著者
水本 正晴
出版者
北見工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は計700人を超える小学校の児童を主に対象に、認識論における知識の分析で論じられてきたゲティアー例についての質問を行い、その答えと発達心理学における誤信念課題、および独自の信念変化課題の結果との相関を分析することで、子供の知識概念の発達過程を探求するものである。大学生を対象とした調査とも比較した結果、子供の知識概念は最初誤信念の認識能力と深く関係し、次に反事実的状況における信念変化へのsensitivityと関るようになり、その発達は小学校高学年で一応の完成を見るが、状況を想像する能力との関りなどにより成人の段階まで個人差が残るということが明らかになった(またその過程で、日本の子供の誤信念課題のパス率、間接的知識の承認などについて、独立の興味深い事実も明らかになった)。これは、認識論で議論の対象となっている大人の知識概念についての食い違いがどこにあるのかを明確に示すとともに、より「完成された」知識概念がどのようなものであるかについての有力なデータを提供するものである。そこで示唆される知識概念とは、「現実の状況においてどのような情報を得ても変化しない信念」としての知識であり、これは形式的には情報に対して単調な、あるいはsustainableな信念と分析でき、J・ヒンティカの認識論理における分析と結び付けることで形式的な信念変化の理論により真理概念や正当化概念を用いない形式的で厳密な知識の理論として構成できる。こうした経験的データと形式的分析を総合した結果は、A Theory of Knowledge and Belief Change-Formal and Experimental Perspective(Hokkaido University Press)として出版された。
著者
中島 裕夫 斎藤 直 本行 忠志
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

チェルノブイリ原発事故以来、低レベル放射能汚染地域に生活するヒトへの遺伝的影響が懸念されている。ヒトへの影響研究の代替法として放射能汚染地のシミュレーション実験を行い、0、10、100Bq/mlの^<137>CsCl水を8カ月間給水し続ける低レベル放射能汚染環境下での内部、外部被曝マウスにおける腫瘍形成性とゲノムストレスへの影響を検討した。その結果、10、100Bq/ml各群で遺伝子切断頻度は有意に上昇したが、小核試験、ウレタン誘発による肺腫瘍発生頻度、増殖速度では、対照群との間に有意な差が認められなかった。
著者
渡部 守義 新家 富雄 服部 真人
出版者
明石工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

テッポウエビは世界中の海域に普遍的に分布し、独特のパルス音を終始発する発音生物である。海域において、何らかの環境変化によりテッポウエビ類の生息数が変化した場合、水中録音によりその発音数の変化を調査するだけで、その影響を知ることができる。本研究では、テッポウエビの発音数を誰でも簡易に計測するため観測機器を開発した。
著者
大平 哲也 磯 博康 谷川 武 今野 弘規
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

心理的因子と生活習慣、炎症、代謝異常、自律神経機能との関連を地域住民・職域にて検討した結果、身体活動が少ないこと、勤務時間が50時間以上/週であること、睡眠時間が6時間未満であることなどが3年後のうつ症状の出現と関連した。また、ストレスフルなライフイベント、怒り、慢性疲労、将来の希望の欠如などの心理的因子は炎症、代謝異常、自律神経機能と関連した。したがって、心理的因子は炎症・代謝異常・自律神経機能を介して循環器疾患のリスクの上昇と関連することが示唆された。
著者
尾本 恵市 袁 乂だ はお 露萍 杜 若甫 針原 伸二 斎藤 成也 平井 百樹 YUAN Yida HAO Luping 袁 いーだ 〓 露萍 三澤 章吾
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

