著者
岩田 修永
出版者
長崎大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

先行研究で、アルキル鎖の導入で脂溶性を付与したカテキン誘導体が、アルツハイマー病の原因物質アミロイドβペプチド(Aβ)の主要分解酵素であるネプリライシンやAβ産生を抑制するαセクレターゼ、さらにAβ産生酵素βセクレターゼの遺伝子発現をそれぞれ上方・下方調節する能力があることを見出した。本研究では、これらの発現制御に関わるカテキン結合タンパク質をカテキン結合ビースによる精製とLC/MSMS法を用いて二種類同定した。これらのカテキン結合タンパク質過剰発現細胞では、mock細胞に比較して脂溶性カテキン誘導体処理によるネプリライシン活性増強効果がさらに増大し、βセクレターゼ活性の減弱を引き起こした。
著者
出口 剛司 赤堀 三郎 飯島 祐介 伊藤 賢一 渡會 知子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究課題は、社会学の公共性を実現する条件を理論及び学説史の研究によって明らかにすることにある。上記課題を実現するために五つの論点の考察した。1.ヴェーバー「価値自由」テーゼの批判的継承、2.批判的社会理論とN.ルーマンの社会システム論の再検討、3.ドイツにおける国法学、公共性研究とフランスの中間集団論との比較、4.ドイツにおける社会理論と法学の関係についての考察、5.ネット時代の個人化と社会的連帯の変容の解明である。その結果、理論が自己の正当化実践を行うことを通して、また社会的現実を別様に記述することにより、政策課題を設定=再設定することで通して、社会学の公共性が実現しうるという結論を得た。
著者
林 良雄
出版者
東京薬科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)が有するプロテアーゼの阻害剤創製を通じ、電子吸引性のアリールケトン構造を基本的な阻害機構としたシステインプロテアーゼ阻害剤の創製手法の確立をめざした。過去の研究より得られた低活性な阻害剤を基に、初年度はトリペプチド型、最終年度はジペプチド型の強力な阻害剤創製に成功し、本阻害剤創製戦略が有効に機能することを確認できた。一方、阻害剤の効率的スクリーニング手法の確立に必要な、混ぜるだけで精製無しに基質をビオチニル化できる試薬の開発にも成功した。
著者
横山 順一 カンノン キップ 仏坂 健太 伊藤 洋介 茂山 俊和 道村 唯太
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2020-08-31

重力波を用いた宇宙物理学の研究を包括的に展開します。具体的には、①独立成分解析によってノイズを効率的に除去し、KAGRAによる重力波の初検出を目指します。②連星ブラックホールの質量分布関数とパルサーの周期擾乱で観測される長波長重力波背景放射を用いることにより、予想外に多数存在することがわかったブラックホールの正体を明らかにします。また、③連星中性子星合体については、マルチメッセンジャー宇宙物理学において、光学対応物となるガンマ線バースト及びキロノバの物理過程を数値相対論によって明らかにすると共に、r過程元素合成を計算し、銀河の化学進化の観測と照らし合わせて、金や銀などの起源を明らかにします。
著者
藤原 卓 福本 敏 星野 倫範
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

DNAワクチンとは,抗原遺伝子を組み込んだ発現ベクターにより生体内で直接抗原タンパクを発現させ,免疫応答を惹起するもので,我々はグルコシルトランスフェラーゼ(GTF)を標的とするDNAワクチンを構築する試みを行ってきたが,免疫反応を惹起する必要なタンパクレベルでの発現にいたらなかった.構造解析を行ってシグナル直下の約350AAの大きさの多型性領域に高い抗原性を決定し、そこを標的とする新たなDNAワクチン(pSecTag2-gtfB、pSecTag2-gtfC、pSecTag2-gtfD)を構築し,そこからさらにアデノウイスルのプロモーターをもつpAFC3をベースとしたDNAワクチンプラスミド(pAFC3-gtfB, pAFC3-gtfC, pAFC3-gtfD)を作成した.1.DNAワクチンの標的部位の抗原性の解析今回作成したpSecTag2-gtfB、pSecTag2-gtfC、pSecTag2-gtfDには大腸菌における発現プロモーターとしてLacプロモーターを持つので、大腸菌を用いてリコンビナントタンパクを発現させて、そのリコンビナントタンパクの抗原性を解析した.E.coli BL21-AI(Invitrogen)に形質転換し,0.2%のアラビノースを添加して発現を誘導した菌体を、抗GTF抗体をもちいてウエスタンブロットにて解析すると、すべてのDNAワクチンプラスミドで抗体との反応が認められたが、pSecTag2-gtfCが最も強く、pSecTag2-gtfBでは誘導されたタンパクの分解傾向が認められた.2.DNAワクチンプラスミドによる抗原タンパクの発現マウス由来293細胞に3種のDNAワクチンプラスミドを感染後、RNAを抽出し、それぞれのgtfに特異的なプライマーを用いてサザンプロットを行った.その結果、pSecTag2-gtfB、pSecTag2-gtfCに抗原タンパクの発現が認められたが、そのバンドはpSecTag2-gtfCが最も明確であった.これらの結果より、GTFに対するDNAワクチンプラスミドとしてGTFCを標的とすることが、最も効果が高い可能性が示唆された.今後は,pAFC3シリーズを用いて,in vitroおよびラット実験齲蝕系を用いたin vivoにおける抗う蝕作用を解析してゆく予定である.
著者
金子 明 五十棲 理恵 脇村 孝平 皆川 昇 平山 謙二 金子 修 平塚 真弘
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

