- 著者
-
森光 由樹
- 出版者
- 日本野生動物医学会
- 雑誌
- 日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, no.3, pp.91-96, 2016-04-30 (Released:2018-05-04)
- 参考文献数
- 8
野生動物と人との軋轢は,農業被害だけにとどまらず,近年は「人家侵入」,「器物の破壊」および「人への威嚇」など,生活被害や人身被害にまで拡大し始めている。これらの動物を捕獲する場合,まず猟銃による捕獲が考えられるが,「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」並びに「銃刀法」などの規制から市街地で発砲し捕獲することはできない。そこで,猟銃に比べて極めて威力が小さく,器物破損等の恐れがほとんどない麻酔銃による捕獲が法律改正により使用可能となった。麻酔銃捕獲は,安全な捕獲法ではある。しかし,いくつか課題がある。麻酔銃を所持するには,管轄する都道府県公安委員会(警察)から審査を受けて許可を受けねばならない。また,ガンロッカー等頑丈な保管庫で管理する必要もある。年1回,管轄する警察署による銃検査が行われ使用実績や管理状況について報告する義務が生じる。その一方で麻酔銃は産業銃であるため,猟銃の所持には必要な筆記試験と実技試験が課せられず,銃の基本的な扱いを修得していない者であっても警察の審査さえ通れば所持可能である。安易な導入と使用により,思わぬ事故が誘発されるおそれもある。以上のことから,改正法における麻酔銃の位置づけや運用には,その特徴に起因する様々な問題点の整理と留意とが不可欠と考えられる。