著者
鈴木 幸一 御領 政信 品田 哲郎 寺山 靖夫 吉岡 芳親 高橋 智
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2011-04-01

カイコ冬虫夏草ハナサナギタケの熱水抽出物から同定した新規の生物活性分子は、マウス海馬に発生したアストログリオーシス(神経膠症)修復の最有力候補であり、その分子メカニズムを解明することでヒトへの応用開発を進めた。その結果、培養アストロサイトに新規生物活性因子を添加することで、神経成長因子と神経成長因子誘導体の遺伝子が発現し、さらに神経初代細胞への効果として神経突起形成を誘導した。このin vitroの分子機構に基づいて、老化促進マウスの脳機能は向上し、ヒトのアルツハイマー型認知症患者の前臨床試験でも改善効果が確認され、新しい機能性食品と医薬品候補を提案した。
著者
郭 基煥 曹 慶鎬 兪 キョン蘭
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は、被災地に暮らす外国出身者が震災後にどのような状況に置かれていたのかをトータルに把握することである。調査で明らかになった主な点は、次の通りである。①多くの外国出身者が被災直後においては支援されつつも、支援する側に回っていたこと、②震災という共通の経験を持つことで地域に対する一体感が強まった考えられる事例が多数みられること。③その一方で被災地では、外国人が犯罪をしているという流言が広範に広がっていたこと。④流言を聞いた人のうちの8割以上の人がそれを信じたこと、⑤流言を信じるか信じないかという態度の差は地域や性別、収入、職業などとほとんど無関係であることである。
著者
小峯 敦 藤田 菜々子 牧野 邦昭 古家 弘幸 橋本 努 原田 太津男 堂目 卓生
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、3つの時代と2つの国(および全世界)という特徴的な時期・国に焦点を当て、「戦争・平和と経済学」の複雑な関係を歴史的・思想的に精査することで、「経済学は戦争を回避し平和を構築することに貢献できるのか」という根源的な問いに回答する。初年度に続き、二年目はこの共同研究を軌道に乗せ、特に、(a))学術雑誌(英語)の「戦争と平和の経済思想」シリーズを特集させること、(b)近隣の社会科学者や政策担当者に開かれた形で、日本語による専門書・啓蒙書を編纂すること、という二点を推進した。その具体例として、(a)学術雑誌History of Economic Thoughtにおいて、War and Economicsというシリーズを2017年度中に3回連載し、研究分担者・連携研究者による3本の英語論文を掲載した。また、(b)いくつかの出版社と交渉し、『戦争と平和の経済思想』(晃洋書房、2018年度後期に出版予定)として出版するべく、11人による原稿を集め、草稿を検討する研究会も行った。2017年度における最大の実績は、Fabio Masini (the University of Roma Tre, Italy) とMaria Paganelli (Trinity University, USA)という研究者を招き、2日間に渡り、広島修道大学で国際会議を開催したことである(2017.9.4-5)。平和記念館の資料にもアクセスできたことは大きな収穫であった。二番目の実績は、経済学史学会・全国大会で、スミス研究の世界的権威Nicholoas Phillipsonの招待講演を実現したことである。特に、現実主義的な側面をスコットランド啓蒙研究の立場から、一般会員にも平易に講演された。
著者
田中 眞奈子 原田 一敏 星野 真人
出版者
昭和女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、研究代表者らがこれまで確立してきた放射光X線を用いた鉄鋼文化財の非破壊分析技術を日本刀の作刀技法の解明のために応用し、刀剣の専門家や博物館、放射光分析の専門家他と学際的な研究グループを組織し、作者や流派、時代に焦点を絞り5年間で120振を超える価値ある日本刀を体系的に分析することで最終的に日本刀の黄金時代と言われる鎌倉中期の作刀技術を解明する。
著者
大谷 由香 師 茂樹 小野嶋 祥雄 河上 麻由子 榎本 渉 吉田 慈順 野呂 靖 村上 明也 西谷 功
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

