著者
坂田 勝 阿部 博之 大塚 昭夫 北川 浩 宮本 博 青木 繁
出版者
東京工業大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

各研究分担者は当初の計画に従って研究を行い、開口および混合モード負荷を受けるき裂先端の弾塑性変形について解析および実験を行った。宮本・菊池・町田は、先端に巨視的ボイドを有するき裂について微視的ボイドの存在をモデル化したガーソンの構成式を用いて有限要素解析し、き裂とボイドの相互作用および合体について研究した。大塚・東郷は、混合モード負荷を受ける切欠きおよびき裂の挙動について有限要素法解析および実験をおこなった。切欠きについては、モードI負荷成分が大きいときの開口型き裂の発生は限界ボイド率によって予測できるが、モードII成分が大きいときのせん断型き裂の発生の予測は困難であった。き裂についても開口およびせん断型き裂が進展し、J積分による予測が可能なことを示した。坂田・青木・岸本は、混合モード負荷を受けるき裂について有限変形理論に基づく有限要素法によって、き裂先端に一個の巨視的ボイドが存在するモデルについて解析した。ボイドがき裂の鈍化側に存在するときには、き裂先端の塑性ひずみおよびボイド率の増加に寄与し破壊を促進するが、き裂の鋭化側に存在するときは相互作用しないことを示した。北川は、現象論的な構成式を用いないで、微視的なすべり機構を考慮した有限要素法シミュレーションを行って、き裂の開口形状を解析した。共役2すべり系による解析が実験結果とよく一致することを示した。阿部・坂は、有限要素解析およびすべり線場解析を行うとともに実験を行って、モードI負荷をうけるき裂の進展を規制する量として強変形域塑性仕事の概念を、混合モード負荷については一般化き裂開口変位の概念を導入し、これらがき裂の発生および進展を規制するパラメータであることを示した。
著者
田中 暉夫
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

土壌や根圏に生息する微生物である枯草菌は細胞外に多量の蛋白質分解酵素であるプロテアーゼを分泌する。プロテアーゼの役割は、細胞の周辺にたまたま存在する動植物の破片やその細胞内容物に含まれるタンパク質をアミノ酸またはペプチドにまで分解し、細胞に取り込まれる形にするものと考えられる。しかし、枯草菌は必要な時にだけ、すなわち、栄養が不足した時にだけプロテアーゼを分泌する。本研究は、このような制御のメカニズム解明を試みた。その結果、グルタミン合成酵素が細胞内の栄養(窒素源)状態を感知し、その制御下にある種々の転写制御因子をコントロールしてプロテアーゼの産生を制御しているという結論を得た。
著者
キヤンベル ニツク 定延 利之 柏岡 秀紀
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究のはじめに「対話構造」、「アクティブ・リスニング」を主なテーマとして、招待講演や国内および国際会議での発表を多く行った。本プロジェクトにより、新たな技術を得てはいないが、自然音声対話に関しての合成と認識手法に関して理解を深めることが可能となった。また本研究はEUのプロジェクトであるSocial Signal Processingに影響を及ぼした。さらに大規模マルチモーダルコーパスを数カ国の大学と協力して収録し、ウェブページhttp://www.speech-data.jp/nick/mmx/d64.htmlにそのデータベースを掲載した。最後に本研究で開発された画像処理モジュール、音声処理モジュールを含み、簡単な会話が可能なロボット"Herme"を完成させた。"Herme"は現在アイルランドに展示されており、ロボットとの対話音声コーパスの収録を行っている。
著者
小野 幸子 阿相 英孝 杉井 康彦 安川 雪子
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

シリコンを始めとする半導体基板, GaAsに代表される化合物半導体基板,さらにアルミニウム,チタンなどの軽金属基板上に,既存のフォトリソグラフィー技術を用いずに,物質固有の自己組織化能を最大限に活かした湿式プロセスで,規則性を持つナノ・マイクロ構造体を容易かつ高精度に作製するプロセスを開発した。
著者
今中 哲二 川野 徳幸 木村 真三 七澤 潔 鈴木 真奈美 MALKO Mikhail TYKHYY Volodymyr SHINKAREV Sergey STRELTSOV Dmitri
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