本研究は、中国東北部の内蒙古自治区および黒竜江省の少数民族であるエヴェンキ族、オロチョン族ならびにダウ-ル族の集団の遺伝標識を調査し、中国の他の集団や日本人集団との間の系統的関係を推定しようとするものである。このため、平成2年度には予備調査として各集団の分布状態や生活の概要、ならびに採血の候補地の選定などを行い、平成3年度に採血および遺伝標識の検査を実施する計画をたてた。平成2年度には、まず内蒙古自治区のハイラル付近にてエヴェンキ族の民族学的調査を実施した。エヴェンキ族は元来シベリアのバイカル湖の東側にいたが南下し、南蒙古自治区に分布するようになったといわれる。本来はトナカイの牧畜と狩猟を生紀テント生活をしていたが、現在では大部分は村落に定住し農耕を行っている。われわれは、さらに北上してソ連との国境に近いマングイ地区にて未だ伝統的な狩猟とトナカイ牧畜の生活をしているエヴェンキ族の民族学的調査をした。次いで、大興安嶺山脈の東側のオロチョン族の村落をたずね、民族学的調査を実施した。オロチョン族は大興安嶺北部および東部に散在して分布し、人口はわずかに約3千2百人(1978年)である。元来は狩猟と漁労を生業としていたが、現在では村落に定住し、農耕を行っている。エヴェンキとオロチョンの身体的特徴としては平坦な丸顔、細い眼、貧毛などの寒冷適応形態をあげることができる。われわれは、さらに、黒竜江省との境界に近いモリダワ地区にてダウ-ル族の民族学的調査を行った。ダウ-ル族はエヴェンキやオロチョンと異なり、それほど頬骨が張っていず、かなり系統の異なる集団であるとの印象を受けた。日本隊の帰国後、中国側の分担研究者により、ダウ-ル族150名の採血が実施され、遺伝標識(血液型9種、赤血球酵素型8種、血清タンパク型4種)の検査もなされた。平成3年度には、ハイラル市の近くの民族学校にてエヴェンキ族の117検体を採血し、またオロチョン族については内蒙古自治区のオロチョン旗(アリホ-)および黒竜江省の黒河の近郊にて81検体を採血した。これらの試料につき、血液型10種、赤血球酵素型6種、血清タンパク型3種の型査を行い、18の遺伝子座に遺伝的多型を認めた。個々の多型の検査結果のうち、特に注目すべき点は次の通りである。Kell血液型では、エヴェンキではK遺伝子は見られなかったが、オロチョンではごく低頻度(0.006)ではあるがK遺伝子が発見された。この遺伝子はコ-カソイドの標識遺伝子であり、モンゴロイドでは一般に欠如している。今回の結果は、オロチョンの集団にかつてコ-カソイド(おそらくロシア人)からの遺伝子流入があったことを示す。同様のことは、赤血球酵素のアデニル酸キナ-ゼのAK*2遺伝子に見られた。この遺伝子もコ-カソイドの標識遺伝子であるが、エヴェンキに低頻度(0.009)ではあるが発見された。また、血清タンパクのGC型のまれな遺伝子1A2がオロチョンで0.012という頻度で発見されたことも興味深い。この遺伝子は始め日本人で発見されGcーJapanと呼ばれていたもので、従来、朝鮮人には見られるが、中国の集団からは発見されなかった。したがって、この遺伝子の分布中心は東北シベリア方面である可能性が示唆された。これらの遺伝子の頻度デ-タにもとづき根井の遺伝距離を算出し、UPGMA法および近隣結合法により類縁図を作成した。比較したのは中国の少数民族6集団および日本の3集団(アイヌ、和人、沖縄人)である。日本人(和人)に最も近縁なのは朝鮮人であり、ついでダウ-ル族およびモンゴル族がこれに続く。このことは、日本人(和人)の形成に際し朝鮮からの渡来人の影響が大であったことを物語る。エヴェンキとオロチョンとはひとつのクラスタ-を形成するので、互いに近い系統関係にあると考えられる。しかし、両集団共日本の3集団とはかなり遠い系統関係にあることが明らかとなった。
著者
只木 良也 沖野 外輝夫 青木 淳一 斎藤 隆史 萩原 秋男
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