我々は研究期間を通じた横断的マラリア調査により、ケニア・ビクトリア湖周辺地域でのマラリア感染の非均一性を明らかにした。さらに感染の多くは無症候性でかつ顕微鏡検出限界以下であることを示した。これは、集団投薬とともに地域特性に基づいた対策の必要性を裏付けるものである。さらにNgodhe島における集団投薬の介入試験から、中~高度流行地に囲まれた低度流行地における持続的なマラリア撲滅のためには、外からの原虫移入および媒介蚊への対策強化による伝播抑制が必要であることを明らかにした。本研究により、不均一に高度マラリア流行地が残存するサハラ以南アフリカでのマラリア対策を進めるうえで鍵となる知見が提示された。
著者
高野 信治 山本 聡美 東 昇 中村 治 平田 勝政 鈴木 則子 山田 嚴子 細井 浩志 有坂 道子 福田 安典 大島 明秀 小林 丈広 丸本 由美子 藤本 誠 瀧澤 利行 小山 聡子 山下 麻衣 吉田 洋一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

近年、欧米では前近代をも射程に身心機能の損傷と社会文化的に構築されたものという二つの局面を複合させて障害を捉え、人種、性(身体上)、民族の差異よりも、障害の有無が人間の区別・差別には重要とされる。日本では、かかる視角の研究はなく、障害は近代の画期性が重視される。しかし福祉問題の将来が懸念されるなか、比較史的観点も踏まえた障害の人類史的発想に立つ総合的理解は喫緊の課題だ。以上の問題意識より、疾病や傷害などから障害という、人を根源的に二分(正常・健常と異常・障害)する特異な見方が生じる経緯について、日本をめぐり、前近代から近代へと通時的に、また多様な観点から総合的に解析する。
著者
川村 文彦
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

味覚の再生医療を目指す。舌上皮に点在する味蕾には、味覚を司る味細胞の幹細胞が存在すると言われていた。しかしながら我々が行った細胞系譜追跡法によって、味蕾には前駆細胞しかなく、舌上皮の乳頭間窩(Interpapillary pit; IPP)に味幹細胞が存在することが判明した。先行研究において樹立したIPP由来味蕾オルガノイドと、マウスES細胞より内胚葉系に分化誘導した細胞とを共培養したところ、世界で初めて3種の味細胞マーカーを発現する細胞塊を確認した。本研究では、この味細胞分化誘導法の確立を目指し、さらにヒトiPS細胞に応用することを目的とする。将来的には味覚障害患者の再生医療を目指す。
著者
南 一成
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