旧ソ連での原子力開発にともなって生じたさまざまな放射能災害について、現地フィールド調査、関係者面談調査、文献調査、関連コンファレンス参加といった方法で実態解明に取り組んだ。具体的には、セミパラチンスク核実験場の放射能汚染、チェルノブイリ原発事故による放射能汚染、マヤック原爆コンビナートからの放射能汚染、原子力潜水艦事故にともなう乗組員被曝といった放射能災害について調査し、その結果を論文にまとめ学術誌に投稿するとともにホームページに掲載した。
著者
上田 直行 高木 俊明 津田 英照 無敵 剛介
出版者
久留米大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

術中電気メスが使用されると, 心電計や脳波形は強力な電磁障害を受けて使用できなくなる. このように現在一般に不可能とされている電気メス使用中の心電図や脳波測定を実現するため, すでに基本開発されている光多重生体計測システムの実用化と, これにより得られた生体情報をコンピューター室まで伝送し, 処理するために光ファイバーを用いた手術室内光伝送システムの実用化を目的として試作・検討を行った.光多重生体計測システムは電池駆動のトランスミッターにより心電図, 脳波2チャンネル, 血圧の電気信号を多重化して光信号に変換した後, 光ファイバーを通して伝送し, 受信機(モニター本体)で信号再生するものである. スペクトラムアナライザーを用いた電気メスノイズの解析の結果, 電磁波ノイズは減衰が大きいが伝導ノイズは減衰が小さく数Hz〜数百Hzのスペクトルを持つことが確認され, システム全体の耐ノイズ性を向上する上で問題となるのは手術室内に設置される光多重生体計測システムの受信部と光伝送システムの入出力インターフェース部の伝導ノイズであることなどが分った. 以上の結果を考慮して伝送距離50m/時分割方式4チャンネル(心電図・脳波2チャンネル・血圧)の光伝送システムを試作し検討した.以上の研究により従来不可能とされていた電気メス使用中の術中心電図や脳波を測定し, 伝送, 処理することが可能になった. さらに光伝送方式では患者に接続されるトランスミッターとモニター本体(受信部), モニター本体とコンピューター間が光ファイバーで完全に電気的に絶縁されるため最も重要なミクロショックや熱傷事故に対する安全性の点でも理想的であり, 耐ノイズ性と同時に高い安全性を実現できる点が本研究の特長である.
著者
松澤 暢 岡田 知己 日野 亮太
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

最近の摩擦構成則による数値シミュレーションの結果によれば,プレート境界は地震時に高速にすべるだけでなく準静的にもすべっており,それは特にカップリング域の先端付近で顕著となることが予測されている.東北地方太平洋沖においてこの準静的すべりを地震観測から捉え,かつその付近の物性を解明することが本研究の目的であった.本研究により,小繰り返し地震(small repeating earthquake)が東北地方太平洋沖で発生していることが明らかになった.この小繰り返し地震データを用いてプレート境界における準静的すべりの時空間分布を詳細に明らかにすることに成功し,カップリング域の深部先端付近では,プレート間相対速度と同程度の速度で準静的すべりが進行していることが明らかになった.これは,カップリング域と非カップリング域の間の遷移領域を地震学的に捉えたことに相当する.GPS観測点は陸域にしか存在しないため,海溝付近での準静的すべりの状況を調べることはGPSデータ解析では困難であるが,小繰り返し地震解析からは,三陸沖の海溝付近ではかなり頻繁に準静的すべりが発生していること,また,M6以上のプレート境界型地震はすべて大規模な余効すべりを伴っていることも明らかになった.海溝付近の構造についても知見が得られつつある.海底構造探査の結果と地震活動の比較により,沈み込んだ海洋性プレートのLayer2の不均質性が地震発生の状況を支配しているというモデルが提示され,また,海底地震観測による高精度の震源分布と構造探査の結果との比較から,三陸沖ではプレート内部で発生している地震がかなり多いこともわかってきた.これらの結果は,プレート境界のカップリング状況が,プレート境界面の性質のみならず,ある程度厚みをもった領域に支配されている可能性を示唆している.
著者
中林 一樹 饗庭 伸 市古 太郎 池田 浩敬 澤田 雅浩 米野 史健 福留 邦洋 照本 清峰
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

