著者
川添 裕子 金 振晩 金 宰郁
出版者
松蔭大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は,日韓の美容整形の展開を政治経済の文脈に位置づけ,日本の「普通」感覚・理想美の変化,及び90年代以降の韓国における美容整形展開の経緯を明らかにすることを目的としている.29年度,日本では,明治以前にさかのぼって医療史,美の変遷を概観し,文献,関係者への聞き取りから医療行政の面について考察を行った.医療観光のコンテンツとしては,消極的なクリニックの方が多いと考えられる.整形経験者には,極めて限られた人数ではあるが,継続して聞き取り調査をしている.90年代末には,美容整形のブレーキでもあった「普通」文化は,既に,反転して美容整形促進に向いているように思われる.歴史と突き合わせると,儒教規範は,近代的身体観と伝統的規範の橋渡しという役割と終えたと見ることはできるが,相変わらず日本の整形経験者の秘匿意識は高いので,さらなる考察が必要である.韓国については,関係学会への聞き取りから,日本同様の形成外科とそれ以外の医師による組織的な対立が顕在化しつつあるのが明らかになった.また美容整形をテーマにしている研究者と意見交換を行った.29年度から加わってもらった研究分担者を介して,韓国の美容整形クリニック院長への聞き取りを行った.韓国,日本,中国の患者の差異については,30年度に外科医及び経験者の聞き取りを加えて分析する.韓国における医療観光政策は,同じく29年度から加わってもらった研究分担者に協力を依頼している.30年度に,共同で聞き取り調査を実施して,まとめに入る予定である.なお,英国Palgrave Macmillan社の「Palgrave Studies in Fashion and the Body」シリーズ刊行を目標とする国際共同研究に加入した.成果の英文発表,ネット公開の着手を始めた.
著者
岩田 重則
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

2017年度の本研究は、前年度2016年度に行なった調査・研究を継続し、本研究のために3地域でフィールドワークを行ない、また、研究成果を発信するための単著の執筆と国際会議での発表を行なった。フィールドワークについて。三重県における両墓制と火葬墓制、また、三重県に隣接する滋賀県における両墓制と火葬墓制の調査・研究を行ない、遺体埋葬の両墓制と遺体火葬の火葬墓制との間の同質性を抽出するための作業を行なった。また、滋賀県から北側に隣接する福井県では、その越前地方では火葬墓制が、その若狭地方では両墓制が顕著であるので、福井県でもその同一県内での両墓制と火葬墓制の調査・研究を行なった。これらによって、両墓制と火葬墓制ともに、仏教民俗としての性格が色濃い墓制であることが確認できた。従来の研究では、両墓制は仏教的性格のない「固有信仰」とされてきたが、そのような従来の通説とは異なる調査・研究を行なうことができた。単著の執筆について。2017年度は、上記の調査・研究の成果として、単著の執筆を行なった。『日本鎮魂考―歴史と民俗の現場から』(2018年4月刊行、青土社。四六版上製363頁)、および、『火葬と両墓制の仏教民俗学』(仮題。2018年6月刊行予定、勉誠出版。A4版上製330頁予定)の2冊を執筆した。学会発表としては、2017年11月9日―10日国際会議、The Death of Funeral Rites in Est Asia(韓国、The Academy of Korean Studies) で″The Tomb of the Tenno in Modean Japan″を行なった。
著者
俵木 悟
出版者