1.名古屋市内やその周辺の二次林について、リターフォールの季節変化、構成樹種の葉緑素の充実と成長、フェノロジー、現存量などの調査。その生産力が、貧立地にもかかわらず予想外に大きいことを確認した。名古屋市近郊里山の具体的な保全利用計画立案に参画した。(只木)2.都市樹林地で、その活動による土壌気相中のCO_2濃度の垂直分布を調べ、樹林地の環境保全効果の実態を解明した。また、外気のCO_2濃度に応じた樹木のガス交換能力、すなわち光合成、呼吸、体内蓄積(成長)などの挙動を実験的に検討し、樹木や森林の存在と空中水分の関係についても実測した。(萩原)3.都市域と里山で、鳥類の種構成、個体数の相対出現頻度および両地区の類似度を比較した。都市域の鳥類相の大部分は、里山の鳥類相に起源を持ち、都市鳥類化は、里山→農村域→都市域の順に生じたと考えられる。これを確認するためには、さらに農村域の鳥類相を調査する必要がある。(斎藤)4.都市域およびその周辺域の緑地において、豊かな自然を維持するために土壌表層の管理が重要であるが、千葉・神奈川・東京の3都県下の緑地における65地点において「自然の豊かさ」の評価を行った。その結果、評価点は自然樹林地で高く、次いで人工林や竹林、草地では評価点は低かった。(青木)5.ヨシ原実験圃場での生物群集の変遷と水質の変化について追跡調査。植物相のみならず、実験圃場に飛来する昆虫類の季節的変化も観測した。諏訪湖湖畔の再自然化計画の立案にも参画。ヨシ原実験圃場その他の研究成果を生かして、湖内に生育する水生生物の視点からの造成計画を進めた。(沖野)6.過去3年間の研究成果を踏まえて、人工集中域の自然や緑地の望ましい姿を討議し、各人の研究成果とともに研究成果報告書(「人間地球系重点領域研究B008-EK23-18」)を刊行した。(全員)
著者
西村 清和 尼ヶ崎 彬 長野 順子 相澤 照明 山田 忠彰 中川 真 渡辺 裕 津上 英輔 青木 孝夫 外山 紀久子 大石 昌史 小田部 胤久 安西 信一 椎原 伸博 上村 博 木村 建哉 上石 学 喜屋武 盛也 東口 豊 太田 峰夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究は従来自然美論、風景論、環境美学、都市美学という評語のもとで考えられてきたさまざまな具体的、個別的諸問題領域を、日常生活の場において企てられたさまざまな美的実践としてとらえなおし、あらたな理論化を目指すものである。具体的には風景、都市景観、森林、公園、庭園、人工地盤、観光、映画ロケ地、遊芸、雨(天候)、清掃アートなど多様な現象をとりあげて分析し、その成果を『日常性の環境美学』(勁草書房、2012)として刊行した。
著者
落合 雄彦
出版者
龍谷大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

瘻孔(フィスチュラ)とは、身体の組織器官などに形成される、通常みられない穴や管のことを意味し、産科瘻孔とは、主に遷延分娩(難産)に起因して形成される、女性器、特に膣の瘻孔をいう。帝王切開といった適切な医療サービスを受けられないことが多いアフリカの農村部では、遷延分娩が生じた場合、その母胎では、産道に詰まった児の頭部が母の骨盤を強く圧迫し、膀胱や膣といった周辺組織器官への血液の循環を長時間にわたって阻害し続ける状況がしばしば生じる。その場合、児はやがて死産となるものの、女性の体内では血流阻害による組織の壊死部分が拡大し、膣にフィスチュラが形成される。そして、このようにフィスチュラが形成されると、尿や便が膣へとたえず流入し、膣口から漏出する症状がみられるようになり、このためにフィスチュラの女性は、夫、家族、親類、隣人から差別され、次第に孤立し、最終的には離縁されることが多い。このようにアフリカのフィスチュラ問題とは、単なる「生物医学的な疾患」にとどまらず、ジェンダー、家族、医療、ガバナンス、権力関係などをめぐるアフリカ社会の諸問題が複雑に影響し合うことで生み出される「社会的な病理現象」にほかならない。それは、心理的抑圧、精神的疎外、政府の対応の不十分さなどが凝縮した、アフリカ人女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツを考える上で看過できない重要な研究課題である。