著者
畑 啓生 東垣 大祐 小笠原 康太 松本 浩司 山本 貴仁 村上 裕 中島 淳 井上 幹生
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2111, (Released:2021-10-31)
参考文献数
35

イシガイ科マツカサガイは、本州、四国、九州に分布する日本固有の淡水性二枚貝である。流水のある淡水域を選好し、現在ではその主な生息地は農業用水路となっている。本研究では、愛媛県の道前平野における農業用土水路にて、マツカサガイの新たな生息地が確認されたため報告する。愛媛県では、マツカサガイは、松山平野南部と宇和盆地のみに生息が知られていたが、それらの地域では分布域と密度が急速に減少しており、愛媛県特定希少野生動植物として条例で保護されている。道前平野において、圃場整備の一環として流路が変更される予定である農業用水路で調査した結果、水面幅約 1m、流路長 440 mの範囲の土水路ほぼ全域にわたって、最大密度 20個体 /m2で、計 651個体の生息が確認され、 1249個体の生息が推測された。土水路中で一部、二面コンクリート護岸が施されている場所では、確認された個体数は著しく少なかった。マツカサガイの殻長は 41.7 ± 5.8 mm(平均 ±標準偏差)で、松山平野の国近川の個体群と比較すると、平均値に対する標準偏差の値が大きく、 20 mm程度の幼貝もみられたため、本土水路では、国近川に比べマツカサガイの寿命は短いものの、複数回の再生産が生じていると考えられる。この農業用の水路網は一級河川が作る扇状地に網目状に広がり、周辺は一面に水田が広がるが、圃場整備により、土水路が残されるのは本研究地区のみとなっており、最後に残されたマツカサガイ生息地の断片と考えられる。マツカサガイは全国的にみても準絶滅危惧であり、この個体群の保全が求められる。淡水性二枚貝類は人為的影響により減少が危惧されるため、圃場整備を行いながらの保全の実践は、他地域のためにも先行例となる。
著者
岩佐 佳哉 熊原 康博
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.367-379, 2023 (Released:2023-09-21)
参考文献数
16

本研究では,広島県東広島市および呉市を対象とした現地調査と法務省が公開した登記所備付地図データを組み合わせることにより,呉市が1943年に敷設した上水道の遺構をマッピングし,その特徴を明らかにした.現地調査の結果,少なくとも192個の遺構が存在することが明らかになった.また,登記所備付地図データを用いることで,遺構に沿って幅3 m程度の細長い区画が長さ約10.7 kmにわたり今も存在することを確認できた.この細長い区画は上水道を敷設するために呉市が取得した土地である.旧呉市上水道の敷設の背景には旧日本海軍鎮守府の協力・支援があり,本研究で明らかにした遺構は,戦闘とは直接関係のない場所にも戦争の影響が及んでいたこと,その影響が現在も継続していることを示す戦争遺跡の一種とみなすことができる.そして,登記所備付地図データを活用することで,閲覧にかかる労力や費用が削減され,より精緻なマッピングが可能となった.
著者
岩佐 佳哉 濱 侃 中田 高 熊原 康博 後藤 秀昭 山中 蛍
出版者
一般社団法人 日本活断層学会
雑誌
活断層研究 (ISSN:09181024)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.57, pp.1-13, 2022-12-26 (Released:2023-06-27)
参考文献数
19

In order to evaluate the applicability of 3D scanners for field survey on surface ruptures, we examined the scanning accuracy, point cloud density, usability, and time efficiency of the instruments of three different SLAM methods, Avia for LiDAR SLAM, ZED 2 for Visual SLAM, and iPad Pro for Depth SLAM We conducted experimental surveys on the surface ruptures associated with the 2016 Kumamoto Earthquake at two locations. One is the surface rupture preserved as the earthquake heritage in the Aso field of Tokai University, while another is a normal fault rupture in the forested area at Miyayama, Nishihara Village, Kumamoto Prefecture. All the scanners obtained detailed point clouds, from which we successfully made digital surface models, cross-profiles and contour maps in a few tens of minutes. We came to know that Avia is most effective among the three scanners for wide-area mapping and that iPad Pro is a useful handy instrument for mapping limited areas. From our experimental survey, it is highly recommended to use Avia and iPad Pro together (in the field) in order to collect detailed geometric data of surface ruptures immediately after earthquake.
著者
吉村 勇哉 藤﨑 孝輔 山本 武範 篠原 康雄
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.137, no.5, pp.581-587, 2017-05-01 (Released:2017-05-01)
参考文献数
16
被引用文献数
3 7