成城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は、一般理論研究に関しては、前年度に収集した論文等を読み込んだ。とくにアメリカ民俗学における個の創造性への着目に対して、ヨーロッパの民俗学に集合的創造(collective creation)に関する議論の展開があることがわかった(ヴァルディマル・ハフステイン、レギナ・ベンディックス等)。実証的調査研究に関しては、岡山県の備中神楽に関して成果があった。若い神楽太夫たちが行っている稀少演目の復活上演や神楽を広めるための活動は、電子メディア上でのやりとりも含む共同的創造の様相として捉えることが可能であり、その一端について他の研究課題のテーマとも関連させて一編の論考を著し、来年度に刊行される予定である。また必ずしも本研究課題の期間中の調査に基づくものではないが、以前の調査成果を本研究課題のテーマに沿った問題設定も踏まえて新たに論じた2本の論文が刊行された(業績①②)。さらに本研究課題の着想にいたる背景の一つであった国際的な無形文化遺産保護の取り組みについてこれまで論じてきた論考をまとめた単著を刊行した(業績③)。さらに、前年度に行った本研究課題の中心的テーマであるアートの民俗学的理解に関しての座談会の記録も刊行された(業績④)。総じて今年度は、本研究課題に関連してこれまで行ってきた業績の刊行という面で成果が多かった。業績 ①「伝承の「舞台裏」─神楽の舞の構造に見る、演技を生み出す力とその伝えられ方」飯田卓編『文化遺産と生きる』(臨川書店、2017) ②「「正しい神楽」を求めて―備中神楽の内省的な伝承活動に関する考察―」『日本常民文化紀要』33(2018) ③『文化財/文化遺産としての民俗芸能―無形文化遺産時代の研究と保護』(勉誠出版、2018) ④小長谷英代・原聖・俵木悟・松本彰「特集討論「アート」:社会実践と文化政策」『文化人類学研究』18(2017)
著者
石本 敏也 及川 高 渡部 圭一
出版者
聖徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、民俗文化を当事者に種々の負担を強いるコストとして把握し、そのコストとモチベーションという観点から実態を捉え直すと共に、その調整過程を明らかにしようとするものである。対象地域は、東北、関東、中部、近畿と広く設定し、その事例も民俗文化財や世界遺産として登録された内容をも含み、民俗学・宗教学・歴史学の知見を生かし横断的な解明を試みる。継承された民俗文化の再評価については、文化資源や観光の文脈で注目されてきた視角であるが、それが時に当事者にとっては重い負担となることは従来重視されてきたとは言いがたい。本研究は、まずは民俗文化が当事者においてこうした重いコストであり得ることを改めて強調し、その上でコストを引き受けることの有意性を明らかにし、民俗文化の再評価における新たな知見を加えようとするものである。本年度は二回の打ち合わせ会議、研究会を開催し、設定した対象地域内における民俗文化の実態とそのコストについての意見交換を行うと共に、コストを核に据えた研究方法の深化と課題について討論した。また、メンバー各自の調査地域における調査研究を遂行し、関連する資料の発掘・蓄積を行うと共に、日本民俗学会における発表を通し個々の研究成果を公表した。加えて、年末に行った研究報告会において個々の成果を共有した。本年度の成果として、共著における民俗継承に関する研究論文を寄稿し、新たな知見を学会に提供することができた。
著者
谷部 真吾
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は、本研究において事例として取り上げる3つのけんか祭りの現状を把握するために、富山県高岡市の伏木曳山祭を5月14日~16日に、兵庫県尼崎市の築地だんじり祭り9月15日~19日、静岡県周智郡森町の森の祭り11月3日~6日に、それぞれ参与観察を行った。その結果、各祭礼が現在「穏やかに」運営されていることを確認した。また、伏木曳山祭が脱「暴力」化していった過程を明らかにするための聞き取り調査および新聞記事収集を、9月4日~11日に実施した。これによって、当祭礼が高度経済成長期に変容していったプロセスをより詳細に明らかにすることができた。また、戦後の日本の社会的・文化的状況や、その当時の地域社会の実態を理解するために、関連文献の収集・精読を行った。この作業を通して、各地のけんか祭りが似たような時期に脱「暴力」化していった理由を分析する際に必要となる、基礎知識を獲得することができた。