「唐決」とよばれる日中間を往来した仏教の教義に関する書簡を中心とし、国や地域、文化を越えた仏教教義の問答内容と歴史的背景の分析を通じて、「仏教東漸」とは異なる東アジア仏教の相互交流の実態を明らかにする。本研究では、地域・時代・分野を別とする仏教学者と、対外交流史を専門とする歴史学者が共同研究を行う。これによって学術分野を超えた東アジア仏教史全体を俯瞰するための新たな視点の獲得を目指す。
著者
倉恒 弘彦 西牧 真里 志水 彰
出版者
関西福祉科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

不登校児を対象に馬介在療法を実施、(1)自覚症状、(2)心理学的評価、(3)自律神経系評価、(4)睡眠、覚醒リズムの評価などによって科学的に効果を検討した。また、精神作業疲労負荷健常者における乗馬の疲労回復効果を検証するとともに、有酸素運動や馬の常歩(なみあし)運動の動きをするジョーバ(松下電工)による疲労回復効果についても比較検討した。不登校児を対象に1回/週x5週間で実施した12名の馬介在療法の結果では、気分の落ち込み、イライラ感、不安感、緊張に明らかな改善がみられた(p<0.001)。心理評価では、以前に比較して表情が明るくなる、家庭での会話が増える、日常生活における行動量が増加するなどメンタルヘルスの向上が認められた。また、自律神経系評価では乗馬後は交感神経系の緊張が緩和していることが確認された。一方、5日間連続の馬介在療法に参加した3名の不登校児においても、初日の結果では乗馬後自律神経系の緊張が緩和される傾向がみられた。残念ながら、5日間連続して参加が可能であったのは1名のみであったが、睡眠に関して中途覚醒数が減少し睡眠効率の改善が認められた。疲労付加健常者の検討では、有酸素運動(散歩)群でも疲労度、活力、緊張、意欲の改善効果がみられたが、乗馬群は疲労度、気分の落ち込み、イライラ感、活力、不安感、緊張、意欲、体調において有意に改善がみられ、乗馬は有酸素運動以上の改善効果がみられることが判明した。また、馬の常歩(なみあし)運動の動きをするジョーバ(松下電工)の検討では、活力、不安感、緊張の自覚症状は乗馬群のみで改善がみられたが(p<0.01)、気分の落ち込み、イライラ感、意欲の程度、体調はジョーバでも改善がみとめられ(p<0.01)、自宅から出ることが難しい不登校児に対する1つの方法になりえる可能性が考えられた。
著者
須田 努
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

後期水戸学、会沢正志斎の思想との関連、横井小楠との相違から吉田松陰の独自の行動原理を解明した。解収集した史料分析を行い、吉田松陰が征韓論を形成するに至る経過を考察した。この成果は、成均館大学校におけるシンポジウムで報告を行い、「横井小楠と吉田松陰」(趙景達他編『東アジアの知識人』1、有志舎、2013年)としてまとめた。一九世紀、ペリー来航によって形成された危機意識は、富国強兵の論理へと行き着いたことの意味とその後の影響について考察した。征韓論に関わる対馬藩の動向に関しては、史料収集を行ったが、成果の公表には至っていない。今後はこの問題を解決したい。
著者
山田 真司
出版者
金沢工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、従来、制作者達のセンスや経験に基づいて制作されていた萌えキャラクタ(萌えキャラ)の顔および声のデザインとその知覚印象との関係について知覚実験によって明らかにすることで、萌えキャラ制作のための科学的設計指針を得ることを目的としたものである。実験の結果、萌えキャラの顔は、美人キャラに比べて、丸顔で目が大きく開いていることが定量的に示された。また、萌えキャラの声は、基本周波数、スペクトル重心が高く、話速が速いことが明らかになった。これらは、未成熟な女性を示唆する特徴を示すものであった。
著者
小野里 拓
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

