鶴工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、仏教清徒同志会(新仏教徒同志会)とその機関誌『新佛教』に関して、基礎的な伝記資料を収集しつつ、多方面からモノグラフ研究を進めた。それにより、新仏教運動につながる進歩的仏教者の系譜を明らかにし、出版物、ラジオ、演説に依存する宗教運動という性格を分析した。新仏教とその周辺の仏教者によって、仏教の国際化がどう担われていたか、欧米のみならず他のアジア諸国との関係についても論証した。
著者
原田 優美 馬渡 一諭 下畑 隆明 中橋 睦美
出版者
徳島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では近年明らかとなった、酸化傷害によるカンピロバクターの病原性(運動性、侵入性)抑制機構を参考に、UVA照射による酸化傷害も、菌の病原性を抑制し、食肉への拡散・侵入防止に役立つと考えその有用性について検討した。(1)カンピロバクターはUVA紫外線に強い感受性を示し、強い殺菌効果を示すことが明らかとなった。(2) またUVA紫外線照射により酸化傷害が引き起こされており、さらに(3)菌の宿主細胞への侵入性が低下することも明らかとなった。以上の結果からUVA紫外線照射は、その殺菌効果に留まらず、酸化傷害を介した病原性低下も引き起こすため、食中毒予防の新しいシステムとして有効性が示された。
著者
真山 全 吉田 脩 川岸 伸
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

宇宙空間軍事利用は核抑止のための通信や偵察が従来主であった。しかし、宇宙戦能力を米ソの他英仏中印等が備えるに至り、戦闘その他敵対行為の可能性も生じてきた。この宇宙戦を国際法がどう規律するかを検討する。まずは宇宙条約と武力紛争法の適用関係を検討し、更に武力紛争法で宇宙戦は空戦法規の適用で規律すべきなのか又は宇宙空間の安全保障上の意味が空とは異なることや宇宙の特殊性から宇宙戦法規という新domainを考えなければならないかを検討する。サイバー戦には武力紛争法新domain形成力がなかったのは明らかであるから、宇宙戦法規という新domainが成るとしたら20世紀初の空戦法規以来のことになる。
著者
小坂 丈予 平林 順一 吉田 稔 鎌田 政明 松尾 禎士 小沢 竹二郎
出版者
岡山大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

1.全国の火山地域における噴気ガスの化学成分測定とその変化:一 今年度は本邦における有珠, 十勝, 雌阿寒, 樽前, 北海道駒ヶ岳, 旭岳, 秋田駒ヶ岳, 秋田焼山, 鳴子(潟沼), 那須, 草津白根, 富士(河口湖), 木曽御岳, 伊豆大島, 雲仙岳, 霧島, 桜島, 開聞(うなぎ池)などの諸火山について, 噴気ガスの噴出温度, 化学成分, 噴出量や速度などを測定し, 特に火山活動の消長と噴気ガスの成分変化との関係を求められた.2.諸火山の噴気孔ガスの化学的研究から判明した2, 3の事実:- 今年度の調査結果から判明したことのうち2, 3の例について挙げると, 有珠火山に於いては, その化学組織と同位体組成の次時間変化から, その最高値より出口温度の最高値の方が約2年遅れて出現することが判った. また秋田焼山の叫沢の噴湯はその酸素・水素同位体比の測定などから山頂の噴気ガスと低温の地下水との混合後に与熱されて噴出した特殊な湧出過程であることや, また今回活動が活発化した雌阿寒岳ではフッ素/塩素比の明らかな増加が見られ逆に活動の沈静化が進んでいる大島ではこの値の低下が認められた.3.大気中に放出された火山ガスの滞留状況と災害についての調査研究:- 1986年5月に火山ガス中毒死亡事故の発生した秋田焼山叫沢に於いて, 大気中に滞留している火山ガス濃度の分布状況は, ガス発生地点の位置, 発生濃度, 温度, 地形, 気温, 風向等に密接に関係することを確かめ, 現在でもところにより250ppm以上の滞留濃度を示すことがあるのが確かめられた. 同じくガス中毒事故のあった草津白根山殺生河原や, その他桜島, 木素御岳などでも同様大気中に拡散した火山ガス濃度の経時変化を測定した.4.研究の問題点と今後の展望:- 火山ガス災害の発生源である火山噴気ガスの濃度・発生量等の予測と, 大気中への拡散後の地形・気象条件との関係についてより詳細な調査が必要である.
著者
青木 聡 草野 智洋 小田切 紀子 野口 康彦
出版者
大正大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