さらに、最先端の研究動向を把握するために、日本文化人類学会第51回研究大会(5月27日~28日)ならびに日本民俗学会第69回年会(10月14日~15日)に参加した。なお、日本民俗学会では、研究発表も行った(発表タイトル:「批判されるけんか祭り ―高度経済成長期の伏木曳山祭(高岡市)を事例として―」)。加えて、祭礼研究を精力的に進めている江戸川大学の阿南透教授や、長野大学の中里亮平講師などと研究会を行ったり(4月29日、10月13日)、祭礼をテーマとした各種研究会、具体的には、第148回歴史地理研究部会(5月20日)、遠州常民談話会(9月30日)、第4回山鉾屋台研究会(10月13日)、現代民俗学会第40回研究会(12月17日)にも参加したりし、本研究のさらなる深化に努めた。こうした研究成果の一部を、論文「伏木曳山祭 ―熱狂と信仰と―」(阿南透(他・編)、『富山の祭り』、桂書房、2018年3月、pp.79-94)にまとめた。
著者
和田 健
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、戦時体制下にさしかかる1930年代後半を中心に、生活習俗に関わる改善指導が、どのような文脈のもとで策定されていたかを検討するものである。特に農山漁村経済更生運動における更生計画書に与えた生活改善事項記述の影響を考察することを中心に行った。そのため、生活改善同盟会が刊行した指導書について、分析を行っている。本年度は昨年度に引き続き、通俗教育の官製運動である生活改善運動のなかで刊行された『生活改善の栞』および『農村生活改善指針』に記載された衛生および衣食住に関わる生活改善指導の記述について考察を行った。『生活改善の栞』はおもに、都市部に居住する中産階層を対象とした生活のあり方を示したものであり、例えば衣食住に関わる記述において、特に婦人服、児童服の奨励と指導、また食に関しては、例えば食べきれない食事の提供をやめることを提唱、住環境については、下水関係のあり方と間取りについて詳細に改善事項を提案している。『農村生活改善指針』でも、そのような衣食住の生活改善について記されているが、特に衛生面での記述に紙幅を割いている。例えば寄生虫が堆肥を経由して野菜などの収穫物により蔓延しないよう、堆肥のあり方と便所の改善(内務省式改良便所)については詳細に記している。いわゆる不衛生から来る病気(回虫、トラホームなど)の予防のあり方について詳細に記している。本年度は、両指導書に見られる「衛生」に関わる記述を中心に比較して、人々の日常生活に「衛生思想」が埋め込まれる感覚について、および「衛生的」とされることばの受容について、あわせて考察を行った。また生活改善同盟会設立の趣旨の中に「国民の覚醒を促し思想を善導する」と記されているが、「思想を善導」することと、旧来より人々が行ってきたさまざまな民俗慣行との関わりについて衛生思想の観点から分析を行った。
著者
山田 慎也 金 セッピョル 朽木 量 土居 浩 谷川 章雄 村上 興匡 瓜生 大輔 鈴木 岩弓 小谷 みどり 森 謙二
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

現代の葬儀の変遷については、整理を進めている国立歴史民俗博物館蔵の表現文化社旧蔵の葬儀写真を順調にデジタル化を進め、約35000のポジフィルムをデジタル化をおこなった。昨年度、さらに追加の資料が発見寄贈されたので、デジタル化を進めるための情報整理を行っている。また近親者のいない人の生前契約制度等の調査は、それを実施している横須賀市の具体的な調査を行った。一定の所得水準以下の人だけを対象としていたが、それ以上の人々も希望があり、死としては対応を迫られていることがわかった。また相模原市や千葉市などでも行政による対応がなされ、千葉市の場合は民間業者との連携が行われていることがわかった。また京都や大阪での葬送儀礼や墓の変容については、その歴史的展開の相違から東京という政治的中心とは異なる対応をとってきていることが調査によって判明した。