著者
村松 正道 喜多村 晃一 若江 亨祥 小浦 美樹 島津 美幸 Que Lusheng Li Yingfang Mohiuddin Md Liu Guangyan Monjurul Ahasan Wang Zhe
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、免疫系の効果分子APOBECとヒト腫瘍ウイルスの代表であるパピローマウイルス(HPV)やB型肝炎ウイルス(HBV)との関係性を調べた。その結果、APOBECはHPVの粒子形成プロセスに干渉し、感染性を低下させ、あるいはウイルスDNAに変異を作る事が明らかになった。またAPOBECがHBVのウイルスRNAを破壊する活性を持つ事がわかった。これらの研究により、免疫系の持つHBVやHPVに対する感染防御力の一つにAPOBECという宿主酵素群が関与する可能性が浮上し、その機構の一旦が明らかになった。
著者
岩橋 崇
出版者
東京工業大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

電解液/電極界面は電気化学反応場を構築する重要なナノ領域であり、近年既存モデルで説明できないイオン吸着・脱離挙動の電位応答ヒステリシスが注目を集めている。本研究はイオン液体を電解液に用いて電気化学測定・赤外-可視和周波振動分光(IV-SFG)・光電子分光を相補的に活用し、ヒステリシス挙動とイオン-電極間相互作用の相関を解明することでヒステリシスを説明する新規概念モデル構築を目指す。27年度は下記に示す通り主に(1)膜厚制御可能なイオン液体薄膜成膜技術の確立、(2)光電子分光を用いたイオン液体/電極界面の電子構造の計測、(3)IV-SFGを用いたイオン液体/電極界面の吸着構造の計測を図った。(1)既存の蒸着装置にてイオン液体成膜を試みたが、真空槽内を汚染する問題が生じた。そこで、新規イオン液体蒸着槽の設計・開発を行い、現在組み立てを行っている。(2)イオン液体塗布基板の光電子分光計測を試み、電子構造評価が可能であることを確認した。今後は上記蒸着槽を用いて電極界面の電子準位接続及び界面双極子の評価を行う。(3)様々なイオン液体の電極界面における吸着構造を計測し、そのヒステリシス挙動はイオン種依存性を有することが分かった。また、希釈電解液系ではヒステリシス挙動の強い電解質濃度依存性を見出した。これは拡散層のイオン配列構造がイオン吸着構造に大きな影響を与えることを示唆する。今後はヒステリシス挙動のイオン種・電解質濃度依存性を精査し、既存モデルとの差異を検討することでヒステリシスを説明可能な新規モデル構築を試みる。上記において、(3)は様々な電気化学デバイスの機能性が図らずもヒステリシス挙動に影響されている可能性を示す重要な成果と考えられる。今後は電気化学測定・光電子分光からイオン-電極間相互作用の情報抽出を行い、より普遍的で自己無撞着なモデル構築を目指す。
著者
高橋 勇一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

中国長江上流域に位置する四川省・雲南省における森林環境の歴史的変遷を文献によって調べた結果、特に18世紀後半以降の人口急増に伴い、森林率が減少してきていることが明らかになった。また20世紀後半から現在に至る雲南省の森林・林業の変化を文献およびフィールドワークによって調査した結果、1980年代において、木材生産の急増が行われ、90年代以降において生態的側面を調査した結果、1980年代において、木材生産の急増が行われ、90年代以降において生態的側面を重視する方向へ移行し、98年の大洪水を契機に、天然林保護および退耕還林など、さらに生態保全の強化が進んだことがわかった。ところで、持続可能な生態村を建設する上では、地域住民の自主的・積極的な参加が必要不可欠である。そこで、自然資源の循環型利用を行う上で、住民との協働管理を考慮した持続可能な森林経営の資本評価の方法を考慮した。これは、本年の持続的経営の管理費kを、輸伐期uで還元するというのが基本であるが、環境保全に対する住民の支払意思額CSを加え、u(k+CS)と評価するものである。これを具体的な事例として、雲南省北部で最も有名な人工林であるウンナン松に適用し、その評価を試みた。ここで、農民たちの参加意思は意外と高いことがわかったが、社会の成熟度等によって変動が予想されることから、u'(k+αCS)の方が望ましいことを導いた。さらに、その古城が世界文化遺産に指定されている麗江県を対象に、エコシステムマネジメント導入の実行可能性について考察した。その結果、麗江は自然環境的要因においては条件が恵まれているが、都市と農村の共生関係の問題、政府・地域住民・研究機関等の協働関係の問題、そして特に県境付近における違法伐採など、さまざまな課題を残していることが明らかになった。
著者
水谷 秀樹 平工 雄介 川西 正祐
出版者
金城学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、抗がん剤と活性酸素(ROS) との関係に注目し、抗がん剤の効果・副作用の発現を酸化ストレスの観点から明らかにすることである。今回、薬物としてマイトマイシンC (MMC)、ピラルビシン (THP)、カルノシン酸 (CA)を使用した。THP, CAは、Cu(II)存在下では濃度依存的にDNAを損傷し、この損傷にはROSが関与していた。また、培養細胞の実験で、MMC, THP, CAの細胞死において共にH2O2の関与を示唆しており、これらの細胞死誘導因子すなわち抗がん作用因子としてROSの1つであるH2O2が重要であることが明らかになった。
著者
吉田 敦彦 永田 佳之 今井 重孝 西村 拓生 西平 直 森岡 次郎 藤根 雅之
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