Magnesium oxide (MgO) tablets are widely used as laxatives in patients with constipation. Recently, the “Revision of Precautions on the Use of Magnesium Oxide” has been issued by the Japanese Pharmaceuticals and Medical Devices Agency, warning against the risk of hypermagnesemia with the use of MgO. However, the majority of physicians continue to administer MgO for constipation without adequately considering its safe use. In the present study, we performed two analyses using an identical lot of MgO tablets and evaluated the risk of hypermagnesemia. Approximately 90% of the MgO tablets dissolved within 120 min in dissolution testing; it was believed to form an absorbable state for magnesium. With orally administered MgO, 15% is absorbed in the body and 85% is excreted via the feces without being detected in pharmacokinetic analysis. Magnesium absorbed into the plasma demonstrated peak concentration 3 h after administration and was excreted via the urine within 48 h.
著者
岩崎 祐貴 折原 良平 清 雄一 中川 博之 田原 康之 大須賀 昭彦
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.152-160, 2015-01-06 (Released:2015-01-06)
参考文献数
30
被引用文献数
2

Nowadays, anybody can easily express their opinion publicly through Consumer Generated Media. Because of this, a phenomenon of flooding criticism on the Internet, called flaming, frequently occurs. Although there are strong demands for flaming management, a service to reduce damage caused by a flaming after one occurs, it is very difficult to properly do so in practice. We are trying to keep the flaming from happening. It is necessary to identify the situation and the remark which are likely to cause flaming for our goal. Concretely, we propose methods to identify a potential tweet which will be a likely candidate of a flaming on Twitter, considering public opinion among Twitter users. Among three categories of flamings, our main focus is Struggles between Conflicting Values (SBCV), which is defined as a remark that forces one's own opinion about a topic on others. Forecasting of this type of flamings is potentially desired since most of its victims are celebrities, who need to care one's own social images. We proceed with a working hypothesis: a SBCV is caused by a gap between the polarity of the remark and that of public opinion. First, we have visualized the process how a remark gets flamed when its content is far from public opinion, by means of our original parameter daily polarity (dp). Second, we have built a highly accurate flaming prediction model with decision tree learning, using cumulative dp as an attribute along with parameters available from Twitter APIs. The experimental result suggests that the hypothesis is correct.
著者
ミンテイ グェン 川村 隆浩 田原 康之 大須賀 昭彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. AI, 人工知能と知識処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.110, no.105, pp.19-23, 2010-06-18

本論文の目的は,twitterから取得した文中に現れる行動の基本属性(行動主,動作,対象,時間,場所)を自動的に抽出することである.しかし,先行研究では,頻度が低い行動を獲得できない.そして,抽出する前に,動詞リストとカテゴリワード(対象を表すワード)を予め準備しておく必要がある.そこで本論文では,条件付確率場(Conditional Random Fields)と自己教師あり学習(Self-Supervised Learning)を用いて,行動属性の自動抽出手法を提案する.提案手法では,人手でラベル編集や行動のドメインの定義などの必要がなく,頻度が低い行動も獲得できる.
著者
星 雄輝 清 雄一 田原 康之 大須賀 昭彦
雑誌
研究報告知能システム(ICS) (ISSN:2188885X)
巻号頁・発行日
vol.2020-ICS-197, no.8, pp.1-7, 2020-02-10