今回、当該研究では、ナイジェリアに焦点をあて、同国におけるフィスチュラという「疾患」の疫学的分析とそれに起因する「問題」の社会的調査研究を実施した。まず、平成16年7〜8月、当該研究の海外研究協力者であるOlubomi Ogedengbe氏(ラゴス大学医学部教授)を日本に招聘し、産科瘻孔を含むナイジェリアのリプロダクティブ・ヘルスをテーマとしたセミナーを龍谷大学(京都)で開催した。また、その際、ナイジェリア現地調査の打ち合わせ会合をもった。そして、同年8〜9月にナイジェリアのラゴスやカノで現地調査を実施した。特に、カノのムルタラ・ムハマッド病院にある産科瘻孔専門治療センターでは、Kees Waaldijk氏(ナイジェリア唯一の連邦政府雇用フィスチュラ治療専門医)の協力のもと、産科瘻孔患者の女性や家族への聞き取り調査を実施するとともに、産科瘻孔の回復手術にも直接立ち会った。また、同市にある産科瘻孔患者のためのホステルも訪れ、入所者やソーシャル・ワーカーに対してニーズ調査を実施した。帰国後、ナイジェリアで蒐集した資料や聞き取り調査記録などを整理・分析し、ナイジェリア人医師2名とともにナイジェリアのリプロダクティブ・ヘルスに関する英文論文を執筆した。また、平成17年5月に開催される日本アフリカ学会学術大会においてナイジェリアの産科瘻孔に関する口頭発表を行う予定である。
著者
竹本 幹夫
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究においては、ポスト世阿弥時代(1441年頃〜応仁の乱_<1467>以前)における能の作風と作者について研究・調査を行った。同時代の作者とその作品、および作者不明の作品群につき、そのテキストを収集し、データベース化する一方で、それらを利用して作品研究を行った。作品研究としての成果は、世阿弥風の幽玄能とは正反対の作風について、武士の戦闘を描く能を中心に検討したことと、能作者宮増の網羅的な作品研究を行ったことである。武士の登場する能は、実は世阿弥以前から少なからず存在していたが、世阿弥の新作活動が活発化するに及んで、制作例が一時的に減少した。しかしポスト世阿弥時代になると、再び活発化し、多くの点で古風な面を残した、武士同士の戦闘を描く現在能が次々に制作された。それらの作品は、酒宴の場面で歌舞を演じる設定があること、美しい少年(稚児)の活躍する場面があること、戦闘描写に類型的な共通表現があること、などが特色である。宮増はながらく謎の作者とされていた。しかし今回の研究で、ポスト世阿弥時代に活躍した伊勢猿楽出身の能大夫で、伊勢国下楠に住み、伊勢・大和を中心に活動していたらしいことがほぼ明らかになり、大和猿楽観世座に鼓役者として雇われ、寛正六年二月に横死した宮増二郎五郎がそれであろうと特定できる可能性が出てきた。宮増の作品は『能本作者註文』に十曲が掲げられ、記事の信憑性が問題視されていたが、今回検討したところでは、その多くが夢幻能の様式を具えながら、現在能的手法で制作されるという特色が共通しており、宮増の作風についてまったく新しいイメージが想定可能である。この研究は現在未完ながら、今年度内には完成させたい。
著者
宮井 里佳 落合 俊典 本井 牧子
出版者
埼玉工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

中国北朝後半期の道紀撰『金蔵論』は、中国、西域、日本に広く伝播した形跡のある重要な書物である。しかし早くに失われ、昭和初期に日本古写本の存在が報告されるまで、忘れ去られた存在であった。我々は、仏教学的見地から北朝後半期の仏教の様相を伝える貴重な書として、また国文学的見地から『今昔物語集』など日本説話文学に影響を与えた書として、『金蔵論』をはじめて総合的に研究することをめざした。時をほぼ同じくして、敦煌写本中に『金蔵論』の断片があることが報告され、我々も新たに敦煌写本中の『金蔵論』を数点見出した。これらと、日本伝存の興福寺蔵日本霊異記紙背書写の巻六、および大谷大学蔵(旧法隆寺蔵)長承三(1134)年奥書写本「衆経要集金蔵論」巻一・巻二合本とについて、できる限り実見調査を行った。同時に、現存『金蔵論』本文について、諸本を校勘し、かつ原拠や仏教類書ならびに『今昔物語集』などと比較検討して解読を進め、翻刻・校訂本文ならびに訳注を一通り作成した。