著者
中村 尚 万田 敦昌 川瀬 宏明 飯塚 聡 茂木 耕作
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

我が国の豪雨の発生や季節性に周辺海域の海面水温分布が重要な影響を与えることが研究代表者らの最近の研究から示されている。そこで、精緻化の進む領域大気モデルによる地域的な豪雨・豪雪事例の予報精度に対し、大気モデルの下方境界条件として与える日本周辺海域の海面水温データの時空間分解能が及ぼす影響を、近年の多くの顕著な豪雨・豪雪事例に対する予報再現実験から定量的・包括的に評価することを本研究課題は目指している。平成29年7月九州北部豪雨事例において、6月下旬の梅雨前線帯の北上に伴う東シナ海の水温の急激な上昇が重要であることを示す実験結果を得た。梅雨前線の北上が日射の強化を伴い、水温が上昇し、海面からの蒸発が強化して、九州に流入する対流圏下層の気塊が多湿に維持され、対流不安定性を強化していた。梅雨末期の集中豪雨は梅雨前線帯の南側で発生することが多く、梅雨前線帯の北上に伴う東シナ海上の日射の強化がその一因であるとの示唆が得られた。なお、東シナ海の海面水温の季節進行と表層塩分成層の変動との関連に着目して、海洋客観解析データに基づく解析にも着手した。一方、平成25年8月の秋田・岩手豪雨事例においては、領域大気モデルの水平解像度を1kmに向上させるとレーダー雨量と同程度の雨量強度が再現されるようになることが確認できた。また、初期値や領域の設定にも強い感度が見られたが、海面水温に対する感度は水平解像度3kmの実験と定性的には同じで、領域大気モデルの実験設定も依然として重要であることが分かった。さらに、領域大気モデル実験に与える高解像度の海面水温データに対する時間及び空間平滑化が夏季降水量に及ぼす影響を調査した。積算降水は空間平滑化のみに影響されるのに対し、豪雨事例に対しては時間・空間どちらの平滑化にも影響が見られ、夏季豪雨の予測に対して時間・空間両方の高解像度化が重要であることが見出された。
著者
豊原 潤 石渡 喜一 坂田 宗之 石井 賢二 織田 圭一
出版者
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究では、αシヌクレインの凝集体を選択的に画像化するPET分子プローブの開発を目的として、設計、合成、標識合成ならびに生物学的評価を行った。文献上αシヌクレインへの結合性が報告されているフェノチアジン系5化合物とポリフェノール系1化合物の合成、標識合成とインビボ評価を行ったところ、フェノチアジン系4化合物において高い放射化学的収率で標識体を得、小動物専用PETにてαシヌクレイン・イメージングに適した脳内動態を示すことが確認された。一方、フェノチアジン系1化合物とポリフェノール系1化合物は脳への集積性を示さなかった。フェノチアジン系化合物がαリード化合物として有用であることが示された。
著者
島田 義也 西村 まゆみ 柿沼 志津子
出版者
独立行政法人放射線医学総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

胎児・小児期における放射線被ばくの影響評価とその防護対策は、緊急の課題である。そこで本研究では、マウスを用いて寿命短縮に対する被ばく時年齢の影響や、被ばく後の変異蓄積および発生したがんにおける遺伝子変異頻度の違いを解析した。その結果、新生児は最も感受性が高く胎児後期は低いこと、被ばく時年齢時によって遺伝子の変異頻度が変化する可能性が示され、今後の解析の手がかりが得られた。
著者
水野 隆文 竹中 千里 原田 英美子 富岡 理恵
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

コシアブラのストロンチウム集積はマンガンとカルシウムにそれぞれ相関があることが判明した。ヤナギ類、コシアブラおよびタカノツメ木の樹皮中にはCaとSrを含んだ結晶状の物質が観察され、木本植物に吸収されたSrは、樹皮中で不溶性の結晶状物質を形成し、植物体内に長く留まる可能性があることが考えらえた。ヤナギ表皮部分から採取したRNAについて発現量解析を行った結果、Ca結合性タンパク質などの候補遺伝子群が得られた。菌根菌の分布を比較したところ、菌根菌が多いところはセシウム137 が多いことが示唆された。
著者
横井 慶子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

