著者
坂梨 元軌 河邉 翔平 酒井 正彦 西田 直樹 橋本 健二
雑誌
研究報告ソフトウェア工学(SE) (ISSN:21888825)
巻号頁・発行日
vol.2017-SE-196, no.24, pp.1-6, 2017-07-12

難読プログラミング言語 Malbolge は,その解析困難性により知的財産権の保護などに役立つと考えられているが,命令が特殊であるためプログラムの作成は非常に困難である.そのため,Malbolge プログラムを生成するための中間言語として制御付き疑似命令列が提案されているが,C などの通常の言語と比較すると依然としてプログラミングが困難である.本稿では,整数型と真偽型を扱え,while 文などの基本的な制御構造と再帰関数を定義できる C 言語のサブセットのプログラムから Malbolge コードへのコンパイラの実現法を述べる.コンパイラの実現のために,まず,既存の制御付き疑似命令列に配列構文と関数構文を追加し,それにあわせて既存の制御付き疑似命令列から Malbolge への変換系を拡張する.さらに C 言語のサプセットから制御付き疑似命令列へ変換する方法を提案する.
著者
酒井 雅史 サカイ マサシ
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
vol.10, pp.18-29, 2012-03

本稿では,筆者の内省をもとに兵庫県神戸市における動詞の活用形を用いた命令表現について記述を行なう。具体的には,以下の点を指摘する。(a)兵庫県神戸市方言においては,動詞の活用形を用いた命令表現としてテ形・命令形・連用形・意志形を用いる。(b)神戸市方言の命令表現においては,テ形は《依頼》しか表せず他の機能を持つことはない。命令形は《命令》の場合には使用できるが,聞き手に利益がある《聞き手利益命令》の場合には話し手と聞き手の間に特定の関係性がないと使用できない。意志形は《聞き手利益命令》でのみ使用可能となる。連用形は《命令》《聞き手利益命令》に加えて《勧め》の場合にも使用でき,命令表現においてもっとも広く使用できる形式である。(c)意志形を《聞き手利益命令》で使用できるのは,要求する行為が聞き手にとって利益のあることであり,緊急性を要し,話し手の眼前に聞き手がいる場合に限られるが,連用形の使用にはこれらの制限がない。(d)連用形も意志形と同様に《聞き手利益命令》として使用できるが,意志形が少し親しいソトの人物に対して使用すると不自然なのに対して,連用形は不自然な表現とはならない。また,《聞き手利益命令》において命令形を用いることができる場合は,親から子や先輩から後輩など話し手と聞き手の間に何らかの上下関係がある場合に限られる。
著者
酒井 朋子
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
no.11, pp.43-62, 2005-06-11

本稿は、深刻な民族的・宗派的対立が継続してきた北アイルランドにおいて、第一次大戦戦死者がいかにユニオニズムの英雄として語られてきたのかを論じるものである。とくに大戦と名誉革命期の戦いとを重ねあわせる語りや記念行事に着目し、その形成過程、ならびにその後の大戦解釈への影響力を検討する。多くのユニオニストが戦死した第一次大戦下のソンム会戦は、その開戦の日付がユニオニズム・シンボルであった名誉革命期ボイン戦の記念日と一致していたため、ボイン戦に結び付けられて語られ記念されるようになっていった。戦後50年を経ると、穏健派のユニオニスト政権の登場もあって、二つの出来事の重ねあわせを否定し戦場の悲惨さを強調して戦争を脱神秘化しようとする語りが公の場に現れるようになる。しかし紛争激化以降、強硬派の武装組織は、名誉革命を想起しつつ惨死を遂げていった悲劇的英雄として戦死者を描出し、自集団のシンボルとして大戦を掲げていくのである。
著者
酒井 達哉
出版者
全国大学国語教育学会
雑誌
国語科教育
巻号頁・発行日
vol.81, pp.41-49, 2017

