著者
箱石 大 宮間 純一 水上 たかね 村 和明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

1867年の王政復古政変から1871年の廃藩置県までの維新政権期における明治太政官文書は、1873年の皇城及び太政官庁等の火災により、その大半が失われた。しかし、近年、京都に残置されていたため焼失を免れた文書が、現在は東京大学史料編纂所・国立公文書館・宮内庁の3機関を中心として分散的に所蔵・管理されており、それぞれが本来は同一の文書群に属するものであることが明らかとなった。本研究では、上記3機関に分散所在する文書を本来の文書群として復元するとともに、アーカイブズ学的・古文書学的観点から、文書群全体の構造や個別文書の様式・機能等についても分析し、幕末維新史料学の構築に寄与することを目指す。
著者
梶 龍兒 坂本 崇 和泉 唯信 西村 公孝
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は発病後数年以内に呼吸筋の麻痺を来たし、人工呼吸器につながったままの生活や死をまねく神経難病である。その治療にはriluzoleが用いられているがその効果はわずかであり、限られている。ALSの病因として近年グルタミン酸の神経毒性が注目されている。グルタミン酸は脊髄での上位および下位運動ニューロン間の神経伝達物質でありその毒性により興奮性神経細胞死がおこると考えられている。我々は超大量のビタミンB12誘導体であるメチルコバラミンがこのグルタミン酸毒性を抑制することから本症の治療薬として用いられないかを検討した。本研究の結果、従来から継続しているALS患者のさらに長期の経過を分析することができた(Izumi et al. submitted)。その結果は、少数例の観察ながら、無作為割付の対照試験で統計的に有意の生命予後の改善が見られるものであり、現在日本の企業により欧州において大規模な臨床試験が準備中である。ALSのモデル動物であるSOD1-transgenic mouseでは継代飼育中に発症時期が遅延したり不均一になったため十分な検討ができなかった。近年東北大学で開発されたSOD1-transgenic ratに切り替えて検討中であるが3月末現在、発症数が少なくさらに時間を用することになった。結果が得られ次第、英文誌に投稿する予定である。一方、経頭蓋磁気刺激法を用いたALS患者での研究では、脊髄のグルタミン酸放出による興奮性シナプス後電位は、病初期において振幅が増大していることが示された(Kaji, Kohara, in press)。従来ALSの病態を調べる方法としては、死後の病理所見が中心であったが、本法は疾患の病期の伸展を非侵襲的に患者で検討する方法としてこれからさらに臨床応用が発展することが期待される。
著者
中島 国彦
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

日本近代の文学と美術との相関に留意しながら、文学作品に描かれた自然や都市、さまざまな風景を「風景表象」としてとらえ、その近代における変遷、いくつかの典型的な事例における特色を分析し、ひいてはそうした見方を支える精神のありかたを歴史的に明らかにした。また、風景を描く文体、表現の特色をも考察した。中でも、明治中期の都市貧民窟を描いた松原岩五郎、足尾鉱毒問題で活躍した木下尚江・田中正造、明治大正の東京を描いた森鴎外・永井荷風・小川未明などの作品については、詳細な分析を加えた。あわせて、京都という場所を踏まえた文章を辿り、その成果を論文・著書のかたちで公表した。
著者
高橋 勤
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

石牟礼道子の『苦海浄土』三部作は 60年代から水俣病問題を追跡し小説化した長大な作品だが、この作品は公害病を記録したルポルタージュであるばかりではなく、近代産業によってもたらされた権力と差別の構図、そして不知火海の自然と精神風土に対して加えられた暴虐を浮き彫りにする。そうした日本近代をめぐる石牟礼の思想性について考察し、語りの象徴性を検証するのが本研究課題の全体的なねらいである。環境人文学とは、環境教育を含めて、人文学の観点から環境問題を考察する知の枠組みであり、日本における環境破壊の捉え方、意見の対立、その文学的表象を検証する。
著者
大島 一正
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

