著者
小倉 肇
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-15, 74, 2001-03-31

ア行「衣」とヤ行「江」の合流過程において,語頭:ア行[e-],非語頭:ヤ行[-je-]という語音排列則が形成されたことを『和名類聚抄』『土左日記』『本草和名』などの「衣」「江」の分布から推定する。「あめつちの歌」の「えのえ」も,この語音排列則に従っていることを述べる。語頭:ア行[e-],非語頭:ヤ行[-je-]という語音排列則が緩み,単語連接における後接語の初頭(語頭)という位置で[e-]>[je-]の変化が起き,[e-]の語頭標示機能が弱められ,最終的に,語頭:[je-],非語頭:[-je-]となって,ア行「衣」とヤ行「江」の合流が完了する。このような語音排列則の形成と変化を想定することによって,「大為尓」「いろは」の48字説についても,単なる「空想」ではなくて,成立する蓋然性の高いことを述べる。
著者
高橋 延匡 SHAPIRO Stua RALSTON Anth KERSHNER Hel SELMAN Alan 中森 眞理雄 大岩 元 都倉 信樹 牛島 和夫 野口 正一
出版者
東京農工大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

わが国の大学の情報処理教育のカリキュラムは米国に比べると著しく遅れているというのが通説であった。本研究代表者および分担者は情報処理学会の「大学等における情報処理教育の改善のための調査研究」で中心的な役割を果たし,コンピュータサイエンスのモデルカリキュラムJ90の作成に貢献した。しかし,J90を各大学で具体化して実現するには,授業時間配分や担当教員の割り振りなど多くの問題を解決しなければならないことが明らかになった。そこで,本年度は,米国で,過去にコンピュータサイエンスのモデルカリキュラムを各大学で具体化して実現する際にどのようにしたかを調査することにした。まず,予備調査として,ACM(米国計算機学会)が1988年に発表したコンピュータサイエンスの見取図である9行3列のマトリクス(以下では「デニング図」と呼)をカリキュラムの評価に使うことが可能かどうかを検討した。デニング図の各行は1アルゴリズムとデータ構造,2計算機アーキテクチャ,3人工知能とロボティックス,4データベースと情報検索,5人間と計算機のコミュニケーション,6数値的計算と記号的計算,7オペレーティングシステム,8プログラミング言語,9ソフトウェアの方法論とソフトウェア工学に対応する。デニング図の各列は(1)理論,(2)抽象化,(3)設計に対応する。個々の大学のコンピュータサイエンスのカリキュラムについて,その各授業科目をデニング図の27(=9×3)の枠にあてはめてみることにより,そのカリキュラムの特徴が明らかとなる。さらに,もう一つの予備調査として,ACMが1991年に発表したコンピュータサイエンスの頻出概念について,カリキュラム評価の手法として使うことが可能かどうかを検討した。ACMの頻出概念は(A)バインディング,(B)大規模問題の複雑,(C)概念的および形式的モデル,(D)一貫性と完全性,(E)効率,(F)進化とその影響,(G)抽象化の諸レベル,(H)空間における順序,(I)時間における順序,(J)再利用,(K)安全性,(L)トレードオフとその結果,の12から成る。検討した結果,ACMの頻出概念はきわめて重要なものを含んでいるが,(a)これら12個の概念は互いに独立であるか,(b)これら12個の概念はコンピューサイエンスを完全に覆っているか,についてさらに詳しく検討する必要があることがわかった。以上の予備調査を行った上で,米国ニューヨーク州立大学バッファロー大学計算機科学科を訪問し,共同研究を行った。研究の方法は,デニング図を含むカリキュラム評価方法やコンピュータサイエンスの頻出概念について,日米双方の研究代表者・分担者が見解を述べ,互いに賛否の意見を出し合う,という形で行った。この過程で,バッファロー大学ではデニング図を用いて自己点検・評価を行っていることが示された。ACMの1991年報告書では「広がり優先方式」(以下,「BF方式」と呼ぶ)によるカリキュラム編成方式が紹介され,それを実現するために多数の「知識ユニット」が提案されている(もちろん,それらの知識ユニットを組み合わせて,学問体系に沿って教える伝統的なカリキュラムを編成することも可能である)。このBF方式カリキュラムについても議論した。米国分担者達はBF方式カリキュラムを試みたが,現在は伝統的なカリキュラムに復帰しつつあるという見解であった。ACMのSIGCSE研究会の研究発表の内容を調べた結果,非BF方式カリキュラムに対する支持が強いことが確かめられた。もっとも,教育は必然的にBF的面を有するものであり,BF方式カリキュラムが妥当であるか否かという問題は,知識ユニットをどの程度の大きさにするのが適切であるかという問題に帰着され,今後の検討課題となった。本研究の期間中に,ACMのSIGCHI研究会から人間と計算機のコミュニケーションを主題とするカリキュラム案が発表された。このカリキュラム案に伴って紹介されている演習課題についても検討した。この分野は日本が大きな貢献をすることが可能な分野であり,今後の研究課題とすることにした。
著者
高倉 浩樹
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第47回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.91, 2013 (Released:2013-05-27)