<p>本研究の目的は大正末期に古市尋常高等小学校において展開された、俳句指導の特徴とその実践的意義を、それを支えた地域的基盤に留意しつつ明らかにすることである。</p><p>大正末期、俳句に対して強い関心があった地域を背景に、同校では自ら俳句を詠む教員の指導により児童が大いに俳句を詠んだ。また、俳句による表現の指導が行われ、兼題や賞の設定などを取り入れることによって作句の動機付けが図られた。俳句は定型詩という制約をもつものであるが、同校では、あえて定型詩の形をとるなかで子どもらしい、ものの見方や考え方を表現することが指導された。国語教育史研究において大正時代の小学校における俳句指導は、これまでほとんど注目されていないが、本研究で取り上げた事例から明らかなように、地域によっては俳句指導が小学校で盛んに行われたことは注目に値する。</p>
著者
谷 幸太郎 栗原 治 金 ウンジュ 酒井 一夫 明石 真言
出版者
国立研究開発法人放射線医学総合研究所
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

原子力事故後の緊急作業等によって高線量の放射線被ばくを受けた場合には、個人データに基づく線量評価が必要となる。本研究では、甲状腺へ局所的な内部被ばくをもたらすI-131を対象として、人体を再現したボクセルファントムを使用した数値計算により、甲状腺前面の組織厚を考慮した甲状腺残留量の評価を可能とした。また、安定ヨウ素剤服用時の体内動態解析コードを開発し、個人の摂取シナリオを考慮した甲状腺線量の評価を可能とした。これらの手法について、福島第一原子力発電所事故への適用例を示し、有用性を確認した。本研究の成果は、I-131による高線量内部被ばく時の線量再構築に役立つものと期待される。
著者
大木 基裕 中野 正樹 酒井 崇之 関 雅樹
出版者
The Japanese Geotechnical Society
雑誌
地盤工学ジャーナル (ISSN:18806341)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.59-70, 2014

鉄道構造物の中でも既設盛土の耐震補強化は喫緊の課題であり,大規模崩壊の恐れのある盛土の耐震補強が行われている。本稿では,現行の鉄道技術基準に基づく盛土の耐震性能の考え方とこれまでの耐震補強の概要を示す。次に,3つの粘土地盤上の盛土を対象に,動的遠心模型実験,有限要素解析を実施し,地震時における盛土の破壊形態を確認し,ニューマーク法による変形予測の精度を検証する。実験や解析の結果,同一の支持地盤の強度であれば盛土が高くなるほど,また,同一の盛土高さであれば支持地盤の強度が小さくなるほど,破壊形態は,盛土主体から地盤も含む破壊形態へと移行し,変形レベルも大きくなる。また,盛土を主体とする円弧すべり状の破壊形態が生じたケースに対しニューマーク法を用いた結果,求められた沈下量は模型実験結果とほぼ等しくなった。簡便な耐震性能評価手法であるニューマーク法は,盛土の破壊形態を適切に考慮することにより沈下量の精度は高まり,設計において有用となることが示唆された。
著者
酒井 聡 青木 孝文 若生 一広 阿部 晃一 三瓶 仁寛 菅原 道晴
出版者
Japanese Society for the Science of Design
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
pp.146, 2015 (Released:2015-06-11)

昨今、広告業やデザインの分野でプロジェクションマッピングが広く扱われるようになった。建築物 や自動車、人などに映像投影を行うことで、新たな映像表現として注目を集めている。しかし、広く 扱われるようになったプロジェクションマッピングの映像投影する条件として映像投影面は変形や移 動などをしないことが前提となっている。 本研究開発では、動的に形状が変化する物体に対して歪み のない映像を投影可能なスクリーン(Addressable Screen)を開発することを目標としている。本 稿では、研究開発の過程において制作・発表を行った映像投影作品Addressable Screen「9パズル」 「Magical Card」について報告する。
著者
星合 隆成 小柳 恵一 ビルゲ スクバタール 久保田 稔 柴田 弘 酒井 隆道
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. B, 通信 (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.411-424, 2001-03-01
被引用文献数
46

本論文では, 意味情報に基づいて, イベントを目的地まで配送することが可能な意味情報ネットワーク(SION : Semantic Information-Oriented Network)を提案する.SIONを用いることにより, ブローカを介することなく, 情報提供者が, 提供するに相応しいユーザに対してのみ, 自身の情報を直接提案することが可能になる.また, 不特定多数のエンティティのなかから, 対象となるエンティティをスケーラブルかつリアルタイムに探索・発見することが可能になる.更に本論文では, SIONを実現するための要素技術であるイベントルーチング方式, ウェデレーション方式等について示す.また, SIONの効果を明らかにするとともに, SIONのキラーサービスであるコミュニティサービスについて説明する.
著者
酒井 えりか 伊藤 彰教 伊藤 貴之
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.40, no.11, pp.123-124, 2016-03-02

