著者
大江 靖雄 栗原 伸一 霜浦 森平 宮崎 猛 廣政 幸生
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究課題では、都市農村交流時代における新たな農業と農村の役割として近年注目を集めている農業の教育機能について、理論的な整理と実証的な評価を加えて、今後の増進の方向性についての展望を得ることを目的に研究を実施してきた。主要な分析結果については以下のとおりである。1)農業の教育機能は、正の外部性を有する農業の多面的機能の一つの機能で、その外部性が環境ではなく人間を対象としている点に、特徴がある。2)定年帰農者の事例分析から、農業の教育機能は、近代的な最先端技術よりも、伝統的な技術の方が、教育的な機能が大きいことを明らかにした。この点で、高齢者や退職者帰農者などの活躍の場を農業の教育機能の提供者として創出できる余地がある。3)その経済性について実証的な評価を行った結果、正の外部性については、十分な回収がされておらず農家の経営活動として内部化は十分されておらず、農業の教育サービスの自律的な市場としてはまだ十分成長してないことを、計量的に明らかたした。4)酪農教育ファームについての分析結果から、多角化の程度と体験サービスの提供とはU字型の関係を有していることを、実証的に明らかにした。その理由として、技術的結合性、制度的結合性が作用していること、特に制度的な結合性の役割が大きいことを明らかにした。5)農業の教育機能については、今後とも社会的なニーズが高まることが予想されるので、農業経営の新たな一部門として位置づけて、有効な育成支援策を講じることが重要である。
著者
小松 香織
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、オスマン帝国において海洋活動にたずさわった人々のパーソナルヒストリーを、人事関係等の史料を分析することにより集積し、近代オスマン帝国の社会構造を見直そうと試みたものである。結果、オスマン帝国末期に海事に関わった人々の出自 (民族、宗教、出身地、社会階層等)、キャリアパターンについて、一定の法則性を見出し、海事における黒海沿岸出身者の重要性が明らかとなった。
著者
西村 欣也
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、上位捕食者(ヤゴ)、下位捕食者(エゾサンショウウオ)の幼生、餌となる生物(エゾアカガエル)のオタマジャクシの3種からなる単純な食物網における、オタマジャクシのエゾサンショウウオ幼生に対する誘導防御形態、エゾサンショウウオ幼生のオタマジャクシを捕食?攻撃するための誘導攻撃形態の発現を調べた。両者の対抗的形態発現の程度はヤゴの存在によって緩和された。互いの対抗的な可塑性は、第三者の介入によって調整される必要があり、そのような調整がなされていることが明らかとなった。
著者
小沢 修司
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

戦後「福祉国家」の枠組みを根本的に転換しようとする最低所得保障としてのシチズン・インカム(以下、ベーシック・インカムの呼び名を使う)構想は、第一に、資力調査に伴うスティグマや「失業と貧困の罠」から社会保障給付を解き放つこと、第二に、性別分業にもとづく核家族モデルから人々を解き放ち、個の自立にもとづく家族、ネットワーク形成を含むさまざまな社会的共同組織の形成を促す基礎を提供すること、第三に、労働市場の二重構造化が進み、不安定度が強まる労働賃金への依存から人々の生活を解き放つと同時に、「完全雇用」と結びついた現行の社会保険制度の限界を乗り越えた普遍的なセイフティネットを国民に提供すること、第四に、国家による社会保障給付という「国家福祉」と税控除による「財政福祉」とに分断されている現行の税-社会保障システムを統合し合理化することなど、今後の新しい「福祉国家」なり人間福祉の実現を図る福祉社会を展望しようとする際に検討されるべき有力な構想となりうるものである。また、失業の増大、ホームレスの増加など社会的排除の強まりに対抗する福祉政策の展開として世界的に注目されてきているワークフェア的所得保障政策と、ベーシック・インカム構想の交差状況に着目しながら、所得保障と就労支援政策の両方が必要であること、しかしながら所得保障の条件に就労(アンペイドワークや社会貢献活動など広い意味の労働であれ)を義務づけることは、資力調査の代わりの地位にいわば「労働調査」を据えることになり、家事労働やボランティア活動の本質を損なう結果になることを論じた。さらに、ベーシック・インカム保障は労働時間の大幅な短縮とワークシェアリングがともに進められることが必要であり、そのことによって過剰な消費主義が是正され所得と労働の人間化も進むものであることを論じた。
著者
坂田 桐子 淵上 克義 高口 央 前田 和寛 迫田 裕子 川口 司寛
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,フォロワーの自己概念が個人的自己・関係的自己・集合的自己のどのレベルにあるかによって,選好されるリーダーシップや有効なリーダーシップ行動が異なることを実証的に明らかにした。また,変革型リーダーシップ,リーダー・メンバー交換関係,リーダーの懲罰行動,自己犠牲行動という多様なリーダーシップ行動に焦点を当てることによって,フォロワーの自己概念を変化させるリーダーシップのあり方を示した。
著者
杉山 典子
出版者
鶴見大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