こうして『金蔵論』巻一、五、六のほぼ全容を明らかにし、『金蔵論』の全体像に対する考察を深めることができた。その結果、大谷大学蔵写本巻二の問題点が明らかとなった。また『金蔵論』は仏教類書と類似した形式を持ちながら、類書とは異なる編纂意識に基づくものとして、それをいかに位置づけるかが新たな課題として浮かび上がった。また、『今昔物語集』などの日本仏教文学における『金蔵論』の影響がいっそう明らかになり、『今昔物語集』の編纂過程、また『今昔物語集』編者の意図を推測する手がかりを得ることができた。報告書においては、研究現況、『金蔵論』現存諸本の解題、および敦煌本の翻刻(巻五、六に相当)を掲載した。現在、大谷大学蔵写本における朱や墨で付された訓点の解読を進めており、すべての成果を影印・翻刻とともに近日公刊する予定である。
著者
樋爪 誠
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

2002年7月に知的財産戦略会議の手により、「知的財産国家戦略大綱」がまとめられ、同11月には「知的財産基本法」(平成14年法律第122号)が日の目をみた(12月4日公布)。知的財産権への包括的な取組が新世紀日本の根幹をなすことが改めて承認された。国レベルの動きと並走して、企業や個人による知的財産を巡る訟争は質量ともに増加の一途をたどり、「パテント・コート」構想が急速に展開している。従来、知的財産権は工業所有権を中心に、産業政策上の制度としての色彩が強調され、それを最も具現する「属地主義」を基本に議論が展開されてきた。しかし、近時の動向は「財産権」としての知的財産権(最小平成14年9月26日判決)の普遍性が今後より重要であることを示唆している。「保護国法」を軸にした体系化が、知的財産法制の安定・発展には必須の課題であるとの結論に至った。知的財産権の資産価値の増加は、他の法分野との関係・抵触を増加させている。とりわけ、伝統的に知的財産権と同じく「属地主義」の原則が支配するとされてきた破産法(とりわけ「外国倒産処理手続の承認援助に関する法律」施行以前)および税法との関係は、従来あまり検討されてこなかった。重層的な属地主義とも言うべき様相が、学際的な研究を阻んできたのではなかったか。そこで、保護国法を軸とする国際知的財産法の視点から、国際知的財産をめぐる破産法や税法上の問題を検討することによって、この分野の新たなビジネスモデルを呈示できないかと考え、検討を進めてきた。結論としては、上記諸法なかでも近時属地主義緩和の傾向にある破産法との関係においては、知的財産権の価値を普遍的に捉えることにより、破産債権者の保護等により資することが明らかとなった。
著者
河野 孝央
出版者
核融合科学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

自然の放射性同位元素を含む材料をもとに製作した自然放射能線源を用いて「30 分測定実 習」法を開発した。この方法を円滑に進めるため、線源スタンドやデータシートを作成し、放 射線業務従事者の新規教育や、家庭教育に適用して、有効性を確認した。さらに高校生を対象 にした放射線教育では、分担測定法を併用して「30 分測定実習」法を適用した結果、分担測定 法には受講生の積極的な参加を促すなど、有用な教育効果のあることが分かった。
著者
山内 祐平
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本年度の研究では、昨年度にひきつづき、日本のメディアリテラシー教育に歴史的に特徴として見られるメディア制作活動と最近になって概念に導入された批評する活動の関係に関するモデル化を行った。特に、日本民間放送協会と東京大学大学院情報学環MELL Projectで行われた実践を中心にモデル化と分析を行った。「民放連プロジェクト」は、送り手と受け手が放送メディアを学び合う、新しい場を地域社会の中に作っていくことを目的としている。今年は、昨年度に引き続き、長野県と愛知県でパイロット研究を進めるとともに、宮城県、福岡県でも実践を行った。長野県は、テレビ信州と同県でメディアリテラシー教育を推進している林直哉・梓川高校教諭を中心とする各地の中学、高校で共同研究を行っている。