昨今,PC やスマートフォン,インターネットの普及に伴い個人でもゲームを制作することが身近な存在となっている.しかし,作曲・演奏経験の乏しいゲームアプリ開発者にとって,オリジナルの BGM を用意するのはコストが必要となる場合がほとんどである.また,ゲーム音楽といっても,ゲーム音楽ならではの音楽的特徴は幅広く,ゲーム音楽そのものの理論は確立されていないのが現状である.そこで,ゲームのシーンに着目し,音楽をゲームのシーンに合った曲調に変換してくれるシステムによって,音楽理論を理解していなくてもゲームの BGM を用意できるのではないかと考えた.本研究では,CycleGAN を用いたドメイン変換に加え,テンポと音色を考慮することによって,クラシック音楽からシーン別のゲーム音楽を生成することを提案する.評価としては,分類器を用いた変換精度の客観評価とアンケート形式による生成楽曲に対するイメージ及び変換精度を答えてもらう主観評価の 2 つの評価方法を用いて評価を行った.客観評価と主観評価の総合的な評価の結果,「フィールド」と「戦闘」のシーンに変換した楽曲において高い評価が得られた.
著者
直原 康光 安藤 智子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.116-134, 2021-06-30 (Released:2021-07-21)
参考文献数
48
被引用文献数
1 8

本研究の目的は,親が認知する離婚後の父母コペアレンティング,ゲートキーピングを測定する尺度を作成し,信頼性・妥当性を検証すること,離婚後の父母コペアレンティング,ゲートキーピングと子どもの適応との関連を検討することであった。離婚後の父母コペアレンティング,ゲートキーピング尺度は,離婚後9年未満の親432名を対象に分析を行った結果,一定の信頼性・妥当性を備えており,同居親・別居親で測定不変性を有していることが確認された。作成した尺度を用いて,2―17歳の子どもと同居する母親166名を分析対象として仮説モデルを検証した結果,葛藤的なコペアレンティングは,SDQの「総合的困難さ」との間に直接正の関連が認められた。一方,協力的なコペアレンティングは,SDQとの間に直接の関連は認められなかったものの,面会交流の促進を介して,同居時の父親の子どもに対する暴力が高かった場合のみ,SDQの「総合的困難さ」との間に正の関連が認められた。以上の結果を踏まえ,離婚後の父母や親子関係の在り方,親に対する心理教育プログラム等への示唆について,考察した。
著者
岩佐 佳哉 熊原 康博
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.109-116, 2020-12-28 (Released:2021-01-26)
参考文献数
12

1945年9月に発生した枕崎台風は,広島県において明治以降に発生した災害の中で最も大きな被害をもたらしたが,その詳細は一部地域を除いて不明である。本研究では広島県東広島市を対象に,枕崎台風に伴って発生した土石流の分布を復元し,死者の分布と数を報告する。さらに,土石流の発生履歴を図示することの防災・減災における意義を示す。空中写真判読の結果,対象地域において811カ所で土石流が発生し,少なくとも13人の死者があったことが明らかになった。また,西日本豪雨の土石流分布と比較すると,2度の土石流の崩壊源は異なる谷に存在し,下流部ではこれらが集まることで土石流による被害を繰り返し受けてきたと考えられる。枕崎台風の土石流による被害を空中写真判読と水害碑や石仏,「学校沿革誌」を用いて復元し,西日本豪雨の土石流と重ねて図示した。これらは住民の防災・減災意識の向上に資する資料となりうると考える。
著者
直原 康光 安藤 智子 JIKIHARA Yasumitsu ANDO Satoko
出版者
Division of Physhology, Faculty of Human Sciences, University of Tsukuba
雑誌
筑波大学心理学研究 = Tsukuba Psychological Research (ISSN:09158952)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.73-85, 2018-02-28

This paper (a) summarizes both the Japanese and English literature regarding the measurement of parental conflict following separation or divorce, (b) discusses that literature, especially, studies on the psychological effects on children, and (c) offers some suggestions for further research issues. Based on a search of an electronic database, two Japanese articles and 26 English articles are reviewed. Parental conflict includes (i) inter-parental conflict, (ii) being caught between parents, and (iii) parental alienation behaviors and parental denigration. There has been very little research assessing the effects of parental conflict following separation or divorce within the Japanese articles. Within the English literature, there are few appropriate measures of parental conflict and the results concerning parental conflict and child adjustment are mixed. For future research, it is necessary to clarify the relationships and influences between the various aspects of parental conflict, to develop a scale of parental conflict, and to investigate the relationships and influences between parental conflict, parenting time and quality of parenting.
著者
木村 美和子 千原 康裕 二藤 隆春 田山 二朗
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.502-507, 2006 (Released:2006-12-25)
参考文献数
6
被引用文献数
3 2