睡眠・覚醒の調節にはアセチルコリンが重要である。アセチルコリンを放出するコリン作動性ニューロンはREM(Rapid Eye Movement)睡眠時に強く活動することから、アセチルコリンはREM睡眠の調節に関わっていると考えられている。また、パーキンソン病やアルツハイマー病においてはREM睡眠の減少が見られ、同時にコリン作動性ニューロンの病変も見られることが知られている。したがって、これらの病気について、アセチルコリン活性の低下によるREM睡眠の減少が重要である可能性が考えられる。そこで本研究では、睡眠調節に関わると考えられるmAchRのうち、mAchR1〜5それぞれのサブタイプの遺伝子欠損マウスについて、睡眠の各ステージ、特にREM睡眠をモニターしながら障害させる実験系を開発した。マウスの脳波と筋電図を計測しながらリアルタイムでコンピュータにより解析し、吸気中の二酸化炭素濃度を自由にコントロールすることで睡眠の各ステージを障害させることに成功した。この実験系を用いて、mAchRの遺伝子欠損マウスの睡眠、特にREM睡眠の変化を解析する。また、アセチルコリンは睡眠だけでなく、概日リズムにも関わっている。概日リズムは光刺激とそれに伴う視交差上核の活動によってコントロールされているが、そこでアセチルコリンが重要な役割を担っていると言われている。したがって、アセチルコリン受容体の概日リズムの影響を調べるため、マウスの概日リズムを解析するための行動実験系、体温測定の実験系を作製した。この実験系を用いてこれまでに、プロスタグランジンE2(PDE2)が末梢の概日リズムを変化させる作用があることを見出している。これからさらに、アセチルコリン受容体の遺伝子欠損マウスについて解析する予定である。
著者
萬屋 博喜
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

今年度は、前年度に引き続き、(1)デイヴィッド・ヒュームの因果論と(2)現代因果論におけるヒューム主義を主な課題として研究し、その成果を口頭や論文の形で発表した。(1)第一に、ヒュームの因果論に関しては、自然法則に関する見解について研究報告を行った。これについては、『人間知性研究』を主なテクストとして用い、(a)従来の解釈ではヒューム哲学が自然法則と偶然的一般化を区別できないという困難に直面することになるという点を指摘した上で、(b)自然法則の信念成立において数学的表現による数量化という手続きが不可欠であるという「数量化可能性の条件」という論点をテクストから析出することで、そうした困難の解消を試みた。(2)第二に、現代因果論におけるヒューム主義に関しては、(1)行為の道徳的評価における因果性の役割、(2)共同行為における因果性の役割に分けて研究報告を行った。まず、行為の道徳的評価における因果性の役割については、(a)行為の善悪を評価する原理の一つである二重結果原理の内実を明らかにした上で、(b)その原理において因果性が果たす役割の重要性を示したのちに、(c)その原理は傍観者視点での概念的直観ではなく当事者視点での経験的直観によって根拠づけられるということを示した。次に、共同行為における因果性の役割については、この論文では、(a)共同行為の定義や成立条件に関する黒田亘の見解を検討したのち、(b)黒田の議論が、合理性、暗黙の相互期待、意志表明の言語ゲームにおける<原因としての意志>の共有、という共同行為成立のための三条件を提示するものであった、ということを明らかにした。
著者
平野 均 坂元 薫 北村 俊則 苗村 育郎 湊 博昭 岡野 禎治 佐々木 大輔 田名場 美雪
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

【目的】(1)青年期の季節性感情障害(SAD)有病率と罹患者の特徴、ならびに(2)Global Seasonality Score(GSS)規定因子を解明し、治療法の確立を目指す。【対象と方法】(1)平成16〜17年度全国7大学新入生を対象とし、SAD有病率と罹患学生に認められる特徴を調査した。GSS得点13点以上(高GSS群)は全員を、12点以下(低GSS群)は40名から高GSS群数を引いた人数を無作為に抽出して構造化面接を実施した。(2)平成16年度全国8大学新入生を対象とし、GSS・TCI・出身高校所在地平年値日照環境との関係を調査した。【結果】(1)対象学生12,916名中、8,596名が回答に応じた。高GSS群202名中151名と低GSS群118名中110名がSCID-Iを用いた構造化面接に応じ、それぞれ7名と1名がSADと診断された。SAD有病率は0.96%で、罹患率に性差は無かった。また14名が社会恐怖(social phobia ; SP)と診断され、GSSは高得点であった。SAD罹患学生は、高率にSPを合併していた。(2)対象学生10,871名中、GSS・TCI・日照環境情報に不備が無かったのは61443名であった。GSS総点・平均日照時間・同日射量・TCI 7項目を変数として、パス解析を行った。その結果高GSS得点を規定したのは、低い自己指向性と協調性、高い自己超越・新奇追求・損傷回避で、分裂病型人格に該当した。日照環境とには関連は見出されなかった。【考察】構造化面接による今回の大規模調査から、SAD有病率は凡そ1%で性差が無いことが示された。罹患学生にSPが高率に併存すること、GSS得点が特定の人格傾向を反映することは、SAD・SPに共通する生物学的基盤が存在する可能性を示唆している。このことは両疾患の病態と成因を解明する上で、また治療法を確立する上で貴重な所見と考えられる。
著者
古庄 律 石田 裕 谷岡 由梨
出版者
東京農業大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