本研究は、アメリカの専門職を中心とする大学職員のあり方やその育成方法について研究することを目的とした。アメリカにおいては、専門職化した大学職員自らによって様々な専門職団体が設立され、大学内専門職の重要性を訴え、関連政策に提言を行うこともある。こうした状況の中でHigher Education Programが多くの大学に設けられ、高等教育分野の修士・博士の学位を提供し、上級職を志向する大学職員のステップアップの手段となっている。専門職能と学位とが昇任のための車の両輪となり、そのシステムが専門職志向を強めている状況が推察される。本研究では、専門職としての大学職員への「入口」とも言える修士課程の高等教育プログラムに着目し、Pennsylvania State Universityをはじめとしたアメリカの大学関係者へのインタビュー調査や各プログラムの公式出版物、教員・学生による論考の収集・分析、最新の先行研究の批判的検討を通して、広く職員育成の観点からアメリカの高等教育プログラムの実態と効果について分析を行った。この際、日米比較を主眼に置いて分析を行うことにより、日本への適用を意識しながら研究を実施し、研究成果が日本の大学人事制度を中心とした大学経営に活用できるよう心がけた。その結果、アメリカの高等教育プログラムの学生を、学士課程から進学してきたフルタイム職未経験の学生と、現役職員である有職者学生の2タイプに大別できることが明らかになった。前者に対してはインターンシップやGraduate Assistantshipを通し、実務を経験させるとともに必要に応じて経済的支援を行い、後者に対しては実務経験を裏打ちする理論を学ばせ、上級職に求められる知識と学位を与えるのがプログラムの主たる目的である。こうしたニーズに応じて複数コースを設けるプログラムも多く、学位名称が異なる場合も少なくない(たとえばM.A.とM. Ed.)。今後は、専門職団体のありようについても研究を深めたい。
著者
横山 恵理
出版者
大阪工業大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、奈良県吉野郡川上村の各機関に所蔵される資料の分析を中心に行う。川上村 内所蔵資料は、多武峰神社や南法華寺(壺阪寺)等、奈良県南部の寺社圏を視野に入れて考察する必要があり、これら寺社圏を通しての制作背景や書写活動、人的資源の交流の実態を解明する。また、運川寺蔵『川上荘三十三霊場絵巻』のような新出資料紹介や蔵書の悉皆調査を実施する。
著者
尾野 嘉邦 石綿 はる美 三輪 洋文 横山 智哉 中村 航洋 松林 哲也 粕谷 祐子 木村 泰知 河村 和徳
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究の目的は、人々のジェンダーバイアスとその政治的影響を包括的に検証し、「指導的地位」に占める者の間に大きな男女格差が生じる要因と解決策を明らかにすることである。それにより、政治や社会において男女共同参画をさらに進めるだけでなく、男女それぞれが個人として、多様な選択やキャリアの実現を可能とするための方策を考える。そのために、①議事録などのテキストデータを機械学習によって分析するテキストマイニング、②サーベイ実験などの実験的手法により因果関係の解明を目指す行動実験、③世界各国の専門家を対象とした大規模なサーベイによる国際比較調査、という複数の手法を用いて、学際的かつ国際的に研究を行う。
著者
福田 敏男 市川 明彦
出版者
名城大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本研究では、線虫が有する化学走性によるがん検出能力を用い、マイクロ流体チップ内にて高速、高精度でのがん検出を行うことを目的として研究を行った。その結果、マイクロ流体チップ内での化学物質の拡散速度を抑制し、100匹以上の線虫を一つのマイクロ流体チップ内に導入してがん検出検査を実施可能なマイクロ流体チップを設計、作製した。作製したマイクロ流体チップについては、チップ内に導入しがん検出を行う線虫の移動速度を向上させるために、波型の流路形状を採用し設計した。さらに、線虫が複数回がん検出の判定を行うことができるよう、流路分岐形状を設計した。これにより、実際のがん患者の尿サンプルを用いた実験を実現した。
著者
福田 敏男 竹内 大
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、申請者らが有する微細加工及び細胞組織構築技術を用いて、生体内の筋肉にある筋紡錘に相当するマイクロセンサを有する筋組織アクチュエータモジュール(SMAモジュール)を世界に先駆けて作製する。さらに、SMAモジュールを複数組み合わせることでフィードバックループを有する筋駆動マイクロロボットの実現を目指す。これにより筋制御機構の解明に寄与するファイン・ハイブリッド・バイオニクス(FH-Bio)を創生する。
著者
水野 紀子 大村 敦志 早川 眞一郎 小粥 太郎 澁谷 雅弘 久保野 恵美子 嵩 さやか 桑村 裕美子 阿部 裕介 石綿 はる美
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-10-31