本発表は、東日本大震災によって被災した人類学者としての経験をふまえて、震災にかかわるサルベージ人類学の必要性と、その理論的根拠、そこから見えてくる社会的実践の豊かなひろがりを論じるとともに、その実施に必要な調査体制についての展望について述べるものである。
著者
山中 由里子 池上 俊一 大沼 由布 杉田 英明 見市 雅俊 守川 知子 橋本 隆夫 金沢 百枝 亀谷 学 黒川 正剛 小宮 正安 菅瀬 晶子 鈴木 英明 武田 雅哉 二宮 文子 林 則仁 松田 隆美 宮下 遼 小倉 智史 小林 一枝 辻 明日香 家島 彦一
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

中世ヨーロッパでは、辺境・異界・太古の怪異な事物、生き物、あるいは現象はラテン語でミラビリアと呼ばれた。一方、中世イスラーム世界においては、未知の世界の摩訶不思議は、アラビア語・ペルシア語でアジャーイブと呼ばれ、旅行記や博物誌などに記録された。いずれも「驚異、驚異的なもの」を意味するミラビリアとアジャーイブは、似た語源を持つだけでなく、内容にも類似する点が多い。本研究では、古代世界から継承された自然科学・地理学・博物学の知識、ユーラシアに広く流布した物語群、一神教的世界観といった、双方が共有する基盤を明らかにし、複雑に絡み合うヨーロッパと中東の精神史を相対的かつ大局的に捉えた。
著者
大倉 和博 松村 嘉之 上田 完次
出版者
一般社団法人 システム制御情報学会
雑誌
システム制御情報学会論文誌 (ISSN:13425668)
巻号頁・発行日
vol.14, no.8, pp.409-417, 2001-08-15 (Released:2011-10-13)
参考文献数
17

Evolutionary Programming (EP) belongs to a class of general optimization algorithms based on the model of natural evolution. EP has also been applied to real-valued function optimization since the early 90's. However, recent research results have proved that EP is not so robust as expected; EP performs very well only when the lower bound of strategy parameters is adjusted to each problem. In order to overcome this difficulty, an extended EP, called Robust EP (REP), is proposed. A major feature of REP is that genetic drift is introduced as another source of changing strategy parameters. Computer simulations are conducted in order to illustrate the robust performance of REP against the lower bound on a set of popular benchmark problems. Some evolutionary characteristics of REP are also clarified by calculating basic statistical values.
著者
吉倉 真 城田 五郎 近藤 照義
出版者
Arachnological Society of Japan
雑誌
Acta Arachnologica (ISSN:00015202)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.199-208, 1977
被引用文献数
1