毎年たくさんのアニメやゲームが制作され,数多くのキャラクタが生み出される.声色の印象が与える効果はコミュニケーションにおいて約4割を占めるという考えがある.そういった考えからも,その声を担当する声優のキャスティングは,キャラクタの印象を決定づける重要な要因となる.そこで本研究では,ゲームからセリフを録音し音響特徴量を計算し,今回は基本周波数をヒストグラムと散布図にて表示した.さらに,キャラクタの性格分析を行う.最終的には性格から声質を推薦するシステム開発をめざしている.
著者
酒井忠雄 著
出版者
酒井忠雄
巻号頁・発行日
1962
著者
久保 恵嗣 小林 俊夫 福島 雅夫 芝本 利重 酒井 秋男 上田 五雨
出版者
The Japanese Respiratory Society
雑誌
日本胸部疾患学会雑誌 (ISSN:03011542)
巻号頁・発行日
vol.26, no.8, pp.825-832, 1988

肺水腫における熱とインドシアニン・グリーン (ICG) 色素を用いた二重指示薬希釈法による血管外肺水分量測定の有用性を検討するために, 肺リンパ瘻を作製した麻酔下緬羊を用い, 本法による血管外肺水分量 extravascular lung thermal volume (EVLTV) と, 左房圧上昇 (IP, n=5), Escherichia coli エンドトキシン注入 (ETX, n=5) および肺微小空気塞栓 (Air, n=4) 時の肺循環および肺リンパ動態とを比較検討した. また, 肺リンパ液中のICG濃度を測定した. IP群では, 左房圧 (Pla) 10mmHg上昇に伴い肺動脈圧 (Ppa) も上昇し, 肺リンパ流量 (Qlym) は有意に増加した. 肺リンパと血漿との蛋白濃度比 (L/P) は有意に減少した. EVLTVは有意に増加した. ETX 1μg/kg, iv, 投与3~5時間後, Qlym およびL/Pは有意に増加したが, EVLTVは変化なかった. PpaとPlaは変化なかった. Air群では, 肺動脈主幹部に挿入した細いチューブ (内径0.3mm) より1.2ml/minの空気を3時間にわたり注入した. Ppaは空気注入中有意に増加したが, 注入終了後すみやかに前値に復した. Plaは変化なかった. Qlymは空気注入後より増加し, 注入終了後もその増加は持続した. L/Pは注入終了後軽度増加した. EVLTVは空気注入中著明に減少し, 注入終了後有意に増加した. 肺リンパ液中のICG濃度はETX群で著明に増加したが, 他の2群では変化なかった. 以上より, EVLTVはエンドトキシンおよび肺塞栓存在時の肺水腫の存在の可能性を過小評価する. また肺微小空気塞栓による肺血管透過性の機序は, エンドトキシン肺傷害のそれとは異なることを示唆するものと思われる.
著者
酒井 啓子 松永 泰行 石戸 光 五十嵐 誠一 末近 浩太 山尾 大 高垣 美智子 落合 雄彦 鈴木 絢女 帯谷 知可
出版者
千葉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-06-30

総括班はグローバル関係学を新学術領域として確立することを目的とし、分担者や公募研究者、領域外の若手研究者にグローバル関係学の視座を理解しその分析枠組みをもとに研究を展開するよう推進することに力点をおいて活動を行っている。H29年度には、領域代表の酒井、計画研究A01代表の松永、計画研究B02分担者の久保が全体研究会や国内の研究シンポジウムなどでそれぞれがグローバル関係学の試論を報告、各界からコメントを受けて学理のブラッシュアップに努めた。そこでは1)グローバル関係学が、関係/関係性に焦点を絞り、その関係/関係性の静態的・固定的特徴を見るのではなく、なんらかの出来事や変化、表出する現象をとりあげ、そこで交錯するさまざまな関係性を分析すること、2)グローバル関係学がとらえる関係が単なる主体と主体の間の単線的/一方方向的関係ではなく、さまざまな側面で複合的・複層的な関係性を分析すること、を共通合意とすることが確認された。それを踏まえて9月以降、領域内の分担者に対して、いかなる出来事を観察対象とするか、主体間の単線的ではない関係性をいかに解明するか、そしていかなる分析手法を用いてそれを行うかを課題として、個別の研究を進めるよう促した。多様な関係性が交錯する出来事にはさまざまな事例が考えられるが、その一つに難民問題がある。計画研究ごとに閉じられた研究ではなく領域として横断的研究を推進するため、計画研究横断プロジェクトとして移民難民研究プロジェクトを立ち上げた。また、総括班主導で確立したグローバル関係学の学理を国際的にも発信していくため、国際活動支援班と協働しながら、海外での国際会議を積極的に実施している。H29年度はシンガポール国立大学中東研究所と共催で同大学にて国際シンポGlobal Refugee Crisesを実施、グローバル関係学の骨子を提示して海外の研究者への発信とした。
著者
嶋脇 聡 酒井 直隆
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 = The Japanese journal of ergonomics (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.31-35, 2011-02-15
被引用文献数
1