普段我々が用いている「種」という単位は,伝統的な分類学により形態差に基づいて定義されている場合がほとんどある。一方,種分化研究では隔離機構の有無や遺伝的交流の程度が重視され,形態差が必ずしも考慮されてきたわけではない。さらに DNA バーコーディングの普及により,定義上も実際の分化の程度にも大きな隔たりがある分類基準が混在している状況にある。そこで本研究では,基準間での矛盾が見られる分類群を対象に,交配能力とゲノム分化を指標として,どの程度種分化が進行すれば交尾器形態に別種相当の分化が生じるのか,そしてバーコーディング領域の分化と比べて進行する順序に傾向があるのかを解明する。
著者
笹木 圭子 PAWAR RADHESHYAM
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-11-10

有機金属構造体(MOF)は、中心金属とリンカーの組み合わせによって、高分子のような連続構造をとり、比表面積が高く、安定なだけではなく、中心金属やリンカーの特性により、さまざまな機能を付与でき、吸着材や触媒など機能性化学物質として、近年最も注目されている。なかでもガスフィルターとしての用途が最も実用化に近いといわれ、とくにCO2吸着剤としての開発研究が盛んである。しかし、本研究では、あまり研究例のない水溶液溶媒でのMOFの活用、とくに有害水溶性物質の光分解、光触媒機能による還元、陰イオンの吸着除去を目指して、水溶液中でのMOF合成法を開発および最適化し、合成したMOFの特性化、応用までを行った。ソルボサーマル法に代わる水溶媒での合成法の開発では、超音波法、マイクロ波法を試み、モジュレーターおよびリンカーの選択、モジュレーター量、、周波数、官能基の導入など300を超える実験条件をこなし、アプリケーションにおける反応効率の向上をめざした。さらに、MOFと粘土鉱物により複合体を合成し、可視光域で水溶液中での色素物質の分解、Cr(VI)の還元に機能する光触媒効率を評価した。本申請課題の中心であるMOF/粘土鉱物複合体による色素分子ローダミンBの光触媒分解では、MOFとしてZr6O4(OH)4(ABDC)6 (ABDC = 2-aminobenzene-1,4-dicarboxylic acid)を合成し、粘土として針状結晶のセピオライトを選び、複合材料の最適混合比を認めた。合成MOFは2.83 eV のバンドギャップをもつ可視光触媒で、光励起電子はセピオライトの導電帯に移り、スーパーオキシドラジカルを生成し、色素分子を酸化分解する機構を提唱した。このように、粘土鉱物は単なる支持体ではなく、光触媒反応の電子輸送にかかわっていることを示した。成果は国際学術誌4編にまとめられた。
著者
篠山 学 松本 和幸
出版者
香川高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

人が自身の価値に気づく機会の一つに他者との対話がある.例えば,人から尋ねられてその回答を考えることで子供のころの夢などを思い出せたり,自分の行動を俯瞰できたりする.しかし,世界的な環境の変化により,人と会って対話する機会が減少している.そのため,気づきが得られる機会を創出することは重要である.そこで,これまでに構築したインタビュー対話コーパスを用いて人が気づきを得られる対話ロボットの研究を行う.本研究により,気づきを得られる対話システムが構築でき,気づきを得た対話も収集できる.また,収集した対話を分析することで,ユーザが気づきを得るための質問文の生成方法や相槌の挿入方法などを明らかにできる.
著者
稲田 健吾
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

動物は本能的に攻撃性を持つ。しかし攻撃行動は多くのエネルギーを消費し、自身が傷つく可能性や社会的制裁を受けるリスクを負うことにもなる。そのため動物は不要な攻撃衝動を抑制する機構も併せ持つと考えられている。近年光遺伝学に代表される、高い時間・空間分解能で神経活動を人為的に操作する手法が登場したことで、オスマウスをモデルに攻撃行動を促進する視床下部領域の細胞構成について理解が進んだ。しかし攻撃性を抑制する神経回路メカニズムについてはほとんど解明されていない。本研究では内分泌ホルモンであるオキシトシンが、攻撃行動の制御中枢を抑制することで攻撃衝動を抑止しているのではないかと仮説を立て検証を行う。
著者
山本 英弘 竹中 佳彦 海後 宗男 明石 純一 関 能徳 濱本 真輔 久保 慶明 柳 至 大倉 沙江
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