近年、アジアでは多くの地震災害が発生した。そのうち、日本では阪神・淡路大震災(1995)、新潟県中越地震(2004)、トルコ北西地震(マルマラ地震:1999)、台湾集集地震(1999)を取り上げて、地震災害からの都市と住宅の復興過程の実態及び関連する法制度の比較研究を行ってきた。震災復興は、被災した現地での再建復興「現地復興」と、被災した地区を離れ住宅・生活を再建復興する「移転復興」がある。いずれの国でも、災害復興に当たって、現地復興と移転復興が行われているが、そこには対照的な復興過程が存在することが明らかになった。日本では自力復興を原則とし、持家層は現地復興を基本としているが、被災現地が危険な状況にあるなど移転が望ましい場合にのみ移転復興(防災集団移転事業)が行われる。他方、借家層は多くが被災した現地を離れて近傍あるいは遠隔地の借家や災害復興公営住宅に個別に移転復興を行う。また、都市部の震災復興の特徴的な課題は、土地区画整理事業・都市再開発などの都市基盤整備を伴う復興の推進と区分所有集合住宅の再建に見られたが、中山間地域の復興では、現地復興を原則としながらも、高齢化は地域復興の大きな阻害要因となり、孤立した集落などの集団移転による移転復興が選択されている実態が明らかとなった。他方トルコでは、被災現地は地盤条件が悪いために被害が大きくなったという基本認識のもと、被災現地に対して建築制限を指定するとともに、建物自己所有層に対して住戸及び事業所1戸分を郊外に新設し、特別分譲するという移転復興を基本対策として震災復興を進めてきた。その結果、自己住宅が被災したわけではない借家層に対する住宅再建に関する公的支援対策は基本的にないにも拘わらず、都市計画制限もため被災現場での集合住宅の再建は遅れ、現地復興は大幅に遅れる現状が明らかとなった。台湾では、変位した断層近傍地帯と震源域直上の中山間地域が被災地域で、その震災復興は原則として現地復興である。しかし、斜面崩壊した集落や地震に引き続き多発した台風災害による複合災害化のため、土石流などによって現地復興が不可能となった集落などは移転復興を余儀なくされている。台湾の震災復興の最大の特徴は、民営型の重建基金会(復興基金)が地域社会の生活再建や区分所有の集合住宅の再建などの取り組みをまちづくり(社区営造)として支援し、新たな復興手法を創設して、柔軟に震災復興を進めていったことである。また、このような3地域の震災復興過程における特徴を比較研究するとともに、トルコ及び台湾では、事例的に市街地の復興現状をGISに基づく写真等のデータベースを試作した。
著者
村上 ひとみ 瀧本 浩一
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