ヒトが物体を把持する直前に,物体の形状や大きさに依存した手の形を準備するプリシェイピング動作を実行する.本研究の目的は,三次元動作解析システムを用いて指関節角度を計測することによって,プリシェイピングに及ぼす視覚条件の影響を調査することである.9人の健常者が4つの視覚条件(通常,閉眼,仮想,仮想閉眼)で円柱の把持を実施した.円柱は高さ120 mm,直径30 mmであった.関節の初期角度と最終角度の間である中間値までの中間時間が計測された.結果として,仮想条件におけるDIPとPIP関節の中間時間は通常および閉眼条件におけるそれらより有意に低値であった.4つの視覚条件におけるMP関節の中間時間の間で有意差は無かった.これは,通常および閉眼条件で,近位関節より順番に屈曲する「なじみ機構」が作用しているが,仮想条件では,3関節とも同時に屈曲したことを示した.
著者
森 千与 酒井 隆全 矢野 玲子 田辺 公一 後藤 伸之 大津 史子
出版者
一般社団法人日本医薬品情報学会
雑誌
医薬品情報学 (ISSN:13451464)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.261-269, 2017-02-28 (Released:2017-03-17)
参考文献数
24

Purpose: The purpose of this study is to elucidate the characteristics of adverse events in pregnant women, the offending drugs, and patient backgrounds from reports of adverse events.  We performed a case series study.Methods: We used CARPIS, a database of adverse events and toxication reported in Japan spanning from 1987 to 2014 and created by the Drug Information Center, Meijo University.  We extracted cases of adverse events in pregnant women, their fetuses, and newborns and investigated the age, primary disease, and history of allergies of the women and the intended use of/offending drugs, therapeutic category, and names for adverse events.Result: We collected 434 cases of adverse events in pregnant women, and 251 pediatric cases with adverse events.  The most frequent offending drug in both groups was ritodrine hydrochloride.  The most frequent adverse event in pregnant women was pulmonary oedema due to the administration of ritodrine hydrochloride.  The most frequently reported adverse events in pediatric cases were transient hypothyroidism and withdrawal symptoms in newborns and birth abnormalities in fetuses and newborns, all of which were caused by drugs given for the underlying diseases of their mothers.Discussion: We elucidated serious adverse events in pregnant women caused by the administration of ritodrine hydrochloride.  Frequent factors for adverse events were the onset of physiological factors in pregnant women and complicated factors of the mechanism of action of ritodrine hydrochloride.  We need to monitor both mothers and fetuses during the drug administration.  It is suggested that adverse events in pediatric cases are associated with drugs given for underlying diseases in mothers.  Thus, it is necessary to give appropriate information and communicate the risks of taking these drugs before pregnancy.  We believe the results could be helpful in the early detection of adverse events in the future.
著者
酒井 理紗 岸本 桂子 福島 紀子
出版者
日本社会薬学会
雑誌
社会薬学 (ISSN:09110585)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.8-14, 2014-06-10 (Released:2015-08-11)
参考文献数
28