愛知県は、東海テレビ放送と清水宣隆教諭をはじめとする私立春日丘中学・高校で実践が行われた。宮城県では東日本放送とせんだいメディアテーク、南方町ジュニアリーダーの協力体制の元生中継番組が制作された。福岡県では、RKB毎日放送と子どもとメディア研究会、台湾政治大学附属小学校の間で国際交流学習が行われた。今年の研究では、長野の実践を、メディア・リテラシーに取り組むリーダー(学校教師、子供たちのリーダーなど)を養成するためのプランとして、愛知の実践を地域に根ざした活動を定着させるためのプランとして、宮城の実践を社会教育に開かれたモデルとして、福岡の実践を教育NPOに開かれたモデルとして位置づけて、モデル化を行った。
著者
洪 ゆん伸 (2007) 洪 ユン伸 (2006)
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

申請者は、日韓関係における「ナショナリズム」を考察するため、「沖縄」に注目してきた。特に、沖縄と韓国における「女性」の表象と国民国家の関係を、その構造的側面が顕著に現れる戦時や占領状況から、具体的な歴史分析と国際関係理論の接点を通して考えてきた。本研究の意図は、日本と韓国におけるナショナリズムの問題を、世界システムのなかで最もミクロな認識的アプローチを通し考える領域たる、「ナショナリズム」と「占領」との関係を検証することにある。既存の研究において沖縄と韓国の軍政関係の比較研究は行われていないために、両地域における軍政関係の関係性は、特に安全保障のアクターとして国家を設定した研究では十分に検討できなかったのが現状である。申請者は、軍政関係の比較研究における「軍政と住民」を基本スタンスとし、「軍政」(占領)概念を、「行為主体」として「国家が持つ脆弱性」として再定義した。このような「占領」概念を最も顕在的に論じるため申請者が注目したのが、沖縄における女性体験である。特に、「従軍慰安婦」や「辻遊郭(「売春婦」)の事例を用いて分析を行ってきた。本研究の分析方法は、次のような三つの方向性を持って行われた。第一、「慰安を与える女性とナショナリズム」。第二、「売買春の歴史的考察と『聞き取り』の位置-被害者の証言の主体と客体」、第三、「占領の再定義」がそれである。第一の方向性は日本軍と米軍による性サービスの場を歴史的に位置づけるものである。第二は、ジェンダー理論の中で具体化した。さらに、第三では、歴史学とジェンダーの接点を追求した。このような方向性を持った研究を通し最終的に「占領」概念を再定義した。本研究は、占領下の女性体験というものがある土地に住んでいる住民にいかなる影響を与えたのかを捉える点で、今なお続いている戦争に普遍的な価値判断を与えるものである。また、日本軍占領から米軍占領へと変る過程で総力戦における戦闘員から非戦闘員として変貌している住民の姿を、新たな占領概念から位置づけた点においては、沖縄学に新しい視点を提示するものである。
著者
古谷 毅
出版者
独立行政法人国立博物館東京国立博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

高い技術的専門性が要求される形象埴輪を樹立する古墳は、古墳時代前半期に近畿地方から各地方に急速に拡大したが、その背景には埴輪工人(製作技術者)の派遣を伴う埴輪生産を想定することができる。このような古墳は古墳時代中期に関わる前期末(4世紀後半〜末)頃と中期中(5世紀前半〜中)頃、および中期末(5世紀後半〜末)頃に集中している。研究期間の3ヶ年で、各地方で形象埴輪を樹立する当該期の主要古墳出土資料の調査を実施した。調査対象は福岡県沖出古墳・鋤先古墳、熊本県向野田古墳・天水小塚古墳、大分県亀塚古墳・御陵古墳、山口県柳井茶臼山古墳、広島県三ッ城古墳・三玉大塚古墳、岡山県天狗山古墳・金蔵山古墳・西山古墳群、愛媛県鶴ヶ峠古墳群・妙見山古墳、大阪府五手冶古墳、奈良県室宮山古墳・石見遺跡、和歌山県車駕之古址古墳、京都府私市円山古墳、滋賀県野洲大塚山古墳、岐阜県昼飯大塚古墳、三重県宝塚1号墳、長野県倉科将軍塚古墳・天神山1号墳、山形県菅沢2号墳、岩手県角塚古墳出土埴輪などである。