地震時においては家屋の倒壊に至らない場合でも、住宅室内の家具什器による転倒・散乱被害が甚だしく、居住者が死傷したり、室内で出火延焼したり、避難ルートを失う危険性が高まる。室内被災の背景には、居住空間内の家財が増加・大型化していること、収納空間の不足と不適切な配置、内壁や家具の設計に固定への配慮が欠けていることなどの問題点が考えられる。このような実態を改善するには、居住者自身が室内空間被害の可能性と人的被害の危険度を客観的に認識し、家具の配置、住まい方を変えることによる危険度低減効果をシュミレーションにより視覚的かつ、定量的に認識できるような自己診断システムが望まれる。本研究では、1995年阪神・淡路大震災における震度と建物被害・室内被害に関するアンケート資料を分析して、震度を横軸とする家具の被害関数を導出した。具体的には住宅内で一般的な5種類の家具の4つの被害レベル(物が落ちる、転倒など)について正規分布関数を仮定し、数量化I類を用いて関数系のパラメータを求めた。上記の関数を基に室内危険度評価手法を提案した。さらにパソコン用CADのベースとプログラム環境を組み合わせ、居住空間の間取りを作成し、柱状体としての家具什器を入力・配置し、上記家具被害関数を用いてその環境における地震時被災危険度を推定するソフトウェアを開発した。1993年釧路沖地震で得られている室内被害調査結果を利用して、本ソフトウェアで推定される危険度と実被害を比較、推定の精度を検証した。ソフトウェアは推定結果を具体的かつ視覚的にわかりやすく表示し、震度の上昇に伴って増大する危険性を表示するなどの機能を有する診断用ソフトウェアとなっている。これによりインターアクティブなCAD環境を利用した住宅室内環境の地震危険度自己診断手法を提案するに至った。
著者
酒井 宏治
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

高熱と急性の呼吸器症状を伴うインフルエンザ様症状を呈し入院した海外渡航者からウイルスが分離された。そのウイルスは、過去3例のみ論文報告のある極めて稀なオルソレオウイルスのネルソンベイウイルスに属する新型レオウイルスであった。本研究では、その分離株の性状解析を実施すると共に、インフルエンザやSARSとの類症鑑別を視野にいれたウイルス遺伝子検出系および血清学的診断系の開発、動物感染実験を行い、新興感染症としての新型レオウイルスのコントロール法の確立を試みた。1.分離株の塩基配列決定:分離株の4つのSセグメントの全塩基配列決定を行った。特に、同時期に分離されたKamparウイルス、HK23629/07株と非常に近縁であることがわかった。2.ウイルス遺伝子検出系の開発:Sセグメントの配列情報から、(1)保存性が高く、(2)哺乳類レオウイルス及び鳥類レオウイルスに反応せず、(3)ネルソンベイウイルス群特異的なプライマーセットを作製し、RT-PCRでの迅速かつ高感度な遺伝子検出システムを構築した。3.血清学的診断系の確立:(1)ウイルス中和試験、(2)間接蛍光抗体法、(3)不活化濃縮精製ウイルスを抗原としたELISAのシステムを確立した。4.動物感染実験:マウス感染実験では致死性の呼吸症状が認められた。カニクイザル感染実験では、急性の呼吸器症状は認められたが、顕著な高熱、致死性は認められなかった。
著者
平田 直 長谷川 昭 笠原 稔 金澤 敏彦 鷺谷 威 山中 浩明
出版者
東京大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2004