日本のオルタナティブ学校に関する事例研究と原理的考察を通して、公教育とオルタナティブ教育とが連携する意義と可能性を明らかにした。1)多義的な「オルタナティブ」概念および「多様性と公共性」をめぐる議論を分析したうえで、学校教育法と並立するオルタナティブな教育機会確保法の意義を明らかにした。2)オルタナティブ教育実践の質を保証する先行事例として、相互認証、教員研修、公民連携等の役割を担う中間支援組織の試み、および台湾の「実験教育三法」の動向を検証した。3)公教育学校とオルタナティブ学校が連携したサステイナブルスクール・プロジェクトに参画し、ホールスクールアプローチによる実践・評価モデルを開発した。
著者
平井 志伸
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

サブプレートニューロン(SPn)は、人では疾患の種類によりその数が増減していることが知られている(アルツハイマー病患者では減、自閉症や統合失調症患者では増)。そこで、マウスを用いて、SPnの数が脳機能に及ぼす影響を検証した。まず我々は、今まで困難だった、SPn特異的な遺伝子操作の系を確立した。具体的には、アデノ随伴ウイルス(血清型9)を用いて、胎児期の適切なタイミングで脳室にウイルスを投与するという手法である。現在、この系を用いてSPn数を人工的に増減させた際の脳機能の変化を、組織学的、行動学的に解析中である。
著者
佐々木 倫朗 山本 隆志 坂本 正仁 山田 雄司 山澤 学 古川 元也 三浦 龍昭 丸島 和洋
出版者
大正大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、金剛三昧院・桜池院等の史料を調査することにより、高野山の宿坊史料の全体像を提示し、地方大名家の供養帳の史料的性格を明らかにし、大名家供養帳の成立と大名権力の確立との密接な関連性を考察することを目的とした。上記の研究のため、金剛三昧院については、平成23年度より経蔵内及び本堂に所在する史・資料の調査を行い、519点の供養帳を確認し、今まで存在が知られていなかった中・近世の多数の史料を確認した。桜池院については、諏訪・武田氏との関わりを中心としながら、調査を行い、中・近世の供養帳・新出文書を確認し、貴重な戦国期の供養帳に関しては、翻刻を行い、その史料的性格を明らかにした。
著者
杉本 直俊 紫藤 治
出版者
金沢大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

近年、気温の上昇により熱中症発病者が急増し、特に熱中症高齢者の増加が特記される。熱中症予防の基本は暑さに身体を慣らす、つまり暑熱順化である。しかし暑熱順化の分子機構はほとんど解明されていないのが現状である。本研究では暑熱順化の分子機構の解明を試みた。暑熱順化により(1)シャペロンタンパク質であるHeat Shock Proteinsが増加した、(2)低酸素刺激にも耐性が獲得された、(3)温度センサーであるTRPV1が減少した。以上が、これまでに判明した暑熱順化の分子生物学的な解析結果である。本成果により、熱中症予防への応用が少なからず可能性が高まったと思われる。
著者
宇野 重規 宮本 雅也 犬塚 元 加藤 晋 野原 慎司 網谷 壮介 高見 典和 井上 彰 馬路 智仁 田畑 真一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

1971年に公刊された『正義論』に端を発するジョン・ロールズの正義論は、いまなお自由、平等、そして民主主義をめぐる多様な研究の重要な基軸である一方、刊行から半世紀近くを経て、それ自身が一つの歴史になりつつある。本研究は、ロールズの正義論について、現代政治哲学における最先端の研究と、政治思想史や経済思想(史)からの歴史的な再定位を結びつけることで、「平等かつ自由な社会とは何か」というロールズの最も根源的な問いに答えることを目指す。この作業を通じて、政治哲学と政治思想史、さらに経済思想(史)研究の研究者のプラットフォームを作り、21世紀のリベラルな民主的社会のあり方を考察する。
著者
堀尾 文彦 村井 篤嗣 小林 美里
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