[研究の目的] 教育研究の情報源であり、研究者の研究成果の公表の場でもある学術雑誌の提供は、大学図書館の重要な役割である。近年はウェブ上にて無料で読めるOpen Access Journal(以下OAJ)が増加している。本研究では、OAJが大学での学術雑誌整備と研究支援に及ぼす影響を検討するために、OAJの現在の刊行状況、OAJに関わる最新の動向を明らかにすることを目的とする。[調査内容と考察] 1. OAJの現在の刊行状況調査 : Ulrichwebから創刊年が2000-2014年の学術雑誌データを抽出し、Ulrichweb、Directory of Open Access Journals、雑誌ウェブサイトの情報と照合することでOAJを特定した。OAJは6,955誌あり、残りの11,586誌は購読誌と判定した。刊行状況はUlrichweb収録データにもとづき判定した。OAJは260誌(3.7%)が、購読誌は720誌(6.2%)が2016年時点で廃刊となっており、OAJは購読誌よりも廃刊率が低いことが判明した。OAJの廃刊誌の大部分は大手OA出版社からのシリーズ誌であった。2. OAJに関わる最新の動向(Flipping journalsの実態調査) : 購読誌がOAJ化したFlipping journalsをウェブ調査で特定し、対象の260誌について特徴と、OAJ化後の評価を調べた。特徴については、対象誌ウェブサイトを情報源として調査した。共通して多くみられた特徴は(1)学会が発行(50%)、(2)比較的歴史の浅い雑誌(2001年以降創刊が30%)、(3)生物医学分野の雑誌(40%)があった。OAJ化後の評価についてはJournal Citation Reports収録誌を対象に調査した。49%でImpact Factorの上昇(N=67誌)、64%で被引用数の増加(N=73誌)がみられた。また2010年以降、商業出版社刊行誌がOAJに転じる数が増加傾向にあった。3. 考察 : 刊行状況調査から、OAJは一過性のものではなく、購読誌に匹敵する存在となっているとみなせる。Flipping journalsの実態調査からOAJ化で評価が高まる傾向や、商業出版社刊行誌のOAJ化促進の傾向がみられた。これらの結果から、学術雑誌に占めるOAJの比率が今後より高まると予測される。大学図書館はこれまでの購読誌を中心とした学術雑誌購読契約から、OAJを考慮した契約についての検討が必要になると考えられる。
著者
三尾 裕子 末成 道男 中西 裕二 宮原 暁 菅谷 成子 赤嶺 淳 芹澤 知広
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、主に東南アジアの現地化の進んだ中国系住民の研究を中心に据えて、これまで等閑視されてきた周縁に位置する中国系住民の事例研究から、従来の「華僑・華人」概念を脱構築することを企図した。特に、彼らの社会・文化そしてエスニック・カテゴリーの変容のプロセスを分析することを通して、中国系住民の文化が、移住先でのホスト社会やその他の移民との相互作用によって形成されることで、もはやその文化起源を分節化して語りえないほど混淆するあり様を明らかにし、これを「クレオール化」と概念化した。主な成果は、2007年8月にクアラ・ルンプールで行われたInternational Conference of Asia Scholarsで2つのパネルを組織、また、11月にも日本華僑華人学会の年次大会において、パネルを組織した。それぞれの学会では、中国系住民が中国的な習慣や中国系としての意識を失って土着化していく過程、再移住の中でのサブエスニシティの生成過程、宗教的な信仰や実践と民族カテゴリーの変容、国家の移民政策と移民の文化変容などについて、現地調査に基づく成果を発表した。また、現地の研究協力者を3回ほどに分けて招聘し、メンバーとの共同研究の成果を発表するワークショップを行った。そのうち、2006年度に実施したワークショップについては、Cultural Encounters between People of Chinese Origin and Local People (2007)という論文集を出版した。そのほか、国際学会の発表をもとに、英語による論文集の出版を予定している。
著者
呑海 沙織 溝上 智惠子 赤澤 久弥 羅 秋芬 陳 佳琛
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究の目的は,学習支援空間における学生アシスタントの意義を明らかにし,その育成プログラムについて検討することである。北米の大学図書館では1990年代頃より,ラーニング・コモンズ等の新しいタイプの学習支援空間が普及している。その構成要素は,①施設・設備,②資料,③人的支援に大別することができる。本研究では,人的支援の中でも学生アシスタントに焦点をあて,高等教育機関を対象とする質問紙調査および先進的な学習支援空間の現地調査を実施することによって,学習支援空間および学生アシスタントの実態を明らかにするとともに,学習支援における意義について考察し,育成プログラムについて検討を行った。
著者
深山 晶子 椋平 淳 辻本 智子 村尾 純子 MOORE Ashley FRITZ Erik MCCARTHY Tanya FISCHER Danielle WORTH Alexander
出版者
大阪工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、「模擬国際会議(Mock International Conference: 以下MICと省略)開催」というProject-Based Learningの実践を通じて、各学生の専門分野における英語での発表のスキルを高めることが主目的であったが、MIC参加学生には、図書館のラーニング・コモンズをMICの準備学習の場にすることを求め、ラーニング・コモンズの積極的利用を促すことも副次的効果として狙った。成果は、MICの運営手順以外に、教材・教育方法・PBL教員・運営学生育成方法を含むPBL型のEnglish for Academic Purposesの教授法として、教育パッケージ化した。
著者
伊勢 幸恵
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