近年、経済的・社会的不平等の拡大への政治的対応が求められている。しかし、政治への参加や政策による応答に格差があるとしたら、かえって不平等を助長するおそれがある。そこで本研究では、政治参加と政策応答という2つの点から政治的不平等の実態を捉え、さらに経済的・社会的不平等と関連付けながら政治的不平等の生成メカニズムを解明する。具体的には、1)大規模質問紙調査に基づく個人と団体の政治参加における不平等の把握、2)個人や団体の政策選好と実際の政策との照合による政策応答における不平等の把握、3)事例研究に基づく具体的な政策争点における参加と応答をつなぐプロセスの把握、という3つの調査研究に取り組む。
著者
MATIN KHAIRUL 田上 順次 花田 信弘 北迫 勇一
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

新型PC-software(EPC-2000)導入人工口腔装置(AMS:新名称Oral Biofilm Reactor:OBR)の開発を行い、人工biofilmを形成する事に成功した。う蝕原因菌や栄養源を、速度を制御しながら滴下する事により、口腔内に類似した環境を作る事が可能となった。初期う蝕・二次う蝕の発生メカニズムの解明:牛歯・ヒト抜去歯切片をOBRにて人工biofilmを形成し、肉眼所見にてWhite Spot Enamel Lesionを確認した。その後定量的光誘導蛍光装置(QLF)及び走査型電子顕微鏡(SEM)により、表層下脱灰が認められた。さらに分散形X線分析装置(EDS)を用いて元素分析を行い、無機質のピークの減少も確認できた。また、牛歯前歯・ヒト抜去歯に形成した窩洞内にコンポジットレジンを充填した試料を使用し、複数う蝕原因菌を用いて人工biofilmを形成し、二次う蝕を形成した。その後蛍光顕微鏡、SEM、Micro-CT等を用いて観察及び分析を行い境界部の脱灰processの一端が明らかになった。上記方法により、人工初期う蝕・二次う蝕モデルの確立及びその発生メカニズムの解明に成功した。う触・二次う蝕予防を考慮した歯科材料の検討:歯科におけるSelf-surface-cleaningの実現に向け、新規フッ素樹脂化合物(テフロン)応用修復材料及びフッ素オリゴマー含有コーティング材等を使用し、材料学的・細菌学的に研究を行った。その結果、表面性状の影響を加味した第二世代への移行を遂げた。新しいう蝕予防法の検討:Biofilmの主要構成要素であるglucanに焦点を置き、常在菌叢を破壊しないglucan溶解法を検討した。その結果、アルカリ電解水がglucan溶解に有効な事を見出した。また、RT-PCR及び二次元電気泳動等を用い、菌体定量及び菌表層タンパクに変化が認められ、glucan溶解メカニズム解明の一歩と成り得た。さらに上記二次う蝕モデルを用いて、様々な予防法の開発を行っている。
著者
平岡 真寛 宮越 順二
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

各種磁場(0.2T均一定常磁場、0.45Tの不均一定常磁場、0.2Tの変動磁場)の細胞への影響を細胞増殖、細胞致死、熱ショック蛋白質および癌遺伝子発現を指標に明らかにした。0.2Tの均一定常磁場を培養器内で1ー8日間HeLaS3細胞(ヒト子宮癌)に負荷しても細胞増殖に影響を与えなかった。放射線(6Gy)あるいは温熱(45C,15min)の併用処置についても変化を認めなかった。0.2Tの変動磁場、0.45Tの不均一定常磁場を室内で1、2時間SCCVII細胞(マウス扁平上皮癌)、HeLaS3細胞に負荷しても細胞増殖、細胞致死いずれも影響を認めなかった。放射線あるいは温熱の併用についても変化を認めなかった。0.2Tの均一定常磁場のHeLaS3細胞での癌遺伝子(Nーras,mycおよびfosを検討)への影響をNorthern blotting法で評価した。無処置対照においては、fosmRNAの産生はほとんど認められなかった。2、8時間の磁場負荷では認められなかった。fosmRNAの産性が、4時間の磁場負荷で軽度認められた。既に報告されているようにfosはTPA、温熱処置にて発現したが、それらの発現に磁場は影響を与えなかった。NーrasおよびmycのmRNA発現に磁場は関与しなかった。ヒト大腸癌由来COLO細胞を対象に0.2T均一定常磁場の熱ショック蛋白質発現への影響をSDSーPAGEで検討したが、6、24時間磁場を負荷しても熱ショック蛋白質の発現を認めなかった。以上、0.2Tの均一定常磁場にてfosmRNAの産性が軽度認められることが本研究で明らかにされた。磁場と癌遺伝子発現の関係についての報告は皆無に等しく今後の研究が望まれる。
著者
桐野 豊 木村 哲也 渡辺 恵 川原 茂敬 松尾 亮太
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