ビタミンC(VC)生合成不能のODSラットにVC無添加飼料を8日間与えた時期には欠乏症状は全く発症していないが、LPS誘発性敗血症を引き起こすと5.5%という極めて低い生存率であった。それに対して、最小必要量のVCの摂取は生存率を39%にまで上昇させ、ビタミンC摂取が敗血症防御効果のあることを初めて示した。さらに特筆すべきことは、最小必要量の10倍の高用量のビタミンC摂取は生存率を61%にまで改善させ、高用量VC摂取が敗血症に対して有効な防御手段であることを示した。このVCの作用は、LPSによる血中単核球でのTNFαおよびIL-1βの産生上昇の抑制によることを示唆する結果も得た。
著者
富川 光
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

中国地方には海峡や大地質構造線のような大きな地理的障壁がないにもかかわらず,多くの生物種で遺伝的・形態的な分化が集中して生じている.本研究では,移動分散能力が低く,生物地理学的研究材料として最適であるヨコエビ類,ヒル類,マイマイ類を材料として,分子系統解析・形態解析・飼育実験を行い,中国地方の生物地理学的重要性を検証した.
著者
久木田 水生 大澤 博隆 藤原 広臨 林 秀弥 平 和博 伊藤 孝行 大谷 卓史 笹原 和俊 中村 登志哉 村上 祐子 唐沢 穣
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、第一に、インターネット上の悪質な情報の流通とそれに起因する現代の諸問題の根本的な要因・メカニズム・影響を明らかにする。第二に、そのような問題に対処するための新しい情報リテラシーの概念を探求し、その基礎になる技術哲学理論を構築する。第三にその概念と理論に則した情報リテラシー向上のための方法を探求する。このことによって本研究は情報技術と社会が互いに調和しながら発展していくことに貢献する。
著者
糸井 史朗 浅川 修一 高谷 智裕 鈴木 美和 岩田 繁英 周防 玲
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

これまで申請者らのトラフグ属魚類におけるフグ毒獲得経路および手段に関わる研究で得られた知見をもとに、新たな切り口で研究を行う。すなわち、フグ毒保有魚にフグ毒を供給する主たる生物としてツノヒラムシ属に着目し、これを軸としたフグ毒の授受を解明することで、フグ類が保有するフグ毒の真の供給者を明らかにする。また、ヒラムシ類におけるフグ毒の獲得経路、さらにはフグ毒の授受に関わる生物群の生活史と生態学的地位の変化を探ることで、謎多きフグの毒化機構の全容解明を目指す。
著者
野田 文香
出版者
独立行政法人大学改革支援・学位授与機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

東京規約の発効に伴い、国内外の高等教育資格情報を発信するナショナル・インフォメーションセンターが2019年に立ち上げられた日本において、資格承認の公平性・透明性を確保するための参照ツールとなるNQFの構築の検討が急務となっている。本研究は、学術・実践の両面から日本版NQFの策定可能性に係る議論に資する示唆を得るため、ASEAN Qualifications Reference Framework (AQRF)に関わる各国NQFの策定プロセスや枠組みを横断的に分析し、人的モビリティ促進の観点からNQFの運用状況を類型化し、課題を明らかにすることを目的とする。
著者
木庭 乾
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

2型自然リンパ球(ILC2)は、アレルゲンによる組織損傷に伴い産生されるIL-25やIL-33に反応し、迅速かつ多量に2型サイトカインを産生することでアレルギー性炎症を誘導する。申請者は多様な免疫細胞を比較したRNAシークエンスデータを解析し、ILC2が神経伝達物質であるセロトニンの受容体を特異的に発現していることを見出し、セロトニンがILC2の増殖やサイトカイン産生を抑制する因子であることを明らかにした。本研究では、アレルギー性炎症におけるセロトニンの新たな生理的役割を、ILC2の抑制という観点から明らかにし、その抑制機構の破綻とアレルギー疾患の因果関係を解明する。
著者
木村 祐
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

申請者らが開発した生体適合性ナノ粒子型 Gd-MRI 造影剤について、その性能の深化を目指し、種々の粒径・表面修飾および組成におけるプロトン緩和機構を NMR および MRI を用いて詳細に解析する。得られた知見とこれまでの報告を比較することで、ナノ粒子型 Gd-MRI 造影剤のプロトン緩和能について、高性能化への新たな指針を見出すとともに、動物実験によってその効果を検証する。最終的には、細胞単位での MRI 検出を可能にする新規造影剤を創製し、細胞の動きや病態メカニズム解明へ向けたツールとしての利用を目指す。
著者
辻 竜平 長谷川 孝治 相澤 真一 小泉 元宏 川本 彩花
出版者
信州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