研究目的近年、電子情報資源の増加による学術情報の量的増大が著しく、大学生はその中から適切な情報を探索・選択・入手する能力の習得が求められている。現在、ほとんどの大学図書館では様々な形式と内容のガイダンスを通じて、学生に情報リテラシーを身につけてもらおうと努めている。一方で、その習得に有効なガイダンス手法について、学生の探索行動を実際に観察して評価した研究はほとんどない。本研究では、実習形式による2種類の内容のガイダンスを受けた学生の文献探索行動を観察することで、(1)情報リテラシーの習得に資するガイダンス内容を検討し、(2)その効果を測定する手法を開発する。研究方法千葉大学の学部学生1~4年生6名をA、Bの2群に分け、それぞれに動画によるガイダンスを受講させた。A群には国立大学図書館協会が作成した「高等教育のための情報リテラシー基準2015年版」で述べられている「1. 課題の認識」「2. 情報探索の計画」「3. 情報の入手」といった行動指標を意識して作成したガイダンスを受講させた。一方、B群には「3. 情報の入手」の行動指標のみを解説したガイダンスを受講させた。その後、両群に共通の文献探索課題を与え、その探索行動を観察した。行動観察においては、画面キャプチャーソフトを用いてOPACや各種データベースの画面遷移を記録し、一人称視点カメラを用いて学生が図書館内で資料を入手する過程を明らかにした。最後に課題認識に関する事後インタビューを行った。研究成果調査の結果、課題の認識を重視した内容で、かつ実習形式で行うガイダンスは、学生に文献の探索計画を立てさせ、探索後に入手した文献の比較および妥当性の慎重な検討を促すことが分かった。評価手法として、実際の行動観察と個人インタビューを組み合わせることにより、課題を認識した結果が探索行動にどのように反映されるのか、ひいてはガイダンスの効果を客観的に分析評価できることが分かった。
著者
前杢 英明 越後 智雄 宍倉 正展 宍倉 正展 行谷 佑一
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,海溝型巨大地震の発生モデルに関して,陸上の地形・地質学的データから新たな検討を加えることを目的としたものである。紀伊半島南部を中心に、隆起地形や津波漂礫の分布調査を行い、津波のモデリングや^<14>C年代測定などの分析を通して、南海トラフ・メガスラストの各セグメント間の連動型地震ではなく、海溝陸側斜面に発達する海底活断層と海溝型巨大地震との連動型が発生した可能性を指摘することができた。
著者
白鳥 義彦 岡山 茂 大前 敦巳 中村 征樹 藤本 一勇 隠岐 さや香 上垣 豊
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