本研究は、相続法の立法的提言を主たる目的としたものであったが、研究開始後に本研究に対する社会的要請は急激な高まりを見せた。具体的には、新信託法と相続法の矛盾の露呈、東日本大震災に関する相続問題、生殖補助医療の進展や実親子法に関する新判例の続出、非嫡出子に関する最高裁判例に基づく相続法改正作業などが挙げられる。本研究メンバーは、こうした社会的要請に応えて、相続法に関する数多くの専門書、研究論文等を刊行し、日本私法学会シンポジウムにおいて発表を行うなどの学術的研究を進めるのみならず、これらの研究成果を生かして立法作業において大きな貢献をした。
著者
MA Bruce Yong 川嵜 敏祐 野中 元裕
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

樹状細胞C型レクチンDC-SIGNの新規リガンドに関する研究これまで我々は、DC-SIGNが結腸がん細胞株SW1116を認識すること、認識にはSW1116細胞上の糖タンパク質であるcarcinoembryonic antigen(CEA)が関与していることを既に明らかにしている(Nonaka M, et al., J.Immunol.2008, 180 : 3347-3356.)。しかしながら、結腸がん細胞上の他のDC-SIGNリガンドに関する検討は行われていない。1. 樹状細胞C型レクチンDC-SIGNの新規リガンドの同定本研究は、MoDC(Monocyte-derived dendritic cells)と結腸がん細胞株COLO205を共培養すると細胞同士の接着が起こること、この細胞間相互作用にはDC-SIGNが関与することを明らかにした。次に質量分析法により、DC-SIGNのリガンド糖タンパク質としてMac-2 binding protein(Mac-2BP)を新たに同定した。またMac-2BPには結腸がん関連ルイス式糖鎖抗原が発現していること、特にルイス糖鎖のa1-3,4-フコースがDC-SIGNとの結合に重要であることを、種々のグリコシダーゼを用いた実験により明らかにした。2. DC-SIGNの新規リガンドを介するがん細胞の免疫監視からの逃避に関わる糖鎖シグナルの解析本研究は、MoDCとCOLO205細胞の共培養条件において、MoDCの成熟マーカーであるCD83、CD86の発現が抑制されることを明らかにした。このことは、DC-SIGNを介した結腸がん細胞の認識が、がん細胞による免疫機構からの逃避を助けることを示唆するものである。本研究は、免疫系における糖鎖の重要性を示すだけでなく、がん細胞の免疫逃避メカニズムの新たなモデルを提唱するものであり、DC-SIGNを介する細胞内シグナル経路を標的とした新しい薬の開発に繋がると考えている。
著者
Cui Songkui
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