ムンプスの合併症として,呼吸困難や咽喉頭浮腫は報告が少ない。今回われわれは咽喉頭浮腫を合併したムンプスの2症例を経験したので報告した。 症例は26歳男性と36歳女性。初診時より顎下部耳下部の腫脹,呼吸困難を認め当院救急外来受診,喉頭ファイバースコープにて咽喉頭に浮腫を呈しており入院となった。頸部CTでは,顎下腺,耳下腺とその周囲にびまん性の腫脹を認め,咽喉頭の浮腫状腫脹が著明であった。血液検査でWBC・CRP正常範囲内,血清アミラーゼ高値を認めた。ステロイド投与により呼吸困難は改善し退院した。その後の検査でムンプスウィルスIgM陽性を確認した。 2症例ともステロイド投与で咽喉頭浮腫は軽減し,気管切開を回避することができた。咽喉頭浮腫の原因は,顎下腺とその周囲軟部組織の炎症性浮腫により,二次的に咽喉頭から流出するリンパ管がうっ滞して循環障害を起し,咽喉頭粘膜にうっ血性の浮腫が生じたためと推察した。 咽喉頭浮腫を合併したムンプスの成人例を2症例報告した。耳鼻咽喉科の臨床現場では頸部腫脹と咽喉頭浮腫を合併した症例にしばしば遭遇するが,ムンプスウィルス感染の可能性も鑑別診断の1つにあげる必要があると考えられる。
著者
海原 康孝 笹原 妃佐子 新里 法子 山崎 健次 香西 克之
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.435-441, 2017-11-25 (Released:2018-11-25)
参考文献数
22

現在,小学校には児童虐待の早期発見努力義務が課され,関係機関と連携し虐待防止に取組むことが求められている。また,歯科医療関係者の児童虐待防止への関与が期待されている。 そこで,学校歯科健康診断の結果が児童虐待の早期発見のためのスクリーニング指標となりうるかどうかについて検討し,以下の結論を得た。1 .学校歯科健康診断を受けた小学生総計3,569 名(男児1,843 名,女児1,726 名)のうち,虐待を受けた児童(「虐待あり」群)は89 名(男児43 名,女児46 名)であった。2 .「虐待なし」群および「虐待あり」群のそれぞれ約90%が,乳歯の未処置歯数が2 本以下であった。3 .「虐待なし」群の95.00%,「虐待あり」群の93.26%が,永久歯の未処置歯数が0 本であった。4 .「虐待なし」群の84.94%,「虐待あり」群の87.64%が,歯垢状態のスコアが0 であった。5 .「虐待なし」群の87.04%,「虐待あり」群の91.01%が,歯肉状態のスコアが0 であった。以上より,「虐待あり」群と「虐待なし」群との間で口腔内の状態に違いが認められないことから,学校歯科健康診断の結果だけで児童虐待のスクリーニング指標とすることは困難であることが示唆された。したがって,歯科医療関係者が児童虐待の早期発見・防止に貢献するためには,診療室での診察のようにある程度時間をかけて児童の口腔内や言動,保護者の様子などを観察できる状況が必要であると考えられた。
著者
山森 光陽 徳岡 大 萩原 康仁 大内 善広 中本 敬子 磯田 貴道
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.297-316, 2021-09-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
48
被引用文献数
4