離婚後に円滑な親子交流を実施するために必要な知識や心構えを学ぶホームページ「リコンゴの子育てひろば」を公開した。また,離婚後の共同養育に関するインターネット調査を行い,離婚後の共同養育や親子関係の再構築に必要な支援を検討するための知見を得た。一方,コロナ禍により,親教育プログラム(体験学習型グループワーク)の試行実践と効果検証を行うことができなかった。
著者
阿瀬 雄治
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

骨導刺激による聴性誘発反応で中耳疾患に病態によりI波の出現が異なる。骨振動音の内耳への伝達特性は頭蓋振動、合気蜂巣、鼓膜の振動ならびに外耳道内に生ずる音波の振幅や位相特性が振動周波数による変化として捕らえた。測定方法は骨導受話器を一側の乳突部に圧抵し、その近くに加速度計を装着、両側外耳道にミニュチュアマイクロホンを内臓したプローブを装着した。それぞれの出力波形を4チャンネル記録計に記録しFFTアナライザおよびマイコンにて解析した。鼓膜のインピーダンスの測定成績より外耳道側より見た鼓膜インピーダンスは伝音機能正常においては共鳴周波数は1200Hz付近にあり、耳小骨連鎖離断の場合は耳小骨の残存状態にもよるがほぼ700Hz付近にある。連離固着の場合は1700Hz以上にある。頭蓋の固有振動数は1700Hz-1800Hzにある。乳突蜂巣のなす共鳴周波数は800Hz付近にある。以上の固有振動数に応じた総合的振動特性が伝達関数の特異性として外耳道内の音波として捕らえられた。この骨伝導の様相が中耳伝音障害によりどのような変化が生じるかを観測した。鼓膜に穿孔の無い一側が正常な伝音障害耳について測定した。耳小骨連鎖離断症では1000Hzでは患側の振幅は増大し位相も進む。2000Hzになると振幅は減少し位相も遅れる。連鎖固着の場合は1000Hzの振幅は減少し位相は正常耳と変化ない。真珠腫性中耳炎においては乳突蜂巣の抑制されている程度にもよるが、振幅特性は高周波数域に移行し、位相特性には特徴を見いだせない。これらの種々の病態と伝達特性に合わせ周波数毎の骨振動の周波数特異性をシミュレイションした。骨振動にて生じた外耳道内音波を一旦メモリーに格納し、再度同期させて出力したものと骨振動とを合成することで骨振動の直接に聴覚に関与する成分と間接的に関与する成分による機能差を解析することを今後の課題とする。
著者
澤田 秀実 藤原 知広
出版者
くらしき作陽大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では湮滅古墳の全国集成とそれらが撮影された空中写真の収集をおこない、収集した空中写真を航空写真実体鏡とシービーエス社のMap MatrixおよびFeature Matrixをもちいた分析、図化によって、約50基の湮滅した前方後円墳について復元していった。湮滅古墳の集成は湮滅、半壊した336古墳(古墳群)、一部損壊したものを204古墳(古墳群)リストアップし、これらについて関連文献と該当する空中写真を収集し、データベース化していった。4年間で収集した空中写真は約700古墳(古墳群)分で約1500枚である。入手した空中写真は航空写真実体鏡で観察したのち撮影状況、条件の良いものを選定してデジタルアーカイブ化し、デジタル化した空中写真をシービーエス社のMap MatrixおよびFeature Matrixをもちいて分析し、墳丘形態の観察、図化を試みた。これらのソフトは2009年度から導入し、本格的な稼働が2010年度からであったが、約50基の古墳、古墳群について自動図化し、古墳の平面形態、規模を復元した。ただし、段築成や墳端など微細な墳丘形態に関しては実体観察し得るものの、自動図化では十分に反映されず課題を残した。さらに資料の一部で手動による図化を試みたが熟練技術が必要で量産し得ないことが了解された。とはいえ、これらの作業をとおして新たな資料の掘り起こしに成功し、首長墓系列の再検討に見通しを得た。首長墓系列の再検討は、2009年度までに測量調査した成果を中心に美作地方でおこなったほか、2010年度の分析、図化成果をもとに各地の前方後円墳の築造状況を見直し、古代国家形成過程における前方後円墳の役割について検討を加えた。このように本研究ではデータベースの作成、空中写真の分析、図化を中心に研究作業を進め、その成果をもとに各地の首長墓系列の再検討、さらに前方後円墳築造の論理を追究し、一部に課題を残したものの、所期の目的に対し一定の成果を得ることができた。
著者
石原 友明 建畠 晢 佐藤 知久 砂山 太一 石谷 治寛
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、芸術のデジタル・アーカイブに関して、さまざまな特定の機関や部局が全データを統御する集中管理型モデルではなく、各大学や機関・専攻等の個々のエージェントが資料を個々に管理しながら、そこで生成される芸術資源を横断的に活用しうるような「分散型芸術資源アーカイブ」の可能性を探究するものである。具体的には、理論的・技術的検討をもとに、ブロックチェーン技術を活用した分散型芸術資源アーカイブの実装と検証実験と、アーカイブの持続的成長に必要な人的・組織的なエコシステムに関する実践的検討を行うことによって、諸機関の独立性を維持しつつ成長する、来るべき芸術資源アーカイブの可能性を展望する。
著者
田代 晃正 太田 宏之
出版者
防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