そこでその研究成果について、民間の文化団体と協力して「上方で考える葬儀と墓~近現代を中心に」というテーマで、大阪天王寺区の應典院を会場にでシンポジウムを開催した。当日は人々の関心も高く、約150名ほどが集まり会場は立ち見が出るほど盛況であった。また3月には、葬儀の近代化によって湯灌などの葬儀技術や情報が東アジアに影響をおよぼし、生者と死者の共同性に影響を与えていることを踏まえ、東南アジアの多民族国家における葬儀と日本の影響を把握するため、マレーシアの葬祭業者や墓園業者などの調査を行い、またマレーシア死生学協会と共催で国際研究集会「葬送文化の変容に関する国際比較―日本とマレーシアを中心に―」を開催し、両国のおける死の概念や葬儀産業の役割、専門家教育などについて検討を行った。
著者
大嶋 えり子
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

アルジェリアの植民地支配(1830-1962)と独立戦争(1954-1962)の記憶をフランスの公的機関がどのように扱っているのかを検討した。その結果、移民統合および国民的結合を促進する政策の一環として、これらの記憶を1990年代以降になって公的機関が取り上げるようになったことが明らかになった。一方で、自治体では住民の中での特定の集団を優遇する政策の一環としてアルジェリアに関わる記憶が承認されるようになったことが分かった。
著者
鈴木 大三
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

2年目の平成29年度では,「新たな類似フレーム間予測」や「新たな差分信号適応変換」を実用化するための低演算かつ高効率な基盤技術となり得る手法を実現し,当該分野のトップジャーナルであるIEEE Transactions on Circuits and Systems for Video Technologyに投稿,採択された.具体的には主に以下の2点である.(1)低演算かつ高効率な多次元変換の実現類似フレーム間予測や差分信号適応変換を行うために,高性能な信号解析は不可欠である.しかしそういった多次元信号解析を高性能に行う変換は演算量が増える傾向があり,あまり現実的であるとは言えない.そこで音響符号化標準規格MP3などに用いられる修正離散コサイン変換(MDCT)に注目し,そのMDCTおよびそれに関係する修正サイン変換(MDST)とを2次元信号へ応用する際の関係性を用い,また信号端での処理を周囲画素の平均値を用いることで存在しない方向成分を抑制し,その最小タイリング処理を考慮することにより,低演算かつ高効率に処理を行える多次元変換を実現した.(2)低演算かつ高効率な2次元リフティング構造の実現回転行列の組み合わせによる2次元変換をより低演算かつ高効率で処理できるリフティング構造を新たに提案した.画像符号化標準規格JPEG XRに使用されている重複変換の実現にも応用可能であり,実際にJPEG XRに組み込み,その有用性(低演算かつ高効率で互換性も備えている)を示した.映像符号化においては高速かつ高性能な処理手法が重要であり,この構造も基盤技術として応用が期待される.
著者
加藤 眞義 舩橋 晴俊 正村 俊之 田中 重好 山下 祐介 矢澤 修次郎 原口 弥生 中澤 秀雄 奥野 卓司 荻野 昌弘 小松 丈晃 松本 三和夫 内田 龍史 浅川 達人 高木 竜輔 阿部 晃士 髙橋 準 後藤 範章 山本 薫子 大門 信也 平井 太郎 岩井 紀子 金菱 清
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、東日本大震災のもたらす広範かつ複合的な被害の実態を明らかにし、そこからの復興の道筋をさぐるための総合的な社会学的研究をおこなうための、プラットフォームを構築することである。そのために、(1)理論班、(2)避難住民班、(3)復興班、(4)防災班、(5)エネルギー班、(6)データベース班を設け、「震災問題情報連絡会」および年次報告書『災後の社会学』等による情報交換を行った。
著者
吉田 尚弘 安田 琢和
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