ナメクジは匂いと忌避性の味覚(キニジンなど)を連合する嗅覚嫌悪学習を行う.嗅覚学習においては嗅覚中枢である前脳が重要な役割を果たしていると考えられている.本研究では,ナメクジの単離脳嗅覚学習系を用いる生理学的測定と分子生物学的解析により,嗅覚学習のメカニズムを解明することを目的とした.単離脳嗅覚学習において無条件刺激となる味覚神経束の頻回電気刺激は,前脳局所場電位振動の振動数を増大させ,同時に前脳バースティングニューロンの興奮とノンバースティングニューロンの抑制を引き起こした.このことから,学習時には大半のノンバースティングニューロンは抑制されることが示された.さらに触角神経束に高頻度の電気刺激を与えると,前脳における誘発電位が2時間以上の長期にわたって増加する,長期増強が生じることが示された.このような長期のシナプス伝達効率の変化が記憶の固定化のメカニズムを担っている可能性が示唆された.条件付けの30分前に体腔内にタンパク合成阻害剤であるアニソマイシンまたはシクロヘキシミドを注射すると、条件付け後2日〜一週間目以降の記憶保持に障害が見られ,タンパク合成が嗅覚記憶の長期的な維持に必要であることが明らかになった。そこで次に学習によって発現誘導される遺伝子をPCR-differential display法によって網羅的に探索した。ニンジンの匂いを条件刺激(CS)、苦み物質であるキニジン溶液を無条件刺激(US)として同時に提示して連合させ、対照群にCSとUSを1時間の間隔をおいて提示したものを用いた。再現性のある発現変化を示した8個の遺伝子について部分配列のクローニングを行った。
著者
森田 果 井深 陽子 日引 聡 尾野 嘉邦
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

法学における実証分析の近時の国際的な潮流は,実験によって収集されたデータを利用して実証分析を行うことに移りつつある。実験を行うことで,ランダム化比較対照実験を実現することができ,因果関係を正しく判別することができるからである。しかるに,日本の法学からの実験データを利用した実証分析の国際的な発信はほとんどなされておらず,国際的な実証法学への日本からの貢献は非常に低調である。そこで本研究は,COVID-19の下でも低コストで実施可能なオンライン実験を実施していくことで,消費者法・医事法・環境法の分野を中心に実験データに基づいた実証法学の日本からの国際的な貢献を実現することを目指す。
著者
木村 伸吾 KIM Hee-Yong
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