研究課題として設定した、①「大衆化」と「卓越化」との二律背反の相克、②高等教育の「自由化」政策の影響、③リベラル・アーツと教養教育、という3つのテーマを軸に日仏両国の比較研究を進めた。日本およびフランスのいずれの国においても、さまざまな「改革」の動きの一方で、ともすれば見過ごされているようにも見受けられるのは、「改革」を通じてどのような高等教育を目指すのか、あるいはまた、その新たな高等教育を通じてどのような社会を目指すのか、といった本質的、理念的な問いである。研究代表者および研究分担者は、こうした根本的な問いを共有しながら、それぞれの具体的な研究テーマに取り組んで研究を進めた。
著者
清水 晶子 星加 良司 飯野 由里子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

当研究は、3.11以降の日本において「ナショナルなもの」の危機を契機に特定の身体を露骨に優先する言説が一気に顕在化し、一定の支持を集めてしまう社会状況を考察し、生や身体の選別や序列化をめぐる言説がいわば日常化しつつあること、「ナショナルなもの」の立ち上げは未だにその過程で大きな力を持つことを明らかにした。また、クィアスタディーズとディスアビリティスタディーズとのそれぞれの理論構築に内在する限界や問題を踏まえつつ、双方の領域の中心的課題である多様な生と身体の生存可能性の拡大に向けたさらなる領域横断的な取り組みの必要性を確認し、そのための理論的基礎を提示した。
著者
堀口 敏宏 久米 元 児玉 圭太
出版者
国立研究開発法人国立環境研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

1)コドラート法により付着動物の種数と個体数密度、湿重量密度を茨城県、福島県及び宮城県の7定点で調べ、経年変化を明らかにした。また、2)イボニシ個体群解析のため、福島県の旧警戒区域の富岡、大熊、双葉及び南相馬の4定点で定期調査を行い、イボニシ個体群密度、殻高組成、性成熟及び産卵状況を調べ、その経年変化を明らかにした。3)1F周辺で観察されたイボニシ個体群の激減に関する原因究明に向けて、急性影響の観点から、イボニシに対する放射性核種等の曝露実験を行った。また、4)イボニシに対する放射線の影響解析を、イボニシ鰓組織のアポトーシス(細胞死)に焦点を当てて、進めた。
著者
望月 哲男 沼野 充義 宇佐見 森吉 井桁 貞義 亀山 郁夫 貝澤 哉 浦 雅春
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