我々が発見したアトピー性皮膚炎モデルマウスの表皮において疾患発症前にキチナーゼ様タンパク質Chi3l1の発現が認められる。そこでChi3l1を表皮で過剰発現したTGマウスを作製すると、尻尾の表皮構造が破壊され、魚鱗癬様の外見を呈した。アトピー性皮膚炎モデルマウスをコンベンショナル環境で飼育すると同様の魚鱗癬様外見を呈した。同皮膚ではTight Junction構成タンパクが発現低下し、この分子が表皮バリア形成に関与することが示唆された。
著者
高田 達之 鳥居 隆三 土屋 英明 木村 博 木本 安彦 細井 美彦 入谷 明
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

本研究は(1)サルES細胞を用いた遺伝子改変技術の確立と(2)そのES細胞由来の遺伝情報を有する産仔を得る、という2つの主目的からなっている。まず(1)の課題に関して、我々は世界に先駆けて遺伝子導入が困難とされたカニクイザルES細胞への蛍光蛋白GFP遺伝子の導入に成功した。そしてこのGFP発現カニクイザルES細胞(GFP-ES)がin vitro, in vivoにおいて内、外、中胚葉に分化し、多分化能を維持していることを明らかにした。さらにGFP-ES細胞を4-6細胞期のカニクイザル正常発生胚に注入すると、割球と混じり合って増殖し、キメラ胚盤胞を作る能力があることを証明した。すなわち目標であったサルES細胞を用いた遺伝子改変技術を確立することができた。さらにこの過程でsiRNAのサルES細胞への効率良い導入方法の開発にも成功し、サルES細胞において容易な遺伝子発現抑制方法を確立することができた。すなわちサルES細胞における遺伝子改変技術として、過剰発現系とその逆の発現抑制という2つの技術を確立することに成功した。次に2番目の課題に関して、このGFP-ES細胞を4-6細胞期の正常発生胚に注入後、レシピエント個体の卵管に移植し、キメラザルの作出を試みた。その結果、4頭の妊娠に成功し、1頭の正常仔の出産に成功した。この個体の皮膚、および血液における、明確なGFPの発現は認められなかったが、ゲノムにおけるGFP遺伝子の存在をPCR法により調べたところ、キメラであることが明らかになった。すなわち世界で初めてES細胞を用いたキメラザルを誕生させることに成功した。以上、本研究の結果、サルES細胞に遺伝子改変を行い、これを用いて遺伝子改変ザルを作製するための細胞工学的、発生工学的方法を開発し、必要な技術基盤を確立することができた。
著者
小林 康
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

これまで解剖学的、あるいは断片的な生理学的知見より脳幹のアセチルコリン作動性ニューロンの核である脚橋被蓋核(PPTN)が報酬に基づく学習や動機付けの形成に必要であることが明らかにされてきた。眼前のいくつかの場所に一定時間、光点を順番に呈示すると、ヒトやサルは光点を一定時間注視し、新しい光点があわわれると、その光点を標的として衝動性眼球運動(サッカード)とよばれる非常に速い眼球運動で視野移動を行う。注視中に新しい標的が現れてからサッカードが起きるまでの反応時間は空間的注意や動機付けと関係していることが良く知られているが、たとえばサルが「どの点に向かって」、あるいは「いつサッカードするのか」ということは誤差信号や報酬による学習によって系統的に修正され得るものと思われる。学習には外部から与えられる誤差信号、報酬と内的状態(報酬や誤差信号の履歴による動物の動機付けや空間的注意)が重要な要素となるはずであるが、これら要素の相互関係は明らかにされていなかった。サルの視覚誘導性サッカード課題において、課題成功後に与えられる報酬量を増加させると課題の成功率が上昇すると同時に課題開始時に点灯する注視点へのサッカードの反応時間が減少すると同時にPPTNニューロンの注視点点灯時の持続的応答が上昇するという実験結果を得た。この反応は課題の遂行度合い〔成功率〕という動機付けや課題に対する注意を反映する指標と密接に関係していると思われる。さらにこれらのニューロンはサッカード運動時や課題後の報酬に対して直接あるいは予測的に反応することを明らかにした。この結果は単一PPTNニューロン上で誤差信号、報酬信号、動機付けに関する情報が収束することを示しており、誤差信号や報酬に基づく学習の際に必要な、異種感覚情報の統合にPPTNを含む神経回路が重要な役割を果たしていることを示していると思われる。