日本語は、漢字仮名交じり文を主とする特徴的な文字体系を有している。かかる表記は、研究者間に留まらず、国内外で広く関心を集めている。とりわけ近年では歌の書かれた木簡が相次いで発掘の成果されており、現代日本語の特殊な形式に繋がる古代日本語の書記法は、さらに注目されることとなった。本研究は、古代の書記資料として最大の万葉集を対象として、和歌集という文芸作品における古代日本語の書記法の展開と表現との関わりを明らかにした。具体的には、以下の3点を中心に調査を行い、その成果を論文形式で公表した。(1)平安期以降の仮名万葉に採録された歌の原表記を調査、比較し、平仮名に変換された際の表現の変化を分析した。(2)仮名表記された歌における助辞の機能を調査した。特に大伴家持作歌に注目し、注記の文字との共通性とその傾向をデータ化、分析した。(3)奈良から平安期の和歌における表現形式化についての調査を行った。
著者
谷川 道子
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

H16〜18年度は2005(H17)年度の「日本におけるドイツ年」を挟んで、本研究テーマとそれに不可欠の関連に立つ舞台芸術の実践現場とのかかわりにおいて、かなりの実績と貢献をしたと思う。・ドイツや日本の劇団のドイツ関連上演の手伝いもだが、ドイツ文化センターの後援で現代を映し出す戯曲を一挙に三十作品、論創社より『ドイツ現代戯曲選30』シリーズとして順次刊行する企画に編集委員として携わり、若い世代を中心に翻訳チームを組んで2005年12月から刊行開始、07年3月までに27冊を刊行。拙訳のノーベル賞受賞作家E.イエリネクの『汝、気にすることなかれ』やハイナー・ミュラーの『指令』も解題つきで出版。・このドイツ演劇を広める好機に、2005年10月の日本独文学会京都秋季研究発表会での新国立劇場監督の栗山民也氏を迎えてのシンポジウム「演劇のパラダイム転換と新しいタイプの戯曲テクスト」を始め、多くのシンポジウムやドラマ・リーディング、シアター・トークなども企画・開催し、研究会を母体として「ドイツ演劇プロジェクト2005」も立ち上げた。夏には本科研費でベルリーナー・アンサンブルでの「ブレヒト没後50年祭」も訪れ、研究成果もいろいろに出た。・2005年の新国立劇場での演出栗山民也や主演大竹しのぶのブレヒト『母・肝っ玉』の台本も翻訳。・さらに2冊の研究書を刊行。単著が『ドイツ現代戯曲選30』シリーズヘの道案内という意味も込めて、論創社より12月にこれまでの論考をまとめて再編集した『ドイツ現代演劇の構図』。共著としては、3月にべりかん社より、早稲田大学での演劇COE講座の「演劇論講座」をもとに、岡室美奈子編で内野儀、宇野邦一、大橋洋一、桑野隆、谷川道子共著の『知の劇場、演劇の知』も刊行。いずれも好評で、書評も数多く出た!・勤務先の東京外国語大学の学園祭での語劇の活動が「生きた言語修得のための26言語・語劇支援」として平成16-19年度文部科学省特色ある教育プログラム(特色GP)に採され、その中心的な委員として学生たちの課外活動としての語劇を支援するさまざまな事業を行ってきた。最終19年度には、総括と今後への布石として、新規の授業「舞台芸術に触れる」の開設と、野田秀樹や宮城聡などを招いての一連の特別講演会、語劇百年の歴史的成果と今後活動と教育に対する理論的寄与とを考察した『語劇-ことば、教育、演劇』(仮題)を刊行することも計画中。この科研費とは直接の関係はないが、私の専門やテーマ、人脈、経験とも大きく関連する活動である。以上、本科研費の研究成果は十分に出して貢献したと自己評価している。
著者
中居 賢司
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