ムクナ豆にはL-ドーパが高含有されていることに着目し、加熱処理して可食化したムクナ摂取によるパーキンソン(PA)病の病態軽減と抗酸化作用の両面から検討を行い、次のような成果を得た。①加熱処理したムクナ豆粉末を6-OHDA処置したPA病モデルラットに与えると対照動物に比べ運動機能が改善された。②DPPHラジカル消去活性は、14.3mmol Trolox/100gだった。③ヒト肝由来細胞株を用いた抗酸化能については、H2O2濃度10μM暴露時の生存率が111%で無添加時(88%)に比べ生存率は高値であった。以上により、ムクナ豆はPA病の病態改善と抗酸化機能を有する機能性食品であることが示された。
著者
星 和彦 QIN LiQiang
出版者
山梨大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

乳製品は人間に役に立つ食べものである。一方、牛乳の消費と乳がんとの間に関係があるかどうかという議論が今まで続いている。乳がんは女性に最も多いがんといわれているが、牛乳と乳がんの関連性についての解明が重要である。本研究では、全部のラットに10mgのDMBAを与えて、腫瘍数と大きさが規準を満足したことを確認した後、ラットを以下の3群に分類した。1)成分無調整乳(milk)投与群;2)水道水(Negative control)投与群。この2群のラットは卵巣を摘除した。3)Positive control群。この群は手術操作を行ったが、卵巣は摘除しなかった。群分け10週後、ラットを屠殺した。腫瘍率、腫瘍平均数、平均重量、平均サイズについて、Negative control群に比べるとMilk群が有意に高くなった。注目すべきはMilk群の子宮重量(0.134±0.0329g)はnegative control群(0.107±0.020g)に比べ、有意に重くなったことである。血液中のホルモンを測ると、Milk群のprogesteronはNegative control群より有意に高くなった。また、細胞培養の実験を行った。MCF7細胞は10%charcoal-stripped牛胎児血清と1%抗生物質含むPRMI-1640で培養した。1×10^5の細胞はプレートに蒔いた。妊娠牛乳と非妊娠牛乳は遠心して、ウェー取った。0、0.5%、2%、5%のウェーを含む培地に細胞を48時間で培養した。そして、細胞数、生細胞数(MTT法)、細胞増殖(BrdU法)を測定した。一方、妊娠牛乳と非妊娠牛乳を取ったウェーをcharcoalで処理して、同じ方法で細胞数、細胞増殖を測定した。牛乳濃度の増加に伴って、細胞数、MTT、BrdUの値が高くなった。妊娠牛乳は非妊娠牛乳よりこの傾向が強かった。Charcoal処理した牛乳を用いると、妊娠牛乳、非妊娠牛乳共に、細胞への影響がほぼ失われた。この結果から、牛乳、特に妊娠乳牛由来の牛乳中に乳がん細胞成長、増殖を促進する因子が存在することが分かった。Charcoal処理すると、この因子が取り除かれた。この因子がエストロゲンかどうかについて検討するには、さらなる研究が必要である。
著者
桑木 共之 山中 章弘 李 智 礒道 拓人 山下 哲 大塚 曜一郎 柏谷 英樹 宮田 紘平 田代 章悟 山口 蘭 石川 そでみ 桜井 武 加治屋 勝子 上村 裕一 二木 貴弘 Khairunnisa Novita Ikbar 有田 和徳 垣花 泰之
出版者
鹿児島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

快情動は疾病予防や健康増進に有益であることが経験的に知られている。その脳内神経回路を明らかにすることによって、経験則に生物学的エビデンスを付与することが本研究の目的であった。快情動によってカタプレキシーを引き起こすことが知られているオレキシン欠損マウスを用い、カタプレキシー発作直前または同時に活性化される脳部位を網羅的に探索したところ、側坐核の活性化が顕著であることが明らかになった。今まで不明であった快情動を研究する際のターゲットとなる脳部位を絞り込むことができたが、健康増進との関連解明にまでは至らなかった。
著者
佐川 英治
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