クラスサイズ及び目標の提示と達成状況のフィードバックの頻度による,小学校第4, 5学年の2年間にわたる社会科の学力の変化の違いを検討した。第4, 5, 6学年開始前後の標準学力検査の結果を児童個別に結合したパネルデータに,第4, 5学年時のクラスサイズ,目標の提示と達成状況のフィードバックの頻度を連結したパネルデータのうち,第4, 5学年間で学年学級数の変動が起こらなかった50校,1,672名の児童を分析対象とした。第4学年,第5学年の各1年間,第4, 5学年の2年間の,過去と後続の学力の違いに対するクラスサイズ,目標の提示と達成状況のフィードバックの頻度,及びこれらの交互作用の影響を,児童,クラス,学校の3レベルを仮定したマルチレベルモデルによる分析を行った。その結果,第4, 5学年の2年間で見ると,在籍したクラスのサイズが小さく,かつ目標の提示と達成状況のフィードバックの頻度が高い学級担任による指導を受け続けた場合,過去の学力が相対的に低い児童については,これ以外の場合の児童と比べて後続の学力が高いことが示唆された。
著者
片岡 龍峰 山本 和明 藤原 康徳 塩見 こずえ 國分 亙彦 Ryuho KATAOKA Kazuaki YAMAMOTO Yasunori FUJIWARA Kozue SHIOMI Nobuo KOKUBUN
出版者
総合研究大学院大学文化科学研究科 / 葉山町(神奈川県)
雑誌
総研大文化科学研究 = Sokendai review of cultural and social studies (ISSN:1883096X)
巻号頁・発行日
no.16, pp.17-29, 2020-03

日本最古の天文現象の記録は、『日本書紀』巻二十二、推古二十八年十二月一日(西暦六二〇年十二月三十日)の條に記される「十二月庚寅朔、天有赤気。長一丈餘。形似雉尾」という一節である。「赤気」は、彗星の類と理解され、日本古典文学や歴史学などの研究では悪い兆候を示すもの、といった理解がなされてきた。その一方、地球物理学においては、オーロラと理解され、オーロラの最も早い事例としてこの『日本書紀』が位置づけられてきた経緯がある。今回の考察では、「赤気」だけではなく、文中の「雉尾」という言葉にも着目し、『日本書紀』諸本での記述を踏まえたうえで、扇形をした赤いオーロラが日本などの中緯度で観察されやすく、真夜中より前に見られ、かつ雉の尾に似た形状をし、「長一丈」に該当する角距離十度相当で見えるという最も構造が際立った形態であるということを、雉の生態など、鳥類学の研究も踏まえて明らかにした。文献学的な考察に加え、雉の生態や尾羽の特徴を理解する鳥類学、彗星に関する古天文学の知識も合わせて新たな考察を加えたことによって、『日本書紀』の編纂に当たった人々の記述に対する責任感や知性、私たち日本人のルーツとなった倭の人々の観察眼や感性を伺い知るうえで一定の視点を与えることに寄与しうるものである。The oldest record of an astronomical phenomenon in Japan was recorded in the Nihon-shoki as follows: "On December 30 in 620, a red sign appeared in heaven. The length was more than 1 jo (10 degrees). The shape was similar to a pheasant tail (Suiko-Tennou, 28)". The appearance of a red sign has been recognized as an expression of a bad omen in literature, while it has been interpreted as the northern lights in geophysics. First we examine the description of the pheasant tail in detail. We then introduce the latest scientific findings that the northern lights show a fan-shaped appearance with a red background when appearing over Japan. After showing that the fan-shape is similar to a pheasant tail, also pointing out the low possibility of comets, we conclude that the oldest record of the red sign is consistent with the appearance of the northern lights over Japan. We hope that this examination contributes to increasing awareness of the sensitivity of Japanese people 1400-years-ago who compared a beautiful behavior of birds with a magnificent and rare natural phenomenon.
著者
小山 耕平 熊原 康博 藤本 理志
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.1-18, 2017-04-28 (Released:2018-08-19)
参考文献数
29

We examine characteristics of the stone monuments related to flood or debris flow disasters in Hiroshima prefecture based on official records of the past disasters, results of a field survey, and interviews with inhabitants living near the monuments.As a result, there are at least 40 monuments in Hiroshima prefecture in memory of 14 major disaster events dating from AD1831. Most of the monuments are distributed in and around the damaged area. There are located in local community centers, temples, and shrines, where the local people visit frequently.The contents of the inscriptions built during and before World War II, have had plentiful information related to the process of building the foundations of the monuments, and the details of disaster damage and restoration work. The contents inscribed on those monuments built after the war, have mainly implied sentiments about rest for the souls of disaster victims or memorial of restoration work.In conclusion, these monuments have the potential to inform local people about the exact area affected and the situation of past disasters for a long time. There are few cases where local people use the monuments for disaster prevention activities. Although there are currently few cases where local people use the monuments for disaster prevention activities, doing so would definitely prove to be advantageous.