近年、ニホンウナギ(Anguilla japonica)のシラスの採捕量は減少しており、その要因として乱獲、生息環境の破壊、海洋変動現象などがあげられている。しかし、最近20年間の採捕量の減少は、乱獲や環境破壊などに伴う長期的な減少とは大きく異なっていることから、エルニーニョに代表される短期的で突発な海洋変動現象に注目が集まっている。本研究では、ニホンウナギ資源と産卵海域における海洋変動現象の係わりに焦点を絞り、エルニーニョ発生に伴う海洋環境の変動がウナギ幼生の輸送拡散過程に与える影響を定量的に明らかにすることを目的とした。そのために、エルニーニョの発生年と非発生年に分けて構築された北太平洋の大循環数値シミュレーション結果を用いて、ニホンウナギ幼生の輸送拡散シミュレーションを行い、それに対する資源量変動の応答メカニズムについて解析を進めた。流動場として使用したデータは、過去50年間にわたって計算された1/10度グリッドの再解析流速場データである。この物理モデルにニホンウナギの産卵場である北緯15度東経140度の地点に幼生に見立てた粒子を水深100m以浅に投入し、表層までの間で日周鉛直移動する幼生の能動的な移動を加えて、幼生の輸送拡散に関する数値シミュレーションを行った。その結果、エルニーニョ非発生年には幼生と見立てた粒子のうち約40%が黒潮流域に到達するのに対して、エルニーニョ発生年にはその個体数が半減することが分かった。さらに、産卵の指標となる塩分フロントの位置に対応して産卵海域を変化させた場合には、その違いが三倍にもなることが分かった。したがって、近年のシラスウナギの来遊量の変動は、エルニーニョの発生に伴う輸送過程における流動環境の変化に大きく依存していることが明らかとなった。本研究成果は、シラスウナギの来遊量予測に寄与するものと考えられる。
著者
高橋 弘 由利 和也
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

うつ病は、様々な症状が複雑に絡み合っている病気であり、病態を正確に捉えることが困難である。また、うつ病は、慢性ストレスにより神経の可塑的変化(シナプス減少など)を引き起こし、通常の神経回路と異なる可能性がある。そこで、本研究は、慢性的に敗北させたうつ病モデルマウスを用い、各うつ症状がどの様な神経活動により起こるかを明らかにする。また、ストレスによる神経可塑的変化が、グリア型グルタミン酸トランスポーター減少を介して、グルタミン酸過剰により引き起こされるかを明らかにする。これらの成果は、新しいうつ病の発症機序を実証し、うつ病の病態解明・診断・治療に貢献する。
著者
東山 繁樹 中山 寛尚 福田 信治
出版者
愛媛大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

がん細胞における細胞形質の不均一性の起因を膜型細胞増殖因子EGFファミリーの細胞外領域切断“エクトドメイン・シェディング”活性の“ゆらぎ”と関連付け、研究を進めた。ヒト乳がん細胞MCF7細胞からStem type、Basal type、Luminal typeの各クローンを樹立後、各細胞タイプとEGFファミリー膜型増殖因子のシェディング定量解析を行なった。その結果、proAREGのシェディング活性が各細胞タイプとの相関性を示すこと、proAREGに特異的なシェディング制御機構としてCUL3-RhoA軸が制御するアクチンダナミクスが関与することが明らかとなった。
著者
飯嶋 曜子 梶田 真 山本 充
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究は、ヨーロッパのボトムアップ型農村開発のガバナンスと領域性に着目して分析し、その意義を考察しようとするものである。事例として、周辺部の農山村としてこれまで多様な政策の対象となってきたアルプス地域を取り上げる。その理由として、アルプスでは、EU、国、州、県、市町村、さらにはアルプス広域地域等の多層的な領域において政策が遂行されていることが挙げられる。さらに、アルプス地域ではEUのボトムアップ型農村開発であるLEADER事業も積極的に実施されているからである。2021年度は現地調査を予定していたものの、コロナ禍が収束せず安全かつ円滑に調査を実施することが不可能であったため、実施を断念せざるを得なかった。その対応策として、2022年度に改めて調査を実施することを想定して、主にインターネット上の新聞記事や公的機関の情報などから現地の最新情報の収集に努めた。さらに、それらを踏まえて翌年度の調査計画案を検討した。一方でボトムアップ型農村開発のガバナンスとその領域性についての制度等に関する整理や分析、および理論的検討については各自が進めてきた。EUの共通農業政策(CAP)や、国、州、市町村等による農村開発政策、LEADER事業などについて、報告書や文献等による情報収集や分析を進めるとともに、それらに関連する理論の整理を行った。さらに、これまで実施してきた現地調査で得られた情報やデータを整理し、その分析を進めた。
著者
熊谷 公男 小倉 慈司 堀 裕 川尻 秋生 遠藤 慶太 鹿内 浩胤 新井 重行 福島 真理子 中村 憲司 佐藤 早樹子 佐藤 真海
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、弘仁・貞観・延喜の三代の格(律令の修正法)を内容によって分類、再編した『類聚三代格』の新たなテキストを作成することを目的とするもので、そのために必要な主要な写本について史料学的な検討を行いつつ各巻の底本を選び直し、校訂方針の明確化をはかった。その結果、古写本の文字をできるだけ尊重しながら原本の復原をめざすという基本方針を立て、研究代表者・研究分担者から巻ごとの担当者を定めて、協議をしながら校訂作業をすすめてきた。その成果の一部は論文の形でも公表した。また出版社も決定し、全体を3分冊として2022年から順次刊行していく予定である。
著者
笠原 政治
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