調査に際しては、福岡・熊本・大分・山口・広島・岡山・愛媛・大坂・京都・奈良・和歌山・滋賀・岐阜・三重・静岡・長野・群馬・山形・岩手の各府県在住の古墳研究者を研究協力者として依頼し、実測・撮影などの資料調査を行ったほか、関連資料の調査および文献収集も実施した。また、各地方で研究協力者と埴輪生産の技術交流と古墳文化の伝播をテーマとした研究会を実施し、当該期首長層の古墳築造に関する技術交流からみた政治的関係について検討した。このほか、大学院生を研究補助として、写真・図面などの調査資料と文献資料の整理を進め、東京国立博物館蔵の宮崎県西都原古墳群、群馬県赤堀茶臼山古墳・奈良県石見遺跡出土資料などの接合・分類と実測も実施した。
著者
後藤 仁志 関野 秀男 墨 智成 市川 周一
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は大きく分けて(1)マルチ分子オブジェクト法のための分子計算プラットフォームの構築、(2)階層化分子シミュレーションのための分子計算技術の開発、(3)不均一計算タスクの負荷分散アルゴリズムの開発、の3つの部分からなる。それぞれに関する研究実績の概要を以下に示す。(1)マルチ分子オブジェクト法による並列化効率と計算精度の向上を目指し,大規模系の結晶シミュレーション技術の開発を行った。その結果,分子間相互作用エネルギー和で14桁までの精度保障を実現すると伴に,およそ4億原子で構成された直径0.1μmもの分子性結晶計算に成功した.また、実用化レベルで結晶多形間の相転移シミュレーションによる熱力学解析法の開発に成功した.(2)マルチウェーブレット基底を用いたTDHF/TDDFT時間依存シュレディンガー方程式の解法や超分極率の算定法などの開発を行なった.これらは,現時点では大規模系への適用は容易ではないが,今後,不均一系に対する密度汎関数理論の開発へ展開することが大いに期待できる結果となった.(3)分子シミュレーションの計算タスクに対して演算性能が不十分なヘテロ分散計算環境では,実践的な負荷分散アルゴリズムは困難であることが分かった.そこで,分子シミュレーションに利用されることが多いマルチコアCPUをクラスター化したヘテロ分散環境を想定し,マルチコア/マルチスレッドシステムの負荷分散アルゴリズムめ開発に着手した.
著者
三浦 要
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

哲学のあり方という根本的な部分で対比されるプラトン(ソクラテス)とソクラテス以前は、その思索のあらゆる点において対立するわけではないし、むしろ、プラトン独自の哲学観の枠内で積極的に受容されることにより、その哲学の形成において非常に大きな影響を与えており、また、たとえ対立するとしても、その対立自体が今度はプラトンの新たな思索の形成の契機となっている。例えば、継承という点で言えば、何よりもまずエレアのパルメニデスを挙げなければならないだろう。プラトンは彼を父親と呼び、真理と思わくの二分法や、真実在についての概念など、彼に多くのものを負っているし、後期対話篇では彼との対話を試みている。そこでは「父親殺し」と称される有論が展開されているが、それは決して「父親」の教説を全否定するものではなく、むしろプラトンの有論の揺るぐことのない基盤となっているのである。また、プラトンの認識論における知性と感覚(そして真理と思わく)は、言うまでもなくプラトンにおいて初めて明確に表明された対立概念ではない。むしろ、クセノパネス以後の認識論の展開の中で、慣習的通念や経験の曖昧さ(その対局には神的知識が想定されている)が徐々に自覚され、ピロラオス、そして原子論者のデモクリトスにおいてようやく明確な形で価値的に峻別されることになったのであり、プラトンの感覚と知性に対する見解はその延長線上にあるのである。さらにまた、アナクサゴラスの自然学がプラトンの魂や分有概念に与えた影響も見逃せない。このように、プラトン哲学の基底においてソクラテス以前哲学者は、肯定的な形であれ、否定的な形であれ、きわめて重大な要素をなしているのである。
著者
大須 眞治
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