1.臨時地震観測による余震活動調査震源域およびその周辺に、約100点の臨時地震観測点を設置して余震観測を行った。対象地域の速度構造が複雑であることを考慮し、余震が多く発生している地域では、平均観測点間隔を5km程度、震源域から遠い領域では、それよりも観測点間隔を大きくした。この余震観測により、余震の精密な空間分布、余震発生の時間変化、余震の発震機構解などが求められた。余震は、本震、最大余震、10月27日の余震の3つの震源断層の少なくとも3つの震源断層周辺域とその他の領域で発生していることが分かった。3次元速度構造と余震分布との関係が明らかになった。本震の震源断層は、高速度領域と低速度領域の境界部に位置していることが明らかになった。余震分布は、時間の経過とともに、余震域の北部と南部に集中した。27日のM6.1の余震の直前には、この余震に対する前震は観測されなかった。2.GPSを用いた地殻変動調査震源域にGPS観測点を10点程度設置し、正確な地殻変動を調査した。本震の余効変動が観測された。内陸地震の発生機構に関する基本的データを蓄積した。3.地質調査による活断層調査震源域およびその周辺において、地質調査を行い、地震に伴う地形の変化、また活構造の詳細な調査を行った。4.強震動観測による地殻及び基盤構造の調査強震動生成の機構解明のために、本震震央付近で大加速度を記録した点周辺に10台程度の強震計を設置し、余震の強震動を観測した。余震の強震動記録から、地殻及び基盤構造を推定し、強震動が発生した機構を明らかにした。
著者
羽倉 弘人 小泉 俊雄
出版者
千葉工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1. 簡易空中写真測量法をを利用した風の観測システムの開発現地に於て地上付近の風の流れを3次元的に捉えるシステムとして簡易的な空中写真測量を用いて測定するシステムを開発した。このシステムは、トレ-サ-として放流した風船を2個の35ミリカメラによりステレオ撮影し、その流跡線を解析するものである。撮影装置を搭載するプラットホ-ムとして、カイト気球を用いて空中より写真撮影する方法と鉄塔を用いて斜め空中写真を撮影する方法の二つの方法を開発した。2. 風の流れの流跡線測定と解析上記の観測システムを用いて、JR京葉線新習志野駅前の千葉工業大学芝園キャンパスに於て、建物周辺気流の観測と平地における気流の観測を行った。その結果、建物付近の剥離流の存在などの気流の様子を自然風観測のデ-タとして確認した。3. 風の鉛直分布特性と地表面粗度との関係について。海岸都市部に位置するJR京葉線新習志野駅前の千葉工業大学芝園校地に於て、カイト気球を用いて高さ約400mまでの風の観測を行った。今回の観測では予定していた各方位の風向の風や、強風時の風を観測することが出来なかった事、また地表粗度の抽出に時間がかかりすぎ十分解析する事ができなかったが、粗度の効果は風速の違いによりその効果が異なるなどの結果が得られ、今後の問題点として残された。4. 山地の風の観測と解析富津市明鐘周辺に観測点を27点選定し、地上の風向、風速の現地観測を行った。そしてそのデ-タを用いて風に及ぼす地形の影響の様子を解析した。また、2次元の三角形地形模型を用いた風洞実験を行い、風に影響を及ぼすと考えられる主要な地形因子についてその効果を検討した。
著者
今村 文彦 高橋 智幸 箕浦 幸治
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、地滑り津波の発生機構の解明および解析手法の確立を目的とし、非地震性津波の発生する可能性のある地域を評価する手法を提案することを目指している。今年は、現地調査、水理実験、数値モデルの開発を行ったので、異化に実績を報告する。まず、現地調査の対象地域は地中海沿岸であり、ここでは非地震性津波の多くがエーゲ海を中心とし歴史的なイベントが多い。昨年の1999年トルコ・イズミットおよびマーマラ海での調査に引き続き、トルコ共和国エーゲ海沿岸での調査を実施した。ダラマンにおいては、津波の堆積物を発見し、3層構造、各層の中にも2から3の異なる構造を持つことが分かった。これは、地震による液状化、津波の数波の来襲を示唆している。その他の地域では、津波による堆積物を確認することは出来なかった。次に地滑り津波発生モデルの基礎検討として、地滑りが流下し水表面に突入し、津波を発生する状況の水理実験も実施し、既存のモデルとの比較を継続して実施した。斜面角度、底面粗度、乾湿状態などを変化させ、土石流の流下状況と津波の発生過程を観測し、モデル化を行った。実験で明らかになった点として、押し波に続く引き波の存在があり、これは土砂の先端波形勾配に最も関係していることが分かった。さらに2層流のモデルの適用性を検討し、抵抗のモデル化(底面摩擦、拡散項、界面抵抗)をさらに改良した。最後に移動床の水理実験も同時に実施しており、陸上部に堆積する土砂のトラップ条件と水理量との比較検討を行った。津波の遡上後、引き波で砂が戻る前に、トラップ装置を落下させ、砂の移動がないように工夫し、陸上部において、詳細に体積量を測定することが出来た。流速の積分値と堆積量がもっとも関係あることが分かった。
著者
今岡 克也
出版者
豊田工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は,いつでも・どこでも・比較的簡単に測定できる微動の有効性を確かめるために、東海地域で地震観測を行っている施設内で微動測定を実施し,地震動と微動の特性を比較・考察することを目的としている.平成13年度から東海4県(愛知県,三重県,静岡県,岐阜県)内の地震観測施設で微動測定を実施し,表層地質などと関連させて得られた県内の地盤震動特性について,地元の新聞を通じて県民に公表するとともに,県庁や市町村の防災担当者に文書で説明した.次に,2000年10月6日鳥取県西部地震(M7.3)などの際に東海地域で得られた地震動波形を分析して,地震動と微動の特性を比較した.その結果,以下のことが判明した.(1)基板と堆積層とのせん断波速度のコントラストが大きく、かつ、堆積層が成層に近い地域では,微動H/Vスペクトルから表層地盤の1次卓越周期を容易に得ることができる.逆に,断層などの影響で堆積層が不整形になると,微動H/Vスペクトルの卓越が複数となり,また,水平動の卓越との対応も悪くなる.(2)地震の規模がM7.3と大きな場合,地震動波形と微動のH/Vスペクトルの1次卓越周期は長い周期域(4〜5秒)まで良く一致する.(3)地震動と微動のH/Vスペクトルの平均倍率を比較すると,地震動のH/V倍率は微動に比べて1.5〜2倍程度大きくなる場合が多い.(4)基盤と地表面との地震動波形から得られた表層地盤の伝達関数の1次卓越周期は、地震動のH/Vスペクトルから得られたものと良く一致する.
著者
鈴木 省三 石山 信男 内野 秀哲 竹村 英和 岩田 純 朴澤 泰治
出版者
仙台大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、従来の有能な指導者による「経験と勘」に依存した年間トレーニングプログラムの作成に代わって、生理学的な知見と数理的な手法に基づくパフォーマンス数理モデルを用いた年間トレーニングプログラムの計画、実践、分析、評価の循環サイクルを指導者・サポートスタッフと連携しながら実践し、重要な大会に最高のパフォーマンスを発揮できる選手サポートシステム(遠隔IT機能を活用したe-conditioning選手サポートシステム)を構築することである。2009年度は、1年目の成果を基に、遠隔IT機能を活用したe-conditioning選手サポートシステムの現場への応用を実践した。結果として、対象スケルトン選手が日本選手権大会で優勝、ワールドカップ8戦で国際ランキング15位になり、2010年バンクーバー冬季五輪の日本代表選手選出に貢献できた。さらに、パフォーマンス数理モデルを用いた年間トレーニングプログラムは、選手個々のトレーニング刺激に対するコンディションレベルの生理的適応過程が客観的に把握できたとともに、オーバートレーニングの危険を回避しながら最適なトレーニングプログラムの実践が可能となった。また、最終的にトレーニング効果としてのパフォーマンスが予測できることは、従来課題として掲げられていた問題点が解消できる可能性が示唆された。さらに、主観的・客観的評価に、選手のコンディションを見抜く指導者やサポートスタッフの洞察力が加わった一連のシステムモデルが、日本の競技力を向上させるためのコンディショニング領域で大いに活用されることを期待している。
著者
二宮 敏行 深道 和明 竹内 伸 増本 健 新宮 秀夫 小川 泰
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1986