森丑之助は1890年代の後半以降,20年間近く台湾山地先住民族(現在の正式名称は「台湾原住民」)の実地調査を行った人物である。台湾研究の開拓者であり,日本における文化人類学の先駆者であるが,今日の学界ではその名前はほとんど知られていない。単行本として出版された写真集『台湾蕃族図譜』(1915年),タイヤルの民族誌『台湾蕃族志第一巻』(1917年)を含めて,その著作を日本で入手することが甚だ困難になっている。本研究では,森丑之助の著作の収集とデータベース化,森研究に関する現地(台湾)研究者との意見・資料の交換を進めるとともに,『森丑之助著作集』(仮称)の編集・刊行に向けて一連の準備作業を行った。森の著作については,単行本,学術雑誌や旧台湾総督府関係の雑誌への掲載稿などのほかに,当時の地元紙『台湾日日新報』にもかなりの点数を寄稿していたことが同紙のマイクロフィルム版から判明したので,それらを含めて目力作りと入力に努力した。また,いま台湾では,森の著作の一部が中国語訳され出版されたため,森丑之助とその研究業績が広く注目を集め始めている。本研究では,森の研究の全体像と把握と併せて,中国語への翻訳者及び地元の研究者たちとも十分な意見交換を行い,森の研究に関する国際的評価を高めるための方向も摸索してみた。現在予定中の『著作集』が上梓されれば,森の業績は改めて正当な認知を受けるであろう。そして,森という人物を通して,日本文化人類学の黎明期に新たな光が当てられるものと考えられる。
著者
松木 民雄
出版者
北海道東海大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

春秋時代の城郭国家では、社会分業は士・農・工・商の摩四民によって構成されるのが一般であった。その中の商業について『春秋左氏伝』を中心として考察を進めた。商に関する用例を分析するにあたっては、商と同様に商業関係の概念を有する賈についても並行して対照的に検討を加え、その用法を明らかにした。『左伝』において商と賈の用例を分析すると、国名・地名・氏・名の用例のほか、商業関係を示す事例が多見され、これを比較した場合、幾つかの特徴が見られる。即ち、商業人や商業身分を示すには商が多用され、僅かではあるが、春秋後期には賈も同意義で互用されることがある。他方、売買行為や価格を示するには専ら賈が使われ、殊に商には売買に関する動詞的用法は見られない。このことは、商と賈は本来的には異なる意味を有していたものであるが、『左伝』では商業人と商業者身分を示す点に於ては次第に融合しあい、互用されるようになる状況を示している。従って春秋中期にあたる宣公十二年に「商農工賈」とあるのは、商と賈が異なる性格を有していた段階の相違点が意識されて記載されてものであり、商は有力な商業者層を含む商業身分を示し、賈は販売を扱う広義の一般商人であって、前者の商は賈と比べて相対的に大商人を含んでいたと察せられる。のち次第に商と賈は接近し、『左伝』に散見する互用事例しとなり、戦国秦漢以降は、商賈が一体化して熟語となって、商人一般の総称としての用法が現われるようになる。『左伝』では、商と賈の別義から、やがて互用され、後には一語(商賈)になるまでの過渡的状況が示されていることが判明された。当該年度の作成にかかる小論「左伝における商と賈」の概要は上記の如きであります。