致死的不整脈の発症に関わる1)心筋の再分極現象(Tp -e dispersion, T-wave current alternans)、2)心室遅延電位や心房細動波のスペクトラムを一元的に解析しうる次世代多チャネル高増幅・高分解能心電計のためのソフトウエア開発を行い、臨床での有用性を検証した。また、3.11の巨大津波・大震災の経験を踏まえ、災害時あるいは遠隔診療の可能なプロトタイプ高分解能心電計を試作して、臨床的有用性を検証した。
著者
高瀬 圭 太田 信 森本 玲 清治 和将 佐藤 文俊 芳賀 洋一 山内 清 佐藤 美帆
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

3DCTデータを基に、実際のカテーテル手技訓練の実用に耐える副腎内静脈分枝を含んだ実物大副腎静脈血管モデルが作成された。バイポーラーラジオ波焼灼針では、10-25mmの副腎腺腫は、3通りの穿刺パターンにて完全焼灼可能であることと、脂肪組織介在下での周辺臓器安全性が示された。IVR臨床治療を施行し、主要評価項目である血中および蓄尿中アルドステロンを正常化が得られ、研究当初の臨床応用目標が達成された。モデル解析にて医療経済的にも有利であるとの結果を得た。
著者
田邉 新一 秋元 孝之 岩下 剛 堤 仁美 松本 隆
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

人間の快適性、建物の室内環境制御及びエネルギー消費の効率化、空調システムの運用性能向上を考慮した統合制御の最適化を目的とした。環境要素をVRとHDRを用いて提示することの有効性、建築に有用な臭気評価法の提案と性能試験、高顕熱型空調のエネルギー対比快適性能の優秀性を示した。また、個別分散システムを対象とニューラルネットワークを用いた冷媒物性値近似法を提案・出力精度を評価した。空調シミュレーションにおいて、オープンソース化と再利用性を高めるためオブジェクト指向言語を用いたスケジューラ抽象化及びモジュール形式シミュレーションを制作し有効性を検証した。
著者
飯島 尋子 西口 修平 有井 滋樹 市野瀬 志津子 田中 博 佐藤 哲二 西上 隆之
出版者
兵庫医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

慢性肝炎および非アルコール性脂肪性肝炎の超音波機能診断法として、非造影、造影による診断法を検討した。VTTQによる慢性肝炎の診断法を確立した。Sonazoidを用いた造影法によるNASH診断法を検討した。またNASHラットモデルを用いSonazoidを投与し生体顕微鏡による検討では、Kupffer細胞へのSonazoidの貪食は経時変化によっても増加せず、貪食能力の低下が原因と考えられた。VTTQによるNASH診断については早期ステージでの診断に問題が残り今後の検討課題となった。
著者
長谷川 琢哉 西川 公一郎 小林 隆 丸山 和純 石井 孝信 中平 武 坂下 健 荻津 透 木村 誠宏
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

物質優勢宇宙創成の謎に迫るべく必須の液体アルゴン三次元飛跡検出装置について、試作機を構築し特性を把握した。今回の性能評価により、同測定装置は、T2K前置ニュートリノ測定装置に必要とされる能力を有することが結論付けられた。20ktから70ktの液体アルゴン三次元飛跡検出装置を、ニュートリノ源から2300kmの超長基線長かつ大深度地下(3000m水密度相当以上)に設置して研究を行えば、ニュートリノ質量階層性、レプトンのCP対称性の研究に関して、他の計画の追随を許さないものとなることが示された。又、大深度地下に測定装置を設置することが、陽子崩壊探索の感度向上に重要であるということが確認された。
著者
坪内 暁子 奈良 武司 丸井 英二 内藤 俊夫 加藤 聖子 重松 美加 山崎 浩 FAN Chia-kwung CHANG Nen-chung Chang LEE Yunarn-jang CHANG Yu-sai TSAI Ming-dar JI Dar-der SUKATI Hosea Mlotshwa TU Anthony T.
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

台湾、日本、サントペ・プリンシペでの調査の結果、台湾と日本では医学生であっても感染経路や被害の状況を正確に把握していない、治療に関し最新の正しい情報がないため恐怖心がある、台湾の調査では「対策」の講義の機会のある公衆衛生学科の学生のほうが医学科の学生よりも正確に理解していること等がわかった。HIV/AIDSが日本国内に入って来て約20年が経過したが、新規感染者数は増加傾向にあり低年齢化してきている。日和見感染症や喫煙との関係が深いことは後述する調査で明らかとなった。HIV/AIDSの感染経路となるDrugや喫煙と併せて、正しい基礎知識と予防策を学校教育の中で教えていくことが重要である。
著者
田中 享二 田村 哲郎 宮内 博之
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