クエイサイクリスタル(準結晶)は,從来の結晶学では存在しないとされていた対称性を持ち,1984年の発見以来,急速に発展しつつある新しい個体研究の分野である. 昭和63年度から重点領域研究「準結晶の構造と物性」が発足することを考慮し,本研究班の研究会は,広く準結晶に興味を持ち研究を進めている人人を含めて,62年11月に開催された.本年度の主な成果は次の通りである.1.準結晶構造の幾何学準結晶構造については,これまで主として,5回対称,20面体対称についての議論が多かったが,8回対称,24面体対称についての具体的モデルなどが提出された. これは,最近中国で実験的に見出された構造(NiーCr系)と対応するもので,準結晶の物理の具体的な広がりをもたらすものである.2.電子状態一次元系について,電子波束の伝播の様子の特異性などが調べられた. これは,重点領域研究で予定されている一次元準周期超格子中の電子の振舞についての実験に示唆を与えるものである. 一次元系の電子状態の理論的扱いに,新しくLie代数の方法などが提出された. また,二次元系についても,あるタイプの厳密解や,電気伝導などが調べられた.3.試料作成,物性準結晶に予想される特異な物性を実験的に観測するためには,良い試料を得ることが必須である. 普通の冷却法で作られ,融点直下での焼鈍に安定な準結晶Al_<65> Cu_<20> Fe_<15>が見出された. この試料は単相で0.2mmの大きさに達しており,成長機構の解明や物性の測定に重要な役割を果すと期待される. また, ひずみの小さな準結晶の作成のため,4元合金(磁性,非磁性のもの)の開発が行われた.
著者
松尾 和枝 喜多 悦子 酒井 康江 佐藤 珠美 小林 益江
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

