著者
福武 慎太郎
出版者
上智大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

2002年に正式独立を果たした南洋の島国、東ティモール民主共和国のナショナリズムに関連する問題について、現地におけるフィールドワークと文献調査で得られた知見にもとづき考察をおこなった。東ティモールの公用語であるテトゥン語を共通言語とし、カトリック信徒で、かつティモール島南部にかつて存在した王国とのつながりを共有するテトゥン社会は、東西国境をはさみ合計50万人規模であり、人口100万人の東ティモールにおいてけっしてマイノリティではない。親族や姻戚関係、そして商業目的での国境の往来は頻繁におこなわれており、「東ティモール人」アイデンティティを理解する上で重要な文化圏であるとの見解に至った。
著者
松川 真美 細川 篤 長谷 芳樹 長谷 芳樹 柳谷 隆彦 星野 裕信
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

MHzの超音波照射により骨中に生じる誘発電位について実験的検討を行った。その結果、10 kPa程度の超音波照射でも誘発電位が観測され、圧電性の存在が確認された。この結果は骨折治療に使用される低強度超音波法による治癒メカニズムに、圧電による電荷生成が関与する可能性を示唆している。またこの誘発電位は湿潤した骨でも観測されたほか、HApの配向量に依存しないこと、誘発電位の極性は部位に依存することを見出した。また、圧電FDTD法を用いて、超音波伝搬による骨中電界の空間分布推定を試み、骨折の有無によって、分布が大きく変化することを確認した。
著者
オメル アイダン 川本 眺万 大塚 悟 久野 覚 片木 篤 西 順次 YUZER Erdoga
出版者
東海大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

本研究ではトルコ・カッパドキア地方にあるデリンクユ古代地下都市を対象として、その住環境および安定性についてまとめたものであり、次の順次で研究成果をまとめている。1) カッパドキア地方の地理、地質、気候、火山活動、地震活動等についてまとめ、地下都市成立要因を昼夜の温度差、建材となる樹木が少ない、地質的には掘削しやすい凝灰岩、地震からの避難等の理由と考える事ができることを明らかにした。2) この地方の歴史背景についてまとめた。歴史背景においては、敵からの迫害や周辺国からの侵略から身を守る為に地下に住んだ事の可能性が高いことを示した。3) カッパドキア地方の地下都市に存在する凝灰岩について既存の実験結果と今回行った実験についてまとめ、さらに凝灰岩の長期、短期特性について収集および整理した。また、地下都市の存在する岩盤の評価も行った。4) 考古学的見解から、カッパドキア地方を中心にこの地域の鉱山活動についてまとめ、カッパドキア地方周辺の遺跡の出土品と鉱山活動から、この地方において地下空間利用は少なくとも紀元前3000年頃までさかのぼることと結論づけた。5) カッパドキア地域の地下空間利用は1500年前よりも以前であることを紹介し、現代における地下空間利用事例として貯蔵施設,(果物、野菜、ワイン)、地下工場、半地下ホテルやレストラン、半地下住居、地下野菜栽培施設を紹介し、そのメリット・デメリットを論じた。6) デリンクユ地下都市に関して空間形態の分析を行い、実験データをもとに、換気シャフトおよび地下7階ホールの短期、長期安定性についてまとめ、なぜ今日まで地下都市が残っていたのかを力学的に明らかにした。7) 住環境に対して本研究で行った計測結果にもとづいて地下都市の換気シュミレーションを実施し、地下都市内部の発熱要素は換気に影響を与える事がなく、外気温が換気に大きく影響を与えており16℃以下という条件で換気が行われていたことを示した。特にこの地方は、年間を通して夜には16℃以下となり換気を損なうことはないことが明らかになった。これらの調査・分析・解析結果からデリンクユの空間形態および1万人以上の人々が生活する事のできる地下都市の換気構造を明らかにし、また、有限要素法解析から、地下都市が安定している事を明確にした。
著者
野口 康彦 青木 聡 小田切 紀子
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