1. 産卵後一両日中にウヅキコモリグモの持っている卵嚢を取り除いたら, 3週間ほどで再び産卵した. 初回の産卵数は平均約50個, 次回のそれは約33個であった.<br>2. 卵嚢保持個体における肥大卵母細胞の大きさは, 産卵後約4週間で直径約184μに達したものもあったが, 排卵したものはなかった. 産卵後一両日中に卵嚢を除去したものでは, 産卵後約4週間で肥大卵母細胞は直径約476μに達したものがあり, 直径450μ以上のものは排卵されていた.<br>3. 卵核胞は卵細胞の成長とともに大きくなる. 直径約40μの卵細胞において直径約33μであるが, 排卵までに直径約67μに達する.<br>4. 卵黄核も卵細胞の成長とともにある程度大きくなる. 卵細胞の直径70-90μで, その直径平均約23μであるが, それ以後排卵までその大きさにとどまる.<br>5. 卵黄粒は卵細胞の直径約150μ以上で形成され, 卵細胞の成長とともに大きさを増す. 排卵時, 最大のものの直径約35μ, 産出卵において最大のものの直径約56μであった.<br>6. 卵巣には初回産卵後, なお平均150個ほどの卵緒を有する卵細胞が残されている. 卵嚢が除去されると, それらのうちあるものが急速に成長し成熟する.<br>7. 退化卵細胞は産卵直後には十数個あるも, 次第に吸収され, 3-4週間後にはほとんどなくなる.
著者
寺岡 徹 有江 力 鎌倉 高志
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

(1)我々が構築したdifferential cDNA libraryから、付着器形成時、侵入時に特異的に強く発現している病原性関連候補遺伝子をマクロアレイ、RT-PCRにより選抜した。その中から特異性の高かった、FMI1(Functional gene of Magnaporthe Infection 1; クローン#B19)、FMI2(クローン#B48)、MGH61A(Magnaporthe Glycoside Hydrase family 61A;クローン#B59)を選抜して、それら遺伝子の構造解析、ゲノム解析を行い、当該遺伝子の破壊株を作出して、付着器の形態形成ならびにイネ葉への感染過程における機能を解析した。いずれも既報の遺伝子と高い相同性を示すものはなかったものの、部分的にいくつかのドメインを保持していた。FMI1はN末端にセリン残基に富んだ配列と核局在性シグナル様配列をコードし、そのC末端側にsucrase/ferredoxinと部分的相同配列をコードしていた。当該遺伝子の破端株は付着器形成の異常、侵入の遅延をもたらした。FMI2はdual specificity phosphataseの活性ドメインを一部コードしていた。当該遺伝子破壊株は付着器形成の異常をもたらしたが、両遺伝子とも顕著な病斑形成能の低下はもたらさず、その発現も接種後3-4日以内の肉眼的病斑形成以前に限られていた。MGH61Aはシグナル配列を持つ分泌型タンパク質で、5'側の一部にglycoside hydrase family 61と相同性の高いドメインを保持していた。当該遺伝子の破壊株は付着器形成、侵入、病斑形成の低下をもたらした。(2)ベトナムを中心として、世界各地で分離されたイネいもち病菌の病原性レースと交配能について、自然交配能を有する雲南産ならびにアメリカ産イネいもち病菌を基準に調査したところ、ベトナム菌株は病原性レースは多様性に富むものの、交配能を保持している菌株は見いだせなかった。ただ、今まで報告されたことのない二本鎖RNAウイルスを見出した。本ウイルスは容易に水平移動し、いもち病菌の生育、病原性を低下させた。
著者
林 勉 水島 義治 曽倉 岑 小野 寛 遠藤 宏 岩下 武彦
出版者
帝京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1991