昨年の調査で得られた『雪の季節の出産が大変である』この住民の声を踏まえて、雪の季節の出産を避ける。また出産時、救急車で運ばれなければならない状況を早期に発見し、対処方法を検討する。この2つの目的のために、「予防と早期発見」が必要であることを住民達自身が気づくように、健康学習会と意見交換会を行った。女性集団、男性集団をそれぞれに集めて、日本から持参したマギーエプロンを用いて、出血や分娩の経過に異状をもたらす妊娠中の母体の状態を視覚的に示した。その体内で起きている異常を視覚的に理解すると、住民達は、早期発見の必要性と検診の必要性を理解することができた。現地ナース、助産師が健診受診による早期発見対処の可能性について補足説明をした。助産師は、パクリット村の方言を加えたペルペル語でアズロのマタニティ病院での制度、システム、経費について説明を加えた。最初は、雪の季節を避けた計画妊娠について、神のみが知ることと、全く聞く耳を持たなかった年配の女性達も、助産師の説明で理解をした。また、男性たちも雪の季節に妻や子を救急車で搬送をすることの負担や、その結果、娘を失った辛く悲しい経験を共有し、今回の健康教育内容を家族や地域に広めていくことを約束した。今回の健康学習会は、バクリット村住民の約20数名に伝えたに過ぎない。村の住民に妊娠出産についての正しい情報提供と、その正しい知識に基づく適切な保健行動の形成については、今後も継続的な啓蒙普及活動が必要であると考える。今後は、B村のナースとデレゲションの助産師と継続的な連携を持ちながら、活動の定着、妊婦・乳幼児死亡ゼロの村を目指した住民の意識・行動の変容やスタッフの活動の評価も行って行きたい。今回の調査活動並びに健康学習会の一連の過程を、現地看護職に紹介し事例検討を行なった。彼らは、病院で患者を待っていたことを反省し、医療職が現地に出向いて地域の問題に気づき、住民と共に健康問題の改善に努力するアウトリーチの活動の必要性に気付いた。
著者
長瀬 久明
出版者
兵庫教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