散文、詩、批評、演劇、美術、思想といった様々な分野における現代ロシア・ポストモダニズム作品を対象に、以下のような観点から分析・性格付けを行った。1)ポストモダニズムの思想や創作方法は、今日のロシア文芸界でどの程度優勢なものとなっているか。2)他地域のケースと比較して、ロシアのポストモダニズムにはどのような特徴があるか。3)現代ロシア文化は、革命前のロシア文化および革命後のソ連文化とどのような関係にあるか。4)ポストモダニズムはロシアの文化的自意識の表現にとってどのような役割を背負っているか。結論として、ロシア・ポストモダニズムと総称されている現象は、決して単なる欧米の文化潮流の模倣ではなく、ロシア・ソ連の文化的な過去に深く根ざしたものであることが確認された。またそれ故に、ポストモダニズムが単にソ連文化や共産主義文化への反動としてのみでなく、ロシア近代の様々な文化潮流を緩やかに総合する仲介者としての役割を果たしていることも認識された。本研究の一環として、北大スラブ研究センター国際シンポジウム『ロシア文化:新世紀の戸口に立って』(2000年7月)を行い、現代ロシア文化の特徴を多角的な観点から研究すると同時に、ロシアを含めた世界各国の学者・文化人による現代ロシア文化観を比較検討した。研究の中間成果は『現代ロシア文化』(望月他著、国書刊行会、2000)、『現代文芸研究のフロンティア(I)』(望月編、北大スラブ研究センター、2000)『現代文芸研究のフロンティア(II)』(望月編、北大スラブ研究センター、2001)、T.Mochizuki(ed.),Russian Culture on the Threshold of a New Century,Slavic Research Center,2001,『現代ロシア文学作品データベース』(望月編、北大スラブ研究センターホームページ)(http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/literature/literature-list.html),『Modern Russian Writers』(T.Mochizuki,E.Vlasov,B.Lanin(eds)(http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/Writer/windex-e.html)などに発表された。
著者
麻生 博之 浅見 克彦 荒谷 大輔 冠木 敦子 川本 隆史 城戸 淳 熊野 純彦 中 真生 馬渕 浩二
出版者
東京経済大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、「エコノミー」という事柄を、その概念史をふまえながら、倫理をめぐる原理的問題として考察し、諸々の研究領域を横断する新たな倫理学的視座を模索することを課題として、研究会等での多様な議論を通じて実施された。その結果、従来十分に明らかにされてこなかった「エコノミー」の概念史に関する包括的な視座を獲得し、その概念的実質について一定の知見を得た。また、そのような知見に依拠しながら、「エコノミー」と倫理をめぐる原理的な諸問題の所在を、いくつかの現代的事象や現代思想等に関わる個々の論点にそくして明らかにした。
著者
清水 清美 長沖 暁子 日下 和代 柘植 あづみ
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本年度は、昨年度からの調査を継続(対象者35名へ拡大)した。また、成果発表として、第23回日本受精着床学会(ラウンドテーブル)、第16回日本発達心理学会(シンポジウム)、第3回不妊看護学会(一般演題)として提示、医療者、研究者、一般市民やから評価を得た。不妊治療を実施する医師からは、「日本のAIDの方向づけがない。また、AID実施後にカップルが遭遇する問題や課題が分からない。また分かったとしても臨床の現場ではフォローする時間と余裕がない。このような情報提供やカウンセリングを実施する団体、組織があるなら情報提供することは可能である」などの意見があった。また、看護師からは、「AIDを選択するカップルへどう対応したらよいか分からなかった。対象の特性が理解できた。」「子どもへの告知の問題提示をする必要は感じるが、担当医師はそのように考えていない。どのように折り合いをつけたらよいか難しい」等の意見があった。社会福祉士からは、不妊治療を受ける親と生れた子どもの利益が一致しない現状に対し「AIDは社会的な虐待」という子どもの立場に立った意見があった。また、養子縁組を迎えるカップルからは、「自分たちは親の資質を問われるのに、不妊治療により血のつながらない親子関係をつくるカップルが問われないのはおかしい」という意見があった。今後もAID情報を一般の方にも広め、不妊治療を受けるカップルと生れてくる子ども、双方の利益を考えた我が国の治療体制の有り方の実現化に向け、さまざまな立場から討論される必要があると考えられた。また、AIDが実施されているにもかかわらず、医療者自体がその後のカップルや家族の情報を理解していない現状があり、医療者への情報提供の必要性も考えられた。3年間の調査より、AIDを受けるカップルへの情報提供のツールとして、容易に情報を得る手段として小冊子の作成の必要性が考えられた。そこで、A6サイズの小冊子「AIDについて(仮題)」を現在作成している。作成後には関連する不妊治療施設・不妊相談施設に配布予定である。
著者
鮎澤 聡 松下 明
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