This study examines the effect on junior high school students’ understanding and usage frequency of medicines gained from education about medicines during elementary school. This education which we provided is tailored to the developmental stage of the child. We conducted a questionnaire directed at the first year students of a junior high school in Tokyo. We compared the responses to questions regarding the understanding and correct usage frequency of medicines between groups of students who had graduated from the elementary school (Group A : students who graduated from the elementary school where we provided the education about medicines, Group B : all students except those in Group A). In order to compare these, we calculated the scores about questions regarding the understanding and correct usage frequency of medicines using principal component analysis (PCA). The PCA score for understanding of medicine by group A was higher than that of group B ; a significant difference was found (P<0.001). Therefore, this suggests that receiving education about medicines may be a factor that enhances students’ understanding of medicines. The PCA score for correct usage frequency of medicine by group A was higher than that of group B; a significant difference was found (P=0.043). Therefore, this suggests that receiving education about medicines may be a factor that increases students’ correct usage frequency of medicines.
著者
酒井 英行 齋藤 孝明
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.33-37, 2009-01-05

量子論の際立った特徴の一つに量子相関(もつれ合い,絡み合い)がある.アインシュタイン・ポドルスキー・ローゼン(EPR)は,古典的描像に基づく局所実在論の観点からこの量子相関に基づいた量子論の不完全性を議論した.この古典描像と量子描像の対立は,いわゆるEPRパラドックスとして知られるものであるが,当初実験的な検証は不可能だと考えられていた.しかし約30年後にベルは,局所実在論による相関に関して不等式が成立することを発見し,このパラドックスが実験的に検証できることを指摘した.我々は,強い相互作用をするフェルミ粒子系である陽子対についてスピン偏極相関の高精度測定に初めて成功し,量子論に特有な非局所性を確認した.本稿ではその内容について述べるとともに,1980年代に行われたアスペらによる光子対による実験との違いについても簡単に紹介する.
著者
柳井 徳磨 野田 亜矢子 村田 浩一 安田 伸二 浜 夏樹 酒井 洋樹 柵木 利昭
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.153-156, 2002-09

14歳の雄カナダオオヤマネコの左頚部皮膚に発生した扁平上皮癌の病理学的特徴を調べた。剖検では,左頚部皮膚は潰瘍を伴い著しく肥厚し,皮下には形状が不規則な黄白色腫瘤が左耳下腺部および左下顎に認められた。組織学的には,腫瘤は分化型扁平上皮癌の浸潤増殖からなり,高度な線維化を伴っていた。この癌は広範囲で深い浸潤を示し気管周囲にまで到達していた。免疫組織学的には,腫瘍細胞の細胞質ケラチンおよびサイトケラチンAE1およびAE3に対する陽性反応が認められた。本腫瘍の形態学的特徴はネコのそれとよく類似していた。
著者
川原 信夫 酒井 英二 糸数 七重 佐竹 元吉 合田 幸広
出版者
日本生薬学会
雑誌
生薬學雜誌 (ISSN:13499114)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.39-50, 2006-02-20
被引用文献数
4

本研究は食肉の風味を形成する食感, 味, 香りについて次の新知見を加えたものである。食肉の熟成による軟化の主原因の一つとみられるアクチン・ミオシン構造体のゆるみ現象が, 筋原線維のMg-ATPase 活性のKCl濃度依存性と最大活性値の増大となって観察されることを示し, おのおのが筋肉酵素カテプシンB, D, H, L, の共同作用とグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素の筋原線維への不可逆的結合で起こることを明らかにした。これに際し, 骨格筋カテプシンB, D, Hの高純度精製法を確立した。カテプシンLは新規酵素として発見したもので, 他所で同時期に発見された肝臓の新規酵素との類似性から, 両酵素はカテプシンLと命名された。食肉の熟成中に遊離アミノ酸が増加し, 味と加熱香気の向上に寄与する。この遊離アミノ酸の増加はおもに筋肉中性アミノペプチダーゼ類の作用によることを示し, 4個以上のアミノ酸からなるペプチドはおもに新たに発見したアミノペプチダーゼCとHの共同作用によって分解されることを明らかにした。わが国では黒毛和牛の脂肪が赤身によく交雑した霜降り肉が最もおいしいと評価されている。その主原因は該牛肉を酸素共存下で熟成後, 加熱することで生成する脂っぽい甘い芳香 (和牛香と命名) であることを示し, 本香を構成する香気成分を明らかにした。各種の食肉を食したときの畜種の判別に寄与する官能的主因子は香りであり, 味の寄与はきわめて小さいことを示した。