長野県伊那市の2つの農業集落の農家実態調査を行った。これらの農業集落については、すでに1977年と1989年の2回、同様の実態調査を行っており、今回は3回目になる。調査により各農家の農業経営の状況、世帯員の農業及び兼業の就業状況、社会保障の状況などについて、これまで行ってきた調査結果と、比較検討し、この間の変化の状況を明かにした。その結果、農業経営の長期的な衰退状況に大きな変化はないが、農家世帯員の就業状況についてこれまでと異なった動きが微妙に出ていることが確認された。この動きは、農外の就業状況に関連して起こっている。長期にわたる経済の停滞、深刻な失業状況が「農村地域労働市場」に「溶解」現象といわれるものを起こさせてきている。これまで「農村地域労働市場」は、一定の地域的な完結性を持っていたが、それに緩みが生まれてきた。農家世帯員の就業状況、農業経営の状況を詳細に跡付けして、これらの変化の意味、変化の程度を解明し、秤量した。「農村地域労働力市場」は、農家から農外へ労働力の流出局面が前面に出ていたが、それがわずかに弱化し、相対的に労働力の還流側面が強くなってきている。これは、農業経営を活性化させる契機としてどの程度の有効性を持つか調査分析し、また、農村が果たす失業の緩衝機能について、今日どの程度の機能を残しているかについても調査分析することができた。最後に、こうした農村に生じている新しい動きについて、農業インターン研修生及び「農業退職者の会」の実態調査を行い、新しい動きが農業生産の担い手層確保について有効性と限界について実証分析を行って、農村が今後どのように変化していくかについて農村就業者の実態分析から明かにすることができた。
著者
佐伯 聰夫 阿部 生雄 菊 幸一 仲澤 眞 矢島 ますみ 生沼 芳弘 上杉 正幸 米谷 正造
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

平成15年度研究において、我々はEU化の変動の中で先進的な企業経営を行っているドイツ及びフランスのゲルマン系トップ企業を訪問し、経営とスポーツ支援に関わる責任者を中心としたインタビュー調査を実施した。同様に、平成16年度には、イタリアとスペインのラテン系トップ企業を、17年度には、米国と英国のアングルサクソン系企業を対象としたインタビュー調査を実施した。また、これに対応して、支援を受けるスポーツクラブやNOC等のスポーツ団体の調査も実施した。この間、平行して、日本において伝統的にスポーツ支援に積極的に取り組み、また、企業スポーツを展開している新日鐵等の素材企業、トヨタや日産等の自動車産業、NECや松下等の家電企業、サントリーやキリン等の飲食産業、東電や東京ガス等のエネルギー産業等の一流企業を対象とした企業経営とスポーツ支援についてのインタビュー調査を実施した。関連資料の収集・分析とこうしたインタビュー調査の結果から、以下のような結論を得た。欧米の企業は、経済環境のグローバル化と企業の社会的責任論の進展の中におけるメディアとしてのスポーツの価値を認識し、企業と市民社会とのコミュニケーションメディアとしてスポーツを活用するために、スポーツ支援を経営戦略の一環として展開している。一方、日本の企業の場合は、長期経済不況から脱したものの、なお、積極的経営に留保しており、スポーツ支援、特に企業巣スポーツについては、企業忠誠心や労働モラールの高揚のために、またスポーツスポンサードについては、マーケティングの一環として展開している状況が見られた。しかし、環境と共生という21世紀世界課題に対応する形で、企業の社会的責任がグローバルスタンダードとなる現代、日本企業にも社会的責任論に立つ企業経営が求められている。従って我が国では、企業が、市民社会とのコミュニケーションメディアとして最強であるスポーツを、経営資源として戦略的に活用することが求められている。こうした視点から、日本企業の固有資源としての企業スポーツを、1.スポーツ文化の発展を担うプロスポーツ化2.地域社会貢献を担う地域クラブ化3.職域・職場の人間化を担う福祉化の3つを、日本企業が所有するスポーツ資源を、成熟型企業経営における経営戦略的活用のモデルとして開発し、提案する。