北魏の正史『魏書』は孝文帝の時代を北魏史の頂点とする歴史観で書かれている。しかし、本研究ではこの歴史像がある目的をもった一面的な歴史像であることを明らかにしてきた。本年度はこれを受けて北魏の建国から洛陽遷都までの百年間をその都であった平城に焦点を当て見直す研究をおこなった。すなわち、平城の北には、平城の規模をはるかに上回る広大な禁苑「鹿苑」が広がっていた。実はこの鹿苑は広大な放牧地であって、そこには無数の牛羊馬が放牧され、毎年春に陰山方面へ放牧に出かけ、秋に返る習慣があった。皇帝もしばしばこのルートにしたがって行幸し、春と秋には遊牧の祭祀をおこなった。当時、陰山は自然が豊かで多くの動物が暮らす場所であった。北魏は征服戦争で得た人民を平城周辺に移住させ、彼らに土地と耕牛を給する「計口受田」といわれる方法で国力を充実させていくが、それを可能としたのは陰山から毎年大量に供給される豊かな動物資源であった。ここに平城の地政学上の利点とそれまでの五胡十六国が持ち得なかった北魏の国力の源泉がある。しかし、やがて動物は減少し、皇帝は行幸や狩りをしなくなり、平城周辺では牛不足が深刻となる。これにしたがって鹿苑も放牧地から宴遊をおこなう中国的な禁苑へと姿を変えていった。『水経注』には孝文帝の時代、陰山から樹木が消えていたことが記されており、過放牧や森林の伐採がその原因と考えられる。この結果、孝文帝は平城を放棄し洛陽へ遷都するとともに、漢化政策をおこなって新しい権力基盤を求めざるを得なくなった。本研究では以上のことを明らかにすることで、孝文帝の漢化政策や洛陽遷都を北魏の発展の上に位置づける従来の見方に対して、環境の危機の上に位置づける新しい歴史像を提起した。また、洛陽遷都後の北魏史については造像銘を用いた研究の可能性に注目し、その成果を書評の形で示した。
著者
野中 誠
出版者
東洋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

信頼性の高いソフトウェアを開発するための技法の一つとして,開発過程で得られた欠陥データにレイリーモデルを適用して総欠陥数を予測する技法がある。本研究では、レイリーモデルを適用した場合に総欠陥数の予測値が実績値を下回る矛盾に対して、条件付き確率の概念を適用する方法を示した。その結果、指標によっては予測誤差も減少することを示した。また、欠陥予測に影響する要因として、欠陥の混入工程に影響する要因と、単体テストの欠陥見逃しに影響する要因について分析した。その結果、方式設計では仕様変更の可能性が、詳細設計では要求性能の難易度が、単体テストの欠陥見逃しにはモジュール規模が影響することを示した。
著者
野田 隆三郎 洞 彰人 神保 秀一 池畑 秀一 石川 洋文
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1 タイトt-デザインの分類については ウイルソン多項式の根の整数条件が有力な手がかりであるが これの処理方法においてかなりの進展が得られた。今後はこれ以外に入の整数性をうまく結びつけて 最終的な解決をはかりたいと考えている。2 擬対称4-デザインはタイト4-デザインに他ならず すでに分類が完成している。条件を擬対称3-デザインに弱めても 同じ手法がかなりの程度まで使えることが分かった。デザインの諸パラメーターの整数性および付隨する強正則グラフの結合行列の固有値の整数性が 強い制約を与えており これらをうまく処理して分類を完成させる 見通しができた。3 スタイナーシステムS(t,k,v)において よく知られているキャメロンの不等式 V≧(b+1)(k-t+1) および私の証明した不等式 V≧(b+1)(k-t+1)+(k-t)の改良として次の結果を得た。 定理 tが奇数で V>(t+1)(k-t+1)とすると V≧(t+2)(k-t+1) が成りたつ.さらに等号が成りたつのは(t,k,v)=(t,b+1,2t+4)のときに限る.この結果は近く論文にまとめる予定である.4 等周問題については3次元におけるミンコフスキーの不等式 M^2≧4πA,およびA^2≧3VMの改良がいま一歩のところまで進展した。これは有名なブルン・ミンコフスキーの不等式の改良とも結びついているので完成すれば大変面白い結果であると考ている。近いうちに是非完成したい。また逆向きの等周不等式については 2次元におけるゲージの証明はそのまま3次元以上に適用することはできないがボンネゼンの定理をうまく使う事によって解決への重要な手がかりが得られた。
著者
野田 隆三郎 池畑 秀一 石川 洋文 梶原 毅 脇本 和昌 堤 陽
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1 tight3とtight5-orthogonal array(つまり Raoのboundを達成する直交配列)の分類を完成した。(別掲論文)。その他のtight orthogonal arrayの分類の研究は現在進行中である。2 Steiner system(つまりt-(v,k,l)デザイン)に関する次の新しい不等式が得られた(論文準備中)。これはP.J.Cameronが与えた不等式の改良になっている。tが隅数の時 v≧(t+1)(k-t+1)+(k-t)がなりたつさらに等号がなりたつのは 4-(23,7,1)がt-(2t+3,t+1,1)に限る。また tが奇数で v>(t+1)(k-t+1)とあると v≧(t+2)(k-t+1)がなりたつ3 orthogonal arrayに関する不等式も得られたが、更なる改良を、現在考慮中である。
著者
池内 了
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