これまで、我々は強い光が眼に入ると、副交感神経反射により眼球内の血管拡張が促されることを明らかにし、この血管拡張が侵害刺激となり三叉神経を刺激(三叉神経ー副交感神経回路)、不快感(眩しさ)を誘発していることを提唱してきた。本年度は、光刺激に伴う三叉神経-副交感神経回路の興奮性増大に対するメラノプシン発現網膜神経節細胞(ipRGC: intrinsically photosensitive retinal ganglion cell)の関与を調べた。強い光が眼に入ると、三叉神経-副交感神経回路が興奮し、流涙反射がおこる。そこで、三叉神経-副交感神経回路へのipRGC の関与を調べるために、光刺激に対する反射涙の量を指標とし、検討を行なった。メラノプシンアンタゴニスト(オプシナミド)を静脈投与し、反射涙量の変化を観察すると、光刺激により誘発される反射涙の量は著しく減少した。また、反射涙を制御する三叉神経脊髄路核中間亜核(Vi)と尾側亜核(Vc)の移行部(Vi/Vc)のニューロンの活動を指標とし、三叉神経-副交感神経回路へのipRGC の関与のさらなる検討を行なった。in vivo 単一細胞記録法を用い、眼球への光刺激に反応するVi/Vcニューロンの神経活動記録を行い、オプシナミドによる神経活動の変調を観察した。その結果、光刺激により誘発されるVi/Vcニューロンの興奮性の増大はオプシナミドの静脈投与により、著しく減少することが明らかとなった。これらの結果より、「眩しさ」を誘発する三叉神経-副交感神経回路の興奮に対するipRGCの活性の関与が示された。今後は、刺激光の波長変化によるipRGCの活性の制御と、三叉神経-副交感神経回路の興奮の関わり合いを検討する。
著者
河原 達也 奥田 統己
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

アイヌ民話(ウウェペケレ)の音声認識の研究に取り組んだ。2つの博物館から提供されたアイヌ語アーカイブのデータを元に、沙流方言を対象としたアイヌ語音声コーパスを構築した。このコーパスを用いてEnd-to-Endモデルに基づく音声認識システムを構成した。音素・音節・ワードピース・単語の4つの認識単位について検討し、音節単位が最もよいことを示した。音声認識精度が話者オープン条件において大幅に低下する問題に対して、CycleGANを用いた教師なし話者適応を提案した。さらに、日本語とアイヌ語が混合した音声に対して、音素認識と単語認識を組み合わせることで、アイヌ語の区間の検出(言語識別)を実現した。