著者
JOYCE T・A
出版者
多摩大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、日本語の単語間の連想関係をマッピングして語彙知識の特徴を検討するものである。そのため、本研究の中心は、大規模日本語連想語データベース(JWAD)の構築を継続している(Joyce,2005a,2005b,2005c,2005d,2005e,2006,2007;Joyce&Miyake,2008)。連想語に関する質問紙調査を行って連想反応を収集し、連想反応の適切さによってコード化して、ターゲット単語に対して集合での延べ数・異なり数を集計するなどのような整理して漣想反応データをJapanese word association databaseの第一版(JWAD-V1)として公開した(Joyce,2005;2006;2007)。JWAD-V1は、反応者の50名、2,099のターゲット単語に対して、合計104,800の連想反応からなっている。複雑な連想ネットワークを明確にすること及び意味空間での階層構造を視覚化することの方法として、本研究は、大規模日本語連想語データベース(JWAD)に基づいた語彙連想マップの作成、または、JWADの連想ネットワーク表象にグラフクラスタリング方法を発展させた(Joyce&Miyake,2007,2008;Miyake&Joyce,2007a,2007b,in press;Miyake,Joyce,Jung,&Akama,2007)。グラフ理論やネットワーク分析結果、JWADの連想ネットワーク表象は、スケールフリーとスパース性の構造的な特徴を持っていることが明らかになった。語彙連想マップの開発にとって、連想反応の集合とグラフクラスタリングから得られる単語のクラスタリングは、有益な比較材料となりうる。語彙マップの発展・応用を検討する研究として、専門語の学習方法におけるバイリンガル語彙マップの有効性を示唆する結果が得られた日本語習得の研究(Joyce,Takano,&Nishina,2006;Takano,Joyce,&Nishina,2006,2007)、日本語辞書編集の研究(Joyce,2005b,2005d,2006;Joyce&Srdanovic,accepted)、日本語文字体系の研究(Joyce,2007)など行った。
著者
阿部 知行
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究ではp進コホモロジー論の基礎理論の構築を主眼として行った.まず,フロベニウス作用を見ればp進微分方程式が復元できるというチェボタレフ稠密性定理を証明し,p進コホモロジー論における重さの理論,及び交叉コホモロジーの純性定理を証明した.これらの結果はp進コホモロジー論とl進コホモロジー論が本質的には同じ情報を持っているというドリーニュによる小同志予想に対する応用を期待している.
著者
阿部 知行
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

関数体上のp進係数理論に対するラングランズ型の対応を構築し,その帰結としてドリーニュの小同志予想を曲線上で解決した.これは,本研究課題の当初からの目標を達成したといえる.この対応の構築により有限体上のコホモロジー理論のp進的解釈が可能となり新しい側面を切り開いたといえる.主定理は曲線上の過収束Fアイソクリスタルと尖点的保型表現の対応であるが,証明では過収束アイソクリスタルの圏では狭いため,数論的D加群と呼ばれるより広い圏で考える必要がある.本研究では数論的D加群の基礎的研究を完成させることによりラングランズ型の対応を得るに至った.