Parasitic plants acquire water and nutrients from host plants using a specialized organ, haustorium, and cause severe agricultural damages worldwide by infecting staples. The project will elucidate the molecular mechanism behind genetic and environmental control of haustoria in parasitic plants.
著者
筒井 牧子 (石川 牧子)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本課題研究はイタヤガイ類の"逆影"色彩パターン(背側が暗色, 腹側が明色の生物界に広く見られる背景適応)を司る貝殻色素形成の分子基盤を明らかにすることを目的として開始したが, 貝殻色素についての先行研究は, 1950年代の抽出実験から現代の分光分析による方法の出現まで長期間にわたり論文の少ない時期があり, 色素構造についても混乱していた. そこで本年はまずその研究史を総説としてまとめた.更に, イタヤガイの色素はポリエン化合物であることが確実となったため, イタヤガイ科ホタテガイをモデルとし, 液体クロマトグラフ/タンデム質量分析計および2D-DIGE解析, 抗体染色により, 殻を作る組織である外套膜のポリエン分解酵素について存在を確認した. 更に, 液体クロマトグラフ/タンデム質量分析計によりアサリ外套膜においても酵素の存在を確認した. 機能解析までは至っていないが, 今後機能解析を含めた色彩パターン形成研究を発展させる重要な結果である."逆影"色彩パターンについてはイタヤガイ科二枚貝類をモデルとし, 米スミソニアン博物館の収蔵本を中心に写真撮影を基に"逆影"の程度を既存の系統樹上にプロットし, 生活型(付着型 vs. 遊泳型)との相関を検討した, これによりタクソンサンプリングはほぼ完全となり, 付着型の属の殻は左右同様色彩パターンを示すのに対し, 独立に進化した遊泳種では逆影的なパターンを独立に獲得している傾向を確かめ, 更に中新世で付着型から遊泳型に生活型を変化させたイタヤガイ類の系統の紫外線色彩復元法による模様の復元を行った. 更に精密な証明のための画像データの統計的解析が終了次第, 論文としてまとめる.
著者
藤山 家徳 加瀬 友喜 上野 輝弥 植村 和彦
出版者
国立科学博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

本研究は, 日本における第三紀初頭より現在に到る昆虫発達史を, 植生の変遷と関連させて明かにすることを目的としている. 今年度においては, 日本とアジア大陸南西部, 東南アジアをむすぶ重要な位置にありながら化石資料が皆無であった南西諸島に重点をおき, 昆虫化石の探索と地層の観察を行った. しかし, 奄美大島笠利町の平層, 沖縄本島の許田, 粟国島の眞鼻毛ともに新資料を得ることに成功しなかった.新生代の昆虫発達史を編むには, 各時代の化石昆虫ファナウの詳細な分析が必要である. 古第三紀については, 始新世の北海道夕張地域, 漸新世では北海道北見若松沢の研究が進行中である. 新第三紀については, 今年度の研究もふくめ研究はかなり進展した. 中新世の古植生より推定される気温の変遷は, この時代の昆虫相にも認められ, その影響は植生よりさらに鮮明に見られる. すなわち, 前期中新世は現在の日本の昆虫相に近似するが, 中期には一変して亜熱帯〜熱帯の様相を呈する, 後期には再び温暖気候となったが, 前期と異なり, 現在の中国南西部からヒマラヤ方面の昆虫相との類似が認められる. 鮮新世の昆虫化石相は現生のものに近く, 属レベルでは共通であるが, 種レベルでは一致するものが少ない. 鮮新世より第四紀にかけての化石昆虫相は, 現生昆虫相の形成を考える上で重要な材料であるが, 中新世の資料にくらべ少なく, さらに資料を追加した上での検討が必要である.
著者
鈴井 伸郎 井倉 将人 渡部 浩司 坂下 哲哉 尹 永根 吉原 利一
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

これまでの放射性セシウムの動態研究に欠けていた「個体レベル」の動態解析を、新規に開発したポジトロン放出核種Cs-127(半減期:6.25時間)を用いた非破壊イメージングにより実現する。具体的には、生きた作物(ダイズ)と樹木(リンゴやスギ等)におけるセシウム動態を非破壊的に可視化し、子実へのセシウム輸送メカニズムの解明と樹体内のセシウム動態モデルの構築を行う。さらに、Cs-127を生きた動物(ラット)に経口投与し、ポジトロン断層法(PET)を用いてセシウムの3次元動態を非破壊的にリアルタイムで可視化し、各臓器への移行速度を算出することで、放射性セシウムによる内部被ばく線量の正確な評価に資する。