重力について思考する場合のマイクロワールドとして次の3つを明らかにした。1 言葉:質量,比例する,速度,など。言葉で思考する。2 数式:万有引力の法則,速度と位置の関係,などについて,式で思考する。3 グラフ:質量(具体例)の位置の変化について,2次元平面,3次元空間で思考する。これに基づいて、次の内容を持つウィンドウが設計された。1 言葉:文字や文節を素材とし,これらを結合し,格文法を用いることにより,文として構成できる。2 数式:変数,演算子を素材とし,これらを結合し,式を構成できる。3 グラフ:2あるいは3実数軸を内容とする。任意の点に質量を置き,時間的な位置の変化を表示できる。これらのウィンドウを用いて可能となる学習活動を明らかにした。マイクとワールドに対応するウィンドウとして,言語表現ウィンドウ,数式ウィンドウ,グラフウィンドウ,アニメーションウィンドウ(学習者に動的なイメージを持たせるために加えたウィンドウ)の4つを開発した。Windows95上でVisual Basicにより実行システムを作成した。学習課題とシステムとを切り離し,システムは純然たるツールとして作成した。これにより,システムは学習者のためのツールであるのみならず,教師が学習者に説明する場合にも使用できるツールとなった。数学への応用を検討した。2次関数について,式,グラフ,および,パラメータ,の3つのウィンドウから操作でき,3ウィンドウが連携して動作するウィンドウシステムを開発した。これにより,相異なる表現(グラフ,言語,など)を別々のウィンドウに表示し,連携動作させる型の学習ソフトウェアが,重力概念(運動方程式)の学習に限らず,知識を生成する学習活動に対して開発可能であることが事例的に示された。上記の研究結果はソフトウェア同梱の報告書として配布されるとともに,インターネットにより公開される。
著者
又賀 駿太郎 澤田 剛
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

スルースペース相互作用が可能な位置にベンゼン環を積層したパラシクロファン、メタシクロファンは垂直方向にパイ電子系を拡張した系であるが、これらのシクロファンでは、ベンゼン環は平面性を保持出来ずボート型に歪んでいる。著者らは、ベンゼン、ナフタレン環が平面性を保持したまま接近して積層した3層、4層[3.3]オルトシクロファンを合成し構造を明らかにした。以下に結果を示す。1) 弱塩基を用いてアセトンジカルボン酸ジエステル5とビス(プロモメチル)ナフタレンあるいはビス(プロモメチル)ベンゼンを反応させ、ナフトシクロヘプテンを合成し、次いで、テトラキス(プロモメチルベンゼン)を弱塩基を用いて反応させて、4個の芳香環をを持つトリスケトンテトラエステルを合成した。これを加水分解、加熱脱炭酸してトリスケトン体を得、ケトン基をアセタール化して4層積層オルトシクロファンを合成した。ベンゾ/ベンゾ/ベンゾ-、ナフト/ベンゾ/ナフト-3層オルトシクロファン、ベンゾ/ベンゾ/ベンゾ/ベンゾ-4積層オルトシクロファンも同様な方法により合成した。2) 多層積層ファンの1H NMRでは、上下の芳香環で挟まれたベンゼン環のプロトンは高磁場シフトした。また、3層、4層ベンゾファンのUVスペクトルでは、積層構造に基く吸収帯の長波長シフトが見られた。3) 3層ナフト/ベンゾ/ナフト- 及びベンゾ/ベンゾ/ベンゾ-オルトシクロファンのX線結晶構造解析を行った。いずれのファンにおいても、積層したベンゼン環は平面性を保持したままスペース相互作用が可能な位置に近接し、積層した環の面間角は、2層ファンからから3層ファンへ積層数が増加するにつれて狭まっている。
著者
益田 実 齋藤 嘉臣 橋口 豊 青野 利彦 三宅 康之 妹尾 哲志 小川 浩之 三須 拓也 山本 健
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

従来の冷戦史研究では、冷戦期国際関係上の事象の「どこまでが冷戦でありどこからが冷戦ではないのか」という点につき厳密な検証が不十分であった。それに対し本研究では、「冷戦」と「非冷戦」の境界を明確にし、「冷戦が20世紀後半の国際関係の中でどこまで支配的事象であったのか」を検討し、より厳密な冷戦史・冷戦観を確立することを目的に、冷戦体制が確立した50年代半ばから公文書類の利用が可能な70年代後半までを対象とし、冷戦との関連性に応じて8つの事象を三分類し、関係諸国公文書類を一次史料として「冷戦」と「非冷戦」の境界を実証的に分析した。