金属・メンブレン防水層の性能のひとつとして耐風性は重要である。この中で近年普及の著しい金属・メンブレン機械的固定工法では、防水層が部分的にしか下地に固定されていないため、台風時に破損する事故が多発している。この問題解決のために、強風時における防水層の挙動を、実大試験体を用いた風洞実験、台風時の屋外観測により調べ、鉛直吸い上げ力に加えて、大きな横力も発生していることを見出した。この知見をもとに防水層の耐風性評価試験装置を開発し、これら工法の耐風性評価を可能とした。
著者
坂元 昴 大西 文行 大橋 功 小田桐 忍 カレイラ松崎 順子 岸本 肇 光野 公司郎 近藤 俊明 末藤 美津子 出口 保行 藤後 悦子 馬場 伊美子 伴 浩美 福崎 淳子 益井 洋子 坂元 章 堀田 博史 松田 稔樹 磯 友輝子 岩崎 智史 高田 隆 高梨 珪子 坪井 寿子 鈴木 光男 田中 真奈美 竹内 貞一 山村 雅宏 齋藤 長行
出版者
東京未来大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、21世紀に生き、開拓する21世紀型能力を中核に、幼児・児童における未来型能力、幼児・児童における未来型能力の育成、未来型能力を指導できる指導者の育成の3段階にわたる研究を、既存研究の検討整理、独自の調査、研究を踏まえて、社会貢献する成果としてまとめた。初年度から2年度にかけて21世紀型の幼児像を様々な能力領域で明らかにし、2年度から3年度にかけて、各領域で、これらの能力を育成するシステムを設計試行評価し、さらに、能力育成を指導する指導者の教育システムを検討、整理、設計、試行実施した。
著者
吉原 良浩
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

嗅覚系は外界の匂い分子を受容し、その情報を脳へと伝達することによって、匂いイメージの形成による感覚認識とともに、内分泌・情緒・行動などの総合的変化を引き起こす重要な神経システムである。1991年のBuckとAxelによる嗅覚受容体遺伝子群の発見が契機となり、その後、嗅覚研究は飛躍的に発展してきた。特に嗅上皮の嗅細胞における嗅覚受容体の発現様式(1嗅細胞-1嗅覚受容体ルール)、嗅球への軸索配線パターン(同一嗅覚受容体発現嗅細胞の特定糸球体への軸索集束)、さらには嗅球における『匂い地図』の存在が証明され、鼻から脳の入口までに至る一次嗅覚神経系の匂い情報コーディング様式については、かなりの部分が解明されてきた。このような一次嗅覚神経系において、中心的役割を果たす分子が嗅覚受容体である。匂い情報の入力・脳への伝達を司る嗅細胞で発現する嗅覚受容体は、匂い分子受容・遺伝子発現制御・軸索ガイダンスという3つの異なった機能を果たすべくモーダルシフトすると考えられている。本研究課題では、これらの研究を推進継続するとともに新たな問題(「1嗅細胞-1嗅覚受容体ルール」の分子メカニズム解明)にも挑戦し、匂いセンサーである嗅覚受容体の機能的モーダルシフトに焦点を当てて、分子・細胞・シナプス・神経回路・システムさらには行動レベルでの統合的解析を行った。平成22年度においては特に、嗅細胞特異的新規ゴルジ膜蛋白質#123の遺伝子欠損マウスについて、その表現型解析を行った。電気生理学的に嗅上皮における匂い応答を測定したところ、野生型マウスに比べて著しく減弱しており、#123分子の嗅覚反応における重要性が示唆されていた。この原因を探索したところ、嗅細胞特異的アデニル酸シクラーゼIIIの異常な細胞内局在を見出した。また#123遺伝子欠損マウスにおいては、嗅細胞繊毛の長さも短くなっており、これらの異常が匂い応答の減弱を引き起こすことを明らかにした。
著者
山本 洋子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