1萬葉集の古写本を『校本萬葉集』未収のものも含めて全体を総覧できる,表を中心とした解説にさらに改訂を加え充実したものを発表した。2特に西本願寺本について,新しいポジカラーフィルムによる調査を重ねて疑問点を明らかにし,原本の巻六〜十を再度直接に調査できた。3西本願寺本の無修正モノクロ影印の作成を始め,巻一〜五を刊行し,従来の竹柏会や主婦の友社版複製の修正に伴う誤りを正した。4また西本願寺本の翻刻を,本文や訓のほかヲコト点や声点,さらに見せ消ち,削訂,重書も注記することにし,漢字の字体も原本をなるべく生かすよにし,巻第一〜五を影印に添えて刊行することができた。5仙覚改訓を示す青訓が変褪色し,朱・墨等で重書しているのに注意し,三度の重書の箇所も多く指摘できた。竹柏会複製では全て青色に復元,主婦の友社複製は,記号や書入を修正する誤りを避けることができた。6影印,特に翻刻とその注記は極めて高度な内容であるので,フィルムや原本で確かめ,また印刷上の誤植などにも細心の注意を払い,若い研究者や大学院生達の協力を得て,万全を期することに精力をこめた。7他の新点本についても神宮文庫本,陽明本,大矢本,近衛本,京大本等の調査を重ねて,西本願寺本底本の校異を,ほぼ全巻につけた。『校本萬葉集』の誤脱の指摘も,特に神宮文庫本においてかなり進んだ。8古次点本の調査は従って余り進めることができなかったが,広瀬本等新出資料についても調べねばならないが伝冷泉為頼筆本に近い。9全体の研究集約は基本となる西本願寺本複製の完成を待たねばならない。次年度中には全巻完成を見,その上に立って校異編を別冊として刊行を予定しているが,これもかなり細かな注意と忍耐が必要である。10西本願寺本複製刊行が中心となったので,そのための資料・コピー代や連絡代が必要となり,調査のための旅費が減ったのは止むを得ない。
著者
倉島 健 岩田 具治 入江 豪 藤村 考
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. LOIS, ライフインテリジェンスとオフィス情報システム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.152, pp.7-12, 2011-07-14
参考文献数
17
被引用文献数
1

これまでに,旅行者の現在地,空き時間,興味に応じてトラベルルートを自動推薦する技術を提案してきた.本稿では,新たに,旅行者の移動手段も考慮し,空き時間内で周れるトラベルルートを生成する手法を述べる.また,写真共有サイトの画像群からランドマークの代表画像を抽出する手法も述べる.これにより,トラベルルート(ランドマークのシーケンス),旅行者の移動手段に応じて推定した旅行時間,そして,ランドマークの典型的な画像から成る"旅行プラン"を提示可能となる.
著者
飯倉 善和
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

光学センサで取得された衛星画像から、大気および地形の影響を補正するために必要となる要素技術として、(1)衛星画像の精密な幾何補正とその評価方法、(2)ヘイズや巻雲など水平方向の大気変動を補正する簡便な方法、(3)天空光や照返し光による影響を画素ごとに求める厳密な陰影補正方法と、それに基づいた太陽高度が高い場合の簡略化法などを開発した。
著者
木村 克美 小倉 尚志 阿知波 洋次 佐藤 直樹 長嶋 雲兵 春日 俊夫 長倉 三郎 中村 宏樹 谷本 能文 北川 禎三 大野 公一 吉原 經太郎 OGURA Haruo
出版者
岡崎国立共同研究機構
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