光学的特徴による脳神経機能や術中の組織の弁別を目的として、偏光を用いた脳神経外科手術中の術中顕微鏡イメージングを検討した。ラットを用いた実験では、反射照明を用いた偏光顕微鏡では、複屈折の差や変化で脳神経組織や機能を捉えることは困難であった。一方、余分な散乱光を軽減することにより、表面より深部の情報が可視的に得られた。これらの結果から、実際の術野で用いることができる顕微鏡を試作した。
著者
土屋 昌明 鈴木 健郎 大形 徹 横手 裕 二階堂 善弘 山下 一夫
出版者
専修大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、地域の道教と洞天思想との関わり、各地の宗教施設のネットワークを考察した。また、その歴史的な経緯を考察した。十大洞天のうち、赤城山・括蒼山・委羽山・終南山・林屋山・句曲山・青城山・王屋山を実地調査し、それぞれの道観の現状、景観や洞窟などの地理的特徴について調査した。その成果の一部は『洞天福地研究』として発行した。以上により、洞天について具体的な叙述が可能となった。
著者
小山田 正幸
出版者
鶴岡市立小堅小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

【研究目的】グリーンフラッシュは、太陽が水平線に沈む時に見られる緑色の閃光です。この現象は光線のプリズム効果によって起こりますが、国内の観測例はきわめて珍しく、気象データ等も不明であり、観測記録の集積が求められています。本研究は国内(日本海沿岸部)において、グリーンフラッシュ現象はどのような気象状況の下に起こるのかを調査することを目的とします。【研究方法】水平線に沈む太陽を年間観測し、グリーンフラッシュの有無、気象データ等を集積する・観測地 ; 山形県鶴岡市堅苔沢(鶴岡市立小堅小学校)付近から日本海をのぞむ・観測方法 ; 太陽の写真画像を記録し、太陽像の変化や気圧配置等の気象データを収集する【観測結果】1 年間でグリーンフラッシュを観測できた延べ日数・H23は2日、H24は4日、H25は6日すべて6月~9月に集中している2 グリーンフラッシュを観測できたときの共通の気象状況(1)日本海に高気圧が張り出し、等圧線の間隔が広く安定した夏型の気圧配置(2)空気が澄んで透明度が高く、大気中の水滴や塵等による霞や霧や雲の発生が少ない(3)水平線上に上暖下冷の大気の逆転層があり、太陽像が上位蜃気楼で上方にゆらめいて分離3グリーンフラッシュの表れ方に2つのタイプ(1)太陽面の上縁辺が水平線上に沈む一瞬、グリーンフラッシュ像が表れる(2)太陽面が水平線に接する時からその上縁が緑色に光る
著者
伊藤 敞敏 金 武祚 菅原 弘 戸羽 隆宏
出版者
東北大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1991

シアル酸は生化学試薬として、また医薬品製造のための出発原料として、近年需要が急増しているが、その製造のための原料は、ツバメの巣などのごく限られたものとなっており、安価で大量の製造が困難な状況にあった。卵処理工場において卵成分の濾過の際に得られるカラザや卵黄膜の中には、多くのシアル酸が含まれていることに気付いたので、これを原料として工業的規模でシアル酸を製造することを試みた。これらの成分中には、シアル酸として代表的なN-アセチルノイラミン酸が高濃度で含まれているので、これを取り出すことを実験室的規模で検討した。原料を硫酸酸性下で加熱してシアル酸を遊離させ、陰イオン交換樹脂に吸着させたのち、ギ酸で溶出させ、減圧乾固、活性炭処理を行なった結果、湿カラザ試料100gより約50mg,湿卵黄膜試料100gより約175mgのシアル酸を得ることができた。これらの検討をもとに、つぎに大規模工業的製造のための製造テストを行なった。原料としては、カラザおよび卵黄膜部の混合試料800Kgを使用して、実験室的検討で得られた工程に従って処理を行なうことにより精製N-アセチルノイラミン酸を約300g得ることができた。現在試薬として市販されているN-アセチルノイラミン酸の価格は、1g約3万円と非常に高価であるが、卵は世界的に広く分布した食品であり、しかも卵の加工工場で得られるカラザや卵黄膜部は、従来は利用されず廃棄されていた部分である。従って原料は非常に安価であり、シアル酸の含量はかなり高く、かつ分離のための処理工程も比較的簡単であることから、本法によって今後はシアル酸の大量かつ安価な製造が可能となり、シアル酸を用いての研究や医薬品製造が容易になるものと期待される。