研究の3つの柱として、(a)星密度の高い星団におけるスターバースト現象、(b)スターバースト後の恒星レムナントの重力相互作用による中間質量ブラックホール(IMBH)の形成、(c)IMBH間の重力相互作用による超巨大質量ブラックホール(SMBH)への成長、を考えてきた。これら3つの段階は、それぞれ独立した項目として切り離して進めることができる。まず、(a)の段階では、スターバースト現象において、どのような恒星レムナントが残されるかを検討した。通常の質量関数ではブラックホールや中性子星のレムナントは少なすぎるので、フラットな質量関数を仮定しなければならないことが判明した。続く(b)の段階では、恒星レムナントを観測されている星の分布と同じ空間分布を仮定し、通常のガウス型の速度分布とすると、レムナント系は遠隔2体重力相互作用でコア・ハーロー型構造へ進化する。やがて、3体衝突が効き始めて高密度レムナント団となるが、問題は、それ以後断熱的となるために収縮が極端に遅くなり100億年の間にIMBHへと進化しないことである。そこで、ガスが共存していると仮定し、ガスの粘性効果を取り入れ、また超音速で運動するレムナントによる衝撃波の形成とその散逸効果を考慮したが、十分な冷却効果にはならず、半径10pcの球内に10万太陽質量が集積する程度となった。(c)の段階では、重力相互作用によって100億年の間でSMBHになりうる条件を求めたところ、半径1pcの球内に100万太陽質量が集積することが必要と結論が得られた。とすると、(b)の段階で得られた高密度レムナント団とは、4桁の差があり、このギャップを埋めることができなかった。従って、(b)から(c)に至るプロセスで、ここでは考えなかった新しい物理過程を想定しなければならず、この研究は今後の研究への指標となると考えている。
著者
池内 了 杉山 直 海部 宣男 土居 守 福島 登志夫 長谷川 哲夫
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

アジア・太平洋地域(オセアニア、南北アメリカも含む)における天文学研究は、多くの先進的観測装置を有する国から観測装置が未整備な国まで、さまざまな研究環境条件にある。そこで、国際天文学連合(IAU)が主催して、これらの諸国の天文学研究者が一堂に集まり、最前線の研究成果を交流しつつ、若手研究者の育成、共同研究の推進と相互援助、天文学普及のための活動、などについて情報交換を行う「IAUアジア・太平洋地区会議(略称APRM)」を開催してきた。本研究課題は、2002年7月2日から5日まで東京の一橋記念講堂で開催された、第8回APRMの準備費用・会議運営経費・報告集発行経費を賄うことによって会議の成功に寄与したものである。会議には、総計462人が参加し、うち148人は23カ国からの外国人研究者であった。会議は、全体会議行われた(1)大型観測装置、(2)大規模サーベイ、(3)太陽系外惑星、(4)天文学教育の4つのセッションと、(5)星・惑星系形成、(6)星・太陽活動、(7)高エネルギー天文学、(8)活動的銀河核、(9)重カレンズ、(10)系外銀河・宇宙論の6つのセッションが分科会で行われ、約30の招待講演、約100の口頭発表、約320のポスター発表があった。加えて、(11)情報交換のためのネットワーク形成と研究雑誌の発行、(12)今後の地域集会の予定、の2つのビジネス・セッションを持ち、アジア・太平洋地域における天文学研究のよりいっそうの発展のための討論を行った。会議の報告集として、全体会議については太平洋天文学会(ASP)の国際会議録シリーズ、分科会およびポスター論文は日本天文学会(ASJ)の国際会議録として出版した。なお、最終日の翌日の6日には4つのサテライト集会が持たれ、これにも多数の研究者が参加した。