質問紙及びインタビューによる調査等から,子どもが別居親と交流を持つことは,子どもの親への信頼感において,重要な要因となることが確認された。また,別居親と子どもが満足するような面会交流がされている方がそうでない場合よりも,自己肯定感や環境への適応が高いことも明らかになった。また、ノルウェー視察の結果については、関連の学会だけでなく、家庭裁判所の調査官や臨床心理市などの専門家への研修においても、報告をすることができた。日本における離婚後の子どもの権利擁護のあり方について、一定の示唆を行うことができた。
著者
藤原 正彦 小木曽 啓示 堀江 充子 浅本 紀子 榎本 陽子 小山 敏子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

代数多様体上の小さな領域(box)に含まれる、有理点の個数を評価した。exponential sumとこの個数との橋渡しとして、“Fujiwaraの方法"と呼ばれるものがあるが、その方法に依り、これまでより弱い条件下での、整数点の個数の上限を与えた。diagonalなものへの応用もした。ただし、有限体上の評価から、整数点へ移行する際のロスについては、革新的アイデアを得たが、まだ証明を完了していない。引き続き研究してみる予定である。一方、堀江充子は、ハッセのノルム定理を、部分体との関係から研究し、榎本は、有限群のp-ブロックを惰性剰余群の視点から研究し、小木曽は、最止、物理学との接触で興味を呼んでいるCalabi-Yau多様体について、3次元の場合の精細な研究を行なった。
著者
永澤 健 白石 聖
出版者
畿央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

食後の短時間のストレッチングが血糖値を降下させるかどうか調べるとともに,血管拡張と動脈弾性指標(CAVI)に及ぼすストレッチングの急性効果を検討した.その結果,短時間のストレッチング,は血糖値を降下させる急性の作用があることが示唆され,さらに,吐き気と疲労感を伴うことなく,酸化ストレスの上昇もなく実施できたことから,食後の血糖値管理のための有効な運動療法になり得るものと考えられた.一過性のストレッチングは伸長した体肢の血管拡張を引き起こす作用があることが示された一方,動脈弾性指標の改善は認められなかった.
著者
喜多村 和之 大膳 司 安原 義仁 手塚 武彦 潮木 守一
雑誌
海外学術研究
巻号頁・発行日
1987

日本の高等教育の改革と質的水準の向上にとって, 高等教育機関とくに大学の設置認可のありかた, 設置のための基準の弾力化, 適切な大学評価の方法に関する知織は緊要の課題である. しかるにこの問題に関しては, 日本国内の実態はもとより, 諸外国の事例についても情報が欠如しており, 改革実施の障害になっている. この研究は, 主要先進諸国における大学設置および大学評価の方法と実態について外国の教育情報に詳しい専門家による現地調査を行ない, 今後の日本の高等教育の改革と水準向上の施策のために資することを目的とする.(1)アメリカ合衆国の高等教育機関の設置認可は, 従来は大学の自由設立の原則にもとづき, その認可機関たる州政府の関与はゆるやかで, 認可の基準や手続きも簡素であったが, 近年では学位の乱造の防止や消費者保護の見地から, 州政府の関与の度合いもつよまり, 規制が厳格化される傾向にある. いくつかの州では設置認可基準の厳格化や法制度の整備, さらには新設大学の視察・監督の強化が進行しつつある.(2)アメリカ合衆国においてはすでに1930年代より民間の基準協会が一定の質的基準に到達した大学のみを会員校としてみとめ, 一定期間の実地調査や事後審査にもとづいて大学の質的向上をはかる基準適用活動(Accreditation)を行なっている. 連邦政府や州政府は, 基準協会の認定をうけた会員校のみに公費援助の受給資格を認めており, このことが更には大学内部に自己点検と自己改善を刺激する源泉ともなっている.(3)今年度においては, アメリカ合衆国における大学設置と大学評価システムの実態調査を実施し, 収集情報およびデータの分析は次年度において行なわれる. なお新年度にはさらにヨーロッパ諸国(イギリス, 西ドイツ, フランス)の実態調査と分析を行う予定であり, 以上の欧米諸国の関連情報とデータの比較・分析をふまえて, 日本の土壌にふさわしい大学設置と大学評価システムのありかたを考察する予定である.
著者
澤田 秀之 Thanh Vo Nhu
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