クラシック音楽祭を題材に文化資本と社会関係資本との関連性について検討した.また,その主題と関連する芸術至上主義的態度,音楽祭への参加と人々のアイデンティティや精神的健康についても検討した.主な調査としては,「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」の一般のオーディエンスを対象とした調査と,中学生向けのプログラムに参加した中学生を対象としたパネル調査を行った.中学生調査では,発達過程の状態を知ることができる.主な結果として,クラシック音楽への初期接触と,クラシック音楽の好み,および,地域活動や地域への評価との間に関係があることが明らかになった.
著者
光永 徹 志水 泰武
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

サイプレス材精油(CEO)を吸入した高脂肪食で飼育したマウスの肥満抑制効果が認められた。その作用機構を解明するために,CEOの匂い刺激を与えたラットの肩甲骨間褐色脂肪組織支配の交感神経活動(BSNA)を測定した。CEOは成分分画の結果,(-)-Citronellic acid (CA), guaiol, α, β-, γ-eudesmol 混合画分(GE), guaiol (G) and β-eudesmol fraction (E)の各画分を得た。それらのBSNAを測定したところ,CAは全く活性に影響しなかったが、GE画分およびGはBSNAの活動を大きく亢進する事を明らかにした。
著者
中川 賢一
出版者
東京工芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究はレーザー冷却によって得られる極低温原子を用いてその量子力学的な運動状態、すなわち原子波を制御するための基礎的な物理および実験技術を研究することを目的として平成8年度から平成9年度の間行った。実験に関してはRb原子のレーザー冷却のための装置の開発を主に行い、これに用いる外部共振器型半導体レーザー光源およびガラスセルによる磁気光学トラップ用超高真空装置の開発を行い、これらを用いて数100μKのRb原子約10^8個を冷却・捕捉が達成された。今後、さらに偏光勾配冷却を行うことにより、数μk程度の極低温原子が得られる事になり、これによって原子波の波長は光の波長程度となり、その運動には量子力学的な振る舞いが顕著に現われるため、レーザーを用いてこれを観測し、さらにはこれを制御する実験が可能になると考えられる。理論に関しては二本のレーザー光とその中の極低温原子の相互作用に関して反跳誘導共鳴散乱と呼ばれる過程に関して詳しく解析し、この散乱過程において周期的光ポテンシャルの中の極低温原子の運動と散乱されるレーザー光の間には密接な相関があることを見い出し、さらにこれを用いることによりポテンシャル内の原子の量子論的な運動状態を制御可能であることを見出した。この反跳誘導共鳴散乱の詳しい理論的な考察結果は既に別に行われている実験結果を非常に良く説明するもので、またこの考察結果を基に光ポテンシャル中の原子の運動の制御の実験に関しても予備実験が行われ、理論的に予想された結果が得られている。このため、今後先のRb原子のレーザー冷却の実験装置を基にして実験を進めることにより、光ポテンシャル中の原子の運動の量子状態の観測およびその制御の実験が可能になるものと考えられ、これは原子波干渉計、原子リソグラフィーなどの原子光学において非常に有用な技術となると考えられる。
著者
石川 洋文 平井 安久
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、本邦北海道全域にその感染域が拡大し、また本州に感染の侵入が懸念されている人畜共通感染症であるエキノコックス症(多包条虫症)について、伝播に関する数理モデルを構成し、シミュレーションを通して宿主動物に対する対エキノコックス・コントロール対策効果予測を行い、医学者・獣医学者との協力のもとで住民の感染危険防止に貢献することである。エキノコックスは、人に感染すると悪性腫瘍にも似た重篤な症状を引き起こし死に至ることもあり、4類感染症(感染症予防法)に指定され、北海道庁では、エキノコックス対策協議会を設け、その流行抑制を図っている。また、新興・再興感染症として、厚生労働省ではその感染源対策を推進している。エキノコックスは、Definitive hostsとIntermediate hosts間の相互作用による複雑な生活環を形成し、人にも感染する虫卵は、自然環境下に排出される。現在の技術では、人の感染しうる自然環境下の活性虫卵量の測定は不可能であり、また宿主動物に対する対エキノコックス・コントロール対策は多額の費用及び大量の労力を要することから、モデル・シミュレーションを用いた予測、判定が有用であり、真に役立つ精密モデルを構築することである。本研究では、Definitive hostであるキツネを個々に取り扱い、エキノコックスの感染進行を確率的に取り扱った。モデルをより現実化するために、個々のキツネについてエキノコックス感染荷を用いた。この感染荷は、捕食した野ネズミの原頭節量とキツネの感染経験により左右される。本研究では、北海道小清水及び札幌を研究対象地として確率シミュレーションを1,000回繰り返し結果を得た。この結果、コントロール対策としてキツネの駆虫薬散布を行うとき、散布時期の選択が重要となることが分かった。本研究で実施した確率シミュレーションは、感染率などを中央値とともに信頼区間を得ることができ、エキノコックスのような複雑な感染環をもつ疾患の解明、コントロール対策の評価に役立つものとなった。