わが国とスウェ-デンとが共通に関心をもち,かつ共に高いレベルを保持している分子科学の諸分野において相互に研究者を派遣し,国際共同研究の態勢をつくり,研究の発展に貢献しようとする目的で本研究課題がとりあげられた.昭和63年3月分子研長倉所長とウプサラ大学シ-グバ-ン教授の間で共同研究の合意書が取り交わされ,これが今回の三年間の共同研究のベ-スになっている.とくに光電子分光及び光化学磁場効果の分野をはじめ,時間分割分光,シンクロトロン放射光科学,理論化学の分野も含められた。ウプサラ大学はESCAのメッカであり,K.シ-グバ-ン教授(昭和56年ノ-ベル物理学賞受賞)の開拓的な仕事が今も受けつがれている.同教授は現在レ-ザ-ESCA計画を遂進中で,新しい装置の開発に取り組んでいる.とくにレ-ザ-技術を導入するESCAとトロイダル回折格子を用いる高分解能光電子分光において,分子科学研究所の協力を求めている.分子研木村らはすでにレ-ザ-光電子分光で進んだ技術をもっており,シ-グバ-ン教授に協力することができた.木村の協力研究者であった阿知波洋次都立大助教授をウプサラに派遣し,レ-ザ-光電子装置の立上げに協力し,ウプサラで最初の光電子スペクトル(レ-ザ-による)が得られた.一方,共鳴線(NeI,HeII)用のトロイダル回折格子は日立の原田達男博士の協力を得て,実現し,高分解能実験の成果を期待している。ウプサラ大物理学研究所C.ノ-ドリング教授はESCAの初期に活躍した人であるが,現在はX線分光の研究を行っているが,ルント大学のシンクロトロン放射光施設でも新しい装置を製作しており,本研究課題の二年目に分子研に招へいすることができ,今後のシンクロトロン放射光研究における共同研究についても意見交換を行い有益であった。光化学反応の磁場効果の研究では長倉三郎総合研究大学院大学学長が開拓的な業績をあげているが,今回のスウェ-デンとの共同研究では,第一年次にウプサラ大学を訪問し,アルムグレン教授と光化学磁場効果について討議をかわした.谷本助教授(広島大)も光化学反応の磁場効果の研究でウプサラ大を訪れ,アルムグレン教授とミセル溶液に代表される微視的不均一溶液系の物理化学過程のダイナミックについて討議した.それぞれ今後の協力関係の基礎がきづかれた。時間分解分光では,カロリンスカ研究所のリグラ-教授は生体系のピコ秒時間分解蛍光分光法およびピコ秒光応答反応について,シンクロトロン放射光による研究と合せて,わが国との協力を希望しており,今後の協力関係が期待できる分野であることがわかった.生体分子構造の分野では分子研北川教授と小倉助手がイェテボリ大学及びシャルマ-ス大学のマルムストロ-ム教授を訪れ,チトクロ-ム酸化酵素に関して密接な協力研究を行った.今後の共同研究の基礎づくりができた。とくに小倉助手はニケ月の滞在で,マルムストロ-ム教授の研究室で,チトクロ-ム酸化酵素の時間分解吸収分光の研究とプロトン輪送の分子機構の理論的研究を行った。東大佐藤助教授はリンシェ-ピン大学の表面物理化学研究室のサラネック教授を訪れ,二ヵ月滞在し,この間に電子分光法による導電性高分子(とくに共役系高分子)とその表面の電子構造の研究で大きな成果をあげ,今回の日本-スウェ-デン共同研究の一つのハイライトでもあった。分子研長嶋助手はストックホルム大学シ-グバ-ン教授を訪れ,ニヵ月滞在して遷移金属錯体の電子構造の理論的計算を行うための計算機プログラムの開発について協力研究を行った。さらに分子研春日助教授は一年目にルント大学マツクス研究所(放射光実験施設)を訪れ,ストレッジリングの加速電子の不安性に関する種々のテスト実験を共同で行い,両者の放射光施設の発展のために有益な実験デ-タが得られた。三年目にはウプサラ大学で,分子科学第一シンポジュ-ムを開催することができ,日本から6名がスウェ-デンから12名の講演者がでて,全部で50名ほどのシンポジュ-ムであったが,極めて有意義なものであった.スウェ-デンとの交流のパイプは少しづつ太くなっており,今後の協力関係が期待できる.
著者
笹倉 直樹
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