申請者らがこれまでに研究を進めてきた、人間と同等の発声器官を全て機械的に構成した発話ロボットを再設計し、より柔軟に発話動作を獲得できる機構を実装した。聴覚フィードバック学習によって、ロボットが聴取音声を基に自律的に発話動作を獲得し、任意の音声を生成することができる学習機構を実装するため、人間の脳機能を再現した学習モデルを構築した。更にFPGAによって、音声獲得の高速オンライン学習を実現した。これら発話器官を再現した機械モデルと、脳の音声学習機能に着目したオンライン学習モデルを統合した新しい発話ロボットを構築し、脳内モデルの学習過程、獲得される発話動作および、ロボットの生成音声の解析を行った。
著者
辻 瑞樹 松浦 健二 立田 晴記 菊地 友則
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

東アジアから北米に侵入したオオハリアリに注目し生物学的侵略機構に関する既存仮説全てのテストを試みた。日本、北米とも多女王多巣性コロニーというほぼ同じ集団遺伝学的構造を持ち、北米の方が高い個体群密度を示した。安定同位体分析では自然分布域(日本)におけるシロアリ食から侵入域(米国)でのジェネラリスト捕食者化という栄養段階・食性ニッチの変化が示唆された。病原微生物が原因と考えられる蛹の死亡率が日本でより高かった。これらの結果はアルゼンチンアリなどで議論されている遺伝的ボトルネック説などよりも、外来種一般で議論されている生態的解放が侵略機構としてより重要であることを示す。
著者
斎藤 希史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

幕末明治期における漢詩文系作文書を網羅的に調査し、その特質を分析することで、以下の事実が明らかになった。1)幕末明治期は、日本における公的な文章の変動期であり、近代にふさわしい文章の確立期であったが、その時期において、訓読体.(普週支・今体文)の果たした役割がきわめて大きいこと。2)近世まで、漢文に対して補助的な文体として用いられていた訓読体は、その実用性の高さと、文体のモデルとして漢文を用いるこ.とができることの二つの理由から、公的な文体として広く用いられるようになったこと。3)訓読文で表すことのできる対象は、従来のどの文体よりも広く、また、漢文を基礎学問として学んだ人々にとって、教えやすく学びやすい文体であったため.、初等中等教育において、すばやく普及したこと。4)教育現場におけ季訓読文め普及にあたっては、『穎才新誌』などの作文雑誌による競争や、『習文軌範』『記事論説文例』などの作文書による規範の提示が、大きな役割を果たしたこと。5)従来の日本文章史においては、西洋の書物を翻訳したことによる文体の変動に力点が置かれ、言文一致文体の登場を近代のメルクマールとする傾向が強かったが、作文書の実態を研究することで、近世後期以降の漢文教育を背景にした訓読文の普及に注目すべきセあることが、明らかになったこと。6)訓読文は、新しい協念や文物に対応した新漢語を用いるのにも有効であり、訓読文は、,いわば新漢語を効率的に運用するたゆの文体でもあったこと。以上のことから、,これまで翻訳と言文一致を中心に考える傾向の強かった近代文体研究こ、新たな知見をもたらすことができた。
著者
佐伯 宏樹 原 彰彦 清水 裕
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