著者
日下田 岳史
出版者
大正大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

第一に、女性の大学教育にかかる事後的収益率の計測を行った。その結果、(1)学歴の主効果が最も高いのが高卒であるということ、(2)短大卒と働き方(ライフコース)との交互作用項は統計的に有意でないということ、(3)大卒と就業継続型のライフコース(育休含む)との交互作用項は統計的に有意であるということ、(4)就業継続型のライフコース(育休含む)の大卒女性の事後的収益率は、調査への回答時点で、1.025%だと推計されるということが、それぞれ明らかとなった。第二に、以上のような女性の経験や認知が、その子供(高校1年生)の認知と希望進路に対して如何なる影響を与えているのか検討するため、実証分析を行った。その結果、(1)母親の学歴や配偶者の年収は、母親が認識する教育上の様々な便益への認知を促し、それが子供に伝播するということ、(2)教育上の様々な便益に関する母子の認知のうち、子供の希望進路に有意な影響を与えるのは、母親のそれのみであるということ、(3)子供の認知が希望進路に影響を及ぼすという構図があるとすれば、それは母親の認知が無視されることによって生じる見かけの相関であるということが、それぞれ明らかとなった。以上の成果は後述の学会発表の形で公開されるともに、博士論文に反映された。第三に、母子を対象とする追跡調査を実施した。実施時期は、子供が高校3年生の3月(すわなち2018年3月)という、卒業後の進路が概ね確定したと思われる頃合いとした。
著者
竹内 俊隆 星野 俊也 ホーキンス ヴァージル 敦賀 和外
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

まず、シンポジウム(小規模およびマローン国連大学長や外務省関係書が参加した国際シンポジウム)を二回開催し、安保理改革の歴史やその停滞などを多角的に論じるなどし、専門家との議論ばかりではなく、一般への広報活動に努めた。また、HPを立ち上げ、随時研究成果を公表した。研究成果に関しては、各分担者の担当分野を主眼とした論文や分担執筆などを活発に行った。また、大阪大学において、大学院向けの科目をあらたに設置し、教育にも努め、その成果の一部として、安保理における投票行動の分類別データベースも作成した。本科研の研究期間以内に、その研究成果を書籍として世に問うつもりであったが、残念ながら間に合わなかった。
著者
小林 雅人
出版者
横浜商科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

いせえび類の中で、わが国で最も多く漁獲されるイセエビ(Panulirus japonicus)の海洋における生活史を理解し、個体群維持機構を解明することを目的として、イセエビ親個体群の生息域からのフィロソーマ幼生の漂流経路、輸送先と分散状況を調査するための漂流ハガキを用いた現場実験(3年間継続)を行った。1. 漂流ハガキの放流実験:一昨年度、昨年度に引き続き、長崎県五島列島福江島の南東、崎山沖において、漂流ハガキを連続して6回(1998年7月1日、6、14、20、27、30日、合計6000枚)放流した。放流点と放流方法は一昨年、昨年と同様である。漂流ハガキは、放流翌日〜195日(五島列島北部)までに380枚、ほぼ全てが海岸に漂着して回収された(回収率6.3%、昨年度に比べ0.3ポイント上昇)。漂着地域は、昨年度同様にほとんどが福江島あるいは五島列島内で、五島列島周辺の海水の滞留傾向が継続していることが示唆された。2. 五島列島南東部でふ化した幼生の行方:本研究を開始した96年度以降3年間にわたり、幼生のふ化時期に放流した漂流ハガキがl年以上経過後も五島列島内の海岸に漂着していることから、五島列島南部の滞留傾向の強い流動環境によって、イセエビ幼生は自らがふ化した沿岸へ回帰する可能性がかなり高いものと考えられる。つまり、この3年間は五島列島南部でふ化した幼生が出生地へ回帰するために都合の良い流動環境であったといえる。今後は、92年にみられた流動環境のように、漂流ハガキが太平洋沿岸へ輸送されやすい状況が生じるメカニズムについて検討して行きたい。
著者
岡部 和代 黒川 隆夫
出版者
京都女子大学短期大学部
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

高精度な人体計測と人体への製品のフィット性が要求される女性用補整下着の領域に新しいデザイン方式を導入するため、乳房形状のモデリング、乳房特性の計測と分析、ブラジャー着用時の形態計測とモデルによる記述、ブラジャー着用前後の形態変化の規則導出、ブラジャー着用シミュレーション手法の開発、ブラジャー型紙の導出手法の開発、ブラジャーの衣服圧測定と感性評価を行った。乳房形状のモデリングには、3次元形状を双3次Bスプラインによってモデル化する手法を利用し、着装シミュレーションなどに応用できるモデルを導いた。このモデルに乳房特性を反映することが実用化のために重要である。そこで、乳房の硬さ指標や乳房振動を求めるとともに、ブラジャーの官能評価や衣服圧分布から、生体の特性とブラジャーとの関係を明かにした。これによって、人間の静態および動態に着目した補整用下着の新しい設計システム開発に一定の方向性を見いだすことができた。