弦理論における不確定性関係は弦理論の基本的自由度と密接に関わっていると考えられており、その自由度は量子重力のそれとも対応すると思われる。一方、ド・ジッター時空は、観測可能な時空の境界であるところの地平線をもっており、そのため、べーケンシュタインとホーキングの理論によって、なんらかの形で、量子重力の熱力学的な自由度が付随していると考えられている。従って、ド・ジッター時空を弦理論で実現することにより弦理論の基本的自由度に対する知見を深めることができると考えられる。ド・ジッター時空の一つの特徴は、それが超対称性を持たないことである。そのため、超弦理論の非超対称な背景場か、非超対称弦理論の背景場を考える必要がある。従来の弦理論の研究は、超対称性を中心としたものであるため、非超対称な場合への拡張が必要である。今年度の研究では、弦理論の有効作用として、重力とスカラー場が相互作用する系において、ド・ジッター時空がどのように実現されるかの研究を行った。まず、特異点を持たない解の構成に対する議論を行い、具体的な厳密解の構成を行った。この厳密解は、ドメインウォールがド・ジッター時空になっているような解で、ブレインワールドのシナリオのもとで、我々の時空と同一視できるものである。スカラー場のポテンシャルはスカラー場に対して周期的な関数であり、アクシオンのそれとみなす事ができる。このようなポテンシャルは弦理論において、コンパクト化に伴うモジュライスカラー場のインスタント補正として実現できるものである。今後の研究としては、今年度の研究結果を基にして、弦理論への具体的な埋め込みを行い量子重力的自由度についての考察を行うことや、より一般的な非超対称弦理論の背景場の研究などを行いたいと考えている。
著者
小倉 充夫 青木 一能 井上 一明 遠藤 貢 舩田 クラーセンさやか 眞城 百華
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

大半のアフリカ諸国で、 国民統合は言語やエスニシティの同一性によってもたらされはしなかった。冷戦後の現代においても国民形成はアフリカでは最重要な課題であり続けている。この問題を民主化、移動、都市化と関連させて検討した。都市第一世代であった年長者に比して、現在の都市青年層はより教育を受けているが就業が困難であり、彼らの国民的そしてエスニックなアイデンティティの動向に注目する必要がある。
著者
松井 幸夫 植村 勝慶 江島 晶子 倉持 孝司 榊原 秀訓 小松 浩 元山 健
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本科研研究は、1997年総選挙によって登場したニュー・レイバー(新生労働党)のブレア政権が推進した「憲法改革」を、近代憲法の21世紀的な展開を展望しつつ、その基礎にある「第三の道」のフィロソフィーを視野に入れて総合的に研究しようとするものであったが、3年間の研究によって極めて大きな、画期的な成果を生むことができた。本研究は、所属研究機関が異なる14名の研究者による共同研究であったが、それぞれの研究分担課題を明確にし、それらを研究代表者及び世話人の密接な協力と連携によってひとつの総合的な研究として遂行することができた。3年間を通して、春と秋の全国学会時には必ず研究会と情報交換の場を持ち、8月には3日の合宿研究会を開催して研究の進捗の確認、相互交流、情報交換を行い、また、毎年3名をイギリスに派遣し、憲法改革の実施状況の調査と情報収集、現地の研究者・政党はじめ主要機関との交流を進め、この点でも成果は大きかった。それぞれの研究成果は、本科研研究会のメンバー全員が参加した『新版現代憲法-日本とイギリス』の編集発行や、メンバーによる二冊の単著はじめ、12冊の著書の刊行、25本に上る学術雑誌への論文掲載、さらに、11件の学会発表を生んだ。それぞれの研究課題についての成果の集約は、研究成果報告書にまとめられている。本研究の何よりも大きな成果は、同時代的に進行しているイギリス憲法改革を、近代立憲主義の21世紀的展開という視野の中で比較憲法的視野で捉え、多数の研究者が一体となってこれを総合的に研究できたことにある。また、憲法改革の各分野についても、その内容、評価、展望等について、それぞれ大きな成果を生むことができた。それらは、さらに出版助成を得て公刊し、されにその成果を世に問う予定である。