イクラやタラコの喫食によって起きる魚卵アレルギーは、日本の食習慣と密接に関わる食物アレルギーである。本研究では、魚卵中のアレルゲンタンパク質の同定と構造決定、魚卵間のアレルゲン交差性の調査を試みた。得られた成果は次の通りである。(1)11魚種(シロザケ、イトウ、ニジマス、アメマス、オショロコマ、スケトウダラ、アサバカレイ、ババカレイ、ホッケ、シシャモ、カペリン)の卵黄タンパク質とイクラ・アレルギー患者血清との反応を調べたところ、いずれの卵黄中にもシロザケβ'-c抗体と反応するタンパク質が含まれており,アレルギー患者血清中の特異IgEはこの成分と反応していた(サケ科魚類では100%、スケトウダラ38%、アサバカレイ69%、ババカレイ77%、ホッケ85%、シシャモ38%、カペリン23%の患者血清で反応が観察された)。(2)また、リポビテリン軽鎖についてもIgE反応の交差性が見られた。(3)サケ科魚種間とタラコ中の主要アレルゲンは,いずれもβ'-c(および類似構造成分)であった。(4)サケ科魚卵間、およびイクラとタラコ間には、いずれもβ'-cを介したアレルゲン交差性が見いだされた。(5)ニジマス・ビテロジェニンのアミノ酸配列を鋳型として、シロザケβ'-c(2成分のうち16K Da成分)とタラコのβ'-c(3成分のうち17K Da成分)の一次構解析をおこなった。また,シロザケ肝臓からmRNAを抽出し、ニジマス・ビテロジェニンの塩基配列を基にプライマーを作製してPCRを行ない,シロザケ・β'-cをコードするcDNAを得た。これらの結果両β'-cアミノ酸配列の60-70%を決定した。以上の学術的知見は、「魚卵アレルギー」の理解と食事指導における有益な情報である。
著者
嶋本 薫
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、非常災害への対応として、キャリアにHF帯(短波)を用い、マルチホップ無線ネットワークを適用した「広域マルチホップネットワーク」を提案しその可能性を評価した。HFは低電力で簡易かつ低コストのシステムで長距離の伝搬が可能であり、マルチホップ無線ネットワークは、通信の際にインフラを必要とせず、ノードを持ち寄れば即座にネットワークを構築できる特性がある。本研究において近隣にある局間の通信に、インフラを必要としないマルチホップ無線ネットワークを用い、長距離端末間の通信は、HF帯の電離層反射波を用いてネットワークを構築する新たな通信システムを検討した。実現性を高めるため、受信電力レベルに応じてパケットの送信タイミングを変化させるタイミング選択式アクセス方式の提案や、HFの特性であるスキップゾーンへの対応として新たなスキップゾーン解消方式、更には打ち上げ仰角を制御可能な位相差を用いたアレイアンテナを構築し、スキップゾーンの解消や到達距離の制御などを行いその効果を評価した。研究の成果によりHFを用いたマルチホップネットワークが実現可能であり、その有効利用を行うための各種制御方式が確立できた。
著者
直野 章子
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では「原爆被害」と「被爆者」の意味をめぐって繰り広げられる政治的・文化的闘争について、戦後補償と被爆者援護に関する法制度、日本被団協運動と在韓被爆者運動(特に裁判闘争)、被爆者の証言行為を中心に考察した。特に、「被爆者」が法によって作られた主体位置だという点に着目しながら、日本被団協の立法運動や在韓被爆者の裁判闘争が「被爆者」や「原爆被害」の時空間的な範囲を広げてきた様相を描いた。
著者
北口 公司
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

食物繊維を摂取することでアレルギー疾患を予防できる可能性が示唆されている。これまでに我々は,水溶性食物繊維の一種であるペクチンを摂取することで腸管免疫担当細胞の炎症応答を抑制し,敗血症や大腸炎に対して保護的に働くことを明らかにした。さらに,その抗炎症作用には,ペクチンの側鎖が重要であることも見出している。一方,ペクチンが腸内で資化された結果生じる短鎖脂肪酸が血中に移行することで,腸管局所のみならず全身の炎症応答を調節できる可能性も示唆されている(プレバイオティクス効果)。しかしながら,ペクチンの化学構造とプレバイオティスク作用との関係には不明な点が多い。そこで,化学構造の異なる2種類のペクチン(シトラス由来ペクチン,オレンジ由来ペクチン)をマウスに給餌し,遅延型過敏症である接触性皮膚炎の病態と盲腸内の短鎖脂肪酸の産生に及ぼす影響を調査した。オレンジペクチンは,中性糖の割合がシトラスペクチンに比べて約3.5倍高く,側鎖を多く含んでいることが示唆された。シトラスペクチンとオレンジペクチンを含有する飼料をマウスに給餌した後,ジニトロフルオロベンゼン(DNFB)溶液を除毛した腹部に塗布することで感作を行い,感作から5日後にDNFB溶液を再度左耳に塗布して接触性皮膚炎を耳介に惹起した。その結果,オレンジペクチン含有飼料摂取群では,DNFB塗布により惹起された耳介の腫れが有意に抑制されたが,シトラスペクチン含有飼料摂取群では,耳介の腫れは対照飼料摂取群と同程度であった。また,オレンジペクチン含有飼料摂取群では盲腸内容物中の短鎖脂肪酸量が有意に増加し,とりわけ酢酸の増加が顕著であった。以上の結果より,ペクチンの接触性皮膚炎抑制効果は,側鎖の含有量が重要であり,短鎖脂肪酸を介している可能性が示唆された。
著者
真鍋 真 藪本 美孝 野呂 美幸
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