アルミニウム(Al)イオンは、酸性土壌における主要な作物育成阻害因子と考えられており、土壌の酸性化に伴って溶出し、植物根の伸長阻害や壊死等を引き起こす。しかし、その分子機構はまだ明らかにはなっていない。本研究では、Al障害の一つとして脂質過酸化に着目し、Al毒性やAl耐性との関わりを、植物根と植物培養細胞を用いて解析した。タバコ培養細胞の系では、AlはFe-依存性の脂質過酸化を促進し、それが引き金となって、動物系で報告されているアポトーシス様の細胞死に至ることを明らかにした。さらに、このようなAl毒性に対して耐性を示す細胞株の解析から、Caffeoyl putoresineが脂質過酸化耐性に関わっていることと、動物系で主要な抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ様の活性が植物細胞にも存在することを見いだした。一方、エンドウ幼植物を用いた解析では、Alによって脂質過酸化が促進されるが、培養細胞の系や人工膜の系と異なり、Fe-非依存性の脂質過酸化が促進されること、脂質過酸化の促進は初期応答反応であること、Alの集積とともに直ちに見られる根伸長阻害の原因ではないものの、Alを集積した根がAlの非存在下で再び増殖を開始するのを妨げる障害の一つであることを明らかにした。以上、Alによる脂質過酸化の促進は、培養細胞のみならず根においても、Al障害機構の一つであることが明らかになった。今後、その促進機構や耐性機構の解析が必要である。その際、本研究で行った様に、タバコ培養細胞を用いてAl耐性株を分離し、障害や耐性機構の詳細を分子レベルで解析すると共に、その情報を手がかりに根での現象を解析していくことは、大変有意義であると思われる。
著者
福井 裕行
出版者
徳島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

条件給餌ラットの給餌中止に伴うnose pokingに対して抗ヒスタミン薬の前処置は顕著な効果を示さなかった。一方我々は、弓状核尾側のc-Fos発現におけるPKCδの関与を示唆するデータを得た。以前、視床下部のPKCδを介する肝臓のglucose産生抑制が報告されていることから、我々は条件給餌ラットにおけるヒスタミン神経系を介する肝臓のglycogen代謝調節について検討した。条件給餌ラットにおいて給餌中止直後に対する、給餌中止4時間後の肝臓におけるグリコーゲン量を測定ところ、リン酸緩衝液を投与した対照群においてはあまり変化が見られなかったのに対し、抗ヒスタミン薬投与群においてはグリコーゲン量の有意な減少が見られた。このことから、ヒスタミンH1受容体(HIR)を介する肝臓のグリコーゲン分解抑制が示唆された。肝臓におけるHIRの発現は弱く、この変化は中枢のヒスタミン神経機能を反映していると考えられた。これまでに中枢ヒスタミン神経系による末梢エネルギー代謝調節機構はほとんど研究されておらず、本研究により弓状核尾側部位を介する中枢-末梢シグナル連関が初めて明らかとなることが期待される。さらに我々は、給餌中止により興奮するヒスタミン神経細胞群の同定を行った。ヒスタミン神経の細胞体が局在する結節乳頭核(TM)におけるc-Fosとヒスタミン合成酵素であるヒスチジンデカルボキシレース(HDC)との共発現について検討したところE3 subgroupのヒスタミン神経のみに顕著な興奮が見られた。本研究から、TMには各部位へと投射しその部位を介する特異な機能に関与する機能的にヘテロなヒスタミン神経細胞群が存在することが示唆された。
著者
福田 伊津子
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、食事性AhRリガンドであるフラボノイド類のうち、フラボン、フラボノール、フラバノン、カテキンの各サブクラスから数種の化合物を選定し、これらの化合物がAhRの活性化に関わる事象に対する影響と、投与形態がその体内動態に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。その結果、1.フラボン、フラボノール、フラバノンに属する化合物はAhRとアゴニストとの結合を競合的に阻害するのに対して、カテキンは阻害しないことが分かった。2.培養肝細胞においてダイオキシン類が誘導するAhRの核内移行に対しては、フラボンとフラボノールに属する化合物がこれを阻害した。3.(-)-エピガロカテキン-3-ガレート(EGCg)のみを投与したときの総EGCgが43nMであったのに対して、GTEを投与したときの総EGCgが427nMであった。同じ動物個体から得た血清を用いてマウス肝腫瘍由来Hepa-1c1c7細胞に処理したところ、4.2,3,7,8-四塩化ジベンゾ-p-ジオキシンによって誘導されるシトクロームP450 1A1の発現を有意に抑制した。
著者
林田 敏子
出版者
摂南大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

女性参政権獲得後、フェミニズム運動が分裂の危機におちいるなか、ファシズムに惹かれていったメアリ・アレンは、ファシスト組織British Union of Fascistsに入党したあとも、フェミニストとしての自己意識を失わなかった。彼女のような「フェミニスト・ファシスト」は、こうした特殊な状況下でこそ成立しうる概念であり、フェミニズム運動とファシズム運動の「共闘」は、戦間期イギリス社会のもっとも大きな特徴を表しているといえる。