(1)桑島層から発見された胴体が伸長した小型爬虫類を新属新種のドリコサウルス類Kaganaias hakusanensisとして英国古生物学会誌に記載した。同種はドリコサウルス類の系統では最も基盤的な種に位置づけられる系統仮説が有力であり、産出時代もこれまでで最も古い。ドリコサウルス類としてはヨーロッパ以外での存在が初めて報告であり、同類として海成層以外からの発見も初めてとなった。ドリコサウルス類はモササウルス類(海トカゲ竜)の姉妹群にあたるトカゲ類で、これまでは白亜紀中頃から後期のヨーロッパの海でしか発見されていなかったため、モササウルス類などの多様で高度な海棲適応の場が白亜紀中頃のヨーロッパの海と考えられていた。また、一部の系統仮説では、ドリコサウルス類が、ヘビ類、さらにモササウルス類に近縁であることから、ヘビの四肢の退化が海生適応だったとする説があった。カガナイアスの存在は、以上の様な適応仮説に再考を求めるものとなった。(2)トカゲ6種について四肢の発生に関してステージングを行ったところ、あるトカゲの胚は産卵直後にニワトリ胚ステージ12前後に相当する発生状態にあり、その後ニワトリ胚の3倍以上の時問をかけて四肢発生が進む可能性が明らかになった。(3)桑島層のパキコルムス科魚類は、後期ジュラ紀のゾルンフォーフェンから産出している種に類似している。桑島層のアロワナ科魚類化石は本科の最も古い記録である。恐竜などの爬虫類、単弓類で見られたように、桑島層にはジュラ紀型と白亜紀型の魚類が共存していたことが明らかになった。これは白亜紀前期のアジアがヨーロッパと北米と海で隔てられたことによって、アジアでは他地域と異なる生態系進化があったことの証拠かもしれないが、他地域の小型脊椎動物化石相の理解が不十分であることに過ぎないかもしれない。
著者
中條 和子
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

歯内疾患関連菌であるEnterococcus faecalisおよびBifidobacterium longum、齲蝕病巣からの検出が多く報告されているBifidobacterium dentium の広範囲pH 環境における生物学的特異性ついて検討した。E. faecalis は広範囲なpH に調整したアルギニン含有複合培地で高い増殖を示したことから、糖が供給され難い歯内う蝕病巣や水酸化カルシウム製剤を貼薬してもなお難治性病巣を呈する環境では、E. faecalisが滲出液中のアルギニンなどのアミノ酸を利用して増殖可能であることが示唆された。他方、B. dentiumおよびB. longum は、S. mutansと同等の酸性環境において高い生存率と菌体内pH 維持能をもつことが明らかになった。このことが、酸性環境である歯内病巣、または齲蝕病巣から本菌種がmutans streptococciと共に分離される一因であると考えられた。
著者
紙谷 尚子
出版者
産業医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

メチルグリオキサール(MG)は食品中等に含まれる環境変異原であると同時に、生体内で糖や脂質から生成する内因性の変異原である。よって、人の発癌にMGが関与している可能性がある。さらに、糖尿病においてもMGの関与が疑われている。糖尿病患者の血管内壁等にはadvanced glycation endoproduct(AGE)が蓄積されることが知られているが、このAGE生成反応において反応中間体としてMGが関与しているためである。MGは反応性に富んだ物質であり、in vitroで蛋白質やDNAに対して結合することが報告されているが、詳細な生体影響については明らかにされていない。そこで、MGの生体影響、特にDNAに対する影響を明らかにすることを目的とし、哺乳動物細胞(サル由来のCOS-7細胞)におけるMGの変異誘発能について検討することにした。COS-7細胞において生じた突然変異を解析するために、サプレッサーtRNA遺伝子(supF遺伝子)を含有するプラスミドpMY189を用いた。MG処理したプラスミドをCOS-7細胞にトランスフェクションし、細胞内で複製されたプラスミドを回収した。続いて、回収したプラスミドをsupF遺伝子変異のインジケーターの大腸菌であるKS40/pKY241株に導入し、supF遺伝子上の変異頻度を調べた。さらに、変異体を単離し、supF遺伝子の配列解析を行った。その結果、MG処理による変異率は処理濃度に依存して増加した。また、MGは塩基置換変異及び欠失変異を高頻度に誘発した。誘発された塩基置換変異の9割がG:C塩基対における変異であり、特にG:C→C:G及びG:C→T:A変異が高頻度に検出された。従って、生体内におけるG:C→C:G及びG:C→T:A変異の誘発にMGが関与している可能性が示唆された。
著者
平石 界 三浦 麻子 樋口 匡貴 藤島 喜嗣
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

社会心理学の教科書に載るような知見の頑健性が疑われると同時に、その背景に「問題のある研究慣習」のあることが指摘されている。科学としての社会心理学の進展のために、それを支える「確実な知見」を確認する作業が必要である。本研究は、国内学会大会発表において蓄積されて来た情報のメタ分析を行う。更に必要性が認められたテーマについて追試を実施し、全てのデータを国内外に公開する。日本という独自の文化的背景を持つ母集団についての、公刊バイアスの影響の小さい、日本語圏外に閉じられてきた情報を、整理・分析・追試・公開することで、社会心理学の基盤の確認と再構築に向けた国際的な動きに、独自性のある貢献を果たす。
著者
宮本 直和 川上 泰雄 若原 卓
出版者
鹿屋体育大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

二関節筋である大腿直筋は、解剖学的に遠位と近位の二箇所で大腿神経の支配を受けているが、この二箇所が随意収縮中に別々に制御されているのか否か、また、別々に制御されている場合、それは二関節筋特有のものであるのかについては不明である。本研究で、膝関節伸展および股関節屈曲筋力発揮中に外側広筋・内側広筋・大腿直筋の複数箇所から筋電図信号を導出したところ、膝関節伸展筋力発揮時にはいずれの筋でも筋内で均一に、股関節屈曲筋力発揮時には大腿直筋の筋活動は遠位と近位で別々に制御されていることが明らかとなった。この結果は、二関節筋である大腿直筋内に機能的コンパートメントが存在することを示唆している。
著者
木村 学 金川 久一 木下 正高 山田 泰広 荒木 英一郎 山口 飛鳥
出版者
東京海洋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2015-05-29

本研究では、これまで紀伊半島沖熊野灘において実施されてきた南海トラフ地震発生帯掘削研究(超深度掘削は海底下約3,000mまで掘削済みでプレート境界断層まで残り約2,200m)の総仕上げとして、プレート境界断層貫通掘削までの掘削時孔内検層、孔内設置受振器による3次元鉛直地震探査、断層試料の摩擦実験、近傍からの繰り返し周回地震探査を実施する。もって断層上盤の応力場・主応力と間隙水圧、プレート境界断層の摩擦強度を解明し、それらを総合して地震・津波発生切迫度を定量的に評価することを目的とする。第2年度は、これまでの掘削によって得られたデータをまとめ上げ、モデル化し、上盤プレート上部の応力場、間隙水圧を解明した。概要は以下の通りである。1)3次元反射法データの最新技術による再解析。特に地震発生プレート境界断層から分岐断層にかけて実施。詳細な構造の実態解明、速度構造の変化が予測された。2)既存データの解析、実験的分析の蓄積、完了。海底下3,000m下までの摩擦特性計測実験を完了し、深度方向の変化が予察的に得られた。3)掘削孔内に設置してあった圧力計などの回収を実施した。10年間の記録の回収に成功した。2016年4月1日には70年ぶりに起こった南海プレート境界地震の世界初の孔内観測に成功、結果の迅速な公開を実施した。4)最終的な科学掘削目標達成のための慎重な技術的検討を掘削実施主体である海洋研究開発機構と適宜進めた。